平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

令和4年司法試験論文憲法の分析(1) “シン・主張反論型”(旧・主張反論型とリーガルオピニオン型との異同)の検討

 

「このブックレットでは、まずは化膿した傷口に目を凝らすようにして、冷徹に事実を見すえることにしたい。壊死した組織を再生し、国公立大学の公共性を鍛え直す試みもそこからしか始まらないからである。」

駒込武「はじめに」駒込武編『「私物化」される国公立大学』(岩波書店、2021年)2頁(7頁))

 

 

 

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1 出題形式の変更 ~「リーガルオピニオン型」から「新・主張反論型へ」~

 

令和4年司法試験論文憲法では、出題形式(出題方式)が変更された。

 

平成30年に出題形式が変更されたときほどの大幅な変更ではないが、平成29年までの出題形式に近いものの、違憲の主張ではなく合憲の主張から書かせるという新しい出題形式に戸惑っている法科大学院生・受験生もいることだろう。

 

そこで、平成18年~29年までの「主張反論型」[1]との違いについて検討し、さらに、若干ではあるが、平成30年~令和3年まで「リーガルオピニオン型」(法律意見書型)[2]との異同について検討してみたい。

 

なお、令和4年の新たな出題形式を、平成18年~29年までの「主張反論型」と区別する目的で、「新・主張反論型」といい、また、従来の「主張反論型」を「旧・主張反論型」ということがある。

 

 

2 「新・主張反論型」の「設問1」と「設問2」のポイント

 

(1)「設問1」のポイント

 

まず、新・主張反論型の出題形式、すなわち「設問」の部分を確認しよう。

 

(以下、問題文を引用)

 

〔設問1〕

X大学長Gは、X県公立大学法人の顧問弁護士Zに対して、Yとの再度の話合いに応じるつもりだが、大学としては憲法を踏まえてできるだけ丁寧な説明を行いたい、と相談した。あなたがZであるとして、X大学の立場から、決定①及び決定②それぞれについて、次回の面会においてどのような憲法上の主張が可能かを述べなさい。

 

〔設問2〕

〔設問1〕で述べられた憲法上の主張に対するYからの反論を想定しつつ、あなた自身の見解を述べなさい。

 

なお、〔設問1〕及び〔設問2〕とも、司法権の限界については、論じる必要がない。また必要に応じて、参考とすべき判例に言及すること。

 

(以上、引用終わり)

 

「設問1」で注目すべき点は、①一方当時者の(顧問)弁護士としての主張を行うものであること、②「憲法を踏まえてできるだけ丁寧な説明」を行うという依頼者のニーズに応える必要があること、③「必要に応じて、参考とすべき判例に言及する」こと、の3つである。

 

すなわち、「設問1」では、第1に、①当該一方当時者の「立場から」党派的な主張[3]、つまり、当該一方当時者に有利な主張をする必要がある。令和4年では、結論が合憲となる主張をするということである。

 

第2に、②「丁寧な」説明の中身として、「理論及び事実に関する効果的な主張」(平成20年司法試験論文憲法出題趣旨)を行う必要があると考えられる。また、「できるだけ丁寧な説明」という要求は、「フルスケール」(平成19年新司法試験論文憲法ヒアリング)での主張を意味するものといえよう。フルスケールとは、想定される反対当事者の主張に係る憲法上の主張に係る条文・問題点・論点(裁判ではそれが争点となる)を原則としてすべて設問1の段階で提示し、それらに対する判断枠組み・当てはめについて論じ、結論を示すというものである[4]

 

この「フルスケール」による論述について、具体的にどのように答案を書くべきか?は、後日、本ブログの続編で明らかにしたい。

 

