あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の補助金不交付決定の争い方(訴訟等の類型)
おはようございますm(_ _)m
久しぶりのブログ更新となりますm(_ _)mm(_ _)m
ここのところ、連日のように報道されている、あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の件ですが、すべての報道を漏れなくチェックしているわけではないのですが、意外と、訴訟類型を含む争訟類型についての報道は未だなさそうです。
その要因は、文化庁の補助金不交付決定(補助金適正化法6条1項、申請拒否処分)の違憲、違法性についての憲法学者への取材が先行し、争訟類型についての行政法学者への取材が殆どなされていないからではないかと思います。
そこで、本件は私の研究する行政不服審査とも関係する分野でもあることから、以下、自分のツイートを多少整理することで、争訟類型についてのメモを残しておくこととします。
なお、私である必要はないと思っていますが(とはいえ、私は昨日(2019年9月27日(金)午後、新聞記者の方から電話による取材を受けていますが)、行政法学者・行政法学者(あるいは行政事件を取り扱う弁護士)の意見が世間にもっと広く認識されることが望ましいのではないかと考えています。
1 争訟類型のツイートまとめ
報道では、交付申請の手続きが「不適当」であったと判断し、不交付決定をしたということだが、この決定は、行政手続法でいうと申請拒否処分である
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
争訟類型は報道では多分整理されていないと思うが、まず当初報道されていた①国地方係争処理委員会での審査は、そもそもできない(地方自治法245条参照)
②行政救済につき、一般私人は行政不服審査法の審査請求で争うが、自治体は「補助金等の交付の決定……その他補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分に対して不服のある地方公共団体……は……各省各庁の長に対して不服を申し出ることができる」(補助金適正化法25条1項)とされている(特例規定)
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
③次に訴訟類型(裁判所に出訴)。自治体も、一般私人同様、行政事件訴訟法上の抗告訴訟を提起できると解される
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
取消訴訟だけを提起するか申請型義務付けも付けるかは問題だが、義務付けまでやると違法事由の基準時が処分時までのものとならないので、本件では恐らく取消訴訟だけ提起する方が良さそう
報道によると、愛知県側は、裁判所への訴訟一本で行くと(知事が)述べているようであるが、↑の③は、一応解釈の話なので、②の補助金適正化法25条の不服の申出もしておいた方が無難ではないかと思われる。なお、地方自治体は、行政不服審査法に基づく審査請求はできないものと解される(同法1条1項参照)
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
というわけで、当初、国地方係争処理委員会での審査をやる(審査結果等に不服の場合等には、機関訴訟(行政事件訴訟法6条)に移行することになっているもの)、といった報道というか、愛知県知事の発言があったようですが、これは、上記ツイートで述べているとおり、そもそも今回の補助金不交付決定は、同審査の対象とはならないものなので(国の地方への関「関与」(あくまで地方自治法上の「関与」)に当たらないので)、知事が法律を誤解していたことに基づく発言であったように思われます(弁護士に相談して後で意見を変えたように見えるが、このようなことからみても、やはり弁護士への相談は早期に行うべきですね)。
2 不交付決定の違法事由(違憲性)について
これまでの新聞報道によると、どうもこれは、不利益処分ではなく、申請拒否処分ということのようですね。そうすると(実は本日の電話取材で記者の方にもお伝えしたことですが)補助金適正化法6条1項に係る違法事由(要件裁量の逸脱濫用)が争点となりそうです。平等原則のよる統制等も問題になりますね
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
外部有識者による審査をパス(採択)しているので、これが補助金適正化法6条1項の要件判断につきどの程度重視されるかがポイントかと…
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2019年9月27日
あと、不利益処分と構成する場合の②授益的処分の取消しor撤回の可否、③比例原則については、基本的には、争点にはならなそうですhttps://t.co/Nsq8Nc12fU
ということで、平等原則や表現の自由といった問題は、この補助金適正化法6条1項の解釈適用に際して(同項に係る違法事由の主張の中で)論じられることになるものかと考えられます。同項には要件裁量が認められると考えられるため、その裁量統制(平等原則違反といった実体的審査あるいは判断過程審査、基本的には、考慮事項論の話のところで、表現の自由の話が登場)がメイン論点となります。
このあたりも、上記争訟類型のことと同じく、恐らく未だ(全くあるいは殆ど)報道されていないという印象ですね。
3 補助金不交付決定の前になされている「採択」について
なお、私は以前、弁護士の先生からご依頼いただき、別件で補助金適正化法の適用に関する意見書を書く仕事をしたことがありまして(某地方裁判所に提出)、少しずつ思い出してきたのですが(少し前のことだったので実は当初は忘れていて、新聞記者などの情報をうまく理解できなかったのですが)、今回のニュースで専門家によるチェックである「採択」を経ているというのは、補助金適正化法で明確に規定された行政作用ではなくて、内示ないし内定という事実上の行政作用ということになります。
ですから、このあいトリの不交付決定は、行政手続法的には、不利益処分ではなく、申請に対する処分(そのうちの申請拒否処分)に当たるということになるという理解が正しい理解ではないかと考えます。
ただし、事実上のものとはいえ、採択されたことは、補助金適正化法6条1項の要件解釈とその適用に際してそれなりの重みをもつ(影響を与える)ことだと考えられます。
ということで、メモ程度の簡単なものではありますが、以上、市民の皆様、記者(報道関係者)の皆様、司法試験(予備試験)受験生の皆様、大学生等の皆様の参考になれば、幸いです。