平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

司法試験&予備試験・論文行政法(令和元年・平成18~30年・プレ・サンプル)の個別法まとめ

司法試験受験生から"司法試験(・予備試験)の個別法で特に重要なものって何ですか?”といった類のご質問が少なくないので、本日は、後掲のとおり、(新)司法試験論文行政法(令和元年・平成18~30年・プレ・サンプル)と司法試験予備試験論文行政法(令和元年・平成23~30年)で出題された個別法をまとめてみました。法律と条例以外は、基本的には省略しています(過去問分析という点では特に問題はないと思います)。

 

正直、授業等で検討した百選レベルの判例に登場する個別法の根拠法規・処分要件規定、目的規定、関係規定、関係法令の関係規定等は、すべて確り読んでほしい(その積み重ねが合格のための実力をつけることになる)と思っていますが、司法試験では他の科目もある上、過去問がどんどん増えてきていることなどに照らした受験生の負担感を考えると、ご質問をされる方々の気持ちも分かるような気がします。

 

ご質問への回答ですが、要するに、土地法(国土整備法)関係と、事業規制法関係がよく出ています亘理格=北村喜宣編著『重要判例とともに読み解く 個別行政法だと7章と6章の個別法の出題が多いですね。

 

都市計画法建築基準法の出題率の高さはちょっと異常かと…。行政機関情報公開法(情報公開条例)や、生活保護等の社会保障法はなぜ出ない(社会保障法関係は殆ど出ない)んですかね…。憲法で出ているor出せるからなのかもしれないですが、いずれ行政法でも普通に出ると思います。

あと、児童福祉法(新司法試験プレテストでしか出ていない)も、本試験でそろそろ出る予想します。個別法と呼ぶべきではないかもしれませんが、地方自治法も割と出ていますね。

 

 (以下,まとめ)

R1司 土地収用法(第7章「国土整備法」No.25・252頁以下())

R1予 A県屋外広告物条例(参考…第6章「営業・事業規制法」No.20(旅館業法)・198頁以下,第10章「社会保障・医事法」No.42(薬事法)・434頁(委任の範囲),第11章「条例」No.44・455頁(景観条例関係))

30司 墓地埋葬法・B市墓地等の経営の許可等に関する条例(参考…第6章「営業・事業規制法」No.19・191頁以下(公衆浴場法…衛生警察法という点で共通))

30予 Y県消費生活条例

29司 道路法(第7章「国土整備法」No.24(下線法・道路法)・241頁以下)

29予 廃掃法(第8章「環境法」No.32・329頁以下)

28司 建築基準法都市計画法・風適法(風適法)・公衆浴場法(第7章「国土整備法」No.26・264頁,No.27・278頁等)

28予 風適法(風営法(第5章「警察法」No.16・154頁以下)

27司 消防法・都市計画法建築基準法(第7章「国土整備法」No.26・264頁,No.27・278頁)

27予 河川法(第7章「国土整備法」No.24(下線法・道路法)・241頁以下)

26司 採石法

26予 漁港漁場整備法地方自治法(第2章「地方自治法」No.4・39頁以下)

25司 土地区画整理法(第7章「国土整備法」No.28(土地区画整理法都市再開発法)・292頁以下)

25予 景観法(参考…第11章「条例」No.44・455頁(景観法関係))

24司 都市計画法(第7章「国土整備法」No.26・264頁以下)

24予 乙市下水道条例

23司 モーターボート競走法(第6章「営業・事業規制法」No.20(旅館業法)・198頁以下)

23予 乙町モーテル類似旅館規制条例(第6章「営業・事業規制法」No.20(旅館業法)・198頁以下)

22新 地方自治法(第2章「地方自治法」No.4・39頁以下)

21新 建築基準法・建築安全条例・紛争予防条例(第7章「国土整備法」No.27・278頁以下)

20新 介護保険・B県行政手続条例(参考…第10章「社会保障・医事法」No.41(医療法)・422頁以下)

19新 入管法(第5章「警察法」No.18・172頁以下)

18新 建築基準法(第7章「国土整備法」No.27・278頁以下)

プレ 児童福祉法・A市保育実施条例(第10章「社会保障・医事法」No.38・396頁以下)

サンプル 廃掃法(第8章「環境法」No.32・329頁以下)

 

亘理格=北村喜宣編著『重要判例とともに読み解く 個別行政法』(有斐閣,2013年)の章、法律等の番号、頁数等を記載しています。

 

重要判例とともに読み解く 個別行政法

重要判例とともに読み解く 個別行政法

 

 

 

ちなみに、令和元年予備試験の屋外広告物条例ですが、実務上は、屋外広告物法よりも、屋外広告物条例を検討することが多いものと思われますので(松尾剛行『広告法律相談 125問』(日本加除出版,2019年7月26日初版発行)159~160頁参照)、同予備試験の問題は実務的な問題であったといえるでしょう。 

 

広告法律相談 125 問

広告法律相談 125 問

 

 

以上、ご参考まで。m(_ _)m

夢の中で逢いましょう

ほろ酔いなので、今日は司法試験ネタはやめます。


あと短く書かなくては…。



弁護士会の会派(俗称、派閥)やっている行政法研究者は多分レアだ(希少価値があるわけではない)と思うんですが、最初のころは、正直、結構微妙だったんですよね。


でも、最近になっていろんな先生方と知り合えたのは、やはり会派の力なんじゃないかと思います。会派って色々言われますけど、一長一短だと思いますね。

すごい先生ばかりですし、多少自分の活動の幅も広がったように思います。



……って、いやー普通ですね。文才の欠片もない。
ただ、普通の、文才のない人も、やっぱり司法試験受かってほしいですね。だってそうでしょやっぱり。霞ヶ関文学書くような人ばかりでは、世の中暗くなるばかりですから。


……いやいや、結局、司法試験かーーーーーい

令和元年(2019年)司法試験論文行政法 解説(1) 本問のコンセプト ~ 沖縄基地問題 / 実務vs学説 / 藤田説vs宇賀説 ~ 

「僕が初めて沖縄に行った時

 何となく物悲しく思えたのは

 それがまるで日本の縮図であるかのように

 アメリカに囲まれていたからです」[1]

 

 

 

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時機に後れた解説となるが,本日は,令和元年(2019年・平成31年)司法試験論文式試験公法系科目第2問(司法試験論文行政法)について総論的なコメントを述べる。

 

なお,令和元年司法試験論文憲法については,先月の4つのブログ↓を参照されたい(憲法についても続編を書きたいが,速やかに書けるかは微妙なところである)。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

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yusuketaira.hatenablog.com

  

