平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)

 前回のブログでは,平成30年司法試験論文憲法の予想問題を掲載した。

 要するに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問の改題である。  

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 問題意識自体はやや古いかもしれないが,周知のとおり,今日では(今日でもなお)ヘイト・スピーチやヘイト・クライムの問題が新聞等でも話題になっており,また,格差が拡大し続ける社会において大学生・大学院生等の学生の生活水準が必ずしも安定しない(あるいは不安定になり続ける)状況における図書館の現代的な意義などにも鑑みると,今日においても,重要性の高い問題といえるだろう。

 

 

 では,解説に入る。

 

 まず,答案構成の大枠を決める必要がある。そのためには,法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択と,論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)を決める必要がある。

 

 ここで構成等を間違えてしまうと,4段階(優秀・良好・一応・不良)の答案ボックスの下位2つに入り易くなるので,特に論文憲法が苦手な司法試験受験生はよく注意する必要があるだろう。

 

 

第1 法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択

 

(1)3つの構成

 司法試験論文憲法の問題がどのような問題であれ,答案構成の段階で,法令違憲・処分違憲適用違憲)の構成の選択を検討しなければならない。

 

 構成としては,

<1>法令違憲・処分違憲適用違憲)の両主張を書く構成

<2>法令違憲の主張だけを書く構成

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

の3つが考えられる。

 

(2)問題文の指示と事実の比率による構成の選択

 

 上記3つの構成のどれを採るべきかは,

①問題文の指示(比較的わかりやすい誘導の有無

②立法事実(立法の背景事情)と個別具体的な事実との比率

によればよいものと考えられる。

 

 ここで,①問題文の指示とは,わかりやすい誘導の有無を意味する。例えば,(ⅰ)「あなたが弁護士としてAの付添人に選任されたとして,性犯罪者継続監視法が違憲であることを訴えるためにどのような主張を行うかを述べなさい。」(平成28年論文憲法問題文・設問1部分)(下線は引用者),(ⅱ)「C社は,本条例自体が不当な競争制限であり違憲であると主張して,不許可処分取消訴訟を提起した。」(平成26年論文憲法問題文)(下線は引用者)といった記載が問題文にあれば,法令(条例)違憲だけの主張をすべきとのわかりやすい誘導があるとみて良いだろう。

 

 次に,①の問題文の指示がないときの処理方法であるが,②立法事実(立法の背景事情等)と個別具体的な事実との比率を考えて,例えば,立法事実については1割程度しか書かれておらず,他方で,個別具体的な事実は9割くらい書かれているといったような場合には,処分違憲適用違憲)の主張のみを書けば良いと考えられる。

 

(3)本問の構成

 

 本問では,「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の2つがあるため,一応分けて考える必要があるだろうが,事実関係がほぼ共通するので,あえて一緒に検討してしまおう。

 

 本問では,①問題文の指示があるとはいえないが,②法令違憲の主張で使う事実と,処分違憲適用違憲)の主張で使う事実の比率をみると,一見すると(感覚的には),前者1割:後者9割といった感じの問題といえるだろう。前者については,問題文の第一段落の「・・・理念のもと,・・・することを目的に」のところくらいしか書かれていないと考えることができるからである。

 

 したがって,構成としては,

「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の双方につき,

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

を選択することになる。

 

 なお,合憲限定解釈の主張を答案に書く場合に関し,泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日・川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)が,処分違憲(特定の処分の違憲の主張)の中で,合憲限定解釈(同解釈そのものか自体にはやや難しい問題があるように思われるが)を展開していることからすれば,合憲限定解釈の主張を<3>で書いても特に問題はなかろう。

 

 

第2 論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)

 

1 検閲,事前抑制の理論の適否

 検閲については,判例の規範・定式を満たさないことは明らかであり,また,事前抑制についても,その規範を満たさないと考えるのが普通と思われるから,答案に書くべきではないだろう。小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁も,「市販の図書について図書館での閲覧を禁止することは,検閲や表現の事前抑制に該当しない」(下線は引用者)とする。

     

2 内容規制か内容中立規制か

 これを1つの論点というかは微妙なところがあるが,この点はさておき,本問は内容規制の事案であることは明らかといえるから,内容規制であることだけを答案に明記すれば足りるだろう。

 

3 違憲主張適格(違憲主張の適格性)

 違憲主張適格(違憲主張の適格性)については,まず,(ⅰ)X1の知る権利(法で具体化されたもの)のところでは,書く必要がないし,(ⅱ)X2の「国家の中立義務」(小山・作法203頁)の問題については(国家の中立義務の問題として捉えるべきことについては次回のブログで述べる),政教分離原則等(人権ではなく「制度」)と同様に「中立義務」違反の主張の理由付けの中で人権(表現の自由等)の話が登場することから,第三者所有物没収事件とは事案が質的に異なるため,違憲主張適格は論点にすべきではない(反論レベルからでも展開するようなことは避けるべき)だろう。

 

 このように,論じない・落とす論点をしっかり検討しておけば,余計なこと(点が入らないか入っても殆ど配点がなく,他の書くべき点を十分に書けなくなるという意味で実質的には(手形法のようにいうと)有害的記載事項)を書かずに済むことになる。

 

 

 続きは次回。

 

  

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