平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

もしも司法試験論文行政法で判例変更を狙う主張を論じさせる問題が出たら ~公共施設の管理者の同意の処分性(判例は否定)を肯定する答案例~

 

 Ⅰ 判例変更を狙う主張という難題

 

 「『白か黒で答えろ』という難題を突き付けられ

        ぶち当たった壁の前で僕らはまた迷っている」[1]

 

Mr.Children「GIFT」の歌詞であるが,司法試験の論文答案でも,殆どの場合,適法か違法か,合憲か違憲か,無罪か有罪かなど,「白か黒」のどちらかに決めなければならず,結論や理由付けをどう書いていくべきかなどを迷うことが少なくない。

 

弁護士も,依頼人の求めなどに応じて「白か黒」一方の立場での主張を展開しなければならないわけであるが,依頼人(あるいはボス弁など)から「判例変更」を狙う主張を(も)してほしいと求められることが(稀にだが)あるわけで,そのようなときには通常,最高裁判例の論理という「壁」にぶち当たり,構成等をどのように書いていくべきかなどを迷いながら,判例変更の主張を起案していくことになる。

 

そして,司法試験論文式試験においても,法曹の実務で問題となる以上,「難題」だとは思うが,この「判例変更」を狙う主張が出題されないとは言い切れないだろうし,仮に,判例変更の主張(の骨子)を答案に書く日が平成30年5月の本試験の日であったとしても,当たり前ではあるが,受験生は文句ひとつ言わず(人によっては試験終了後に言うだろうが)制限時間内で答案を書いていかなければならないわけである。

 

では,公法系科目で判例変更を狙う主張を書く問題が出る場合,果たしてどの判例が出題されるのだろうか。

 

この点につき,一番出題される確率が高いのは,最一小判平成7323民集49巻3号1006頁[2](以下「平成7年判例」ということがある。)であろう。司法試験論文式試験行政法(公法系科目第2問)で,平成7年判例を変更すべき旨主張する(あるいは同主張の骨子を書かせるような)問題が出題されるのではないかと考えられるのである。

 

この平成7年判例は,都市計画法(以下「法」ということがある。)上の開発許可(法29条1項)を得るための公共施設管理者の不同意(法32条参照)の処分性(行訴法32項)を否定した判例として有名であり,開発許可制度や公共施設管理者の同意の制度が法において極めて重要なものであり[3],実務的にもしばしば問題となる法制度であることからすると[4],この判例に関する事案が出る蓋然性は低くないように思われる。

 

平成7年判例については,従前から「判例変更の可能性もある」との解説があり[5],また,主に平成16年行訴法改正以降の「最高裁判例における処分性の拡張傾向」[6]に照らし,現に,高裁レベルで不同意の処分性を肯定した判決が出ている高松高判平成25530判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」ということがある。))ことから,平成30年司法試験論文行政法でも出題されることも具体的に想定して,できれば具体的な答案を念頭におきつつ準備をしておくのが望ましいだろう。

 

そこで,本日は,まさにこの判例変更の主張を(この主張だけではないが)答案に書かせる事例問題である曽和俊文「公共施設管理者の不同意をめぐる紛争」曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社2016年)172178頁の問題(第2部・問題3,同問題の解説は179頁以下答案(下記)を書いてみることにした。ちなみに,この「第2部・問題3」は,同書の事例問題の中でも特に重要なものであると考えられる。

 

もちろん,この『事例研究行政法[第3版]』については,各自購入していただくか(…良質な問題・解説以外にも「ミニ講義」や「コラム 答案を読んで」など受験生にとって役に立つ記載が多数あるといえ,購入すべき一冊といえる),図書館で借りるなどしていただきたい。

 

 

Ⅱ 『事例研究行政法[第3版]』第2部・問題3の答案例

 

第1 設問1

 1 小問1

  (1) 不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起[7] [8]

 Mは,公共施設管理者の不同意(以下単に「不同意」という。)[9]の違法性を争い,公共施設管理者の同意を得るために[10],乙市を被告として(行政事件訴訟法(以下,法律名を省略する[11]か「行訴法」と略す。)1111号,381[12]),不同意の処分取消訴訟32)と,公共施設管理者の同意(以下単に「同意」という。)の申請型義務付け訴訟(362)を併合提起(37条の32)すべきである。以下,各訴訟の訴訟要件において特に留意すべきことについて論ずる。[13]

  ア 不同意の取消訴訟32項)

   () 処分性

【論パ[14]不同意は「行政庁の処分」(32項)[15]といえるかにつき,同項の処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(①公権力性[16]),その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(②法効果性,法効果の直接性・具体性[17]法律上認められているもの(③法律の根拠[18])をいう。

