平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

東京五輪“学徒動員”は憲法・行政法・国際条約の趣旨に反しないか? ――児童酷使の禁止・児童福祉法・児童の権利に関する条約等との関係の検討

「『子どもの権利は大事ですか』と言われて否定する人はそうそういないが、現実には、子どものためを思う大人が、子どもを危険にさらしている。一つ一つの行動をとらえて、『これは危険です』と具体的に指摘していくしかないだろう。」[1]

 

 

 

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衝撃のニュースであった。

 

 

1 「感染」もとい「観戦」イベントに子どもを誘導する計画

 

小中学生ら81万人を「動員」、拒否で欠席扱いは本当?東京五輪の観戦計画、東京都教委に聞いた(ハフポスト日本版編集部、2021年4月30日)

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_608b5a98e4b05af50dc17c9e

 

 

この記事には、都教委は「校長が判断」とした上で、「子どもたちに不利益にならないような方向で対応してほしい」と呼びかけている、とある。

 

しかし、校長は都教委(や政府・東京五輪組織委)の意向を忖度し、広く子どもを動員するよう呼びかけるだろう。

 

そうすると、親も、子どもも、“みんな”が行くのだろうから、“友達”が行くのだから、自分も(自分の子どもも)参加しよう(参加させよう)という判断し、その結果、多くの子どもが「感染」イベントもとい「観戦」イベントに参加する(させる)ことになってしまうことは、(特に同調圧力の強い国家であればそれは)殆ど明白といえる。

 

以下、このような自治体の行政作用(実質的な政府や組織委と一体的な行為)につき、憲法記念日において、憲法行政法・条約上問題がないかごく簡単に検討してみることとする。

 

 

2 憲法との関係 ~憲法27条3項(児童酷使の禁止)~

 

ところで、日本国憲法第27条3項は、「児童は、これを酷使してはならない」と規定する。

 

憲法27条3項は、同条2項(賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める)の労働条件の中に当然含まれるものと解されるが、それでも3項に特に明示したのは、児童保護の重要性、児童酷使が猖獗を極めた歴史的経緯、そしてそのような経験が労働保護法制の展開を促す契機になったこと、等の理由に基づくものである[2]

 

上記観戦イベントへの子どもの参加は、憲法27条3項の趣旨に反しないだろうか。

 

形式的にみると労働そのものではないとはいえるのかもしれない。しかし、実質的には、政府が推奨する観戦イベントを「成功」させるための要員として重要な役割を演じることとなる役目を担う者であるから、少なくとも、同項おい予備同条2項の趣旨が妥当するというべきではないかと思われる。

 

そして、未来のある児童保護の重要性児童酷使が猖獗を極めた歴史的経緯に照らすと、移動中や観戦中に感染する危険の蓋然性がある、あるいはそのリスクがあるイベントに、小学生5~6年生や中学生などの生徒を参加させる(参加を促す)ことは、上記のことから、憲法上、問題であると言わなければならないだろう。

特に、感染力が非常に強いとされている(3密ではなくても1密・2密でも感染する危険性・リスクが指摘されている)新型コロナウイルスの「変異株」が増えている東京では(すでに全国的に増えているのかもしれないが)においては、上記危険ないしリスクは非常に大きいものといえよう。しかも、人が移動する数が「81万人」ということである。

 

ちなみに、同条2項・3項に関し、労働基準法(抜粋、下線引用者)は以下のように規定するところ、労働基準法の関係規定に照らしても、実質的には、危険な労働をさせることに近いことさせることとなるリスクがあるといえるのであるから、労働基準法あるいは同法の関係規定の趣旨との関係でも問題があるように感じる。

 

 

(最低年齢)

第56条 使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。

2 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満13歳に満たない児童についても、同様とする。

 

(危険有害業務の就業制限)

第62条 使用者は、満18才に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。

2 使用者は、満18才に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない

3 前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。

 

(坑内労働の禁止)

第63条 使用者は、満18才に満たない者を坑内で労働させてはならない。

 

 

なお、国民・市民の生命や健康の権利(憲法13条参照)との関係につき、基本権保護義務を肯定する見解(有力説とみられる。)に立つのであれば、同義務との関係についても検討すべき問題となろう。

 

 

3 行政法との関係 ~児童福祉法

 

次に、行政法との関係である。

行政法という名称の法典名は日本ではないので、具体的な個別行政法を示すと、それは、児童福祉法である。

 

児童福祉法2条1項は「児童の年齢及び発達の程度に応じて」児童の「最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」と規定する(後掲、他の関係しそうな規定を含め抜粋)。

 

前記のような感染の大きな危険・リスクや、自分自身が感染した場合(副作用もあると報道されていることは周知の事実である)や大切な家族・親族に感染させてしまった場合(特に高齢者は死亡する危険性が高い)のことを考えると、児童の「心身」を大きく害してしまうことにならないか。

 

例えば、自分の両親や祖父母が、観戦イベントに参加した子ども自身が感染したことによって、家庭内等でさらに感染し、死亡してしまったような場合、子どもの「心身」はどうなってしまうだろうか。

心身が「大きく害される」などという軽い言葉では表現することすら不可能であるくらいの事態が発生することになるのである。児童自身も身体的に健康を害することになる可能性がある上、心理的にも児童に甚大な悪影響を生じさせる状態にさせる可能性もある。

 

このような死亡事例が出たとき、自治体や政府、東京五輪組織委員会は、果たしてその責任がとれるのだろうか。言うまでもなく、とれるわけがないのである。もっとも、因果関係がない、などと述べる周到な用意だけは準備万端なのであろうが(政府や自治体には、コロナに対応する万全な準備を先手先手でしていただきたいところだが…)

 

以上のように、児童を五輪観戦イベントに参加するよう動員をかけることは、児童の「最善の利益」(同項)になるわけがないものように思われてならない。

 

 

第一章 総則

第1条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

 

第2条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

2 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。

3 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

 

第3条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 

第一節 国及び地方公共団体の責務

第3条の2 国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければならない。ただし、児童及びその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案し、児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあつては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう、児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあつては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければならない。

 

第3条の3 市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、児童が心身ともに健やかに育成されるよう、基礎的な地方公共団体として、第十条第一項各号に掲げる業務の実施、障害児通所給付費の支給、第24条第1項の規定による保育の実施その他この法律に基づく児童の身近な場所における児童の福祉に関する支援に係る業務を適切に行わなければならない。

2 都道府県は、市町村の行うこの法律に基づく児童の福祉に関する業務が適正かつ円滑に行われるよう、市町村に対する必要な助言及び適切な援助を行うとともに、児童が心身ともに健やかに育成されるよう、専門的な知識及び技術並びに各市町村の区域を超えた広域的な対応が必要な業務として、第11条第1項各号に掲げる業務の実施、小児慢性特定疾病医療費の支給、障害児入所給付費の支給、第27条第1項第3号の規定による委託又は入所の措置その他この法律に基づく児童の福祉に関する業務を適切に行わなければならない。

3 国は、市町村及び都道府県の行うこの法律に基づく児童の福祉に関する業務が適正かつ円滑に行われるよう、児童が適切に養育される体制の確保に関する施策、市町村及び都道府県に対する助言及び情報の提供その他の必要な各般の措置を講じなければならない。

 

第二節 定義

第4条 この法律で、児童とは、満18歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。

一 乳児満1歳に満たない者

二 幼児満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者

三 少年小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者

 

2 この法律で、障害児とは、身体に障害のある児童、知的障害のある児童、精神に障害のある児童(発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七号)第二条第二項に規定する発達障害児を含む。)又は治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であつて障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第四条第一項の政令で定めるものによる障害の程度が同項の厚生労働大臣が定める程度である児童をいう。

 

 

 

4 国際条約との関係 ~児童の権利に関する条約

 

さらに、児童の権利に関する条約(日本は1994年批准、後掲・抜粋)との関係でも問題があるだろう。

 

同条約24条は、締結国は(日本も)「到達可能な最高水準の健康を享受すること」についての「児童の権利を認める」としており(同条1)、この権利の「完全な実現を追求する」ものとし、特に「予防的な保護」に関するサービスを発展させることなどのための「適当な措置」をとる、とされている(同条2(f))。

 

自治体や政府は、上記のような措置をとるべき(あるいはその趣旨に沿う行政活動をすべき)と解されることから、同条約との関係でも、変異種感染イベントもとい五輪観戦イベントへの動員(同イベントへの誘導)をすることは許されないというべきであろう。

 

移動・観戦の場に児童を近づけないことこそが「予防的」な措置というべきであり、「到達可能な最高水準の健康を享受すること」についての児童の権利の「完全な実現を追求する」行政作用というほかないだろう。

 

 

 

第24条 締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。

2 締約国は、1の権利の完全な実現を追求するものとし、特に、次のことのための適当な措置をとる。

(a) 幼児及び児童の死亡率を低下させること。

(b) 基礎的な保健の発展に重点を置いて必要な医療及び保健をすべての児童に提供することを確保すること。

(c) 環境汚染の危険を考慮に入れて、基礎的な保健の枠組みの範囲内で行われることを含めて、特に容易に利用可能な技術の適用により並びに十分に栄養のある食物及び清潔な飲料水の供給を通じて、疾病及び栄養不良と闘うこと。

(d) 母親のための産前産後の適当な保健を確保すること。

(e) 社会のすべての構成員特に父母及び児童が、児童の健康及び栄養、母乳による育児の利点、衛生(環境衛生を含む。)並びに事故の防止についての基礎的な知識に関して、情報を提供され、教育を受ける機会を有し及びその知識の使用について支援されることを確保すること。

(f) 予防的な保健、父母のための指導並びに家族計画に関する教育及びサービスを発展させること。

 

 

  

5 子どもの「最善の利益」のための議論を

 

本ブログは、各項目についての詳細な検討は行っていないが、コロナ禍における憲法記念日において「児童」が「酷使」されそうになっているのではないかという危惧感から、東京五輪“学徒動員”のニュース憲法行政法・条約すなわち憲法27条3項(児童酷使の禁止の規定)、児童福祉法児童の権利に関する条約の関係規定との関係について、問題提起を行ったものである。

 

本ブログで挙げた規定以外にも関係する規定があるかもしれないが、いずれにせよ、<自治体や政府が「子どもに手を出す」政策・計画を着々と遂行しようとしていることが憲法行政法・国際条約との関係で大きな問題があるのではないか?>という論点の検討、国民的・市民的議論が、今、児童・子どもの「最善の利益」のために必要であるように感じているのである。

 

 

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「子どものため」と言いながら、大人にとっての「管理の都合」ばかりが優先されているのではないか、と感じてしまう場面が多々あるのです。[3]

 

 

 

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[1] 木村草太「子どもの権利を考える——現場の声と法制度をつなぐために」木村草太編『子どもの人権をまもるために』(晶文社、2018年)336頁。

[2] 長谷部恭男編『注釈日本国憲法(3)』(有斐閣、令和2年)59頁〔駒村圭吾〕。

[3] 木村草太「はじめに」木村・前掲注(1)『子どもの人権をまもるために』5頁。

 

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです)表現は,あくまで私個人の意見,感想等を私的に述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。

 

札幌地判令和3年3月17日の感想(憲法・行政法の観点から)――「国民感情」vs「国民感情」の調整と、司法の本質

「三権のうち立法権と行政権は多数決原理が支配していますから、この二権しかなければ少数者は負けっぱなしです。そこで、そうした多数決の『暴力』から少数者の権利や自由を守るのが司法の役割・司法の本質といわれるものです」[1]

 

 

 

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1 はじめに

 

本日のことである。

 

札幌地判令和3年3月17日(平成31年(ワ)第267号 損害賠償請求事件)(以下「本判決」という。)は、同性愛者と異性愛[2]との間で、その性的指向と合致する者との間で婚姻することができるか否かという区別が生じる結果となっていることにつき、憲法14条1項に違反すると明確に判示した。

 

本判決の判決文は、公共訴訟のプラットフォームである、Call4(コールフォー)の以下のサイトでアップされている。

 

CALL4 

 

 

本判決では、民法及び戸籍法の関連規定の憲法違反が争われた。

 

民法739条1項は、婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによってその効力を生ずるとし、同法74条1号は、婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏を届け出なければならない旨規定するなど、婚姻制度を定める民法及び戸籍法の諸規定が全体として異性間の婚姻(異性婚)のみを認めることとし,同性間の婚姻(同性婚)を認める規定を設けておらず,これら民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定(以下、総称して「本件規定」という。)は、婚姻は、異性間でなければすることができない旨規定している(本判決2頁参照)。

 

本判決の争点は、本件規定すなわち①憲法13条違反、②憲法24条(1項・2項)違反、③憲法14条1項違反、そして、④本件規定を改廃しないこと(立法不作為)が国家賠償法(以下「国賠法」ということがある。)1条1項の適用上違法であるか、などである(本判決2~3頁参照)。

 

本判決は、①憲法13条違反、②憲法24条(1項・2項)違反は認められない旨判断した(本判決16~19頁)が、憲法14条1項には違反すると判断した(本判決19~32頁)。

 

そこで、このブログでは、(①や②に係る判示も重要であるし、③の判断と密接に関わることから、本来は①・②の検討が必須ではあるが)より筆者が関心のある③(憲法14条1項違反)の点について感想を述べたい。ちなみに③は、直接には憲法学の話ではあるが、本判決が判示した裁量統制論考慮事項論行政法学における議論とも密接に関わるものと考えられ、裁量統制論や考慮事項論は筆者が最も関心を有している事柄である[3]

 

