平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

行訴法上の「処分」性拡大の波及効果について

 「結末ばかりに気を取られ この瞬間を楽しめない」[1]

 

世はGW真っ只中であるが,司法試験受験生にとっては中々苦しい時期だろう。

とはいえ,あと約2週間となった。ラストスパートをかけるには絶好のタイミングである。

  

 

さて,ブログを解説して1年が過ぎた。特にそれを自分で勝手に記念するわけではないが,講学上の行政指導として制定されたものとされる行政作用(例えば医療法30条の7に基づく病院開設中止勧告)に行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項の「処分」性を認めることに関する「処分性拡大の波及効果[2]について,受験生からご質問をいただくことが少なくないので,本日のブログで取り扱うこととしたい。

 

この「処分性拡大の波及効果」にはいくつかの論点があるが,このうち,一般的にも,また司法試験との関係でも,主要な論点と考えられる「違法性の承継」(平成28年司法試験論文行政法で出題)と,行政手続法(以下「行手法」という。)上の「不利益処分」(あるいは「行政指導」)の関係規定の適否(平成20年新司法試験論文行政法で出題)の2つについて[3]若干の検討を加えることとする。周期的に,後者の論点は平成30年の司法試験や予備試験の論文行政法に出ても何らおかしくないし,後者の論点も平成30年予備試験論文行政法に出る蓋然性が相当程度あるといえるだろう。

 

以下,前提論点である行政指導と行訴法3条2項の「処分」性の関係,特に病院開設中止勧告事件[4]が上記病院開設中止「勧告」に処分性を認めた趣旨の理解の仕方に触れた上で(下記),処分性拡大の波及的効果の主な2つの問題である違法性の承継(下記)及び行手法上の「不利益処分」(あるいは「行政指導」)の関係規定の適否(下記)について若干の検討を加えることとする。

 

1  行訴法3条2項の「処分」に当たるか

(1)基本的方針

(2)論述の具体例

(3)行政指導として法定された行政作用に行訴法上の処分性を認める趣旨

2  違法性の承継の肯否

(1)基本的方針

(2)論述の具体例

3  行政手続法上の不利益処分or行政指導の関係規定の適否

(1)基本的方針

(2)論証例(論証パターン)

4 結びにかえて

 

 

        行訴法3条2項の「処分」に当たるか

      (1)基本的方針

上記病院開設中止「勧告」など任意性を前提とする講学上の行政指導として制定された(個別法がその旨予定して法定した)行政作用であっても,病院開設中止勧告事件の理由付けが妥当する場合には,行訴法3条2項の「処分」に当たるものと解される。多くの受験生がこのような立場を採るだろう。

 

      (2)論述の具体例

行政指導に関するものではないが,以前,ブログで,都市計画法32条1項の公共施設管理者の「同意」の処分性を肯定する論述を試みたので参考にしていただけると幸いである。  

 

yusuketaira.hatenablog.com

  

      (3)行政指導として法定された行政作用に行訴法上の処分性を認める趣旨

病院開設中止勧告事件の勧告のような行政指導については,最高裁判所が行政指導として制定された行政作用(典型的な行政処分とはいえない,行政処分のうちの「中核」部分ではない「フリンジ(周辺)部分」にある行政作用[5])に行訴法上の処分性を認めた趣旨の理解の仕方が現状一様ではない。

この論点すなわち処分性拡大の波及効果の諸論点の前提論点と位置付けられるものについては,司法試験(新司法試験)でも論じる必要があるとされている。

 

すなわち,平成20年新司法試験論文行政の出題趣旨は,介護保険103条1項の「勧告」の手続の違法性(手続(法)的違法事由)に関し,①「勧告の手続法的違法が問題となろう。その前提として,勧告にはどのような行政手続が要請されるのかが論じられなければならない。」(下線は引用者)とした上で,②「例えば,勧告を不利益処分ととらえる場合には,行政手続法の不利益処分手続が適用される。この場合には具体的にどのような手続規制が要求されるのかを明らかにした上で,本件事案でそうした手続が踏まれていたのかを検討することとなろう。これに対し,勧告を行政指導と解する場合には,知事の行う行政指導については,行政手続法は適用除外となり,B県行政手続条例の定める行政指導手続が要求される。この点を指摘した上で,本件で手続に関する適法が認められるのかを同条例に即して検討することが求められる。」としている。

 

上記出題趣旨もいうように「前提」論点であるから,あまり論じている時間やスペースがないが,多少なりとも言及できていると点数が違ってくるだろうから,受験生としても短く論じられるよう意識・準備しておいてほしいところである[6]

 

さて,この前提論点につき,学説は大別すると次の2説に分かれているといえよう。

すなわち,この趣旨は,専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあるとする見解(〔A説〕[7]と,この趣旨につき,単に取消訴訟による権利保護・行政統制の便宜だけではなく,法効果を持たないものとして立法されたはずの行政作用につき,「元々の法令の欠陥や、法執行を担当する行政機関が事実上作り出した新たな法環境」にかんがみ,「現在ではもはや、行政処分へと位置付けを変えるべきであるという決断を、司法があえて行うもの」と考える見解(〔B説〕)である[8]。そして,やや下記の議論の先取りとなるが,〔B説〕は,上記の処分性を認めた趣旨につき,(基本的には)通常の行政処分と同様に,出訴期間のほか,行手法や行政不服審査法の対象にすることも合意するものと理解する立場となるものと解される[9]

 

 これら2説の存在を前提に,以下,違法性の承継の論点と,行政手続法で適用される規定についての論点をそれぞれ検討する。

 

        違法性の承継の肯否

      (1)基本的方針

前述した〔A説〕によると,行訴法上の処分性を認めた趣旨専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあり,違法性の承継を遮断する趣旨までは含まないものと解されることから,取消訴訟の排他的管轄(行訴法上の出訴期間の規定)が適用されないものとする立場がありうる[10]。この立場によると,<甲説>違法性の承継の肯否は問題とならず,その論述は不要(先行行為の違法性の主張を認める)ということになると思われる。

しかし,この<甲説>によると,処分という行政制度の根幹に関わる仕組みの基本的前提を覆すことになりかねないという問題があり[11],また,行訴法上の処分性を認める以上,取消訴訟の排他的管轄に伴う「遮断効」は否定できないとの見解もある[12]ため,<乙説>違法性の承継の肯否を問題とすべきとの立場も考えられる。

そこで,<甲説>の立場に言及した上で,「仮に違法性の承継の肯否が問題となるとしても」などとして,<乙説>の立場に立ち,違法性の承継の肯否の問題を答案で論じる(いわば“二段構えの主張”)のも良いかもしれない[13]。そして,その際には,違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判例[14]である安全認定判決(新宿区「たぬきの森」事件(本案判決)[15]の判断枠組みないし一定の範囲で違法性の承継を肯定した同判決の理由付けに照らした論述(下記(2)及びそこに引用したブログ参照)をすべきものと考えられる。

 

      (2)論述の具体例

行政指導に関するものではないが,以前,上記と同様に(上記の以前のブログで),「同意」の処分性を肯定した場合の違法性の承継の肯否に関する論述を試みたことがあるが,本ブログでも,あらためて<乙説>に立つ場合の論述例(ないし論証パターン)の枠組み(規範定立部分だけではなく,問題提起からあてはめまでのフレーム)[16]を示しておくこととする。「仮に違法性の承継の肯否が問題となるとしても」などとして(上記“二段構えの主張”),同問題を答案で論じる場合に参考にしていただきたい。

 

○論述例(違法性の承継を肯定する場合)

「○○[17]」(○○法○○条○項)の処分性が肯定される場合,違法性の承継の肯否すなわち先行処分(先行行為)としての○○に係る違法を後行処分である△△〔:典型的な行政処分である後行行為〕の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる。

 この点については,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限(14条)の趣旨からすれば[18]違法性の承継は原則として否定されるが,実体法的観点及び②手続法的観点両面からみて例外的に肯定されうると解すべきである[19] [20]

 これを本問についてみると,○○は・・・の前提として要求される行為であり,それ自体独立した意味をもつ行為ではなく○○△△とが結合して・・・・・・という一つの目的・効果の実現を目指しているものといえる。また,○○については事前の公聴会が法定されている(○○法○○条○項)ものの,○○法には文書による個々の通知が法定されているわけではなく,加えて,本件のように○○(先行行為)が処分であるか否かが不明確な場合には,先行処分を争うための手続的保障が十分とはいえず,△△(後行処分)を受けるまでは争訟を提起しないことがあるとしても,その判断はあながち不合理ともいえない[21]

 よって,本件で違法性の承継は肯定されると考える。

 

 

        行政手続法上の不利益処分or行政指導の関係規定の適否

      (1)基本的方針

行訴法上の処分性を肯定する場合,その行政作用について,[あ]行手法上の処分の関係規定(「勧告」の場合,不利益処分の規定[22](…理由付記,弁明手続の規定))を適用すべきか,それとも[い]行政指導の関係規定を適用すべきかが問題となる。

この点につき,〔A説〕に立ち,違法性の承継のところ(前記)で,<甲説>に立つ場合には,違法性の承継の論点と行手法の論点が同時に問題になる事案では特に(論点相互間の関係,答案の読み手への印象等を考慮すると),[い]の行政指導の規定を適用すべきとの帰結となろう。

他方で,〔B説〕に立つ(違法性の承継のところで,<乙説>の立場に立つ)場合には,行訴法と行手法(・行審法)とを統一的に解釈し,いわばパッケージ[23]として適用すべきであるという見解を採ることになるから,[あ]の不利益処分の規定を適用すべきとして良いだろう。

この論点も,前記の問題と同じく,基本的には,前提論点で〔A説〕〔B説〕のいずれの立場を採るかにより結論が異なってくるものといえ,また,前記2(1)のような“二段構えの主張”を答案で展開するのも悪くはないだろう。

 

      (2)論証例(論証パターン)

論述例ないし論証パターンとしては,次のようなものが考えられるので,適宜参考にしていただきたい。

 

○論証パターン・[い]の立場の場合

行訴法3条2項の「処分」に当たると解される行政作用については,病院開設中止勧告事件が行政指導の処分性(同項)を認めた趣旨専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあると解されることから,行手法上はなお「行政指導」(同法2条6号)に当たると考えるべきである。よって,行政指導に関する行政手続法の関係規定(32条以下[24])が適用される。

 

○論証パターン・[あ]の立場の場合

行訴法3条2項の「処分」に当たると解される行政作用については,病院開設中止勧告事件が行政指導の処分性(同項)を認めた趣旨早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあるのみならず,行訴法と行手法(・行審法)とを統一的に解釈[25],いわばパッケージとして適用すべきとする点にもあると解されることから[26],行手法上も「不利益処分」(同法2条4号柱書)に当たるものと解される。よって,不利益処分についての行政手続法の関係規定が適用される。

 

       結びにかえて

以上のとおり述べてきたわけであるが,最高裁判例・学説の議論をそのまま司法試験の答案に反映させることには,実は,多少問題があるのではないかと思われる。というのも,〔A説〕〔B説〕も(特に〔B説〕は),あくまで最高裁判例の判示を前提とするのに対し,多くの司法試験の答案では,一審段階における主張・反論や第三者的立場での(≒裁判所の)判断につき解答することが求められているものと考えられることから,最高裁判例処分性を認めた場合の論拠がそのまま妥当するわけではないと思われ,問題は単純ではないように思われる(このことは上記及びどちらの論点についても妥当することだろう)。

とはいえ,このような観点は,行政法の基本書・演習書で(おそらく)特に問題視されてはいないようであるから[27],少なくとも司法試験受験生が答案を書く際に気にすることではないだろう。

 

いずれにせよ,受験生は,このようなやや難しい(と思われる)論点について,前提論点に深入りしすぎることなどにより時間不足に陥るリスクに注意すべきである。

受験生が「早押しクイズ」(下記ブログ参照)としての,あるいは,「事務処理超優先型」・「暗記ゲーム型」(多くの受験生にとって主な暗記の対象は「『予備校教育の代名詞』とも言われる『悪名高き』論証パターン[28]あるいはそれに類似するものということになるだろう[29]。)の司法試験論文行政法の問題に挑むためには,そして,本試験でベストを尽くすためには,過去問で出ているような重要論点等につき事前にどの見解・立場に立つかをしっかり決めておくことが重要となってくるわけであるところ[30],本ブログの各拙稿がその一助となれば幸いである。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

私は,全受験生がベストを尽くせることを願ってやまない。最後の一秒まで駆け抜けてほしい。

 

「夢じゃないあれもこれも その手でドアを開けましょう」[31]

 

 

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[1] B’zultra soul」(稲葉浩志作詞,松本孝弘作曲,2001年)。

[2] 中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)(以下「中原・基本行政法」という。)316頁。

[3] このほかに,行訴法上の「処分」と行政不服審査法上の「処分」とを同様に考えることになるのかという論点や,行政庁の教示義務(行政事件訴訟法)が生じるかという論点がある。阿部泰隆『行政法解釈学Ⅱ』(有斐閣,2009年)(以下,「阿部・解釈学Ⅱ」という。)115頁,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)382~384頁,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下,「神橋・救済法」という。)83~84頁参照。

[4] 最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁,宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)332~333頁・160事件〔角松生史〕。

[5] 塩野宏行政法Ⅱ[第5版補訂版]行政救済法』(有斐閣,2013年)120頁参照。

[6] なお,平成20年新司法試験論文行政法を解説した石井昇「公法系科目〔第2問〕の解説」別冊法学セミナー198号(2008年)38,44頁や,橋本博之『行政法解釈の基礎―「仕組み」から解く』(日本評論社,2013年)(以下「橋本・解釈の基礎」という。)79頁は,この「前提」論点には(殆ど)触れていないものと思われる。