 これを本問についてみると,確かに,「同意」という文言が用いられてはいるものの[19],不同意は,都市計画法(以下「法」という。)321に基づき行政の一方的な決定によってなされ[20]私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[21],①公権力性及び③法律上の根拠の要件を満たす[22]

 次に,②法効果性等に関し,最高裁判例[23]は,不同意は公共施設を適正に管理する上で,開発行為を行うことが相当でない旨の公法上の判断の表示であって[24],同意が得られなければ公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないことなどから,不同意自体は開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえないとし,②法効果性ないし法効果の直接性を否定する[25]

 しかし,法が公共施設管理者の同意書を開発許可(法29条1項)の申請書(法30条1項)の添付書類として要求していることから(同条2項),同意が得られない場合には,開発許可申請を行っても,申請者は,相当程度の確実さをもって[26],あるいは特段の事情のない限り,同申請が適法に行われていないとして申請拒否処分がなされるとの法的地位に立たされる[27]。また,上記判例の後に法323項が同条に新たに付加されたため[28],同意権者に完全な自由はなく,「公共施設の適切な管理」に支障を及ぼすおそれのない場合には不同意は許されないと解されるから,開発行為を行う権利利益が認められるべきであり,不同意はこの権利利益を制限するものである。

 さらに,合理的理由なく不同意とされる場合に,同意に係る周辺住民等に対する第三者のある取消訴訟321項)等による救済手段が図られなければ[29],開発行為の許可を求める者が開発行為の途を閉ざされる結果につながりかねず,ひいては憲法29条あるいは憲法22条1項の趣旨に反することとなるため,同手段のような実効的な権利救済が図られる[30]べきである。

 加えて,不同意の場合には,開発許可の申請手続を適法に行えなくなる仕組みとなっており(法30条2項等参照),開発許可の申請者は当該開発許可が法令上の制限に適合しているか否かの判定を受ける機会が保障されなくなるため,同申請を適法に行う地位も侵害するというべきである[31]

 したがって,上記判例は変更されるべきであり,不同意につき,②法効果の直接性も満たすといえるか,取消訴訟の対象となる処分に当たると考えることから,不同意の処分性は肯定される。

   () その他の訴訟要件

 Mは,不同意処分の相手方であるから,原告適格もあり(9条1項),不同意の通知がなされた日が2009年8月20日であることからすれば出訴期間も経過していない(14条1項[32])といえるなど,その他の訴訟要件も満たす[33]

   () よって,Mは,不同意の取消訴訟を提起すべきである。

  イ 同意の申請型義務付け訴訟(362号)

   () 同意も不同意の場合と同様に直接的な法効果があるといえるから,「一定の処分」(3条6項2号)[34]に当たり,拒否処分型(37条の3第1項2号)にあたるものであるから前述した不同意の処分取消訴訟と併合提起する必要がある(同条3項)。さらに,Mは法32条1項に基づき同意を得るための申請をしたものと解される[35]ため,「法令に基づく申請」(同条2項)をしたといえ,訴訟要件をすべて満たす。

    () よって,Mは,同意の義務付け訴訟を提起すべきである。

  (2) 実質的当事者訴訟(4条後段)

   ア 「公法上の法律関係に関する訴訟」(給付訴訟)

 Mとしては,不同意・同意の処分性(3条2項)が否定される場合であっても[36],予備的に,法32条1項の同意をせよという実質的当事者訴訟としての給付訴訟(4条後段,民法414条2項ただし書参照)を提起すべきである[37]

   イ 「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(確認訴訟)

 また,同訴訟が認められない場合に備えて[38]同意義務があることの確認訴訟[39]4条後段)を提起することが考えられる。

【論パ】この点に関し,確認訴訟の訴訟要件である確認の利益は,①確認対象選択の適切性[40],②方法選択の適切性[41],③即時確定の必要性[42]の有無によって判断すべきである[43]

 本問では,①現在の法律関係を確認するものであること[44],②同意の処分性が否定される場合には前記取消訴訟[45]では争えず,他に適切な救済手段がないこと,③同意が得られないと,老人デイサービスセンターの設置が計画通りに進まないこととなるため,Mの開発行為に係る権利ないし法的地位に現実的かつ具体的な不安・危険が現時点で生じている[46]といえることから,確認の利益を満たす。

 よって,同意義務があることの確認訴訟も提起しうる。

 2 小問2

 Mは,開発行為の申請の不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るために,甲県を被告として(11条1項1号,38条1項),①不許可処分の取消訴訟(3条2項)[47]と,②開発許可の申請型義務付け訴訟(3条6項2号)を併合提起(37条の3第2号)すべきである。[48]

