平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(4) 「反論」の正体と“中立意見型”論文問題の答案枠組み(上位規範)

 「息を切らしてさ 駆け抜けた道を 振り返りはしないのさ

ただ未来だけを見据えながら 放つ願い」[1]

 

 

司法試験受験生が受験対策をするには,仮に一度本試験会場で解いた問題であっても,よほど自信がない限り,再検討しておく必要がある。

 

すなわち,司法試験論文において「振り返りはしない」とは,終わったことを何も考えないという意味ではない。答案に書いたことはその時点の自分の力を出したものであるとして“後悔することはしない”ものと限定解釈しなければならないだろう。

 

本試験の問題を再読することになる受験生もいるが,「未来」を見据えるためには必要な作業である。

 

 

 

   ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

<目 次>

 

(1)「設問」の再確認と「法律家甲」の正体

 

(2)「参考とすべき判例」の正体

 

(3)「反論」の正体

  ア 私的諮問機関就任のための委任契約締結

  イ 諮問機関の公正中立性

  ウ 法律家甲=弁護士の場合 ~弁護士の使命と役割~

  エ 法律家甲=憲法学者の場合 ~研究者の職責~

  オ 委任契約の「委任の本旨」における答申(意見)の中立性

  カ 法律家甲の「意見」と「反論」の意味

  キ 「反論」の意味に関する別の解説について

  ク “中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(次回のブログの導入)

 

 

 

 

(1)「設問」の再確認と「法律家甲」の正体

 

「〔設問〕

あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。」

 

平成30年司法試験論文憲法の「法律家甲」とは何者なのか?

 

この問題については,前回のブログで明らかにした。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

「法律家甲」とは,①「弁護士甲」,②「憲法学者甲」,又は③「弁護士であって憲法学者でもある者である甲」であると解される。

 

 

(2)「参考とすべき判例」の正体

 

ちなみに,「参考とすべき判例」とは,平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨1頁記載の「基本判例」を意味するものと考えられる。

 

そして,この「基本判例」の意味については,次のブログで概ね解明済みといえるから,こちらをご一読いただきたい。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

このブログにあるとおり,「基本判例」とは,「弁護士」が「知っている」と考査委員が考える「重要な憲法判例(平成23年論文憲法出題趣旨1頁)のことを意味するものと解される。

そして,おそらく考査委員は,マイナーな地裁レベルの裁判例についても弁護士が知っているだろうとは考えていないだろうから,「基本判例」とは,概ね憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ[第6版]に収載されている判例を意味するものといえる。

 

 

(3)「反論」の正体

 

ア 私的諮問機関就任のための委任契約締結

 

さて,「法律家甲」や「参考とすべき判例」の意味が判ったところで,いよいよ本題の「想定される反論」の正体を探りたい。

 

「法律家甲」が条例案憲法上の問題点につき,一定の意見を述べるに際して,踏まえる必要があるとされる「想定される反論」とは何か?である。この問題は、「法律家甲」がどのような立場に立って「意見」を述べるべきかという問題と密接にかかわる。

 

これを解明するに当たっては,まずは,法律家甲とA市との法律関係法律家甲の法的地位に言及する必要があるだろう。

 

本問の事案で,行政主体であるA市は,A市担当者X(補助機関)をして,法律家甲に「条例案」に関する「憲法上の問題についての意見を求め」ており,A市と法律家甲との間には,行政契約としての委任契約(民法643条)が締結されたものと考えられる。

なぜなら,この場合における法律家甲は,特定の政策課題に外部の専門家等が意見を述べる場合[2]と同様に,私的諮問機関と一般にいわれるもの[3]にあたると考えられるからである。

 

ところで,やや話が脱線するが,委任契約は,原則として無償契約とされている(民法648条1項)[4]が,実務的には,弁護士は通常,契約の相手方が行政主体であっても有償契約を締結するものと思われる。

 