[7] 最高裁が「勧告」に行訴法上の処分性を認めた趣旨はあくまで取消訴訟による実効的な権利救済の必要性・便宜にあり,「勧告」の実体法上の法的性質は依然として行政指導であるとする考え方である(阿部・解釈学Ⅱ115頁参照)。なお,塩野・行政法Ⅱ120頁,大久保規子「処分性をめぐる最高裁判例の展開」ジュリスト1310号(2006年) 18頁(24頁),小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)(以下「論点体系」という。)309頁〔青栁馨〕,中原・基本行政法317頁,神橋・救済法84頁,大島義則『行政法ガール』(法律文化社,2014年)(以下「大島・行政法ガール」という。)114頁等も参照。

[8] 中川丈久「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」藤山雅行=村田斉志編『新・裁判実務体系 第25巻 行政争訟〔改訂版〕』(青林書院,2012年)139頁以下(141頁)参照。

[9] 中川・前掲「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」143頁参照。ただし,山本・探究383頁は,病院開設中止勧告事件(最高裁判決)が「行手法・行審法・行訴法を体系的に解釈して『処分』を統一的に理解することを,あえて放棄する決断をしたとは,判決文から読み取りにくいし最高裁が処分とした行為に行手法や行審法が適用されないと,学説があえて理解する理由もないように思われる」としつつも,「出訴期間制限」については,「裁判を受ける権利を実際上大きく制限するものであり,手続保障のために処分性を承認することと当然には連動」しないものと解している(同書384頁)。

[10] 高橋滋『行政法』(弘文堂,2016年)329頁参照。塩野・行政法Ⅱ119~120頁もこの立場に立つか,この立場と親和的と思われる。

[11] 中原・基本行政法317頁参照。

[12] 最三小判平成17年10月25日集民218号91頁の藤田宙靖裁判官補足意見,中川・前掲「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」143頁参照。神橋・救済法84頁も「ある行為に処分性を認めることによって、公定力や不可争力などの一種の遮断的効果が生じることが考えられる」とする。

[13] ただし,論述の分量が増えるため,時間不足のリスクが増大することは否めないので,注意が必要である。

[14] 倉地康弘「判解」ジュリスト1415号82頁参照。

[15] 最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁・宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)170~171頁・84事件〔川合敏樹〕。

[16] 「勧告」等(行政指導として法定された行政作用)につき,<甲説>に立ち,“二段構えの主張”もしないという答案を書く場合には,この(2(2)記載の)論証例を書くことはない。この点については十分に注意されたい。

[17] 「○○」には,例えば「勧告」などの文言が入る。

[18] 違法性の承継の根拠論に関し,板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全に基づく安全認定の違法を主張することの可否」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)269頁以下参照。違法性の承継が公定力(取消訴訟の排他的管轄)の例外なのか,不可争力(出訴期間制限)の例外なのか,という論争がある(同頁)ところ,後掲の(1つ下の)注(平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の)のとおり,平成28年の考査委員は,公定力説と不可争力説を併記してよいものとしているように思われる。

[19] 違法性の承継の論証パターンのショートバージョンである。なお,この部分の論証パターンとそのあてはめの部分については,平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の次の記載を参考にした。「〔設問3〕は,いわゆる違法性の承継の問題であるが,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば,違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で,まず,違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で,最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には,違法性の承継が認められるための考慮要素として,実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。」(下線は引用者)

[20] 平成28年司法試験論文行政法の採点実感等5頁等も参考にした。

[21] 後行行為の段階までは「争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない」という前掲・最一小判平成21年12月17日のキーフレーズと殆ど同様のフレーズ(の一部)を②の要素のあてはめの部分に盛り込んでいる。ただし,これを②のあてはめとして良いかについては議論があるところと考えられる(論点体系296~297頁〔青栁馨〕は,このキーフレーズの部分を「手続保障」の要素とは別の第3の要素としている(「③」というナンバリングをしているため)ものと思われる)。

[22] 橋本・解釈の基礎79頁,神橋・救済法84頁。

[23] 中原・基本行政法317頁参照。

[24] ちなみに,地方公共団体の機関がする行政指導については,行手法3条3項の適用除外規定に注意する必要がある(大島・行政法ガール119頁注8参照)。

[25] 「処分」という同じ概念(文言)については同じく解すべきというのが主たる論拠だろう(阿部・解釈学Ⅱ115頁参照)。

[26] 中原・基本行政法317頁,山本・探究383頁参照。

[27] 神橋・救済法73~75頁,橋本・解釈の基礎79頁参照。

[28] 呉明植(伊藤塾首席講師)『憲法伊藤塾呉明植基礎本シリーズ6】』(弘文堂,2018年)Ⅴ頁。なお,賢明な受験生は「悪名高き」と評価・批判する者の利害関係も考えてみると良いだろう。

[29] 「論証パターン」(「論パ」と略されることもある。)が掲載されている教材は(最近では特に)多く,例えば,伊藤真伊藤塾塾長)『伊藤真試験対策講座』シリーズ(弘文堂),呉・前掲『伊藤塾呉明植基礎本シリーズ』を挙げることができる。また,これらの教材とはややコンセプトが異なるように思われるが複数の受験生(といってもそれほど数は多くないが)から最近聞いた話によると,相当数の受験生が重要条文についての趣旨・要件等や重要論点についての規範と理由(要するに特に理解・記憶すべき情報)をまとめたサブノートのような教材である『趣旨・規範ハンドブック』シリーズを使っているようである(辰已法律研究所の司法試験のいわゆる直模試験で,会場にいる多くの受験生が休憩時間に『趣旨・規範ハンドブック』を見ていたとの情報を最近複数名の受験生から聞くことができた)。

なお,旧司法試験及び新司法試験考査委員であった(委員の期間は1998~2004年,2005~2007年)井田良教授も「論証パターン」の「有用性」と「危険性」を認識している(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号(2018年)8頁以下(23頁)〔井田〕)ところ,同文献を読む限り井田教授も,その「有用性」をすべて否定しているわけではないものと推察されることからすれば,司法試験考査委員経験のある研究者の先生であっても,論証パターンの「有用性」につき一定程度認めているものと言ってよいものと思われる。ちなみに,論証パターンの「利点」と「危険」に関し,特に同文献23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[30] もちろん,設問や弁護士の会話文等の内容次第では別の見解・立場に立つ必要があることもあるが,そのようなことをすべき回数はそれほど多くないだろう。

[31] B’z・前掲注(1)。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

LOVE 司法試験 ONLY (平成27年論文行政法)

世は空前のTOKIOブームのようだが,平成30年司法試験を受ける受験生においては,もちろんカラオケで「オンリー・ユー」などといって騒いでいる場合ではない。

直前期は「オンリー・司法試験」[1]である。

 

 

さて,一般論として,司法試験受験生から本試験の過去問の質問を受ける立場にある場合,特に直近3年ないし5年分くらいの過去問についてはよく聞かれるわけであるが,その場で問題を一から読んでいては迅速にそれなりの回答することは普通できない。そのため,質問を受ける側も,大体どんな問題かくらいは直ぐに思い出せるようにしておいた方がよいし,そのためには受験生と同様に実際に構成をメモしてみたり,あるいは起案してみたりすることが必要になってくるはずである。

 

これを平成30年司法試験論文行政法(その対策)との関係でみると,多くの受験生が差止訴訟や損失補償が出るのではないかと予想し,直近でそれらが問われた平成27年司法試験論文行政法を比較的しっかりと検討することが予想され[2],特に平成30年司法試験の直前期には,平成27年司法試験論文行政法の質問が複数(か多数)寄せられること予想される。

実際に最近,平成27年に関するご質問をいくつかいただいており,今後もこれが続くのではないかと思う。

 

そこで,質疑応答の合理化ないしその時間の省エネ化を図るべく,また,直前期に答案の流れや論証を再確認等するための読みものとして(外食する場合の待ち時間などにいかがでしょうか),一応の検討結果にすぎないものではあるが,次のとおり本ブログに〔起案例〕を掲載することとした。

 

〔起案例〕には,脚注を付したので,適宜参考にしていただきたい(参考にならないものもあるかもしれないが)。もちろん今年はまだ司法試験を受験しないが受験勉強中という方にもご一読頂けると幸甚である。

 

 

〔起案例〕

1 設問[3]

1 差止訴訟の提起

 Xは,消防法(以下「法」という。)10条4項の「技術上の基準」に適合しないとして法12条2項に基づきなされる本件命令が発せられることを事前に阻止するために[4],本件命令の差止めの訴え(行訴法(以下,法律名を省略する。)3条7項)を提起することが考えられる。

2 「一定の処分…がされようとしている」(3条7項[5][6]

(1)「一定の処分」(3条7項)のうち,「処分」とは,公権力の主体たる国または公共団体[7]が行う行為のうち,その行為によって,直接[8]国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律[9]上認められているものをいう。[10]

  本件命令は,これが発せられると法12条2項より移転義務が生じるものであり,不利益処分(行政手続法2条4号本文)であるから,典型的な「処分」といえる。

(2)[11]一定の」(3条7項)といえるためには,裁判所が請求を特定して判断することができる程度の特定性が必要と解される[12]

  本件命令は,本件取扱所の「修理」や「改造」ではなく,「移転」(法12条2項)命令に特定されており,上記特定性の点も満たすため「一定の」といえる。

(3)処分が「されようとしている」(3条7項)とは,処分がされる一定の蓋然性[13]のある場合と解される。

 本件では,本件葬祭場の営業が開始されれば,Y市長が本件命令を発することが確実[14]とのことであり,平成27年5月末には営業開始が予定[15]されている。ゆえに,本件命令がなされる具体的な時期の予告があるといえ,Xは本件命令に従う意思がないため,相当程度の蓋然性があるから,一定の処分が「されようとしている」場合といえる。

3 「重大な損害を生ずるおそれ」(37条の41項本文)[16]

【論証】「重大な損害を生ずるおそれ」については,同条2項の各事項に係る事実に照らし,処分より生ずるおそれのある損害が処分後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解する。

 上記判断枠組みを本件に即して具体的に検討するにあたっては,①取消訴訟等の救済による損害回復の困難性,②事業者の事業の基盤揺るがしかねない損害となるかなどを総合的に考慮すべきものと考える。[17]

 ①本件命令が出されると直ちにウェブサイトで公表され,顧客の信用を失うことになる[18]。そして,一度失われた顧客の信用はいったん喪失すると容易には回復できないものであり,取消訴訟の提起,執行停止の決定等での救済による損害の回復は極めて困難である。また,②Xは本件取引所で平成17年から[19]10年間も事業を営み信用を得てきたことからしても,かかる信用の失墜は,Xの事業の基盤を揺るがしかねない損害といえる。

 よって,差止めを命ずる方法によるのでなければ救済が困難といえ,本件では「重大な損害を生ずるおそれ」も認められる。

4 「損害を避けるため他に適当な方法がある」(37条の41項ただし書)

【論証】「損害を・・・方法があるとき」[20]補充性)とは,個別法において差止めを求める処分の前提となる処分が規定されており[21]当該処分の取消訴訟を提起し取消判決を受ければ,当然に後続する処分[22]をなしえなくなることが法定されている場合をいう[23]ものと解する。

 本件では,上記のような規定が法定されているわけではないので,補充性の訴訟要件も認められる。

 Xは,前記のとおり不利益処分という本件命令の名宛人であるため,「法律上の利益を有する者」(原告適格,37条の4第3項・4項)といえる。

 以上より,訴訟要件を満たすので,差止めの訴えが認められる。

第2 設問2

1 法・政令の趣旨,本件基準の法的性質等

 本件命令が適法と認められるか[24]に関し,まず,危険物政令(以下「政令」という。)9 条1項1号ただし書の趣旨,本件基準の法的性質等につき検討する[25]

 同号ただし書は,法10条4項の「技術上の基準」に関し,同項で委任を受けた政令19条1項により準用される規定であり,委任命令としての法的性質を有する。そして,政令9条1項1号ただし書は「市町村長等が安全であると認めた場合」についての例外を定めるところ,この「安全」性については,地域の気候や土地の利用状況等[26]地域の特性[27]を考慮の上判断されるものとして要件裁量を認める趣旨に出たものと考えられる。そうすると,本件基準は,行政の内部基準として法の委任に基づかずに定められた行政規則裁量基準であり,行政手続法上の「処分基準」(同法121項)としての法的性質を有する[28]ものといえる。

2 本件基準①及び同②の合理性の認否

(1)【論証】処分基準(行手法121)が定められる趣旨は,不利益処分の公正さを確保し,その相手方の権利利益の保護に資するなどの点にある。そこで,公正・平等な取扱いの要請,相手方の信頼[29]の保護等の観点から,公にされている処分基準の定めが法令の趣旨に適合する合理的なものである場合には,その定めと異なる取扱いをすることが相当といえる特段の事情(個別事情)がない限り,そのような取扱いは裁量権逸脱濫用するものとして違法となるものと解される[30]。そして,Xの問合せに対してY市職員から本件基準に照らした説明がなされている[31]ため,本件基準は公にされており,上記法的効果を有するものといえる。

