平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その1:受験生「中間審査基準でマクリーン判決を超えてもいいんですか?」→考査委員「いいんです。」

 

「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(4)」(平成29年5月22日ブログ)などでも述べたとおり,平成29年司法試験論文憲法には,憲法学にとって緊々の課題と評される「マクリーン判決を超える 」(愛敬浩二「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)5頁(1事件,マクリーン事件)。)方策を受験生に問うという側面があるものと考えられるところ,このことをこのたび公表された平成29年司法試験論文式試験「出題趣旨」1頁でよく確認することができた。

  

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このマクリーン判決の超え方に関しては,マクリーン事件とは事案が異なると主張してその判断枠組み(基準)をより厳格なものにするための理由付けをどのように書くべきかが特に重要であると考えられる。今年の出題趣旨は,この点についてかなり具体的な記述をしており,大変参考になる。マクリーン判決の超え方に関して「中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)を使って良いとしている点も注目である。

 

 

(以下「出題趣旨」の抜粋,下線及び[A]・[B]は引用者)

代理人甲としては,マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,本件のような場合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。様々な立論があり得るだろうが,飽くまで一例ということで示すとすれば,まず,[A]妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であり,また,人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,新制度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。),自己決定権の中でも特に尊重されなければならないこと,また,[B]本件が,再入国と同視される在留期間の更新拒否ではなく,強制出国の事例であってマクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘して,立法裁量には限界があるとして中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)によるべきだという主張をすることなどが考えられる。

(引用終わり)

 

この点に関し,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(4)」(平成29年5月22日ブログ)でも書いたとおり,私は,違憲審査枠組みの設定に関して考慮されるべき事項・要素として,①制約される人権の重要性(いわば人権のプラス面),②他社の人権等や公益を制約する弊害的な(いわば人権のマイナス面)が小さいこと(=当該人権の制約の本来的可能性が低いこと),③規制態様の強さの3つを適宜活用すべきと考えている(①・②につき,青柳幸一『憲法』(尚学社,2015年)87頁参照)。

 

上記「出題趣旨」のAの部分は,①人権の重要性(いわば人権のプラス面)という考慮事項・要素を活用したものであり,また,Bの部分は,③規制態様の強さの考慮事項・要素を活用したものといえる。

 

ちなみに,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(3)」(平成29年5月21日ブログ)では,上記の3つの考慮事項を活用して,私なりのマクリーンの超え方に係る文書を書いた。出題趣旨の記載と多少重なる部分があると思っているが,読者の皆様はどのように思われるだろうか。 

 

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(以下,一部を再掲,下線と[a]・[b]は引用者)

ウ 正当化理由の有無を判定する段階の要点

 上記Bの人権制約は正当化されるか。我が国の農業及び製造業に必要な労働力の確保という労働政策等(法1条)からの規制であり,制約根拠(公共の福祉,13条後段)はあるとしても,その制約が許されるものかが問題となる。

 この点については,確かに,外国人の在留権(在留の権利)は,国際慣習法上,保障されているものではないと解されている(マクリーン事件)。とすると,外国人の妊娠・出産の権利・自由の保障も,法における特定労務外国人制度の枠内で与えられているにすぎないもののようにもみえる。

 しかし,特労法は入管法の外国人在留制度と比べて在留の要件を限定しており(法4条1項),帰化・永住を希望しないことがその要件となっていること(同項4号),認証は原則として3年のみで効力を失うことなどからすると,特労法における外国人の人権行使が,…日本国民の人権や公益(国益)と衝突することは比較的少ないといえる。そのため,入管法上の在留更新等の場合よりも,手厚い人権保障が要請されるものというべきである。

 また,[a]妊娠・出産という人生の選択をする自由は,その者の日々の生活や生き方,ものの見方・思想などを大きく変えうるものであり,自身の子に,価値遺伝的素質を伝承するという意味でも人格的生存の根幹に密接にかかわるものといえる。このような意味で,妊娠・出産の権利・自由は,精神的自由等における自己実現の価値の大前提たる極めて重要な意義を有する。加えて,[b]例外を許さず,妊娠・出産の権利・自由が全面的に制約されており,その意味で比較的強い規制といえる

 とすると,マクリーン事件(外国人在留制度)で問題となった外国人の表現の自由の場合とは異なり,特労法との関係では,妊娠・出産の権利・自由は,同法の制度の枠内で保障されるという弱い保障にとどまらず,より手厚く保障されるものというべきである。具体的には,マクリーン事件の採ったような裁量権の逸脱濫用審査に係る審査密度の低い審査枠組みではなく,立法目的が重要であり,かつ立法目的と手段との間に実質的関連性があるといえる場合でなければ違憲とされる審査基準によるべきである。

(引用終わり)

 

 

なお,出題趣旨では,マクリーン判決の超え方に関して「中間審査基準」を使ってもよいとしているが,これは今日の裁判実務とは(残念ではあるが)必ずしも整合しないものであろう。そこで,出題趣旨でも「飽くまで一例ということで示すとすれば」と断っているのではないかと思われる。

 

とはいえ,この手の事案で「中間審査基準」が(一応)ありうる立論として法務省のウェブサイトで公表された事実は大きいだろう。考査委員の先生方の意気込みを感じ,感動したので,ブログを更新した次第である。

 

 

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