無償であっては弁護士が「食べていけ」なくなり[5],ひいては弁護士自身が「成仏[6]してしまう危険が生じる[7]から,A市と法律家甲は,甲が本条例案に法的意見を述べるに際して有償契約[8](そしておそらく随意契約地方自治法234条1項2項・同法施行令167条の2第1項2号参照,平成22年新司法試験論文行政法参照)を締結したものと予想される。

 

 

イ 諮問機関の公正中立性

 

「成仏」する前に,話を早く本線に戻そう。

 

諮問機関は,「専門的知見の活用,行政過程の公正中立性の確保,利害調整等を目的として,行政庁の諮問を受けて答申を行う権限を有する機関」[9](下線引用者)であり,かかる諮問機関の目的は,法定の諮問機関のみならず,私的諮問機関にも妥当するものだろう[10]

 

重要なのは,あくまで中立」の立場から,ある特定の課題について意見を述べるという上記目的に照らすと,弁護士や研究者が自治体から条例案憲法適合性について諮問を受けた場合に締結する委任契約については私人や私企業から弁護士が訴訟代理人の法律事務の委任を受けるときなどに締結する委任契約の場合とは異なり中立」の立場からの答申(司法試験では解答)が求められているということである。

 

 

ウ 法律家甲=弁護士の場合 ~弁護士の使命と役割~

 

次に,このような「中立」の立場からの答申という点を補強する論拠について,弁護士の使命と研究者の職責について考えてみたい。

 

まずは,弁護士の使命すなわち法律家甲が弁護士の場合について見ていこう(法律家甲が憲法学者の場合については,下記 エ で検討する)。

 

弁護士は,①「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条1項)としつつ,②「当事者その他関係人の依頼等によって法律事務を行うことを職務とする」(同法3条1項)ものである。

 

そして,ここに弁護士の①「公益的役割」と②「当事者の代理人としての役割」という「一見矛盾するかにみえ」る2つの性格が現われており[11],さらに「弁護士の代理人的役割の限界を画するものが,公益的役割であると解する」立場がある。

 

上記①・②のうち,②は,概ね党派性すなわち「依頼者利益の擁護や実現を第一義とすること」[12]に置き換えることができ,また,①は,特定の私益のためではなく広く公益のために中立性公正性[13]のある意見等を述べる役割と言い換えることができると思われる。

 

もっとも,上記の弁護士の②党派性を①中立・公正な立場から公益を保護するとの役割論で限定するといったような立場を採り得る場合があるとしても,このような立場は,私人や私企業と弁護士が訴訟代理人の法律事務の委任を受けるなどの委任契約を締結する場合には妥当しうるが,弁護士が自治体(地方公共団体)から条例案憲法適合性について諮問を受けた場合に締結する委任契約については,実質的には妥当しないといえるか,あるいは,形式的に妥当するとしても②の点が①の点に吸収されるものと解すべきである。

 

というのも,そもそも本条例案のような規制条例(地方自治法14条2項)の案は,「地域における事務」(住民の事務を含むものと解されている[14]。同法2条2項,14条1項)に関する条例の案であり,もとより同事務は公共性のある事務[15]であるから,規制条例の案は公共の利益(公益・公の利益)に関する事務に係る条例案であって,もっぱら特定個人ないし特定の団体や集団の利益(私益ないし集積した私益)を保護することを目的とするものではなく[16],ましてや自治体の長や個々の公務員の利益保護を目的とするものではないからである。

 

ゆえに,自治体が弁護士に規制条例案憲法適合性に関して意見を諮問する場合における委任契約につき,不正確かもしれないが強いて党派性という語を用いて説明を試みるのであれば,自治体を委任者(依頼者)とする場合の弁護士の党派性は,その自治体の住民の利益すなわち公益の擁護(保護)・実現を意味することであるといえるため,このような契約では,弁護士の②党派性を形式的に観念しうるとしても,それは,①中立・公正な立場から公益を保護する役割を演じることを意味することと同じになる(②=①となる)わけである。

 

つまり,この場合における弁護士は,一方当事者の代理人としてのリーガルサービスすなわち「党派的サービス」[17]を提供・供与する者ではなく,「中立的サービス」[18]を提供・供与すべき地位にある者といわなければならない。ここで弁護士には,公益保護のための党派性なき意見の答申が求められているということである。