(2)本件基準①の合理性

 政令9条1項1号ただし書の趣旨は,事後的な事情変更があった場合に法12条2項に基づく移転義務が生じる事態をできる限り避けようとする[32]点にある。しかし,建築基準法上,工業地域では一般取引所を建築でき,倍数制限がない[33]にもかかわらず,本件基準①・三は,事情変更があっても倍数50を超える場合には一律に保安距離の短縮を認めないこととしており,50という数値に特に客観的な根拠があるわけではないから[34]上記の法及び政令の趣旨に反するものであって合理的なものとはいえない

(3)本件基準②の合理性[35]

 本件基準②は,同③の防火塀の高さを前提に短縮限界距離につき定めているが,同③の高さより高い防火塀を設置する場合等についても,倍数10以上の場合には一律に同距離を20メートルとしている(同②一(ろ))。しかし,同③の高さより高い防火塀を設置するか否かに係る事情を一律に考慮できないこととされている上,20メートルという数値に特に客観的な根拠があるとはいえないのに同事情を一切考慮できないように規定されていることから,本件基準②の内容は,上記の法及び政令の趣旨に反し,不合理である。

 したがって,本件では,本件基準①及び②を適用すべきでない。

(4)個別事情の有無

 さらに,仮に本件基準①・②が画一的・硬直的なものではなく個別事情を考慮して例外を認めるものと解され,合理的といえるとしても[36],上記個別事情の有無が問題となる。

 (ⅰ)本件取引所は,倍数55,短縮限界距離に関係する距離が18メートルであるため,本件基準①及び②を僅かに満たさないものにすぎない[37]。また,(ⅱ)同③の水準以上の高さの防火塀や,政令で義務付けられた水準以上の消火設備の設置をする用意があるとXが述べていること,(ⅲ)Xは倍数を減らすと経営が成り立たなくため事実上倍数を減らせないこと,(ⅳ)Xの所有する敷地内では,本件取扱所を本件葬祭場から20メートル以上離れた位置に移設することは不可能であり,同敷地外に移転する場合には巨額な費用を要することになること[38]も考慮すると,[39]本件では,本件基準と異なる取扱いをすることが相当といえる個別の特段の事情があるというべきである。

(5)よって,本件基準が合理的であるとしても,本件では個別事情を考慮すべきであるから,考慮不尽となる結果,社会通念上著しく妥当性を欠く判断となり裁量権の逸脱濫用があるといえ,本件命令は違法である。

3 政令23条の適否

(1)政令23条と政令911号ただし書との関係[40]

 政令23条と政令9条1項1号ただし書とは要件を異にするものであり,また,政令23条は,一般基準に適合しない特殊な施設等の出現に備えて設けられ[41],製造所等の設備等に応じ,より柔軟に一般基準の適用を除外するものとする趣旨に出た規定と解される。とすると,政令23条は,そもそも政令911号ただし書の基準を適用すべきでない特例を定めたものと考えられる。

(2)本件取扱所については,本件基準③の水準以上の高さの防火塀や,政令で義務付けられた水準以上の消火設備の設置をする用意がある旨Xが述べていることなどからすれば[42],「火災の発生及び延焼のおそれが著しく少なく,かつ…被害を最少限度に止めることができると認めるとき,又は…同等以上の効力があると認めるとき」に当たりうる。

 よって,Xが法定の基準以上の防火措置をとることにより,政令23条が適用される余地もある。ゆえに,同条を適用しないことは,同条における要件認定に係る裁量権の逸脱・濫用[43]といえ,本件命令は違法となる。

第3 設問3

 Xは,本件命令により,本件取扱所を移転して損失が生じたとして移転にかかった費用を請求できるか[44]

2 判断基準[45]

【論証】憲法293の趣旨が特別の犠牲に対する公平の観点からの救済にあり,財産権(同29条1項)保障の実質化と財産権の側面における平等原則(同14条1項)の実現にあることからすると,損失補償の要否は,損失が特別の犠牲に当たるか否かで判断すべきである[46]。すなわち,侵害行為の対象の特定性形式的基準)と,侵害行為が財産権の本質を侵すほど強度なものか実質的基準)により決すべきであり[47],実質的基準については,規制の目的,②規制の程度,③事後的な事情変更に係る事項[48]考慮する。

3(1)本件では,まず,本件命令はXのみに対するものであるから,侵害行為の対象の特定性はあるといえ,形式的基準を満たす。

(2)次に,実質的基準についてみると,本件命令(122[49]が発せられるための要件を規定する121は,取扱所の所有者等に対し,104の技術上の基準に適合するように維持すべき義務を課している[50]。そして,法の目的が国民の生命,身体及び財産を火災から保護することなどにあること(法1条[51])に照らすと,上記維持義務(法12条1項)は,公共の安全のための警察目的(消極目的)の規制であり,取扱所の所有者等は許可を受けた時点以降も継続的に基準適合状態を維持する必要があるとの趣旨に出たものと解される[52]

 とすれば,②規制の程度が強く,かつ,損失を受ける者が事後的な事情変更に係る事情の発生をあらかじめ計画的に回避できなかった場合に限り,実質的基準を満たし,損失補償が必要となると考える。[53]

 本件では,本件取引所の移転につき巨額な費用[54]を要しており,さらに,本件取引所の移転により失った顧客の信用は容易には回復できないものであることから,規制の程度は強いといえる。

 また,Xが本件取扱所の営業を始めた平成17年の時点では,本件葬祭場の所在地は,第一種中高層住居専用地域(都市計画法9条3項)とされていたのであり,同地域では,葬祭場の建築は原則として不可能とされていた(建築基準法48条3項本文)。そのため,10年後の平成26年都市計画決定で第二種中高層住居専用地域に指定替えがなされることや,これに伴い小規模な葬祭場が建設されること(同条4項本文等)などを抽象的に予見しうる余地はあったとしても,Xが指定替えに関する各事情の発生を平成17年の時点で具体的に予見することは不可能か極めて困難であったといえる。加えて,確かに指定替え前の第一種中高層住居専用地域においても学校や病院等は建築可能とされていたが,これらは小規模な葬祭場の場合とは異なり当該地域の実情に応じて計画的に建設されることから,学校や病院等の建設については本件取引所の設置時に計画的に回避可能な事情といえるとしても,本件葬祭場の新設は計画的に回避可能な事情とはいえない[55]

 よって,Xの損失に係る侵害行為は財産権の本質を侵すほど強度なものであり,受忍限度を超えるものといえる。

4 以上より,Xの損失は特別の犠牲に当たる[56]ため,Xは,Y市に憲法29 条3項に基づき,損失補償を請求できる。

                                    以上

 

なお,仮に私が平成27年司法試験論文行政法を採点・評価する場合には,かなり大雑把なものではあるし(一応の目安くらいにしかならない),いかがなものかという点もあるかもしれないが,次のような〔採点基準〕によるだろうと思われる。参考程度にご笑覧いただけると幸甚である。

 

 〔採点基準〕 

【設問1(配点:20/100点)の採点基準】

1 消防法12条2項の移転命令の差止訴訟を提起すべきこと・・・2点程度

2 一定の処分の蓋然性(訴訟要件①)の検討・・・ 3点程度

3 重大な損害(訴訟要件②)の検討・・・7点程度

4 上記1・2以外の訴訟要件の検討・・・3点程度

5 裁量点・・・5点程度

(「裁量点」部分については,本試験同様,①事案解析能力,②論理的思考力,③法解釈・適用能力,④論理的構成力及び⑤文書表現能力のそれぞれの程度により評価するものとする。設問2・3についても同じ。)

 

【設問2(配点:50/100点)の採点基準】

1 法12条2項の移転命令の要件が,法10条4項,政令9条1項1号の技術上の基準不適合であること,同号但書には要件裁量が認められると解すること,本件基準の性質等の検討など・・・8点程度

2 要件裁量の逸脱濫用の主張1:本件基準①の不合理性の主張・・・7点程度

3 要件裁量の逸脱濫用の主張2:本件基準②の不合理性の主張・・・5点程度

4 要件裁量の逸脱濫用の主張3:個別事情の考慮に関する主張・・・7点程度

5 危険物政令23条に係る違法事由の検討・・・/8点程度

6 裁量点・・・15点程度

 

【設問3(配点:30/100点)の採点基準】

1 損失補償の要否に関する規範の定立(特に実質(的)基準)・・・4点程度

2 形式(的)基準への言及(同基準の検討)・・・2点程度

3 実質(的)基準・①規制目的の検討・・・7点程度

4 実質(的)基準・②規制の強度等の検討・・・4点程度

5 実質(的)基準・③事後的な事情変更に係る事項等の検討・・・5点程度

6 裁量点・・・8点程度

 

直前期の皆様,受験が終わったら,カラオケで「LOVE YOU ONLY」を歌って盛り上がりましょう。

 

 

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[1] TOKIO「LOVE YOU ONLY」(1994年)参照。

[2] 差止め訴訟や損失補償は,それぞれ平成30年行政法(行政救済法分野からの出題)のヤマの1つである。差止訴訟は平成23年平成27年と出題されており,訴訟類型としての重要性(平成16年改正法で法定)にも照らすと,3~4年に一度出題されると予想される。損失補償は,平成24年平成27年と出題されており,概ね3年に1度出る傾向があると予想され,全受験生がしっかり準備をしてくる論点と思われる。

[3] ①最後の設問が「設問4」の場合,②設問3までであっても設問の中に「小問」がある場合(実質的には設問4の場合と同程度の論点数),③最後の設問の配点割合が「20」以上の場合には,特に,時間管理に注意することが重要となる。人によっては時間を余らせるように書いていってもよいだろう(余らないことが多い)。

[4] 「本件命令が発せられることを事前に阻止するために,」という部分は「設問1」の記載をそのまま写した部分である。要するに,冒頭部分の記述は,①設問の記載と②「本件命令」の根拠法規・処分要件規定(冒頭部分では法律レベルのみで足りるだろう。ここではいずれも問題文2頁最終段落・(3)に明記されている条項を記載しただけである。)をつなげただけの文章にすぎない。ちなみに,この①(設問の記載)につき,オウム返しは不要という見解もあるだろう。しかし,本答案のこの部分のように,あまり長くならないのであれば,書いてしまっても問題ないだろうし,出題趣旨との関係では書いた方がむしろ採点者が読み易いと感じる場合もあるように思われる。

[5] 関連する条文として,(a)行訴法3条7項のみを挙げる立場(小林久起『司法制度改革概説3 行政事件訴訟法』(商事法務,2004年)(以下,「小林・行訴法」という。)187頁,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下,「神橋・救済法」という)227頁),(b) 行訴法3条7項と行訴法37条の4第1項とを一緒に挙げる立場(中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)(以下「中原・基本行政法」という。)があるようである。過去問の出題趣旨や採点実感からは,司法試験の考査委員がいずれの立場に立ったかは明確ではないが,平成27年司法試験の採点実感等に対する意見(公法系科目第2問)3(1)が「差止め訴訟を挙げた上で,行政事件訴訟法第3条第7項及び第37条の4に規定された『一定の処分…がされようとしている』,『重大な損害を生ずるおそれ』等の訴訟要件について論じていれば,一応の水準の答案と判定した」としていることなどから,(b)の立場に立っても良いようにも思えるが,この記述では(a)か(b)かなお不明確であるといえるため,本答案は行訴法の立案担当者(小林久起)の立場((a)の立場)に立っている。

[6] ①処分性,②特定性及び③蓋然性の3つの要件(いずれも行訴法3条7項の文言の話)を漏らさず素早く書くことが求められる。②・③のどちらかを落とす答案をみることが少なくないが,ここで差を付けられるのは勿体ない。また,特に書くのが遅い人などは腕・手の筋トレをする必要がある。司法試験は筋力も要求している側面があるというほかないから(その当否はここでは検討しない),筋力勝負に負けない体作り(腕作り)も重要である。

[7] 「公共団体」を「地方公共団体」とする誤記をみることがあるが要注意である。

[8] 「直接」を落とす答案をみることがあるが,要注意である。判例の定式を書き間違えると,短答式試験に引き直せば3点(あるいはそれ以上)失うと思っておいた方が無難である。

[9] 「法令」ではなく「法律」である。要注意。

[10] 本件命令は,典型的な行政行為(法律行為的行政行為・命令的行為・下命)であり行政手続法上の不利益処分であることから,特に時間がない場合(例えば答案構成までに時間を45分以上使ってしまった場合)などには,処分性の判例の定式は省略した方が良い場合があると考えられる。

[11] このようなナンバリングをする場合,「次に」,「さらに」などの接続詞は要らないだろう。

[12] 小林・行訴法186頁参照。同頁は,「『一定の処分又は裁決』とは、差止めの訴えの要件を満たしているか否かについて裁判所の判断が可能な程度に特定される必要があると考えられます。」(下線は引用者)とする。

[13] 中原・基本行政法396頁(「一定の処分がされる蓋然性があることが必要である。」)や,神橋・救済法227頁(「処分がなされる一定の蓋然性が必要とされることになる」)と同様の立場に立つ記述である。差止め訴訟による救済の必要性を基礎づける訴訟要件である。

