平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2) 原告適格の「正解」と「下位論点」

今週は様々な「意見交換会」が続き,ここのところ中々更新できなかったが,今回は,平成29年司法試験 公法系第2問(論文行政法)の感想の続きを書き進めることとする。なお,行政法の方に筆者の興味が移ってしまったことから,平成29年司法試験 公法系第1問の感想は(1)から(5)まで書いたが,お休み中である。

 

さて,前回ブログでも述べたが,行政法は誘導がかなりある上,出題趣旨や採点実感も比較的具体的に詳しく書かれているので,毎年のことではあるが,同じ公法系科目でも憲法とは異なり,問題の解説は誰がやってもそれほど大きくは変わらない部分が多いだろう[1]

 

しかし,少数とは思うが,論点によってはそうでもなさそうである。

そこで,今回は,司法試験にここのところ4年のうち3回出題されている[2]「常連論点」の被処分者以外の者の原告適格の論点を中心に感想を述べたいと思う。なお,基本的には原告適格の話をするわけだが(下記1~3),原告適格と同じく,非申請型義務付け訴訟(1号義務付け訴訟)の訴訟要件である「重大な損害」の話についても最後に少しだけ触れることとする(下記4)。

 

1 司法試験論文における「正解」 ~上位論点と下位論点~

 

原告適格の話に入る前に述べておきたいのは,司法試験論文における「正解」のことである。

 

司法試験論文には「正解がない」などと言われることがあるところ,確かに,「正解」が結論の当否を意味するものであれば,設問等で指示がない限り,基本的には上記格言(?)は正しいものであることが少なくない。

例を挙げると,行政法の各違法事由の話では,最終的な結論を違法とするか適法とするかはどちらでも良く,結論がどちらかにより得点差がつくことは多くない。他方,その理由付けの説得力の程度によって評価が決まる場合が殆どといえる。

あるいは,訴訟要件の話でいえば,ある訴訟要件を認めるか認めないかにつき,結論はどちらでも良く,その理由付けに点数がふられているわけである。もちろん,判例学説上ほぼ争いがないことなどから,あまり問題にならないような訴訟要件を書かなければならない場合もあり,そのような場合には,結論も判例等の立場に合致していることが必要となる。

 

しかし,司法試験論文では,①答案に論じるべき論点を設定した上で,②その論点の中で特に問題となる事項(それが1つとは限らない),すなわち,いわば論点の中の論点(以下「下位論点」という。また,上記①の「論点」を「上位論点」という。)を選定し,その下位論点を(も)ある程度丁寧に論じる必要がある。そして,この意味では,司法試験論文には,「正解」があるといわなければならない。

 

さらに言えば,概ねE評価以上の答案の多くは,①上位論点の点では差がつかず,②下位論点のところで差が付くのである。

私も司法試験受験生時代に,同じ「論点」を書けているのになぜ上位答案と下位答案があるのかという疑問に直面したことがあるが,そこで言われる「論点」とは,①上位論点のことを指すことが圧倒的に多かったわけである。

 

確かに,①上位論点を落とせば,いわゆる「死因」(大きなミス)と言われるわけで,それでは合格答案には届かなくなる蓋然性が相当程度高くなる。

しかし,②下位論点の選定を誤った場合にも,それなりの得点差がつくものと思われる。実際の合否・当落のラインは,むしろ,②下位論点の選定が正しかったかで決まると考えておくべきであろう。②正しい下位論点まで選定できていること,そこまで明記できていることが司法試験における「正解」なのである。

 

そして,②下位論点を正しく見つけられるかについては,当該上位論点に関する一定程度の深い理解が必要となる。抽象論の前置きはこのくらいにして,以下,原告適格という上位論点につき,具体的に,その下位論点に関する解説を試みる。

 

2 原告適格の下位論点 ~厚く論じるべき利益の選定~

 

被処分者以外の者の原告適格の認否という①上位論点における②下位論点として,最も重要なものは,何の利益について中心的に論じるべきかである。この点を正しく理解できているか(それが答案に表現されているか)という点に,上記1の意味での「正解」が存するといえる。

 

その前提として,前回のブログの一部を殆ど繰り返すが,被処分者以外の者の原告適格については,以下の枠内の論証パターン(ただし,長めのversion [3])が通用する。

