平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その4 出題趣旨と「人権パターン」の関係

平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨(以下,単に「出題趣旨」ということがある。)についての感想のつづきである。

 

前回までに,同出題趣旨の第1・2・5段落の感想を述べた。

 

前回のブログでは,最後の方で,司法試験論文憲法で,「冒頭パターン」を活用し,その後,「人権パターン」の流れに乗った答案を書けば,スムーズに答案を書くことができる(答案構成もし易くなる)だろうとし,さらに,出題趣旨と「人権パターン」との関係については,次回言及するなどと述べた。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 そこで,今回のブログでは,出題趣旨第3段落及び第4段落の感想を述べ,「人権パターン」の規範(判断枠組み・違憲審査枠組み)定立部分とあてはめ部分(設問1まで)の話をすることとしたい。

かなり長くなるが,受験生にとって有益なものとなれば幸甚である。

 

〔出題趣旨第3段落(下線,〔1〕~〔4〕は引用者)〕

〔1〕①の自己決定権の侵害については,まず,自己決定権が憲法上保障されるか,そして,その自己決定権に妊娠等の自由が含まれるかということが問題となる。さらに,妊娠等の自由が自己決定権に含まれるとしても,本問のBが外国人であることから,別途の考慮が必要となる。〔2〕この点については,マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁)及びそこで示された権利性質説が直ちに想起されることだろう。そして,権利性質説からすれば,妊娠等に関わる自己決定権は外国人にも保障されるということになろう。〔3〕しかし,注意すべきは,同判決が,外国人に対する人権保障は「外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」として,人権として保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情として考慮されることはあり得るとしていることである。〔4〕外国人の出入国及び在留に関わる問題に関しては,単純な権利性質説に基づく議論では不十分である。

 

 1 1~2文(2~4行程度)で書くべきサブ論点

 

第1~2文等から,

①自己決定権が憲法上(憲法13条後段に基づき)「保障」されるか,

②その自己決定権に妊娠等の自由が含まれるか,

そして第3~4文も合わせて読むと,

③妊娠等の自由が外国人にも,「権利の性質」上「保障」されるか,

という3つの論点については,簡潔に触れることが求められている[1]と考えられる。

 

なぜなら,出題趣旨第4段落の「一例」の記載と関連する論点である<④妊娠等の自由が外国人にも保障されるとして,どの程度保障されるべきものか(外国人の人権の保障の程度論)[2]>とは異なり,特に,出題趣旨において考査委員による具体例を用いた説明がない[3]からである。

 

つまり,①~③の論点は,1文あるいは2文短く書くべき論点といえよう。

書かないと基礎が分かっていないと判定されるが,決して時間を使ってはならないという類の論点である。メインの論点(<メイン論点>)ではなく,サブの論点というべきである[4]

答案構成の段階で<サブ論点>には「サ」などの印を書いておくと良いだろう。

 

ちなみに,このような論点に時間を(必要以上に)消費する受験生がいるが,そのような受験生は①~③の論点を「ワナ」の論点,<ワナ論点>と位置付け,注意すべきであろう。憲法論文が苦手な人にとって<サブ論点>は<ワナ論点>となり易いのである。

 

なお,出題趣旨第3段落(特に下線部分)からすれば,外国人の在留の権利(在留権の保障を論点として展開すべきではなく,その代わりというわけではないだろうが,いずれにせよ,後述する人権の「保障」の話を書く段階で,外国人の「在留に関わる問題」であることに言及すべきであるといえよう。

 

つまり,在留権を大展開した,あるいは在留権の「保障」論からスタートしたような答案は,基本的にはNGの構成ということになるだろう。

 

 

2 「人権パターン」による答案でもOK

 

ところで,出題趣旨第3~4段落の内容からすると,おそらく考査委員は,今をときめく「三段階審査」の立場ではない,「人権パターン」[5]による答案を書くことを許容していると考えられる。

 

つまり,(A)「保護」→「制約」→「正当化」(比例原則を中心とするあてはめ)の三段階審査論によらなくても,(B)人権パターンによる型に乗せ,人権主体論→「保護」論→保護の「程度」論→審査基準論(違憲審査基準等のあてはめ)という流れで答案を書いてOKとしているように思われ,出題趣旨からすれば,むしろ(B)の方が良いのではと思われる。

 

