平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

大澤東京大学特任准教授に対する懲戒処分は、懲戒解雇の有効要件を満たすものか?

 「『機械の様に余り馬鹿にしないで』って云いたい」[1]

 

 

**************

 

 

東京大学の公式ウェブサイトによると、東京大学(本部広報課)は、2020年(令和2年)1月15日付けで、大澤昇平特任准教授に対する懲戒処分を公表した。

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z1304_00124.html

 

筆者は、主に次の3つの理由から本件の懲戒処分の件に関心を抱いた。

 

すなわち、〔1〕筆者は、公務員に対する懲戒処分を含む不利益処分の適法性等の法的問題につき、法律実務書や小論を公表しており[2]、そこでの(行政法の)議論は、労働法で議論される(民間の)懲戒処分の適法性の話と類似するところが多いため、本件の懲戒処分(民間同様、就業規則等に照らしなされるもの)にも興味を持ったこと、〔2〕実務(弁護士業務)で労働案件を担当した経験、〔3〕本件の懲戒処分の適法性につき、関連する裁判例に照らすと懲戒権濫用審査における相当性の原則等との関係で議論の余地があるように思われること、などの理由から本件に注目したのである。

以下、簡単に検討してみたい。

 

1 本件懲戒処分の概要

 

(1)懲戒処分の理由

 

本件の懲戒処分の理由は、以下のとおりとされている。

 

(以下、上記ウェブサイトを引用(下線・太字は引用者))

 

懲戒処分の公表について

 

 令和2年1月15日

 東京大学

 

 東京大学は、大学院情報学環 大澤昇平特任准教授(以下「大澤特任准教授」という。)について、以下の事実があったことを認定し、1月15日付けで、懲戒解雇の懲戒処分を行った。

<認定する事実>  大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。

(1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿 (2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿

(3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿

(4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿

(5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿

 

 大澤特任准教授の行為は、東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当することから、同規則第86条第6号に定める懲戒解雇の懲戒処分としたものである。

 

<添付資料>

東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則(抄)

東京大学における懲戒処分の公表基準

 

 東京大学理事(人事労働担当)

 里見 朋香

 

 東京大学では、大学の依って立つべき理念と目標を明らかにした「東京大学憲章」の前文で、『構成員の多様性が本質的に重要な意味をもつことを認識し、すべての構成員が国籍、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、出身、財産、門地その他の地位、婚姻上の地位、家庭における地位、障害、疾患、経歴等の事由によって差別されることのないことを保障し、広く大学の活動に参画する機会をもつことができるように努める。』と明記しています。この東京大学憲章の下、東京大学は「東京大学ビジョン2020」を策定し、誰ひとり取り残すことのない、包摂的(インクルーシブ)でより良い社会をつくることに貢献するため、全学的に教育・研究に取り組んでまいりました。

 

 東京大学の構成員である教職員には、東京大学憲章の下で、それぞれの責任を自覚し、東京大学の目標の達成に努める責務があります。そのような中で、対象者により、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)上で、「東大最年少准教授」の肩書きのもとに国籍・民族を理由とする差別的な投稿がなされたこと、また本学の元構成員、現構成員を根拠なく誹謗・中傷する投稿がなされたこと、それによって教職員としての遵守事項に違反し、ひいては東京大学の名誉又は信用を著しく傷つけたことは誠に遺憾です。このような行為は本学教職員として決して許されるものではなく、厳正な処分をいたしました。

 

 東京大学としては、その社会的責任にかんがみ、今回の事態を厳粛に受け止めております。今後二度とこのような行為がおこらないよう、倫理規範を全教職員に徹底するとともに、教員採用手続や組織運営の在り方を再検証するなど、全学を挙げて再発防止に努めます。また、世界に開かれた大学として、本学の教職員・学生のみならず、本学に関わる全ての方々が、国籍や民族をはじめとするあらゆる個人の属性によって差別されることなく活躍できる環境の整備を、今後も進めていく所存です。

 

(以上、引用終わり)

 

(2)寄付講座(寄付停止の方針)に関して

東京大学東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長)は、2019年12月13日付けで、「大澤昇平特任准教授による2019.12.12付のSNS書込みに対する見解」を公表しており(次のウェブサイト)、「情報学環としては、今回各社からの寄付停止の方針となったのは、当該教員〔=大澤特任准教授〕のSNSにおける不適切な書込みが原因であると認識しており」、「この書込みが、東大憲章の理念に反し、情報学環の原則に照らして許容できない差別に該当することはこれまでも述べてき」たと述べている。

 

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/2019121311096

しかし、上記(1)のとおり、今回の懲戒解雇の理由には、この「寄付停止の方針」との結果となったことについては明確な記載がない

 

上記サイトでは、東京大学の寄付講座は、東京大学寄付講座等要項に基づき、「個人又は団体の寄附による基金をもってその基礎的経費を賄うものとして、学部及び研究科等の大学院組織等に置かれる講座」のことをいうとされ、寄付講座の基金国立大学法人である東京大学が受け取るものであり、特定個人が受け取るものではないと説明され、また、情報学環に設置された寄付講座の実施内容と大澤氏のDAISY社の事業内容とは関係していないと説明されている。

そして、かかる寄付講座の停止は大学や受講者にとって不利益な結果と考えられ、以下のとおり、「故意または過失により大学法人に損害を与えた場合」(懲戒事由につき定めた就業規則85条1項3号)のような規定もある(同号の場合に当たる余地もあろう)。

 

にもかかわらず、東京大学としては、懲戒解雇の理由として、「寄付講座」の停止の件にあえて触れなかったように読め、やや不自然な感じがするのである。この点については後程また検討する。

 

東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則(平成16年4月1日東大規則第34号)第85条1項(以下引用)

 短時間勤務有期雇用教職員が次の各号の一に該当する場合には、懲戒に処する。

(1) ~ (2) (略)

(3) 故意又は重大な過失により大学法人に損害を与えた場合

(4) (略)

(5) 大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合

(6) ~ (7) (略)

(8) その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行

為があった場合

(以上、引用終わり)

 

 

2 懲戒権の濫用の審査における相当性の原則

 

以上要するに、本件は、教員(大澤氏)によるツイッターTwitter)の書き込みが懲戒事由を基礎づけるものとされ、大学による当該教員への懲戒解雇がなされた事案である。

では、この懲戒解雇は違法・無効か。適用される規定や審査方法が問題となる。

 

(1)懲戒解雇の場合に適用される規定

懲戒解雇は、懲戒処分としての有効性と同時に、解雇でもあり、労働契約法(労契法)は懲戒権濫用(労働契約法15条)の規定と解雇権濫用(同法16条)の規定を置いているところ、懲戒解雇については、同法15条によってなされると整理すべきとの見解(A説)もある[3]。しかし、同法15条と16条とは判断の内容が同一ではないこと[4]などから、両規定は重畳的に適用されるものと解すべきであり(B説)[5]、期間の定めのある労働契約の場合(同法17条)の場合も、B説と同様に、同法15条と17条とが重畳的に適用されるべきであろう。