 

 

エ 法律家甲=憲法学者の場合 ~研究者の職責~

 

次に,法律家甲=研究者(憲法学者)の場合について若干の検討を加えよう。

 

研究ないし研究活動の定義については様々な理解があるように思われるが,ここでは「研究活動とは,特定の団体や集団の利害に囚われることなく,法の解釈や実務の運用について,あるべき姿を探ろうとする知的営為」[19](下線引用者)という伊藤眞先生の定義を採ることとして考えていきたい。

 

そうすると,条例案憲法適合性につき,研究者が私的諮問機関として答申する場合であっても,それは上記研究活動といえるか,あるいは「研究活動の延長」[20]としての活動といえ,ゆえに結論としては弁護士と同じということになる。

すなわち,その答申内容が「公正中立性に裏打ちされた……研究者としての姿勢に基づくもの」[21]でなければならず,依頼する自治体側も「それを期待している」[22]と推察しうることから,このような研究者の職責にも照らすと,研究者にも,公益保護のための党派性なき意見の答申が求められているということになる。

 

 

オ 委任契約の「委任の本旨」における答申(意見)の中立性

 

話を冒頭の委任契約の話に戻そう。

委任契約に係る善管注意義務の内容,すなわち「委任の本旨に従う」(民法644条)こととは,委任契約の目的とその事務の性質に応じて最も合理的に処理する[23]ことを意味するものと解されている。

 

そして,上記 エ で述べたことなどからすると,自治体が規制条例案憲法適合性に関して意見を諮問する場合における自治体・弁護士or憲法学者間の委任契約の委任の本旨(委任の趣旨)は,中立・公正な立場からその自治体における公益を保護・実現する事務を最も合理的に処理することであると解すべきである。[24]

 

とすると,平成30年司法試験論文憲法の設問における法律家甲が弁護士の場合,私人かを依頼者とする場合の党派性を観念することはそもそもできず,ゆえに,法律家甲としては,中立・公正な立場からその自治体における公益を広く保護・実現するための「意見を述べる」(同設問)すなわち答申する法的地位に立つことになる。

 

 

カ 法律家甲の「意見」と「反論」の意味

 

以上より,平成30年司法試験論文憲法の「設問」における法律家甲が述べるべき「意見」は,中立な第三者的立場からの意見を意味し,他の解釈(例えば自治体寄りの立場に立って意見を述べるような解釈)は成り立たないと私は考える。

 

よって,この法律家(弁護士)甲の「意見」に対応する「反論」とは

(A)甲が条例案の特定の条項について違憲だと考えた場合には,その逆の合憲側の理由付けに係る主張を意味し,(B)甲が条例案の特定の条項について合憲だと考えた場合には,その逆の違憲側の理由付けに係る主張を意味するものと解される。

 

平成29年(司法試験論文憲法までの違憲側の主張,合憲側の「反論」・私見という設問の場合における「反論」(合憲側のものに限定される反論)とは異なるということである。[25]

 

また,上記「反論」の捉え方からすると,「反論」を条例案(本条例制定)に反対する市民の側の違憲側の主張のみを意味するものと解することは誤りということになろう(反対に合憲の主張のみを意味するものと解することも誤りであることについては下記 キ 参照)。なぜなら,そのような考え方は甲の「意見」の中立・公正性に適う考え方ではないからである。

 

なお,未だ条例「案」の段階ということで,私見(あるいは「反論」)の部分で,第1回新司法試験(平成18年)の前の年(平成17年)に実施された新司法試験のプレテスト公法系科目第1問の問い2にあったような「違憲の疑いを軽減させる方策」,いわば「ミティゲーション・プラン」[26]に言及し,これを検討すべきかという点も悩ましい問題ではある。

 

しかし,プレテストとは異なり,平成30年の設問等では違憲の疑いを軽減させる方策」まで検討せよと明記されているわけではないのであるから,これを無理に検討する必要はないと思われる。

 