 ①については,審査請求前置[49]の訴訟要件(8条1項ただし書,法50条・52条)を満たすようにすべく,訴訟提起前に甲県開発審査会に審査請求を行い,裁決を経てから訴訟を提起する必要がある。[50]

 なお,後述するように,不同意の処分性が肯定される場合,いわゆる違法性の承継が認められると考えることなどから,①不許可処分の取消訴訟で,不同意についての違法事由を主張しうるものといえ,裁判所もこれについて実体判断をなしうるものと考える。ゆえに,不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るための訴訟として,上記①・②は有効な[51]救済手段といえる。[52]

第2 設問2

 1 設問1-1の訴訟における違法性(法321項に係る違法)の主張

  (1) 処分要件充足を示す事実の不存在[53]

 法32条1項の「同意」は,開発許可の申請者と公共施設管理者との「協議」を前提とし(同条1~3項),かかる協議は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行うものとするとされている(同条3項)。ゆえに,法32条1項の趣旨[54]公共施設の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険がないことを同意の処分要件とする点にあると解される。そこで,公共施設管理者は,かかる危険がない場合には,法32条1項の「同意」をなすべきであり,この場合に不同意とすることは違法というべきである。

 これをMに対する乙市市長の不同意についてみると,①市道丙号線は、老人デイサービスセンターが設置された場合の送迎車両等の頻繁な通行に対しでも十分な幅員を有しており、②同センターでは、法律の規制に適合した合併海化槽を設置することを計画しており、飲用に耐えうる水質の排水がされ、汚水等が水路に流れる可能性は全くないことから[55]、Mの開発行為により市道水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はないといえる。

 よって,Mは,設問1-1の訴訟の本案において,本件では上記処分要件を充足する事実が存在しない旨の違法事由の主張を行うべきである。

  (2) 裁量権の逸脱濫用の主張[56]

【論パ】32条1項の「同意」に際しての公共施設の適切な管理に支障の判断に関し,仮に,専門的技術的な判断あるいは地域の特性や地域住民の意見を斟酌した判断[57]に係る行政裁量が認められるとしても[58]他事考慮重大な事実誤認[59]が認められることにより,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用となり違法となる(行訴法30条)ものと考える[60]

 本問では,地元の丙町協議会や水利組合等が道路や水路を事実上日常的に利用しているとしても,地元協議会等の利害関係人の同意を得たこと自体は公共施設の適切な管理に係る具体的な支障の有無と直接関係するものとはいえないから考慮事項とはならないものといえる。そこで,①丙町協議会の排水同意がないこと,②丙堰土地改良区からの陳情書・反対署名の存在,③丙町協議会からの要望書・反対署名の存在それ自体を考慮することは他事考慮である。

 また,仮に,地元協議会等の利害関係人の意見等が公共施設の適切な管理に係る事項を推認するものとして考慮事項に関係するものであるとしても,前記のとおり,道路や水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はなく,かかる危険につき乙市が相応の調査・検証を行った形跡もみられないので,地元協議会等の抽象的な不安感等からMの開発行為に反対をしているものといえ,重大な事実誤認があるか,あるいは上記調査不足による考慮不尽といえる。

 これらのことから,乙市市長の不同意の判断の内容は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くので,Mは裁量権の逸脱濫用の違法を主張すべきである。

 2 設問1-2の訴訟における違法性の主張

  (1) Mの開発許可の申請に対する不許可処分の理由は,同申請に必要な添付書類である同意書(法30条2項)が提出されていない点にある。そこで,Mとしては,設問1-2の訴訟において,前記のとおり不同意が違法であり,本来は同意書が交付されるべきであったことから,許可処分がなされるべきであり,不許可処分は違法であるとの主張をすべきである。

  (2) 裁判所の審査範囲について

 以上の違法事由の主張に関し,確かに,同意書を開発許可の申請の添付書類とする法30条2項等の趣旨が,同意(法32条1項)するか否かの判断につき法は公共施設管理者に委ねており,知事は開発許可の申請の許否にあたって同意書の有無の形式審査をすれば足りるとする点にあるものと解されることから,裁判所の審査範囲・審査権限も,同様に同意・不同意の実体判断の適否にまでは及ばないとも思える。

 しかし,裁判所の審査権限については必ずしも知事のそれと同様である必要はないことから,裁判所は同意の適否を審査できるものと考える。

  (3) 違法性の承継について

 また,同意の処分性が肯定される場合,違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる[61]