 

(2)懲戒解雇の有効要件としての相当性原則

労契法15条は、懲戒解雇を含む懲戒処分につき、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には懲戒権の濫用として、当該懲戒処分が無効となると定めている。

 

そして、懲戒権の濫用の判断に際して考慮されるのは次の3点である。

すなわち①相当性の原則違反行為の程度に照らして均衡のとれた懲戒処分でなければならないという原則)。②平等取扱い原則(同等の義務違反(非違行為)については(従前の先例に比して)同等の処分がなされるべきとの原則)、③適正手続の要請(懲戒を行うに際しては、本人に弁明の機会を与える必要があること)である。[6]

 

(3)有期雇用の場合には懲戒解雇のハードルが上がること

期間の定めのある場合は、期間の定めのない場合よりも懲戒解雇を正当化する事由としてより重大な事由であることが求められる。無期労働契約における解雇の場合の客観的に合理的で社会的に相当な理由に加えて、期間満了を待たずに直ちに雇用を終了させざるを得ない特段の重大な事由が存在することが必要となると解すべきである。[7]


有期雇用の場合には解雇するためのハードルが上がり、より慎重な審査がなされる(つまり解雇が違法になりやすい)ということである。

 

 

3 東京高判平成29年9月7日との関係

 

本件との関係で参照すべき判例・裁判例はいくつかあるものと考えられるが、さしあたり、次の裁判例東京高判平成29年9月7日判タ1444号119頁、以下「本判決」という。)が参考になると思われる。本判決は、大学教員による電子掲示板への書き込みが懲戒事由とされ、大学による当該教員への懲戒解雇が懲戒権の濫用として無効とされた一種の事例判決である(120頁)。

本判決の事案の概要と判旨を簡単に紹介しよう。

 

(1)事案の概要

ア 当事者

 控訴人Yは、私立大学である甲大学及び甲短期大学を設置・運営する学校法人である。

 被控訴人Xは、平成7年に東京大学大学院薬学系研究科修士課程を修了し、平成7年から平成22年まで厚生労働省厚労省)において、厚生労働技官として、薬事行政、審査、研究等に従事し、平成22年11月1日から甲大学薬学部薬学科において准教授として勤務し、薬学入門、臨床薬学特論等の講義を担当していた。

 

イ Xによる電子掲示板サイトへの投稿

 Xは、平成27年3月30日から同年6月15日までの間、電子掲示板サイトである「2ちゃんねる」(以下、単に「2ちゃんねる」という。)内の掲示板「〈省略〉【転載禁止】〔C〕2ch.net」(本件掲示板)に、甲大学の准教授であるA及び同人が子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)に関して執筆した「〈題名略〉」という論文(本件論文)について、匿名で、原判決別紙3記載の10件の投稿(本件投稿)をした。

 

ウ AによるYの人権委員会に対する申立て、自主退職の勧奨及び懲戒解雇

 Aは、訴訟等を通じて、本件掲示板に本件投稿をしたのが、Xであることを知り、平成28年1月4日、Yの人権委員会に対し、本件投稿がYのハラスメント等防止規程2条(4)所定のハラスメントに当たるとして、人権侵害の調査と処罰に関する申立て(本件申立て)をした。

 Yの人権委員会及び懲罰委員会(本件懲罰委員会)は、Xの弁明を聴き、その結果、本件懲罰委員会は、Xに対し、平成28年2月15日午後5時までに退職願を提出すれば、これを受理するとして、自主退職を促したが、Xは、期限までに自主退職をしなかった。

 そこで、Yは、平成28年2月16日、被控訴人の本件投稿がYの就業規則4条(1)(学園の名誉を毀損し、学園及び職員としての信用を傷つけるような行為)及び同条(6)(学園の指示に反する行為)に該当し、就業規則31条(2)(第4条各号に掲げる行為があったとき)及び同条(9)(前各号に準ずる行為があったとき)の懲戒事由に該当するとして、被控訴人を懲戒解雇処分とした。

 

(2)判旨

 原審(東京地判平成29年2月13日判例タイムズ1444号128頁)は、被控訴人Xの請求のうち、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び賃金の支払請求につき、一部認容判決をし、控訴審(本判決)も、控訴棄却し、X勝訴部分(控訴人Y敗訴部分)を維持する判断が下された。

 

 本判決は、主に上記相当性の原則の当てはめに関して参考になる裁判例といえよう。

 

(以下、本判決の一部を引用(下線・太字は引用者))

 

 本件投稿は、2ちゃんねるの匿名の電子掲示板になされたものであるところ、匿名の電子掲示板における書き込みは、無責任で根拠のない書き込みもしばしば見られる一方で、真実の書き込みがあることもあり(公知の事実)、これらを踏まえて、一般の読者は、各書き込みの内容、その具体性の程度及び表現振りを考慮して、その信用性を判断しつつ、掲示板を閲覧しているものと解される。  そうすると、本件投稿の内容は、Aの実名が書かれているものの、「相当やばい」「捏造」「被害者多数」などといずれも抽象的な表現振りであり、その根拠を具体的に示すものではないから、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、誹謗中傷の域を出ない投稿であると読解するものと認められる。このことは、Aの名誉感情の侵害の程度やハラスメントの程度を減ずるものではないが、Aの社会的評価の低下の程度を考える上では、斟酌されるべき事情に当たるということができる。  また、被控訴人は、遅くとも、平成28年2月8日の人権委員会及び懲罰委員会を開催するとの本件通知以後には、2ちゃんねるへの投稿を止めており、また、本件人権委員会において、謝罪する意思はないとしつつも、今後、2ちゃんねるへ投稿するつもりはないと述べている。……  これらの事情は、本件通知後も、2ちゃんねるへの投稿を継続していたとする場合と比較すれば、たとえ、被控訴人が自発的に投稿を中止し、Aや控訴人に対し、謝罪の意思を表していなかったとしても、Aに対する被害発生が防止されているという点では、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるというべきである。  なお、仮に、被控訴人が、自ら専用スレッドを立ち上げるなどして殊更注目を集める方法で本件投稿をしたものではなかったとしても、そのことは、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるとはいえない。  また、被控訴人がAと別件反訴において、訴訟上の和解をした事実が認められるとしても……、その事実は、本件懲戒解雇後の事情であるから、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるとはいえない。  以上の事情のうち、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に加えて、認定事実(8)によって認められる、〔1〕被控訴人は、控訴人から、これまで懲戒処分や注意指導を受けたことはなかったこと、〔2〕被控訴人は、控訴人から本件懲戒解雇を受け、准教授としての身分を喪失すれば、他大学への転職は著しく困難となること、〔3〕被控訴人の本件投稿によって、本件大学において学生に対する指導や運営等において、現に具体的な支障が生じていることを認めるに足りないことも、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるというべきである。

