平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)

前回のブログの続きである。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1) yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,本問の解説の続きであるが,以後,答案例(脚注付きのもの)を掲載することをもって本問の解説とすることとしたい。

 

本日は,設問1の本件訴訟1(X1の主張)までとする。

 

続きは次回。

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

 (1)X1は,条例8条1項6号に基づく本件処分を受けたため,本件図書を閲読できなくなった。そこで,X1としては,本件処分がX1の公立図書館に配架された図書を閲読する自由憲法(以下,法名略)21条1項)を侵害し,違憲であるとの主張を行うものと考える。[1]

 (2)同項の表現の自由は,情報をコミュニケイトする自由であるから,本来,受け手の存在を前提としており,知る権利を保障する意味を含む[2]ものと解される。そして,X1の情報を公立図書館に配架された図書を閲読する自由(以下「本件自由」という。)は,かかる知る権利の請求権的側面のもの(抽象的権利)として捉えることができ[3]立法の制定により具体的請求権となるもの[4]と考える。本件自由は図書館法(以下「」という。)2条,10条,3条1号,条例1条,2条,3条1号等,Y市立図書館の設置に関する法や条例の関係規定により具体化されているといえ[5],本件処分により,本件自由は制約されている[6]

 (3)判断枠組み

 本件自由は,自己実現や自己統治の価値がある上,教育(法1条)や「研究」(法3条6号)とも関係することから,23条や26条1項とも密接に関係する重要な人権である。また,本件自由については,公会堂等(地方自治法244条1項参照)の指定されたパブリック・フォーラムの利用制限の場合[7]と同様に比較的厳格な審査をすべきである。

 そこで,「差別的表現」(条例8条1項6号)に当たるといえるには,当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性があるだけでは足りず,明らかな差し迫った同危険の発生が具体的に予見されることが必要と解すべきである[8]

 (4)個別具体的検討

 条例8条2項は,大学の研究者が図書館資料を研究目的で利用する場合には,利用を許可できるものとしている。そして,同項の趣旨は,そのような場合であれば,類型的にみて当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性が低いことから同資料の閲読等を認める点にあるものと考えられる。

 とすると,文学部4年生のX1が社会学のゼミで同ゼミの担当教員の指導のもとにゼミ報告を行う場合であっても,同項の趣旨は概ね妥当するものといえ,全560頁のうち432頁に1箇所のみ「めかんち」という語が記載されているにとどまるものであることからみても,X1が本件図書を閲読する場合については,少なくとも,明らかな差し迫った人格権等侵害の危険の発生が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,X1の本件自由を侵害し,憲法21条1項に違反するため違憲である。

 

 

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[1] 憲法の論文答案の冒頭部分である。なお,この冒頭部分のパターン(「冒頭パターン」)については,本ブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」(2017年10月9日)をご参照いただきたい。

[2] 芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)(以下「芦部・憲法」という。)176頁参照。

[3] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁等参照。(なお,同裁判例東大和市図書館事件)は,小山・後掲注(4)199頁でも紹介されているものである。)

[4] 小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁,芦部・憲法176頁参照。小山・作法199頁の「aa」の見解に立つと,答案が続かなくなるか,あるいはかなり書き難くなると思われるため,本答案例は,小山・作法199頁の「bb」の見解に立っている。

[5] 小山・作法199頁参照。

[6] 請求権については,基本的には「権利の一段階画定方式」が採られるものと考えられる(木村草太『憲法の急所―権利論を組み立てる 第2版』(羽鳥書店,2017年)22頁)が,本件のような知る権利の請求権的側面の問題については,請求権そのものではない上,個人の利益と公共の福祉の衡量を要件・効果の画定段階で十分に行えない場合と考えられることから(木村・同書23頁以下参照),具体化された権利(知る権利)の「制約」→「正当化」という流れの答案とした。

[7] 小山・作法199頁参照。

[8] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)の判断枠組みを参考にした規範である。司法試験受験生の危機管理として,“迷ったら中間審査基準”というのでも良い(中間審査基準を採る場合,本問では,あてはめは,関連性審査(因果関係)の点を中心に検討すればよい)だろう。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。