  この点につき,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,かかる利益が認められるには,行訴法9条2項の考慮事項に照らし,①当該処分が原告を含む不特定多数者の一定の具体的利益に対する侵害を伴うものであること,②その利益が当該処分の根拠法規(当該処分に関する個々の立法)により保護される利益の範囲に含まれるものであること,③その場合の根拠法規(立法)の趣旨が,その利益を一般的公益としてではなく,原告ら自身の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える。

 

このように,答案には,上記論パを貼り付けた後,上記①の不利益要件の話,あるいは原告が主張する利益の内容の話を,まずは書くべきこととなる[4]

そして,受験生としては,(a)原告適格に関する近時の最高裁判例の大まかな流れ(主に行訴法9条2項の第2の必要的考慮事項(利益の内容・性質論)原告適格(個別保護要件)の認否に関する判例の流れ)と,(b)司法試験論文行政法の出題傾向を知っておく必要があるだろう。そうでなければ,前回のブログ述べた「早押しクイズ」としての司法試験行政法に十分対応できず,迅速に厚く書くべき下位論点を選定することは困難だからである。

 

(1) 判例の流れ

まず,上記判例の流れについては,平成16年行政事件訴訟法改正の前後で大別するのが一般的であろうが,ここでは,司法試験との関係で特に必要な改正後の流れについて述べることとし,また,以下の(ⅰ)~(ⅲ)の3つの利益に分類・整理をし,それぞれに関係する判例の要点を押さえることとする。

研究者の先生方の基本書等のうち,この3分類が明記されているものは多くはないように思われるが,司法試験論文行政法を分析してきた結果,試験に合格することとの関係では,それなりに使える分類ではないかと思われるので,受験生の皆様において参考にしていただけると幸甚である。なお,この3分類は,取消訴訟原告適格(行訴法9条1項(・2項))だけではなく,平成29年で問われた非申請型義務付け訴訟の原告適格(同法37条の2第3項・4項・9条2項)でも使える話である。

 

(ⅰ)私益1:生命・身体(健康)

生命・身体(健康)という私的利益(私益:公益との対比で用いている)については,直接的かつ重大な(あるいは,著しい)被害を受ける者については原告適格が認められるものとされてきた[5]

また,原告適格を肯定するための条文上の根拠は,次の(ⅱ)の場合ほどには厳格に要求されてこなかったものといえる。手がかりとなる明確な根拠法令の根拠規定・条文がない場合であっても,利益が害された場合に上記被害を受けるリスクがあるといえる場合には,判例は概ね個別保護性を肯定してきたわけである。

なお,この立場は上記改正前後であまり変わっていないものと思われる。

 

(ⅱ)私益2:財産・営業上の利益

財産に係る利益・営業上の利益(憲法では29条や22条の問題)については,(ⅰ)よりも条文上の根拠が厳格に要求される。長くなるため詳しい解説は控えるが,都市計画法1条には「財産」と書いていないが,建築基準法1条には「財産」と書いてある点を重視し,最高判判例の結論が分かれた(川崎市開発許可事件[6]で肯定,千代田生命総合設計許可事件[7]で否定)とする理解もあるくらいである。

 

そして,(ⅰ)と(ⅱ)は,個々人に帰属する私人の利益・私益であり,不特定多数人の者の利益・公益とは対極にある利益概念といえる。

 

(ⅲ)生活利益等

最後に,純粋な私益とはいえないもの(公益と私益との中間的な利益と位置付けるべきもの)だろうが,生活環境・住環境,交通・教育・風紀,都市環境・景観等に係る利益について,判例は微妙な立場をとっている。

 

すなわち,最高裁は,平成16年改正法以降も,(広い意味での)生活環境・住環境等に関する住民の利益について,原告適格(個別保護要件)を積極的に肯定してきたとまではいえない。例えば,具体的な生命・健康の被害を受けない利益と直ちには言えなくても[8],いわゆる(あ)嫌忌施設の周辺住民が同施設から生じる騒音等の被害(ストレス等)を受けない住民の[9]利益や,(い)交通・風紀・教育に関する住民の利益,(う)都市環境・景観に関する住民の利益については,原告適格が肯定されることはそれほど多くはない[10]

 