とはいえ、1つだけその構成例を挙げておくと、決定①の23条違反の点について、「設問1」の合憲論として、(Ⅰ)助成金(研究費)交付請求権は23条で保障されないから合憲であるという構成と、(Ⅱ)仮に助成金交付請求権が23条で抽象的権利として保障され、具体化されているとしても、憲法適合的解釈として同条に違反する解釈運用(適用)とはいえないから合憲であるという主張を書く、ということである。

 

ただし、上記のとおり「原則として……すべて」と例外があるという留保をつけた点に関することだが、(Ⅰ)の場合に、さらに、(Ⅲ)公立大学の中立義務[5]違反(それによる23条違反)などが問題点・論点となりうるところ、この(Ⅲ)の問題点・論点まで設問1の部分でフルスケールで書ききってしまうと答案として重すぎることになり、時間切れ(や過剰な重複記述)のリスクが高まってしまうことになるかもしれない。そこで、例えばそのような場合には、(Ⅲ)の問題点・論点は軽く指摘をするにとどめるか、あるいはあえて触れないという答案戦略を採るということも一応(合格のためには)合理的といえるだろう。もっとも、筆者としては、(Ⅲ)もフルスケールで書き切るのが最も妥当であると考えている。

 

なお、上記(Ⅱ)の憲法適合的解釈は平成22年司法試験論文憲法でその活用が求められているところ、以下の過去のブログ(憲法適合的解釈を活用した答案例)も参考にしていただきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第3に、③必要に応じて、すなわち、問題点・論点によっては、参考とすべき判例に「言及」する、すなわち、有名な判例であればその判例名も示しつつ(出題趣旨や採点実感でも多くの具体的な判例名が挙がっている)その判断枠組みを活用したり、当てはめにおいて参考とすべき判例の当てはめを参考にしたりする必要がある。

 

ただし、判例を絶対視せよということではなく、「判例と異なる主張を行う場合には、判例の判断枠組みや事実認定・評価のどこに、どのような問題点があるのかを明らかにする」(平成20年司法試験論文憲法出題趣旨)ことによって、判例の立場とは別の立場を採ることは可能である[6]

 

なお、この「判例」(基本判例)の意味(要するにどの範囲の判例を潰せば良いのかなど)などについて、すでに過去のブログで考察したので参考にしていただきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

(2)設問2のポイント

設問2は、旧・主張反論型の場合と同じと考えてよい[7]判例に適宜言及し活用することが必要になることは設問1と同じである。

 

なお、「反論」は「想定」するものではあるが、「設問2では、国の反論なのか私見なのか判別しにくいものが見られた」という採点実感(平成29年)からも分かるとおり、想定される「反論」を反論として書いていることを明記する必要があるという点はあらためて確認しておいてほしい。ちなみに、平成19年新司法試験論文憲法ヒアリングに照らすと、反論は「自分の見解を展開する前提として踏まえれば」よく、「コンパクトで,ポイントを絞った形で記載」(同ヒアリング)すべきである。

 

 

3 「新・主張反論型」の「旧・主張反論型」との違い

 

上記2の分析から、「新・主張反論型」の「旧・主張反論型」との違いは、次の1点だけといえる。

それは、合憲・違憲の主張・反論が真逆になる、ということであり、そのほかの点は旧・主張反論型と同じと評価すべきであろう。

 

すなわち、「旧・主張反論型」では、設問1で違憲の主張(フルスケール)をし、設問2でコンパクトな「反論」を適宜踏まえた私見を論じるのに対し、「新・主張反論型」では、設問1で合憲の主張(フルスケール)をし、設問2でコンパクトな「反論」を適宜踏まえた私見を論じることになる。

 

なお、以上のような考え方に対し、「新・主張反論型」は、合憲側なのであるから、手続的な違法(違憲)性が問われない程度に最低限の理由の提示(付記)[8]をすれば足りることや、理由の追加・差替えも相当程度認められている[9]ことからすれば、「旧・主張反論型」の設問1よりも、「新・主張反論型」の設問1の方が、コンパクトで良いのではないか、という別の考え方もありうるかもしれない。しかし、やはり、「できるだけ丁寧な説明」をするという依頼者(大学側)の要求の点を重視すると、「旧・主張反論型」の設問1と同じボリュームで、同じくフルスケールの答案を書く必要がある、ということになろう。