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1 はじめに ~元ネタ裁判例と背景事情(沖縄の米軍基地建設問題)~

 

すでに,2019年5月16日にツイートしたが,本問の事案の元ネタとなった裁判例は,東京地判平成30年4月27LEX/DB25553988である。この裁判例の裁判長は,古田孝夫裁判官(元調査官)であり,古田裁判官は平成30年司法試験の考査委員行政法)である(当時,東京地方裁判所判事。令和元年は考査委員ではない)。

  

 

 


もとより想像の域を出ないが,令和元年司法試験考査委員(行政法)のうち,特に東京地裁判事ら(朝倉佳秀判事・清水知恵子判事)は,同判決に注目し,考査委員の会議において同判決を下敷きとする事例問題の文案を提出したのではなかろうか。

 

 

ところで,本問が出題された背景には,沖縄県名護市辺野古の米軍基地建設問題が潜んでいるといわなければならない。

 

同基地建設問題に関する最近の重要判例として,最二小判平成28年12月28民集70巻9号2281頁[2](以下「平成28最判」という。)が挙げられるところ,この判例について,筆者は従前より,司法試験との関係でも重要である旨ツイートしてきた。




平成28年最判で問題となった個別法は公有水面埋立法であり,処分要件として同法4条1項1号・2号が問題となっている。このうち同法1号は「国土利用上適正且合理的ナルコト」(下線筆者)と規定しており,令和元年司法試験論文行政法で問題となる処分要件である土地収用法20条3号の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」(下線筆者)を彷彿とさせる。

 

同基地建設問題については,多くの行政法学者が注目しており[3],法曹実務家も,行政法学者(行政法研究者)の考査委員も,同じく注視してしたものと思われる[4]

 

このように辺野古問題が令和元年司法試験行政法の背景事情となっていると思われるところ,平成28年最判につき,衣斐瑞穂調査官元(平成30年)司法試験考査委員である。考査委員であった当時,東京地方裁判所判事)は,「実務上重要な意義を有する」[5]判例であるとし,概ね好意的な解説をしているように感じられるが,学説からは平成28年最判に対して多くの批判がある[6]

 

司法試験論文憲法については,少なくない受験生が,近時,現実に生じている問題憲法とを「切り結んで考えさせようという出題者のメッセージが込められている」[7]ものと感じるものと思われるが,令和元年司法試験論文行政法においても,同様の出題意図が読み取れるように感じられるのである。行政法についても,日々のニュースに関して法的問題点を探し出し,これを検討することが重要ということになっていく可能性がある。

 

ただし,「ある意味で国論を二分する問題で,かつ政府がそのうち一方の考え方に基づく政策を採用しているとすれば,このような問題は,受験生に『踏み絵』のような機能を果たし得るので,国家試験として出題することは不適切であるという批判を免れることはできないであろう」という平成27年司法試験論文憲法の問題への批判[8]が,令和元年司法試験論文行政法にも妥当する余地があるといわなければならないだろう。

 

現在,日本の国土面積の約0.6%にすぎない沖縄に,米軍専用施設面積の70.3%が存在しており,県民の方々ないし「うちなーんちゅ」は人権問題・環境問題等に苦しみ,悩まされ続けている[9]わけである。令和元年司法試験論文行政法が前述した「踏み絵」とならぬよう,そしてすべての受験者に対する公正な評価がなされることこそが実質的な法の支配にとって重要である。

 

 

2 近年の裁判例(東京地・高裁) vs 学説 という構図

 

さて,本年の問題の全体的な感想を述べると,設問ごとに,

近年の判例特に東京地裁・東京高裁のもの) 対 学説(多数説又は有力説)

という構図が見て取れるように思われる。

 

本ブログでは,各設問に関し,立ち入った解説をすることは控えるが,次回以降のブログで,それぞれの設問につき,もう少し詳しい解説ができればと考えている。

 

(1)設問1:違法性の承継 否定(東京地・高裁)vs肯定(学説・有力説)

 

設問1の論点は,土地収用法における事業認定(同法16条)収用裁決(同法47条の2)[10]との間の違法性の承継が肯否であるところ,従来はこれを肯定する裁判例が大勢であった[11]が,近年(平成13年(2001年)7月の土地収用法改正後)は,事業認定と収用裁決とのの違法性の承継を否定する裁判例もみられる[12]

 

他方,学説においては,否定説もある[13]が,同改正後においても[14],承継を肯定すべきとする見解(学説)が有力と思われる[15]。もっとも,下記の状況に照らすと,今後,否定説が学説上,有力・多数となる可能性は否定できないように思われる(なお,筆者自身は,同改正後においても承継肯定説を採るべきと考えている)。

 

なお,違法性の承継を否定した東京高判平成24年1月24日(静岡地判平成23年4月22日の控訴審判決)判例時報2214号3頁の事案は,収用裁決取消訴訟の原告の一部が事業認定取消訴訟を提起して請求棄却判決が確定していたという特殊性がある[16]ため,このような事情がない場合に東京高裁を含む裁判所がどのような判決を書くか予想することは容易ではないだろう。

 

以上のように,事業認定と収用裁決の違法性の承継は,近時の実務(裁判例)と学説(有力説)が,また,学説同士が鋭く対立する論点であり,どちらの立場で書くか悩ましい問題であったように思われる。

           

 

(2)設問2(1):原告適格 否定(東京地裁)vs肯定(学説・多数説)

 

設問2(1)では,無効確認訴訟の訴訟要件である原告適格行政事件訴訟法36条後段消極要件の認否やその判断基準(いわゆる直截・適切基準説[17]等)が問題となっており,関連論点として,同訴訟とは別の争点訴訟土地の所有権確認請求及び本件移転登記の抹消登記手続請求道路建設工事の民事差止訴訟の内容をどのように考えるか,無効確認訴訟の三者を解釈上(類推適用を)認めるべきか否か(←第三者効の規定(行政事件訴訟法32条1項)を準用していない(同法38条1項~3項)),無効確認判決の拘束力の内容,すなわち後行行為・処分(収用裁決)の無効が確認された場合に,先行行為・処分(事業認定)の職権取消しが拘束力によって義務付けられるかなど,仮の救済として執行停止(手続続行(明渡裁決に基づく代執行手続の続行)の停止等)の申立てを行いうる無効確認訴訟を提起した方が直截適切な救済といえないかが問われているものと考えられる。元ネタ裁判例(前掲東京地判平成30年4月27日)が無効確認訴訟の訴訟要件である原告適格行政事件訴訟法36条後段消極要件否定しているのに対し,学説(おそらく多数説か)はこれを肯定するのではないかと思われる[18]

 