[14] 会議録・弁護士E第1発言の一部をそのまま書き写した部分である。

[15] 問題文2頁第2段落3行目参照。

[16] 文言が重複することになるので,第1の3や4の小タイトルは付けなくてもよい(行訴法の条文ナンバーは忘れず書くこと)。

[17] この段落は,省略した上,あてはめのところで①・②の考慮事項を書いてもOKである。

[18] 会議録・弁護士D第1発言の一部を殆ど書き写した部分である。

[19] 問題文2頁第1段落3行目参照。

[20] 「4」のタイトル(一行上の行)で文言を引き写しているため,ここでは文言の一部を省略している。

[21] ショート・バージョンの場合,個別法において差止めを求める処分の前提となる処分が規定されている場合をいう(ものと解する)。と書くと良い。

[22] 後続処分とは,差止めを求める処分のことを意味する。

[23] 神橋・救済法229頁参照。実質的当事者訴訟等の提起が可能であることは含まないものと解していることも(一応)含んでいる表現である。

[24] いわゆる「オウム返し」に近い記載である。書き出しに迷うくらいならば設問の一部をこのように(殆ど)書き写すというのもアリだろう。

[25] 根拠法規・処分要件規定の趣旨や,法令以外の内部基準の法的性質・法的効果については,会議録等における明確な誘導(会議録・弁護士D第4発言)がなくても答案に書く必要がある(小タイトルを付けた上で小タイトルにもキーワードを書く必要があるかはどちらでもよいと思うが)。

[26] 西口竜司ほか監修『平成27年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成28年)(以下「ぶんせき本」という。)92頁の150.23点(公法系科目30位,論文総合20位)の再現答案(以下「超上位答案」という。)の記述を参考にした。

[27] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第6版〕』(有斐閣,2017年)326頁は「行政裁量が認められる根拠」の1つとして「全国一律の基準を定めることが適当でなく,地域の特性や地域住民の意見を斟酌して決定すべき事項については,法律であらかじめ行政を全面的に拘束してしまうべきではない」とする。ゆえに,本問では<専門的・技術的(or政策的)な判断を要する>といった論述をせずに,「地域の特性」というところから書いていく方がベターといえよう。

[28] ①行政規則,②裁量基準or解釈基準,③審査基準or処分基準という内部基準の法的性質の‘3点セット’を書けるようにしよう。

[29] 審査基準の場合とは異なり,不利益処分の場合であることから,いわば市民の<プラスの信頼>とは異なる「信頼」(後掲最三小判平成27年3月3日参照)といえよう。

[30] 最三小判平成27年3月3日(平成27年度重要判例解説・行政法6事件)の次の判示を取り入れた論述(殆ど論証パターン部分)である。特段の事情(裁量基準には定められていないが,法の趣旨に照らすと考慮すべきものと解される個別事情)がある場合,逆に内部基準と異なる取扱いをしなければ違法となるものと解するということである。なお,同判例は,不利益処分についての処分基準で,かつ裁量基準がある場合についてのものではあるが,審査基準(行政手続法5条1項)の場合にも応用可能と考えられる。他方,裁量が否定される場合の行政規則(解釈基準)の場合については,解釈基準の内容につき「合理的」か否かという規範ではなく,(ⅰ)解釈基準に示された「解釈が正しいか」否かという規範によるべきであり(→正しい場合には,そのあてはめの審査をし,誤っている場合には(裁判所が示す)正しい解釈によることになる。中原・基本行政法159~160頁のコラム参照。),かつ(ⅱ)裁量基準の場合に登場するような個別事情は考慮すべきではないものと解される。ちなみに,(ⅰ)につき,解釈基準において示された「解釈が正しいか」否かは結局のところ法の趣旨(・目的)に適合するものといえるか否かによることになろう。そうすると,裁量基準が登場する場合の処理と解釈基準が登場する場合の処理との大きな違いは,個別事情の考慮の審査をするか否かという点なのではないかと考えられる。

[31] 問題文2頁第3段落参照。

[32] 会議録・弁護士E第3発言第一文を要約したものである。ぶんせき本94頁の超上位答案も参照。

[33] 会議録・弁護士D第5発言第2文を殆どそのまま書き写した部分である。

[34] 一律に数値基準で判断するがその数値に客観的な裏付けがあるとはいえないような場合には,ある程度,使い回しの効く表現といえるだろう。裁量基準で量的(数値)基準が出てきた場合に同様の論述をすると最低限守れる答案を書けるように思われる。

[35] ぶんせき本の超上位答案は触れていないし,必ずしも会議録の誘導から導くことのできる記載ではないよう思われる。ただし,出題趣旨では本件基準②の合理性の点も指摘しなければならないとされているため,本答案ではこの点も書いている。

[36] 裁量基準の合理性が認められることを前提としても,個別事情を考慮すべきである旨の主張を書いておく必要がある。

[37] 出題趣旨参照。

[38] 「特段の事情」に係る(ⅱ)~(ⅳ)の事情につき,問題文3頁第1段落参照。

[39] ここで「特段の事情」に係る(ⅰ)~(ⅳ)の事情につき,一定の評価を食わせる記述ができればより良いだろうが,実際に司法試験の制限時間内でそこまでやるのは中々難しいように思われる。

[40] 本問のように司法試験では,2つの規定の「関係」を問われることがあるところ,まずは原則的な規定と例外規定(特例規定)という関係が聞かれているかどうかを検討してみよう。一般法と特別法の考え方の応用ともいえる。

[41] 会議録・弁護士E第5発言の一部を要約した部分である。

[42] ここは仕方なく重複記載をした部分である。

[43] 本来は,政令23条の「・・・認める」(2か所)に要件裁量を認めることの根拠(←文言と判断の性質)を書く必要があるが,政令23条の主張については,比較的配点が少ない(時間・答案スペースを殆ど割けない)ため,この程度の短い記載にとどめている。

[44] なお,訴訟類型は問われていないので,実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)のうちの給付訴訟を提起すべきことについては書く必要はないと考えられる。また,<・・・特定多数人の利益や効用をもたらすものであるから,「公共のために用ひる」(憲法29条3項)との要件を満たす>ことは明らかなので,その論述も必要ないだろう(採点実感3(3)、4(4)参照)。

[45] 憲法の論文でも使える論証パターンである。憲法では平成18年新司法試験論文で損失補償の諸論点が聞かれている(このことに関し,さしあたり,木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)69~70頁,大島義則『憲法ガール Remake Edition』(法律文化社,2018年)195~201頁等を参照されたい。)。なお,宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2018年)505頁は,「損失補償の要否」の「判断基準」の項目のところで,「①侵害行為の特殊性,②侵害行為の強度,③侵害行為の目的,等を総合的に判断する必要があると考えられる。(中略)従来の立法・判例をみると,③が重視されているものが少なくない。」などとする。

[46] ショートバージョンの論証パターン(理由付けの一部を省略)は「憲法293の趣旨が特別の犠牲に対する公平の観点からの救済にあることからすると,損失補償の要否は,損失が特別の犠牲に当たるか否かで判断すべきである。」となる。現実にはショートバージョンくらいしか書けない(時間がない)というのが殆どかもしれないが。

[47] 時間がなければ実質的基準だけ書いて(→「すなわち,侵害行為が財産権の本質を侵すほど強度なものかにより決すべきであり,・・・」と書く)あてはめれば良い。形式的基準には殆ど配点がないものと思われる。

[48] ③は本件に即した(会議録から読み取るべき)考慮事項(要考慮事項)である。

[49] 根拠法規・処分要件規定が‘スタート条文’である。これは損失補償の設問・論点であっても同じである。

[50] 会議録・弁護士E第9発言第一文を殆どそのまま書き写した部分である。

[51] 憲法でも,消極目的規制か積極目的規制か(あるいはそれ以外か,

複合的規制などか)が問題となる(例えば,平成26年司法試験論文憲法)。憲法でも行政法でも,個別法の目的規定(通常は1条)に照らした解釈が求められているといえる。

[52] 出題趣旨参照。

[53] ここで下位規範を定立している。警察目的(消極目的)の規制の場合には,「財産権に内在する制約として受忍すべきである」という考え方が有力であることから(宇賀・前掲『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』506頁),論証パターン部分で書いた上位ルールにおける①~③の各考慮事項を並列的に検討するというよりは,<原則的には損失補償は不要とされるが,一定の厳格な要件を満たした場合に例外的に損失補償が必要とされる>といった基準(下位ルール)を立てている(その上で,下位ルールのあてはめを行っている)。このような上位ルールのあてはめに関する論述は積極目的規制の場合であっても応用可能であろう。

[54] 問題文3頁第1段落参照。

[55] 出題趣旨参照。ただし,この段落はもっと短く書ける(より短く書くべき)だろう。

[56] 上位(最上位)規範(のキーワード)のあてはめも忘れずに書くこと。このように,時間がない状況においても,最後まで(法的)三段論法を守り抜く姿勢を答案に示せるように時間管理をしよう。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3)

前回のブログの続きである。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,引き続き,脚注付きの答案例を掲載することをもって問題解説とすることとしたい。

 

本日は,設問1の本件訴訟2(X2の主張)まで。

続きは次回。

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

   (略)・・・ 前回のブログ=平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)の答案例とおり

 

 2 本件訴訟2におけるX2の主張

(1)X2は,条例8条1項6号に基づく本件廃棄により,X2が翻訳した本件図書をY市立図書館という公の場でその利用者に閲覧させることができなくなった。そこで,X2としては,本件廃棄が国家の中立義務に反するものであり,21条1項に違反し,違憲であるとの主張を行うものと考える。[1]

(2)確かに,表現の自由の核心は国家からの自由であり,国家による積極的行為を請求しうる権利はないものと解される[2]。ゆえに,21条1項は,特定の図書につき国家が同書を購入することを請求する権利をX2に保障するものではない。

(3)もっとも,公立図書館には配架する図書の購入を含む国家による助成(援助)につき,国家に表現内容の選別に係る一定の行政裁量があるとしても,図書館が公衆に多様な意見等を伝達するなど情報の流通過程に係る重要な場ないし手段であることに鑑みると,いったん購入・助成をした後は,図書廃棄(助成の撤回)につき内容中立的な運用を行わなければ,国家の中立義務[3]21条1項)に違反するものと解すべきである。

 具体的には,情報流通過程を歪める危険性の程度,②廃棄しないことによる弊害・害されうる公益等[4]の事情を考慮し,総合的に判断すべきである[5]

(4)個別具体的検討

 本件図書は「児童文学」であるため,児童が公立図書館において閲覧する蓋然性が高いものといえるところ,大人と比べると,あるいは家庭の経済的事情等から,児童は書店等で本件図書を事実上購入できないような場合もあると考えられる。そうすると,教育を受ける権利や成長発達権(26条1項)を有する児童が無料で本件図書を読む機会を実質的に奪われることとなる。加えて,X1のような学生を含む成人も本件図書利用の申請すらできなくなってしまい,X1の主張同様,本件図書の閲読の申請に対する拒否処分は21条1項に反するものと考えられることからすれば,本件図書を廃棄することに関する①情報流通過程を歪める危険性は非常に大きいものといえる。

 他方,本件図書は,全560頁のうち,432頁の1~2行に1か所だけ「めかんち」という語が記載されているにすぎず,また,同頁の3行目でかかる語を用いたことにつき,主人公Dがこれを非難ないし批判する文があるとの文脈からすれば(参考資料1),②廃棄しないことによる弊害すなわち目の不自由な人の個人の尊厳(13条前段)あるいは人格権(13条後段)が害される程度は甚大であるとまではいえない

 よって,本件廃棄は,内容中立的な運用が行われたものとはいえず,国家の中立義務(21条1項)に違反するため違憲である。 

  

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[1] 憲法の論文答案の冒頭部分である。なお,この冒頭部分のパターン(「冒頭パターン」)については,本ブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」(2017年10月9日)をご参照いただきたい。

[2] 芦部信喜高橋和之補訂〕『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)177頁参照。

[3] 小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)203頁以下参照。この(2)部分のとおり,設問1の段階から,特定の人権・憲法上の自由の問題としては主張できないとした上で(「権利論を断念し」(小山・作法203頁)),直接には,「国家の中立義務」(小山・作法203頁)違反の問題とする立場を採るのが良いと思われる。信教の自由などの人権の問題としては主張・処理できない問題につき,政教分離の問題(人権の問題そのものではなく、国家の義務ないし制度政教分離の場合には制度的保障)の問題)として処理するというケースと同様の発想といっても良いかもしれない。

[4] ②の考慮事項のところで,被害を受ける可能性のある者の人格権(13条後段)侵害や個人の尊厳(13条前段)の侵害の程度,対抗言論の可否などにつき,あてはめていくことになるだろう。

[5] 総合判断方式・総合考量(衡量)方式・個別的比較衡量の規範によるものである。原告側の主張としてはやや弱気な判断枠組みの定立と言わざるを得ないだろうが,内容選別に係る一定の裁量を認める以上,あるいは,司法試験の答案政策として私見の規範と統一するという観点から,やむを得ないところではないかと思われる。また,船橋市立図書館図書廃棄事件(最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)158-159頁・74事件)の判断枠組みを参考にした規範・判断枠組みとはなっていない。本問は「独断的な評価」といった同判例の規範を使い難い事案と思われるため,邪道とは思うが,原告レベルではこの判例の活用を正面から検討することはしなかった。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)

前回のブログの続きである。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1) yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,本問の解説の続きであるが,以後,答案例(脚注付きのもの)を掲載することをもって本問の解説とすることとしたい。

 

本日は,設問1の本件訴訟1(X1の主張)までとする。

 

続きは次回。

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

 (1)X1は,条例8条1項6号に基づく本件処分を受けたため,本件図書を閲読できなくなった。そこで,X1としては,本件処分がX1の公立図書館に配架された図書を閲読する自由憲法(以下,法名略)21条1項)を侵害し,違憲であるとの主張を行うものと考える。[1]