というのも,特に平成30年のようないわゆる多論点型の論文問題では,特に「満遍なく広域制圧型の答案,薄く広くの答案」に「結果的に高い評価を与えなければならない」(下線引用者)[27]という採点傾向があると一応考えられる[28]ことから,個々の論点において,検討が(通常は)難しい方策をつっこんで考えすぎて時間をかけすぎると実質的に時間不足になってしまう(よって低評価となる)リスクが高まるからである。

 

ただし,何かうまい方策を思いついた場合には,1つくらいは書いておくとそれか高評価に結び付くこともあるだろうから,そのくらいの検討はすべきであろう。

 

 

キ 「反論」の意味に関する別の解説について

 

以上のような「反論」の捉え方に対し,次のような解説がある。

 

すなわち,平成30年司法試験論文憲法の設問につき「憲法上の問題について意見を述べなさいとした上で,いかなる憲法上の権利との関係で問題となるのかを明確にし参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい,としている。」とし,「従来の形式との比較でいえば,憲法上の権利の明確化は原告の憲法上の権利の主張と重なり,想定される反論を踏まえる部分は被告の反論に通じるところがある。また,反論と判例を踏まえて論じるという部分は私見と通じるところがある。」[29]と解くものである。

 

かかる解説については,「重なり」とか「通じるところがある」という部分がそれぞれ何を意味するのか,必ずしも明らかではない点が問題であるように思われる。法律家であれば,一義的な語を用いる必要があろう。そして仮に,これらが“共通する”とか“イコール”だといった意味であれば(…あくまで仮定の話であるが),若干のミスリードを招く側面があるものと言わざるを得ないだろう。

 

上記 カ で述べたとおり,平成29年(司法試験論文憲法)までの違憲側の主張,合憲側の「反論」・私見という設問の場合における「反論」(合憲側のものに限定される反論)とは異なるといえるからである。

 

また,そもそも,原告の憲法上の権利の主張においても法曹実務家(訴訟代理人)であれば「判例」は当然に踏まえるものであって,「私見」で初めて触れたり踏まえたりするものではないから,やはり上記解説文は,受験生等の読者に誤解を生じさせる側面がある(全面的におかしいと批判するものではない)と言わざるを得ないだろう。

 

安念潤司教授も次のとおり指摘する。

 

「最低限いえるのは,実務家になる以上,判例の知識を披瀝することが『マスト』だということだ。判例は実務家にとって端的に法であり,一に制定法,二に判例,三・四がなくて五もないといっていいくらいである判例に比べれば学説などとるに足りない。これを私は,脚韻を踏んで判例はカミ,学説はゴミ』と数えてきた。」[30]

 

なお,安念先生こそ司法試験受験生にとって「カミ」ではないかと思われるわけであるが,このことについては,次のブログを参照されたい。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

とはいえ,上記解説が,<「反論」ではすべて合憲論(合憲側の理由)を書くというルール・縛りを自分の中で作り,その上で(あ)憲法上の問題点+予想される違憲論と,(い)「反論」=合憲論をぶつけ合わせ,最終的に何らかの理由を付して(あ)か(い)のどちらかを選ぶというものを「法律家甲」の「意見」とするという答案政策>をオススメするという趣旨に出たものであれば(これも仮定の話だが),それは一定数の受験生にとって有益なものといえるだろう。

(下記 ク の書き方とは若干異なるが)このような書き方であっても,特に主要な論点については,「設問」に解答したことにはなると思われるし,受験生としてもかなり機械的答案を書いていくことができるからである。

 

 

ク “中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(次回のブログの導入)

 

さて,以上のことから,私の考える“中立意見型[31]の問題(平成30年司法試験論文憲法及び新司法試験プレテスト論文憲法(公法系第1問)がこれに当たる。)の答案構成の大枠(答案フレーム)は次の通りとなる。答案枠組みの上位規範(上位ルール)ということもできるだろう。

 

くどいようだが,平成30年の「設問」を再確認する。

 

「〔設問〕

あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。」

 

 