 【論パ】この点については,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限(14条)の趣旨からすれば[62]違法性の承継は原則として否定されるが,実体法的観点及び②手続法的観点両面からみて例外的に肯定されうると解すべきである[63] [64]

 これを本問についてみると,公共施設管理者の同意は開発許可の前提として要求される行為であり,それ自体独立した意味をもつ行為ではなく,①先行処分と後行処分とが結合して周囲公益等を考慮して開発行為を許可するという一つの目的・効果の実現を目指しているといえる。また,②不同意については法35条2項のような文書による通知が法定されていないことに加え,本件のように不同意が処分であるか否かが不明確な場合には,先行処分を争うための手続的保障が十分とはいえず,不許可処分を受けるまでは争訟を提起しないことがあるとしても,その判断はあながち不合理ともいえない

 よって,本件で違法性の承継は肯定されると考える。なお,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば,以上の違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴機関内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。[65]

                                    以 上

 

 

Ⅲ GIFT

 

以上,もとより拙い答案例ではあったが,処分性(判例変更の主張)の点や,それ以外の論点に関する論述について,多少なりとも参考になっただろうか。

 

この答案が,司法試験という「壁」を超えていこうとする受験生の皆様への「GIFT」となれば幸いである。

 

 

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[1] 桜井和寿Mr.Children)「GIFT」(2008年)。

[2] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)324~325頁156事件。

[3] 碓井光明「都市計画法精義Ⅰ」(信山社,2013年)(以下「碓井都市計画法精義Ⅰ」という。)183頁は,都市計画「法における最も重要な制度として,開発許可制度が存在する」(下線は引用者)とする。かかる開発許可(都市計画法29条1項)を申請しようとする者は,予め開発行為に関係がある「公共施設の管理者と協議し,その同意を得なければならない」(同法32条1項)。

[4] 本ブログの筆者は,弁護士として,建築審査会の実務を担当することがあるが,開発審査会のみならず,建築審査会においても,この開発許可制度はしばしば問題となる(例えば,開発許可が本来必要であったにも関わらず,同許可を得ないで建築確認を得たことは違法である旨の主張などが展開されることがある)。

[5] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2012年)338~339頁(339頁の解説6)163事件。なお,碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も「行政処分性を肯定すべきであると考える」とし,橋本博之『行政判例ノート〔第3版〕』(弘文堂,2013年)204頁も,平成7年判例につき,「判例変更されて処分性が認められるべきである,との考え方もありえよう」とする。

[6] 南博方原編,高橋滋=市村陽典=山本隆司編『条解 行政事件訴訟法〔第4版〕』(弘文堂,2014年)(以下「高橋ほか・条解」)という。)68頁〔高橋滋〕。

[7] 曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)(以下「曽和ほか・事例研究」という。)180頁以下〔曽和〕の解説では,処分性を否定する見解に立つ場合(行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟の構成)を先に検討しているが,①資料1の弁護士らの会話文に「最高裁での判例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」とあり「次に、(中略)平成7年判決を前提とすれば、(中略)開発許可を得たい者はどうすればいいのか?これも考えてみてくれますか?」とあること(曽和ほか・事例研究176頁〔曽和〕),②出題者自身が不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起が「最も妥当ではないかと思われる」と解説していること(同185頁),③「普通,行政訴訟であれば,行政処分をつかまえて取消訴訟を起こし執行停止を求めるというのが,実務家的,実務的には当たり前の話」(平成19新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」8頁)であり,それが「オーソードックスなやり方」(平成18年新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」5頁)であることなどから,本答案例では,処分性を肯定する抗告訴訟の構成を先に書いた。なお,本設問・小問には,「争訟」ないし「法的手段」ではなく,「訴訟」(行政訴訟に限定していない)について検討せよと書いてあるため,仮の救済について答案に書く必要はないが,抗告訴訟や実質的当事者訴訟等の行政訴訟のみならず民事訴訟も一応(形式的には)検討の対象となっている点に留意する必要がある。

[8] 訴訟類型(2つの抗告訴訟を挙げる必要がある問題)のタイトルのところでは,タイトルが長くなりすぎることを防ぐために,行政事件訴訟法の条文は書かない方が良いだろう(本文で書けば足りる)。他方,各訴訟要件のところでは基本的には書いた方が良いと思われる。

[9] この省略の注意書きについては,読者への便宜上一応書いたが,書かなくてもよいかもしれない(ややくどいし,採点委員も分かるので)。「同意」についても同様である。

