平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

弁護士会や日弁連にとって「許されない政治活動」とは何か?

「青の濃すぎるTVの中では

まことしやかに暑い国の戦争が語られる

 

僕は見知らぬ海の向こうの話よりも

この切れないステーキに腹を立てる」[1]

 

 

 

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憲法改正問題を含む憲法問題等に関して,日本弁護士連合会(日弁連)や各弁護士会(各単位会)が一定の方向性を持った意見を述べることには,外部からも,そして弁護士会内部においても異論がある。「弁護士会は政治的中立性を保つべきで,意見を言うべきではない」などの反対論である。[2]

 

そこで,本日は,強制加入団体である弁護士会日弁連にとって「許されない政治活動」とは何か?という問題に関連する判例を紹介したい。

 

それは,総会決議無効確認等請求事件東京高判平成4年12月21日自由と正義44巻2号(1993年)99頁)である。

 

弁護士の間でもあまり知られていない裁判例と思われるが,上記事項に関する重要な裁判例であることは間違いない。

 

1 事案の概要等

 

本件は,弁護士である原告(控訴人・上告人)ら111名が,被告(被控訴人・被上告人)日弁連に対し,日弁連総会でなされた「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関する法律案」(当時自民党が国会に提出すべく準備中であった法律案)を国会に提出することに反対する決議(1987(昭和62)年5月30日付け「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案に反対する決議」)につき,日弁連の目的(弁護士法45条2項)の範囲を逸脱し,また,同決議と見解を異にする原告らの思想良心,言論の自由を著しく侵害し,ひいては結社の自由,職業選択の自由をも侵害するものであるから,その内容において憲法19条,21条22条に違反し無効であると主張して,同総会決議の無効確認を請求するとともに,日弁連が行う同法案の反対運動(その費用は会員の一般会費により賄われている日弁連の会財政から支出)に対する差止めと慰謝料の支払いを求めた(差止請求,慰謝料請求)訴訟である。

 

原告らは,日弁連の上記反対運動により,同法案(いわゆるスパイ防止法案)反対という政治的立場に対する支持,協力を強制されていることに等しくなどと主張していたが,第一審(東京地判平成4年1月30日判例時報1430号(1992年)108頁)は,総会決議無効確認請求については訴えを却下し,差止請求と慰謝料請求については請求棄却とした。

 

2 判旨

 

第二審は,次のように判断し,控訴棄却判決を下した。

 

(以下,自由と正義44巻2号(1993年)81頁より引用,下線・太字は引用者)

 法人は、本来その定められた目的の範囲内で行為能力を有するものであり、その活動は目的によって拘束されるものである。特に、被控訴人のような強制加入の法人の場合においては、弁護士である限り脱退の自由がないのであり、法人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがあることを考えるならば、個々の会員の権利を保護する必要からも、法人としての行動はその目的によって拘束され、たとえ多数による意思決定をもってしても、目的を逸脱した行為に出ることはできないものであり、公的法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主張や目的に出たり、中立性、公正を損うような活動をすることは許されないものというべきである。

 被控訴人は、…「(弁護士の)品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」(同法〔=弁護士法〕45条2項)…に定める目的は、資格審査、懲戒、監督といった弁護士における自治、自律権の行使と、弁護士事務の向上を目的とした指導、連絡といった弁護士及び弁護士会に向けた内部的活動であり、外部に向けられた行為としては、「弁護士事務その他司法事務に関して官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」(同法50条、42条2項[3])との規定があるだけである。

 しかし、弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とし」(同法1条1項)、「社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」(同条2項)とされているところ、弁護士に課せられた右の使命が重大で、弁護士個人の活動のみによって実現するには自ずから限界があり、特に法律制度の改善のごときは個々の弁護士の力に期待することは困難であると考えられること、被控訴人が弁護士の集合体である弁護士会と弁護士の集合体であり、その上部組織であることを考え合わせると、被控訴人が、弁護士の右使命を達成するために、基本的人権の擁護、社会正義の実現の見地から、法律制度の改善(創設、改廃等)について、会としての意見を明らかにし、それに沿った活動をすることも、被控訴人の目的と密接な関係を持つものとして、その範囲内のものと解するのが相当である。