ちなみに,(ⅲ)の生活環境に係る利益の「生活」とは,日常生活を意味するものと考えられる。これに対し,(ⅰ)の利益は,逆のいわば非日常のケースのもの(例えば,隣の違法建物物が震度4程度の地震で倒れてきて,自己の家屋や生命・身体に被害を受けるような場合の利益)といえるのではないだろうか。

 

やや繰り返しになるが,この日常生活における(ⅲ)生活環境等に係る利益は,非日常における(ⅰ)の健康に係る利益と,極力,区別されるべきものであろう[11]

そこで,答案では,上記①の不利益要件を検討する段階で,(ⅰ)の利益の問題として論じ始めるのか,(ⅲ)の利益の問題として論じ始めるのかを明記すべきである。この最初の①不利益要件(利益の内容・性質の選定)のレベルに,合否・当落のボーダーラインがあると言っても過言ではないと思われる。

 

例えば,日照に係る利益についての最高裁判例[12]があるが,基本的には,この利益も,まずは(ⅲ)の利益の問題(行訴法9条2項の第2の必要的考慮事項)として検討を始める必要があろう。日照侵害に伴い「健康」被害が生じうることはあるかもしれないが,日照に係る利益は,一般的には直ちに健康被害につながるものではないため,①不利益要件の段階では(ⅰ)の利益ではなく,(ⅲ)の利益の問題として検討を始め,その上で,(②保護範囲要件又は)③の個別保護要件の段階で,その利益が侵害された場合の被害の程度等(行訴法9条2項の第4の必要的考慮事項)として,健康被害につながりうる重大な利益侵害となるとの論述をすべきものといえる。①の段階から「健康」被害を強調することは,(ⅰ)と(ⅲ)の利益の性質を理解できてないものと採点者に評価されるリスクがあると思われる。

 

ちなみに,同判例の調査官解説[13]は,総合設計許可制度の処分要件を定めた規定について次のとおり説明をする。「建築基準法59条の2第1項は,建築される建築物の規模,形態を抑制し,建築される建築物の敷地上に必要な空聞を確保することにより,周辺の他の建築物を保護し,これを通じてその居住者,所有者の個別,具体的利益の保護を図るものである。このようにして保護される個別,具体的利益には, 同項に基づく総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物が含まれると解される(第三小法廷判決)が,これらに尽きるものではなく,災害の発生とは無関係に当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康も含まれるものと解するのが相当である。本判決〔筆者注:最一小判平成14年3月28日〕はそのことを明らかにしたものである。」と。

この判例の読み方は一様ではないかもしれないが,「当該処分において考慮されるべき利益」(行訴法9条2項)を「日照」として捉え,同利益が原告から主張される利益であるとして上で[14],法令違反があった場合に「害されることとなる利益」が日照を阻害される周辺住民の「健康」であることに鑑み,一定の範囲で原告適格を認めうるとしたものと解される。

 

ただし,航空運送事業大規模な工事を伴う事業に伴う騒音等が生じるケースについては,健康と生活環境を分けて論じにくいものと思われる。この点については,著名な小田急高架訴訟大法廷判決[15]が,都市計画事業の認可に関する規定につき,「事業地の周辺地域に居住する住民に対し,違法な事業に起因する「騒音,振動等」によってこのような「健康又は生活環境」に係る著しい被害を(直接的に)受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されると判示しているため,大規模な事業ケースに関しては,①不利益要件の段階から,健康と生活環境を一緒に論じてしまってもよいのかもしれない。しかし,私としては,このようなケースであっても,問題文や弁護士等による会話文(誘導文)に照らし,原告が特に生活環境に係る利益の主張をしているということが分かれば,まずは生活環境に係る利益を①不利益要件のところで書き,③個別保護要件の段階で「健康」被害やその程度等に言及した方が良いのではないかと考えている。

 

なお,一般消費者の利益や学術研究者の利益については,最高裁原告適格を否定する[16]ため,このような利益が司法試験で問われることは,中々ないだろうが,配点の小さいサブの問題(サブの「下位論点」)として問われる可能性はあろう。

 

(2) 司法試験論文行政法の出題傾向(原告適格に関する頻出「下位論点」)

 

次に,司法試験論文行政法の出題傾向,つまり,原告適格につき,良く出る「下位論点」の話をする。

 

平成18年以降の(新)司法試験論文行政法では,(ⅰ)の私益が問われることは少なく(薄く書くべきサブの下位論点では聞かれるが,メインでは聞かれないと言う意味),逆に,(ⅱ)・(ⅲ)の利益が答案に書くべき下位論点として出題されやすいという傾向がある。