[10] 読者への便宜上一応書いたが,設問のオウム返しにすぎないので,この訴訟の目的の部分は省略可能である。

[11] 訴訟類型・訴訟要件に関する設問・小問では,行政事件訴訟法を,以下「行訴法」とする,などと略すとだけ書くよりも,このように法律名を(すべて)省略する場合がある旨の記載を付しておいた方が良いと思われ,あるいは,より短く「(以下法律名略)」などと書いてもよいだろう。なぜなら,法律名をすべて省略しても普通は採点委員が混乱等することはなく特にマイナスになることはないと考えられ,同時に(多少は)時間ロスを防げるからである。多くの受験生にとって行政法の論文は制限時間との戦いであるから,時間は少しであっても無駄にはできない

[12] 「(行訴法)11条1項1号,38条1項」については(他の訴訟要件についてはともかく),六法を引いて確認しなくても書けるように記憶しておく方が良いだろう。前記のとおり,時間は少しでも無駄にできない。

[13] 読者への便宜上一応書いたが,殆ど設問のオウム返しにすぎないので,この一文は省略可能である。また,同様に便宜上,各訴訟の訴訟要件でそれほど問題とならないようなものについても,基本的には条文を挙げて一言でも説明を加えるように努めたが,本試験ではそのような訴訟要件については言及する必要がない場合があるので注意を要する。

[14] 「論パ」とは,「論証パターン」(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号23頁(2018年)〔井田〕)の略称である。論証パターンの「利点」と「危険」に関し,賢明な受験生は,同23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[15] 受験生の答案で,処分性の論点に関し,よく「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をするものを見かけるが,不正確である。判例(最一小判昭和39年10月29日)による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)281頁(以下「中原・基本」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式であるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をしなければならない。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容、物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・同書79頁参照)。なお,①中原・基本281頁では,「処分性の基本的定式」,「処分の定式」という語を,②角松生史「判批」百選Ⅱ332頁は,(判例の)「定式」という語を,③山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)365頁注3)は「最高裁の定式」という語を,④宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という。)158頁は,「最高裁判決における定義」という語をそれぞれ用いている。司法試験考査委員・元考査委員が「定式」という用語を使っていることなどから,受験生も法科大学院の授業やゼミなどで「処分性の判例の定式」といった用語を使って質疑応答等を行ってもよいだろう。

[16] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)(以下「櫻井=橋本・行政法」という。)267頁,曽和ほか・事例研究292頁〔佐伯祐二〕。なお,山本・探究365頁は,「公権力性」ではなく「権力性」という語を用いる。

[17] ②の判示の点についてはネーミングが難しいが,野呂充=野口貴公美=飯島淳子=湊二郎『行政法』(有斐閣,2017年)(以下「野呂ほか・有斐閣ストゥディア」という。)174頁〔湊〕を参考にして,このように書いた。‘直接法効果性’や‘直接の法効果性’などとより短く書いてもよいかもしれないが,多くの基本書ではこのような短いワードは用いられていないので本答案例では避けた。とはいえ,採点委員によっては「法効果性,法効果の直接性・具体性」という表現は長くてくどいと感じるかもしれないから,「法効果の直接性・具体性」だけか,あるいは‘直接の法効果性’くらい短い方が良いのかもしれない。

[18] 山本・探究365頁,野呂ほか・有斐閣ストゥディア174頁。

[19] 北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の①の理由,安本典夫『都市法概説〔第2版〕』(法律文化社,2013年)(以下「安本・都市法」という。)95頁参照。なお,安本・都市法95頁は,「同意」を法50条1項に挙げていない点(なお,曽和ほか・事例研究177頁〔曽和〕では同項が一部省略されているため,この点が分からない)を同意・不同意の処分性を否定する論拠として紹介する。

[20] 曽和ほか・事例研究32頁〔北村和生〕参照。

[21] 処分性の第1要件である公権力性(あるいは第1要件及び第三要件である法律上の根拠)がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがあり、横浜地判平成12年9月27日判例地方自治217号69頁,裁判所ウェブサイト)事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」(下線引用者)と判示している。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日・百選Ⅱ326頁157事件〔太田匡彦〕)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和ほか・事例研究42頁〔野呂充〕参照)。

[22] ①公権力性を否定する論拠については,ほかに,「私道のように私人が管理者となる場合もあるがその同意に公権力性があるとはいえない」(北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の④の理由)というものがあり,これに対する反論としては,「私道は法にいう公共施設にはあたらない」(同頁・3「肯定説」の理由①)というものがある。もっとも,問題文の事例や資料1の弁護士らの会話文において,「私道」の点は特に言及されていないものと考えられることから(曽和ほか・事例研究172~176頁〔曽和〕等参照),本答案例では,この点については書かなかった。

[23] 最一小判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁(以下「平成7年判例」ということがある。)・百選Ⅱ324~325頁156事件〔北村喜宣〕。