なお、④の点(本件規定に係る立法不作為は「違法」(国家賠償法1条1項)とは言えないとした判示)についても、(憲法学だけではなく)行政法学の論点に関する判断であり、本ブログ筆者も国賠法1条1項の「違法」について多少勉強したことがある[4]ので関心がないわけではない。とはいえ、特に目新しい判断をしているわけではないようにみられることから、やはり③の点に関する感想を述べるにとどめたい。

 

 

2 本件規定が憲法14条1項に違反するか否か、という争点について

 

(1)本判決の判断

 

まず、本判決は「憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきである」(本判決19頁)と判示し、有名な尊属殺違憲判決[5]等の先例を引用する(同頁)。

 

次いで、本判決は、(ⅰ)婚姻及び家族に関する事項は総合的な判断を行うことにより定められるべきこと、(ⅱ)憲法24条2項は婚姻及び家族に関する事項につき国会の合理的な立法裁量に委ねたものであること、(ⅲ)憲法24条及び憲法13条は同性間の婚姻の自由や同性婚に係る具体的制度構築を求める権利を保障するものではないと解されることに照らし[6]立法府には「同性間の婚姻及び家族に関する事項」を定めるにつき「広範な立法裁量」があると解する、としている(同頁)。

 

さらに、同性愛が現在においては「精神疾患とはみなされておらず」、「人がその意思で決定するものではな」いこと等々、諸事情に言及した上で(本判決19~30頁)、以下のとおり、最終的に、諸事情を「総合」して本件区別取扱いの「合理的根拠の有無」を検討している(本判決30~32頁)。

 

筆者としては、本判決30~32頁の判示に特に強い関心を持ったことから、その部分を次のとおり引用する(以下引用、下線や〔①〕、~〔③〕は引用者)。

 

(4) 上記(3)で掲げた諸事情を総合して,本件区別取扱いの合理的根拠の有無について検討する。

上記(3)アで説示したとおり,本件区別取扱いは,人の意思によって選択・変更できない事柄である性的指向に基づく区別取扱いであるから,これが合理的根拠を有するといえるかについては,慎重な検討を要するところ,同イで説示したとおり,婚姻によって生じる法的効果を享受することは法的利益であって,同性愛者であっても異性愛者であっても,等しく享受し得る利益と解すべきであり,本件区別取扱いは,そのような性質の利益についての区別取扱いである。この点につき,本件区別取扱いは本件規定から導かれる結果であるところ, 同ウ,エで説示したとおり,本件規定の目的そのものは正当であるが,昭和22年民法改正当時は正しいと考えられていた同性愛を精神疾患として禁圧すべきものとする知見は,平成4年頃には完全に否定されたことに照らせば,同性婚について定めていない本件規定や憲法24条の存在が同性愛者のカップルに対する一切の法的保護を否定する理由となるものではない。そうであるにもかかわらず,本件規定により,同性愛者と異性愛者との間でその性的指向と合致する者との間で婚姻することができるか否かという区別が生じる結果となってしまっている。

もっとも,同性間の婚姻や家族に関する制度は,その内容が一義的ではなく,同性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度と全く同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)こと,憲法から同性婚という具体的制度を解釈によって導き出すことはできないことは,前記2(3)で説示したとおりであり,立法府の裁量判断を待たなければならない。そして,我が国には,同性婚に対する否定的な意見や価値観を有する国民が少なからずおり,また,明治民法以来,婚姻とは社会の風俗や社会通念によって定義されてきたものであって,婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものであること(前記2(1))からすれば,立法府が,同性間の婚姻や家族に関する事項を定めるについて有する広範な立法裁量の中で上記のような事情を考慮し,本件規定を同性間にも適用するには至らないのであれば,そのことが直ちに合理的根拠を欠くものと解することはできない。

しかしながら,上記説示したとおり,異性愛者と同性愛者の違いは,人の意思によって選択・変更し得ない性的指向の差異でしかなく,いかなる性的指向を有する者であっても,享有し得る法的利益に差異はないといわなければならない。そうであるにもかかわらず,本件規定の下にあっては,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段が提供されていないのである。そして,上記(3)オ~キで論じたとおり,本件区別取扱いの合理性を検討するに当たって,〔①〕我が国においては,同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な国民が増加し,同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まりつつあり,〔②〕諸外国においても性的指向による区別取扱いを解消する要請が高まっている状況があること考慮すべき事情である一方,〔③〕同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に勘酌すべきものというべきである。

以上のことからすれば,本件規定が,異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず, 同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても,その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。

 したがって,本件規定は,上記の限度で憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である。

 

(以上、引用終わり)

 

         

(2)若干の感想

 

上記判示に関し、まず、憲法14条1項が「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである」と述べた点(合理的根拠・合理性の有無で審査するという上位ルール)は、伝統的な判例の立場である[7]

 

また、本判決は、上記合理的根拠(合理性)の有無をどのように審査するか(上記上位ルールに係る下位ルール)につき、主に、最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁(国籍法違憲判決)を念頭におきながら、憲法14条1項違反の判断枠組みを定立したものと考えられる。

 

すなわち、国籍法違憲判決は、(A)「自らの意思や努力によって変えることのできない」事柄についての別異取扱いがなされていること、(B)日本国籍が法的に「重要な法的地位」であることから、(C)「このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である」とする。

 

本判決も、(A)本件区別取扱いは「人の意思によって選択・変更できない事柄である性的指向に基づく区別取扱いである」とし、また、(B)「婚姻によって生じる法的効果を享受することは法的利益」であると述べており[8]、そして、憲法14条1項違反の審査の枠組みにつき、(C)「合理的根拠を有するといえるかについては,慎重な検討を要する」と判示している[9]

 

このように、本判決は、「慎重な」を要する旨述べる一方で、形式的にみる限り、国籍法違憲判決や同判決が引用する尊属殺違憲判決(最大判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁)等が採ったような目的手段審査(「立法目的の審査と目的達成手段の審査に分けて検討」[10]する審査方法)を採っていない。これらの先例(判例)を引用したにもかかわらず、である。

 

本判決が採った合理性(上位ルール)判定のための下位ルールは、目的手段審査という審査基準ではなく、「総合」判断の枠組み(総合判断方式)である。

 

とはいえ、本判決は、この総合判断方式の審査を行うに際して、同審査の中に目的手段審査の手法と判断過程審査(判断過程統制)の手法[11]とを取り込んだのではないかと思われる。すなわち、本判決は、合理性の有無を総合判断方式で審査すべきとし、その上で、その総合判断に際して目的の点と手段の点を考慮事項としつつ、目的・手段の点だけでは判断することが不適当であることから、その他の考慮事項をさらに考慮すべきであるとし、これらを総合的に考慮して合理性の有無を判断すべきとしたものと解される。

 

それではなぜ、本判決は、目的手段審査によることを明確に示さず、また、はっきりとは判断過程審査を行うことを示さなかった[12]のだろうか。

 

おそらく、本判決は、立法府に「広範な立法裁量」があることを前提とする審査をするもの(結局、裁量権逸脱がある旨判示)であるのに対し、国籍法違憲判決は、立法府の「裁量権を考慮」するとは述べるものの「広範な」裁量があるとまでは述べていないことなどが影響したのではないかと思われる。

 

以上のことから、本判決は、〔1〕目的、〔2〕手段という考慮事項に加えて、〔3〕その他の考慮事項(要考慮(重視)事項として、①我が国で,同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な国民が増加していること(増加しているか否か)・同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まりつつあること(高まりつつあるか否か)、②諸外国において性的指向による区別取扱いを解消する要請が高まっている状況があること(あるか否か)、重視禁止事項として、③同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいること(いるか否か))を総合的に考慮して、合理性の有無を判断すべきという判断枠組みによったものと考えられる。

 

ちなみに、個人的に本判決の最大のポイントと思う点は、〔3〕の考慮事項につき、本判決が明確に「重み付け」すなわち、考慮事項の「価値の加重・軽減」[13]を行った点である。憲法の関係規定の趣旨や同性愛者の被る不利益等に照らし、①と②を要考慮(重視)事項であるとし、③を考慮(重視)禁止事項だとしたのである。この「重み付け」審査により、「広範な裁量」判断の及ぶ事項であるにもかかわらず、審査密度の高い審査を行うことが可能となっているのである[14]

 

そして、以上の判断枠組みのあてはめとして、〔1〕本件規定の目的は正当であること、しかし、〔2〕目的と手段(同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること、いわば100対0、オールオアナッシングという別異取扱いであること)との間には関連性がない(合理的関連性すらない)こと、〔3〕その他の要考慮(重視)事項として、①我が国で、同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な国民が増加しており、同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まりつつあること、②諸外国において性的指向による区別取扱いを解消する要請が高まっている状況があることを挙げ、他方で、③同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは重視禁止事項であるというべきことに言及し、これら〔1〕~〔3〕(〔3〕については①~③)を総合考慮し、合理性(合理的根拠)を欠くとして憲法14条1項に違反すると判断したものと思われる。

 

 

3 「国民感情」vs「国民感情」の合理的調整 / 司法(裁判所)の役割

 

本判決については、日本において「同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な」国民感情があり、それが増加傾向にあることや、「同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請」をする「国民感情」が高まりつつあることを、それぞれ要考慮(重視)事項とした、とみることも可能ではなかろうかと思われる。

 

他方で、本判決は、「同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民」の「国民感情」について、一切考慮しないこととするわけではなく、限定的とはいえ、斟酌(一定程度は考慮)することができるとしていると考えられる。

 

このように、総合判断方式おいて、異なるベクトルの国民感情」αと「国民感情」βが衝突する場合、どのように合理的な調整を図るかという大きな問題が本判決には含まれているとみることもできるだろう。

 

本判決は、同性愛は精神疾患ではないという科学的、医学的知見が確立され(本判決24頁)、また、同性愛が精神疾患であることを前提として同性婚を否定した科学的、医学的根拠が失われたことに言及する(同頁)ところ、筆者としては、次のように考えている。

 

上記「国民感情」の調整問題については、憲法や他の法令の関係規定の趣旨に加え、その趣旨と密接に関わる専門(科学、医学等々)的・客観的な知見に適合する国民感情については、要考慮(重視)事項とし、他方で、そのような知見には適合しない(あるいは反する)単に主観的ないし独善的な国民感情、考慮禁止事項とするか、少なくとも重視禁止事項とすべきと考えるべきである。

 

そして、そのような考慮事項の重み付けに際しては、国民の「数」の多さは基本的には考慮あるいは重視すべきではない

 

なぜなら、「少数グループに属する人々は多数決原理の民主政の過程に代表を送り出して、その意思を立法等に反映させることが困難」であり、これらの人々を憲法に照らして救済をすることが「裁判所の責務」であり、「裁判所が担っている役割」[15]だからである。

 

 

 

**************

 

 

 

近年、他の分野でも、憲法や法令に適合しない、あるいは非科学的な「国民感情」・「社会通念」・「公益」なるものを考慮(重視)する行政判断が相次いでなされている。

 

映画『宮本から君へ』助成金不交付決定訴訟では、被告側が、当該映画を見てもいない「国民」の意見を含む「感情」的なアンケートを、被告のいう「公益」を基礎づけるものとして、裁判所に平然と提出した。映画の文化芸術表現の価値を無視したものというほかない。

 

(関連記事)

 「宮本から君へ」制作会社が芸文振提訴へ 助成金不交付:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

 

また、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展の1つである「表現の不自由展・その後」でも、関係の芸術作品に対する専門的知見を無視・軽視する非科学的な「国民感情」を、あろうことか政治家が連日煽り、美術館にガソリンをまいて放火することをほのめかす内容の書面が匿名でFAX送信されるという事件まで発生してしまった(この事件の被告人は、業務妨害を行ったとして、懲役1年6月(執行猶予3年)に処された(名古屋地判令和元・11・14LEX/DB文献番号25570711))。

 

(関連記事)

 「不自由展」妨害、有罪判決 | Reuters

 

 

さらに、第1回口頭弁論期日が本年4月15日に開かれる予定の、性風俗事業者への持続化給付金及び家賃支援給付金の交付を求める訴訟(セックスワークisワーク訴訟)に関していうと、政府は、「性風俗関連特殊営業は風営法で極めて厳しい規制が掛かっており、社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいということから、災害対応も含めてこれまで一貫して公的な金融支援や国の補助制度の対象外としてきたことを踏襲して、持続化給付金でも対象外としている」(下線引用者)という答弁を行っているが、これも、憲法の趣旨に反する、職業差別を助長する国民感情を考慮・重視しているに過ぎないものというべきである。

 

(関連記事)

 給付金除外は「違憲」提訴 性風俗事業者、国と2社に: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 

以上のように、憲法や法令に適合しない、あるいは非科学的な、専門知を無視・軽視する「国民感情」、「社会通念」、「公益」を、政府が考慮(重視)し「利用」することは、許されるべきことではない

 

そんなことは憲法や法令に反し、許されない、と判断するのが司法であり、裁判所でなのである。ここに司法の本質がある。

 

 

「多数派の意に沿わない判決内容であっても、それが司法の役割を果たしたものと一定数の国民が評価し、受け入れるまでになれば、三権分立司法権の独立が、本当の意味でこの国に根づいたということができよう。」[16]

 

 

___________________________________

[1] 岡口基一『裁判官は劣化しているのか』(羽鳥書店、2019年)158頁。

[2] 同性愛者とは、性的指向が同性愛である者をいい(本判決2頁)、異性愛者とは性的指向異性愛である者をいう(本判決1~2頁)。また、性的指向とは、人が情緒的、感情的、性的な意味で、人に対して魅力を感じることであり、このような恋愛・性愛の対象が異性に対して向くことが同性愛、同性に対して向くことが同性愛である(本判決1頁)。