(ただし、この点については、後に公表される出題趣旨・採点実感を確認し、再現答案で検証すべきと思われる。)

 

 

4 「新・主張反論型」の「リーガルオピニオン型」との異同

 

最後に、令和3年までのリーガルオピニオン型との違いについて若干のコメントを加えよう。

その違いは、旧・主張反論型とリーガルオピニオン型の違いと同じと考えられる。

 

すなわち、第1に、主張反論型の「主張」と「反論」は党派的主張であって、リーガルオピニオン型の場合のような中立的な意見ではないが、主張反論型の「私見」は中立的な意見と同じに考えてよいだろう。

 

なお、この「中立」性の点については、以前、筆者なりに考察したので、(やや長いが)ご笑覧いただきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

また、第2に、主張反論型では、第三者違憲主張適格(平成20年、21年[10])が論点となるが、リーガルオピニオン型ではこれが論点とならないものと考えられる。リーガルオピニオン型では、そもそも「当事者」「第三者」という概念が本来的に観念されず、「ステークホルダー」の権利利益を考慮して法律意見を述べることが求められているからである[11]

 

 

5 おわりに

 

以上、令和4年の「新・主張反論型」の分析を試みた。

 

次回は、令和4年司法試験論文憲法の問題作成過程の背景や、関連する、あるいは活用することになると考えられる判例について検討してみたい。

 

そして、その後、憲法(及び行政法)と「給付」(助成・補助)に関するケース・事例問題やその関連問題に強い関心を有する者[12]として、拙い答案例を公表する予定である。

 

 

(本ブログは、筆者が所属する機関や団体の見解を述べるものなどではなく、個人的な意見等を公表するものです。ご注意ください。)

 

 

*脚注番号のズレ(誤記)を訂正しました(2022.5.21)。

 

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[1] 平成30年司法試験合格者「公法系1位が教える!憲法の新傾向と対策」受験新報819号(2019年)53頁は、平成18年から平成29年までの司法試験論文憲法の出題形式(「憲法上の主張」「反論を想定」「あなた自身の見解」という主張・反論・私見を論じさせる形式ないし方式の問題)を「いわゆる主張反論型」と称する。呼び易さを重視し、本ブログでも「主張反論型」と称する。なお、「主張・反論・私見型」(大島義則『憲法ガールⅡ』(法律文化社、2018年)178頁)、「当事者主張想定型」(松本哲治「当事者主張想定型の問題について」曽我部真裕=赤坂幸一=新井誠=尾形健編『憲法論点教室 第2版』(日本評論社、2020年)213頁)とも称される。

[2] 大島・前掲注(1)178頁。

[3] 大島・前掲注(1)179頁参照。

[4] 旧・主張反論型の問題である平成29年司法試験論文憲法採点実感も、「設問1に対する解答を僅か数行にしているものも見られたが,原告の主張としても,理論と事実に関する一定の主張を記載することが求められており,したがって,まず,設問1において,問題となる権利の特定と,その制約の合憲性に関する一定の論述をすることが期待されている。」としており、この指摘は、新・主張反論型にも妥当すると考えられる。

[5] 小山剛『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社、2016年)202~205頁参照。なお、別に、「違憲な条件」論、「ベースライン」論、「専門家の介在」論といった様々な憲法理論やそれらに基づく多少は違った答案構成が考えられるところではあるが(同203~204頁)、本ブログ(の本文)ではひとまず国家の中立義務の活用を試みることだけに言及している。

[6] 松本・前掲注(1)215頁参照。

[7] 平成29年司法試験論文憲法の「設問2」は、「〔設問1〕で述べられた甲の主張に対する国の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。」となっており、令和4年の設問2と殆ど同一といえる。