この設問に対し,私のオススメする答案枠組みの上位規範(上位ルール)は次のとおりである。

 

「法律家甲」としては,

①本条例案各関係条項の憲法上の問題点について短く(憲法の条項とともに概ね3行程度くらいで)指摘して憲法上の論点を明確にした上で,

 ↓

中立の立場に立って,(基本的には)参考とすべき判例を踏まえつつ[32]違憲論又は合憲論の私見を展開し,

 ↓

必要に応じて,その私見とは反対の側の理由付けである「反論」(反論について参考とすべき判例もありうる[33]を書きつつその反論に対する私見側からの再反論(反論への批判・反論潰しの主張)を書くべきである。

 

 

ここで,③の点で「必要に応じて」反論を書くべきとしたのは,前述したとおり,特に「満遍なく広域制圧型の答案,薄く広くの答案」に「結果的に高い評価」が付く傾向がある平成30年のような問題では,いくつかの論点(例:検閲,条例の法律適合性など比較的合憲と言い易いもの)では②私見までしか書かず,他方,主要な(配点の大きそうな)論点では,③反論・再反論まで書くという方法(答案枠組み)による方が効率よく得点を稼げるのではないかと考えるからである。

 

ただし,主要な論点以外の配点の低い論点に触れるとしても,そのような論点に時間や答案スペースを必要以上に割いてしまうと,その反動で,主要な論点の記載が不十分となることになりうるから,例えば,答案を書き出すまでに時間をかけ過ぎてしまったという場合や,もともとそこまで多くの枚数をかけないというタイプの受験生[34]であれば,あえて配点の低そうな論点については“捨てる”[35](あえて触れない・書かない)という答案政策を適宜採ることもアリだと思われる(“捨てる”ことについてはそれなりの勇気が必要だとは思う)。

 

ちなみに,このような答案枠組みに関し,設問には「参考とすべき判例及び想定される反論」とか「参考とすべき判例想定される反論」とは書かれておらず,「参考とすべき判例想定される反論」と書かれている点にもそれなりの意味があると思われる。

 

すなわち,並立助詞としての「や」が「日本人は正月に神社やお寺に行く」[36]の場合の「や」の場合のようにand/orand又はorを意味するものと考えられる場合には,すべての触れるべき論点のうち,特定の(いくつかの)論点については必ずしも「判例」と「反論」両方を書かなくても良いということになるものと考えられるのである。

 

加えて,設問には判例」の方が先に書かれていること(「想定される反論や参考とすべき判例」とは書かれていないこと)や上記の安念先生の格言ないし標語にも照らすと,優先順位としては当該論点と関連性のある「判例」(上記(2)参照)があれば,その判例の方を優先的に書く必要があるといえよう。

 

以上,司法試験受験生・予備試験受験生の参考になれば幸いである。

 

 

 

   ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

次回は,上記の“中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(上位ルール)を前提とする,答案枠組みの下位規範下位ルール,上位規範(上位ルール)をある程度詳しく具体化するものについて検討する。

 

法律家甲の「意見」・「判例」・「反論」を効率的に書くための答案枠組みを提示したい。

 

 

 

「さあ次の扉をノックしよう」[37]

 

 

 

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[1] Mr.Children桜井和寿作詞・作曲)「終わりなき旅」(1998年)。なお,同趣旨の歌詞として「バックミラーはいらない 振り向くつもりもない」(B’zKOSHI INABA作詞・TAK MATSUMOTO作曲)「CHAMP」(2017年))がある。道交法違反である。

[2] 塩野宏行政法Ⅲ[第四版] 行政組織法』(有斐閣,2012年)(以下「塩野・行政法Ⅲ」という。)・行政法Ⅲ88頁。

[3] 塩野・行政法Ⅲ88頁。この点に関し,同頁は,私的諮問機関を「国組法上の行政機関として位置づけることはできない」とし,私的諮問機関の構成員については「国家公務員法上の公務員(非常勤職員)としての任命行為が行われている」ものではないから,「国と構成員との関係は,雇用契約関係(公務員関係を含む)にたつものではなく,ある特定の政策課題に意見をのべるということで寄与することを内容とする委任契約であるとみることができる」(下線引用者)とする。ちなみに,私的諮問機関の名称は,「有識者会議,研究会,懇談会,調査会等」いろいろであり(同頁),私的諮問機関は,「事実上の諮問機関」とも呼ばれる(稲葉馨「自治組織権と附属機関条例主義」塩野古稀行政法の発展と変革 下巻』(有斐閣,平成13年)333頁以下(335頁))。