[3] 裁量統制論や考慮事項論に関し、裁判所(・行政不服審査)における「違法」審査と行政不服審査における「不当」審査の基準(行政裁量の統制に係る審査基準)や考慮事項の範囲等に違いが生じうる旨論じた拙稿として、①平裕介「行政不服審査活用のための『不当』性の基準」公法研究78号(2016年)239頁、②平裕介「行政不服審査における不当裁決の類型と不当性審査基準」行政法研究28号(2019年)167頁等。また、これらと関連する小論として、③平裕介「新行審法と市民の権利救済―『不当』性審査充実のための方策」自治実務セミナー693号(2020年)17~18頁等。

[4] 国家賠償法1条1項の「違法」あるいは国家賠償制度について論じた関連する拙稿として、平裕介「君が代起立斉唱命令違反を理由とする教員に対する懲戒停職処分の裁量統制」(東京高判平成27年5月28日解説)自治研究(2017年)93巻6号123頁、平裕介「あいちトリエンナーレ2019と争訟手段」法学セミナー786号(2020年)41-47頁等。

[5] 最大判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁。

[6] なお、この点に関し、本判決18頁は、憲法「24条は同性婚について触れるところがないものと解することができる」とし、同条は「異性婚について定めたものであり,同性婚について定めるものではないと解するのが相当である」としているが、あくまで、異性婚につき規定した同条が同性婚につき言及していないだけのことであって、同条が同性婚を禁止したものではない旨判示したものと考えられる

[7] 安西文雄=巻美矢紀=宍戸常寿『憲法学読本 第3版』(有斐閣、2018年)109頁〔安西文雄〕。

[8] 「法的地位」と「法的利益」は異なる概念とは思われるものの、法的地位も、一定の法的利益に関わるといえるだろうから、共通項があり、同様に法的に保護されるべきものと解されよう。

[9] なお、本判決22頁は、「真にやむを得ない区別取扱いであるか否かの観点から慎重になされなければならない」と判示するが、これは厳格審査基準すなわち「やむにやまれる利益のために必要不可欠の手段であること」を必要とする審査基準(安西ほか・前掲注(7)109頁〔安西文雄〕参照)の「やむにやまれる利益」目的を意味するものではないだろうと思われる(その理由は、厳格審査基準における「必要不可欠の手段」という語は用いていないことなどである)。おそらく「慎重に」審査すべきということを「真にやむを得ない区別取扱い」という語に言い換えたものではなかろうか(そうすると、あえて「真にやむを得ない区別取扱い」とまで述べる必要はなかったようにも思えるが)。

[10] 安西ほか・前掲注(7)107頁〔安西文雄〕参照。

[11] 判断過程審査については、(行政裁量の統制の領域の話を援用するが、)裁判所が審査すべきと考える考慮事項(要考慮事項、非要考慮事項(考慮禁止事項)等)を具体的に挙げる場合がその典型的な例であると一般に解されている(小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法2』(第一法規、2017年)477頁〔友岡史仁〕等参照)。

[12] 本判決は、最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁(老齢加算廃止事件判決)のように「判断の過程」を審査する旨明記することはしていない。なお、行政裁量の統制につき、判断過程審査と社会観念(通念)審査とを接合させる裁量審査を行った判例として、最三小判平成18年2月7日民集60巻2号401頁(呉市職員組合事件判決)がある(小早川=青柳・前掲注(11)479頁以下〔友岡史仁〕等参照)。同判決は「判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し」などと判示しているのに対し、本判決は、このような判断過程審査のキーフレーズを明言してはいない。

[13] 考慮事項の「重み付け」に関し、常岡孝好「裁量権行使に係る行政手続の意義――総合過程論的考察」磯部力=小早川光郎=芝池義一編『行政法の新構想Ⅱ 行政作用・行政手続・行政情報法』(有斐閣、2008年)235頁(248頁)、平・前掲注(3)①論文242頁、同②論文196頁以下等参照。

[14] この点には異論もあると思われるが、筆者としては本判決の判示を支持したい。

[15] 泉徳治=渡辺康行=山元一=新村とわ『一歩前に出る司法 泉徳治元最高裁判事に聞く』(日本評論社、2017年)160頁〔泉徳治〕参照。

[16] 岡口基一最高裁に告ぐ』(岩波書店、2019年)198頁。

成仏 ~令和3年司法試験予備試験 論文 憲法・行政法の予想問題~

「問題の捉え方がそもそも間違っている。食べていけるかどうかを法律家が考えるというのが間違っているのである。何のために法律家を志したのか。(中略)飢え死にさえしなければ,人間,まずはそれでよいのではないか。その上で、人々から感謝されることがあるのであれば,人間,喜んで成仏できるというものであろう。」*1

  

 

 

**************

 

 

 

 以下の事例問題は、時代設定を「203×年」とするものであり、あくまで現実世界の話とは関係がない架空のものとして作成したものであるが、専ら、憲法行政法・法曹倫理という法学部や法科大学院ロースクール)における法律科目の学問的関心から作成した問題である。

 

 表現の自由憲法21条1項)の内容規制、行政裁量(要件裁量)の広狭やその統制(裁量権の逸脱濫用、行政事件訴訟法30条)、そして弁護士法の解釈・適用など、特に司法試験や予備試験合格を目指す受験生にとっては検討しておきたい問題の1つであろう。

 

 令和3年司法試験予備試験論文憲法行政法の予想問題として作成してみたが、令和3年度(2021年度)の法科大学院の法曹倫理の科目の試験問題やレポート課題等にもなりうるのではなかろうか。

 

 

 

【問題】

 203×年、Y弁護士会に所属する弁護士X1は、民事訴訟の依頼者Aや同じく刑事訴訟(私選弁護)の依頼者Bがそれぞれ弁護士報酬を支払期限までに一切支払わなかったことから、X1自身の不運が重なったことから悲しい気持ちになり、「あくまで一般論ですが、弁護士報酬を支払わない方は、それが一因となって、やがて『成仏』することになるかもしれません。なぜなら、弁護士が飢え死にして『成仏』することになり、その結果、市民の人権や権利について必要・十分な保護がなされなくなり、ひいては、市民の皆様にとって大変な結果となるからです。直接同業者から聞いた話ですが、ここ数年で、同じ経験をした弁護士が多数います。もはや社会問題の1つです。これは、最近、消費税が25%に上がり、しかも数年前からの新型ペストウィルス(変異株・肆ノ型)が終息しない影響もあって、景気がさらに悪化したからかもしれません。」と、X1自身の考えなどを、いわゆるSNSであるTwitterツイッター)で発言(ツイート)した(以下、このツイートを「本件ツイート①」という。)。

 

 本件ツイート①の数日後、本件ツイート①をTwitter上で閲読した弁護士X2は「弁護士がその依頼者から弁護士報酬を支払ってもらえなかったのは、その弁護士の仕事が『感謝』されなかっただけであって、仕方のないことですよ。むしろ、そういう弁護士は『成仏』すべきでしょう。特に問題はありません。」とTwitterで発言(ツイート)した(以下、このツイートを「本件ツイート②」といい、本件ツイート①及び本件ツイート②を併せて「本件各ツイート」という。)

 

 なお、X1もX2も実名で本件各ツイートをした。

 

 Y弁護士会は、必要な法定の手続をすべて履践し、本件各ツイートがそれぞれ「品位を失うべき非行があつたとき」(弁護士法56条1項)に当たるとして、X1・X2に対し、戒告の懲戒処分をした。

 

 このうち、X1に対する懲戒処分(以下「本件処分①」という。)の理由は、依頼者Aや依頼者Bに対する不安の念を抱かせる言動となりうるものであって慎重さを欠くものであり、弁護士の誠実義務(弁護士法1条2項参照)ないしその趣旨に反することから、本件ツイート①は、一般的条項である「品位を失うべき非行があつたとき」に当たり、戒告処分が相当である、というものあった。

 

 また、X2に対する懲戒処分(以下「本件処分②」という。)の理由は、通常、有償契約として締結される弁護士・依頼者間の委任契約等につき、あたかも無償契約が広く締結されているかのように市民一般に誤解を与えるものであることに加え、法令に精通した法律の専門家(弁護士法2条参照)である弁護士の言動として慎重さを欠くものであり、民法等の現行の法制度を含む「社会秩序」(弁護士法1条2項参照)を否定するともとられかねない情報発信を行うものであって、さらに、公益活動たる法教育に携わることがある弁護士の公的な性格に照らしても許されるべきものではないことから、本件ツイート②は、一般的条項である「品位を失うべき非行があつたとき」に当たり、戒告処分が相当である、というものあった。

 

 本件処分①及び本件処分②は、違憲・違法か。この事例に含まれる憲法上及び行政法上の問題を論じなさい。

 

 

【資料】

〇弁護士法(昭和24年法律第205号)(抜粋)

(弁護士の使命)

第1条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。

2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

 

(弁護士の職責の根本基準)

第2条 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。

 

(懲戒事由及び懲戒権者)

第56条 弁護士及び弁護士法人は、この法律(外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。

3 (略)

 

(懲戒の種類)

第57条 弁護士に対する懲戒は、次の4種とする。

一 戒告

二 2年以内の業務の停止

三 退会命令

四 除名

2~4 (略)

 

 

〇最一小判平成18年9月14日集民221号87頁・裁判所ウェブサイト(抜粋)

(1)弁護士に対する所属弁護士会及び上告人(以下,両者を含む意味で「弁護士会」という。)による懲戒の制度は,弁護士会の自主性や自律性を重んじ,弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられたものである。また,懲戒の可否,程度等の判断においては,懲戒事由の内容,被害の有無や程度,これに対する社会的評価,被処分者に与える影響,弁護士の使命の重要性,職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。したがって,ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,また,該当するとした場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,弁護士会裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法となるというべきである。
(2)弁護士倫理規定(平成2年3月2日日本弁護士連合会臨時総会決議。弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)の施行により平成17年4月1日廃止)は,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うこと(4条),名誉を重んじ,信用を維持するとともに,常に品位を高め教養を深めるように努めること(5条)という基本倫理を掲げた上,依頼者との関係において,良心に従い,依頼者の正当な利益を実現するよう努めなければならないこと(19条),依頼者に対し,事件の経過及びその帰すうに影響を及ぼす事項を必要に応じ報告し,事件の結果を遅滞なく報告しなければならないこと(31条),事件に関する金品の清算及び引渡し並びに預かり品の返還を遅滞なく行わなければならないこと(40条)を宣明している。
 上記の事件処理の報告義務は,委任契約から生ずる基本的義務(民法645条)であり,依頼者に対し適切な自己決定の機会を保障するためにその前提となる判断材料を提供するという趣旨で,事件を受任した弁護士が負うべき重要な義務である。また,金品の引渡し等の義務も,委任契約から生ずる基本的な義務である(民法646条)。そうすると,特に依頼者のために預かった金品に関する報告は重要なものというべきである。さらに,依頼事項に関連して相手方や第三者から金品を預かった場合,そのことを依頼者に報告することも報告義務の内容となるというべきである。
(3)前記事実関係によれば,被上告人は,第2回分割金300万円を平成6年11月30日に受領しながら,その報告をせず,かえって,同年12月13日,Eから最新の情報の報告を求められたにもかかわらず,同月21日及び28日にはいまだ受領していない旨の,また,同7年1月6日には同日小切手で受領した旨の,いずれも事実に反する報告をしたものである。この点に関し,被上告人は,外為法の制約の下で,取扱銀行に不審を抱かれないようにするため,受領の日を偽る意図の下に上記のような報告をした旨主張するが,DにもEにもその意図を説明していない。そして,別文書による報告や電話等による口頭説明を含め,真実の報告をせず,その事情の説明をしなかったことについて,やむを得ない事情があったことはうかかがわれない。
 また,追加金300万円については,被上告人は,これを受け取ったこと,これをHに返還しようとしたこと及び同人から頼まれて預かり保管したことを,依頼者に一切報告していない。追加金300万円が,原審の説示するとおり,依頼の趣旨に反しない要求をして受領したものであるとすれば,本来,その受領の事実を報告した上で,返還をすることについて了承を得るべきであるし,相手方から再度預かるよう求められたときには,そのことを依頼者に報告した上で,慎重な対応をすべきものである。
 そうすると,被上告人の上記各行為は、弁護士倫理規定31条,40条の趣旨に反し,依頼者に不審感を抱かせるに足りるものといわざるを得ず,原審認定に係る経緯や被上告人の主観的意図を考慮したとしてもなお,上記各行為が弁護士法56条1項所定の「品位を失うべき非行」に当たるとし,業務停止3月の懲戒処分を相当とする旨の判断が社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえない。したがって,本件懲戒処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるということはできない。

 

 

 

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「法律家の未来はどうなるであろうか。

 暗い予想もある。すでにアメリカやドイツがそうであるように」*2

 

 

______________

 

*1:高橋宏志「成仏」法学教室307号(2006年)1頁。

*2:高橋・前掲注(1)1頁。

司法試験・予備試験関係のツイート 2021 まとめ(2)

「事例への適用を度外視した憲法学説は、少なくとも解釈学説ではない。……いくら車の設計図を眺めていても、さらにはそれを自分で書けるようになったとしても、車の運転が出来るようになるわけではない。……運転技術に相当する能力の修得が『法律学を学ぶ』ということの意味であり、基本的には自分で試行錯誤を繰り返して『体で憶える』しかないのである。」*1



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前回のブログ(↓↓↓)と同趣旨のブログになります。最近の公法(憲法行政法)関係のツイートのまとめ的な内容です。

yusuketaira.hatenablog.com


特に、司法試験・予備試験受験生の皆様、憲法行政法に関心のある学生の皆様、よろしければご笑覧ください。



1 憲法

(1)厳格審査基準(過小包摂)


(2)適用違憲・処分違憲


(3)プライバシー権


(4-1)平等原則・平等権


(4-2)平等原則・平等権(ポジティブ・アクション、逆差別)