 

(中略)

 

 控訴人は、本件懲戒解雇が社会通念上相当な理由として、要旨、次のように主張する。すなわち、被控訴人には、本件投稿がAの名誉を毀損し、ハラスメントに当たるとの認識がなく、また、反省が認められず、謝罪もないのであるから、被控訴人に対する反省の機会を与えるための軽い処分には、実効性がなく、減給や停職といったより軽い懲戒処分を選択することにより被控訴人に反省の機会を与える必要はない上、被控訴人が、控訴人から懲戒処分や注意指導を受けたことがないとしても、控訴人において、被控訴人による本件投稿以外の投稿を把握して注意処分等をすることは困難であり、さらに、控訴人は、掲示板に対する書き込みに対する注意等を喚起してきたのであるから、かねてより注意し警鐘を鳴らしていた事項について違反行為があれば、懲戒解雇をすることもやむを得ないものであるなどの事情を考慮すれば、本件懲戒解雇は社会通念上相当な処分である旨主張する。 しかし、……被控訴人にとって有利・不利に働く一切の事情を総合考慮すれば、被控訴人に対して本件懲戒解雇を行うことは、重きに失して客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない(なお、控訴人は、被控訴人が、控訴人と真摯に本件に伴う今後の処遇について話合いをしようとしても、それをすることができない状況を作った旨主張するが、被控訴人が本件投稿の正当性を主張すること自体は妨げられないから、そのことをもって、被控訴人が控訴人と話し合えない状況を作り出したものと評価することはできない。)。

 

(以上、引用終わり)  

(3)本判決と大澤特任准教授の懲戒解雇との関係(本判決の射程が及ぶか)

 

本判決の事情と大澤特任准教授の懲戒解雇の事情とは異なる部分も少なくないようにもみえるし、そもそも後者の事情の詳細を把握していないので具体的な検討はできないが、少なくとも以下のことが指摘できるだろう。

 

すなわち、(A)ウェブサイトへの書き込みにつき、大学がかねてより注意喚起していたにも関わらず、それに対する違反行為がなされたことや、(B)被懲戒者本人の反省が認められないこと、(C)被懲戒者が投稿行為の正当性を主張することといった事情は、これらだけでは懲戒解雇の相当性を基礎づけるには弱いものといえる。なお、上記(C)のことから、大学と被懲戒者とが話し合えない状況が作り出されたと評価することは適当ではない。

 

また、(D)被懲戒者がこれまで懲戒処分や注意指導を受けたことがあったか否かや、(E)懲戒解雇を受け、准教授としての身分を喪失した場合に、他大学への転職は著しく困難となることなども被懲戒者に有利な事情として考慮する必要があるだろう。

 

大澤特任准教授の懲戒解雇の件については、本判決とは異なる点として、(F)2ちゃんねるへの投稿ではなく、本人名義のアカウントでのツイッターへの投稿(ツイート)であること、(G)同アカウントのプロフィールに「東大最年少准教授」と所属する大学との関係を記載していたこと[8]、(H)問題の発端が特定の教員や学生個人への誹謗中傷ではなく、国籍又は民族を理由とする差別的な投稿にあったこと[9]などが挙げられ、これらの点をどのように評価するか、あるいは大学側に有利な事情をどの程度考慮・重視するかなどにより、大澤特任准教授への懲戒解雇が解雇権濫用とされる否かが変わってくるように思われる。

 

したがって、上記(A)~(H)の事情その他の考慮すべき事情を考慮検討した上で、例えば、大澤特任准教授への懲戒解雇の件が本判決の射程が及ぶような事案といえる場合には、本件の(大澤特任准教授への)懲戒解雇は、懲戒権濫用により無効となると考えられる。

 

(4)懲戒理由として寄付講座停止の方針の件に触れていないことに関して

前記1(2)のとおり、東京大学は、大澤氏の懲戒理由として寄付講座停止の方針の件につき、明確な記載を避けたようにもみえる。

 

事案の詳細が分からないので感想めいた話ではなるが、直観的には、寄付講座の停止(の方針)という重大な結果が生じた点を考慮し、そのことに関する懲戒事由を別途懲戒解雇の理由としているというのであれば、懲戒解雇の有効要件は満たしやすかったのではないかと考えられる。

 

しかし、東京大学寄付講座等要項(以下のサイト参照)は、教員の不祥事による寄付の停止について想定した規定を置いていない(少なくとも明確にそれが読み取れる規定はない)ことから、大学側としても、懲戒処分の理由には寄付停止の件を明記したくはなかったのではないかと思われる。明記してしまうと、今回の一見が教員の不祥事(SNSの発言)による寄付講座停止という寄付講座要項の想定しない事由を事実上認める前例を作る結果となり、今後の寄付講座の運営に支障を来すおそれがあると判断したため、そのような結果やリスクを避けたものと推測されよう。

 

東京大学寄付講座等要項)

https://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/au07403811.html

 

とはいえ、上記のとおり、寄付講座停止の件を懲戒解雇の理由に加えなかったことは、今回の懲戒解雇の有効要件(相当性)を満たすかどうかという争点との関係では、大学にとって消極的な事情となるものと考えられる。

 

なお、使用者が認識しつつも懲戒の理由としなかった非違行為を追加主張することはできないものと解される[10]ことから、大学が上記寄付講座停止の方針の件を追加的に懲戒理由として主張することは難しいだろう。

 

(5)まとめ

 

今回の大澤氏の件については、判例・裁判例や学説に照らすと、労働者に重大な非違行為[11]があったことを示す理由しては、決して盤石のものではないとの印象を受ける。懲戒解雇の有効要件(特に相当性)を満たすかという点が、事実関係次第では、かなり微妙なものとなるのではなかろうか。

 

その主たる理由は、寄付講座停止の方針の件を懲戒解雇の理由として明記しなかった点にある。

 

   

 

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[1] 椎名林檎「警告」同『無罪モラトリアム』(1999年)。

[2] 平裕介「公務員に対する不利益処分等の行政手続」山下清兵衛編著『法律家のための行政手続ハンドブック 類型別行政事件の解決指針』(ぎょうせい、令和元年)101頁、平裕介「君が代起立斉唱命令違反を理由とする教員に対する懲戒停職処分の裁量統制」自治研究93巻6号(2017年)123頁。関連する拙稿として、平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法研究78号(2016年)239頁、平裕介「地方公務員に対する分限免職処分の『不当』性審査基準に関する一考察」日本大学法科大学院法務研究14号(2017年)115頁。