 (2)同項の表現の自由は,情報をコミュニケイトする自由であるから,本来,受け手の存在を前提としており,知る権利を保障する意味を含む[2]ものと解される。そして,X1の情報を公立図書館に配架された図書を閲読する自由(以下「本件自由」という。)は,かかる知る権利の請求権的側面のもの(抽象的権利)として捉えることができ[3]立法の制定により具体的請求権となるもの[4]と考える。本件自由は図書館法(以下「」という。)2条,10条,3条1号,条例1条,2条,3条1号等,Y市立図書館の設置に関する法や条例の関係規定により具体化されているといえ[5],本件処分により,本件自由は制約されている[6]

 (3)判断枠組み

 本件自由は,自己実現や自己統治の価値がある上,教育(法1条)や「研究」(法3条6号)とも関係することから,23条や26条1項とも密接に関係する重要な人権である。また,本件自由については,公会堂等(地方自治法244条1項参照)の指定されたパブリック・フォーラムの利用制限の場合[7]と同様に比較的厳格な審査をすべきである。

 そこで,「差別的表現」(条例8条1項6号)に当たるといえるには,当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性があるだけでは足りず,明らかな差し迫った同危険の発生が具体的に予見されることが必要と解すべきである[8]

 (4)個別具体的検討

 条例8条2項は,大学の研究者が図書館資料を研究目的で利用する場合には,利用を許可できるものとしている。そして,同項の趣旨は,そのような場合であれば,類型的にみて当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性が低いことから同資料の閲読等を認める点にあるものと考えられる。

 とすると,文学部4年生のX1が社会学のゼミで同ゼミの担当教員の指導のもとにゼミ報告を行う場合であっても,同項の趣旨は概ね妥当するものといえ,全560頁のうち432頁に1箇所のみ「めかんち」という語が記載されているにとどまるものであることからみても,X1が本件図書を閲読する場合については,少なくとも,明らかな差し迫った人格権等侵害の危険の発生が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,X1の本件自由を侵害し,憲法21条1項に違反するため違憲である。

 

 

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[1] 憲法の論文答案の冒頭部分である。なお,この冒頭部分のパターン(「冒頭パターン」)については,本ブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」(2017年10月9日)をご参照いただきたい。

[2] 芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)(以下「芦部・憲法」という。)176頁参照。

[3] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁等参照。(なお,同裁判例東大和市図書館事件)は,小山・後掲注(4)199頁でも紹介されているものである。)

[4] 小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁,芦部・憲法176頁参照。小山・作法199頁の「aa」の見解に立つと,答案が続かなくなるか,あるいはかなり書き難くなると思われるため,本答案例は,小山・作法199頁の「bb」の見解に立っている。

[5] 小山・作法199頁参照。

[6] 請求権については,基本的には「権利の一段階画定方式」が採られるものと考えられる(木村草太『憲法の急所―権利論を組み立てる 第2版』(羽鳥書店,2017年)22頁)が,本件のような知る権利の請求権的側面の問題については,請求権そのものではない上,個人の利益と公共の福祉の衡量を要件・効果の画定段階で十分に行えない場合と考えられることから(木村・同書23頁以下参照),具体化された権利(知る権利)の「制約」→「正当化」という流れの答案とした。

[7] 小山・作法199頁参照。

[8] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)の判断枠組みを参考にした規範である。司法試験受験生の危機管理として,“迷ったら中間審査基準”というのでも良い(中間審査基準を採る場合,本問では,あてはめは,関連性審査(因果関係)の点を中心に検討すればよい)だろう。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)

 前回のブログでは,平成30年司法試験論文憲法の予想問題を掲載した。

 要するに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問の改題である。  

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 問題意識自体はやや古いかもしれないが,周知のとおり,今日では(今日でもなお)ヘイト・スピーチやヘイト・クライムの問題が新聞等でも話題になっており,また,格差が拡大し続ける社会において大学生・大学院生等の学生の生活水準が必ずしも安定しない(あるいは不安定になり続ける)状況における図書館の現代的な意義などにも鑑みると,今日においても,重要性の高い問題といえるだろう。

 

 

 では,解説に入る。

 

 まず,答案構成の大枠を決める必要がある。そのためには,法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択と,論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)を決める必要がある。

 

 ここで構成等を間違えてしまうと,4段階(優秀・良好・一応・不良)の答案ボックスの下位2つに入り易くなるので,特に論文憲法が苦手な司法試験受験生はよく注意する必要があるだろう。

 

 

第1 法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択

 

(1)3つの構成

 司法試験論文憲法の問題がどのような問題であれ,答案構成の段階で,法令違憲・処分違憲適用違憲)の構成の選択を検討しなければならない。

 

 構成としては,

<1>法令違憲・処分違憲適用違憲)の両主張を書く構成

<2>法令違憲の主張だけを書く構成

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

の3つが考えられる。

 

(2)問題文の指示と事実の比率による構成の選択

 

 上記3つの構成のどれを採るべきかは,

①問題文の指示(比較的わかりやすい誘導の有無

②立法事実(立法の背景事情)と個別具体的な事実との比率

によればよいものと考えられる。

 

 ここで,①問題文の指示とは,わかりやすい誘導の有無を意味する。例えば,(ⅰ)「あなたが弁護士としてAの付添人に選任されたとして,性犯罪者継続監視法が違憲であることを訴えるためにどのような主張を行うかを述べなさい。」(平成28年論文憲法問題文・設問1部分)(下線は引用者),(ⅱ)「C社は,本条例自体が不当な競争制限であり違憲であると主張して,不許可処分取消訴訟を提起した。」(平成26年論文憲法問題文)(下線は引用者)といった記載が問題文にあれば,法令(条例)違憲だけの主張をすべきとのわかりやすい誘導があるとみて良いだろう。

 

 次に,①の問題文の指示がないときの処理方法であるが,②立法事実(立法の背景事情等)と個別具体的な事実との比率を考えて,例えば,立法事実については1割程度しか書かれておらず,他方で,個別具体的な事実は9割くらい書かれているといったような場合には,処分違憲適用違憲)の主張のみを書けば良いと考えられる。

 

(3)本問の構成

 

 本問では,「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の2つがあるため,一応分けて考える必要があるだろうが,事実関係がほぼ共通するので,あえて一緒に検討してしまおう。

 

 本問では,①問題文の指示があるとはいえないが,②法令違憲の主張で使う事実と,処分違憲適用違憲)の主張で使う事実の比率をみると,一見すると(感覚的には),前者1割:後者9割といった感じの問題といえるだろう。前者については,問題文の第一段落の「・・・理念のもと,・・・することを目的に」のところくらいしか書かれていないと考えることができるからである。

 

 したがって,構成としては,

「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の双方につき,

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

を選択することになる。

 

 なお,合憲限定解釈の主張を答案に書く場合に関し,泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日・川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)が,処分違憲(特定の処分の違憲の主張)の中で,合憲限定解釈(同解釈そのものか自体にはやや難しい問題があるように思われるが)を展開していることからすれば,合憲限定解釈の主張を<3>で書いても特に問題はなかろう。

 

 

第2 論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)

 

1 検閲,事前抑制の理論の適否

 検閲については,判例の規範・定式を満たさないことは明らかであり,また,事前抑制についても,その規範を満たさないと考えるのが普通と思われるから,答案に書くべきではないだろう。小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁も,「市販の図書について図書館での閲覧を禁止することは,検閲や表現の事前抑制に該当しない」(下線は引用者)とする。

     

2 内容規制か内容中立規制か

 これを1つの論点というかは微妙なところがあるが,この点はさておき,本問は内容規制の事案であることは明らかといえるから,内容規制であることだけを答案に明記すれば足りるだろう。

 

3 違憲主張適格(違憲主張の適格性)

 違憲主張適格(違憲主張の適格性)については,まず,(ⅰ)X1の知る権利(法で具体化されたもの)のところでは,書く必要がないし,(ⅱ)X2の「国家の中立義務」(小山・作法203頁)の問題については(国家の中立義務の問題として捉えるべきことについては次回のブログで述べる),政教分離原則等(人権ではなく「制度」)と同様に「中立義務」違反の主張の理由付けの中で人権(表現の自由等)の話が登場することから,第三者所有物没収事件とは事案が質的に異なるため,違憲主張適格は論点にすべきではない(反論レベルからでも展開するようなことは避けるべき)だろう。

 

 このように,論じない・落とす論点をしっかり検討しておけば,余計なこと(点が入らないか入っても殆ど配点がなく,他の書くべき点を十分に書けなくなるという意味で実質的には(手形法のようにいうと)有害的記載事項)を書かずに済むことになる。

 

 

 続きは次回。

 

  

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題

「未来は読めず 不安が付きまとう」

Mr.Childrenヒカリノアトリエ」(2017年))

 

しかし,未来が読めてしまったら,出題予想の自由もなかったわけで,それはそれで寂しい気がする。

 

ということで,平成30年司法試験論文憲法の予想問題であるが,旧司法試験論文憲法平成14年第1問をベースに,一応ヘイトスピーチ(差別的憎悪言論)の問題も多少念頭に置きつつ作成した。

 

関連判例がいずれも大法廷のものではないので微妙だが,百選収載判例ではあるので,出てもおかしくないだろう。関連判例は,他にもあるが,ひとまず次の2つを挙げる。いずれも短答式でも重要な判例なので,司法試験受験生は再確認されたい。

 

①最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)158-159頁(74事件)。

 

②最三小判平成2年4月17日,藤野美都子「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)346-347頁(162事件)。

 

 

旧司法試験論文憲法平成14年第1問の問題と出題趣旨は次のとおり。

(問題)
 A市の市民であるBは,A市立図書館で雑誌を借り出そうとした。ところが,図書館
長Cは,「閲覧用の雑誌,新聞等の定期刊行物について,少年法第61条に違反すると判断したとき,図書館長は,閲覧禁止にすることができる。」と定めるA市の図書館運営規則に基づき,同雑誌の閲覧を認めなかった。これに対し,Bは,その措置が憲法に違反するとして提訴した。
 この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

 

(出題趣旨)
 本問は,市民が,公立図書館において,その所蔵する雑誌を閲覧する権利は,憲法
保障されているか,保障されるとして,それを憲法上どのように位置付けるか,また,
その市民の権利を制約することが正当化される事情はどのようなものかを問うとともに,設例の状況において,具体的にどのような方法によって解決が図られるべきかを問うものである。

http://www.moj.go.jp/content/000049025.pdf

 

 ちなみに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問は,知る権利の請求権的側面の(1つの考え方ではあるが,その問題として捉えられるものと考えられる)事例問題であり,知る権利の請求権的側面については,例えば原告主張においては「積極的・抽象的権利」(小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)199頁)と解すべきものとして論じていくことが考えられる。

 

ところで,昨年(平成29年)の予想はやや抽象的だったので,今年(平成30年)はもう少し具体的にしてみた。ちなみに,29年の方も危ないとは思っているが,同じでは芸がないので変えてみた次第である。

 

平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(1)

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,以下,平成30年司法試験論文憲法の予想問題である。

解説は次回。

 

 

[公法系科目]

 

〔第1問〕(配点:100)

 

 202×年,A県Y市は,「地方から差別のない社会・個人の尊厳を守る社会を実現する」理念のもと,市立図書館を対象に,差別的表現を含む書籍の配架を制限等することを目的に,Y市図書館条例(以下「Y市条例」または「条例」と略す場合がある。)8条1項6号を新設(改正)し,「差別的表現を含む」(同号)図書等の図書館資料については,Y市教育委員会(以下「委員会」という。)が管理するY市立図書館を含むY市の図書館(以下単に「図書館」ということがある。)は,その「利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる」(条例8条1項)とした。ただし,研究者が研究目的等のために閲読を請求した場合には,これを認めることができるとされている(同条2項)。

 条例の上記改正・施行から3年後,B大学文学部4年次生でY市民のX1は,「差別的表現とヘイトスピーチ」というテーマで,社会学のゼミ報告を行うために,『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版,X2訳,イギリス版の原書と殆ど同時期に出版されたもの。以下「本件図書」ということがある。)の閲読を請求した。本件図書の原書は,条例の上記改正・施行の1年前に出版・発行されたイギリス作家Cによる児童文学ファンタジー小説であり,2000年代から2010年代のイギリスを舞台に,法律を勉強する大学生で魔法使いでもある主人公のDが,強い絆で結ばれた学友であるE・Fらと切磋琢磨しながら日本の司法試験に相当する法曹資格試験の勉強に励み成長していく日々や,世界中の法曹資格者らを禁じられた黒魔法「JOBUTSU」により葬ってきた闇の魔法使いGとDとの戦いなどを描いた物語である。

 本件図書は,X2がCの許可を得て本件図書の原書を翻訳した全560頁の長編作品であり(本件図書の原書も同じ頁数),図書館でも閲読されることの多い人気図書の1つで,発売当時はベストセラーにもなった。しかし,本件図書432頁1行目に,「the blind」に「めかんち」という目の不自由な人に対する侮辱的ニュアンスのある日本語を充てた箇所があり,条例の上記改正・施行後,約2年間は,同箇所について特に苦情が寄せられることがなかったものの,Xが本件図書の閲読を請求する約半年前に,同箇所につき目の不自由な人に対する差別的表現があり,特に,この表現が小学校や中学校等での目の不自由な子ども(児童・生徒)に対するいじめや差別の原因となると,子どもは大人以上にひどく傷つくことになるなどとして,関係団体(目の見えない子どもを中心に支援活動を行う公益法人)Hから全国の公立図書館に宛てて本件図書の提供には差別が助長されることなどがないように十分な配慮してほしい旨の要望書が提出された。