(5)政教分離


(6-1)表現の自由(公正な論評の法理)


(6-2)知る権利


(7)生存権


(8)地方自治の本旨(団体自治



2 行政法

(1)非申請型義務付け訴訟の訴訟要件等


(2)実質的当事者訴訟


(3-1)実体的違法事由(裁量否定の場合)


(3-2)実体的違法事由(裁量肯定の場合)


(4)国家賠償(規制権限不行使)


(5)損失補償(の要否)




【 関連する過去記事です ↓↓↓ 】


yusuketaira.hatenablog.com


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以上、司法試験・予備試験受験生の皆様にとって、1つでもご参考になれば幸いです。

*1:棟居快行『憲法解釈演習 ―人権・統治機構―』(信山社、2004年)はしがき(初版はしがき)

司法試験・予備試験関係のツイート 2021 まとめ(1)

法律学の学習にあたっては,社会と法の密接な関係に注意を払う必要があります。法制度は,静態的な仕組みでは決してないのです。別のいい方をしますと,法律学の学習が進むことにより,社会をいっそうよく理解できるようになります。逆に,社会の変化など,その実態について理解が深まれば深まるほど,法律学に対する関心も高まり,理解が進みます。法律学を学ぶひとつの大きな目標は,社会認識の眼を養うこと,社会認識を深めることにあります。」*1



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昨年(2020年)、司法試験・予備試験関係のツイートのまとめのブログを書きました(後掲)が、本日(2021年)も同趣旨のブログを書いてみた、というか、まとめてみました。受験生の皆様、ご興味があればご確認ください。


1 憲法関係
(1)憲法13条


(2)予防原則


(3)内容中立規制・間接的付随的規制


(4)規制目的



(5)選挙権


(6)私人間効力



2 行政法関係
(1)取消訴訟の処分性


(2)行政裁量(裁量処分)の統制


(3)国家賠償、損失補償



3 答案作成一般、勉強方法
(1)答案の文字の読みやすさについて


(2)自主ゼミのポイント



【 ↓↓↓ 過去記事です。】

yusuketaira.hatenablog.com


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yusuketaira.hatenablog.com



以上2021年の初ブログでした。

大変遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

*1:大橋洋一『法学テキストの読み方』(有斐閣、2020年)97~98頁。

令和2年司法試験予備試験論文憲法の答案における重要判例の活用法

「私は、サービス産業の片隅に身を置く一従業員にすぎないので、『教育はかくあるべし』式の理念・理想の類は持ち合わせておらず、与えられた仕事の範囲内で少しでも顧客満足度を高めることが使命だと心得ているだけである。」[1]

 

 

 

**************

 

 

 

 2020年12月27日(日)19時30分~21時頃まで、弁護士の大島義則先生伊藤建先生と、大島先生の行政法ガールⅡ出版記念・オンラインイベント(2日目)で、令和2年司法試験予備試験論文憲法の問題を検討した。

 

 そこで、出題趣旨公表前ではあるが、以下、検討結果を踏まえた令和2年司法試験予備試験論文憲法の解説をしてみたい。本ブログ筆者が立論者を担当したところ、上記イベントで、大島義則先生・伊藤建先生から有益なコメントを多数いただいた。

 

 これらを以下の解説に十分に活かしきれなかった部分もあるが、これはもとより筆者の力不足が原因であり、文責がすべて筆者にあることは言うまでもない。

 

 

Ⅰ 出題の背景

 

 問題文の1行目に「報道機関による取材活動について」とあるとおり、令和2年(2020年)司法試験予備試験のメインテーマは、報道機関(マス・メディア、マスコミ、プレスともいわれる[2]。)の取材の自由[3]である。事案類型[4]としては、取材の自由を立法によって直接的に規制するタイプのものといえる。

 

 出題の背景として考えられることは、①2019年が裁判員制度の開始から10年の節目の年であり[5]裁判員法における報道・取材の自由の制約の許否は裁判員法施行当初から論点の1つとされていたこと[6]、②2019年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件の被害者の実名報道や「メディア・スクラム」等に関するニュースが比較的大きく報道されていたこと[7]、③令和2年司法試験予備試験考査委員による問題作成に係る会議が2019年の(恐らく)秋頃以降に開催されており、①・②は当時のホットトピックの1つであったこと、④多くの憲法学者が従前より(法案の段階から)特定秘密保護法表現の自由(報道・取材の自由を含む)の規制に関心があったこと[8]、⑤予備試験論文との関係では報道・取材の自由は未出題であり[9]、これらの憲法上の自由に関して学者(研究者)の考査委員が判例解説等を書いていたこと[10]などである。

 

 

Ⅱ 過去問との関係

 

 上記のとおり予備試験では未出題であったが、ボリューム感の近い旧司法試験との関係では、やや古い問題ではあるが、報道・取材の自由との関係で参照しておきたい過去問として(予備試験受験生のみならず法試験受験生も)①平成21年(2009年)旧司法試験論文憲法がある。この問題は、現在の(当時はもちろん異なる)司法試験考査委員である宍戸常寿教授が事実上解説されていることもあり[11]、同問題の出題趣旨及び同解説と合わせて精読を強く勧める。

 

 司法試験(新司法試験)との関係では、博多駅事件博多駅テレビフィルム提出命令事件)[12]を参考判例の1つとして答案を書くべき出題がなされた②平成23年(2011年)司法試験論文憲法[13]、報道・取材の自由と(とも)密接に関わるフェイク・ニュース規制法が出題された③令和元年(2019年)司法試験論文憲法あたりをつぶしていれば、ある程度有利であったように思われる。また、法文の不明確性(漠然故に無効の法理)等の論点との関係では、③に加えて、④平成30年(2018年)司法試験論文憲法、⑤平成20年新司法試験論文あたりが参考になる。

 

 以上のうち、①・②は、令和2年予備試験との関係で、特に参考になろう。なお、取材等中止命令の前提として犯罪被害者等による取材等の「同意」については、同意制について検討が必要とされた平成23年司法試験論文行政法、「周辺住民の過半数の同意」の要件が問題となっていた平成19年新司法試験論文憲法が参考になる。

 

 

Ⅲ 判例を意識した論述の必要性

 

 令和元年(2019年)司法試験予備試験論文憲法の出題趣旨は、「判例としては,剣道受講拒否事件(最高裁判所第二小法廷平成8年3月8日判決,民集50巻3号469頁)を意識することが求められる。もっとも,事案には異なるところが少なくないので,直接参考になるとは限らず,同事件との異同を意識しつつ,事案に即した検討が必要である。」として判例を意識した論述が必要である旨コメントしている。

 

 また、令和元年司法試験の採点実感(公法系科目第1問)2頁第1の3は、「関連する判例への言及は,以前に比べると増えているが,問題はその引用の適切さである。判例の表面的な理解が目に付くことが多く,当該判例を正確に理解し,本問との区別の可能性を検討した上で,自らの見解を基礎付けるために適切に引用しているものはまだ多くない。」(下線引用者)としている。

 

 以上のことなどに加え、もともと現在の法科大学院での指導や司法試験の出発点は、「論証パターン」を吐き出すのが憲法の答案であるという、旧試験時代の「論点主義の解答」を否定することであった[14]ことにも照らすと、本問(令和2年司法試験予備試験論文憲法)でも関連する判例名を明記した論述が望ましいといえる。

 

 では、どの判例をどのように答案に書くべきか。以下、答案例で示してみたい。

 

 

Ⅳ 答案例[15]

 

1 取材の自由の保障及び制約[16]

(1)取材活動を禁止する立法(以下「法」という。)で問題となる報道機関の事実の報道の自由表現の自由憲法(以下法名略)21条1項)に含まれるものと解され(博多駅事件決定)、また、報道機関や記者等の報道関係者の報道のための取材の自由も一定の場合に保障される。すなわち、取材の自由につき、憲法21条の「精神に照らし、十分尊重に値する」とした同決定の趣旨は、完全な保護を享受するものではないが、一定の場合には21条1項による保護が及ぶとする点にあると解される[17]

 さらに、取材目的での接触の自由も、上記取材の自由に必要不可欠な前提あるいは一内容となりうる活動を行う自由であり、報道が正しい内容をもつため[18]、同様に一定の場合には保障されると考える。

(2)また、犯罪被害者等の同意がある場合を除き「取材等」が禁止され、法に基づく取材等中止命令が発出させられたにもかかわらず、同命令に違反し取材等を行った者は処罰されることから、上記取材の自由及び取材目的での接触の自由(以下「取材等の自由」という。)は制約されている。

2 文面審査[19]

(1)漠然故に無効の法理(31条、21条1項)

 取材等の自由の制約に関し、法の定義規定のうち、犯罪「に準じる心身に有害な影響を及ぼす行為」(=「犯罪等」)という文言は、法文として不明確ではないか。

同法理の趣旨は、罪刑法定主義(31条)との関係で①恣意排除、②公正な告知にあるほか、③表現行為(21条1項)に対する萎縮効果[20]の除去にあるところ、本問でも記者及び報道機関の取材行為につき萎縮効果の除去等を図る必要があるため、同法理が妥当しうる[21]

 そこで、「通常の判断能力を有する一般人の理解において」判断可能な「基準が読みとれるか」否かにより、法文の明確性を判断すべきである(徳島市公安条例事件判決[22]参照[23]

 法の上記定義規定については、確かに、「著しく」[24]「殊更に」[25]などの文言による限定はない。しかし、同判決が判断したのと同様に、上記一般人の理解において「殊更に」心身に有害な影響を及ぼす行為であるとの基準が読みとれると考える[26]。また、「犯罪」が法律家の法的評価を含む文言であるため不明確とも思えるが、捜査機関が犯罪被害者等に同意するか否かにつき確認し、報道関係者に回答あるいは公表することとされている仕組みに照らすと、「犯罪等」とは、その被害者や家族・遺族が不同意とする範囲の行為といえることから、上記一般人の理解においても判断可能な基準が読みとれると考える[27]

 よって、法は憲法適合性を欠くものではなく、合憲である。

(2)過度の広汎故に無効の法理(31条[28]、21条1項[29]

 仮に明確な法文であっても、規制対象があまりにも広汎違憲的に適用される可能性があると、規制すべきではない行為を規制対象に含むこととなるため、当該法文は過度の広汎故に無効の法理より違憲となる[30]。本問では、「犯罪」につき法定刑の下限等の限定がないため、同法理が問題となる。

 同法理の趣旨が萎縮効果の除去にあることに照らすと[31]、法解釈により規制対象となるものとそうでないものとが区別され(規定が可分であること)、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制対象となることなど[32]から合憲限定解釈が可能であれば合憲と解される[33]税関検査事件判決[34]参照)。

 法の上記各定義規定との関係では、例えば、痴漢被害の実態を調査する取材につき、(ⅰ)強制わいせつ罪(刑法176条)ではないが、(ⅱ)自治体の迷惑防止条例違反の罪の被害者の家族が取材の相手方となる場合、(ⅰ)と(ⅱ)が可分とはいえず、(ⅱ)のメディア・スクラム発生の蓋然性が殆どないような、本来規制すべきではない取材等を規制対象に含むこととなりうる。ゆえに、報道関係者が取材等を躊躇する場合が増え、その萎縮効果の排除はできない。

 よって、法は過度に広汎な規制であるから、法文全体[35]違憲無効である[36]

3 文面審査以外の法令違憲[37]

(1)判断枠組み(審査基準)

 明確性の基準(文面審査)との関係では違憲ではないとしても、取材等の自由(21条1項)の制限についての実質的正当化事由はあるか。合憲性判断の審査基準等が問題となる。

 前述した博多駅事件決定の「尊重に値する」という判示の趣旨や、取材等中止命令等が取材対象者の私生活の平穏を保護する必要性からなされ、この私生活の平穏人格権の一内容として、すなわち自宅や勤務先で自己の欲しない刺激により「心の平穏を乱されない利益」として13条後段福追求権に含まれるものと解されること(「囚われの聴衆」事件[38])にも照らすと[39]、取材等の自由の保障の程度は、報道の自由と比べて低い[40]といえる。

 しかし、博多駅事件決定のように、テレビフィルム提出命令がなされることにより将来の取材が困難となるような制約態様とは異なり、法の取材等中止命令は、取材行為等そのものを立法によって直接禁止するものであり[41]、かつ、表現内容に着目した規制[42]であるから、制約の程度が強い

 そこで、博多駅事件決定のような具体的な利益衡量(比較衡量)の基準[43]ではなく、より厳格な基準[44]すなわち中間審査基準(①目的重要性及び②手段実質的関連性を要する)によるべきである[45]

(2)具体的検討

 ア 法の犯罪「に準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」につき、著しく、あるいは殊更に有害な影響を及ぼす行為という意味に限定解釈が可能と考えると、単なる抽象的・主観的な不安感ではなく、客観的にみて有害な影響を受けない利益を保護する規制といえること[46]、被害者側には何の落ち度もなく、その私生活の平穏を保護する要請(13条後段参照)が高いことに照らすと、①目的は重要といえる。

 イ また、法は「同意」がない場合であることを前提に取材等中止命令が発出された段階で初めて違反行為を処罰する段階的な規制[47]であり、同命令の「解除」や、報道関係者に対する適正な手続の履践も法定されていることから、自主規制等の他の手段では目的を達成できないようにもみえる。

 しかし、前記2(2)のとおり、法定刑の下限等の限定がないなど規制の範囲が広いことから、メディア・スクラムが生じる客観的蓋然性がないような場合も取材等中止命令の対象としうるものであるから、そのような場合の規制については立法事実を欠く(規制目的と手段との関連性がない)ものといえる。

