平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

令和2年司法試験論文行政法の感想(3)設問1(2)の答案例

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。 それ以外の皆様は、よろしければ、ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでだって 待っているから

 待っているから 待っているから」[1]

 

 

 Xが待っているのは,B市長の処分ですが…。

 

 

 

 

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前回の続きである。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

今回のブログでは,令和2年司法試験論文行政法の設問1(2)の答案例を掲載する。

参考になれば幸いである。

 

 

第1 設問1(1)

(前回のブログ記載のとおり)

yusuketaira.hatenablog.com

  

第2 設問1(2)

 

1 Xの置かれている状態,B市の対応の法的な意味

 Xは,申出書等の申請書類を所定の方法でB市の関係課に物理的に[2]提出し(本件運用指針4条1項),かかる申請書類はB市長の事務所に「到達」(行政手続法7条)したといえる。にもかかわらず,B市職員が同書類を返送するなどの対応をしているが,この行為は申請書類の不受理あるいは返戻にあたる。

 そのため,Xとしては,相当の期間申請書類の審査が開始されない状態に置かれているが,上記不受理・返戻の対応は,受理概念を否定し,法律による行政の原理の当然の要請として[3]申請の到達により審査義務が発生することを明確にした同法7条[4]に違反する行為である。

 

2 提起すべき抗告訴訟不作為の違法確認訴訟

 以上のとおり,本問では,B市長が,Xの法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分をすべきであるにかかわらず,これをしないことから,不作為の違法確認の訴え行訴法3条5項)を提起すべきである。[5]

 

3 訴訟要件の充足性

(1) 不作為の違法確認訴訟の訴訟要件は,①原告適格(「法令に基づく申請」(同法3条5項,申請権)・「申請をした者」(同法37条)),②狭義の訴えの利益,③被告適格(同法38条1項,11条)及び④管轄(同法12条)である[6]

 

(2) ①については,前記第1の2(3)のとおり,本件計画変更の申出について「除外」(農振法13条2項)の申請権が同法に基づき認められるものといえ,また,本件申出書等の申請書類は令和元年2年5月8日か,遅くとも令和元年2年5月10日までに到達しているから(上記1),Xは現実に申請をした者といえ,原告適格が認められるといえる。

 ②については,本問において行政庁の不作為状態が継続しており,これが解消されるなどの事情はない[7]ことから,狭義の訴えの利益が認められる。

 ③・④についても,特に問題はなく満たす。

 

(3) よって,同訴訟の訴訟要件を充足するといえる。

 

4 本案においてすべき主張

(1) 不作為の違法確認訴訟の本案勝訴要件は,「相当の期間」(行訴法3条5項)の経過である[8]。同期間経過の有無については,通常の所要期間を経過した場合には原則として違法となるが,同期間経過を正当とする特段の事情がある場合には違法とはならないという基準で判断すべきである。[9]

 

(2) 本問では,通常の所要期間に関し,法定の期間はないが,B市が「除外に1年程度要する旨を公表」していることから標準処理期間(行政手続法6条)も1年程度と考えられ定められていないが,また,Xと同時期に申出をした他の農地所有者らに対しては,すでに令和2年4月7月[10]に通知(本件運用指針4条4項)がなされていることから,平均的な審理(審査)期間[11]も1年程度2か月程度か遅くとも3か月であると考えられる。そうすると,同年5月13日の時点では,Xの申請(前記3(2)のとおり遅くとも令和元年5月10日までに行っている。)から1年3か月を経過しているから,標準処理期間通常の所要期間を経過したといえる。

 また,Xは申出をやめる意思がない旨をB市職員に伝えているから,本問ではB市職員の行政指導により円満な解決が見込まれるという事情[12]があるとはいえず,また,申請者が急に激増したという事情[13]もないから,標準処理期間や通常の所要期間の経過を正当とする特段の事情もない

 

(3) よって,「相当の期間」は経過しているから,Xの申請に対するB市長の不作為は違法である。

 

第3 設問2

(次回ブログで掲載予定)

 

 

 

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[1] GRAPEVINE「君を待つ間」『退屈の花』(1998年)。

[2] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅰ」という)458頁。

[3] 塩野宏=髙木光『条解 行政手続法』(弘文堂,平成12年)151頁。

[4] 宇賀・概説Ⅰ458頁参照。

[5] 設問の指示を受けて,申請型義務付け訴訟(不作為型)は本答案には一切書いていない。

[6] 大島義則『実務解説 行政訴訟』(勁草書房,2020年)(以下「大島・実務解説」という。)167頁〔朝倉亮太〕参照。

[7] 大島・実務解説178頁参照〔朝倉亮太〕。

[8] 大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕。

[9] 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)322,326頁,大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕,東京地判昭和39年11月4日行集15巻11号2168頁参照。この基準(規範)についての理由付けは特に要らないだろう。なお,「特段の事情」を違法性阻却事由と整理する立場に立つとしても(大島・実務解説183頁〔朝倉亮太〕参照),答弁書でこの点に関する主張がB市側から出てこないことは実務上普通考えられないように思われることや,答案政策の観点から(「B市の反論を想定し」とあるので加点要素と考えられるため),X(原告)側の主張として(先に)書いてしまっても(訴状において主張しても)よいと考えられる。

[10] 本答案例は,司法試験の実施日が「法律事務所の会議録」の会議日であることを前提に書いたものである。※当初、一部、問題文の年月日を誤読していました。失礼いたしました。

[11] 大島・実務解説188~190頁〔朝倉亮太〕参照。

[12] 宇賀・概説Ⅱ327頁,東京地判昭和52年9月21日行集28巻9号973頁参照。

[13] 宇賀・概説Ⅱ326~327頁,熊本地判昭和51年12月15日判例時報835号3頁参照。