 Y市立図書館は,Hから同要望書が提出されたことを踏まえ,条例の関係規定を根拠に,X1に本件図書の利用・閲読を制限する(認めない)処分(本件処分)を行った。なお,本件処分の手続に問題はなかった。

 X1は,本件閲読不許可処分は憲法に違反するものである旨主張して,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟1)。

 本件訴訟1が提起されてから6か月後,本件訴訟1係属中に,Y市立図書館は,条例の関係規定を根拠に,X1に同書を廃棄した(本件廃棄)。なお,本件廃棄の手続に問題はなかった。

 さらにその3か月後,この本件廃棄の事実を知人から聞いたX2は,本件廃棄は憲法に違反するものである旨主張して,国賠法1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟2)。

 

 

〔設問1〕

 あなたが本件訴訟1及び本件訴訟2の原告訴訟代理人弁護士である場合,本件訴訟1及び本件訴訟2において,それぞれどのような憲法上の主張を行うかを述べなさい。ただし,条文の漠然性及び過度の広汎性の問題,条例の法律適合性(憲法94条)の問題並びに国賠法上の問題は論じなくてよい。

 

〔設問2〕

 〔設問1〕で述べられた原告訴訟代理人弁護士の主張に対する被告の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。 

 

 

 

【参考資料1】 C著(X2訳)『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版)

432頁1行目~同頁3行目

 

P「所詮〝めかんち〟野郎の放つ魔法など,そうそう当たるものではないさ。論文試験の憲法の予想と大して変わらない的中率といっておこうか。」

D「いまのは聞き捨てならないな。あんただって偏見視されたら傷つくだろう?」

 

 

【参考資料2】 図書館法(昭和25年法律第118号)(抜粋)

 (この法律の目的)

第1条 この法律は,社会教育法(昭和24年法律第207号)の精神に基き,図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め,その健全な発達を図り,もつて国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「図書館」とは,図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して,一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で,地方公共団体日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。

2 (略)

(図書館奉仕)

第3条 図書館は,図書館奉仕のため,土地の事情及び一般公衆の希望に沿い,更に学校教育を援助し,及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し,おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。

 一 郷土資料,地方行政資料,美術品,レコード及びフィルムの収集にも十分留意して,図書,記録,視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し,一般公衆の利用に供すること。

 二 図書館資料の分類排列を適切にし,及びその目録を整備すること。

 三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち,その利用のための相談に応ずるようにすること。

 四 他の図書館,国立国会図書館地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に附属する図書館又は図書室と緊密に連絡し,協力し,図書館資料の相互貸借を行うこと。

 五 分館,閲覧所,配本所等を設置し,及び自動車文庫,貸出文庫の巡回を行うこと。

 六 読書会,研究会,鑑賞会,映写会,資料展示会等を主催し,及びこれらの開催を奨励すること。

 七 時事に関する情報及び参考資料を紹介し,及び提供すること。

 八 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し,及びその提供を奨励すること。

 九 学校,博物館,公民館,研究所等と緊密に連絡し,協力すること。

(設置)

第10条 公立図書館の設置に関する事項は,当該図書館を設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。

(職員)

第13条 公立図書館に館長並びに当該図書館を設置する地方公共団体教育委員会が必要と認める専門的職員,事務職員及び技術職員を置く。

 

 

【参考資料3】 Y市図書館条例(改正後のもの)(抜粋)

 第1条 この条例は,図書館法(昭和25年法律第118号。以下「法」という。)第10条の規定に基づき,図書館〔注:Y市立図書館を指す。以下同じ。〕の設置及び管理に関し,必要な事項を定めるものとする。

第2条 市〔注:Y市を指す。以下同じ。〕は,図書館を設置する。

2 図書館の名称及び位置は,次の通りとする。

  (名称)       (位置)

  Y市立図書館     Y市民甲1丁目2番3号

  Y市立東図書館    Y市民乙4丁目5番6号

  Y市立西図書館    Y市民丙7丁目8番9号

第3条 図書館は,次の事業を行う。

 一 法第3条に掲げる事業に関すること。

 二 (略)

第5条 図書館の管理は,市教育委員会(以下「委員会」という。)が行う。

第8条 図書館資料が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは,委員会は,当該図書館資料の利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる。

 一~二 (略)

 三 プライバシーその他の人権を侵害するもの。

 四 わいせつ出版物である旨の判決が確定したもの。

 五 (略)

 六 差別的表現を含むもの

2 前項の規定にかかわらず,大学(中略)の研究者が図書館資料を研究目的で利用しようとするときは,委員会は,当該図書館資料の利用を許可することができる。

 

 

 

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もしも司法試験論文行政法で判例変更を狙う主張を論じさせる問題が出たら ~公共施設の管理者の同意の処分性(判例は否定)を肯定する答案例~

 

 Ⅰ 判例変更を狙う主張という難題

 

 「『白か黒で答えろ』という難題を突き付けられ

        ぶち当たった壁の前で僕らはまた迷っている」[1]

 

Mr.Children「GIFT」の歌詞であるが,司法試験の論文答案でも,殆どの場合,適法か違法か,合憲か違憲か,無罪か有罪かなど,「白か黒」のどちらかに決めなければならず,結論や理由付けをどう書いていくべきかなどを迷うことが少なくない。

 

弁護士も,依頼人の求めなどに応じて「白か黒」一方の立場での主張を展開しなければならないわけであるが,依頼人(あるいはボス弁など)から「判例変更」を狙う主張を(も)してほしいと求められることが(稀にだが)あるわけで,そのようなときには通常,最高裁判例の論理という「壁」にぶち当たり,構成等をどのように書いていくべきかなどを迷いながら,判例変更の主張を起案していくことになる。

 

そして,司法試験論文式試験においても,法曹の実務で問題となる以上,「難題」だとは思うが,この「判例変更」を狙う主張が出題されないとは言い切れないだろうし,仮に,判例変更の主張(の骨子)を答案に書く日が平成30年5月の本試験の日であったとしても,当たり前ではあるが,受験生は文句ひとつ言わず(人によっては試験終了後に言うだろうが)制限時間内で答案を書いていかなければならないわけである。

 

では,公法系科目で判例変更を狙う主張を書く問題が出る場合,果たしてどの判例が出題されるのだろうか。

 

この点につき,一番出題される確率が高いのは,最一小判平成7323民集49巻3号1006頁[2](以下「平成7年判例」ということがある。)であろう。司法試験論文式試験行政法(公法系科目第2問)で,平成7年判例を変更すべき旨主張する(あるいは同主張の骨子を書かせるような)問題が出題されるのではないかと考えられるのである。

 

この平成7年判例は,都市計画法(以下「法」ということがある。)上の開発許可(法29条1項)を得るための公共施設管理者の不同意(法32条参照)の処分性(行訴法32項)を否定した判例として有名であり,開発許可制度や公共施設管理者の同意の制度が法において極めて重要なものであり[3],実務的にもしばしば問題となる法制度であることからすると[4],この判例に関する事案が出る蓋然性は低くないように思われる。

 

平成7年判例については,従前から「判例変更の可能性もある」との解説があり[5],また,主に平成16年行訴法改正以降の「最高裁判例における処分性の拡張傾向」[6]に照らし,現に,高裁レベルで不同意の処分性を肯定した判決が出ている高松高判平成25530判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」ということがある。))ことから,平成30年司法試験論文行政法でも出題されることも具体的に想定して,できれば具体的な答案を念頭におきつつ準備をしておくのが望ましいだろう。

 

そこで,本日は,まさにこの判例変更の主張を(この主張だけではないが)答案に書かせる事例問題である曽和俊文「公共施設管理者の不同意をめぐる紛争」曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社2016年)172178頁の問題(第2部・問題3,同問題の解説は179頁以下答案(下記)を書いてみることにした。ちなみに,この「第2部・問題3」は,同書の事例問題の中でも特に重要なものであると考えられる。

 

もちろん,この『事例研究行政法[第3版]』については,各自購入していただくか(…良質な問題・解説以外にも「ミニ講義」や「コラム 答案を読んで」など受験生にとって役に立つ記載が多数あるといえ,購入すべき一冊といえる),図書館で借りるなどしていただきたい。

 

 

Ⅱ 『事例研究行政法[第3版]』第2部・問題3の答案例

 

第1 設問1

 1 小問1

  (1) 不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起[7] [8]

 Mは,公共施設管理者の不同意(以下単に「不同意」という。)[9]の違法性を争い,公共施設管理者の同意を得るために[10],乙市を被告として(行政事件訴訟法(以下,法律名を省略する[11]か「行訴法」と略す。)1111号,381[12]),不同意の処分取消訴訟32)と,公共施設管理者の同意(以下単に「同意」という。)の申請型義務付け訴訟(362)を併合提起(37条の32)すべきである。以下,各訴訟の訴訟要件において特に留意すべきことについて論ずる。[13]

  ア 不同意の取消訴訟32項)

   () 処分性

【論パ[14]不同意は「行政庁の処分」(32項)[15]といえるかにつき,同項の処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(①公権力性[16]),その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(②法効果性,法効果の直接性・具体性[17]法律上認められているもの(③法律の根拠[18])をいう。

 これを本問についてみると,確かに,「同意」という文言が用いられてはいるものの[19],不同意は,都市計画法(以下「法」という。)321に基づき行政の一方的な決定によってなされ[20]私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[21],①公権力性及び③法律上の根拠の要件を満たす[22]

 次に,②法効果性等に関し,最高裁判例[23]は,不同意は公共施設を適正に管理する上で,開発行為を行うことが相当でない旨の公法上の判断の表示であって[24],同意が得られなければ公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないことなどから,不同意自体は開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえないとし,②法効果性ないし法効果の直接性を否定する[25]

 しかし,法が公共施設管理者の同意書を開発許可(法29条1項)の申請書(法30条1項)の添付書類として要求していることから(同条2項),同意が得られない場合には,開発許可申請を行っても,申請者は,相当程度の確実さをもって[26],あるいは特段の事情のない限り,同申請が適法に行われていないとして申請拒否処分がなされるとの法的地位に立たされる[27]。また,上記判例の後に法323項が同条に新たに付加されたため[28],同意権者に完全な自由はなく,「公共施設の適切な管理」に支障を及ぼすおそれのない場合には不同意は許されないと解されるから,開発行為を行う権利利益が認められるべきであり,不同意はこの権利利益を制限するものである。

 さらに,合理的理由なく不同意とされる場合に,同意に係る周辺住民等に対する第三者のある取消訴訟321項)等による救済手段が図られなければ[29],開発行為の許可を求める者が開発行為の途を閉ざされる結果につながりかねず,ひいては憲法29条あるいは憲法22条1項の趣旨に反することとなるため,同手段のような実効的な権利救済が図られる[30]べきである。

 加えて,不同意の場合には,開発許可の申請手続を適法に行えなくなる仕組みとなっており(法30条2項等参照),開発許可の申請者は当該開発許可が法令上の制限に適合しているか否かの判定を受ける機会が保障されなくなるため,同申請を適法に行う地位も侵害するというべきである[31]

 したがって,上記判例は変更されるべきであり,不同意につき,②法効果の直接性も満たすといえるか,取消訴訟の対象となる処分に当たると考えることから,不同意の処分性は肯定される。

   () その他の訴訟要件

 Mは,不同意処分の相手方であるから,原告適格もあり(9条1項),不同意の通知がなされた日が2009年8月20日であることからすれば出訴期間も経過していない(14条1項[32])といえるなど,その他の訴訟要件も満たす[33]

   () よって,Mは,不同意の取消訴訟を提起すべきである。

  イ 同意の申請型義務付け訴訟(362号)

   () 同意も不同意の場合と同様に直接的な法効果があるといえるから,「一定の処分」(3条6項2号)[34]に当たり,拒否処分型(37条の3第1項2号)にあたるものであるから前述した不同意の処分取消訴訟と併合提起する必要がある(同条3項)。さらに,Mは法32条1項に基づき同意を得るための申請をしたものと解される[35]ため,「法令に基づく申請」(同条2項)をしたといえ,訴訟要件をすべて満たす。

    () よって,Mは,同意の義務付け訴訟を提起すべきである。

  (2) 実質的当事者訴訟(4条後段)

   ア 「公法上の法律関係に関する訴訟」(給付訴訟)

 Mとしては,不同意・同意の処分性(3条2項)が否定される場合であっても[36],予備的に,法32条1項の同意をせよという実質的当事者訴訟としての給付訴訟(4条後段,民法414条2項ただし書参照)を提起すべきである[37]

   イ 「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(確認訴訟)

 また,同訴訟が認められない場合に備えて[38]同意義務があることの確認訴訟[39]4条後段)を提起することが考えられる。

【論パ】この点に関し,確認訴訟の訴訟要件である確認の利益は,①確認対象選択の適切性[40],②方法選択の適切性[41],③即時確定の必要性[42]の有無によって判断すべきである[43]

 本問では,①現在の法律関係を確認するものであること[44],②同意の処分性が否定される場合には前記取消訴訟[45]では争えず,他に適切な救済手段がないこと,③同意が得られないと,老人デイサービスセンターの設置が計画通りに進まないこととなるため,Mの開発行為に係る権利ないし法的地位に現実的かつ具体的な不安・危険が現時点で生じている[46]といえることから,確認の利益を満たす。

 よって,同意義務があることの確認訴訟も提起しうる。

 2 小問2

 Mは,開発行為の申請の不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るために,甲県を被告として(11条1項1号,38条1項),①不許可処分の取消訴訟(3条2項)[47]と,②開発許可の申請型義務付け訴訟(3条6項2号)を併合提起(37条の3第2号)すべきである。[48]