[3] 荒木尚志『労働法〈第3版〉』(有斐閣、2016年)470頁等。解雇権は民法627条により一般に当然に発生するのに対し、懲戒権は就業規則等の線拠規定があって初めて発生するものであることなどがその根拠である。

[4] 懲戒解雇の有効要件と普通解雇のそれは異なる。山口幸雄=三代川三千代=難波孝一編『労働事件審理ノート[第3版]』(判例タイムズ社、2011年)13頁。

[5] 水町勇一郎『詳解 労働法』(東京大学出版会、2019年)566頁。レイズ事件・東京地判平成22年10月27日労判1021号39頁参照。

[6] 荒木・前掲(3)471頁。

[7] 水町・前掲(5)387頁。

[8] なお、個人への名誉棄損が組織への名誉棄損になるかという問題に関し、松尾剛行『最新判例にみるインターネット上の名誉棄損の理論と実務』(勁草書房、2016年)128頁以下が参考になる。

[9] 何らかの集団全般を対象とする表現による名誉棄損の成否に関し、松尾・前掲注(8)124頁以下。また、不法行為ヘイトスピーチにつき、梶原健佑「不法行為としてのヘイトスピーチ」別冊法学セミナー260号(2019年)67頁以下参照。

[10] 三浦隆志「懲戒解雇」白石哲編著『労働関係訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務、2018年)394頁。山口観光事件・最一小判平成8年9月26日判タ922号201頁参照。

[11] 水町・前掲(5)387頁。

 

安田純平さん対する旅券発給拒否処分は違法か?

https://www-asahi-com.cdn.ampproject.org/v/s/www.asahi.com/amp/articles/ASN1D7WWJN1DUTIL00Z.html?amp_js_v=a2&_gsa=1&usqp=mq331AQCKAE%3D#aoh=15789275978360&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&_tf=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9%3A%20%251%24s&share=https%3A%2F%2Fwww.asahi.com%2Farticles%2FASN1D7WWJN1DUTIL00Z.html

朝日新聞デジタル2020年1月13日01時28分

 (以下引用)

シリアで武装勢力に3年4カ月にわたって拘束され、2018年10月に帰国したジャーナリスト安田純平さん(45)に対し、外務省が旅券(パスポート)を発給しなかったことは憲法違反だとして、安田さんが国を相手取り、発給を求めて東京地裁に提訴したことがわかった。

提訴は9日付。訴状によると、安田さんは旅券を拘束時に奪われたため、帰国後の昨年1月に再発給を申請したが、外務省は同年7月、発給を拒否する通知を出した。18年10月にトルコから5年間の入国禁止措置を受けたことが理由と記されていたという。申請時には渡航先として欧州やインド、北米を挙げており、トルコは含まれていなかった。

 訴状で安田さんは「『国境を越える移動・旅行の自由』が憲法で保障されている」などとして、発給拒否は違憲と主張。拒否した処分の取り消しと再発給などを求めている。

 (引用終わり)


このニュースは、憲法訴訟としても興味深いものがあるが、憲法違反の主張が認められるかどうかはさておき、旅券法違反すなわち(憲法ではなく)行政法上の違法が認められるか否かの方が、訴訟(争訟)実務では大きな問題となるように思われる。

 (旅券法、e-govのサイト)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000267



そして、このニュースについて、昨日、以下のようなツイートをした。



このように、本件では、旅券法13条1項1号に係る違法事由として、同法5条2項の限定旅券すら発給しなかったことについての裁量権逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)の違法の認否が問題となる可能性がある。



また、前掲記事によると、発給拒否処分取消し(行政事件訴訟法3条2項)に加え、発給処分の義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟、同法3条6項2号)も提起しているようなので、以下のツイートのような、別の拒否事由が追加されることで(理由の追加あるいは理由の差替え)、新たに法的な争点(旅券法13条1項7号関係)が増える可能性もあるだろう。



もっとも、理由の追加あるいは理由の差替えというのは、一般的に、処分庁にとっては、いわば奥の手であり、当初の処分理由が維持できないことをほとんど認めるに等しい行為でもあるから、少なくとも当面は、旅券法13条1項7号ではなく、同項1号に係る違法事由の認否が争点とされるものと思われる。



ちなみに、上記「限定旅券」の発給についての裁量権の逸脱濫用が争点となった裁判例として、東京地判平成29年2月22日LEX/DB文献番号25553430がある。

本判決は、今回のニュースを法的に考える上で重要な判断を行っていると考えられる。


なお、本判決は東京地裁民事第3部の判決であるが、裁判長は古田孝夫裁判官であり、元司法試験考査委員(平成30年、科目は行政法)でもある。

元司法試験考査委員が担当しているということもあり、後輩の裁判官(特に東京地裁の現在の(令和2年)判事兼司法試験考査委員(行政法)…鎌野真敬判事、清水知恵子判事、福渡裕貴判事)も、例えば所内の勉強会などで検討した可能性もあると思われるため、司法試験受験生としても、この判決や今回のニュースには注意を払っておく必要があるだろう。


以上、参考になれば幸いである。

弁護士会や日弁連にとって「許されない政治活動」とは何か?

「青の濃すぎるTVの中では

まことしやかに暑い国の戦争が語られる

 

僕は見知らぬ海の向こうの話よりも

この切れないステーキに腹を立てる」[1]

 

 

 

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憲法改正問題を含む憲法問題等に関して,日本弁護士連合会(日弁連)や各弁護士会(各単位会)が一定の方向性を持った意見を述べることには,外部からも,そして弁護士会内部においても異論がある。「弁護士会は政治的中立性を保つべきで,意見を言うべきではない」などの反対論である。[2]

 

そこで,本日は,強制加入団体である弁護士会日弁連にとって「許されない政治活動」とは何か?という問題に関連する判例を紹介したい。

 

それは,総会決議無効確認等請求事件東京高判平成4年12月21日自由と正義44巻2号(1993年)99頁)である。

 

弁護士の間でもあまり知られていない裁判例と思われるが,上記事項に関する重要な裁判例であることは間違いない。

 

1 事案の概要等

 

本件は,弁護士である原告(控訴人・上告人)ら111名が,被告(被控訴人・被上告人)日弁連に対し,日弁連総会でなされた「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関する法律案」(当時自民党が国会に提出すべく準備中であった法律案)を国会に提出することに反対する決議(1987(昭和62)年5月30日付け「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案に反対する決議」)につき,日弁連の目的(弁護士法45条2項)の範囲を逸脱し,また,同決議と見解を異にする原告らの思想良心,言論の自由を著しく侵害し,ひいては結社の自由,職業選択の自由をも侵害するものであるから,その内容において憲法19条,21条22条に違反し無効であると主張して,同総会決議の無効確認を請求するとともに,日弁連が行う同法案の反対運動(その費用は会員の一般会費により賄われている日弁連の会財政から支出)に対する差止めと慰謝料の支払いを求めた(差止請求,慰謝料請求)訴訟である。