 そこで、まず本件総会決議についてみるに、本件法律案が構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由を侵害し、知る権利をはじめとする国民の基本的人権を侵害するものであるなど、専ら法理論上の見地から理由を明示して、法案を国会に提出することに反対する旨の意見を表明したものであることは決議の内容に照し明らかであり、これが特定の政治上の主義、主張や目的のためになされたとか、それが団体としての中立性を損なうものであると認めるに足りる証拠は見当たらない。そうであるとすれば、本件総会決議によって示された意見自体については、異論がみられるところではあるが、右決議が被控訴人の目的を逸脱するものということはできない

 本件総会決議後の被控訴人の一連の行為(中略)は、いずれは、いずれも本件総会決議に基づいて、その意見を各方面に周知させ、これを実現させるための行為とみられるのであって、その行為の内容において、特に不相当と認められるような点は認められないから、決議におけると同様に会の目的を逸脱するものではないというべきである。

 以上のとおりであるから、被控訴人の本件決議等が、被控訴人の目的を逸脱し、違法である旨の控訴人らの主張は採用できず、これを前提とする差止請求及び損害賠償請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく理由がない。

 

(引用終わり)

 

なお,上告審(最二小判平成10年3月13日自由と正義49巻5号(1998年)210頁)は,「所論の点に関するする原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に昭らして首肯するに足り,右事実関係の下においては,上告人らの請求中本件総会決議の無効確認請求に係る訴えを不適法として却下すべきものとし,その余の請求について,被上告人の本件反対運動により上告人らの人機権が侵害されているとはいえないとして,これを棄却すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はない。論旨は,違法をいう点を含め,原審の専権に属する事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決の法令違反をいうものであって,採用することができない。」(同213頁)などと判示し,上告を棄却した。

 

 

3 裁判例のポイント

 

(1)総会決議の適法性について

本(控訴審)判決によると,強制加入団体である日弁連の総会決議については,①人権を侵害するおそれがあるとの批判など,専ら法理論上の見地から理由を明示して法案に反対する旨の意見表明をした場合には,②同決議が特定の政治上の主義,主張や目的のためになされたとか,それが団体としての中立性を損なうものであると認めるに足りる証拠が見当たらない限り,総会決議によって示された意見自体に異論があっても目的の範囲外のものということはできない。

 

すなわち,日弁連の「目的」の範囲内の総会決議となるための要件は次の2つである。これは弁護士会の総会決議にも基本的には借用可能と思われる。

 

①専ら法理論上の見地から理由を明示した意見表明をしたこと

②団体としての中立性を損なうもの(特定の政治上の主義,主張や目的のためのものなど)でないこと

 

(2)総会決議に基づく法案反対運動の適法性について

本件総会決議後の法案に反対する旨の一連の反対運動についても,本判決は,総会決議に基づいて,①その意見を各方面に周知させ,これを実現させるための行為とみられるものであり,②その行為の内容において,特に不相当といえる点が認められない場合には,決議同様,目的の範囲外のものということはできないと判示した。

 

すなわち,日弁連の「目的」の範囲内の法案反対運動(総会決議に基づくもの)となるための要件は次の2つである。これは弁護士会の総会決議にも基本的には借用可能と思われる。

 

①総会決議に基づく意見の周知・実現目的があるとみられること

②行為内容の相当性

 

(3)日弁連弁護士会として禁止される政治活動とは?

上記(1)②の要件に関連することと思われるが,強制加入団体として禁止される「政治活動」の基準の問題に関しては,同事件第一審の被告準備書面(平成2年9月13日提出)「Ⅲ わが国では『政治活動』をどう考えるのか。」自由と正義41巻10号(1990年)155頁以下(156頁)が参考になる。

 

(以下同156頁を引用)

 

 結局、弁護士会活動の許容範囲に関して、わが国弁護士法を解釈・適用するに当たっては、「政治活動」や、「イデオロギー活動」などの用語を漫然と使用するのではなく、強制加入団体としての日弁連にとって、「許されない政治活動とは何か」を具体的な活動において検討するほかないというべきである。

 その場合の基準についていえば、「特定の政党その他の政治団体の主張または行為を直接的に支持し、または反対することを目的とする党派的な行為」が「禁止される政治活動」と考えてよいであろう。

 例えば、特定の政治的イデオロギーに立脚し、会内合意に基づくことなく、一党一派に偏した活動を進める場合に、非難に値する「政治活動」であるとされるであろう。しかし、そもそも、そのような場合には基本的には会内全体の運動として成り立たないのである。

 

(引用終わり)

 

おそらく,日弁連としては,「特定の政党その他の政治団体の主張または行為を直接的に支持し,または反対することを目的とする党派的な行為」が「禁止される政治活動」であるものと今日でもなお考えているのではないだろうか。そしてこれは弁護士会も同様であるように思われる。