このように,設問2(1)においても,近時の実務(裁判例)と学説(多数説(ないし有力説))が対立する論点を含む問題が出題されているといえる。

 

 

(3)設問2(2):審査密度の低い審査(東京地裁・高裁)vs 審査密度の高い審査(学説・多数説)

 

設問2(2)については,前記元ネタ裁判例(東京地判平成30年4月27日)は,本件事業認定において東京都知事がした土地収用法20条3号要件該当性の判断につき,「重大かつ明白な裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められるか否か」という無効事由につき検討しているため,本問と単純に比較することはできないものの,前記元ネタ裁判例は,違法の瑕疵の認定には消極的であるように思われるし,また,近年の東京地裁・東京高裁(東京地判平成25年9月17日判例タイムズ1407号254頁,その控訴審の東京高判平成28年9月28日LEX/DB25544461)は,日光太郎杉事件判決(東京高判昭和48年7月13日行集24巻6=7号533頁)のような審査密度が比較的高い判断枠組みによらず,緩やかな(審査密度の低い)社会通念審査を行っているものと考えられる[19]。このような近年の東京地裁・東京高裁の違法審査の仕方については,日光太郎杉事件判決を「ベースとして数多くの裁判例を蓄積してきた先行判断の歴史を軽視し,ブラックボックスに等しい裁量審査に後退する司法消極主義の姿勢は,現代日本の司法審査のあり方にふさわしいとは言いがたい」(下線筆者)と研究者から強く批判されている[20]

 

このような東京地裁・東京高裁判決とは異なり,学説(多数説)は,裁量審査の審査密度の(比較的)高い判断手法(判断枠組み)によるべきとする見解に立っているといえる[21]

 

なお,前掲東京地判平成25年9月17日の裁判長は,谷口豊裁判官であり,同裁判官は,平成26・27・28年司法試験考査委員行政法)であるが,令和元年司法試験考査委員(裁判官委員)も上記のような審査密度の低い手法で足りると考えているのであれば,法治主義の放棄(放置主義国家)となってしまわないか不安であると言わざるを得ない。

 

 

3 藤田前最高裁判事vs宇賀現最高裁判事

 

最後に,違法性の承継の論点(設問1)に関して,平成13年(2001年)7月の土地収用法改正についての藤田宙靖先生と宇賀克也先生の見解の相違についてコメントしておきたい。

 

両先生は,行政法研究者(大学教授)から最高裁判所裁判官に就任された方々であるが,平成13年7月土地収用法改正や事業認定と収用裁決の違法性の承継の問題については異なる評価をしているものと思われる。

 

藤田先生・前最高裁判事は,平成13年7月土地収用法改正後においても事業認定と収用裁決の違法性の承継は肯定されるべきとの立場であるといえる[22]

 

他方で,宇賀先生・現最高裁判事は,同じ問題につき,その基本書で微妙な態度を示していることから[23],宇賀先生の基本書の記載を「承継肯定説に懐疑的な見方を示す見解」と評する法曹実務家(判事)もおり[24],また,研究者からもこの記載が「承継を認めることが疑問視されるようになっている」とする見解に含める形で紹介されることがあり[25],前記藤田説が承継肯定説に立つのに対し,宇賀説は両論併記とはいえ,否定説側の説明の記述が長く,否定説もありうるという立場であり[26],藤田説とは一線を画するものといえよう。

 

ゆえに,令和元年司法試験論文行政法には,受験生に,前最高裁判事の藤田説を支持するのか,それとも現役最高裁判事の宇賀説に沿う立場に立つのかという選択を迫る問題という面もあるように感じられる。

 

 

以上,各設問についての立ち入った解説はしていないが,次回以降のブログで,つづき(各設問についてのもう少し詳しい解説)を書いていきたい。

 

 

 

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「この国が平和だと 誰が決めたの? 人の涙も渇かぬうちに

 アメリカの傘の下 夢も見ました 民を見捨てた戦争の果てに

 

 青いお月様が泣いております 忘れられないこともあります

 愛を植えましょう この島へ 傷の癒えない人々へ

 

 語り継がれてゆくために」[27]

 

 

  

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[1] Mr.Children桜井和寿作詞・作曲)「1999年、夏、沖縄」(2000年)。下線筆者。

[2] 『平成29年重要判例解説』にも収載された(稲葉馨「判批」平成29年重判解53~54頁(行政法9事件))。

[3] 紙野健二=本多滝夫編『辺野古訴訟と法治主義行政法学からの検証』(日本評論社,2016年)等参照。

[4] 角松生史「地域空間形成における行政過程と司法過程の協働―司法過程のフィーバック機能をめぐって―」礒野弥生ほか編『宮﨑良夫戦線古稀記念論文集 現代行政訴訟の到達点と展望』(日本評論社,2014年)3頁は,鞆の浦公有水面埋立免許差止訴訟を取り上げており(他に国立市マンション訴訟を取り上げている),同訴訟では,公有水面埋立法4条1項1号要件該当性の判断が問題となっている(同文献4頁)。ちなみに,角松教授は令和元年平成31年司法試験考査委員行政法)である。

[5] 衣斐瑞穂「判解」法曹時報69巻8号2433頁(2449頁)。

[6] 稲葉馨・前掲「判批」54頁,山下竜一「判批」法学セミナー748号117頁(2017年)等参照。

[7] 上田健介「公法系科目〔第1問〕解説」別冊法学セミナー249号10頁。

[8] 渋谷秀樹「思想・良心に基づく採用許否に関する紛争」『憲法起案演習―司法試験編』(弘文堂,2017(平成29)年)327頁(331~332頁)。

[9] 琉球新報社編著『魂の政治家 翁長雄志発言録』(高文研,2018年)178頁,83頁参照。

[10] 「収用又は使用の裁決」(土地収用法47条の2第1項)に関し,収用又は使用(の裁決)を単に「収用」(「収用裁決」)ということがある(中川丈久=斎藤浩=石井忠雄=鶴岡稔彦編著『公法系訴訟実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂,平成23年)(以下「中川ほか・実務の基礎」という。)111頁,家原尚秀「土地収用をめぐる紛争」定塚誠編『行政関係訴訟の実務』(商事法務,2015年)299頁(307頁)参照)。

[11] 曽和俊文=山田洋=亘理格『現代行政法入門〔第4版〕』(有斐閣,2019年)77頁〔山田〕参照。なお,山田洋教授は令和元年平成31年司法試験考査委員行政法)である。

[12] 東京高決平成15年12月25日判例時報1842号19頁,静岡地判平成23年4月22日判例時報2214号9頁,東京高判平成24年1月24日(静岡地判平成23年4月22日の控訴審判決)判例時報2214号3頁。小澤道一『逐条解説 土地収用法 第四次改訂版(下)』(ぎょうせい,平成31年)(以下「小澤・逐条(下)」という。)766~767頁参照。