[4] 我妻栄『債権総論 中巻二』(有斐閣,1962年)654頁参照。

[5] この点に関し,平成28年度賃金構造基本統計調査によると,弁護士の平均「給与」は年間約759万円であり,高等学校教諭の給与が約661万円であることなどから,「弁護士の給与は決して低くはない」(伊藤真編著『伊藤真が教える司法試験予備試験の合格法』(日本経済新聞出版社,2018年)224頁)とか,「食えない」というのは「誤解」がある(同223頁)という評価もある。しかし,①法科大学院の額日や司法試験受験のための書籍代・答案練習等の費用等に係る投資額の大きさ,②司法修習生生活保護受給者並の司法修習を強いられており国から受給可能な金員では(さらに借金をしなければ)司法修習生活が相当難しいこと(司法修習でも書籍代等はかかる),③昨今特に弁護士の平均給与が上昇傾向にあるとは考えられないことなどからすると,「食えない」というあえて強い評価をする弁護士がいることにも目をそむけてはいけないように思われる。

[6] 高橋宏志「成仏」法学教室307号(2004年)1頁参照。

[7] なお,「世の中の人々のお役に立つ仕事をしている限り,世の中の人々の方が自分達を飢えさせることをしない……。人々の役に立つ仕事をしていれば,法律家も飢え死にすることはないであろう。」(高橋・前掲注(6)1頁)という意見もある。安全圏から説かれる主観的・楽天的なご意見である。

[8] 弁護士が報酬の点に触れないで依頼を受けた場合であっても,暗黙の合意があると解して弁護士報酬を請求しうるだろう(日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法〔第4版〕』(弘文堂,平成19年)24頁以下参照)。

[9] 宇賀克也『行政法概説Ⅲ 行政組織法/公務員法/公物法 〔第4版〕』(有斐閣,2015年)(以下「宇賀・行政法概説Ⅲ」という。)30頁。ちなみに,群馬中央バス事件(最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁)は,「一般に,行政庁が行政処分をするにあたって,諮問機関に諮問し,その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは,処分行政庁が,諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し,これに十分な考慮を払い,特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより,当該行政処分客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられる」(下線引用者)と判示する。

[10] 宇賀・行政法概説Ⅲ31頁参照。

[11] 加藤新太郎「弁護士役割論の基本問題」『弁護士役割論[新版]』1頁以下(5頁)参照。

[12] 伊藤眞「法律意見書雑考」判例時報2331号141頁以下(141頁)。以下,同文献を「伊藤・法律意見書雑考」と略す。

[13] 伊藤・法律意見書雑考141頁参照。

[14] 塩野・行政法Ⅲ160頁。

[15] 塩野・行政法Ⅲ161頁。

[16] 仲野武志「行政法における公益・第三者の利益」髙木光=宇賀克也編『行政法の争点』(有斐閣,2014年)14頁参照。なお,同頁では,公益を「国民の一般の利益」すなわち「国家を構成する団体としての国民の利益」を指すものとしており,また,「地方公共団体レヴェルの公益(住民の一般の利益)」については「立ち入ることができなかった」としている(同15頁)。

[17] 加藤新太郎「和解的解決と弁護士の役割論」『弁護士役割論[新版]』322頁以下(同頁)。

[18] 加藤・前掲注(17)322頁。日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』(有斐閣,1996年)15頁。

[19] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[20] 伊藤・法律意見書雑考145頁。

[21] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[22] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[23] 我妻・前掲注(4)670頁参照。