 

原告らは,日弁連の上記反対運動により,同法案(いわゆるスパイ防止法案)反対という政治的立場に対する支持,協力を強制されていることに等しくなどと主張していたが,第一審(東京地判平成4年1月30日判例時報1430号(1992年)108頁)は,総会決議無効確認請求については訴えを却下し,差止請求と慰謝料請求については請求棄却とした。

 

2 判旨

 

第二審は,次のように判断し,控訴棄却判決を下した。

 

(以下,自由と正義44巻2号(1993年)81頁より引用,下線・太字は引用者)

 法人は、本来その定められた目的の範囲内で行為能力を有するものであり、その活動は目的によって拘束されるものである。特に、被控訴人のような強制加入の法人の場合においては、弁護士である限り脱退の自由がないのであり、法人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがあることを考えるならば、個々の会員の権利を保護する必要からも、法人としての行動はその目的によって拘束され、たとえ多数による意思決定をもってしても、目的を逸脱した行為に出ることはできないものであり、公的法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主張や目的に出たり、中立性、公正を損うような活動をすることは許されないものというべきである。

 被控訴人は、…「(弁護士の)品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」(同法〔=弁護士法〕45条2項)…に定める目的は、資格審査、懲戒、監督といった弁護士における自治、自律権の行使と、弁護士事務の向上を目的とした指導、連絡といった弁護士及び弁護士会に向けた内部的活動であり、外部に向けられた行為としては、「弁護士事務その他司法事務に関して官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」(同法50条、42条2項[3])との規定があるだけである。

 しかし、弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とし」(同法1条1項)、「社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」(同条2項)とされているところ、弁護士に課せられた右の使命が重大で、弁護士個人の活動のみによって実現するには自ずから限界があり、特に法律制度の改善のごときは個々の弁護士の力に期待することは困難であると考えられること、被控訴人が弁護士の集合体である弁護士会と弁護士の集合体であり、その上部組織であることを考え合わせると、被控訴人が、弁護士の右使命を達成するために、基本的人権の擁護、社会正義の実現の見地から、法律制度の改善(創設、改廃等)について、会としての意見を明らかにし、それに沿った活動をすることも、被控訴人の目的と密接な関係を持つものとして、その範囲内のものと解するのが相当である。

 そこで、まず本件総会決議についてみるに、本件法律案が構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由を侵害し、知る権利をはじめとする国民の基本的人権を侵害するものであるなど、専ら法理論上の見地から理由を明示して、法案を国会に提出することに反対する旨の意見を表明したものであることは決議の内容に照し明らかであり、これが特定の政治上の主義、主張や目的のためになされたとか、それが団体としての中立性を損なうものであると認めるに足りる証拠は見当たらない。そうであるとすれば、本件総会決議によって示された意見自体については、異論がみられるところではあるが、右決議が被控訴人の目的を逸脱するものということはできない

 本件総会決議後の被控訴人の一連の行為(中略)は、いずれは、いずれも本件総会決議に基づいて、その意見を各方面に周知させ、これを実現させるための行為とみられるのであって、その行為の内容において、特に不相当と認められるような点は認められないから、決議におけると同様に会の目的を逸脱するものではないというべきである。

 以上のとおりであるから、被控訴人の本件決議等が、被控訴人の目的を逸脱し、違法である旨の控訴人らの主張は採用できず、これを前提とする差止請求及び損害賠償請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく理由がない。

 

(引用終わり)

 

なお,上告審(最二小判平成10年3月13日自由と正義49巻5号(1998年)210頁)は,「所論の点に関するする原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に昭らして首肯するに足り,右事実関係の下においては,上告人らの請求中本件総会決議の無効確認請求に係る訴えを不適法として却下すべきものとし,その余の請求について,被上告人の本件反対運動により上告人らの人機権が侵害されているとはいえないとして,これを棄却すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はない。論旨は,違法をいう点を含め,原審の専権に属する事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決の法令違反をいうものであって,採用することができない。」(同213頁)などと判示し,上告を棄却した。

 

 

3 裁判例のポイント

 

(1)総会決議の適法性について

本(控訴審)判決によると,強制加入団体である日弁連の総会決議については,①人権を侵害するおそれがあるとの批判など,専ら法理論上の見地から理由を明示して法案に反対する旨の意見表明をした場合には,②同決議が特定の政治上の主義,主張や目的のためになされたとか,それが団体としての中立性を損なうものであると認めるに足りる証拠が見当たらない限り,総会決議によって示された意見自体に異論があっても目的の範囲外のものということはできない。

 

すなわち,日弁連の「目的」の範囲内の総会決議となるための要件は次の2つである。これは弁護士会の総会決議にも基本的には借用可能と思われる。

 

①専ら法理論上の見地から理由を明示した意見表明をしたこと

②団体としての中立性を損なうもの(特定の政治上の主義,主張や目的のためのものなど)でないこと

 

(2)総会決議に基づく法案反対運動の適法性について

本件総会決議後の法案に反対する旨の一連の反対運動についても,本判決は,総会決議に基づいて,①その意見を各方面に周知させ,これを実現させるための行為とみられるものであり,②その行為の内容において,特に不相当といえる点が認められない場合には,決議同様,目的の範囲外のものということはできないと判示した。

 

すなわち,日弁連の「目的」の範囲内の法案反対運動(総会決議に基づくもの)となるための要件は次の2つである。これは弁護士会の総会決議にも基本的には借用可能と思われる。

 

①総会決議に基づく意見の周知・実現目的があるとみられること

②行為内容の相当性

 

(3)日弁連弁護士会として禁止される政治活動とは?

上記(1)②の要件に関連することと思われるが,強制加入団体として禁止される「政治活動」の基準の問題に関しては,同事件第一審の被告準備書面(平成2年9月13日提出)「Ⅲ わが国では『政治活動』をどう考えるのか。」自由と正義41巻10号(1990年)155頁以下(156頁)が参考になる。

 

(以下同156頁を引用)

 

 結局、弁護士会活動の許容範囲に関して、わが国弁護士法を解釈・適用するに当たっては、「政治活動」や、「イデオロギー活動」などの用語を漫然と使用するのではなく、強制加入団体としての日弁連にとって、「許されない政治活動とは何か」を具体的な活動において検討するほかないというべきである。

 その場合の基準についていえば、「特定の政党その他の政治団体の主張または行為を直接的に支持し、または反対することを目的とする党派的な行為」が「禁止される政治活動」と考えてよいであろう。

 例えば、特定の政治的イデオロギーに立脚し、会内合意に基づくことなく、一党一派に偏した活動を進める場合に、非難に値する「政治活動」であるとされるであろう。しかし、そもそも、そのような場合には基本的には会内全体の運動として成り立たないのである。