 

とはいえ,このような(相当程度限定的な)定式を多くの会員が受容できるのか,そして,その問題と弁護士自治を維持することとの関係等については,慎重に検討する必要があるだろう。

 

 

以上,簡単ではあるが,裁判例を紹介し,そのポイントなどの解説を試みた[4]。参考になれば幸いである。

 

なお,本判決と,国労広島地本事件,南九州税理士会事件,群馬司法書士会事件などの最高裁判例との関係等に関する解説については,可能であれば別の機会に書いてみたい。

 

 

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「僕たちの将来は 良くなってゆくだろうか」[5]

 

 

  

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[1] 中島みゆき「僕たちの将来」同『はじめまして』(1984年)

[2] 伊井和彦「憲法問題における弁護士会の『政治的中立性』とは?」LIBRA18巻10号(2018年)31頁。

[3] なお,念のため付言すると,弁護士法42条2項(答申及び建議)は,「弁護士会は、〔A〕弁護士及び弁護士法人の事務その他〔B〕司法事務に関して官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」と定める(〔A〕と〔B〕は並列関係)ところ,本判決は,同項の文言との関係では,〔B〕「司法事務」の問題ではなく,〔A〕「弁護士及び弁護士法人の事務」(同高裁判決当時の文言は「弁護士事務」)に間接に必要な行為(同法1条1項・2項参照)の方を問題とすることを前提に総会決議の違法性を判断したと解される点に留意が必要であろう。つまり,基本的には「〔B〕司法事務」の解釈如何によって,本判決の射程が変わるものではない。

[4] 本裁判例(総会決議無効確認等請求事件)を弁護士が紹介した最近の文献として,矢吹公敏「弁護士自治の今後の課題と展望」弁護士自治研究会編著『JLF叢書vol.24 新たな弁護士自治の研究-歴史と外国との比較を踏まえて』(商事法務,2018年)(以下「新たな弁護士自治の研究」という。)193以下(199頁),深沢岳久=山本幸司「弁護士法成立後の弁護士自治」新たな弁護士自治の研究60頁以下(76頁以下)。

[5] 中島・前掲注(1)。

 

新しい憲法判例百選(第7版)から令和2年司法試験論文憲法の出題判例を予想する

 

「新しい靴を履いた日は それだけで世界が違って見えた」[1]

 

 

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1 6年ぶりに出た新しい憲法判例判例(第7版)

 

2019年11月30日、新しい憲法判例百選が発売された。

 

1つ前の版は2013年12月10日発行となっているため、約6年ぶりの新版である。次のとおり、編者は同じである。

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第7版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2019年)(以下「百選Ⅰ第7版」・「百選Ⅱ第7版」という。)

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ第6版」・「百選Ⅱ第6版」という。)

 

 

2 新収載判例は10件

 

第7版の編集にあたっては「女性の再婚禁止期間の違憲判決,NHK受信料制度合憲判決, GPS捜査と令状主義に関する判決など,多くの重要な新判例」(百選Ⅰ第7版2頁)が収録されており、「新たに10件」(Appendixを含む10件)の判例が加えられた(同3頁)。

 

百選Ⅰ第7版235頁あるいは百選Ⅱ第7版462頁以下を見ると分かりやすいが、発行日との関係で第6版では収録が不可能であった新しい判例は、最二小決平成26年7月9日判時2241号20頁から最三小決平成29年12年6日民集71巻10号1817頁までの9件(Appendixを含む9件、いずれも最高裁判例である。

 

また、発行日との関係で第6版では収録することができたことが明らかであったにもかかわらず、第6版では収載判例とされず、第7版で新たに収載判例とされた判例が1件あり、それは、生活保護老齢加算廃止事件最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)である。

 

 

3 司法試験論文憲法判例百選の関係

 

平成30年&令和元年司法試験論文司法試験では「設問」で「参考とすべき判例」を踏まえた論述をするように指示があった。

 

それ以前の出題趣旨や採点実感、ヒアリング、そして再現答案等を見ると、平成29年以前も参考とすべき判例を踏まえた論述は求められていたと思われるが、ここ2年で、このことがより明確化されたため、従来よりも多くの受験生が、司法試験の「問いに答える」という基本的な観点から、論文答案における判例の活用を意識するようになった(判例学習の意義がさらに大きくなった)といえよう。

 