[24] この点につき,山本博史「条例制定過程の現状と課題」北村喜宣=山口道昭=出石稔=礒崎初仁編『自治政策法務―地域特性に適合した法環境の創造』(有斐閣,2011年)413頁以下(420頁)は,「有識者の意見を条例に反映させる手続」としての「有識者による条例検討会」に言及し,このような検討会等の「有識者の意見反映の手続は,〔引用者注:条例案の〕主に『適法性』,『有効性』の基準の達成度を上げる機能を有」し,また,「中立的な立場からの助言は『公平性』の基準の達成度を上げ」(下線引用者)るものと考えるとする。なお,伊藤・法律意見書雑考141頁は,法律意見書の内容の中立性に関し,法律意見書を裁判所に提出する争訟的案件の場合とは異なり,「非争訟的案件の場合」には「意見書作成依頼の趣旨」から「作成者たる弁護士にも中立的判断が求められる」(下線引用者)とし(平成30年司法試験論文憲法も「非争訟的案件」の場合といえよう。),また,金子正史「審議会行政論」雄川一郎=塩野宏園部逸夫『現代行政法体系 第7巻』(有斐閣,昭和60年)113頁(137頁等)は,「審議会には……目的・機能等において多種多様なものがある。それらすべての審議会の委員を国民の自主的選出制に基づく利益代表委員とすることは適当ではなく,準司法的権限の行使を要請される不服審査,試験検定等に関する審議会の委員は,中立・公正的な委員とすべきではなかろうか。」(下線引用者)とする。

[25] このように設問形式が異なることによって,答案枠組みが大きく異なることになるかという問題については次々回のブログで論じることとしたいが,結論を先に述べておくと,答案枠組みは大きくは変わらないものと考えている。設問形式が異なってしまっている以上,多少答案の書き方を変える必要はあるが,受験生としてはこれまで通りの判例学習をすれば良いだろう。

[26] 安念潤司「プレテスト問題の検証【公法系科目】」法学セミナー611号(2005年)6頁以下(6頁)。同8頁は,違憲の疑いを軽減させる方策に関し,次のような検討をしており,これは平成30年のようなタイプの問題の解答にも参考になると考えられる。

「要綱第4の、〔引用者注:「特定国際テロリズム組織」の〕構成員となるだけで最高懲役5年に処せられる、という規定が最も違憲の疑い濃厚と考える。単に構成員となるだけで処罰されるというのでは、治安維持法の再来である。また、組織があるのかないのか、あるとしてもどこからどこまでが組織なのか、この辺りがはっきりしないところにテロリストの生命があろう。してみれば、『特定国際テロリズム組織』の構成員か否かの判断は、微妙で恣意的になりやすい。

 そこで、違憲性を軽減するために、一案として、役員、幹部その他名目のいかんを問わず組織を指揮する立場で組織に参加する行為のみを処罰の対象とすることが考えられよう。こうした梼成員は、『特定国際テロリズム組織』を指導し、方向付けを行い、他の構成員を鼓舞する立場にあるのであるから、たとえ犯罪の実行行為に直接加担しなくても、処罰の対象とするだけの合理性があると思われる。」(下線引用者)

[27] 宍戸常寿=水津太郎=橋爪隆=大貫裕之=小粥太郎「[座談会]憲法民法・刑法・行政法担当者が語る『法学と試験』」法律時報90巻9号(2018年)30頁以下(46頁〔小粥発言〕,47頁〔宍戸発言〕等)参照。ただし,この座談会は,司法試験の論文式試験それ自体の採点方法等について直接的に検討を加えるものではない。