(ⅰ)の話が全く問われないというわけではない(実際に平成21年ではメインの下位論点として聞かれている)が,司法試験では,認否の結論が分かれ得る問題が出る(前記1)ことからすれば,(ⅱ)・(ⅲ)が出やすいという傾向は自然なことといえるだろう。

 

まとめると,次の枠内のとおりとなる。

 

 〔被処分者以外の原告適格の認否と出題の傾向〕

 

(ⅰ)私益1:生命・身体(健康)

    → ○(~△)

     / 司法試験ではあまり出ない(①H21(F,H))

 

(ⅱ)私益2:財産に係る利益・営業上の利益

    → △(基本的に条文の根拠が必要)

     / 司法試験に出やすい(①H21(G),②H23(X1),③H26)

                      

(ⅲ)生活環境・都市環境・景観に係る利益,風紀に係る利益等

    →  △~× / 司法試験に出やすい(①H23(X2),②H28,③H29(X2))

 

(ⅳ)その他:親の子どもの身体の安全等に関する精神的利益

    → × / 司法試験にあまり出ない(①H21(I))

 

  ※○=認められやすい

   △=認められる場合の方が多いが,認められないこともある

   ×=そう簡単には認められない

 

  ※H●●は,その年にメインの下位論点として問われたことを意味するものである。

   例えば,H29=平成29年ではX1の利益として(ⅳ)が一応問われていると考えることもできなくはないが,仮に問われているとしても,メインの下位論点として問われているわけではなく,サブの下位論点として出題されているものである(配点が低いため,最悪書き落としてもよいレベルのものだろう)。

 

 

以上のことから,司法試験論文行政法では,論じるべき下位論点が(ⅰ)でななく(ⅲ)なのではないかというある種の予断(ここでは決して悪い意味のものではない)をもって問題文を読む方がよいのではないかと思われる。

 

 

3 平成29年の下位論点(厚く論じるべき利益)

(1) 厚く論じるべきメインの利益は,通学のための日常生活上の道路使用の利益

平成29年の問題文2頁から3頁にかけての事実関係によると,次の(α)・(β)・(γ)の3つの事情が書かれており,それぞれについての利益がXらの原告適格を基礎づけるものかが問題となっている。

 

まず,(α)X2は,C小学校への通学路として本件市道を利用しており,C小学校まではB通りを通っても行くことができるが,周辺の道路状況から,本件市道を通るほうが,C小学校までの距離は約400メートル短いものとされている。

 

そして,問題文8頁の最一小判昭和39116民集18巻1号1頁の「自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用」・「日常生活上諸般の利益」(下線は筆者)という判示を参考に考えるべきことや,同判例の詳細な解説[17]の内容,さらに,上記2の判例の流れ及び司法試験の出題傾向に照らせば,X2の(ⅲ)の生活上の利益がメインの下位論点(配点が高いもの)となるものと考えられる。

 

逆に,(ⅰ)の「生命・身体」の利益等はサブの下位論点にとどまり,配点は低いだろう。

すなわち,(β)普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で,B通りよりも本件市道のほうがX2にとって安全であるとX1が考えているという点については,上記まとめにおける(ⅳ)のX1(親)の精神的な利益の問題といえる。また,仮に(ⅰ)のX2の生命・身体の安全が問題となっているとしても,直接的かつ重大な被害を受けるおそれを推察させる事情は本問には出てきていないと思われる。

したがって(β)の事情に関する利益((ⅳ),(ⅰ))は,サブの下位論点の話であり,配点は低い。

なお,会話文の冒頭部分(問題文4頁・弁護士D第1発言)からすると,(β)の利益については論じなくてもOKといえるかもしれない(ただし,次の(γ)の事情に係る利益については短く論じる必要がある)。

 

さらに,(γ)C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xらとしては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であったとの点については,(ⅲ)の生活上の利益(避難経路として市道を利用する利益)の問題として一応論じられるべきものといえよう。

しかし,緊急避難は日常の問題ではなく,本問では別の避難経路(B通り)が確保されているため,家屋から出られなくなるわけではなく,400メートル避難場所へ遠くなる程度では避難場所に避難できなくなるというわけでもないから,個別保護要件を満たすものとは考えらず,ゆえに,Xらの原告適格を基礎づけられるものではない。