この「参考とすべき判例」の意味については、既に以下の2つのブログで解明したとおりであるから、詳しくはこれらを参照していただきたいが、要するに、平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨1記載の「基本判例」を意味し、また概ね、判例百選に収載された判例が、論文で活用する判例の【事実上の試験範囲】となると考えておけばよいものといえる。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ちなみに、平成18年新司法試験のヒアリング3頁第2段落が、解答に際して「極めて実務的な能力が不可欠」とし、そのためには「条文をしっかりと理解すること、それから判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置」(太字は引用者)き、さらに「余裕があれば判例雑誌……で……最新の裁判例を読み……考察してほしい」と述べていることに照らしてみても、判例百選は、司法試験にとって法務省の公表する公的資料(上記ヒアリング)に明記されるくらい特に重要な判例集であるといえる。

 

なお、平成18年から平成28年まで(サンプル・プレテストを含む)の司法試験論文憲法の出題趣旨等で明記された判例等と、明記はされていないものの参考とすべき判例と考えられる判例をまとめた拙稿として、以下↓のものがある。

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article090782/

 

 

以上のことから、令和2年司法試験論文憲法で「参考とすべき判例」として出題される判例を第7版で新しく収載判例とされた判例の中から2つ予想してみることとする。

 

 

4 予想その1・・・NHK受信料制度事件

 

1つ目は、NHK受信料制度事件最大判平成29年12月6日民集71巻10号1817頁)である。予想の理由は、最近の判例であることのほか、令和2年司法試験考査委員の小山剛教授が解説を担当されているからである(百選Ⅰ第7版77事件・167~168頁)。

 

第7版で新たに収載判例となった最近の判例のうち、風俗案内所規制条例事件(最一小判平成28年12月15日判時2328号24頁)が平成30年司法試験論文憲法で、インターネット検索事業者に対する検索結果削除請求事件(最三小判平成29年1月31日民集71巻1号63頁)が令和元年司法試験論文憲法で、それぞれ「参考とすべき判例」として出題されたものと考えられるという点からみても、さらには大法廷判例でもあるため、上記NHK受信料制度事件は特に出題されやすい判例といえる。

 

 

5 予想その2・・・生活保護老齢加算廃止事件

 

2つ目は、生活保護老齢加算廃止事件(最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁、百選Ⅱ第7版135事件・294~295頁)である。

 

前述したとおり、同事件は、第6版で収載判例とすることができたにもかかわらず、第7版になって初めて収載判例とされた判例である。

 

このように、上記判例群とは異なり、最近の判例とまではいえないという意味での古い判例であっても、版が新しくなったタイミングで加えられた判例には注意が必要である。

 

百選第6版では、第5版(高橋和之=長谷部恭男=石川健治編『憲法判例百選Ⅰ[第5版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2007年)には収載判例されていなかった集団示威運動(デモ行進)に関する新潟県公安条例事件最大判昭和29年11月24日刑集8巻11号1866頁)が新たに収載判例とされた。

 

そして、第6版が出た同じ年の平成25年司法試験論文憲法(公法系科目第1問)で、この新潟県公安条例事件が「参照すべき最高裁判決」[2]すなわち「参考とすべき判例」として出題されたのである。

 

古い判例である(最新の判例ではない)にもかかわらず、新しい版(第7版)で新たに収載判例とされた判例は、その頃の多くの研究者(少なくとも編者)があらためて注目している判例と考えられることから(ちなみに、編者の一人である宍戸常寿教授は令和2年司法試験考査委員である)、司法試験の論文式試験でも出題される蓋然性が高いといえる。少なくとも短答式試験で出題される蓋然性は相当高度といえるだろう。

 

このように1つ前の版の改訂のときのこと(平成25年司法試験での出題実績)や、さらには、平成22年(新司法試験論文憲法以降、生存権憲法25条1項)が論文で長い間出題されていないことも踏まえると、生活保護老齢加算廃止事件も非常に危ない判例であるといえるだろう。

 

なお、お勧めしたい判例百選以外の判例集憲法行政法)は、以下↓のブログで紹介したので、こちらもぜひ参考にしていただきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

以上、令和2年司法試験を受験される(あるいは令和3年以降受験予定の)皆様の試験勉強の指針や要素の1つとなれば幸いである。

 

 

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[1] Mr.Children(作詞・作曲  桜井和寿)「足音 ~Be Strong」(2014年)。

[2] 蟻川恒正「2013年司法試験公法系第1問」(〔連載〕起案講義憲法 第4回)法学教室394号112頁。

【司法試験】よくあるご質問 & 回答①

「人生はいつもQ&Aだ

 永遠に続いてく禅問答」*1


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本日は、司法試験受験生から定期的に頂戴するような、よくあるご質問&回答(FAQ)を7つほど紹介する。


最近のTwitterのまとめ的なものではあるが、受験生の皆様方において、少しでもご参考になれば幸いである。



Q1 法科大学院では「受験対策」してはダメなのですか?