[13] 福井秀夫土地収用法による事業認定の違法性の承継」成田頼明先生古稀記念『政策実現と行政法』(有斐閣,平成10年)251頁(282頁),板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全条例に基づく安全認定の違法を主張することの可否―違法性の承継―」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)256頁(277~278頁),板垣勝彦『公務員をめざすひ人に贈る 行政法教科書』(法律文化社,2018年)143頁。なお,板垣・前掲『住宅市場と行政法』の書評(拙稿)として,季刊行政管理研究161号68~71頁。

[14] 同改正前は,承継肯定説が多数であった(小澤・逐条(下)766頁参照)。

[15] 北村和生ほか『行政法の基本〔第7版〕―重要判例からのアプローチ』(法律文化社,2019年)108頁〔北村〕は承継肯定説に立つものと考えられる(北村教授は令和元年平成31年司法試験考査委員行政法)である)。また,最近の論稿(承継肯定説)として,野呂充「行政処分の違法性の承継に関する一考察」行政法研究19号(2017年)31頁(57~60頁)。

[16] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第6版〕』(有斐閣,2017年)(以下「宇賀・概説Ⅰ」という。)353頁。

[17] 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2018年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という。)313~315頁

[18] 関連論点につき,東京地判平成30年4月27日LEX/DB25553988等,関連論点につき,(a)宇賀・概説Ⅱ272~273頁(収用(権利取得)裁決の取消判決の既判力は起業者には及ばないが第三者効は及ぶ旨解説),(b)最三小判昭和42年3月14日民集21巻2号312頁(行政事件訴訟法特例法のものではあるが,無効確認訴訟の第三者効を肯定),(c)宇賀・概説Ⅱ318~319頁(319頁は,32条1項の類推適用が認められるべきとする。),(d)東京高判平成23年1月28日判例時報2113号30頁①事件(傍論ではあるが,無効確認訴訟の第三者効を肯定),(e)西川知一郎「判批」(前掲最三小判昭和42年3月14日解説)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)422~423頁(205事件)(同423頁は,前掲最三小判昭和42年3月14日は「行政事件訴訟法の下においてもそのまま妥当するものではないというべきであろう」とする。)等,,関連論点につき,(a)宇賀・概説Ⅱ279頁(同頁は,事業認定の違法を理由に収用裁決が取消判決により取り消された場合,事業認定庁は事業認定を取り消すことを拘束力により義務づけられると解される旨説明する。),(b)越智敏裕「コラム 事業認定訴訟と収用裁決取消訴訟の両方を提起するべきか」中川ほか・実務の基礎135~136頁等,関連論点につき,家原・前掲「土地収用をめぐる紛争」311頁(同頁は,手続続行停止の緊急の必要性の要件が認められる場合は少ないだろうなどと説く。),越智・前掲「コラム 事業認定訴訟と収用裁決取消訴訟の両方を提起するべきか」136頁等を参照。

[19] 清水晶紀「判批」(東京地判平成25年9月17日解説)新・判例Watch15号313~316頁(315頁),越智敏裕「判批」(日光太郎杉事件判決(東京高判昭和48年7月13日)解説)大塚直=北村喜宣編『環境法判例百選[第3版]』(有斐閣,2018年)164~165頁(165頁)参照。

[20] 越智・前掲「判批」165頁。

[21] 谷口豊「裁量行為の審査手法」藤山雅行=村田斉志編『新・裁判実務大系 第25巻 行政訴訟〔改訂版〕』(青林書院,2012年)311頁(316頁)は,「学説上、この判決〔すなわち日光太郎杉事件の東京高裁判決〕の判断手法を高く評価するものが多い。」としている。

[22] 藤田宙靖「改正土地収用法をめぐる若干の考察」川上宏二郎先生古稀記念論文集『情報社会の公法学』(信山社,2002年)627頁(638~639頁)。

[23] 宇賀・概説Ⅰ351~353頁。

[24] 家原・前掲「土地収用をめぐる紛争」310頁。

[25] 野呂・前掲「行政処分の違法性の承継に関する一考察」57頁。

[26] 宇賀・概説Ⅰ351~353頁。

[27] Southern All Stars桑田佳祐作詞・作曲)「平和の琉歌」(1998年)。下線筆者。

 

司法試験論文憲法&行政法に使える判例集 ー司法試験公法系イベント(2019年6月2日)の補足コメントー

昨日、令和元年(2019年)司法試験論文憲法&行政法を題材に、司法試験公法系科目の勉強方法を考えるイベント↓↓↓が開催され、100名で募集させていただいていた会場がほぼ満席となり、お陰様で無事(?)終えることができました。

ご参加いただきました皆様、約3時間半、お疲れ様でした&どうも有難うございました。



さて、昨日のイベントで、オススメしたい判例集があったのですが、時間の関係上、コメントできませんので、本ブログでご紹介させていただきます。


憲法判例集
略称は“判プラ”です。

判例プラクティス憲法〔増補版〕 (判例プラクティスシリーズ)

判例プラクティス憲法〔増補版〕 (判例プラクティスシリーズ)


①この判プラの各章のはじめに1頁でまとめられている「判例の流れ」で特に紙面を割いて引用・解説されている判例と、②(1頁ではなく)2頁にわたって解説されている判例については、短答式試験のみならず、論文で活用するとすればどう使って(書いて)いくのかということまで詰めて勉強することが重要になると思います。


令和元年(2019年)司法試験論文憲法の「設問」では、「判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている」という指定があり、これは例えば、公職選挙法の個別訪問の規定を合憲とした判例の立場や伊藤補足への学説からの批判や学説の審査基準(より厳格なもの)を書くことが求められていたと考えることもできるでしょう。


(ちなみに、その学説からの批判等を活用した答案例はこちら↓です。)
yusuketaira.hatenablog.com


ところで、一昔前のことかもしれませんが、「判例はカミ,学説はゴミ」というキャッチフレーズが受験生の間で流行っていたかと思います。



しかし、設問で、「判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように」してください、と明確に言われてしまった以上、学説は、少なくとも司法試験においては「ゴミ」ではないということになりました。


判例はカミ、学説はゴミ」という格言の射程は、少なくともこれからの司法試験論文憲法の問題には、及ばないということがはっきりしましたので、受験生の皆様も、十分気をつけていただきたいと思います。


では、その学説はどう勉強するのか?ということが気になるわけですが、これも前期①や②の解説に出てくる学説の要点やキーワードについては、押さえておくということが重要になると思います。