 ①については,審査請求前置[49]の訴訟要件(8条1項ただし書,法50条・52条)を満たすようにすべく,訴訟提起前に甲県開発審査会に審査請求を行い,裁決を経てから訴訟を提起する必要がある。[50]

 なお,後述するように,不同意の処分性が肯定される場合,いわゆる違法性の承継が認められると考えることなどから,①不許可処分の取消訴訟で,不同意についての違法事由を主張しうるものといえ,裁判所もこれについて実体判断をなしうるものと考える。ゆえに,不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るための訴訟として,上記①・②は有効な[51]救済手段といえる。[52]

第2 設問2

 1 設問1-1の訴訟における違法性(法321項に係る違法)の主張

  (1) 処分要件充足を示す事実の不存在[53]

 法32条1項の「同意」は,開発許可の申請者と公共施設管理者との「協議」を前提とし(同条1~3項),かかる協議は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行うものとするとされている(同条3項)。ゆえに,法32条1項の趣旨[54]公共施設の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険がないことを同意の処分要件とする点にあると解される。そこで,公共施設管理者は,かかる危険がない場合には,法32条1項の「同意」をなすべきであり,この場合に不同意とすることは違法というべきである。

 これをMに対する乙市市長の不同意についてみると,①市道丙号線は、老人デイサービスセンターが設置された場合の送迎車両等の頻繁な通行に対しでも十分な幅員を有しており、②同センターでは、法律の規制に適合した合併海化槽を設置することを計画しており、飲用に耐えうる水質の排水がされ、汚水等が水路に流れる可能性は全くないことから[55]、Mの開発行為により市道水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はないといえる。

 よって,Mは,設問1-1の訴訟の本案において,本件では上記処分要件を充足する事実が存在しない旨の違法事由の主張を行うべきである。

  (2) 裁量権の逸脱濫用の主張[56]

【論パ】32条1項の「同意」に際しての公共施設の適切な管理に支障の判断に関し,仮に,専門的技術的な判断あるいは地域の特性や地域住民の意見を斟酌した判断[57]に係る行政裁量が認められるとしても[58]他事考慮重大な事実誤認[59]が認められることにより,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用となり違法となる(行訴法30条)ものと考える[60]

 本問では,地元の丙町協議会や水利組合等が道路や水路を事実上日常的に利用しているとしても,地元協議会等の利害関係人の同意を得たこと自体は公共施設の適切な管理に係る具体的な支障の有無と直接関係するものとはいえないから考慮事項とはならないものといえる。そこで,①丙町協議会の排水同意がないこと,②丙堰土地改良区からの陳情書・反対署名の存在,③丙町協議会からの要望書・反対署名の存在それ自体を考慮することは他事考慮である。

 また,仮に,地元協議会等の利害関係人の意見等が公共施設の適切な管理に係る事項を推認するものとして考慮事項に関係するものであるとしても,前記のとおり,道路や水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はなく,かかる危険につき乙市が相応の調査・検証を行った形跡もみられないので,地元協議会等の抽象的な不安感等からMの開発行為に反対をしているものといえ,重大な事実誤認があるか,あるいは上記調査不足による考慮不尽といえる。

 これらのことから,乙市市長の不同意の判断の内容は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くので,Mは裁量権の逸脱濫用の違法を主張すべきである。

 2 設問1-2の訴訟における違法性の主張

  (1) Mの開発許可の申請に対する不許可処分の理由は,同申請に必要な添付書類である同意書(法30条2項)が提出されていない点にある。そこで,Mとしては,設問1-2の訴訟において,前記のとおり不同意が違法であり,本来は同意書が交付されるべきであったことから,許可処分がなされるべきであり,不許可処分は違法であるとの主張をすべきである。

  (2) 裁判所の審査範囲について

 以上の違法事由の主張に関し,確かに,同意書を開発許可の申請の添付書類とする法30条2項等の趣旨が,同意(法32条1項)するか否かの判断につき法は公共施設管理者に委ねており,知事は開発許可の申請の許否にあたって同意書の有無の形式審査をすれば足りるとする点にあるものと解されることから,裁判所の審査範囲・審査権限も,同様に同意・不同意の実体判断の適否にまでは及ばないとも思える。

 しかし,裁判所の審査権限については必ずしも知事のそれと同様である必要はないことから,裁判所は同意の適否を審査できるものと考える。

  (3) 違法性の承継について

 また,同意の処分性が肯定される場合,違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる[61]

 【論パ】この点については,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限(14条)の趣旨からすれば[62]違法性の承継は原則として否定されるが,実体法的観点及び②手続法的観点両面からみて例外的に肯定されうると解すべきである[63] [64]

 これを本問についてみると,公共施設管理者の同意は開発許可の前提として要求される行為であり,それ自体独立した意味をもつ行為ではなく,①先行処分と後行処分とが結合して周囲公益等を考慮して開発行為を許可するという一つの目的・効果の実現を目指しているといえる。また,②不同意については法35条2項のような文書による通知が法定されていないことに加え,本件のように不同意が処分であるか否かが不明確な場合には,先行処分を争うための手続的保障が十分とはいえず,不許可処分を受けるまでは争訟を提起しないことがあるとしても,その判断はあながち不合理ともいえない

 よって,本件で違法性の承継は肯定されると考える。なお,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば,以上の違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴機関内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。[65]

                                    以 上

 

 

Ⅲ GIFT

 

以上,もとより拙い答案例ではあったが,処分性(判例変更の主張)の点や,それ以外の論点に関する論述について,多少なりとも参考になっただろうか。

 

この答案が,司法試験という「壁」を超えていこうとする受験生の皆様への「GIFT」となれば幸いである。

 

 

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[1] 桜井和寿Mr.Children)「GIFT」(2008年)。

[2] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)324~325頁156事件。

[3] 碓井光明「都市計画法精義Ⅰ」(信山社,2013年)(以下「碓井都市計画法精義Ⅰ」という。)183頁は,都市計画「法における最も重要な制度として,開発許可制度が存在する」(下線は引用者)とする。かかる開発許可(都市計画法29条1項)を申請しようとする者は,予め開発行為に関係がある「公共施設の管理者と協議し,その同意を得なければならない」(同法32条1項)。

[4] 本ブログの筆者は,弁護士として,建築審査会の実務を担当することがあるが,開発審査会のみならず,建築審査会においても,この開発許可制度はしばしば問題となる(例えば,開発許可が本来必要であったにも関わらず,同許可を得ないで建築確認を得たことは違法である旨の主張などが展開されることがある)。

[5] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2012年)338~339頁(339頁の解説6)163事件。なお,碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も「行政処分性を肯定すべきであると考える」とし,橋本博之『行政判例ノート〔第3版〕』(弘文堂,2013年)204頁も,平成7年判例につき,「判例変更されて処分性が認められるべきである,との考え方もありえよう」とする。

[6] 南博方原編,高橋滋=市村陽典=山本隆司編『条解 行政事件訴訟法〔第4版〕』(弘文堂,2014年)(以下「高橋ほか・条解」)という。)68頁〔高橋滋〕。

[7] 曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)(以下「曽和ほか・事例研究」という。)180頁以下〔曽和〕の解説では,処分性を否定する見解に立つ場合(行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟の構成)を先に検討しているが,①資料1の弁護士らの会話文に「最高裁での判例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」とあり「次に、(中略)平成7年判決を前提とすれば、(中略)開発許可を得たい者はどうすればいいのか?これも考えてみてくれますか?」とあること(曽和ほか・事例研究176頁〔曽和〕),②出題者自身が不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起が「最も妥当ではないかと思われる」と解説していること(同185頁),③「普通,行政訴訟であれば,行政処分をつかまえて取消訴訟を起こし執行停止を求めるというのが,実務家的,実務的には当たり前の話」(平成19新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」8頁)であり,それが「オーソードックスなやり方」(平成18年新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」5頁)であることなどから,本答案例では,処分性を肯定する抗告訴訟の構成を先に書いた。なお,本設問・小問には,「争訟」ないし「法的手段」ではなく,「訴訟」(行政訴訟に限定していない)について検討せよと書いてあるため,仮の救済について答案に書く必要はないが,抗告訴訟や実質的当事者訴訟等の行政訴訟のみならず民事訴訟も一応(形式的には)検討の対象となっている点に留意する必要がある。

[8] 訴訟類型(2つの抗告訴訟を挙げる必要がある問題)のタイトルのところでは,タイトルが長くなりすぎることを防ぐために,行政事件訴訟法の条文は書かない方が良いだろう(本文で書けば足りる)。他方,各訴訟要件のところでは基本的には書いた方が良いと思われる。

[9] この省略の注意書きについては,読者への便宜上一応書いたが,書かなくてもよいかもしれない(ややくどいし,採点委員も分かるので)。「同意」についても同様である。

[10] 読者への便宜上一応書いたが,設問のオウム返しにすぎないので,この訴訟の目的の部分は省略可能である。

[11] 訴訟類型・訴訟要件に関する設問・小問では,行政事件訴訟法を,以下「行訴法」とする,などと略すとだけ書くよりも,このように法律名を(すべて)省略する場合がある旨の記載を付しておいた方が良いと思われ,あるいは,より短く「(以下法律名略)」などと書いてもよいだろう。なぜなら,法律名をすべて省略しても普通は採点委員が混乱等することはなく特にマイナスになることはないと考えられ,同時に(多少は)時間ロスを防げるからである。多くの受験生にとって行政法の論文は制限時間との戦いであるから,時間は少しであっても無駄にはできない

[12] 「(行訴法)11条1項1号,38条1項」については(他の訴訟要件についてはともかく),六法を引いて確認しなくても書けるように記憶しておく方が良いだろう。前記のとおり,時間は少しでも無駄にできない。

[13] 読者への便宜上一応書いたが,殆ど設問のオウム返しにすぎないので,この一文は省略可能である。また,同様に便宜上,各訴訟の訴訟要件でそれほど問題とならないようなものについても,基本的には条文を挙げて一言でも説明を加えるように努めたが,本試験ではそのような訴訟要件については言及する必要がない場合があるので注意を要する。

[14] 「論パ」とは,「論証パターン」(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号23頁(2018年)〔井田〕)の略称である。論証パターンの「利点」と「危険」に関し,賢明な受験生は,同23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[15] 受験生の答案で,処分性の論点に関し,よく「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をするものを見かけるが,不正確である。判例(最一小判昭和39年10月29日)による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)281頁(以下「中原・基本」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式であるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をしなければならない。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容、物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・同書79頁参照)。なお,①中原・基本281頁では,「処分性の基本的定式」,「処分の定式」という語を,②角松生史「判批」百選Ⅱ332頁は,(判例の)「定式」という語を,③山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)365頁注3)は「最高裁の定式」という語を,④宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という。)158頁は,「最高裁判決における定義」という語をそれぞれ用いている。司法試験考査委員・元考査委員が「定式」という用語を使っていることなどから,受験生も法科大学院の授業やゼミなどで「処分性の判例の定式」といった用語を使って質疑応答等を行ってもよいだろう。

[16] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)(以下「櫻井=橋本・行政法」という。)267頁,曽和ほか・事例研究292頁〔佐伯祐二〕。なお,山本・探究365頁は,「公権力性」ではなく「権力性」という語を用いる。

[17] ②の判示の点についてはネーミングが難しいが,野呂充=野口貴公美=飯島淳子=湊二郎『行政法』(有斐閣,2017年)(以下「野呂ほか・有斐閣ストゥディア」という。)174頁〔湊〕を参考にして,このように書いた。‘直接法効果性’や‘直接の法効果性’などとより短く書いてもよいかもしれないが,多くの基本書ではこのような短いワードは用いられていないので本答案例では避けた。とはいえ,採点委員によっては「法効果性,法効果の直接性・具体性」という表現は長くてくどいと感じるかもしれないから,「法効果の直接性・具体性」だけか,あるいは‘直接の法効果性’くらい短い方が良いのかもしれない。

[18] 山本・探究365頁,野呂ほか・有斐閣ストゥディア174頁。

[19] 北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の①の理由,安本典夫『都市法概説〔第2版〕』(法律文化社,2013年)(以下「安本・都市法」という。)95頁参照。なお,安本・都市法95頁は,「同意」を法50条1項に挙げていない点(なお,曽和ほか・事例研究177頁〔曽和〕では同項が一部省略されているため,この点が分からない)を同意・不同意の処分性を否定する論拠として紹介する。

[20] 曽和ほか・事例研究32頁〔北村和生〕参照。

[21] 処分性の第1要件である公権力性(あるいは第1要件及び第三要件である法律上の根拠)がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがあり、横浜地判平成12年9月27日判例地方自治217号69頁,裁判所ウェブサイト)事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」(下線引用者)と判示している。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日・百選Ⅱ326頁157事件〔太田匡彦〕)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和ほか・事例研究42頁〔野呂充〕参照)。

[22] ①公権力性を否定する論拠については,ほかに,「私道のように私人が管理者となる場合もあるがその同意に公権力性があるとはいえない」(北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の④の理由)というものがあり,これに対する反論としては,「私道は法にいう公共施設にはあたらない」(同頁・3「肯定説」の理由①)というものがある。もっとも,問題文の事例や資料1の弁護士らの会話文において,「私道」の点は特に言及されていないものと考えられることから(曽和ほか・事例研究172~176頁〔曽和〕等参照),本答案例では,この点については書かなかった。

[23] 最一小判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁(以下「平成7年判例」ということがある。)・百選Ⅱ324~325頁156事件〔北村喜宣〕。