A1 法科大学院は実務家法曹を養成するところです。実務家になるには司法試験に合格する必要があるので、「受験対策」をしてはいけないということはありません。




Q2 試験対策としてキーワードなどを記憶していますが、記憶の定着が悪いです。対策はないでしょうか?

A2 古典的ですが、単語カードを使ってみると効果的かもしれません。



Q3 憲法の論文対策として、時事問題について考えておくことが重要と聞きました。本当ですか?他の科目ではどうなんですか?

A3 合格するのに必須ではないと思いますが、日常のニュースと関連する判例判例百選や重要判例解説に載るようなもの)が何なのか検討するとベターだと思います。行政法でも、一応、似たようなことがいえると考えられます。
 例えば、最近の時事問題として、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(その芸術祭における企画展「表現の不自由展・その後」)への文化庁補助金不交付を挙げることができます。この問題については、ネット記事や関連するツイートなどを参考にしてみていただけますと幸いです。





Q4 論文式試験では、判例は神様で、学説はゴミ扱いだ、と聞いたのですが、本当ですか?

A4 関連する判例への言及は必要になりますが、学説も特に最近の司法試験(論文)では重要だと思います。ですから、ゴミと称するのは不適当でしょう。あと、判例は「神様」というか「カミ」です。「判例はカミ,学説はゴミ」と仰った安念先生も、「神」とまでは言って(書いて)いません。



Q5 学説が「ゴミ」でないとすると、具体的に、答案で学説をどう使うのでしょうか?

A5 令和元年司法試験論文憲法では、現実の悪意の法理を使った答案を書いてみましたので、ブログを参考にしてみてください。

 



Q6 原告適格の書き方がイマイチ分かりません。模試や大学/ロースクールの定期試験などでも点数が伸びません。どうしたら…。

A6 原告の主張する不利益(利益)の特定の点が意外と重要です。ブログ(↓の過去のブログ)で紹介させていただいた小早川先生の3要件の流れで書くというのが1つの手だと思います。判例は必ずしもこの流れで書いていませんが、この流れで書く方が安定的に得点要素が拾えると考えられます。

yusuketaira.hatenablog.com

yusuketaira.hatenablog.com



Q7 要件裁量の認否ですが、どの年度(過去問)も、処分要件の文言が抽象的で、全部裁量を肯定してよいようにも思えてしまいます。模試でも迷うのですが、認否の決め手みたいなものはないのでしょうか?

A7 司法試験と「3要素説」との関係について、ブログにまとめておきましたので、参考になれば幸いです。



以上、本日は、司法試験受験のFAQを7つ紹介した。

タイトルを、【司法試験】よくあるご質問 & 回答①としたので、後日、「【司法試験】よくあるご質問 & 回答②」を掲載することとしたい。


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「腑甲斐無い自分に 銃口を突きつけろ

 当たり障り無い 道を選ぶくらいなら

 全部放り出して コンプレックスさえもいわばモチベーション」*2

*1:Mr.Children「I’ll be」同『DISCOVERY』(1999年)

*2:Mr.Children・前掲注 1

宇崎ちゃん×日赤の献血ポスターと行政法学における「公共性」

「頽廃 裸体 安全圏

既にもう女として生まれた才能は発揮しているのだけど

脱がせて欲しい」*1

 

 

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「宇崎ちゃんは遊びたい!」×日本赤十字社献血コラボキャンペーンのポスターの件が最近Twitter等で話題である。

 

「公共」の場では問題があるなどの批判的コメントがあるのに対し、そこにいう「公共」が結局のところ批判的コメントをする者に都合の良い恣意的なものとないっていないか、といった反論もある。

 

いわゆるオタクの方々の感性など、私には十分に理解できないところもあるが、意見が対立し、また議論が錯綜しているのは、この「公共」の意義の難しさが一因となっているものと思われる。

 

 

そもそも、「公共」とは、何なのか。

このことに関して、行政法(公法)の見地から若干のコメントをしてみたい。

 

 