[24] 不同意がそれ自体で開発行為を認めないという法的効果をもつ決定ではなく,開発行為に対する制限は開発不許可決定で明確になるという理由付けと考えられる(曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕の解説参照)。

[25] 資料1の弁護士らの会話文(曽和ほか・事例研究175頁〔曽和〕)で判例の重要判示が引用されているため,会話文を見ながら書けるが,仮にこのような引用の記載がなくても,この部分は書けた方が良いだろう。

[26] 「相当程度の確実さをもって」は,不同意の処分性を肯定した高松高判平成25年5月30日判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」という。)が引用する病院開設中止勧告事件(最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁,百選Ⅱ332~333頁160事件〔角松生史〕)のキーワードである。なお,平成25年高松高判は,曽和ほか・事例研究184頁〔曽和〕の解説や,百選Ⅱ325頁〔北村喜宣〕の解説でも言及されており,重要な裁判例といえる。

[27] 「地位に立たされる」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示の語である。ここでは,申請拒否処分がなされるという法的地位に立たされることで,開発許可を受ける権利ないし開発行為をするする権利(財産権)に関する法的地位に変動があるという理由付けを書いている。なお,この理由付けは,後述する手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付け(「また,」から始まる次の段落の内容)とも両立し得るものと思われ,少なくとも訴訟代理人弁護士として両方を主張して良いのではないかと考える。

[28] 平成25年高松高判も,平成7年判例の後に法が改正(平成12年)され,「法32条3項が付加されたこと」に言及する(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕の解説でもこの部分が引用されている)。なお,これに対し,中川丈久=斎藤浩=石井忠雄=鶴岡稔彦編著『公法系訴訟実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂,平成23年)(以下「中川ほか・実務の基礎」という。)384頁は,都市計画法32条の改正前(平成7年判例当時)の条文と後(現行法)の条文とで,「体裁に違いはあるものの,その規定内容に変更はなさそうである」とし,32条3項後の事案であっても平成7年判例の「射程に入る」ものと考えられるとし,同意の処分性が肯定されることを前提とする訴訟類型である「抗告訴訟で争う方法は,さしあたりは見込みがなさそうである」としており,平成25年高松高判とは異なる立場をとる。しかし,本問の会話文(「最高裁での判例例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」)の要請に照らすと,このように「さしあたりは見込みがなさそうである」などと答案に書いてしまうことは不適当といえるから,少なくとも本問の答案では,中川ほか・実務の基礎384頁のような立場は取るべきではない。

[29] 最一小判平成21年11月26日民集63巻9号2124頁(百選Ⅱ420~421頁204事件〔興津征雄〕)は,公法上の当事者訴訟等との比較において,条例の取消訴訟を通じて救済を与えることの意義につき,取消判決や執行停止決定に第三者効が認められていることを指摘し,「実効的な権利救済」という観点から処分性を肯定する論拠としている(高橋ほか・条解69頁)ことから,ややつまみ食い的な使い方ではあるが,この部分を本答案でも活用した。

[30] 「実効的な権利救済を図る(という観点から)」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示のキーワードである。同判例は手続的権利(申請権)ではなく実体的権利(財産権関係)についての判例であるため,本問でもこの判例のキーワードは財産権に関する理由付けとして用いることとした。ちなみに,同判例は,将来,高度の蓋然性をもって換地処分がなされるという法的地位に立たされるという理由付けだけで土地区画整理事業の事業計画の決定の処分性を肯定しているわけではなく,「実効的な権利救済を図る」観点も併せて処分性肯定の理由としている(百選Ⅱ316頁〔山下竜一〕)ので,本答案例もこの両方の理由を書いた。

[31] 曽和ほか・事例研究183~184頁〔曽和〕の解説参照。この段落では,手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付けを併せて(付加的に)書いている。

[32] 不同意の処分性を肯定することに鑑みれば,行訴法14条3項によって処理すると解する立場の方が筋が通っている(一貫性がある)かもしれず,3項の適用があるとすれば1項ではなく3項の方で処理する必要がある。とはいえ,不同意につき3項が適用されるかについてはやや疑問が残る余地があると思われ,本答案例では同条1項で処理している。

[33] 不同意の処分取消訴訟に関しては,開発審査会に不同意に係る審査請求を行っていることから,審査請求前置(8条1項ただし書,法50条・52条。ただし,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された。)の点は特に触れなくてもよいだろう。曽和ほか・事例研究183頁等〔曽和〕の解説でも触れていない。