とはいえ,疑問点あるいは注意点が2つある。

 

第1に,出題趣旨第3段落からすれば,人権パターンで一番最初に書く(ことが多いと考えられてきたように思われる)[6]「外国人」の人権共有主体性の話は,一番最初に書くわけではなく,上記③の論点の段階で書くべきではないのかという疑問点を挙げられよう。

 

この記載の順序の点につき,平成30年司法試験で再度外国人の人権が出る可能性はかなり低いだろう[7]が,仮に再度出た場合には,③の段階で外国人の人権共有主体性の議論を始めた方が無難であると思われる。採点委員としては出題趣旨と同じ順序での論述がなされている方が良い印象を持つと思われる[8]からである。

(ただし,マクリーン事件の判旨[9]からすれば,最初に人権共有主体性の話を書いても問題は殆ど減点されるということはないだろう。)

 

そして第2に,「人権パターン」の「保護」論の後の,保護の「程度」論のところで,「制約」の態様・程度(強度)の話を書いておくべきであるということである。このことについては,後述する「立論」の「一例」の部分でも解説する。

 

ちなみに,宍戸常寿教授は,平成25年の著書[10]で,次の枠内のとおり述べている。

 

学説では、裁判所が人権制限の合憲性を判断する基準を準則化する立場(二重の基準論、違憲審査基準論)が広く支持されている。他方、最近では、各人権条項がいかなる自由・利益を保護するか、憲法上保護された権利の制約があるか、その制約は憲法上正当化されるかという3段階の審査により人権制限の合憲性を判断すべきであり、特に最後の正当化の審査段階では、比例原則を中心に判断すべきだとの立場も、説かれるようになっている。もっとも、両者の立場は実際には相当程度重なり合っているとの指摘もみられる。

 

最後の一文にあるところの違憲審査基準論と三段階審査論が「両者の立場は実際には相当程度重なり合っている」とする指摘は(賢明な受験生はよく知っているとおり)重要である。

そのため,違憲審査基準論で三段階審査に比べると十分に(あるいは体系的に)意識されてこなかったものと思われる「制約」の態様・程度(強度)話を,人権パターンにおける保護の「程度」論のところで明記しておくべきと考えられる。

 

なお,このことは次の第4段落第2文(「立論」の「一例」)の〔2-2〕のの記述からも裏付けられるものと思われる。

 

〔出題趣旨第4段落(下線,〔1〕~〔3〕は引用者)〕

〔1〕B代理人甲としては,マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,本件のような場合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。〔2-1〕様々な立論があり得るだろうが,飽くまで一例ということで示すとすれば,まず,妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であり,また,人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,新制度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。),自己決定権の中でも特に尊重されなければならないこと,また,〔2-2〕本件が,再入国と同視される在留期間の更新拒否ではなく,強制出国の事例であって〔2-3〕マクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘して,立法裁量には限界があるとして〔2-4〕中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)によるべきだという主張をすることなどが考えられる。〔3-1〕その上で,例えば,規制目的は定住を促す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹底することであり,これは,滞在期間を限定し,永住や帰化を認めないという直接的な措置と比べて周辺的であり,重要な立法目的とまでは言えないこと,〔3-2〕仮に目的が重要だとしても,妊娠等が全て定住につながるとは限らず,合理性に欠けることなどを指摘することが考えられる。

 

 

3 規範定立と規範の理由3つ(出題趣旨第4段落〔1〕・〔2〕)

 

上記〔2-1〕以下では,「あくまで一例」ということで立論の例を挙げているが,この部分は大変重要である。あくまで一例と強調しているからといって,受験生としては,決して軽く読んではならない。殆ど答案例が示されているといってもよい極めて重要な部分である。

 

メイン論点が人権保障の「程度」論であることを示すとともに(これは明らかであるが),何と考査委員自身が,いわば,理想の(これを100点というかどうかはさておき)解答例を示したものに等しい(あるいはそれに近い)論述だからである。

 

しかも,〔2-1〕~〔2-4〕が受験生にとって有難いのは,一応制限時間内に「書ける」分量で書かれていることである。ゆえに大いに参考にすべきであり,十分な分析が必要となる。

 

(1)〔2-1〕人権の「重要」性論・・・判断枠組みの理由その1

 

人権の保障の程度論では,判断枠組みの理由付けを3つ書き,その上で,判断枠組みを選定することになる。

 