1991年の日本公法学会・第ニ部会のシンポジウム*2の討論要旨によると、宮崎良夫会員(東京大学教授)は、「公共」と「公共性」の概念の違いに留意する必要があるとした上で、次のように述べている。

 

「行政の公共性とは、行政が公的なことがらをつかさどる資格の属性、あるいは、行政の妥当性・合理性・公正さ」である。」*3

 

 

また、最近(今月1日発行の法律雑誌)の御玉稿であるが、亘理格・中央大学教授は、次の通り「公共性」の意味合いに関して指摘する。

 

「『公共性』は、一定の規範や政策の採否が争われる場合において、採択を決定づける根拠として援用される場合があり、その中には、通常は否定又は排除される可能性の高い新たな提案を正当なものと認定するための根拠として、『公共性』が援用される場合も含まれる。後者の場合、『公共性』には、排除から受容への転換を図るために超えなければならないバリアという意味合いがあ」*4る。

 

 

宮崎教授の述べる「公共性」には、(行政の)妥当性・合理性・公正さという3要素が含まれており、法律による行政の原理に照らすと、いずれも適法性合憲性を前提にするものと読める一方で、それだけにはとどまらない専門的・政策的見地等からの妥当性をも含む概念といえ、その意味を捉えることが極めて難しいことを示しているように思われる。*5

 

また、亘理教授によると、『公共性』には、行政決定等において、ある提案が、否定・排除されず、受容されるものとなる場合のハードル的なものという面があるといえよう。

 

 

以上を今回の宇崎ちゃん×日赤のポスターの件についてみると、①女性の差別されない権利、フェミニズムゾーニング規制の必要性等、献血・広告の必要性等、表現(広告)の自由、漫画家等の表現の自由・営業の自由、他のポスターとの平等性、逆差別ないしレッテル貼りの問題などなど、さまざまな考慮すべき、あるいは検討する事項があり、議論がかみ合わない状況が生じているのは殆ど必然的ともいえるだろう。

 

また、今回の件で、公共性は、②一定の表現(図画)が不特定多数人の者が閲覧可能な場に置かれるためのハードルないし超えなければならないバリアとしての面を持つものといえ、一定の表現(図画)を支持する側からの反発の対象にもなりうるものとなってしまっている。

 

 

結局のところ、この問題は、行政法学や憲法学を含む法学の知見だけで解決することは(おそらく)不可能な問題といわなければならないだろう。

 

法学の知見は問題解決に有益ではあるが、この問題には、合憲性・適法性だけではなく、妥当性に係る考慮事項が併存するため、法学の知見だけでは、問題を解決することはできないということである。

宇崎ちゃんと日赤がコラボしたように、法学における知見と他の領域における知見とのコラボが問題解決の鍵となるのではなかろうか。

 

 

当たり前のことであろうが、法学は万能ではない

 

ゆえに、法曹・法律家は、この問題については、特に慎重に考えるべきであるように思われる。

 

 

 

 

*1:椎名林檎「病床パブリック」同『勝訴ストリップ』(2000年)。

*2:なお、司会は、室井力会員、藤田宙靖会員、そして宇賀克也会員の3会員である。

*3:法研究54号(1992年)235頁。

*4:亘理格「『公共性』の意味をどのように解すべきか」法律時報91巻11号(2019年)7頁(9頁)。

*5:行政の妥当性の点に関し、行政法行政不服審査)における妥当・不当の基準について考察を加えた主な拙稿として、①平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法研究78号(2016年)239~248頁、②同「行政不服審査における不当裁決の類型と不当性審査基準」行政法研究28号(2019年)167~199頁がある。なお、②は、公法研究81号(2019年)の「学会展望」(行政法、291~292頁)でも紹介されている。

あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)補助金不交付問題と司法試験論文行政法

「みなさ~ん、何かにつけて自由、自由って言いますけど 

 別に自由はあなただけのものでも、楽なものでもありませんよー

 自由への道は、時として辛く、寂しく、そして険しいのです」*1


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2019年10月19日の美術手帖の記事(拙稿)がヤフーニュースのサイト↓に掲載されました。
ご紹介いただき有り難く存じております。


https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191019-00000004-btecho-cul

「あいトリ」補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説


また、ヤフーニュースのサイトでは、どうやら記事の一部のみのご紹介ということで、全文は、こちらの美術手帖の(元の)サイト↓の方でご掲載いただいております。


https://bijutsutecho.com/magazine/insight/20747

「あいトリ」補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説

10月14日に閉幕した「あいちトリエンナーレ2019」について、文化庁補助金を交付しない決定をした。このことに対し、弁護士で行政法学者でもある平裕介が係争問題についてまとめたブログを公開。ここではそのブログをもとに、「補助金適正化法」に基づく決定をめぐる訴訟の担当した経験から、今後ありうる展開を解説する。