個別訪問判例以外の例を挙げるとすれば、夕刊和歌山事件の規範への批判との関係で判例集の解説(や基本書等)に登場する、現実の悪意の法理でしょう。これは令和元年司法試験論文憲法でも使える判例と関係する学説の1つであったように思われます。

(ちなみに、現実の悪意の法理を活用した答案例はこちら↓です。)
yusuketaira.hatenablog.com



行政法判例集
次に行政法で使える判例集ですが、最近発売された、判例フォーカス行政法がオススメです。

判例フォーカス 行政法

判例フォーカス 行政法


こちらは、村上裕章先生&下井康史先生編の判例集ですが、押さえるべき判例と判旨等がかなり限定されています。


特に行政法は、司法試験では短答式試験もなく、また過去問演習が特に重要になる科目ということもあり、百選だと、多くの受験生にとっては情報量が多くなりすぎてしまうかなと思っています。


そこで、上記判例フォーカス行政法がオススメなのですが、情報量が限定されている(2分冊の行政判例百選の1/5くらい?)とはいえ、司法試験論文行政法や予備試験論文行政法との関係では(おそらく予備試験短答行政法との関係でも)、必要かつ十分な知識が書かれているものであると思います。


行政法判例知識を効率的に押さえ、その分、過去問検討に時間を多く割り当て、個別法の解釈の仕方を問題演習を通じて具体的に学んでいくという戦略が司法試験や予備試験の行政法ではかなり有効だと思いますが、判例フォーカス行政法は、この戦略にぴったりの判例集ではないかなと考えられます。



ということで、以上、昨日のイベントの補足でした。まだ補足すべきことはあるのですが、今回はとりあえずこのあたりで。

司法試験&予備試験受験生の皆様の参考になれば幸いです。

令和元年(平成31年・2019年)司法試験論文憲法 解説速報(4) 答案例その3

「先生はママと 政府は火星人と 警察は悪い人と

 僕の知らないとこで とっくに ああ ナシがついてる

 それって ダンゴウ社会」[1]

 

 

 

“司法試験考査委員は受験生と”……

 

「ダンゴウ」事件が再び起こらないことを願うばかりである。

 

 

 

**************

 

 

 

前回のブログの続きということで,答案例を示す。

 

 

第1 立法措置①の合憲性

(第1の2(実体審査関係)については,↓のブログをご笑覧ください。)  

yusuketaira.hatenablog.com

  

第2 立法措置②の合憲性

1 法案の明確性

(略)

 

2 SNS利用者の選挙運動の自由

(第2の2(実体審査関係)については,前回のブログをご笑覧ください。) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

3 SNS事業者の自由[2]

(1)事実を伝達し情報を流通させる自由

ア 法案9条は,前記のとおり,SNS事業者の特定虚偽表現の削除義務規定(1項)や規制委が削除命令規定(2項)により,SNSのサイトに虚偽の事実の投稿内容を表示し続ける行為を禁止し,違反があった場合には刑事罰による強制措置をとるとしている(法案26条・27条)。そこで,法案9条等は,SNS事業者がそのサイト上で事実を伝達して情報を流通させる自由を侵害するもの(法令違憲)ではないか。

イ そもそも上記自由は保障されるか。この点につき,博多駅事件大法廷決定[3]は,報道機関の事実の報道の自由が21条1項(表現の自由)により保障されるとする理由として,民主主義社会において国民が国政に関与することにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の知る権利に奉仕する点を挙げる。SNS事業者の上記自由も,SNS事業者がいわゆるプラットフォーム[4]として現代において情報流通の基盤として大きな役割を果たしていること[5]からすれば,SNS利用者の知る権利に奉仕するものであるため,自己統治の価値があるといえる。

 また,確かに,SNS上で虚偽表現を提供しても,かえって思想の自由市場が歪められることがあるため,自己統治の価値はないか低いものとも思える。しかし,すでに述べたとおり,そもそも誤った言明は自由な討論では不可避的なものであり[6],民主主義社会においては虚偽情報を投稿する者が存在すること自体が1つの重要な情報というべきであるから,当該情報をあえてそのまま流通させることに自己統治の価値があるといえ,同価値がないとか低いものと考えるべきではない。

 したがって,SNS事業者の上記自由も,「(その他一切の)表現の自由」として,21条1項により保障される。

ウ 削除義務や削除命令等(法案9・26・27条等)はSNS事業者宛てのものであるから,同自由の制約があることは明らかである。

エ 判断枠組み

 同自由は,前記のとおり自己統治の価値があり,SNS利用者が虚偽表現に接することによりファクト・チェックや意見交換を行うことがあり,虚偽の事実の情報をSNS上に表示することは国民が自己の人格を発展させる契機にもなるから,国民の自己実現の価値にも資する重要な自由である。加えて,法案9条等の規制は事前抑制に当たるものではない[7],インターネット上の情報の削除が差止めの一形態[8]といえることから,刑事罰のみの事後規制と比べると規制態様の強いものである。さらに,同自由の制限を課す必要性も,個人の名誉権やプライバシー権(13条後段)反対利益となる場合と比べると高いとはいえない[9]

 また,確かに,選挙の公正を確保するために虚偽表現に関し一定の規制を設ける必要性は否定できないが,例えば,政治的に公平であること,事実を曲げずに報道すること,多くの角度から論点を明らかにすることなどの番組編集準則の定められている放送メディアとは異なり,インターネットのメディアでは,SNS事業者らの中立性や,中立性に対するSNS利用者らの信頼を保護すべきである[10]。すなわち,虚偽の事実であっても,SNS事業者や他者の価値判断を交えることなく,SNS利用者の主観的な意図に合致した情報をSNS上に提供するという意味での中立性や中立性への信頼[11]を保護しなければ,SNS独自のメディアの特性が薄れ,SNS現代社において情報流通の基盤として大きな役割を果たすことができなくなるおそれがあると考えられる。SNSと他のメディアとがいわば同質化してしまうと,一般市民が他のメディアでは閲読できない,あるいは接し難い情報に簡便にアクセスできる[12]というSNS(インターネット)メディアにおける情報流通が活発に行われなくなり,ひいてはSNS利用者が多様な情報を知る権利が実質的に制限されることとなると考えられる[13]

 そこで,法案9条等の違憲審査は,中間審査基準によるべきである。

オ 個別的・具体的検討

 選挙の公正確保(47条参照)という規制目的重要であるとしても[14],手段が実質的関連性を欠くものといえないか。

 この点につき,法案を合憲とする立場から,平成29年判例[15]プライバシーに属する情報を検索結果から削除する請求の可否が問題となった事案で当該事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合にのみ削除請求できる旨述べたことに照らすと,法案9条1項2号が選挙の公正が著しく害されるおそれがあることの「明白」性(明らかであること)を要求していることから,特定虚偽表現の規制が限定的であるとして,実質的関連性がある旨主張されることが予想される。