この理由の1つ目として,〔2-1〕部分は,人権保障の程度論の段階で,まず,①「妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であ」ること,②「人生においても妊娠等ができる期間には限りがあ」ることの2つのことから,人権(自由)の重要性[11]が高い旨述べている。

 

人権・自由の重要性については,単に「重要」(が高い)と答案に書くのではなく(それでも多分OKだろうが),上記〔2-1〕のとおり,●●権「の中でも特に尊重されなければならない」と書けば良いのである。

キーワードは,<特に尊重>である。

 

ちなみに,上記〔2-1〕は,「妊娠」「出産」の評価として,①「本人の人生にとって極めて重要な選択」とか②「人生」における「限り」のある(短い)期間というものを書いているが,受験生の皆様はどう感じるだろうか。

 

簡単に書けると思うのではないだろうか。

 

個人的には,もう少し具体的に書いた方が良いと思われ,例えば,①については,①´前者妊娠・出産は,妊娠した者の人生観やライフスタイル・暮らしそのものを大きく変えうることの決定に関する事項であり,人格的生存の根幹にかかわるものであるから,「本人の人生にとって極めて重要な選択」であるなどと書くべきではないかと考えられる。

 

つまり,時間不足に陥るリスクもあるので,長々と書く分は減らした方が良いが,このようなメイン論点では,人権の重要性について具体的に書くなど「見せ場」を作ると良いと思われる[12]。さらにいえば,人権の重要性の話では,短答式試験で押さえた知識と社会常識を活用し,上記①´のような具体的な記載をすることで答案の「見せ場」を作ることが比較的容易であるといえよう。

 

ちなみに,この人権の「重要性」論に関し,平成28年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(以下「平成28年実感」という。)1頁の「2 総論」部分は,次の枠内の記載のとおり述べており(〔1〕~〔8〕,下線は引用者),〔2〕の部分で人権の「重要性」論に言及している。

 

・本問では,〔1〕架空の性犯罪継続監視法がいかなる憲法上の人権をどのような形で制約することになるのかを正確に読み取り,〔2〕被侵害利益を特定して,その重要性や〔3〕規制の程度等を論じて〔4〕違憲審査基準を定立し,問題文中の事実に即して適用するなどして結論を導かねばならない。〔5〕その際,当該権利(自由・利益)を憲法上の人権として保障すべき理由,〔6〕これに一定の制限を課す必要がある理由反対利益への配慮),〔7〕これらを踏まえて当該違憲審査基準を採用した理由,〔8〕同基準を適用して合憲又は違憲の結論を導いた理由について,いかに説得的に論じているかが,評価の分かれた一つのポイントとなる。

 

(2)〔2-2〕制約の態様・程度論・・・判断枠組みの理由その2

 

出題趣旨第4段落〔2-2〕及び平成28年実感〔3〕のとおり,判断枠組みの理由付けとして,さらに,制約(規制)の態様・程度(強度)について書く必要がある。

 

型は,<●●●●という(弱い)態様の制約にとどまらず,強制の程度が(より)大きい●●●●の事案である(こと)>といったもので良いだろう。

 

ちなみに,〔2-2〕では,特に表現の自由で登場するところの事前規制[13]・事後規制,内容規制[14]・内容中立規制[15]という規制態様に係る類型論には(少なくとも直接は)触れていない点にも注意する必要があるだろう。更新のタイミングで日本から出ていけと言われるのか,更新のタイミングが未だ到来していないのに出ていけと言われるのかは違うという〔2-2〕の主張は,強いていうならば,事前・事後規制の応用ということになるかもしれない(この点については自信はないが…)。

 

(3)〔2-3〕当該判断枠組みの採用理由(「事案が異なる」など)・・・判断枠組みの理由の〆のワード

 

〔2-2〕及び平成28年実感〔7〕からすれば,判断枠組みの理由付けの〆の部分のキーワードの1つとして,「事案が異なること」を書くと良いだろう。もちろん,そのキーワードの前の論述を「一例」のようにしっかり書いておく必要がある。型は次のとおりとなる。

 

<〔2-1〕(人権の重要性)〔2-2〕(制約の程度等が強いこと)(など)に照らせば,●●●●事件とは事案が異なることから,・・・>

 