[8] 最二小判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁、最三小判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁、最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁参照。

[9] 最三小判昭和53年9月19日判時911号99頁等参照。

[10] なお、平成23年司法試験論文憲法出題趣旨にも第三者違憲主張適格の判例に関する説明がある。

[11] 大島・前掲注(1)179頁参照。

[12] 憲法行政法と「給付」(助成・補助)に関するケース・事例問題として、あいちトリエンナーレ2019補助金不交付問題が挙げられる。この問題について行政法憲法の観点から論じた拙稿として、

①平裕介「『あいトリ』補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説」美術手帖ウェブ版(2019年) https://bijutsutecho.com/magazine/insight/20747

②平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金不交付の理由と補助金適正化法」美術の窓38巻11号(2019年)99頁、

③平裕介「行政法のフィルターで見るあいトリ補助金不交付問題―『行政裁量』のハードルと『天皇コラージュ事件』との共通項」美術の窓38巻12号(2019年)119頁、

④平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金不交付は、なぜ違法なのか(1)」美術の窓39巻1号(2020年)240頁、

⑤平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金不交付は、なぜ違法なのか(2)」美術の窓39巻2号(2020年)115頁、

⑥平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金不交付は、なぜ違法なのか(3)」美術の窓39巻4号(2020年)118頁、

⑦平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金不交付問題と今後の申請手続のポイント」美術の窓39巻5号(2020年)174頁、

⑧平裕介「文化芸術活動に対する『電凸』と補助金の関係―あいちトリエンナーレ2019から考える」美術の窓39巻6号(2020年)133頁、

⑨平裕介「あいちトリエンナーレ2019補助金問題の結末の法的検証」美術の窓39巻7号(2020年)130頁、

⑩平裕介「あいちトリエンナーレ2019と争訟手段―補助金不交付に対する行政争訟を中心に」法学セミナー794号(2020年)41頁。

なお、あいちトリエンナーレ2019における企画展の一つ「表現の不自由展・その後」の約2年後における同様の企画展の開催に関して争われた裁判例解説(拙稿)として、⑪平裕介「判批」(大阪高決令和3年7月15日LEX/DB文献番号25571687解説)法学セミナー)802号(2021年)124頁。

また、あいちトリエンナーレ実行委員会が「あいちトリエンナーレ2019」の負担金をめぐって名古屋市を提訴したケースに関する拙稿として、⑫平裕介「あいちトリエンナーレ実行委員会が名古屋市を提訴。弁護士・平裕介に今後の展開を聞く」美術手帖ウェブ版(2020年)https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/21965

加えて、「表現の不自由展・その後」を理由とする大村秀章愛知県知事のリコール運動に関する拙稿として、⑬平裕介「愛知県知事のリコール運動と『芸術の自由』を守るために私たちができること」美術手帖ウェブ版(2020年)https://bijutsutecho.com/magazine/insight/22092

また、同様に、憲法行政法と「給付」(助成・補助)に関するケースであり、映画製作に係る助成金の不交付処分の違憲性・違法性が争われた憲法訴訟・行政訴訟(処分取消訴訟)である映画「宮本から君へ」助成金不交付訴訟(東京地判令和3年6月21日裁判所ウェブサイト、東京高判令和4年3月3日裁判所ウェブサイト、現在上告・上告受理申立て中)につき、原告代理人の立場から第一審判決を解説した拙稿として、⑭平裕介「文化芸術助成に係る行政裁量の統制と裁量基準着目型判断過程審査」法学セミナー804号(2022年)2頁。

さらに、控訴審判決を批判する拙稿として、⑮平裕介「映画『宮本から君へ』助成金不交付訴訟・東京高裁判決の問題点と表現の自由の『将来』のための闘い」(2022年)法学館憲法研究所ウェブサイト

http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20220404_02.html