[34] 同意の処分性の理由付けは少なくとも本問ではこのくらい短くてよいだろう。ちなみに,中原・基本36頁は,「一定の処分」(3条6項2号)を37条の3第1~3項とは別立てで訴訟要件の規定と位置付けており,本答案例もこれに倣った。なお,宇賀・概説Ⅱ339頁以下は,37条の3第1~3項を訴訟要件の規定と位置付け,とくに3条6項2号はそのような規定と捉えていないようである。

[35] ここは説明が必要と思われるが,既に不同意の処分性を肯定したことから,このくらい簡単な説明で済ませている。なお,曽和ほか・事例研究183,185頁等〔曽和〕の解説でも特に37条の3第2項の「法令に基づく申請」についての説明はない。

[36] 「同意の処分性が否定された場合の争い方も考えるべき」(曽和ほか・事例研究189頁等〔曽和〕)すなわち答案に書くべきである。

[37] 碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も,仮に不同意の処分性を否定する場合には,「公法上の当事者訴訟としての『同意義務の確認の訴え』又は『同意せよ』との給付訴訟が考えられよう。」とする。また,同頁は,この給付訴訟につき,「行政機関を被告としても差し支えないと解すべきである」としており,本問では乙市市長が給付訴訟の被告となると考えることになるが,この点については,難しい論点と思われる割には配点が殆どないものと思われることから,本答案例では触れることを避けた。

[38] 中川ほか・実務の基礎385頁は,同意請求権が成立することが難しいことから請求棄却となる可能性が高い旨指摘する。

[39] 曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕はこの訴訟を選択する。なお,中川ほか・実務の基礎385頁は,特定の事項について「協議する義務の不存在を確認する」という確認訴訟を提起することが「適切であろうか」としており,「協議」(法32条3項)の確認は,本問(設問1・小問1)の「同意を得るため」の訴訟としては,やや迂遠ではないかと思われるため,本答案例では書かなかった。もっとも,現実の訴訟では,このような一定の「協議」についての確認訴訟(あるいは一定の「協議」をせよ・協議を続行せよとの給付訴訟)も併せて提起しておくのが良いと思われる。

[40] 中原・基本380頁は,「確認対象の選択の適切さ」とする。

[41] 中原・基本381頁は,「確認訴訟という方法選択の適切さ」あるいは「給付訴訟等に対する補充性」・「確認訴訟の補充性」としている。

[42] 櫻井=橋本・行政法354~355頁は,③の即時確定の利益(即時確定の現実的必要性,紛争の成熟性)に関し,近時の判例は,「有効適切な手段」(在外国民選挙権訴訟最高裁(大法廷)判決)ないし「目的に即した有効適切な争訟方法」(教職員国旗国歌訴訟最高裁判決)というメルクマールを用いていおり,「紛争の成熟性を柔軟に認めるという方向性」を示している旨解説する。

[43] 行訴法4条後段の確認訴訟における確認の利益は,同法が特に規定を置いていないことから,「民事訴訟法における確認の利益論を基礎としつつ」も「行政訴訟の特質を踏まえた解釈をする必要がある」(中原・基本380頁)とされる訴訟要件である。なお,曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕や,中原・基本380頁以下などは,即時確定の利益(即時確定の必要性)を3番目の要件として挙げる(本答案例もこの立場による)のに対し,櫻井=橋本・行政法354~355頁は,確認の利益の要件・判断要素等として,「即時確定の現実的必要性(紛争の成熟性)」を1番目に挙げている(即時確定の利益・必要性を意味するものと考えられる)。ちなみに,この3要件のための理由付けの記載は(司法試験の答案では)要らないだろう

[44] 曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕も,①のあてはめで「現在の法律関係の確認」の点のみ言及する。

[45] 給付訴訟については,②のあてはめでは特に言及しない方針を採っている(厳密には「等」に含まれている)。

[46] 中原・基本382頁(「確認訴訟が認められるためには,原告の権利や法的地位に、現実的かつ具体的な不安や危険が生じていなければならない。」)参照。

[47] なお,碓井都市計画法精義Ⅰ189頁は,都市計画「法29条の許可が行政処分であることを疑う者はいないであろう」とする。行政手続法上の申請(同法2条3号)に対する処分であり,典型的な行政行為行政処分)であることから,本問の答案でも開発許可の処分性(肯定)の点を特に論じる必要はない。

[48] 小問2の答案は,このように短く書くべきである(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕も同様に短く解説している)。

[49] 「審査請求前置主義」と書いてもよい(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕,櫻井=橋本・行政法296頁)。

[50] 本問では,審査請求前置についても書く必要があるが,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された(曽和ほか・事例研究186頁〔曽和〕参照)ため,今日では問題とならないものである。