ちなみに,マクリーン事件の判断枠組みによる場合には,(広い)裁量を前提とする裁量権逸脱濫用の規範による判断の中で憲法論が論じられることになるところ,このような緩やかな規範を示す判例(出題趣旨等で明示又は黙示に書かれるような)関連判例である場合には,少なくとも原告(被告人)側の主張(設問1)では,その判例の規範を使わないようにすべきである[16]

 

そこで,裁量を前提とする判例の場合,<立法/行政裁量は限定されるべき>というワードもまた,判断枠組みの理由付けの〆の部分のキーワードの1つとなるものといえよう。(なお,この点につき,下記(5)参照)

 

(4)〔2-4〕規範(判断枠組み・違憲審査枠組み)の定立(審査基準論)

 

上記(3)のとおり,判例の規範が緩やかであり,判例の規範を使わない場合には, <上記判断枠組みの理由(上記(1)・(2),下記(5)の3つの理由)に照らし,●●●●事件とは事案が異なることから>などと書き,規範=判断枠組み=違憲審査枠組みを設定すると良い[17]

 

〔2-4〕では,判断枠組みとして,審査基準論における「目的の重要性,手段の実質的関連性」を審査する「中間審査基準」を採用すべきだという主張をすべきとしている。

 

異論もあるところとは思うが,「中間審査基準」の場合には,目的は「正当」よりも「重要」とする方が出題趣旨に合っているし,「合理的関連性」ではなく「実質的関連性」としている点も同じである[18]

 

(5)補足1:制限を課す必要がある理由・・・判断枠組みの理由その3

 

平成28年実感〔6〕は,個人の人権・自由についての「一定の制限を課す必要がある理由(反対利益への配慮)」に言及する。これは,上記(1)の人権の重要性(いわば人権のプラス面[19])とは逆の,他者の人権や公益を制約する弊害的な性格(いわば人権のマイナス面)が小さいか大きいか(すなわち,当該人権の制約の本来的可能性[20]が低いか高いか)というものであり,平成28年実感は,判断枠組みの理由付けとして,必要に応じてこのマイナス面を(も)答案に書いて欲しいと述べているものといえる。

 

そのため,<人権につき一定の制限を課す必要がある>というキーワードは正確に記憶しておいて答案で適宜書けるようにしておくべきである。

 

ちなみに,「立法裁量」または「行政裁量」が認められる(広いとはいえなくても肯定される)こと(その裁量肯定の根拠・理由)は,「上記一定の制約を課す必要がある理由」になると思われる。このことからすれば,〔2-3〕ではマイナス面に言及していることになるから,「厳格審査基準」ではなく「中間審査基準」ということになるのである[21]

 

(6)補足2:平成28年実感〔1〕等の説明

 

平成28年実感の〔1〕は,前回のブログの「冒頭パターン」を意味し,同〔5〕は,「人権パターン」における「保障」レベルの話に言及する部分である。

 

 

4 規範のあてはめ(出題趣旨第4段落〔3〕)

 

出題趣旨第4段落〔3〕は,「例えば」として,規範へのあてはめの一例を挙げた部分である。先の「一例」のところでも述べたとおり,「例」は決して軽視してはならない。

 

「『一例』を笑うものは『一例』に泣く」と肝に銘じ,考査委員の示す「例」を穴が空くほどよく読み,精密な分析を行うべきであり,その際に本ブログが参考になれば望外の喜びである。

 

さて,この部分を読み,少なからず‘違和感’を覚えたのは私だけだろうか。というのも,目的審査の記載(〔3-1〕)の方が手段審査のそれ(〔3-2〕)よりも長かった(約2倍の分量)からである。

 

このことに関し,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(以下「平成20年実感」という。)4頁は,「〔①〕必要不可欠の(重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,〔②a〕厳密に定められた手段といえるか,〔②b〕目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,〔②c〕規制手段の相当性,〔②d〕規制手段の実効性〔②e〕等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体的に検討すること」を求めている。

 

この記載は,平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(補足)2頁でも繰り返し言及されており,「審査基準の下で目的手段審査を行う場合」(同頁)における目的審査のキーワード(上記①)及び手段審査のキーワードと考慮事項を示したもの(上記②a~②e)であるため,採点実感の中でも特に重要なものといえる。

 

そして,平成20年実感4頁の上記記載などからすれば,司法試験では,通常は(多くの場合は,というべきか)手段審査の方が検討事項が多いものといえることから,普通は,手段審査のあてはめの記載が長くなるはずである。