 さらに、同意は制限のない拒否権を犯罪被害者等に付与する面があることから客観的な基準とはいえないこと、原則禁止・例外許容という規制の仕組みが採られていること[48]、さらに、加害者が公務員等の場合など政府に不都合な犯罪等の場合において捜査機関側から犯罪被害者等に不同意の働きかけがなされる危険がある規制内容であること[49]にも照らすと、報道関係者にとって著しく負担の大きい規制内容といえる[50]。そのため、同意要件に代えて、例えば、取材等中止命令の前提要件として(ⅰ)客観的にみて私生活の平穏が害される相当の蓋然性があり[51]、かつ(ⅱ)取材等の「手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認される」(取材行為そのものが制約された事案である外務省秘密漏洩事件決定[52])とはいえない取材等がなされた場合といった要件を法定するという、より制限的ではない他の規制手段があると考える[53]

よって、規制目的と手段の関連性や規制の相当性を欠き、②手段の実質的関連性が認められない[54]ため、法は違憲(21条1項違反)である。

以 上

 

 

Ⅴ 令和3年司法試験・予備試験の対策について

 

 令和3年司法試験・予備試験の対策については、恐らく試験実施時期がズレたことを考慮し、考査委員の多少の入れ替えがあった[55]ことから、出題方式の変更も一応考えられるところではある。

 

 とはいえ、新たな考査委員も、近年の(前年までの)出題方式や出題傾向といった「流れ」を無視するということは、通常考えられないことから、過去問の検討が重要である。

 

 過去問の検討は、多くの問題を素早く(広く浅く)つぶしていくという視点も試験対策上重要ではあろうが、問題によっては、各科目数問だけでも、できる限り詳細な(深い)検討をすると良いだろう。そうすることによって、さまざまな判例や関係する過去問資料、基本書、演習書、論文等に触れることができ、それらが1つの問題(論点)を多角的に緻密に検討する力(司法試験合格にも必要な力)を育てることになるからである(本ブログがその一助となれば幸いである。)。

 

 

 最後に、2021年(令和3年)が受験生の皆様にとって素晴らしい年であるよう祈念して、本年(2020年(令和2年))最後のブログを書き終えることとしたい。

 

 

______________

[1] 安念潤司憲法行政法の『融合』教育について」公法研究68号(2006年)100頁。

[2] 赤坂正浩『憲法講義(人権)』(信山社、2011年)54頁参照。

[3] 取材の自由の憲法上の位置付けにつき、大島義則『憲法の地図――条文と判例から学ぶ』(法律文化社、2016年)73~74頁。同書は、最高裁調査官解説をガイドラインとする判例解説書であり、司法試験や予備試験との関係でも有用である。

[4] 事案類型とは、「いわば大づかみに捉えた事案の構造」(蟻川恒正「不起立訴訟と憲法一二条」公法研究77号(2015年)97頁(98頁))のことである。なお、同103頁注(2)の各文献も参照。

[5] 論究ジュリスト2019年秋号(31号、2019年11月発行)では「司法制度改革20年・裁判員制度10年」という特集が組まれている。

[6] 松井茂記『LAW IN CONTEXT 憲法』(有斐閣、2010年)(以下「松井・LAW IN CONTEXT」)11~20頁(「裁判員制度と取材・報道の自由」)、同「裁判員制度とマス・メディア」同『マス・メディアの表現の自由』(日本評論社、2005年)219~239頁、土屋美明裁判員制度と報道――公正な裁判と報道の自由』(花伝社、2009年)等。なお、アメリカやイギリス、カナダでも陪審裁判に関する報道禁止命令の法制度があり、比較法的検討との関係で参考になる(松井・LAW IN CONTEXT13頁)。

[7] なお、日本新聞協会編集委員会は、2020年6月11日、事件や事故で多数の記者が被害者や関係者のもとに詰めかけるメディアスクラム(集団的過熱取材)が確実とみられる場合、代表取材を申し込むなど、「防止へ万全の措置を講じる」との申し合わせをした。新聞社・通信社とテレビ局からそれぞれ代表者を選んで取材を申し入れたり、各社の質問を取りまとめて代表取材をしたりすることで、取材される側の負担軽減を図るものである(林幹益「代表取材でメディアスクラム防止へ 新聞協会申し合わせ」同日23:35朝日新聞ウェブ版)。

[8] 特定秘密保護法の適用(刑事事件)を争う主張等を論じさせる問題・解説(解答例付き)として、齊藤愛「弱き者、汝の名は男なり」宍戸常寿編著『憲法演習ノート――憲法を楽しむ21問[第2版]』(弘文堂、2020年)(以下「宍戸・演習ノート」という。)220~240頁。寺田麻佑=駒村圭吾=小山剛=宍戸常寿「放送・メディア・表現の現在 ―情報通信規制の現在を踏まえて― シンポジウム全文」社会科学ジャーナル81号(2016年)65頁(118頁〔宍戸〕)等参照。なお、このシンポジウムの登壇者の一人である宍戸教授(令和2年司法試験&同予備試験考査委員)は、放送とメディアの在り方について様々な形で提言を行っており、また、小山剛教授(令和2年司法試験&同予備試験考査委員)は、基本権保護の法理の専門家で、BPO 委員(同シンポジウム当時)でもある。

[9] 中央大学真法会指導スタッフ「特集 司法試験・予備試験 論文直前対策! 必須・選択全15科目の出題論点予想」受験新報831号(2020年5月号)2頁(予備試験論文憲法の出題論点につき、10頁)参照。なお、司法試験(新司法試験)論文憲法の出題論点については3頁、旧司法試験論文憲法の出題論点については同13頁が参照。

[10] ①小山剛(令和2年司法試験予備試験考査委員)「判批」(NHK記者事件(最三小決平成18年10月3日民集60巻8号2647頁)解説)長谷部恭男=山口いつ子=宍戸常寿編『メディア判例百選[第2版]』(有斐閣、2018年)4~5頁、②山下純司=島田聡一郎=宍戸常寿『法解釈入門[第2版]――「法的」に考えるための第一歩』(有斐閣、2020年)(以下「山下ほか・法解釈入門」という。)165頁〔宍戸常寿(令和2年司法試験予備試験考査委員)〕(後掲博多駅事件決定に言及)、同166頁〔宍戸常寿〕(後掲外務省秘密電文漏洩事件決定に言及)、同174~184頁〔宍戸常寿〕・同185~190頁〔島田聡一郎〕(後掲広島市暴走族追放条例事件を解説)、③池田真朗編著・小林明彦=宍戸常寿=辰井聡子=藤井康子=山田文著『判例学習のAtoZ』(有斐閣、2010年)119、130頁〔宍戸常寿〕(博多駅事件決定(後掲)に言及)等参照。ちなみに、④宍戸常寿教授が編者の一人である上記『メディア判例百選』22~23頁の収載裁判例である大阪地堺支判平成9年11月28日判時1640号148頁(渡辺康行「判批」(同裁判例解説))も令和2年司法試験予備試験論文憲法の事案と関係のあるものといえよう。なお、②の書籍及び④の文献の情報については、オンラインイベントの際に大島義則先生からご教授いただいた。

[11] 宍戸常寿『憲法解釈論の応用と展開 第2版』(日本評論社、2014年)(以下「宍戸・応用と展開」)317~329頁。

[12] 最大決昭和44年11月26日刑集23巻11号1490頁。

[13] 小山剛=中林暁生「2011年 《第1問》――対話篇」法学セミナー編集部編『司法試験論文式過去問シリーズ 論文式試験の問題と解説 公法編 2006~2011年』(日本評論社、2013年)(以下「論文式試験の問題と解説」)8頁以下(10頁)等参照。

[14] 宍戸・応用と展開342頁。

[15] オンラインイベントで配布した資料の答案例とは同一ではない(若干修正した)。なお、Ⅰ~Ⅲの解説部分も若干修正した。

[16] 平成30年(2018年)司法試験論文憲法の出題趣旨1頁(第4段落)は「憲法第21条に関しては,まず,知る自由が,憲法第21条第1項により保障されることに言及した上で,購入や貸与を受けることを制限される青少年について,その自由の制約になるかどうかを論じることとなろう。」としていることなどから、保障→制約→正当化(形式的正当化(法令違憲のうちの文面審査)→実質的正当化(それ以外の法令審査・実質的正当化事由)という流れで答案を書くべきと考えられる。

[17] 曽我部真裕「判批」(博多駅事件決定解説)憲法判例研究会編『判例ラクティス憲法〔増補版〕』(信山社、2014年)(以下「判プラ」)165頁等参照。本答案例では、「保障」と「保護」を同様の意味で用いている。ちなみに、平成30年(2018年)司法試験論文憲法の出題趣旨1頁(第4段落)が「憲法第21条に関しては,まず,知る自由が,憲法第21条第1項により保障されることに言及した上で」(下線引用者)としていることに照らすと、「十分尊重に値する」と書くにとどめるような答案(そのような答案の例として、齊藤愛「弱き者、汝の名は男なり」宍戸・演習ノート」220~240頁(238頁))は司法試験では避けるべきと考えられる。なお、報道機関の人権享有主体性(団体の人権・法人の人権)の論点については、一応観念することはできるので(渡辺康行=宍戸常寿=松本和彦=工藤達朗『憲法Ⅰ』(日本評論社、2016年)(以下「渡辺ほかⅠ」という。)42頁〔宍戸常寿〕参照)、書くこと自体間違いとまではいえないが、博多駅事件決定がこの論点に触れていないことなどから、書く必要はなかろう。

[18] 博多駅事件決定も、「報道機関の報道が正しい内容をもつためには報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない」(下線引用者)と判示する。

[19] 佐藤幸治日本国憲法論[第2版]』(成文堂、2020年)(以下「佐藤」という。)706頁、安西文雄=巻美矢紀=宍戸常寿『憲法学読本 第3版』(有斐閣、2018年)(以下「安西ほか読本」という。)151頁〔宍戸〕参照。「文面上の合憲性」(西村裕一「逃亡の果てに」宍戸・演習ノート241~260頁(254頁))という小見出しでも良いだろう。なお、「形式的正当化」(渡辺ほかⅠ235頁〔宍戸〕)という小見出しは避けた。

[20] 「委」縮ではなく「萎」縮の方の漢字を用いるので受験生は注意されたい(佐藤283頁、安西ほか読本151頁〔宍戸〕、渡辺ほかⅠ236頁〔宍戸〕)。

[21] 渡辺ほかⅠ236頁〔宍戸〕。

[22] 最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁。

[23] 徳島市公安条例事件判決自体は条例の明確性の判断基準に係る判示において31条には言及するが21条については言及していないところ、本答案例では21条にも言及しているため「参照」と書いた。もっとも、考査(採点)委員にこの「参照」の趣旨が伝わらない危険もあるので、「(徳島市公安条例事件判決参照)」の記載自体必要ないという考え方も一定の合理性があるものといえる。

[24] 平成20年新司法試験論文憲法の架空法令2条2号。なお、児童虐待防止法児童虐待の防止等に関する法律)2条4号は心理的虐待につき定義しているところ、「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力…の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準じる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう…」その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」(下線引用者)として定義の明確化を図っている(磯谷文明=町野朔=水野紀子編集代表『実務コンメンタール児童福祉法児童虐待防止法』(有斐閣、2020年)632頁〔橋爪幸代〕参照)。

[25] 徳島市公安条例事件判決(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)参照。平成30年司法試験論文憲法の架空法令7条柱書にも「殊更に」という文言がある。

[26] 実務的には、前掲徳島市公安条例事件判決の当てはめと同様に、「著しく」あるいは「殊更に」心身に有害な影響を及ぼす行為であるという基準が読み取れる(すなわち限定解釈(合憲限定解釈)することができる)と(裁判所によって)判断されることになろう(なお、この点については、木下昌彦編集代表『精読憲法判例[人権編]』(弘文堂、2018年)306頁〔木下昌彦〕の図が理解の助けになる。)。もっとも、身体的な有害性は客観的に判断しやすいが、精神面への有害な影響は比較的判断しにくいことから、前掲徳島市公安条例事件判決(の当てはめ)とは異なり、違憲と考える余地もあろう。

[27] オンラインイベントにて伊藤建先生より、文面審査(漠然故に無効の法理の論点を含む)は本問(令和2年司法試験予備試験論文憲法)では書くべきではない、あるいは書く必要ないはないのではないか、というご意見をいただいた。この点について、オンラインイベントでは十分な回答ができなかったので、あらためて本ブログで検討することとしたい。

確かに、答案例でも書いたとおり、捜査機関が犯罪被害者等に同意するか否かにつき確認し、報道関係者に回答あるいは公表することとされている仕組みに照らすと、「犯罪等」とはその被害者や家族・遺族が不同意とする範囲の行為といえるから、当該「犯罪等」の範囲は、少なくとも不同意の回答・公表があった段階においては明確なものとなっているので、漠然故に無効の法理の論点を挙げる必要はなく、あるいは挙げるべきではないという考え方もあろう。

とはいえ、法は、捜査機関が捜査を開始すると同時に犯罪被害者等の同意しないことを公表するという内容のものではない(現実的にはそのような法律を作ることは殆ど不可能だろう。)。そうすると、法は、萎縮効果が全く問題とならないという法律ではないものといえることから、萎縮効果が一応問題となる本問の法については、漠然故に無効の法理の論点を挙げ、検討することには一応の合理性があるように思われる。この点に関し、島田聡一郎=宍戸常寿「広島市暴走族追放条例事件――憲法と刑法の視点から――」山下ほか・法解釈入門174頁(189頁)〔島田総一郎〕は、いわゆる直罰規定ではなく、間接罰の規定(命令を出して、それに違反して初めて処罰を肯定できる規定)であることから、「命令が出されれば,人は,自らの行為が,処罰の対象となるか否かについて,十分判断が可能となる。この点は,合憲性を肯定する方向に働かないだろうか。」と述べる。しかし、命令(本問との関係でいうと取材等中止命令)が出される前の段階においても文面審査によって萎縮効果が除去されるべきことが「壊れやすく傷つきやすい」表現の自由(佐藤283頁等)規制の(文面審査による)萎縮効果の早期排除の要請(宍戸・応用と展開149頁)の趣旨に適うものであるというべきであろうから、間接罰の規定の法文についても漠然故に無効の法理の論点を検討する必要性はあると考えるべきである。