 確かに,SNS上の掲載情報の削除は,事前抑制それ自体ではないため,「北方ジャーナル」事件大法廷判決[16]の一基準に照らし,「著しく回復困難な」程度に選挙の公正が害されるおそれという要件まで規定する必要はないといえ[17],規制の相当性があるとも思える。[18]

 しかし,規制の要件は相当性のあるものであるとしても,他国と比較して極めて厳しい選挙運動規制がかけられているわが国においては[19],「削除」という効果は相当性を欠くものというべきである。すなわち,9条1項各号の要件を満たす特定虚偽表現については,情報の削除ではなく,当該情報と同じウェブページにファクト・チェック済みの関連記事を表示すること[20]を義務付ける規定などを設ければ十分であるといえ,かかるより制限的でない他に選び得る実効的な規制手段があるため,規制の相当性があるとはいえない。

 加えて,前記第2の2で述べたとおり,十分な立法事実があるとはいえないから,規制目的と手段の間に実質的関連性があるとはいえない

カ 以上より,法案9条等は,事実を伝達し,情報を流通させるSNS事業者の自由を侵害し,違憲である。

(2)適正手続

(次回以降のブログで答案例を示すかもしれない。)

                             以上

 

 

**************

 

 

 

「でも 真実を知ることが すべてじゃない」[21]

 

 

 

 ___________________

[1] B’z稲葉浩志作詞・松本孝弘作曲)「Liar! Liar!」(1997年)。

[2] 直接にはSNS事業者に削除義務が課されていること(法案9条1項等)や,問題文3頁「設問」の上の段落の「SNS事業者から…意見が述べられ,その中には,憲法上の疑義を指摘するものもあった」との記載(誘導文と読めるだろう)を重視して,SNS事業者の表現の自由(21条1項)をメインとする答案構成とし,SNS利用者(一般市民)のうち虚偽表現という情報を閲読(閲覧)する者の知る(受け取る)自由については,この第2の3(1)のSNS事業者の自由が保障されることの根拠(やその重要性を根拠付ける理由)として言及することとした。

[3] 曽我部真裕「判批」(最大決昭和44年11月26日(博多駅事件)解説)淺野博宣ほか著,憲法判例研究会編『判例ラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」と略す。)165~166頁(165頁)参照。

[4] 曽我部真裕ほか著『情報法概説〔第2版〕』(弘文堂,2019年)(以下「曽我部ほか・情報法概説」という。)80頁〔林秀弥〕等参照。

[5] 最三小決平成29年1月31日民集71巻1号63頁参照。

[6] 水谷瑛嗣郎「思想の自由市場の中の『フェイクニュース』」メディア・コミュニケーション〔慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要〕69号(2019年)55頁(59頁)参照。

[7] 木下昌彦「判批」(最三小決平成29年1月31日)平成28年度重要判例解説14~15頁(15頁)参照。事前抑制の著名な判例として,最大判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁(「北方ジャーナル」事件)がある(その解説として,阪口正二郎「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2013年)152~154頁)。

[8] 曽我部ほか・情報法概説185頁〔栗田昌裕〕。

[9] やむを得ずこのように言い切ってしまっているが,そもそも思想の自由市場が歪められる弊害・危険と名誉権・プライバシー権の場合を比較することができるのかについては疑問の残るところであり,批判がありうる部分と思われる。

[10] いわゆる「部分規制論」(曽我部ほか・情報法概説70頁以下〔曽我部〕)の議論を参考にした論述であるが,批判のあるところかもしれない。

[11] 曽我部真裕「『インターネット上の情報流通の基盤』としての検索サービス」論究ジュリスト25号(2018年)47頁(52頁)参照。

[12] 志田陽子=比良友佳理,志田編著『あたらしい表現活動と法』(武蔵野美術大学出版局,2018年)37頁参照。

[13] 本段落は,実際には本試験の答案で書いている暇のない部分と思われる。また,曽我部・前掲注(12)53頁は,「中立性原理に加えて他の原理をも導入すること自体には規範的にも事実上も支障はないということにはなるが,これらの原理間の関係を整理し,利用者に対しても可視的なものにしておかなければ,恣意性が疑われ,ひいては『インターネット上の情報流通の基盤』としての役割を果たせなくなるおそれもないわけではない。」としており,中立性を特に重視する本答案(本段落)の立場とは異なる立場であるように思われる。

[14] 立法措置②の実体審査部分については,規制目的の重要性につき,スルーするという答案政策を採っている。目的の重要性を否定することは難しいと思われるからである。

[15] 前掲最三小決平成29年1月31日。

[16] 前掲最大判昭和61年6月11日。

[17] 曽我部・前掲注(11)51頁参照。

[18] この段落は無くてもOKだろう。

[19] 安念潤司ほか編著『憲法を学ぶための基礎知識 論点 日本国憲法[第二版]』(東京法令出版,2014年)174頁〔青井未帆〕参照。なお,主要8か国(G8…日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・カナダ・イタリア・フランス・ロシア)で個別訪問の規制についての規定があるのは,日本だけである(同頁・表1)。

[20] 工藤郁子「AIと選挙制度」山本龍彦編著『AIと憲法』325頁(341頁)参照。

[21] B’z・前掲注(1)「Liar! Liar!」。

 

令和元年(平成31年・2019年)司法試験論文憲法 解説速報(3) 答案例その2

 「真実からは嘘を

 

 嘘からは真実を

 

 夢中で探してきたけど」[1]

 

 

 

**************

 

 

 

前々回のブログの続きである。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

1 司法試験実施後のニュース記事の紹介

 

フェイクニュース対策、有識者会議が本格議論」(読売新聞オンライン,2019年5月25日 7時16分)

 

(以下,記事を引用)

 

総務省有識者会議は24日、インターネット上の偽ニュース(フェイクニュース)対策について本格的な議論を始めた。

 

今後、「表現の自由」に配慮しながらネット上のニュースの信頼性を高めるための具体策の検討を進め、年内に方向性を示す予定だ。

 

会議では、偽ニュースかどうかを独自に調べる「ファクトチェック」の普及に取り組む非営利団体から聞き取りを行った。「多種多様なファクトチェック団体の活動が国内で活性化するための環境整備をしてほしい」といった意見が出た。

 