[28] この点に関しては,次のような採点実感等があることに十分注意されたい。すなわち,平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)は,「限られた時間の中で各論点をバランス良く論じている」答案を「優れた答案」としており,平成19年新司法試験についての「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」も「基本的な論点を落としている答案も,ある程度目に付いた」としていることなどから,主要な論点に言及することが(基本的には)合格答案の要件となる。ただし,同ヒアリングは「主な論点が三つあった」としており,主要な論点の数はそれほど多くはないと考えられよう。そして,このことに関し,平成20年新司法試験についての「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」も,「理論的に考えられる論点全部を拾わないと答案の評価が低くなるものとは,毛頭考えていない。自分の視点に基づいて,幾つかの重要なものを取り上げて,自分なりに論じであればよいのであって,あらゆる論点全部について均等に少しずつ触れてほしいなどとは全く考えていない。論点を考えられる限りたくさん挙げれば良い評価になると思っているのか,重要でないものも含めて思い付く限りのあらゆる論点を挙げて,その結果,どれもこれも希薄に書いてしまっている答案も相当な数あった。……幾つかの些末な問題点を挙げるだけで,重要な問題点を指摘していないものもあった。この事案で何を議論の中心に持っていくかの判断も,実務家として重要なセンスの一つであると思う。」(下線引用者)との考査委員からの指摘があり,加えて,委員からも「筋をしっかり見極めて,自分で取捨選択する必要があるということや,全部の論点を網羅する必要はなく,何が重要なところかを考えるというセンスを見たい,というのは大事な指摘だと思う。確かに学生らは,論点すべてをピックアップしなければいけないと思ったり,些細な技術的な書き方を気にする人が多い傾向にある。そうではなく,法曹としての解決の在り方をしっかり自分なりに考えて提示してくれればよいというメッセージは,今後学生たちの迷いを断ち切るためにも大変大事な指摘だと思う。」(下線引用者)との意見もある。これらのコメントは,今日の司法試験(・予備試験)論文式試験においても,それぞれ重要なものと思われる。

[29] 大林啓吾「憲法 平成30年度司法試験論文式〔公法系科目第1問〕」受験新報810号(2018年)26頁以下(26頁)。なお,既に刊行された他の法律文献(法律雑誌・受験雑誌)において平成30年司法試験論文憲法の設問記載の「反論」の意味を明示したものを(私の調査した限りではあるが)確認することはできていない。

[30] 安念潤司判例で書いてもいいんですか?―ロースクール講義余滴―」中央ロー・ジャーナル6巻2号(2009年)85頁以下(88頁)(下線太字引用者)。

[31] 法律意見書型,法律意見型,意見書型等々,さまざまな呼び方があるところだろうが,私は「中立意見型」と称するのが最適と考える。

[32] 参考とすべき判例がなければ学説を活用するがおよそ判例がないという分野は少ないと考えられる。

[33] ただし,時間不足のリスクを低減すべく,(主要な論点ではやむを得ないだろうが)私見と反論の「判例」は極力共通したものを使うべきであろう。私見では判例A事件の規範を使うべき→反論として判例B事件の規範を使うべき→再反論(私見からの批判)としてやはり判例A事件の規範を使うべきとすると時間をかなり使ってしまい,さらにあてはめの点も争点となるとすると,1つの論点だけで相当時間を(答案スペースも)使うことになるからである。

[34] ただし,そのようなタイプの受験生であっても,多くの枚数を書けるよう(答案を早く書けるよう)訓練・工夫する努力が必要な場合が少なくないだろう。

[35] 前掲注(28)の採点実感等の考査委員等の指摘も参考にされたい。ちなみに,旧司法試験の短答式試験では(特に平成の後半),“捨て問”というものが存在した。捨て問を作ることで,確実に解ける問題の正答率を上げ,試験全体としての得点を伸ばす(一定数の受験生が用いていた)受験戦略である。

[36] 渡邊ゆかり「並立助詞と『と』と『や』の機能的相違」広島女子学院大学日本文学13号(2003年)1頁以下(3頁)参照。

[37] Mr.Children・前掲「終わりなき旅」。司法試験の受験勉強には“全部の論点や知識をつぶした”といえる状態はおそらく観念しえない。その意味では「終わりなき旅」であるが,他方で,司法試験はいわば試験範囲を潰すかなり手前の段階で合格する試験ともいえる。

  受験生は焦らず少しずつでもいいから勉強していこう。「“Festina Lente”(ゆっくり急げ)」である(伊藤・前掲『伊藤真が教える司法試験予備試験の合格法』はしがき等参照)。

 

 

 

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