 

(引用終わり)

 

おそらく,日弁連としては,「特定の政党その他の政治団体の主張または行為を直接的に支持し,または反対することを目的とする党派的な行為」が「禁止される政治活動」であるものと今日でもなお考えているのではないだろうか。そしてこれは弁護士会も同様であるように思われる。

 

とはいえ,このような(相当程度限定的な)定式を多くの会員が受容できるのか,そして,その問題と弁護士自治を維持することとの関係等については,慎重に検討する必要があるだろう。

 

 

以上,簡単ではあるが,裁判例を紹介し,そのポイントなどの解説を試みた[4]。参考になれば幸いである。

 

なお,本判決と,国労広島地本事件,南九州税理士会事件,群馬司法書士会事件などの最高裁判例との関係等に関する解説については,可能であれば別の機会に書いてみたい。

 

 

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「僕たちの将来は 良くなってゆくだろうか」[5]

 

 

  

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[1] 中島みゆき「僕たちの将来」同『はじめまして』(1984年)

[2] 伊井和彦「憲法問題における弁護士会の『政治的中立性』とは?」LIBRA18巻10号(2018年)31頁。

[3] なお,念のため付言すると,弁護士法42条2項(答申及び建議)は,「弁護士会は、〔A〕弁護士及び弁護士法人の事務その他〔B〕司法事務に関して官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」と定める(〔A〕と〔B〕は並列関係)ところ,本判決は,同項の文言との関係では,〔B〕「司法事務」の問題ではなく,〔A〕「弁護士及び弁護士法人の事務」(同高裁判決当時の文言は「弁護士事務」)に間接に必要な行為(同法1条1項・2項参照)の方を問題とすることを前提に総会決議の違法性を判断したと解される点に留意が必要であろう。つまり,基本的には「〔B〕司法事務」の解釈如何によって,本判決の射程が変わるものではない。

[4] 本裁判例(総会決議無効確認等請求事件)を弁護士が紹介した最近の文献として,矢吹公敏「弁護士自治の今後の課題と展望」弁護士自治研究会編著『JLF叢書vol.24 新たな弁護士自治の研究-歴史と外国との比較を踏まえて』(商事法務,2018年)(以下「新たな弁護士自治の研究」という。)193以下(199頁),深沢岳久=山本幸司「弁護士法成立後の弁護士自治」新たな弁護士自治の研究60頁以下(76頁以下)。

[5] 中島・前掲注(1)。

 

新しい憲法判例百選(第7版)から令和2年司法試験論文憲法の出題判例を予想する

 

「新しい靴を履いた日は それだけで世界が違って見えた」[1]

 

 

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1 6年ぶりに出た新しい憲法判例判例(第7版)

 

2019年11月30日、新しい憲法判例百選が発売された。

 

1つ前の版は2013年12月10日発行となっているため、約6年ぶりの新版である。次のとおり、編者は同じである。

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第7版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2019年)(以下「百選Ⅰ第7版」・「百選Ⅱ第7版」という。)

 

長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ第6版」・「百選Ⅱ第6版」という。)

 

 

2 新収載判例は10件

 

第7版の編集にあたっては「女性の再婚禁止期間の違憲判決,NHK受信料制度合憲判決, GPS捜査と令状主義に関する判決など,多くの重要な新判例」(百選Ⅰ第7版2頁)が収録されており、「新たに10件」(Appendixを含む10件)の判例が加えられた(同3頁)。

 

百選Ⅰ第7版235頁あるいは百選Ⅱ第7版462頁以下を見ると分かりやすいが、発行日との関係で第6版では収録が不可能であった新しい判例は、最二小決平成26年7月9日判時2241号20頁から最三小決平成29年12年6日民集71巻10号1817頁までの9件(Appendixを含む9件、いずれも最高裁判例である。

 

また、発行日との関係で第6版では収録することができたことが明らかであったにもかかわらず、第6版では収載判例とされず、第7版で新たに収載判例とされた判例が1件あり、それは、生活保護老齢加算廃止事件最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)である。

 

 

3 司法試験論文憲法判例百選の関係

 

平成30年&令和元年司法試験論文司法試験では「設問」で「参考とすべき判例」を踏まえた論述をするように指示があった。

 

それ以前の出題趣旨や採点実感、ヒアリング、そして再現答案等を見ると、平成29年以前も参考とすべき判例を踏まえた論述は求められていたと思われるが、ここ2年で、このことがより明確化されたため、従来よりも多くの受験生が、司法試験の「問いに答える」という基本的な観点から、論文答案における判例の活用を意識するようになった(判例学習の意義がさらに大きくなった)といえよう。

 

この「参考とすべき判例」の意味については、既に以下の2つのブログで解明したとおりであるから、詳しくはこれらを参照していただきたいが、要するに、平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨1記載の「基本判例」を意味し、また概ね、判例百選に収載された判例が、論文で活用する判例の【事実上の試験範囲】となると考えておけばよいものといえる。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ちなみに、平成18年新司法試験のヒアリング3頁第2段落が、解答に際して「極めて実務的な能力が不可欠」とし、そのためには「条文をしっかりと理解すること、それから判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置」(太字は引用者)き、さらに「余裕があれば判例雑誌……で……最新の裁判例を読み……考察してほしい」と述べていることに照らしてみても、判例百選は、司法試験にとって法務省の公表する公的資料(上記ヒアリング)に明記されるくらい特に重要な判例集であるといえる。

 

なお、平成18年から平成28年まで(サンプル・プレテストを含む)の司法試験論文憲法の出題趣旨等で明記された判例等と、明記はされていないものの参考とすべき判例と考えられる判例をまとめた拙稿として、以下↓のものがある。

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article090782/

 

 

以上のことから、令和2年司法試験論文憲法で「参考とすべき判例」として出題される判例を第7版で新しく収載判例とされた判例の中から2つ予想してみることとする。

 

 

4 予想その1・・・NHK受信料制度事件

 

1つ目は、NHK受信料制度事件最大判平成29年12月6日民集71巻10号1817頁)である。予想の理由は、最近の判例であることのほか、令和2年司法試験考査委員の小山剛教授が解説を担当されているからである(百選Ⅰ第7版77事件・167~168頁)。

 

第7版で新たに収載判例となった最近の判例のうち、風俗案内所規制条例事件(最一小判平成28年12月15日判時2328号24頁)が平成30年司法試験論文憲法で、インターネット検索事業者に対する検索結果削除請求事件(最三小判平成29年1月31日民集71巻1号63頁)が令和元年司法試験論文憲法で、それぞれ「参考とすべき判例」として出題されたものと考えられるという点からみても、さらには大法廷判例でもあるため、上記NHK受信料制度事件は特に出題されやすい判例といえる。