[24] 不同意がそれ自体で開発行為を認めないという法的効果をもつ決定ではなく,開発行為に対する制限は開発不許可決定で明確になるという理由付けと考えられる(曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕の解説参照)。

[25] 資料1の弁護士らの会話文(曽和ほか・事例研究175頁〔曽和〕)で判例の重要判示が引用されているため,会話文を見ながら書けるが,仮にこのような引用の記載がなくても,この部分は書けた方が良いだろう。

[26] 「相当程度の確実さをもって」は,不同意の処分性を肯定した高松高判平成25年5月30日判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」という。)が引用する病院開設中止勧告事件(最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁,百選Ⅱ332~333頁160事件〔角松生史〕)のキーワードである。なお,平成25年高松高判は,曽和ほか・事例研究184頁〔曽和〕の解説や,百選Ⅱ325頁〔北村喜宣〕の解説でも言及されており,重要な裁判例といえる。

[27] 「地位に立たされる」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示の語である。ここでは,申請拒否処分がなされるという法的地位に立たされることで,開発許可を受ける権利ないし開発行為をするする権利(財産権)に関する法的地位に変動があるという理由付けを書いている。なお,この理由付けは,後述する手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付け(「また,」から始まる次の段落の内容)とも両立し得るものと思われ,少なくとも訴訟代理人弁護士として両方を主張して良いのではないかと考える。

[28] 平成25年高松高判も,平成7年判例の後に法が改正(平成12年)され,「法32条3項が付加されたこと」に言及する(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕の解説でもこの部分が引用されている)。なお,これに対し,中川丈久=斎藤浩=石井忠雄=鶴岡稔彦編著『公法系訴訟実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂,平成23年)(以下「中川ほか・実務の基礎」という。)384頁は,都市計画法32条の改正前(平成7年判例当時)の条文と後(現行法)の条文とで,「体裁に違いはあるものの,その規定内容に変更はなさそうである」とし,32条3項後の事案であっても平成7年判例の「射程に入る」ものと考えられるとし,同意の処分性が肯定されることを前提とする訴訟類型である「抗告訴訟で争う方法は,さしあたりは見込みがなさそうである」としており,平成25年高松高判とは異なる立場をとる。しかし,本問の会話文(「最高裁での判例例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」)の要請に照らすと,このように「さしあたりは見込みがなさそうである」などと答案に書いてしまうことは不適当といえるから,少なくとも本問の答案では,中川ほか・実務の基礎384頁のような立場は取るべきではない。

[29] 最一小判平成21年11月26日民集63巻9号2124頁(百選Ⅱ420~421頁204事件〔興津征雄〕)は,公法上の当事者訴訟等との比較において,条例の取消訴訟を通じて救済を与えることの意義につき,取消判決や執行停止決定に第三者効が認められていることを指摘し,「実効的な権利救済」という観点から処分性を肯定する論拠としている(高橋ほか・条解69頁)ことから,ややつまみ食い的な使い方ではあるが,この部分を本答案でも活用した。

[30] 「実効的な権利救済を図る(という観点から)」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示のキーワードである。同判例は手続的権利(申請権)ではなく実体的権利(財産権関係)についての判例であるため,本問でもこの判例のキーワードは財産権に関する理由付けとして用いることとした。ちなみに,同判例は,将来,高度の蓋然性をもって換地処分がなされるという法的地位に立たされるという理由付けだけで土地区画整理事業の事業計画の決定の処分性を肯定しているわけではなく,「実効的な権利救済を図る」観点も併せて処分性肯定の理由としている(百選Ⅱ316頁〔山下竜一〕)ので,本答案例もこの両方の理由を書いた。

[31] 曽和ほか・事例研究183~184頁〔曽和〕の解説参照。この段落では,手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付けを併せて(付加的に)書いている。

[32] 不同意の処分性を肯定することに鑑みれば,行訴法14条3項によって処理すると解する立場の方が筋が通っている(一貫性がある)かもしれず,3項の適用があるとすれば1項ではなく3項の方で処理する必要がある。とはいえ,不同意につき3項が適用されるかについてはやや疑問が残る余地があると思われ,本答案例では同条1項で処理している。

[33] 不同意の処分取消訴訟に関しては,開発審査会に不同意に係る審査請求を行っていることから,審査請求前置(8条1項ただし書,法50条・52条。ただし,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された。)の点は特に触れなくてもよいだろう。曽和ほか・事例研究183頁等〔曽和〕の解説でも触れていない。

[34] 同意の処分性の理由付けは少なくとも本問ではこのくらい短くてよいだろう。ちなみに,中原・基本36頁は,「一定の処分」(3条6項2号)を37条の3第1~3項とは別立てで訴訟要件の規定と位置付けており,本答案例もこれに倣った。なお,宇賀・概説Ⅱ339頁以下は,37条の3第1~3項を訴訟要件の規定と位置付け,とくに3条6項2号はそのような規定と捉えていないようである。

[35] ここは説明が必要と思われるが,既に不同意の処分性を肯定したことから,このくらい簡単な説明で済ませている。なお,曽和ほか・事例研究183,185頁等〔曽和〕の解説でも特に37条の3第2項の「法令に基づく申請」についての説明はない。

[36] 「同意の処分性が否定された場合の争い方も考えるべき」(曽和ほか・事例研究189頁等〔曽和〕)すなわち答案に書くべきである。

[37] 碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も,仮に不同意の処分性を否定する場合には,「公法上の当事者訴訟としての『同意義務の確認の訴え』又は『同意せよ』との給付訴訟が考えられよう。」とする。また,同頁は,この給付訴訟につき,「行政機関を被告としても差し支えないと解すべきである」としており,本問では乙市市長が給付訴訟の被告となると考えることになるが,この点については,難しい論点と思われる割には配点が殆どないものと思われることから,本答案例では触れることを避けた。

[38] 中川ほか・実務の基礎385頁は,同意請求権が成立することが難しいことから請求棄却となる可能性が高い旨指摘する。

[39] 曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕はこの訴訟を選択する。なお,中川ほか・実務の基礎385頁は,特定の事項について「協議する義務の不存在を確認する」という確認訴訟を提起することが「適切であろうか」としており,「協議」(法32条3項)の確認は,本問(設問1・小問1)の「同意を得るため」の訴訟としては,やや迂遠ではないかと思われるため,本答案例では書かなかった。もっとも,現実の訴訟では,このような一定の「協議」についての確認訴訟(あるいは一定の「協議」をせよ・協議を続行せよとの給付訴訟)も併せて提起しておくのが良いと思われる。

[40] 中原・基本380頁は,「確認対象の選択の適切さ」とする。

[41] 中原・基本381頁は,「確認訴訟という方法選択の適切さ」あるいは「給付訴訟等に対する補充性」・「確認訴訟の補充性」としている。

[42] 櫻井=橋本・行政法354~355頁は,③の即時確定の利益(即時確定の現実的必要性,紛争の成熟性)に関し,近時の判例は,「有効適切な手段」(在外国民選挙権訴訟最高裁(大法廷)判決)ないし「目的に即した有効適切な争訟方法」(教職員国旗国歌訴訟最高裁判決)というメルクマールを用いていおり,「紛争の成熟性を柔軟に認めるという方向性」を示している旨解説する。

[43] 行訴法4条後段の確認訴訟における確認の利益は,同法が特に規定を置いていないことから,「民事訴訟法における確認の利益論を基礎としつつ」も「行政訴訟の特質を踏まえた解釈をする必要がある」(中原・基本380頁)とされる訴訟要件である。なお,曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕や,中原・基本380頁以下などは,即時確定の利益(即時確定の必要性)を3番目の要件として挙げる(本答案例もこの立場による)のに対し,櫻井=橋本・行政法354~355頁は,確認の利益の要件・判断要素等として,「即時確定の現実的必要性(紛争の成熟性)」を1番目に挙げている(即時確定の利益・必要性を意味するものと考えられる)。ちなみに,この3要件のための理由付けの記載は(司法試験の答案では)要らないだろう

[44] 曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕も,①のあてはめで「現在の法律関係の確認」の点のみ言及する。

[45] 給付訴訟については,②のあてはめでは特に言及しない方針を採っている(厳密には「等」に含まれている)。

[46] 中原・基本382頁(「確認訴訟が認められるためには,原告の権利や法的地位に、現実的かつ具体的な不安や危険が生じていなければならない。」)参照。

[47] なお,碓井都市計画法精義Ⅰ189頁は,都市計画「法29条の許可が行政処分であることを疑う者はいないであろう」とする。行政手続法上の申請(同法2条3号)に対する処分であり,典型的な行政行為行政処分)であることから,本問の答案でも開発許可の処分性(肯定)の点を特に論じる必要はない。

[48] 小問2の答案は,このように短く書くべきである(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕も同様に短く解説している)。

[49] 「審査請求前置主義」と書いてもよい(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕,櫻井=橋本・行政法296頁)。

[50] 本問では,審査請求前置についても書く必要があるが,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された(曽和ほか・事例研究186頁〔曽和〕参照)ため,今日では問題とならないものである。

[51] 「有効な」ではなく「実効性のある」と書いてもよいだろう。

[52] この段落は,①・②の訴訟の適法性(訴訟要件の話)ではなく勝訴可能性の高さという意味での実効性・有効性の話を書いている部分である。なお,平成23年司法試験論文行政法・設問2・小問(1)は,「最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴え」(下線は引用者)を書くことを求めている。

[53] 中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)参照。(1)では,要件裁量が(効果裁量も)否定されることを前提とする実体的違法事由(法32条1項(・3項)に係る違法性)の主張である(曽和ほか・事例研究189頁〔曽和〕の「コラム 答案を読んで」③参照)。

[54] 裁量否定の場合の判断代置方式による審査(大橋洋一行政法Ⅰ 現代行政過程論[第3版]』(有斐閣,2016年)209頁,判断代置的審査)は,できる限り(時間と答案のスペースの許す限り)条文文言→趣旨→規範→あてはめ→結論という法的三段論法の流れで書くべきである(平成21年新司法試験採点実感6頁下から2行目~7頁上から7行目参照)。

[55] この部分は問題文(曽和ほか・事例研究172~173頁(・186頁)〔曽和〕)事実関係の一部を写しただけの記載であり,事実の評価の記述がない。評価の文があった方がベターだろう。

[56] 曽和ほか・事例研究187頁〔曽和〕の解説参照。中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)は,「行政庁の法令解釈自体に誤りはないが,事実へのあてはめにあたって,行政庁の裁量に委ねられるべき判断があり,その裁量判断が合理性を欠くとして(社会通念上著しく不相当である,専門技術的な判断に看過し難い過誤がある等),違法な処分であるという主張も考えられる」とする。

[57] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2013年)318~319頁参照。

[58] 平成25年高松高判の原審である徳島地判平成24年5月18日判例地方自治384号70頁は,同意・不同意につき,裁量を肯定しており,安本・都市法96頁も裁量を肯定する立場を採っているものと考えられる。なお,後掲の最一小判平成21年12月17日も,安全認定に係る「安全上の支障の有無は,専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり,知事が(中略)判断するのが適切である」(下線は引用者)と判示しており,「安全」(危険)に関する判断は,裁量が否定されるものと解される場合もあるが,本件のように裁量が肯定される場合もある。ちなみに,行政裁量が否定されるものと解されうる例(著名な憲法判例)として,泉佐野市民会館事件(長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182~183頁〔川岸令和〕)を挙げることができるだろう。同判例の事案では「公の秩序をみだすおそれがある場合」(市立泉佐野市民会館条例7条1号)に要件裁量が認められるかが問題となるが,この文言は不確定的法概念ではあるものの,判例が同号の「趣旨」に照らし,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」などといった比較的厳格な規範を定立していることからすると,要件裁量を否定しうる(要件裁量を否定した判例である)と解することができるだろう(ただし,同判例園部逸夫裁判官の補足意見は,要件裁量を肯定している)。

[59] 碓井都市計画法精義Ⅰ200~201頁,曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕参照。

[60] 曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕の解説でも指摘されているとおり,本問では本答案例のように,裁量が否定されることを前提とする主張を行うとともに,裁量が肯定されるとしても違法となるとの主張を行うべきである。

[61] 違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判例(倉地康弘「判解」ジュリスト1415号82頁参照)として,最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁・宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)170~171頁84事件〔川合敏樹〕。

[62] 違法性の承継の根拠論に関し,板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全に基づく安全認定の違法を主張することの可否」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)269頁以下参照。また,違法性の承継が公定力(取消訴訟の排他的管轄)の例外なのか,不可争力(出訴期間制限)の例外なのか,という論争がある(同頁)ところ,後掲の(1つ下の)注(平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の)のとおり,平成28年の考査委員は,公定力説と不可争力説を併記してよいとしているものと思われる。

[63] 違法性の承継の論証パターンのショートバージョンである。なお,この部分の論証パターンとそのあてはめの部分については,平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の次の記載を参考にした。「〔設問3〕は,いわゆる違法性の承継の問題であるが,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば,違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で,まず,違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で,最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には,違法性の承継が認められるための考慮要素として,実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。」(下線は引用者)

[64] 平成28年司法試験論文行政法の採点実感等5頁等も参考にした。

[65] 「(3) 違法性の承継について」の部分のショートバージョンは次の通りである。

「同意の処分性が肯定される場合には,いわゆる違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる。もっとも,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴期間内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。」

 このように,先行処分となりうる不同意の取消訴訟を出訴期間内に提起できる事案の問題(本問)では,違法性の承継の規範とあてはめを省略して短く書くことができるものといえよう。

 

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