平成30年司法試験論文憲法 予想問題
「未来は読めず 不安が付きまとう」
(Mr.Children「ヒカリノアトリエ」(2017年))
しかし,未来が読めてしまったら,出題予想の自由もなかったわけで,それはそれで寂しい気がする。
ということで,平成30年司法試験論文憲法の予想問題であるが,旧司法試験論文憲法平成14年第1問をベースに,一応ヘイトスピーチ(差別的憎悪言論)の問題も多少念頭に置きつつ作成した。
関連判例がいずれも大法廷のものではないので微妙だが,百選収載判例ではあるので,出てもおかしくないだろう。関連判例は,他にもあるが,ひとまず次の2つを挙げる。いずれも短答式でも重要な判例なので,司法試験受験生は再確認されたい。
①最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)158-159頁(74事件)。
②最三小判平成2年4月17日,藤野美都子「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)346-347頁(162事件)。
旧司法試験論文憲法平成14年第1問の問題と出題趣旨は次のとおり。
(問題)
A市の市民であるBは,A市立図書館で雑誌を借り出そうとした。ところが,図書館
長Cは,「閲覧用の雑誌,新聞等の定期刊行物について,少年法第61条に違反すると判断したとき,図書館長は,閲覧禁止にすることができる。」と定めるA市の図書館運営規則に基づき,同雑誌の閲覧を認めなかった。これに対し,Bは,その措置が憲法に違反するとして提訴した。
この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,市民が,公立図書館において,その所蔵する雑誌を閲覧する権利は,憲法上
保障されているか,保障されるとして,それを憲法上どのように位置付けるか,また,
その市民の権利を制約することが正当化される事情はどのようなものかを問うとともに,設例の状況において,具体的にどのような方法によって解決が図られるべきかを問うものである。
http://www.moj.go.jp/content/000049025.pdf
ちなみに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問は,知る権利の請求権的側面の(1つの考え方ではあるが,その問題として捉えられるものと考えられる)事例問題であり,知る権利の請求権的側面については,例えば原告主張においては「積極的・抽象的権利」(小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)199頁)と解すべきものとして論じていくことが考えられる。
ところで,昨年(平成29年)の予想はやや抽象的だったので,今年(平成30年)はもう少し具体的にしてみた。ちなみに,29年の方も危ないとは思っているが,同じでは芸がないので変えてみた次第である。
平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)
ということで,以下,平成30年司法試験論文憲法の予想問題である。
解説は次回。
[公法系科目]
〔第1問〕(配点:100)
202×年,A県Y市は,「地方から差別のない社会・個人の尊厳を守る社会を実現する」理念のもと,市立図書館を対象に,差別的表現を含む書籍の配架を制限等することを目的に,Y市図書館条例(以下「Y市条例」または「条例」と略す場合がある。)8条1項6号を新設(改正)し,「差別的表現を含む」(同号)図書等の図書館資料については,Y市教育委員会(以下「委員会」という。)が管理するY市立図書館を含むY市の図書館(以下単に「図書館」ということがある。)は,その「利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる」(条例8条1項)とした。ただし,研究者が研究目的等のために閲読を請求した場合には,これを認めることができるとされている(同条2項)。
条例の上記改正・施行から3年後,B大学文学部4年次生でY市民のX1は,「差別的表現とヘイトスピーチ」というテーマで,社会学のゼミ報告を行うために,『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版,X2訳,イギリス版の原書と殆ど同時期に出版されたもの。以下「本件図書」ということがある。)の閲読を請求した。本件図書の原書は,条例の上記改正・施行の1年前に出版・発行されたイギリスの作家Cによる児童文学・ファンタジー小説であり,2000年代から2010年代のイギリスを舞台に,法律を勉強する大学生で魔法使いでもある主人公のDが,強い絆で結ばれた学友であるE・Fらと切磋琢磨しながら日本の司法試験に相当する法曹資格試験の勉強に励み成長していく日々や,世界中の法曹資格者らを禁じられた黒魔法「JOBUTSU」により葬ってきた闇の魔法使いGとDとの戦いなどを描いた物語である。
本件図書は,X2がCの許可を得て本件図書の原書を翻訳した全560頁の長編作品であり(本件図書の原書も同じ頁数),図書館でも閲読されることの多い人気図書の1つで,発売当時はベストセラーにもなった。しかし,本件図書432頁1行目に,「the blind」に「めかんち」という目の不自由な人に対する侮辱的ニュアンスのある日本語を充てた箇所があり,条例の上記改正・施行後,約2年間は,同箇所について特に苦情が寄せられることがなかったものの,Xが本件図書の閲読を請求する約半年前に,同箇所につき目の不自由な人に対する差別的表現があり,特に,この表現が小学校や中学校等での目の不自由な子ども(児童・生徒)に対するいじめや差別の原因となると,子どもは大人以上にひどく傷つくことになるなどとして,関係団体(目の見えない子どもを中心に支援活動を行う公益法人)Hから全国の公立図書館に宛てて本件図書の提供には差別が助長されることなどがないように十分な配慮してほしい旨の要望書が提出された。
Y市立図書館は,Hから同要望書が提出されたことを踏まえ,条例の関係規定を根拠に,X1に本件図書の利用・閲読を制限する(認めない)処分(本件処分)を行った。なお,本件処分の手続に問題はなかった。