 

 

5 予想その2・・・生活保護老齢加算廃止事件

 

2つ目は、生活保護老齢加算廃止事件(最三小判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁、百選Ⅱ第7版135事件・294~295頁)である。

 

前述したとおり、同事件は、第6版で収載判例とすることができたにもかかわらず、第7版になって初めて収載判例とされた判例である。

 

このように、上記判例群とは異なり、最近の判例とまではいえないという意味での古い判例であっても、版が新しくなったタイミングで加えられた判例には注意が必要である。

 

百選第6版では、第5版(高橋和之=長谷部恭男=石川健治編『憲法判例百選Ⅰ[第5版]』・『憲法判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2007年)には収載判例されていなかった集団示威運動(デモ行進)に関する新潟県公安条例事件最大判昭和29年11月24日刑集8巻11号1866頁)が新たに収載判例とされた。

 

そして、第6版が出た同じ年の平成25年司法試験論文憲法(公法系科目第1問)で、この新潟県公安条例事件が「参照すべき最高裁判決」[2]すなわち「参考とすべき判例」として出題されたのである。

 

古い判例である(最新の判例ではない)にもかかわらず、新しい版(第7版)で新たに収載判例とされた判例は、その頃の多くの研究者(少なくとも編者)があらためて注目している判例と考えられることから(ちなみに、編者の一人である宍戸常寿教授は令和2年司法試験考査委員である)、司法試験の論文式試験でも出題される蓋然性が高いといえる。少なくとも短答式試験で出題される蓋然性は相当高度といえるだろう。

 

このように1つ前の版の改訂のときのこと(平成25年司法試験での出題実績)や、さらには、平成22年(新司法試験論文憲法以降、生存権憲法25条1項)が論文で長い間出題されていないことも踏まえると、生活保護老齢加算廃止事件も非常に危ない判例であるといえるだろう。

 

なお、お勧めしたい判例百選以外の判例集憲法行政法)は、以下↓のブログで紹介したので、こちらもぜひ参考にしていただきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

以上、令和2年司法試験を受験される(あるいは令和3年以降受験予定の)皆様の試験勉強の指針や要素の1つとなれば幸いである。

 

 

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[1] Mr.Children(作詞・作曲  桜井和寿)「足音 ~Be Strong」(2014年)。

[2] 蟻川恒正「2013年司法試験公法系第1問」(〔連載〕起案講義憲法 第4回)法学教室394号112頁。

【司法試験】よくあるご質問 & 回答①

「人生はいつもQ&Aだ

 永遠に続いてく禅問答」*1


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本日は、司法試験受験生から定期的に頂戴するような、よくあるご質問&回答(FAQ)を7つほど紹介する。


最近のTwitterのまとめ的なものではあるが、受験生の皆様方において、少しでもご参考になれば幸いである。



Q1 法科大学院では「受験対策」してはダメなのですか?

A1 法科大学院は実務家法曹を養成するところです。実務家になるには司法試験に合格する必要があるので、「受験対策」をしてはいけないということはありません。




Q2 試験対策としてキーワードなどを記憶していますが、記憶の定着が悪いです。対策はないでしょうか?

A2 古典的ですが、単語カードを使ってみると効果的かもしれません。



Q3 憲法の論文対策として、時事問題について考えておくことが重要と聞きました。本当ですか?他の科目ではどうなんですか?

A3 合格するのに必須ではないと思いますが、日常のニュースと関連する判例判例百選や重要判例解説に載るようなもの)が何なのか検討するとベターだと思います。行政法でも、一応、似たようなことがいえると考えられます。
 例えば、最近の時事問題として、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(その芸術祭における企画展「表現の不自由展・その後」)への文化庁補助金不交付を挙げることができます。この問題については、ネット記事や関連するツイートなどを参考にしてみていただけますと幸いです。





Q4 論文式試験では、判例は神様で、学説はゴミ扱いだ、と聞いたのですが、本当ですか?

A4 関連する判例への言及は必要になりますが、学説も特に最近の司法試験(論文)では重要だと思います。ですから、ゴミと称するのは不適当でしょう。あと、判例は「神様」というか「カミ」です。「判例はカミ,学説はゴミ」と仰った安念先生も、「神」とまでは言って(書いて)いません。



Q5 学説が「ゴミ」でないとすると、具体的に、答案で学説をどう使うのでしょうか?

A5 令和元年司法試験論文憲法では、現実の悪意の法理を使った答案を書いてみましたので、ブログを参考にしてみてください。

 



Q6 原告適格の書き方がイマイチ分かりません。模試や大学/ロースクールの定期試験などでも点数が伸びません。どうしたら…。

A6 原告の主張する不利益(利益)の特定の点が意外と重要です。ブログ(↓の過去のブログ)で紹介させていただいた小早川先生の3要件の流れで書くというのが1つの手だと思います。判例は必ずしもこの流れで書いていませんが、この流れで書く方が安定的に得点要素が拾えると考えられます。

yusuketaira.hatenablog.com

yusuketaira.hatenablog.com



Q7 要件裁量の認否ですが、どの年度(過去問)も、処分要件の文言が抽象的で、全部裁量を肯定してよいようにも思えてしまいます。模試でも迷うのですが、認否の決め手みたいなものはないのでしょうか?

A7 司法試験と「3要素説」との関係について、ブログにまとめておきましたので、参考になれば幸いです。



以上、本日は、司法試験受験のFAQを7つ紹介した。

タイトルを、【司法試験】よくあるご質問 & 回答①としたので、後日、「【司法試験】よくあるご質問 & 回答②」を掲載することとしたい。


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「腑甲斐無い自分に 銃口を突きつけろ

 当たり障り無い 道を選ぶくらいなら

 全部放り出して コンプレックスさえもいわばモチベーション」*2

*1:Mr.Children「I’ll be」同『DISCOVERY』(1999年)

*2:Mr.Children・前掲注 1

宇崎ちゃん×日赤の献血ポスターと行政法学における「公共性」

「頽廃 裸体 安全圏

既にもう女として生まれた才能は発揮しているのだけど

脱がせて欲しい」*1

 

 

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「宇崎ちゃんは遊びたい!」×日本赤十字社献血コラボキャンペーンのポスターの件が最近Twitter等で話題である。

 

「公共」の場では問題があるなどの批判的コメントがあるのに対し、そこにいう「公共」が結局のところ批判的コメントをする者に都合の良い恣意的なものとないっていないか、といった反論もある。

 

いわゆるオタクの方々の感性など、私には十分に理解できないところもあるが、意見が対立し、また議論が錯綜しているのは、この「公共」の意義の難しさが一因となっているものと思われる。

 

 

そもそも、「公共」とは、何なのか。

このことに関して、行政法(公法)の見地から若干のコメントをしてみたい。

 