また,災害時といっても隣の家が直ちに倒れてくるという場合を前提とするものではないため,仮に(ⅰ)のXらの生命・身体の利益の問題と捉えたとしても,直接的かつ重大な被害を受けるおそれはないから,(ⅰ)の利益の問題と捉えたとしても,やはり原告適格を基礎づけることはできない。

 

なお,(γ)については,平成21年の過去問(建築基準法等)の接道要件に関する話と混同してしまうと,(γ)(あるいは(β))の事情に係る諸利益がメインの下位論点となるものではないかと誤解してしまうこととなるように思われ[18],注意が必要である。

 

したがって(γ)の利益も,(β)の利益と同じく,サブの下位論点の話であり,配点は低い。

 

(2) 答案のポイント

 

以上より,平成29年司法試験論文行政法では,(α)のX2が小学校に通うために日常的に道路を使用・通行する利益(:(ⅲ)の生活上の利益)をメインの下位論点として厚く書くべきであり,①不利益要件の段階で,この点を明記すべきである。逆に,(β)及び(γ)の話は薄く触れる程度(原告適格は否定)で良いだろう。

 

その上で,②保護範囲要件のレベルでは,道路法71条1項1号・43条2号(,法1条)に言及し,小学生が通学のために日常的に道路を使用・通行する利益が道路法により保護される範囲に含まれるものであることを指摘する必要がある。

さらに,③個別保護要件の段階で,同利益が著しく害されると,小学生が自宅での勉強やそれ以外の諸活動に充てられる時間が減り(月単位・年単位でみると相当な時間のロスとなる),日々の学習等(小学生の生活上必須の行動)にも支障が生じると考えられることから,通学のために道路の使用ができなくなることにより日常生活に係る著しい被害を受けない具体的利益は,一般的な公益に吸収解消されるものではなく,法により個別的に保護されるものといえるなどと書くべきである。

 

加えて,(α)X2の利益については,「400メートル」という事実をいかに評価するかがポイントとなる。往復で800メートルとすると,小学生の足では徒歩10分程度といえよう(自転車通学は危険であるから禁止されていると思われる)。週に5日で約1時間弱の時間を通学時間に取られるとなると,上記のとおり日々の学習等にも著しい支障が生じると思われる。したがって,X2は通学のために本件市道を使用できなくなることにより日常生活に係る著しい被害を受けることとなるものといえるから,X2には原告適格が認められる。

 

他方,上記(1)のとおり,X1の話はサブの下位論点であり,X1には原告適格が認められないということになるだろう。

 

 

4 重大な損害について

最後に,「重大な損害」(行訴法37条の2第1項(・2項))の論点について,簡単に述べておく。

 

条文(行訴法37条の2)で出てくる順番には反するが,考査委員である中原教授の検討順序[19]等からすると,原告適格の話を先に,重大な損害の話を後に書くべきである。

 

★追記(平成29年司法試験論文式試験出題趣旨公表後)★ 

 出題者は重大な損害の話を先に,原告適格の話を後で書いてほしいと考えているようである(平成29年司法試験出題趣旨3頁・本文第2段落,第3段落以下)。条文(行訴法37条の2)の順番のとおりに書くべきということだと思われる。

 

重大な損害は,原告適格が認められるよりもハードルが高いものと考えられる[20]が,本問では,X2が現実に通学路として使用していることに加え,X2の上記日常生活の利益に係る著しい支障は,小学生の成長発達(憲法26条1項参照)にも相当適度の支障を生じさせるおそれがあり,子どもの成長発達は金銭的には評価しえない,かけがえのない利益であるから,「重大な損害」が認められるといえることになるだろう[21]

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(3)に続く。) 

 

 

 

[1] 大島義則『行政法ガール』(法律文化社,2014年)202頁も,同主旨のコメントをしているように思われる。同頁は,「『もうそこに,ほどんど答えが書いてあるんじゃないのか』というほど強烈な『誘導』がある」,「行政法の問題では『設問』と『誘導』に基づいて整理すれば,ほとんど一義的に大まかな答案構成が決定される」としている。なお,当職が今更述べるまでもないことではあるが,同書は司法試験論文行政法を分析・理解するのに極めて有用な書籍である。念のため付言すると,『行政法カール』ではない。注意されたい。