文=平裕介



あいちトリエンナーレ2019の補助金不交付決定処分に関する行政法関係の論点を広く扱っていますので、司法試験受験生にもオススメの記事です(自分で言うのもアレですが・・・)。

それなりに長いですが、行政法の基礎知識を(例えば法学部や予備校の基礎講座などで)一通り学習された司法試験受験生であれば、意外とさっと読めてしまうレベルの内容ではないかなと思います。



今回のあいトリのような給付行政の事案は、確かに過去問の傾向に照らすと出題される確率が低いのですが(司法試験でも予備試験(論文)でも規制行政の事案の方が出やすい)、給付行政事案もそろそろ(論文で)出る頃ではないかなと思います。


ちなみに、国賠訴訟と取消訴訟の排他的管轄についての論点として、今回の補助金交付のような金銭の給付を目的とする行政処分につき、取消しまたは無効確認の判決を得なければ国家賠償請求をなしえないか(請求認容とならないのか)?というものがありますが、これは、司法試験(新司法試験)や予備試験では未出題の論点であり、最高裁判決もあるところです(H22・6・3(百選の判例)、H26・10・23)。


国賠は論文で出ないなどという神話あるいは都市伝説は(当たり前ですが)存在しないものと思いますし、上記論点も出題される可能性はありますので、それなりに確認しておくべきではないかなと思います。



令和元年の司法試験論文行政法の解説(ブログ↓)でも書きましたが、論文憲法だけではなく、論文行政法でも時事問題を参考にした出題がなされると思います。

yusuketaira.hatenablog.com



そのため、受験生としても、あいちトリエンナーレ2019の問題にも、関心をもっておいた方がよいかもしれません。



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「恨んじゃいけない 妬んじゃいけない

 You’re on the Freedom Train  潔く走れ」


「選んだレールの上にしかないもの

 You’re on the Freedom Train  それこそが自由」*2

*1:B'z「Freedom Train」同『MAGIC』(2009年)

*2:B'z・前掲注(1) 

あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の補助金不交付は、違法か?

皆様、今晩は。m(_ _)m

前回のブログ↓を公表したところ、多くの方に読んでいただきました(アクセス数が普段よりかなり多かった)。

yusuketaira.hatenablog.com


大変有難いことで、前回は訴訟を含む争訟方法、すなわち、愛知県がどのような法的手続で国(文化庁)と補助金不交付決定の違法性(・不当性)争うことができるかという点を中心に書いた(といっても、ほとんど自分のツイートをまとめただけだが…)ので、今回は、本案の違法事由の争点(予想されるもの)に関するこれまでのツイートをまとめる方法で、再度、基本的には論点整理のためのメモ的なものを残しておくこととします。


1 申請の形式上の要件に適合しない申請であるか(予想される争点1)


この争点では、この山形地方裁判所の判決が1つのポイントとなってくると思います(詳細はツリーを読んでください)。

愛知県側としては、今回の申請は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請ではなく、同要件を満たしているものであると主張することになります。



2 補助金交付のための実体的要件を満たすか(予想される争点2)

国(文化庁)側としては、特に上記1の争点のところで勝てないなと判断した場合には、取消訴訟(や不服申出の手続)の中で、理由を追加してくると思われます。

すなわち、補助金適正化法6条の実体的要件をみたさないという主張を追加してくるでしょう。

この点については、↓のとおり、要件裁量が認められると考えられますので、実体的審査(平等原則)や判断過程審査による統制(要件裁量の統制)についての主張、つまり裁量権の逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)主張がなされ、その認否が争われることになります。

なお、実体的審査と判断過程審査の話は重なりがある話だと思われます(さらに上記1の争点の話とも多少の重なりがあるでしょう)。


(1)実体的審査


(2)判断過程審査



3 表現の自由の話は?

