平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(4・完)

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3)

のブログの続きである。

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題  

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 平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2) yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3) 

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引き続き,脚注付きの答案例を示すことをもって問題解説とすることにしたい。

 

 

Ⅰ 答案例(続き)

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

   (略)・・・平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)~(3)のとおり。

 

 

第2 設問2

1 X1の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,地方自治法244条2項より「正当な理由」があれば閲読を制限しうるし,同法242条の2第1項が公の施設の管理に関する事項を条例に委任していることからすれば,閲読制限に係る判断には一定の行政裁量がある[1],ため,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する[2] [3]

   イ 私見

 いわゆる格差社会において大学生等の生活水準が必ずしも安定しない状況に鑑みると,一定の割合の学生は,多くの図書を購入することが事実上不可能ないし困難な状況にあると考えられる。そして,図書館は,特にそのような学生が多くの図書を閲読するための公の施設となっているといえる。このような図書館の今日における機能に照らすと[4],閲読制限に係る判断に裁量があるとしても,その範囲は狭いものというべきであるから,原告と同じ判断枠組みで判断すべき[5]と考える[6]

(2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,「めかんち」は目の不自由な人に対する差別用語であり,対抗言論の法理が妥当し難く,特に子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものであることからすれば,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるというべきと反論する。

   イ 私見

 確かに,「めかんち」のような差別用語を用いた表現行為には,対抗言論の法理が妥当し難い。

 しかし,①参考資料1によると,本件図書においては,「めかんち」が,その用語を用いた者を主人公Dが非難する文脈コンテクスト)で記述されていることからすれば,目の見えない者の尊厳や,子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものとまではいえないと考える。加えて,②改正条例施行後2年間は苦情が寄せられなかったことや,③本件図書の「めかんち」が原因となりヘイトスピーチヘイトクライムが助長されたという事実が特に確認できないという本件の事実関係[7]にも照らすと,本件図書をX1に閲読させることにつき,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,21条1項に違反する。

2 X2の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,国家による助成援助ついては,財源の有限性から表現内容の選別に係る広範な裁量があるため,害される公益を特に重視して判断しうるなど,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する。

   イ 私見

 確かに,内容の選別に係る裁量は,購入時点においては広いものといえるが,いったん図書の内容が適当なものと判断として図書を購入・配架した以上,また,上記図書館の重要性等から,図書の廃棄については同程度の広い裁量を認めるべきではない。ゆえに,原告と同じ判断枠組みで判断すべきと考える。

 (2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,本件図書は発売当初,ベストセラーとなっていることから,情報流通過程を歪める危険性は低く,団体Hから現実に苦情があったことから,子どものいじめや差別が助長される可能性など,②害される公益は重大であると反論する。

   イ 私見

 (ⅰ)本件図書は,被告の述べるとおりベストセラーになっていることから,古本としても入手し易くなっているといえること,(ⅱ)大学生であれば大学の図書館も利用可能であり,大学の図書館に本件図書がなくても配架のリクエストや他大学からの取り寄せが可能であること,(ⅲ) 他大学からの取り寄せに要する費用は通常は安価であること,(ⅳ)後述するように,公益法人Hの苦情を契機に廃棄の判断をしたのであり,Y市の独断的な評価により不公正[8]廃棄をしたわけではないことなどから,情報流通過程を歪める危険性が高いとまではいえないと考える。

 また,(ⅰ)児童・生徒自身(子ども)は,心身ともに成長発達過程にあることから,個人の尊厳の侵害や自身が差別される記述等につき,大人と比べると通常は声を上げ難いこと,(ⅱ)公益法人である団体Hは,目の見えない子どもを中心に支援活動を行い,目の見えない子どもを巡る諸問題につき一定の知見を有していると考えられるから,その苦情は重く見るべきこと,(ⅲ)個人の尊厳(13条)や差別(14条1項参照),成長発達権(26条1項参照)に係る危険が差し迫った明白なものではなく,ある程度抽象的なものであっても,いったん児童等の個人の尊厳等が傷付けられる回復し難い不可逆的な損害を生じさせうることに照らせば,廃棄しないことによる弊害(害される公益)は大きいと考える。

 よって,本件廃棄は,前記国家の中立義務(21条1項)に違反するものではなく,合憲である。

 

 

Ⅱ 明らかな差し迫った司法試験本番へ向けて

 

 司法試験受験生の皆様、本当に、あともう少しですね。

 

「今まで続けてきたことに自信を持って、試験当日を迎えましょう。」[9]

  

 

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[1] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁・判旨(2)等参照。

[2] 「反論」は「被告としては,・・・と反論する。」という型で書くとよい(西口竜司ほか監修『平成29年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成30年)(以下「ぶんせき本」という。)28頁の159.90点(公法系科目3~4位)の再現答案(以下「超上位答案」という。)・第2の1等参照)。「反論」では,判断枠組み(規範)レベルまでのもの1つ(か2つ)と,あてはめレベルのものを1つ(か2つ)をそれぞれ合計2~3行程度で書くと決めておけば迷いが生じなくて良いと思われるし,時間不足にも陥りにくく,得点も加算され易くなるだろう。

[3] ぶんせき本28頁の超上位答案・第2の1(2)アも被告である「国は,・・・立法府の裁量が広く働くれことを主張して,基準を下げるべきであると反論する。」としており,緩やかなものとすべき(下げるべき)「基準」の内容までは明らかにしていない。この書き方は,特に原告と私見の判断枠組み(審査基準等)を同じものとする構成を採る場合(例えば,ぶんせき本30頁の超上位答案・第2の1(2)イ等)であっても有効であるものと思われる。

[4] 今日(現代)の社会状況に言及しようとしている論述であり,憲法では加点され易いものと思われる。

[5] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」という。)182-183頁・86事件)の園部逸夫裁判官の補足意見は,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」という判示を前提としつつも,「判断に裁量権の行使を誤った違法はない」として行政裁量(要件裁量)を認めている

[6] 私見では,原告主張(設問1)との重複を極力避けるようにしている(加点され易くするため)。このことはあてはめの点でも同じである。

[7] 問題文の事実関係とはやや離れるため,③の点まで書いて良いかについては意見が分かれるかもしれない。

[8] 船橋市立図書館図書廃棄事件(最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」百選Ⅰ158-159頁・74事件)の判示のキーワードの一部を活用している。

[9] 伊藤真『合格のお守り』(日本実業出版社,2008年)79頁。

 

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