あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の補助金不交付は、違法か?
皆様、今晩は。m(_ _)m
前回のブログ↓を公表したところ、多くの方に読んでいただきました(アクセス数が普段よりかなり多かった)。
大変有難いことで、前回は訴訟を含む争訟方法、すなわち、愛知県がどのような法的手続で国(文化庁)と補助金不交付決定の違法性(・不当性)争うことができるかという点を中心に書いた(といっても、ほとんど自分のツイートをまとめただけだが…)ので、今回は、本案の違法事由の争点(予想されるもの)に関するこれまでのツイートをまとめる方法で、再度、基本的には論点整理のためのメモ的なものを残しておくこととします。
1 申請の形式上の要件に適合しない申請であるか(予想される争点1)
「補助事業の申請手続に…不適当な行為」があったことなどにより、補助金適正化法第6条等に基づき、全額不交付とした(文化庁ウェブサイト)方針を維持か
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年10月1日
ちなみに、報道されていない裁判例として、山形地判平成30年8月21日・判例時報2397号7-14頁。逐条解説にも載っていませんhttps://t.co/JLuiP45zWS
この山形地判平成30年8月21日は、申請の形式上の要件とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、それは法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものに限られると解しています
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年10月1日
この争点では、この山形地方裁判所の判決が1つのポイントとなってくると思います(詳細はツリーを読んでください)。
愛知県側としては、今回の申請は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請ではなく、同要件を満たしているものであると主張することになります。
2 補助金交付のための実体的要件を満たすか(予想される争点2)
国(文化庁)側としては、特に上記1の争点のところで勝てないなと判断した場合には、取消訴訟(や不服申出の手続)の中で、理由を追加してくると思われます。
すなわち、補助金適正化法6条の実体的要件をみたさないという主張を追加してくるでしょう。
この点については、↓のとおり、要件裁量が認められると考えられますので、実体的審査(平等原則)や判断過程審査による統制(要件裁量の統制)についての主張、つまり裁量権の逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)主張がなされ、その認否が争われることになります。
なお、実体的審査と判断過程審査の話は重なりがある話だと思われます(さらに上記1の争点の話とも多少の重なりがあるでしょう)。
(1)実体的審査
あいちトリエンナーレの補助金不交付決定問題につき、小林明夫愛知学院大教授(行政法)は「法律上、国の裁量は一定程度認められるが、不自由展は全体の中の一部。それでも全額不交付にしたことが裁量の逸脱かどうかが問われる」とする(2019年9月30日東京新聞夕刊1面)が、国の調査義務の話が前提の解説か
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
この解説、表現の不自由展があいトリ展示会の中でどの程度の割合を占めるのかに関する調査義務(行政調査の義務)があったことを前提としないと成り立つことが難しい内容かと…
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
また不服審査の場合はさておき、訴訟では、調査義務の存在やその懈怠による裁量逸脱濫用を導くことは難しいという傾向がある
分かりやすい論法のようにも見えるが、取消訴訟の原告の主張としては、強い主張といえないものだろう
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
本件は一応給付行政の事案なので、展示会の実現可能性等に関し、消極に働く事情(政治家の発言、脅迫等を含む)をも特に審査したことが不合理な差別だという主張の方が、強い裁量統制に係る主張かと
2019年10月6~8日に再開する方向で協議を進めることで、芸術祭実行委員会側と和解したとのこと。処分(補助金不交付という申請拒否処分)の後の事情ではあるが、実現可能性等があったことを基礎づける一事由になる(特に現実に再開した場合)のではないでしょうか…https://t.co/1fe48wEIxM
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
(2)判断過程審査
大村秀章・芸術祭実行委員会会長(愛知県知事)は、あいちトリエンナーレの補助金不交付決定に対する取消訴訟を提起する予定(2019年9月27日朝日新聞朝刊1面)
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
Q.では本件類似の事案が令和2年司法試験論文行政法で出た場合、答案で活用する違法事由の百選判例は?
A.広島県教組事件(最判平18年2月7日)
事案的には結構遠いですが、行政判例百選の判例ですし司法試験なので、申請拒否処分についての要件裁量の判断過程統制という点では一応共通点ありといえそうなので活用可能でしょう
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
規範だけでなく、右翼団体による妨害活動のおそれを重視し過ぎているという当てはめに関する点も参考になると思います
3 表現の自由の話は?
本件で最も話題になっている「表現の自由」ですが、(独立した憲法21条違反の主張として展開されるというよりは、)基本的には、上記争点2の補助金適正化法6条1項違反の主張(考慮事項の重み付けの話)の中で、表現の自由を実質的に保護する趣旨からの適切な考慮事項の重み付けがなされるべきであるとの主張において登場するという感じになると考えられます。
もちろん、表現の自由が重要ではないというわけではなく、行政事件訴訟の違法事由の審査の実務という観点からは、このようなことになってくるということです。
ということで、少なくとも地裁高裁レベルでは、争点1でも争点2でも、憲法違反が前面に出てくるというよりは、補助金適正化法6条違反の問題が中心に審査され、その中で憲法の話が登場するということになるでしょう(このことの当否については議論があるところですが、ここでは立ち入りません)。
なお、以上は、違法(違法性、違法事由)の話でしたが、これとは一応区別される不当(不当性)の話については、不服の申出(補助金適正化法25条1項)では審査がなされうることになります(裁判所での訴訟では、不当性の問題は審査されません)。
ちなみに、この不服の申出の規定は、行政不服審査法の特例規定といえるものなので、行政不服審査の議論(例えば↓の拙稿)が参考になります。
行政不服審査における行政裁量の統制に関し、調査義務と考慮事項論との関係に関し論じた拙稿として、①平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法研究78号239-248頁(2016)、②平裕介「行政不服審査における不当裁決の類型と不当性審査基準」行政法研究28号167-199頁(2019)
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月30日
宣伝です… pic.twitter.com/YW3le4OBqJ
以上、市民の皆様、記者の皆様、受験生の皆様、学生の皆様、その他多くの方々に参考になれば幸甚です。m(_ _)m