本件で最も話題になっている「表現の自由」ですが、(独立した憲法21条違反の主張として展開されるというよりは、)基本的には、上記争点2の補助金適正化法6条1項違反の主張(考慮事項の重み付けの話)の中で、表現の自由を実質的に保護する趣旨からの適切な考慮事項の重み付けがなされるべきであるとの主張において登場するという感じになると考えられます。

もちろん、表現の自由が重要ではないというわけではなく、行政事件訴訟の違法事由の審査の実務という観点からは、このようなことになってくるということです。

ということで、少なくとも地裁高裁レベルでは、争点1でも争点2でも、憲法違反が前面に出てくるというよりは、補助金適正化法6条違反の問題が中心に審査され、その中で憲法の話が登場するということになるでしょう(このことの当否については議論があるところですが、ここでは立ち入りません)。



なお、以上は、違法(違法性、違法事由)の話でしたが、これとは一応区別される不当(不当性)の話については、不服の申出(補助金適正化法25条1項)では審査がなされうることになります(裁判所での訴訟では、不当性の問題は審査されません)。

ちなみに、この不服の申出の規定は、行政不服審査法の特例規定といえるものなので、行政不服審査の議論(例えば↓の拙稿)が参考になります。


以上、市民の皆様、記者の皆様、受験生の皆様、学生の皆様、その他多くの方々に参考になれば幸甚です。m(_ _)m

あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の補助金不交付決定の争い方(訴訟等の類型)

おはようございますm(_ _)m
久しぶりのブログ更新となりますm(_ _)mm(_ _)m


ここのところ、連日のように報道されている、あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の件ですが、すべての報道を漏れなくチェックしているわけではないのですが、意外と、訴訟類型を含む争訟類型についての報道は未だなさそうです。

その要因は、文化庁補助金不交付決定(補助金適正化法6条1項、申請拒否処分)の違憲、違法性についての憲法学者への取材が先行し、争訟類型についての行政法学者への取材が殆どなされていないからではないかと思います。

そこで、本件は私の研究する行政不服審査とも関係する分野でもあることから、以下、自分のツイートを多少整理することで、争訟類型についてのメモを残しておくこととします。


なお、私である必要はないと思っていますが(とはいえ、私は昨日(2019年9月27日(金)午後、新聞記者の方から電話による取材を受けていますが)、行政法学者・行政法学者(あるいは行政事件を取り扱う弁護士)の意見が世間にもっと広く認識されることが望ましいのではないかと考えています。


1 争訟類型のツイートまとめ






というわけで、当初、国地方係争処理委員会での審査をやる(審査結果等に不服の場合等には、機関訴訟(行政事件訴訟法6条)に移行することになっているもの)、といった報道というか、愛知県知事の発言があったようですが、これは、上記ツイートで述べているとおり、そもそも今回の補助金不交付決定は、同審査の対象とはならないものなので(国の地方への関「関与」(あくまで地方自治法上の「関与」)に当たらないので)、知事が法律を誤解していたことに基づく発言であったように思われます(弁護士に相談して後で意見を変えたように見えるが、このようなことからみても、やはり弁護士への相談は早期に行うべきですね)。



2 不交付決定の違法事由(違憲性)について



ということで、平等原則や表現の自由といった問題は、この補助金適正化法6条1項の解釈適用に際して(同項に係る違法事由の主張の中で)論じられることになるものかと考えられます。同項には要件裁量が認められると考えられるため、その裁量統制(平等原則違反といった実体的審査あるいは判断過程審査、基本的には、考慮事項論の話のところで、表現の自由の話が登場)がメイン論点となります。
このあたりも、上記争訟類型のことと同じく、恐らく未だ(全くあるいは殆ど)報道されていないという印象ですね。



3 補助金不交付決定の前になされている「採択」について

なお、私は以前、弁護士の先生からご依頼いただき、別件で補助金適正化法の適用に関する意見書を書く仕事をしたことがありまして(某地方裁判所に提出)、少しずつ思い出してきたのですが(少し前のことだったので実は当初は忘れていて、新聞記者などの情報をうまく理解できなかったのですが)、今回のニュースで専門家によるチェックである「採択」を経ているというのは、補助金適正化法で明確に規定された行政作用ではなくて、内示ないし内定という事実上の行政作用ということになります。

ですから、このあいトリの不交付決定は、行政手続法的には、不利益処分ではなく、申請に対する処分(そのうちの申請拒否処分)に当たるということになるという理解が正しい理解ではないかと考えます。

ただし、事実上のものとはいえ、採択されたことは、補助金適正化法6条1項の要件解釈とその適用に際してそれなりの重みをもつ(影響を与える)ことだと考えられます。



ということで、メモ程度の簡単なものではありますが、以上、市民の皆様、記者(報道関係者)の皆様、司法試験(予備試験)受験生の皆様、大学生等の皆様の参考になれば、幸いです。