[51] 「有効な」ではなく「実効性のある」と書いてもよいだろう。

[52] この段落は,①・②の訴訟の適法性(訴訟要件の話)ではなく勝訴可能性の高さという意味での実効性・有効性の話を書いている部分である。なお,平成23年司法試験論文行政法・設問2・小問(1)は,「最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴え」(下線は引用者)を書くことを求めている。

[53] 中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)参照。(1)では,要件裁量が(効果裁量も)否定されることを前提とする実体的違法事由(法32条1項(・3項)に係る違法性)の主張である(曽和ほか・事例研究189頁〔曽和〕の「コラム 答案を読んで」③参照)。

[54] 裁量否定の場合の判断代置方式による審査(大橋洋一行政法Ⅰ 現代行政過程論[第3版]』(有斐閣,2016年)209頁,判断代置的審査)は,できる限り(時間と答案のスペースの許す限り)条文文言→趣旨→規範→あてはめ→結論という法的三段論法の流れで書くべきである(平成21年新司法試験採点実感6頁下から2行目~7頁上から7行目参照)。

[55] この部分は問題文(曽和ほか・事例研究172~173頁(・186頁)〔曽和〕)事実関係の一部を写しただけの記載であり,事実の評価の記述がない。評価の文があった方がベターだろう。

[56] 曽和ほか・事例研究187頁〔曽和〕の解説参照。中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)は,「行政庁の法令解釈自体に誤りはないが,事実へのあてはめにあたって,行政庁の裁量に委ねられるべき判断があり,その裁量判断が合理性を欠くとして(社会通念上著しく不相当である,専門技術的な判断に看過し難い過誤がある等),違法な処分であるという主張も考えられる」とする。

[57] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2013年)318~319頁参照。

[58] 平成25年高松高判の原審である徳島地判平成24年5月18日判例地方自治384号70頁は,同意・不同意につき,裁量を肯定しており,安本・都市法96頁も裁量を肯定する立場を採っているものと考えられる。なお,後掲の最一小判平成21年12月17日も,安全認定に係る「安全上の支障の有無は,専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり,知事が(中略)判断するのが適切である」(下線は引用者)と判示しており,「安全」(危険)に関する判断は,裁量が否定されるものと解される場合もあるが,本件のように裁量が肯定される場合もある。ちなみに,行政裁量が否定されるものと解されうる例(著名な憲法判例)として,泉佐野市民会館事件(長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182~183頁〔川岸令和〕)を挙げることができるだろう。同判例の事案では「公の秩序をみだすおそれがある場合」(市立泉佐野市民会館条例7条1号)に要件裁量が認められるかが問題となるが,この文言は不確定的法概念ではあるものの,判例が同号の「趣旨」に照らし,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」などといった比較的厳格な規範を定立していることからすると,要件裁量を否定しうる(要件裁量を否定した判例である)と解することができるだろう(ただし,同判例園部逸夫裁判官の補足意見は,要件裁量を肯定している)。

[59] 碓井都市計画法精義Ⅰ200~201頁,曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕参照。

[60] 曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕の解説でも指摘されているとおり,本問では本答案例のように,裁量が否定されることを前提とする主張を行うとともに,裁量が肯定されるとしても違法となるとの主張を行うべきである。

[61] 違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判例(倉地康弘「判解」ジュリスト1415号82頁参照)として,最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁・宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)170~171頁84事件〔川合敏樹〕。

[62] 違法性の承継の根拠論に関し,板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全に基づく安全認定の違法を主張することの可否」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)269頁以下参照。また,違法性の承継が公定力(取消訴訟の排他的管轄)の例外なのか,不可争力(出訴期間制限)の例外なのか,という論争がある(同頁)ところ,後掲の(1つ下の)注(平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の)のとおり,平成28年の考査委員は,公定力説と不可争力説を併記してよいとしているものと思われる。

[63] 違法性の承継の論証パターンのショートバージョンである。なお,この部分の論証パターンとそのあてはめの部分については,平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の次の記載を参考にした。「〔設問3〕は,いわゆる違法性の承継の問題であるが,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば,違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で,まず,違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で,最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には,違法性の承継が認められるための考慮要素として,実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。」(下線は引用者)

[64] 平成28年司法試験論文行政法の採点実感等5頁等も参考にした。

[65] 「(3) 違法性の承継について」の部分のショートバージョンは次の通りである。

「同意の処分性が肯定される場合には,いわゆる違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる。もっとも,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴期間内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。」

 このように,先行処分となりうる不同意の取消訴訟を出訴期間内に提起できる事案の問題(本問)では,違法性の承継の規範とあてはめを省略して短く書くことができるものといえよう。

 

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