なお、答案例にも書いたとおり、前掲徳島市公安条例事件判決と同様に、「殊更に」という限定はないが、一般人の理解において「殊更に」心身に有害な影響を及ぼす行為であるとの基準が読みとれる(限定解釈が可能である)のではないかという点についても、出題者(考査委員)としては問いたかったのではなかろうか。そうであるとすれば、やはり漠然故に無効の法理については、結論自体は合憲だとしても、(どの程度の分量で書くべきかについては議論すべきところがあるとはいえ、)本問との関係で書くことが必要な論点であるというべきであろう。

ちなみに、前掲徳島市公安条例事件判決も、福岡市青少年保護育成条例事件判決(最大判昭和60年10月23日刑集39巻6号413頁)等も、結論は合憲とされているし、広島市暴走族追放条例事件(最三小判平成19年9月18日刑集61巻6号601頁)も、不明確性の点につき、簡単に「文言が不明確であるとはいえない」と一蹴(判プラ406頁〔宍戸常寿〕)していることに加え、前掲徳島市公安条例事件判決の判断基準によれば、「漠然性のゆえに文面上違憲との判断が下されるのは、当該法令があまりにも不明確であって適用されうるいかなる場合においても行動の指針を示すことができないようなきわめて例外的な場合に限られる」という学説による判例分析がなされていること(長谷部恭男『憲法[第7版]』(新世社、2018年)207~208頁)などに照らすと、漠然故に無効の法理の論点で結論を違憲とすることは少なくとも実務的には極めて難しいというほかなかろう。理論と実務を架橋することを目指す司法試験や予備試験においても、対象実務を意識した問題が出ると思われる以上、漠然故に無効の法理の論点で(本問のように、どちらの結論で書いても良い形式(出題方式)の問題において)違憲とする結論を採ることについては、良い意味での「萎縮」が必要であるといわなければならないだろう。

[28] 刑法の基本書ではあるが、西田典之著・橋爪隆補訂『刑法総論〔第3版〕』(弘文堂、2019年)62頁参照。

[29] 渡辺ほかⅠ236頁〔宍戸〕は、過度の広汎故に無効の法理との関係では、直接的に31条には言及していないようにみえるが、31条を根拠条文として特に排除したものではないという趣旨の記載にも読めると思われる。

[30] 渡辺ほかⅠ236頁〔宍戸〕、小山剛『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社、2016年)(以下「小山」という。)59頁、芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第七版』(岩波書店、2019年)(以下「芦部」という。)214頁参照。

[31] 渡辺ほかⅠ236頁〔宍戸〕参照。

[32] 本問は、法律の規定が可分ではないという点がメインになると考えられるが、制限時間・答案の紙面との関係から、違憲的適用部分を除去するように解釈した結果、今度はその規定の意味が漠然としてしまう場合には合憲限定解釈が許されないという点(渡辺ほかⅠ237頁〔宍戸〕参照)については、答案に書かなくてもよいのではないかと思われる。

[33] 渡辺ほかⅠ237頁〔宍戸〕参照。

[34] 最大判昭和59年12月12日民集38巻12号1308頁。

[35] 木村草太「判批」(徳島市公安条例事件解説)長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣、2019年)(以下「憲法百選Ⅰ」という。)179~181頁(181頁)等参照。

[36] オンラインイベントにて伊藤建先生より、過度の広汎故に無効の法理の論点は、本問(令和2年司法試験予備試験論文憲法)では書くべきではないのではないかというご意見をいただいた。また、大島義則先生から、仮に書くとしても、厚く書くべきではない旨のご意見をいただいた。

この点については、平成30年司法試験論文憲法の出題方式である「リーガルオピニオン型(法律意見書型)」(大島義則『憲法ガールⅡ』(法律文化社、2018年)178頁)の問題では、(令和元年司法試験論文憲法、令和2年司法試験論文憲法もこの出題方式の問題といえる。)では、「訴訟・紛争当事者の権利・利益に限らず、より広いステークホルダーの多様な権利・利益を検討する必要がある」(同179頁)ことが指摘できるといえ、かつ、過度の広汎故に無効の法理は、「第三者憲法上の権利・自由を主張することの可否」(「違憲主張適格」(平成20年新司法試験の採点実感等に関する違憲憲法)1(1))などとも称される)と関係のあること(佐藤683~684頁参照)からすれば、リーガルオピニオン型では同法理の論点は書くべきではない(あるいは書く必要ない)とも思える。確かに、「明確性と広範性は観念的には別の次元に属する問題」であり、「明確性は告知機能を果たさないし(予見可能性を与えない)という形式的・手続的問題であるのに対し,過度の広範性は,規制してはならない行為を規制対象に含むという,実質的観点に属する問題である(文面審査であるという点を除けば,薬局の距離制限等の通常の基本権問題との差異は,規制対象が広すぎるのか,それとも,その行為を規制対象とすることには問題はないが規制の強度が強すぎるのかという点にあるにすぎない)」という指摘もある(小山59頁)。

しかし、この指摘は「文面審査であるという点」は差異があることを認めるものであることから、リーガルオピニオン型で文面審査(同法理)を書くべきではない(あるいはその必要はない)という主張を十分に基礎づけるものとはならないといえる。このことは、「明確性と広範性は,ともに立法技術の維拙さに由来するものであり,立法事実等を検討するまでもなく,すでに文面審査によって違憲性が認定できるものである」(小山59~60頁、下線引用者)という論述からも読み取れる(と思われる)とおり、文面審査は、表現の自由の規制の萎縮効果の早期排除の要請(宍戸・応用と展開149頁)ないし「法律の違憲性を早期に確定するために文面上判断を優先すべき」(高橋和之立憲主義日本国憲法 第5版』(有斐閣、2020年)465頁)という考え方に照らすと、リーガルオピニオン型の問題においても(特に設問等で記載不要の指示がない限り)書くべき論点であるといえる。また、同法理は「潜在的な第三者憲法上の権利を主張することを認めることにもつながる」(安西ほか読本152頁〔宍戸常寿〕)という記述にもみられるように、違憲主張適格という訴訟上の論点だけを含意するものではなく、実体法(21条1項)の解釈問題の面も有するものであると考えられることや(宍戸・応用と展開148頁等参照)、さらには、平成30年司法試験論文憲法及び令和元年司法試験論文憲法の出題趣旨において同法理について検討することが求められていること(平成30年司法試験論文憲法の出題趣旨第4段落及び令和元年司法試験論文憲法の出題趣旨第3段落参照)も、リーガルオピニオン型の問題における同法理記述の必要性を基礎づけるものといえる。本問も、平成29年(司法試験論文憲法)までの訴訟・紛争型(大島・前掲『憲法ガールⅡ』179頁)ではなく、リーガルオピニオン型に分類される問題であるが、以上の理由から、本問においても、同法理を書くべきである。

ただし、どの程度書くべきか(分量の問題)については、同法理に係る論述内容と目的手段審査における手段審査における関連性審査等の点における論述内容とが実質的に重複する部分が出てくることから、どちらかを薄く書く(過度の広汎故に無効の法理の方を薄く書くということになろうか)などの工夫が必要になるといえよう。

[37] 佐藤708頁、平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)2頁・3(1)参照。「内容上の合憲性」(西村裕一「逃亡の果てに」宍戸・演習ノート241~260頁(255頁))あるいは「内容上の憲法適合性」という小見出しでも良いだろう。なお、「実質的正当化」(渡辺ほかⅠ238頁〔宍戸〕)という小見出しも考えられるが、三段階審査のキーワードをよく知らない考査委員(採点委員、特に弁護士等の実務家委員)もいるため、「実質的正当化」という語は「形式的正当化」と同じく書くことを避けた。

[38] 最三小判昭和63年12月20日判時1302号94頁。大阪市営地下鉄商業宣伝放送差止等請求事件(佐藤217頁),社内広告事件(渡辺ほかⅠ121頁〔松本和彦〕)とも称される(「囚われの聴衆」事件はむしろ俗称かもしれない)。

[39] 紙谷雅子「判批」(「囚われの聴衆」事件解説)憲法判例Ⅰ44~45頁(45頁)参照。

[40] 池田・前掲『判例学習のAtoZ』130~131頁〔宍戸常寿〕も、「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する」との判示につき、「この判旨は,取材の自由にも憲法21条の保護が及ぶとしつつ,その程度については,報道の自由よりも一段低いものと捉えたものとみることができるだろう」(下線引用者)と解説する。曽我部真裕「判批」(博多駅事件決定解説)判プラ166頁等も概ね同旨。

[41] 松井茂記日本国憲法〈第3版〉』(有斐閣、2007年)479頁は「情報収集権の制約は,情報収集行為を直接制約する場合と、将来の情報収集行為を困難にするような政府行為の場合の2つがある。」(下線引用者)とし、「外務省秘密漏洩事件西山記者事件)は,前者の例である」とし,人権制約(規制)の態様・程度の話をしている(松井茂記裁判員制度とマス・メディア」同『マス・メディアの表現の自由』(日本評論社、2005年)(以下「マス・メディア」)225頁も参照)。木下智文=只野雅人『新・コンメンタール 憲法(第2版)』(日本評論社、2019年)254頁〔木下智文〕も、「取材の自由を直接的に制約する例として、公務員の守秘義務違反のそそのかしに対する処罰がある」(下線引用者)とする。このような説明に対し、曽我部真裕「判例の流れ 表現の自由(4)」(博多駅事件決定解説)判プラ163頁は、「取材の自由には,まず,取材行為そのものが制約されない自由が含まれることはもちろんであ」り、「外務省秘密電文漏洩事件(中略)も取材行為そのものの制約の例である」とし、他方で、「将来の取材を困難にするような制約からの自由も取材の自由の内容となる」としており、取材の自由の保障内容面の話を中心に展開しているようにみえる。本答案は、便宜上上記松井教授や木下教授の説明によったものであるが、取材の自由のいわば外延部分の自由ではなく核心部分の重要な自由の制約であるという曽我部教授の説明も説得的であるし、このような論述をすることも考えられるところである。

[42] 松井・LAW IN CONTEXT14頁は、「表現内容に基づく制約であること」を厳格な基準が適用されるべきことの理由の1つとしている。なお、事前規制・事後規制の別については、本答案例で明記することを避けている。

[43] 松井・LAW IN CONTEXT14頁、宍戸・応用と展開321頁、小山83頁参照。

[44] 松井茂記裁判員制度とマス・メディア」マス・メディア226頁参照。

[45] 平成29年司法試験論文式試験公法系科目第1問出題趣旨は、中間審査基準の内容を「中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)によるべき」と短く紹介する。本答案では、博多駅事件決定のような利益考量の基準によることなく、より厳格に基準によることとした(松井・LAW IN CONTEXT14~15頁等参照)が、この点に関し、判例は「目的手段審査の厳格な適用を,憲法上の権利が立法によって直接的に制約されている場面に限っている」(池田・前掲『判例学習のAtoZ』130頁〔宍戸常寿〕、下線引用者)という指摘が参考になる。なお、松井・LAW IN CONTEXT14頁は、博多駅事件決定の採る利益衡量の基準は不当である旨述べ、「厳格な基準」が用いられるべきであるとする。具体的には、(A)「実際に公正な裁判を受ける機会が奪われるな明白かつ現在の危険性の証明が要求されるべき」であり、さらに、(B)「他の手段によっては公正な裁判を受ける機会を確保できないことの証明」がなければ、報道の禁止は正当化できない旨論じている。しかし、この基準だと、保護の程度が強いとは言えない取材等の自由については厳格に過ぎる審査基準と考えられることから、この審査基準を参考にするにしても、本問では、例えば(A)の部分につき、よど号ハイジャック記事抹消事件判決(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)のキーワードである「相当の蓋然性」を参考に、“(a)私生活の平穏が害される相当の蓋然性があり、(b)より制限的でない他の手段では規制目的を達成できないといえなければ違憲となる”という基準など、松井説の基準よりもやや緩和された基準を用いるべきと考えられる。

なお、外務省秘密漏洩事件決定(西山事件、後掲)は(ⅰ)「真に報道の目的からでた」取材行為で、(ⅱ)その「手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認される」場合には正当行為(正当業務行為、刑法35条)にあたり、秘密漏示そそのかし罪は成立しない旨判断しており、博多駅事件決定のような利益衡量を行っていない(曽我部真裕「判批」(外務省秘密漏洩事件決定解説)判プラ169頁)

[46] 木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)104~105頁,同467頁参照。

[47] 前掲広島市暴走族追放条例事件にも「段階的規制」との判示がある。なお、上田健介「公法系科目〔第1問〕解説」法学セミナー編集部編『司法試験の問題と解説2019』(日本評論社、2019年9月30日)10~17頁(16頁)も、「段階的な規制をとっている」ことを厳格審査基準の手段審査の当てはめ部分において(判断枠組み設定の理由付け部分ではない。この点は注意を要する。)用いているといえる。「事後的、段階的な規制」と書くのでも良いだろう。

