平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(4) 原告適格再考 非難のための道路通行利益と「日常生活」

 

前々回のブログ「平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2) 原告適格の『正解』と『下位論点』」の「3」の部分で,平成29年司法試験論文行政法・設問1(1)の原告適格の論点につき,私は,厚く論じるべきメインの利益は,X2の通学のための日常生活上の道路使用の利益であると述べた。

 

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が,再度,(一部の利益について若干)検討をしてみたい。

 

平成29年の問題文2頁から3頁にかけての事実関係によると,前々回ブログ記載の(α)・(β)・(γ)の3つの事情が書かれており,それぞれについての利益がXらの原告適格を基礎づけるものかが問われていた。

前二者については,前々回のブログのとおりであり,特に考えは変わっていない。

 

しかし,次のとおり(γ)については,考え直した方が良いのではないかとも思いはじめている。他の弁護士(期が上)の先生と,本問について意見交換をさせていただいたことが,このことのきっかけとなった。

 

さて,問題とするのは,(γ)<C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xら(X1及びX2)としては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であった>という事情,同事情に関するXらの利益である。

 

当初(前々回のブログで),私は,この(γ)におけるXらの利益につき,生活上の利益(避難経路として市道を利用する利益)の問題として一応論じられるべきものといえるだろうとした上で,緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく,本問では別の避難経路(B通り)が確保されているため家屋から出られなくなるわけではなく,400メートル避難場所へ遠くなる程度では避難場所に避難できなくなるわけでもないから,個別保護要件を満たすことになるとは考えらず,よって,Xらの原告適格を基礎づけられるものとはいえない,などと述べた。

 

しかし,この「緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく」という点は,検討が不十分であったかもしれない。

 

今や,いつ日本のどこで震度6を超えるような大地震が起こってもおかしくないような状況であることにも鑑みると,災害時の避難場所(への円滑・迅速な非難)は,(日常生活の一部とまでいえなくても)日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものではないかと考えられるからである。

 

そうすると,(γ)についても,(α)と同じように,概ね次の通りの原告適格に関する論述が可能となるだろう。

 

すなわち,Xらが災害時に避難場所として指定された施設に行く(行き来する)ために道路を使用・通行する利益は,避難場所が日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものであるため,日常生活上の利益に関するものといえる。ゆえに,Xらは道路が使用できなくなると日常生活上の不利益を受ける旨主張している(①不利益要件充足)。

 

また,Xらが避難場所に行くために道路を通行する利益は,道路法71条1項1号・43条2号(,法1条)により保護される範囲に含まれるものであるといえる(②保護範囲要件充足)。

 

さらに,上記利益が著しく害されると,円滑な非難が困難となることなどから,災害時に避難者の健康状態が悪化する蓋然性が高くなるといえ,加えて,避難者が日常生活を不段通り送り続けていくことにも重大な支障が生じうることとなる。そこで,道路の使用ができなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受けない具体的利益は,一般的な公益に吸収解消されるものではなく,道路法により個別的に保護されるものと考えられる(③個別保護要件充足)。

 

本件では,本件市道を使用できなくなることによりXらとしては自宅から避難場所の小学校までの距離が400メートル遠くなるため,例えば災害時にXらが負傷した場合に,徒歩約10分余計に避難時間がかかると,怪我等の状態が悪化しかねないことから,Xらは,本件市道が使用できなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受ける者であるといえる(個別保護要件の規範のあてはめ)。

 

 

以上,(γ)についても以上のように書いてXらの原告適格を認めるべきとしておくと,設問1(1)の「重大な損害」や,設問1(2)の違法事由の主張(規制権限不行使の論点における(特に)被侵害法益の点)の点が,より書きやすくなるものと思われる。これらの論点において,間接的にではあるものの,上記のように,「健康」(あるいは「身体」,ひいては「生命))という点にも言及することができることとなるからである[1]

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(5)に続く。) 

 

 

 

[1] 「重大な損害」(行訴法37条の2第1項・2項)につき,中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)366,368頁は,回復が困難であるとの利益の性等を相当程度重視しているものと思われるところ,本問(平成29年司法試験論文行政法)でもXらの健康(や生命)にも触れられれば,「重大な損害」をより肯定しやすくなるものと考えられる。

また,規制権限不行使の論点における被侵害法益の点につき,中原・同書409頁,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)570頁等は,生命・身体(・健康)が被侵害法益となる場合に(国賠法上の違法性の話ではあるが)違法性が比較的肯定され易くなる旨説明しており,この考え方は非申請型義務付け訴訟(本問)にも妥当するだろう。

 

 

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