安田純平さん対する旅券発給拒否処分は違法か?
朝日新聞デジタル2020年1月13日01時28分
(以下引用)
シリアで武装勢力に3年4カ月にわたって拘束され、2018年10月に帰国したジャーナリスト安田純平さん(45)に対し、外務省が旅券(パスポート)を発給しなかったことは憲法違反だとして、安田さんが国を相手取り、発給を求めて東京地裁に提訴したことがわかった。
提訴は9日付。訴状によると、安田さんは旅券を拘束時に奪われたため、帰国後の昨年1月に再発給を申請したが、外務省は同年7月、発給を拒否する通知を出した。18年10月にトルコから5年間の入国禁止措置を受けたことが理由と記されていたという。申請時には渡航先として欧州やインド、北米を挙げており、トルコは含まれていなかった。
訴状で安田さんは「『国境を越える移動・旅行の自由』が憲法で保障されている」などとして、発給拒否は違憲と主張。拒否した処分の取り消しと再発給などを求めている。
(引用終わり)
このニュースは、憲法訴訟としても興味深いものがあるが、憲法違反の主張が認められるかどうかはさておき、旅券法違反すなわち(憲法ではなく)行政法上の違法が認められるか否かの方が、訴訟(争訟)実務では大きな問題となるように思われる。
(旅券法、e-govのサイト)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000267
そして、このニュースについて、昨日、以下のようなツイートをした。
①有効期限5年の一般旅券の発給を申請したか、②10年のそれだったかで結論が異なる可能性もありそう。憲法違反はともかく、旅券法13条1項1号での拒否なので、①だと同項柱書に係る違法(裁量権逸脱濫用)の可能性もあるかと…
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2020年1月13日
「旅券発給拒否は憲法違反」安田純平さんが国を提訴https://t.co/h1myu6eBk4
補足すると、①有効期限5年の場合であれば、旅券法5条2項の限定旅券(…渡航先を個別に特定して記載、又は短期の有効期間としうるもの)の発給をしなかったことについての違法(裁量権逸脱濫用)の可能性もあるのではないかという意味です。渡航先を個別に特定(トルコを除外)すれば弊害はなさそうなので
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2020年1月13日
このように、本件では、旅券法13条1項1号に係る違法事由として、同法5条2項の限定旅券すら発給しなかったことについての裁量権逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)の違法の認否が問題となる可能性がある。
また、前掲記事によると、発給拒否処分取消し(行政事件訴訟法3条2項)に加え、発給処分の義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟、同法3条6項2号)も提起しているようなので、以下のツイートのような、別の拒否事由が追加されることで(理由の追加あるいは理由の差替え)、新たに法的な争点(旅券法13条1項7号関係)が増える可能性もあるだろう。
ちなみに、旅券法13条1項1号での拒否以外の拒否(例えば同項7号)も話題になっているようですが、これは報道によると外務省が拒否処分に係る通知で明記していない理由なので、1号の話とは一応分けて議論すべきですね。今後、争訟手続において処分理由の追加か差替えがあった段階で争点になる話です
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2020年1月13日
もっとも、理由の追加あるいは理由の差替えというのは、一般的に、処分庁にとっては、いわば奥の手であり、当初の処分理由が維持できないことをほとんど認めるに等しい行為でもあるから、少なくとも当面は、旅券法13条1項7号ではなく、同項1号に係る違法事由の認否が争点とされるものと思われる。
ちなみに、上記「限定旅券」の発給についての裁量権の逸脱濫用が争点となった裁判例として、東京地判平成29年2月22日LEX/DB文献番号25553430がある。
本判決は、今回のニュースを法的に考える上で重要な判断を行っていると考えられる。
なお、本判決は東京地裁民事第3部の判決であるが、裁判長は古田孝夫裁判官であり、元司法試験考査委員(平成30年、科目は行政法)でもある。
元司法試験考査委員が担当しているということもあり、後輩の裁判官(特に東京地裁の現在の(令和2年)判事兼司法試験考査委員(行政法)…鎌野真敬判事、清水知恵子判事、福渡裕貴判事)も、例えば所内の勉強会などで検討した可能性もあると思われるため、司法試験受験生としても、この判決や今回のニュースには注意を払っておく必要があるだろう。
以上、参考になれば幸いである。