[48] この点は、オンラインイベントで大島義則先生よりご指摘のあった点である。

[49] この点は、オンラインイベントで伊藤建先生よりご指摘のあった点である。

[50] 榊原秀訓「2011年 《第2問》の解説」論文式試験の問題と解説40頁以下(46頁)参照。

[51] よど号ハイジャック記事抹消事件判決(前掲最大判昭和58年6月22日)のキーワードである「相当の蓋然性」を参考にしているが、あえて判例名は明記していない。なお、(ⅰ)のような文言だと抽象的すぎるので、もう少し工夫できるとベターだろうが、LRAを指摘するに際しての記述なので、この程度でも良いのではないかと思う。あるいは、(ⅰ)の要件は書かずに(ⅱ)の要件だけ書くというのでも良いかもしれない。

[52] 最一小決昭和53年5月31日民集32巻3号457頁。なお、外務省秘密漏洩事件西山事件)決定の判断枠組みにつき、松井茂記『マス・メディア法入門〔第5版〕』(日本評論社、2013年)225頁は、「社会通念上正当かどうかは国民の判断に委ねるべき問題であり、憲法上保護されているかどうかの判断において、そのような考慮を含ませるべきではない」などと批判し、「差し迫った重大な害悪発生に帰するであろう見込みを知りつつ、またはそれをまったく無視して行った場合にのみ、処罰が許されると考えるべきではなかろうか」と述べ、別の判断枠組み(審査基準)を提示する。

[53] 上田健介「公法系科目〔第1問〕解説」法学セミナー編集部編『司法試験の問題と解説2019』(日本評論社、2019年9月30日)10~17頁(14~15頁、16頁)は、厳格審査基準等の当てはめ部分(目的手段審査の基準の手段審査の当てはめの部分)において、関連する判例ないし学説(北方ジャーナル事件の判断枠組みに係る判示や現実の悪意の法理の基準)に照らした論述をしており、参考になる。筆者作成の答案例もこの上田教授の論述と同様の発想によるものであるが、このような判例の活用法が真に正当なものであるのかについては、なお検討の余地があるようにも思われる。

なお、取材等の「手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認される」という外務省秘密漏洩事件決定の判示は、短答式試験では肢を切るために活用できても、論文式試験の論述において正確に表現することはハードルが高く、多くの受験生にはそれは無理ではないか、という批判もあろう。そこで、答案例における(ⅱ)の要件については、「社会通念上、不相当な手段・方法による取材等がなされた場合」という多少簡単な記述でも良いと思われる。

[54] より制限的でない他に選びうる規制手段の実効性については、本答案では明記することができていない。この点につき、平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁3(5)オは、「審査基準が定められたとしても,それで答えが決まるわけではない。〔1〕必要不可欠の(重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,〔2〕厳密に定められた手段といえるか,〔2-1〕目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,〔2-2〕規制手段の相当性,規制手段の実効性等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体的に検討することが必要である。」(下線及び〔1〕・〔2〕などは引用者)としているところ,〔1〕部分が目的審査を意味し,また,〔2-1〕部分が手段審査における規制目的と手段の関連性(立法事実)の審査を,〔2-2〕部分が手段審査における相当性の審査(より制限的でない他に選びうる規制手段の実効性のあるものであることの審査を含む)を意味するものと考えられる(「関連性(立法事実)」という点に関し、平成20年新司法試験論文憲法の出題趣旨第5段落等参照。なお、芦部236頁は、薬局距離制限事件(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)につき、「『薬局の開設の自由→薬局の偏在→競争激化→一部薬局の経営不安定→不良医薬品の供給の危険性』という因果関係は、立法事実によって合理的に裏づけることはできないから、規制の必要性と合理性の存在は認められない」(下線引用者)などと説明している。)。

[55] 例えば、元新司法試験考査委員の市川正人教授が再び令和3年司法試験考査委員及び同試験予備試験考査委員となっている。

 

令和2年司法試験論文行政法の再検討(参考答案(改訂版)とその解説)

「司法試験は法律家の選抜試験ですが,要するに自分たちと同じ種類の人間たちを増やしていくという作業ですよね。法律家が自己増殖をしていく。(中略)自分たちにしかわからない周波数を流してそれで集まってくる奴を仲間にするという儀式を試験でやっている。(中略)仲間探しの試験でありまして,ですから波長が合わないともうこれはどうしようもない。

 スジという言葉をよく裁判官はいいますけど,スジというのがあるわけで,スジが読めない人,それを外す人,だけど強引に何とか持ってくる人,こういうのが一番合格して欲しくない人ということにたぶんなるわけであります。」[1]

 

 

「スジ」は過去問を丁寧に分析することで相当程度把握することができる。

 

令和2年司法試験論文式試験行政法の参考答案(Ⅱ)とその解説(ⅠとⅡの注)であるが,多く受験生はすでに一度検討したと思われるが,再度検討してもよい問題である。

 

当ブログ筆者も,この間,この問題について行政法に詳しい実務家や行政法研究者の先生方と意見交換をさせていただき,従前の参考答案やその解説の不十分な点について認識し加筆修正をしたところである。司法試験や予備試験の受験生の皆様にご一読いただき,何らかの新しい発見があれば幸いである。

 

 

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Ⅰ 全体的な印象

 

1 マニュアル思考が通用しにくく,法的思考力が試される問題

 司法試験論文行政法が基本知識や基本判例をベースに現場で思考させる問題であり,マニュアル思考ないし付け焼刃的な対処法では,対応が難しいタイプの問題と考えられる。

 

2 ベースとなった裁判例

 主として名古屋高判29年8月9日判例タイムズ1446号70頁をベースとした事例問題である。この裁判例は近時の重要判例解説にも収載されている(山下竜一「判批」(同裁判例解説)平成30年度重要判例解説50~51頁)。

 

3 行政法総論の知識,基本判例の深い理解の重要性

 上記重判の裁判例を知っていると有利ではあるが,知らなくても行政判例百選収載の基本判例すなわち盛岡用途地域指定事件判決(最一小判昭和59年4月22日民集36巻4号705頁)等を深く理解していれば上位合格水準の答案を書くことは可能と思われる。また,基本判例における行政法総論の知識(例えば,行政計画のうちの完結型·非完結型計画,用途地域と建築規制等の基本的な法制度の理解)の重要性も増してきているように思われる。いわば(基本判例を通じた)「行政法総論と行政救済法との架橋」を試すという面の(も)ある問題となっている。

 とはいえ,重要判例の深い理解(例えば,用途地域と建築制限はセットの制度であること,用途地域指定については指定を処分とみていわば指定全体を争わせるのではなく個別に建築制限を緩和・解除する処分の制度があり同制度を使って個別に取消訴訟等で争わせる仕組みになっていることについての理解)といっても,重要判例の数は多く,1つ1つ深い理解をすることにも限界がある。つまり,消化不良に陥らないようある程度効率的な学習をする必要がある。その対策については別途書いてみたい。

 

 

Ⅱ 参考答案

 

第1 設問1(1)

1 抗告訴訟の対象となる処分のうち,「行政庁の処分」(行訴法(以下法律名略)32項)とは[2],①公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(公権力性),②その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(法効果の直接性・具体性)③法律上認められているもの(法律の根拠)をいう[3]

2 本件計画についての具体的検討

(1) 本件計画の法的性格

 本件計画のような農業地区域を定める計画(農振法8条1項)は,同法2条の基本原則に照らし,農業地域の保全・形成や農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進するものであるから,その法的性格は,講学上の行政計画といえる。また,農業地区域を定める計画の変更(同法13条1項)等がなされない限り,農地の転用(同法17条農地法4条6項1号イ参照[4]が認められないことから,同計画は,都市計画法上の用途地域と同じく,同計画にかかる地域・地区内の土地所有者等に建築基準法上の新たな制約を課す法定の完結型計画の一種といえる[5]。ゆえに,一定の法状態の変動は生じるが,本件計画の効果も,用途地域指定についての昭和57年判決の場合と同様に,その効果はあたかも新たに制約を課する法令が制定された場合と同様不特定多数の者に対する一般的抽象的な効果にすぎないといえる。

 確かに,用途地域内では特に開発行為による土地の区画形質の変更が規制されるのに対し,農地の転用では「農地を農地以外のもの」にすることが禁止されており(農地法4条6項1号),区画形質の変更を伴わない行為まで一般的に禁止しており(農振法15条の2参照),規制の程度が強い[6]ため,昭和57年判例の射程は及ばないようにもみえる。しかし,用途地域指定に関しては例外的に建築基準法上の建築制限を緩和ないし解除する許可制度が設けられており[7],本件計画にも農用地区域内の土地を農用地区域から例外的に除外する制度がある(同法13条2項)。つまり,土地所有者等の権利制限の一部解除を求める権利[8]を留保した行政計画である点で共通するから,昭和57年判例の射程が及び,本件計画の設定(本件計画自体)の処分性は認められない。

(2) 個別の農地を農業用区域から除外する計画変更の処分性

 次に,本件農地のような個別の農地を農業用区域から除外する計画変更は,上記(1)の個々の土地所有者等の権利制限の一部を解除するものといえるから,同計画変更の法効果の直接性・具体性(上記1②)があるといえる。

 また,同計画変更は,私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[9],公権力性(上記1①)も認めらえる。さらに,農振法13条1項・2項により法律の根拠(上記1③)も認められる。

したがって,同計画変更の処分性は認められる。

(3) 本件計画変更の申出の拒絶の処分性

ア 法効果の直接性・具体性

 本件計画変更の処分性は認められるとしても,農振法15条1項・2項が「申請」と明記するのに対し,本件計画変更の申出については,「除外」(同法13条2項)の「申請」権を法令上規定していない。また,同申出の拒絶に対する審査請求等の行政不服審査に関する規定もない。さらに,本件運用指針は講学上の法規命令ではなく行政規則にすぎない。そのため,同拒絶の処分性は認められず,職権による計画変更が前提とされているとのB市の反論が想定される。

 しかし,不服申立てではないが,勧告・調停という一定の手続が法定されている(同法14条1項・2項,15条1項・2項)。また,本件運用指針4条1~4項により,計画変更の申出とそれに対する可否の通知の手続が定められており,諮問機関の意見を求め(同条2項),県(国)との事前協議を行う(同条3項)という慎重な手続によることとされ,B市は信義則あるいは平等原則の見地から同手続に自己拘束されることから,この手続は確立した実務上の手続となっている。そのため,B市は,農地転用許可申請に対する不許可処分の前の段階で,同条4項の「通知」すなわち申出の拒絶をもって,同不許可処分の処分要件に関する最終決定を前倒しして行うことになる。すると,この中間的措置とはいえない最終決定としての申出の拒絶は,実質的には,除外(同法13条2項)の申請に対する拒否処分(不許可処分)として機能しているといえ[10],あるいは特段の事情のない限り,後の農地転用許可申請をしても不許可処分を受ける法的地位に立たされることになる。[11]

 また,見込みのない農地転用許可申請を行い,不許可処分を待って同処分に対する取消訴訟を提起して本件計画に不変更の違法性を争う方法も考えられ,加えて,本件計画については他の多くの利害関係人の利益を害することは少ないから,浜松市土地区画整理事業計画事件大法廷判決の場合とは異なり事情判決行訴法31条1項)がされる可能性は低いため,除外の申請権を認めうるための紛争の成熟性はないというB市の反論が想定される[12]

 しかし,同判決は非完結型計画の事案であるから,本件にはその射程が及ばない。また,申出の拒絶の処分性の認否は微妙な問題であるため同訴訟では違法性の承継も争点となりうること[13]に加え,同訴訟で争わせることは農地転用許可がなされないことによる損害を相当期間にわたり原告に負わせることになり,農地転用許可後に行う予定であった事業自体を断念させる結果をも生じさせかねないことに照らせば,実効的な権利救済を図る見地から,除外の申請権を認めるための紛争の成熟性はあるというべきである。

 以上のことから,農振法13条2項は「除外」につき,農地所有者等の「申請」(行政手続法2条3号)権を認める趣旨に出たものと解され,本件運用指針は農振法13条2項の趣旨を具体化したものと解される。ゆえに、申出の拒絶は、申請に対する拒否処分であるといえ、法効果の直接性・具体性(上記1②)が認められる。(

イ また,農振法13条2項により法律の根拠(上記1③)も認められ,さらに,計画変更の場合と同様に,申出の拒絶についても公権力性(上記1①)が認められる。

 よって,申出の拒絶の処分性は認められる。[14]

 以上より,本件計画の変更及びその申出の拒絶は,抗告訴訟の対象となる処分に該当すると考える。

 

第2 設問1(2)

1 Xの置かれている状態,B市の対応の法的な意味

 Xは,申出書等の申請書類を所定の方法でB市の関係課に物理的に[15]提出し(本件運用指針4条1項),かかる申請書類はB市長の事務所に「到達」(行政手続法7条)したといえる。にもかかわらず,B市職員が同書類を返送するなどの対応をしているが,この行為は申請書類の不受理あるいは返戻にあたる。

 そのため,Xとしては,相当の期間申請書類の審査が開始されない状態に置かれているが,上記不受理・返戻の対応は,受理概念を否定し,法律による行政の原理の当然の要請として[16]申請の到達により審査義務が発生することを明確にした同法7条[17]に違反する行為である。

2 提起すべき抗告訴訟不作為の違法確認訴訟

 以上のとおり,本問では,B市長が,Xの法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分をすべきであるにかかわらず,これをしないことから,不作為の違法確認の訴え行訴法3条5項)を提起すべきである。[18]

3 訴訟要件の充足性

(1) 不作為の違法確認訴訟の訴訟要件は,①原告適格(「法令に基づく申請」(同法3条5項,申請権)・「申請をした者」(同法37条)),②狭義の訴えの利益,③被告適格(同法38条1項,11条)及び④管轄(同法12条)である[19]

