平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

新しい憲法判例百選(第7版)から令和2年司法試験論文憲法の出題判例を予想する

 

「新しい靴を履いた日は それだけで世界が違って見えた」[1]

 

 

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1 6年ぶりに出た新しい憲法判例判例(第7版)

 

2019年11月30日、新しい憲法判例百選が発売された。

 

1つ前の版は2013年12月10日発行となっているため、約6年ぶりの新版である。次のとおり、編者は同じである。

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第7版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2019年)(以下「百選Ⅰ第7版」・「百選Ⅱ第7版」という。)

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ第6版」・「百選Ⅱ第6版」という。)

 

 

2 新収載判例は10件

 

第7版の編集にあたっては「女性の再婚禁止期間の違憲判決,NHK受信料制度合憲判決, GPS捜査と令状主義に関する判決など,多くの重要な新判例」(百選Ⅰ第7版2頁)が収録されており、「新たに10件」(Appendixを含む10件)の判例が加えられた(同3頁)。

 

百選Ⅰ第7版235頁あるいは百選Ⅱ第7版462頁以下を見ると分かりやすいが、発行日との関係で第6版では収録が不可能であった新しい判例は、最二小決平成26年7月9日判時2241号20頁から最三小決平成29年12年6日民集71巻10号1817頁までの9件(Appendixを含む9件、いずれも最高裁判例である。

 

また、発行日との関係で第6版では収録することができたことが明らかであったにもかかわらず、第6版では収載判例とされず、第7版で新たに収載判例とされた判例が1件あり、それは、生活保護老齢加算廃止事件最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)である。

 

 

3 司法試験論文憲法判例百選の関係

 

平成30年&令和元年司法試験論文司法試験では「設問」で「参考とすべき判例」を踏まえた論述をするように指示があった。

 

それ以前の出題趣旨や採点実感、ヒアリング、そして再現答案等を見ると、平成29年以前も参考とすべき判例を踏まえた論述は求められていたと思われるが、ここ2年で、このことがより明確化されたため、従来よりも多くの受験生が、司法試験の「問いに答える」という基本的な観点から、論文答案における判例の活用を意識するようになった(判例学習の意義がさらに大きくなった)といえよう。

 

この「参考とすべき判例」の意味については、既に以下の2つのブログで解明したとおりであるから、詳しくはこれらを参照していただきたいが、要するに、平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨1記載の「基本判例」を意味し、また概ね、判例百選に収載された判例が、論文で活用する判例の【事実上の試験範囲】となると考えておけばよいものといえる。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ちなみに、平成18年新司法試験のヒアリング3頁第2段落が、解答に際して「極めて実務的な能力が不可欠」とし、そのためには「条文をしっかりと理解すること、それから判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置」(太字は引用者)き、さらに「余裕があれば判例雑誌……で……最新の裁判例を読み……考察してほしい」と述べていることに照らしてみても、判例百選は、司法試験にとって法務省の公表する公的資料(上記ヒアリング)に明記されるくらい特に重要な判例集であるといえる。

 

なお、平成18年から平成28年まで(サンプル・プレテストを含む)の司法試験論文憲法の出題趣旨等で明記された判例等と、明記はされていないものの参考とすべき判例と考えられる判例をまとめた拙稿として、以下↓のものがある。

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article090782/

 

 

以上のことから、令和2年司法試験論文憲法で「参考とすべき判例」として出題される判例を第7版で新しく収載判例とされた判例の中から2つ予想してみることとする。

 

 

4 予想その1・・・NHK受信料制度事件

 

1つ目は、NHK受信料制度事件最大判平成29年12月6日民集71巻10号1817頁)である。予想の理由は、最近の判例であることのほか、令和2年司法試験考査委員の小山剛教授が解説を担当されているからである(百選Ⅰ第7版77事件・167~168頁)。

 

第7版で新たに収載判例となった最近の判例のうち、風俗案内所規制条例事件(最一小判平成28年12月15日判時2328号24頁)が平成30年司法試験論文憲法で、インターネット検索事業者に対する検索結果削除請求事件(最三小判平成29年1月31日民集71巻1号63頁)が令和元年司法試験論文憲法で、それぞれ「参考とすべき判例」として出題されたものと考えられるという点からみても、さらには大法廷判例でもあるため、上記NHK受信料制度事件は特に出題されやすい判例といえる。

 

 

5 予想その2・・・生活保護老齢加算廃止事件

 

2つ目は、生活保護老齢加算廃止事件(最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁、百選Ⅱ第7版135事件・294~295頁)である。

 

前述したとおり、同事件は、第6版で収載判例とすることができたにもかかわらず、第7版になって初めて収載判例とされた判例である。

 

このように、上記判例群とは異なり、最近の判例とまではいえないという意味での古い判例であっても、版が新しくなったタイミングで加えられた判例には注意が必要である。

 

百選第6版では、第5版(高橋和之=長谷部恭男=石川健治編『憲法判例百選Ⅰ[第5版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2007年)には収載判例されていなかった集団示威運動(デモ行進)に関する新潟県公安条例事件最大判昭和29年11月24日刑集8巻11号1866頁)が新たに収載判例とされた。

 

そして、第6版が出た同じ年の平成25年司法試験論文憲法(公法系科目第1問)で、この新潟県公安条例事件が「参照すべき最高裁判決」[2]すなわち「参考とすべき判例」として出題されたのである。

 

古い判例である(最新の判例ではない)にもかかわらず、新しい版(第7版)で新たに収載判例とされた判例は、その頃の多くの研究者(少なくとも編者)があらためて注目している判例と考えられることから(ちなみに、編者の一人である宍戸常寿教授は令和2年司法試験考査委員である)、司法試験の論文式試験でも出題される蓋然性が高いといえる。少なくとも短答式試験で出題される蓋然性は相当高度といえるだろう。

 

このように1つ前の版の改訂のときのこと(平成25年司法試験での出題実績)や、さらには、平成22年(新司法試験論文憲法以降、生存権憲法25条1項)が論文で長い間出題されていないことも踏まえると、生活保護老齢加算廃止事件も非常に危ない判例であるといえるだろう。

 

なお、お勧めしたい判例百選以外の判例集憲法行政法)は、以下↓のブログで紹介したので、こちらもぜひ参考にしていただきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

以上、令和2年司法試験を受験される(あるいは令和3年以降受験予定の)皆様の試験勉強の指針や要素の1つとなれば幸いである。

 

 

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[1] Mr.Children(作詞・作曲  桜井和寿)「足音 ~Be Strong」(2014年)。

[2] 蟻川恒正「2013年司法試験公法系第1問」(〔連載〕起案講義憲法 第4回)法学教室394号112頁。