欧米では、SNSなどのプラットフォーム事業者を通じ、偽ニュースが拡散することが深刻化している。欧州連合の執行機関・欧州委員会は、2018年9月に偽情報に関する行動規範を公表するなど対策に乗り出している。有識者会議は今後、欧米の取り組みを参考に国内での対応策を検討する。

 

(記事の引用終わり)

 

ところで,本秀紀名古屋大学教授は,次の通り述べる。

 

「説明責任の放棄、公文書の改震・隠蔽など、通常の立憲民主主義国家では想定できないような事態があいつぎ、立憲主義や民主主義の基盤が根底から覆されようとしている。(中略)

目を世界に転じると、一国の『最高責任者』がフェイク・ニュースを吹聴し、排外主義的な言説で『自国ファースト』を煽っている。」[2]

 

日本においても,「最高責任者」が政府言論としての「フェイク・ニュース」を吹聴していないだろうか。

 

立憲主義及び民主主義の基盤を守るために,フェイクニュースの対策以前に,政府として,やるべきことがあるように思われる。

 

 


2 令和元年司法試験論文の答案の「一例」(前々回の続き)

 

(第1(立法措置①の合憲性)・2(実体審査関係)については,前々回のブログをご笑覧いただきたい。) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第2 立法措置②の合憲性

 1 法案の明確性

(略)

 

 2 SNS利用者の選挙運動の自由

(1)法案9条は, SNS事業者が選挙運動の期間中等に「特定虚偽表現」があることを知ったときは,速やかに当該表現を削除しなければならないとし,SNS事業者に削除義務を課しており(1項),また,削除の措置がなされない場合には,フェイク・ニュース規制委員会(以下「規制委」という。)が削除命令をなしうるとして(2項),SNSのサイトに一定の投稿内容を表示し続ける行為を禁止し,その違反があった場合には刑事罰による強制措置をとるとしている(法案26条・27条)。そこで,SNS利用者は,特定虚偽表現をSNS上で公表した場合,上記法案の仕組みにより,自身の表現がSNSのサイトから削除されうることとなることから,法案9条等は,SNS利用者の選挙運動の自由21条1項)を侵害し,法令違憲とならないか。[3]

(2)まず,表現の自由民主政の運営を支える基礎的な人権であり,議会制民主主義において議員の選挙は民主政の運営における重要な契機であるから,選挙運動の自由は,21条1項により保障されると考える[4]。また,前述したとおり,SNSで虚偽表現を行う自由も,同項により保障される。

 したがって,SNSを利用して選挙運動の期間中等に「特定虚偽表現」に係る情報を他のSNS利用者に伝達[5]して選挙運動を行う自由も,「(その他一切の)表現の自由」として,同項により保障される。

(3)上記のとおり,削除義務や削除命令は直接にはSNS事業者宛てのものではあるが,法案9・26・27条等の仕組みにより,特定虚偽表現がSNS事業者によってSNSのサイトから削除されることとなると,他のSNS利用者という情報の受け手に情報が届かなくなるため,同自由の制約も認められる[6]

(4)判断枠組み

 同自由は,前述したとおり,民主政の運営を支える点で高い自己統治の価値を有するとともに,選挙運動に際しての意見交換等を通じて自己の人格を発展[7]させることにも資するから,自己実現の価値もある。

 他方で,選挙運動の規制については選挙の公正を確保すべく「選挙に関する事項」(47条)に関して広い立法裁量が認められる場合がある[8]。そのため,法案9条等についても,個別訪問を禁止する公選法の規定[9]を合憲とした最高裁判例緩やかな判断枠組み(規制目的の正当性,目的と手段との合理的関連性及び利益衡量の審査)[10]が妥当するようにも思える。

 しかし,SNSには散在する少数派の声を結びつけるという特性がある[11]ことにも照らすと,SNSを多数の国民が日常的に利用する今日においてはSNS利用者の選挙運動の自由は特に手厚く保障されるべきである。

 したがって,同判例の判断枠組みは法案9条等の違憲審査には妥当せず,中間審査基準[12]か,あるいは,選挙のルールであるため立法裁量があることを前提とするとしても,少なくとも立法の判断過程を慎重に審査する手法によるべきである[13]

(5)判例の立場の問題点

 仮に同判例の判断枠組みが妥当するとしても,同判例の立場には問題があると考える[14]。すなわち,①同判例は,個別訪問の禁止は,意見表明そのものの制約を目的とする直接的制約ではなく,意見表明の手段方法のもたらす弊害防止を目的とする間接的・付随的制約にとどまることを理由として挙げるが,判例の区分については前者が過度に狭く不当であり[15]内容に着目した規制である[16]から,個別訪問の禁止も規制態様の強い直接的な内容制約とみるべきである。また,②関連性審査において,戸別訪問が選挙腐敗の温床となりうることにつき,立法事実に基づく論証がなされているわけではない[17]という問題もある。[18]

 そこで,やはり,中間審査基準によるか,立法の判断過程を慎重に審査すべきである。

(6)個別的・具体的検討[19]

 中間審査基準による場合,選挙の公正確保という規制目的重要であるとしても[20],手段が実質的関連性を欠くものといえないか。

 この点につき,法案を合憲とする立場から,法案9条1項1号が虚偽表現であることの明白性を,同項2号が選挙の公正が著しく害されるおそれがあることの明白性をそれぞれ要求しており,特定虚偽表現の規制が限定的であるため,実質的関連性がある旨主張されることが予想される。

 しかし,SNS事業者やその関係者が,刑罰,特に両罰規定(27条)をおそれるあまり,また経費を節約するためにも,法案9条1項1号・2号についての厳密な判断を放棄し,特定虚偽表現ではない内容の投稿まで安易に削除するようになる蓋然性が高い[21]。そこで,SNS事業者のより慎重な判断を促すべく,これらの要件に加え,少なくとも苦情の件数が一定数(例えば100件以上)ある要件が規定されるべきであるから,法案9条は規制の相当性を欠くものといえる。また,下記イの事情からそもそも十分な立法事実があるとはいえない。ゆえに,目的と手段との実質的関連性があるとはいえない

 ①立法の判断過程を慎重に審査して立法裁量を統制する判断枠組みによるとしても,乙県の知事選挙の1件の事象のみ,しかも選挙の公正が害されたのではないかと「議論が生じた」にとどまることを考慮ないし重視しているといえ,立法過程に他事考慮ないし事実の過大評価がみられる。また,②かかる1件や他の県の選挙につき,虚偽のニュースと候補者落選との因果関係等につき詳細な検証がされたという事情もみられないことから,考慮不尽があるといえる。さらに,③個別訪問の場合のように,買収・利害誘導等の不正行為の温床となること,選挙人の生活の平穏を害すること,候補者の出費が多額となることなどの弊害は,本法案では生じないか,その程度が低いといえるため,これらの事情も考慮されるべきである(考慮不尽)。