X1は,本件閲読不許可処分は憲法に違反するものである旨主張して,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟1)。
本件訴訟1が提起されてから6か月後,本件訴訟1係属中に,Y市立図書館は,条例の関係規定を根拠に,X1に同書を廃棄した(本件廃棄)。なお,本件廃棄の手続に問題はなかった。
さらにその3か月後,この本件廃棄の事実を知人から聞いたX2は,本件廃棄は憲法に違反するものである旨主張して,国賠法1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟2)。
〔設問1〕
あなたが本件訴訟1及び本件訴訟2の原告訴訟代理人弁護士である場合,本件訴訟1及び本件訴訟2において,それぞれどのような憲法上の主張を行うかを述べなさい。ただし,条文の漠然性及び過度の広汎性の問題,条例の法律適合性(憲法94条)の問題並びに国賠法上の問題は論じなくてよい。
〔設問2〕
〔設問1〕で述べられた原告訴訟代理人弁護士の主張に対する被告の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。
【参考資料1】 C著(X2訳)『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版)
432頁1行目~同頁3行目
P「所詮〝めかんち〟野郎の放つ魔法など,そうそう当たるものではないさ。論文試験の憲法の予想と大して変わらない的中率といっておこうか。」
D「いまのは聞き捨てならないな。あんただって偏見視されたら傷つくだろう?」
【参考資料2】 図書館法(昭和25年法律第118号)(抜粋)
(この法律の目的)
第1条 この法律は,社会教育法(昭和24年法律第207号)の精神に基き,図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め,その健全な発達を図り,もつて国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「図書館」とは,図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して,一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で,地方公共団体,日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。
2 (略)
(図書館奉仕)
第3条 図書館は,図書館奉仕のため,土地の事情及び一般公衆の希望に沿い,更に学校教育を援助し,及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し,おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。
一 郷土資料,地方行政資料,美術品,レコード及びフィルムの収集にも十分留意して,図書,記録,視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し,一般公衆の利用に供すること。
二 図書館資料の分類排列を適切にし,及びその目録を整備すること。
三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち,その利用のための相談に応ずるようにすること。
四 他の図書館,国立国会図書館,地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に附属する図書館又は図書室と緊密に連絡し,協力し,図書館資料の相互貸借を行うこと。
五 分館,閲覧所,配本所等を設置し,及び自動車文庫,貸出文庫の巡回を行うこと。
六 読書会,研究会,鑑賞会,映写会,資料展示会等を主催し,及びこれらの開催を奨励すること。
七 時事に関する情報及び参考資料を紹介し,及び提供すること。
八 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し,及びその提供を奨励すること。
九 学校,博物館,公民館,研究所等と緊密に連絡し,協力すること。
(設置)
第10条 公立図書館の設置に関する事項は,当該図書館を設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。
(職員)
第13条 公立図書館に館長並びに当該図書館を設置する地方公共団体の教育委員会が必要と認める専門的職員,事務職員及び技術職員を置く。
【参考資料3】 Y市図書館条例(改正後のもの)(抜粋)
第1条 この条例は,図書館法(昭和25年法律第118号。以下「法」という。)第10条の規定に基づき,図書館〔注:Y市立図書館を指す。以下同じ。〕の設置及び管理に関し,必要な事項を定めるものとする。
第2条 市〔注:Y市を指す。以下同じ。〕は,図書館を設置する。
2 図書館の名称及び位置は,次の通りとする。
(名称) (位置)
Y市立図書館 Y市民甲1丁目2番3号
Y市立東図書館 Y市民乙4丁目5番6号
Y市立西図書館 Y市民丙7丁目8番9号
第3条 図書館は,次の事業を行う。
一 法第3条に掲げる事業に関すること。
二 (略)
第5条 図書館の管理は,市教育委員会(以下「委員会」という。)が行う。
第8条 図書館資料が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは,委員会は,当該図書館資料の利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる。
一~二 (略)
三 プライバシーその他の人権を侵害するもの。
四 わいせつ出版物である旨の判決が確定したもの。
五 (略)
六 差別的表現を含むもの
2 前項の規定にかかわらず,大学(中略)の研究者が図書館資料を研究目的で利用しようとするときは,委員会は,当該図書館資料の利用を許可することができる。
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