[2] 被処分者以外の者の原告適格の認否は,予備試験も併せてカウントすると,平成25年からカウントして5年のうち4回出題も出題されている頻出論点である。

[3] 判例の定式をパラフレーズしたもので,元司法試験考査委員の山本隆司先生が言及される立場(小早川光郎先生の立場)を参考にしたものである(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)433頁参照)。ちなみに,論証における①は不利益要件,②は保護範囲要件,③は個別保護要件と呼ばれる。書き易く,かつ,あてはめもし易いものと思われ,オススメである。ちなみに,平成21年論文公法系論文5番以内=160点台,論文総合1位合格者答案も似たような規範を書いている。なお,①部分については,「当該処分により不利益を受け,または受けるおそれがあること」としてもよいだろう。

[4] 最高裁判例は必ずしも①→②→③という流れで判示していないように思われるが,①→②→③の順で書く方が,論者の思考過程が考査委員に伝わりやすいことから,答案ではこの流れで書くべきものと思われる。

[5] 例えば,最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁,大西有二「判批」宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2012年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)354~355頁(171事件,もんじゅ事件)。

[6] 最三小判平成9年1月28日民集51巻1号250頁。

[7] 最三小判平成14年1月22日民集56巻1号46頁,百選Ⅱ364~365頁(176事件)〔仲野武志〕。なお,同じく総合設計許可制度に関する東京地判平成23年9月30日判時2156号30頁の判例評釈として「建築基準法上の総合設計許可処分に際しての公開空地の有効係数評価と特定行政庁の裁量」自治研究89巻11号114頁。

[8] 福島第一原発の異常確認後に繰り返し言われ続けられた「直ちに健康に影響はない」との格言を想起することにより,記憶の補助とすべきである。

[9] 「住民」の利益であって,事業者の利益とは区別されるべきである。事業者の利益は,基本的には(ⅱ)の営業上の利益に位置付けられるものと解される。ちなみに,後掲注(10)・サテライト大阪事件最高裁判決は,医療施設等の開設者の「健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益」(下線は筆者)について判示しており,平成21年司法試験論文行政法の学校法人X1の原告適格についても同様に問題とされるべき利益(「文教上の利益」(出題趣旨2頁))が出題された。この「文教上の利益」は,上記判示に照らすと法人の「業務」についての利益であり,主として営業の利益であるものと捉えられるだろう。

[10] 最一小判平成21年10月15日民集63巻8号1711頁,勢一智子「判批」百選Ⅱ368~369頁(178事件,サテライト大阪事件)等参照。なお,(あ)~(う)をいっしょくたに論じることには問題があるとの批判もあろうが,司法試験では弁護士等による会話文(誘導文)があることなどから,試験合格との関係では,それほど大きな問題はないだろう。

[11] ただし,このような見解か正しいか否かについては十分な検証ができていない。

[12] 最一小判平成14年3月28日民集56巻3号613頁。

[13] 髙世三郎「判解」最判解民事平成14年度(上)307頁。

[14] 髙世・前掲注(13)307~308頁等参照。

[15] 最大判平成17年12月7日民集59巻10号2645頁,百選Ⅱ366~367頁(177事件)〔横山信二〕。

[16] 前者につき,最大判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁,岡田周一「判批」百選Ⅱ294~295頁(141事件,主婦連ジュース事件)。後者につき,最大判平成元年6月20日判時1334号201頁,平田和一「判批」百選Ⅱ358~359頁(173事件,伊場遺跡訴訟)。

[17] 石井昇「道路の自由使用と私人の地位―路線廃止等における反射的利益―」小早川光郎=高橋滋『行政法と法の支配』(有斐閣,平成11年)13頁以下。なお,同書は南博方先生の古稀記念論文集である。

[18] この点に関し,石井・前掲注(17)25頁以下参照。

[19] 中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)(363~)368頁。同様の順番で検討するものとして,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)221~222頁。なお,宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015年)344~345頁は,これらの文献とは逆に,条文の項数の順に従い,原告適格よりも重大な損害を先に挙げている。

[20] 中原・前掲注(19)367~368頁参照。

[21] 「重大な損害を生ずるおそれ」と認められる場合はどのような場合かにつき,小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)126~129頁〔横田明美〕,及び同文献掲載の各判例・裁判例等を参照。

 

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