 したがって,立法の判断過程は不合理であり,その結果,法案9条等は社会通念上著しく妥当性を欠くものというべきである。[22]

(7)以上より,法案9条等は,SNS利用者の選挙運動の自由を侵害し,違憲である。

3 SNS事業者の自由

(次回以降のブログで答案例を示す予定である。)

 

 

 

**************

 

 

 

「今 僕のいる場所が 探してたのと違っても

 

 間違いじゃない いつも答えは一つじゃない」[23]

 

 

 

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[1] Mr.Children(作詞 桜井和寿)「Any」(2002年)。

[2] 本秀紀編『憲法講義第2版』(日本評論社,2018年)ⅰ頁「第2版へのはしがき」〔本秀紀〕。下線引用者。

[3] (1)の部分は,冒頭部分(書き出し)である。この冒頭部分の答案の枠組みについては,2017年10月9日のブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」や,2017年10月20日のブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その5 出題趣旨から探究する『答案枠組み』」を参照されたい。

[4] 曽我部真裕「判例の流れ 参政権(1) 選挙権・選挙運動規制」淺野博宣ほか著,憲法判例研究会編『判例ラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」と略す。)317~318頁(318頁)参照。同318頁は,「選挙運動や政治活動に対する規制について…これらの活動の自由は表現の自由(21)に含まれると考えられる。周知のように,二重の基準論の有力な根拠の1つとして,表現の自由は民主政の運営を支える基礎的な基本権であるというものがあるが,議会制民主主義において議員の選挙は,民主政の運営における重要な契機であり,上記のような議論からは,選挙運動や政治活動の自由はもっとも手厚く保障されなければならないということになりそうである。」とする。

[5] 木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)(以下「木村・LIVE本」という。)159頁(平成20年新司法試験論文憲法につき検討している章の頁)は,「大きく論じる必要はありませんが,表現の自由の保護範囲には,情報が受け手に届くことまでが含まれることを,意識的に論じましょう。」(下線引用者)とする。

[6] 木村・LIVE本159頁は,情報が削除されるわけではなく,一定の手続を踏まなければ閲覧できなくするフィルタリングソフトの事案(平成20年新司法試験論文憲法・出題趣旨第2段落参照)についての解説ではあるが,「フィルタリングによりホームページを閲覧できなくするわけですから,受け手に情報が届かなくなってしまいます制約は問題なく認定できるでしょう。」(下線引用者)とする。

[7] 芦部信喜高橋和之補訂『憲法 第七版』(岩波書店,2019年)(以下「芦部・憲法」という。)180頁。

[8] 曽我部真裕「判批」(個別訪問の禁止を合憲とした最大判昭和56年7月21日解説)判プラ326~327頁(327頁)参照。

[9] ちなみに,主要8か国(G8…日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・カナダ・イタリア・フランス・ロシア)で個別訪問の規制についての規定があるのは,日本だけである(安念潤司ほか編著『憲法を学ぶための基礎知識 論点 日本国憲法[第二版]』(東京法令出版,2014年)174頁〔青井未帆〕)。

[10] 曽我部真裕「判批」(最大判昭和56年7月21日解説)判プラ326~327頁(326頁)参照。

[11] 曽我部真裕「インターネット選挙運動の解禁―初の実践例を経て見えてきたもの」法学セミナー708号(2014年)8頁(12頁)参照。

[12] 芦部・憲法221頁,渋谷秀樹=赤坂正浩『憲法1人権〔第7版〕』(有斐閣,2019年)217頁〔渋谷〕,渋谷秀樹=赤坂正浩『憲法2統治〔第7版〕』(有斐閣,2019年)290頁〔赤坂〕等参照。

[13] 曽我部・前掲注(11)12~13頁参照。同13頁は,「選挙の公正の概念は多義的であり、立法者の判断の余地があることは確かであるから、いわゆる判断過程審査のような手法が可能かどうか検討する必要があるだろう。」(下線引用者)としている。

[14] ここは,問題文3頁「設問」第2段落の「判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている。」という点に対応した部分である。

[15] 曽我部真裕「判批」(最大判昭和56年7月21日解説)判プラ326~327頁参照。

[16] 長谷部恭男「教科書の読み方」『続・Interactive 憲法』(有斐閣,2011年)46頁(50頁・4~5行目)参照。

[17] 高橋和之立憲主義日本国憲法 第4版』(有斐閣,2017年)351頁,曽我部真裕「判批」(最大判昭和56年7月21日解説)判プラ326~327頁(327頁)参照。

[18] 判例の間接的・付随的制約論と個別訪問の弊害論に対して,学説は総じて批判的である(横大道聡「判批」(最大判昭和56年7月21日解説)長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2013年)348~349頁(349頁))。

[19] 過去の採点実感の関係コメント(平成23年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)7は,「あしき答案の象徴となってしまっている「当てはめ」という言葉を使うこと自体をやめて,平素から,事案の特性に配慮して権利自由の制約の程度や根拠を綿密に検討することを心掛けて欲しい。」とする。)に照らし,「当てはめ」という語を避けている。また,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)2頁・2(2)ア(「事案の内容に即した個別的・具体的検討」(下線引用者))も参照した。

[20] 立法措置②については,規制目的の重要性につき,スルーするという答案政策を採った。目的の重要性を否定することは難しいと思われるからである。

[21] 鈴木秀美「ドイツのSNS対策法と表現の自由」メディア・コミュニケーション68号(2018年)1頁(4頁)によると,ドイツのSNS対策法のSNS事業者の「報告義務」についてではあるが,同義務につき,「100件以上の苦情を受け付けた」いう限定が付されていることに照らすと,法案9条1項1号・2号の要件とともに,このような苦情件数要件を設けることがLRAとなるものいえる(規制の実効性もある)という立論が成り立つように思われる。

[22] 立法の判断過程を慎重に審査して立法裁量を統制する判断枠組みに関し,「裁量権行使の過程に着目する」審査(裁量過程統制型の審査)について解説した小山剛『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)183~187頁等参照。

[23] Mr.Children・前掲注(1)「Any」。

 

6/2(日)15:15~@麹町 2019司法試験解説会

すでに伊藤建先生がTwitterで告知されていますが、こちらのブログでも告知をさせていただきます。


司法試験受験生・予備試験受験生の皆さま、ぜひお申し込みください。会場でお会いしましょう!


私もパネルディスカッション(憲法行政法)でパネリストを担当させていただきます。試験の新傾向や現実的な対策法・判例の勉強方法についてもコメントできればと考えています。


よろしくお願いいたします。