 

1991年の日本公法学会・第ニ部会のシンポジウム*2の討論要旨によると、宮崎良夫会員(東京大学教授)は、「公共」と「公共性」の概念の違いに留意する必要があるとした上で、次のように述べている。

 

「行政の公共性とは、行政が公的なことがらをつかさどる資格の属性、あるいは、行政の妥当性・合理性・公正さ」である。」*3

 

 

また、最近(今月1日発行の法律雑誌)の御玉稿であるが、亘理格・中央大学教授は、次の通り「公共性」の意味合いに関して指摘する。

 

「『公共性』は、一定の規範や政策の採否が争われる場合において、採択を決定づける根拠として援用される場合があり、その中には、通常は否定又は排除される可能性の高い新たな提案を正当なものと認定するための根拠として、『公共性』が援用される場合も含まれる。後者の場合、『公共性』には、排除から受容への転換を図るために超えなければならないバリアという意味合いがあ」*4る。

 

 

宮崎教授の述べる「公共性」には、(行政の)妥当性・合理性・公正さという3要素が含まれており、法律による行政の原理に照らすと、いずれも適法性合憲性を前提にするものと読める一方で、それだけにはとどまらない専門的・政策的見地等からの妥当性をも含む概念といえ、その意味を捉えることが極めて難しいことを示しているように思われる。*5

 

また、亘理教授によると、『公共性』には、行政決定等において、ある提案が、否定・排除されず、受容されるものとなる場合のハードル的なものという面があるといえよう。

 

 

以上を今回の宇崎ちゃん×日赤のポスターの件についてみると、①女性の差別されない権利、フェミニズムゾーニング規制の必要性等、献血・広告の必要性等、表現(広告)の自由、漫画家等の表現の自由・営業の自由、他のポスターとの平等性、逆差別ないしレッテル貼りの問題などなど、さまざまな考慮すべき、あるいは検討する事項があり、議論がかみ合わない状況が生じているのは殆ど必然的ともいえるだろう。

 

また、今回の件で、公共性は、②一定の表現(図画)が不特定多数人の者が閲覧可能な場に置かれるためのハードルないし超えなければならないバリアとしての面を持つものといえ、一定の表現(図画)を支持する側からの反発の対象にもなりうるものとなってしまっている。

 

 

結局のところ、この問題は、行政法学や憲法学を含む法学の知見だけで解決することは(おそらく)不可能な問題といわなければならないだろう。

 

法学の知見は問題解決に有益ではあるが、この問題には、合憲性・適法性だけではなく、妥当性に係る考慮事項が併存するため、法学の知見だけでは、問題を解決することはできないということである。

宇崎ちゃんと日赤がコラボしたように、法学における知見と他の領域における知見とのコラボが問題解決の鍵となるのではなかろうか。

 

 

当たり前のことであろうが、法学は万能ではない

 

ゆえに、法曹・法律家は、この問題については、特に慎重に考えるべきであるように思われる。

 

 

 

 

*1:椎名林檎「病床パブリック」同『勝訴ストリップ』(2000年)。

*2:なお、司会は、室井力会員、藤田宙靖会員、そして宇賀克也会員の3会員である。

*3:法研究54号(1992年)235頁。

*4:亘理格「『公共性』の意味をどのように解すべきか」法律時報91巻11号(2019年)7頁(9頁)。

*5:行政の妥当性の点に関し、行政法行政不服審査)における妥当・不当の基準について考察を加えた主な拙稿として、①平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法研究78号(2016年)239~248頁、②同「行政不服審査における不当裁決の類型と不当性審査基準」行政法研究28号(2019年)167~199頁がある。なお、②は、公法研究81号(2019年)の「学会展望」(行政法、291~292頁)でも紹介されている。

あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)補助金不交付問題と司法試験論文行政法

「みなさ~ん、何かにつけて自由、自由って言いますけど 

 別に自由はあなただけのものでも、楽なものでもありませんよー

 自由への道は、時として辛く、寂しく、そして険しいのです」*1


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2019年10月19日の美術手帖の記事(拙稿)がヤフーニュースのサイト↓に掲載されました。
ご紹介いただき有り難く存じております。


https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191019-00000004-btecho-cul

「あいトリ」補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説


また、ヤフーニュースのサイトでは、どうやら記事の一部のみのご紹介ということで、全文は、こちらの美術手帖の(元の)サイト↓の方でご掲載いただいております。


https://bijutsutecho.com/magazine/insight/20747

「あいトリ」補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説

10月14日に閉幕した「あいちトリエンナーレ2019」について、文化庁補助金を交付しない決定をした。このことに対し、弁護士で行政法学者でもある平裕介が係争問題についてまとめたブログを公開。ここではそのブログをもとに、「補助金適正化法」に基づく決定をめぐる訴訟の担当した経験から、今後ありうる展開を解説する。

文=平裕介



あいちトリエンナーレ2019の補助金不交付決定処分に関する行政法関係の論点を広く扱っていますので、司法試験受験生にもオススメの記事です(自分で言うのもアレですが・・・)。

それなりに長いですが、行政法の基礎知識を(例えば法学部や予備校の基礎講座などで)一通り学習された司法試験受験生であれば、意外とさっと読めてしまうレベルの内容ではないかなと思います。



今回のあいトリのような給付行政の事案は、確かに過去問の傾向に照らすと出題される確率が低いのですが(司法試験でも予備試験(論文)でも規制行政の事案の方が出やすい)、給付行政事案もそろそろ(論文で)出る頃ではないかなと思います。


ちなみに、国賠訴訟と取消訴訟の排他的管轄についての論点として、今回の補助金交付のような金銭の給付を目的とする行政処分につき、取消しまたは無効確認の判決を得なければ国家賠償請求をなしえないか(請求認容とならないのか)?というものがありますが、これは、司法試験(新司法試験)や予備試験では未出題の論点であり、最高裁判決もあるところです(H22・6・3(百選の判例)、H26・10・23)。


国賠は論文で出ないなどという神話あるいは都市伝説は(当たり前ですが)存在しないものと思いますし、上記論点も出題される可能性はありますので、それなりに確認しておくべきではないかなと思います。



令和元年の司法試験論文行政法の解説(ブログ↓)でも書きましたが、論文憲法だけではなく、論文行政法でも時事問題を参考にした出題がなされると思います。

yusuketaira.hatenablog.com



そのため、受験生としても、あいちトリエンナーレ2019の問題にも、関心をもっておいた方がよいかもしれません。



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「恨んじゃいけない 妬んじゃいけない

 You’re on the Freedom Train  潔く走れ」


「選んだレールの上にしかないもの

 You’re on the Freedom Train  それこそが自由」*2

*1:B'z「Freedom Train」同『MAGIC』(2009年)

*2:B'z・前掲注(1)