(2) ①については,前記第1の2(3)のとおり,本件計画変更の申出について「除外」(農振法13条2項)の申請権が同法に基づき認められるものといえ,また,本件申出書等の申請書類は令和元年5月8日か,遅くとも令和元年5月10日までに到達しているから(上記1),Xは現実に申請をした者といえ,原告適格が認められるといえる。

 ②については,本問において行政庁の不作為状態が継続しており,これが解消されるなどの事情はない[20]ことから,狭義の訴えの利益が認められる。

 ③・④についても,特に問題はなく満たす。

(3) よって,同訴訟の訴訟要件を充足するといえる。

4 本案においてすべき主張

(1) 不作為の違法確認訴訟の本案勝訴要件は,「相当の期間」(行訴法3条5項)の経過である[21]。同期間経過の有無については,通常の所要期間を経過した場合には原則として違法となるが,同期間経過を正当とする特段の事情がある場合には違法とはならないという基準で判断すべきである。[22]

(2) 本問では,通常の所要期間に関し,法定の期間はないが,標準処理期間(行政手続法6条)も1年程度と考えられ,また,Xと同時期に申出をした他の農地所有者らに対しては,すでに「先月中」すなわち令和2年4月中[23]に通知(本件運用指針4条4項)がなされていることから,平均的な審理(審査)期間[24]も1年程度と考えられる。そうすると,同年5月13日の時点では,Xの申請(前記3(2)のとおり遅くとも令和元年5月10日までに行っている。)から1年を経過しているから,通常の所要期間を経過したといえる。

 また,上記特段の事情があるというB市の反論が想定されるが,Xは申出をやめる意思がない旨を文書で明確にB市職員に伝えているため,本問ではB市職員の行政指導により円満な解決が見込まれるという事情[25]はなく,申請者が急に激増したという事情[26]もないから,上記特段の事情はない

(3) よって,「相当の期間」は経過しているから,Xの申請に対するB市長の不作為は違法である。

 

第3 設問2

1 農振法「10条3項2号に掲げる土地」(同法13条2項5号)に該当しないとの違法事由

(1) 「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)といえるためには,同法10条3項2号委任する同法施行規則4条の3所定の要件を満たす必要がある。そのため,諸般の客観的な事情からみて[27],「除外」(同法13条2項5号)に係る土地が①「主として農地用の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き)あるいは②土地改良事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)に当たる場合には,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらない。

(2) Xによると,①´本件事業の主たる目的は,農地の冠水防止にあり,また,②´本件事業によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくく,特に本件農地は高台にあるため,本件事業によって生産性が向上することは考えられない。ゆえに,これらの客観的な事情からみて,除外に係る土地は上記①,②のいずれにも該当するものといえる。

(3) したがって,本件農地は,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらないから,本件農地については同号の要件を充足する。にもかかわらず,同号の要件を満たさないとするB市による同号に係る要件の認定は,同号に違反し違法である[28]

2 農振法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されない旨の違法事由

(1) 次に,本件農地が同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)は当たるものとされるとしても,同法施行令9条所定の期間制限が本件農地にも一律に適用されることは違法である旨の主張が考えられる。

 この点に関し,土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している農振法13条2項5号同法施行令9条趣旨・目的は,(ⅰ)同事業によって農業の生産性の向上(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き参照)を図りつつ,他方で,(ⅱ)転用行為に係る利益すなわち「農用地以外の用途に供する」(同法13条2項柱書き)ことないし「他の利用」(同法2条)に係る土地所有者等の利益との合理的調整を図ったものと解される[29]

 そこで,同法施行令9条にいう「事業の工事が完了」については,上記趣旨・目的に適合する限り,事業全体の工事の完了時期ではなく除外に係る農地に関連する事業の一部分の工事の完了時期をいうものと解すべきである。あるいは,8年という期間制限が一律に適用されると解することは,上記趣旨・目的に反し,施行令9条自体が違法無効となると解されることから,施行令9条自体が適法有効であると認められるには,期間制限が一律に適用されない例外を認めるという限定解釈を施すべきである[30]。具体的には,(ⅰ´)実質的にみて,特定の農地を農用地区域外から除外しても農業の生産性の向上の点で具体的な支障がなく,かつ(ⅱ´)転用行為に関し著しい不利益を与える場合には,「事業の工事が完了」の文言を上記のとおり解釈するか,あるいは農振法施行令9条所定の期間制限が適用されないものと考えるべきである。

(2) 本問では,(ⅰ´)本件農地と関連する上流部分については,平成20年末頃には用排水施設の補修・改修の工事が終了しており,本件事業全体の工事の完了平成30年12月となった理由は,事業の計画変更によって工事が中断されたからである。また,前記第3の1の事実関係より,本件農地を除外しても本件事業による農業の生産性の向上の点で具体的な支障はない。

 また,(ⅱ´)本件農地の転用が認められないとXの長男の医院を本件農地上に開設できず,平成30年度の翌年度から8年の経過が必要とされると,事実上B市の地域に同医院を開設することを事実上断念させることとなりかねないことから,Xらに著しい経済的不利益を与えることになる。

(3) よって,上記趣旨・目的に適合する法令の解釈適用という考え方からは,本件農地は同法施行令9条所定の期間制限にかからないか,あるいは同期間制限が適用されない農地であるから,同期間制限が適用されるとするB市の要件認定は,同法13条2項5号に違反し違法である[31]。 

                                     以上

 

 

__________________

[1] 棟居快行『司法試験 論文本試験過去問 憲法』(辰已法律研究所,平成12年)161頁。

[2] 判例(東京都ごみ焼却場設置事件(最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁))による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)283頁(以下「中原・基本行政法」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式といえるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下「神橋・救済法」という。)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をした(「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかといった問題提起をしていない)。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容,物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・救済法79頁参照)。とはいえ,設問1(1)は「抗告訴訟の対象となる処分に該当するかを検討」させるものであり,最高裁判例の立場は必ずしも明確ではないので(最近の最高裁判例で上記東京都ごみ焼却場設置事件判決を引いているものはむしろ少ない),無理をせず,「抗告訴訟の対象となる処分(行訴法3条2項)とは・・・」という問題提起の方がよいかもしれない。

[3] ここでは学説における3要件説に立ったことを示している。このような立場を採る研究者・元(新)司法試験考査委員の文献として,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)364~365頁。他方で,実務的には,処分性は行為の公権力性及び法律上の地位に対する影響の2つの要素により判定され,その際に実効的な権利救済の観点も考慮されているという分析がある(大島義則『実務解説 行政訴訟』(勁草書房,2020年)(以下「大島・実務解説」という。)35頁〔大島義則〕参照)。なお,少なくとも本問については,どちらの立場に立って答案を書いても大差はないだろう。

[4] なお,農地法4条に基づく転用は,実務上「自己転用」と呼ばれることがある(宮﨑直己『農地法講義[三訂版]』(大成出版社,2019年)(以下「宮﨑・農地法講義」という。)129頁)。

[5] 木村琢磨(令和2年司法試験考査委員)『プラクティス行政法〔第2版〕』(信山社,2017年)119頁参照。同頁は,「行政計画は,法定の計画か法定外の計画かという観点から区別されるが,行政救済法との関係で重要なのは,完結型と非完結型の区分である。」とする。

[6] 髙木賢=内藤恵久『改訂版 逐条解説 農地法』(大成出版社,2017年)123頁参照。

[7] 例えば,建築基準法48条1項ただし書の例外許可である。この例外許可については,平成28年司法試験論文式試験公法系科目第2問で(その違法事由等が)出題されている。なお,同問題の解説として,大島義則『行政法ガールⅡ』(法律文化社,2020年)63~109頁等。

[8] 千葉地判昭和63年1月25日判例時報1287号40頁,大橋洋一行政法判例の動き」平成30年度重要判例解説30頁以下(33頁)参照。なお,宮﨑・農地法講義142頁は,転用行為の自由を留保したものである旨解説する。

[9] 処分性の第1要件である公権力性がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがある(横浜地判平成12年9月27日判例地方自治217号69頁・事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」と判示している)。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日判例時報1841号89頁)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)42頁〔野呂充〕参照)。

[10] 山本・探究340~341頁参照。

[11] この部分は,次のとおり,よりコンパクトに書くこともできると思われる。「本件計画変更の処分性は認められるとしても,農振法15条1項・2項が「申請」と明記するのに対し,本件計画変更の申出については,「除外」(同法13条2項)の「申請」権を法令上規定していない。また,同申出の拒絶に対する審査請求等の行政不服審査に関する規定もない。そのため,同拒絶の処分性は認められず,職権による計画変更が前提とされているとのB市の反論が想定される。しかし,前記のとおり,本件計画には昭和57年判決の射程が及ぶことから,用途地域指定制度にも建築基準法上の建築制限解除の例外許可制度が認められていることとパラレルに考えると,除外のための申請権が認められているものと解され,ゆえに,本件計画変更の申出の拒絶は,申請に対する拒否処分(不許可処分)といえる。」

[12] 前掲津地判平成29年1月26日参照。なお,この控訴審判決である名古屋高判29年8月9日判例タイムズ1446号70頁は,原審(前掲津地判平成29年1月26日)ほど浜松市土地区画整理事業計画事件大法廷判決(最大判平成20年9月10日民集63巻8号2029頁)を意識したものとはなっていない(山下竜一「判批」(前掲名古屋高判29年8月9日解説)平成30年度重要判例解説50~51頁(51頁)参照)。

[13] 前掲千葉地判昭和63年1月25日参照。

[14] 前掲千葉地判昭和63年1月25日は,申出の拒絶の処分性を肯定したが,前掲名古屋高判29年8月9日・前掲津地判平成29年1月26日のように,処分性を否定してもよいかもしれない(設問1(1)は処分性否定の結論を示すことを禁止はしていないように思われる)が,X(原告)の訴訟代理人となる弁護士Dの立場からの「B市の反論を想定しながら」の解答であるため,処分性肯定の結論の方が無難かもしれない。

[15] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅰ」という)458頁。

[16] 塩野宏=髙木光『条解 行政手続法』(弘文堂,平成12年)151頁。

[17] 宇賀・概説Ⅰ458頁参照。

[18] 設問の指示を受けて,申請型義務付け訴訟(不作為型)は本答案には一切書いていない。

[19] 大島・実務解説167頁〔朝倉亮太〕参照。

[20] 大島・実務解説178頁参照〔朝倉亮太〕。

[21] 大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕。

[22] 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)322,326頁,大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕,東京地判昭和39年11月4日行集15巻11号2168頁参照。この基準(規範)についての理由付けは特に要らないだろう。なお,「特段の事情」を違法性阻却事由と整理する立場に立つとしても(大島・実務解説183頁〔朝倉亮太〕参照),答弁書でこの点に関する主張がB市側から出てこないことは実務上普通考えられないように思われることや,答案政策の観点から(一応加点要素と考えられるため),X(原告)側の主張として(先に)書いてしまっても(訴状において主張しても)よいと考えられる。

[23] 本答案例は,司法試験の実施日が「法律事務所の会議録」の会議日であることを前提に書いたものである。

[24] 大島・実務解説188~190頁〔朝倉亮太〕参照。

[25] 宇賀・概説Ⅱ327頁,東京地判昭和52年9月21日行集28巻9号973頁参照。

[26] 宇賀・概説Ⅱ326~327頁,熊本地判昭和51年12月15日判例時報835号3頁参照。

[27] 一応規範らしい規範を立てることを試みたが,第3の1の違法事由については,条文→趣旨→規範→あてはめのスタイルで書かなくても,(本答案例のように)条文→あてはめで書くだけでも十分合格することができるレベルの答案となるだろう。

[28] 本答案例第3の1の部分は,「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)の要件該当性や,「主として農地用の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き),土地改良「事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)の各要件該当性につき,行政裁量(要件裁量)が否定されるものと解することを前提とする内容となっている。要件裁量の認否も(半ば無理やり)論点にすることもできるかもしれないが,書くべき優先順位は低い論点であるし,また,本試験でこのことまで書いている時間的余裕はないと思われる。

[29] (Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の合理的調整いわば2項対立の調整)をいう視点は,令和2年司法試験予備試験論文行政法や,令和3年司法試験論文行政法で出題される個別法の制度や特定の条文等の趣旨や目的を解釈する(答案に示す)ために有用であると考えられる。ちなみに,(Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の各キーワードないし具体的記述については,本答案例のように,個別法の関係条文を参考に書いていくと良いだろう。

[30] 旧監獄法施行規則事件(最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁)の1審(東京地判昭和61年9月25日民集45巻6号1069頁)・2審(東京高判昭和62年11月25日民集45巻6号1089頁)は,法規命令の限定解釈によって法規命令自体は適法有効であると解釈していた(岡崎勝彦「判批」(最三小判平成3年7月9日解説)小早川光郎=宇賀克也=交告尚史編『行政判例百選Ⅰ〔第5版〕』(有斐閣,2006年)98~99頁(99頁)・48事件参照)。なお,これは,憲法学における合憲限定解釈に似ているものといえよう。

[31] なお,上記(1) (ⅰ´)(ⅱ´)の判断につき,仮にB市長に行政裁量要件裁量が認められるとしても,上記(2)の事実関係に関し,重大な事実誤認あるいは考慮不尽が認められるというべきである。よって,裁量権の逸脱濫用(行訴法30条)の違法があるから,同法施行令9条・同法13条2項5号の解釈適用に係る違法事由があるといえる。もっとも,この裁量統制の話は,そもそも裁量が認められるか微妙であることに加え,配点が大きくない箇所と考えられるため,答案に書く必要はないと思われる。

 

※ 出題趣旨公表後に、第1の2(3)アイの一部を若干ですが修正しました。