しかし,出題趣旨第4段落〔3〕はその逆であったため,ある種の違和感を覚えることとなった。

 

とはいえ,考査委員としては,(事案にもよるが)目的審査にも点を振っておくからちゃんと書いてくれとコメントしているものと思われる。そのため,例えば,設問1(原告(被告人)の主張)で「…であるから,目的は重要といえる」などと簡単に書かない方が無難と考えられよう(事案にもよるが)。

 

以上のとおり,違和感が解消されたか否かよくわからないが,とにかく前に進む[22]こととする。

 

(1)目的審査のあてはめ(中間審査基準を採用する場合)に関して

 

〔3-1〕は,「規制目的」が①「定住を促す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹底すること」(下線は引用者,以下同じ)であり,これは,②「滞在期間を限定し,永住や帰化を認めないという直接的な措置と比べて周辺的」であり,③「重要な立法目的とまでは言えない」ものであるとしている。

 

この部分は(も)大いに参考になる。

 

なぜならば,司法試験の自由権規制の問題では,これまでの法律を新たな架空の法律や条例(条例の場合,上乗せ・横出し条例)をもって規制を厳しくするという類のものがしばしば出題されるところ,そのような問題では,<●●●という更なる法的規制は,●●●という従来の規制である直接的な措置と比べて周辺的[23]なものにすぎないものであるから,(大きな意義を有するものではなく,ゆえに)重要な立法目的とまでは言えない>という型が通用する場合が多いと考えられるからである。

 

あえて平たく言うならば,「ダメ押し」の規制目的は,「周辺的」な規制目的にすぎないから,大したイミがない!重要じゃない!ということだろう。

 

このように書くと論証パターンのような型を提示しているなどと言われそうだが,参考にするのは法務省が公表する出題趣旨であって,その記載を参考にするなというのは信義則違反となる行為といえるだろうから,上記のような型を答案作成の際に適宜(必要に応じて)参考にするのは悪いことではなかろう。

 

(2)手段審査のあてはめ(中間審査基準を採用する場合)に関して

 

次に,〔3-2〕は,「仮に目的が重要だとしても,」(下線は引用者,以下同じ)と前置き[24]をした上で,「妊娠等が全て定住につながるとは限らず合理性に欠けることなど」を指摘することが考えられると述べている。

 

思わず「え…,いや,あの,そっ……それだけですか?」などと口走ってしまった受験生[25]は,出題趣旨,採点実感等をかなり分析している人かもしれない。

 

というのも,「妊娠等が全て定住につながるとは限ら」ないとの記載は,平成20年実感の〔②b〕目的と手段の実質的関連性がないことについて言及しただけの記載であり,他の考慮事項の具体例については(少なくともこの第4段落では)一切書いてくれていない[26]からである。

 

とはいえ,〔3-2〕から,<仮に目的が重要だとしても,●●という事実に照らすと,当該規制手段が全て●●(という規制目的)につながるとは限らず,合理性に欠けるものであるから,実質的関連性はない>といった型を見出すことができるだろう。

 

なお,上記の型で「合理性」という用語が登場するところ,考査委員は,実質的関連性の基準のあてはめ(手段審査)であるにもかかわらず,「合理性の基準」でも用いられる「合理性」を使っており,問題があると思う受験生もいるかもしれない。

 

しかし,おそらく問題はないだろう。

 

薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日)が中間審査基準を採用したものか否かは争いがあるところではある[27]が,同判決は,手段審査のあてはめのところで,「設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは, 目的と手段の均衡を著しく失するものであって, とうていその合理性を認めることができない」(下線は引用者)としていることからすれば[28],司法試験論文でも中間審査基準の手段審査のあてはめで「合理性」という用語を使うのはOKだろう(ただし,平成30年の採点委員が平成29年の出題趣旨等をしっかり読んでいる限り,という留保をつけておく)。

 

最後に,平成20年実感②の手段審査a~eについて補足しておこう。

 

まず,b.目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無については,

上記の型で書けば良い。

 

次に,c.規制手段の相当性と,d.規制手段の実効性であるが,これらは,LRAを論じる際に,セットで書くべきものといえよう。LRAは,規制「目的を達成するため規制の程度のより少ない手段」[29]であり,c.の相当性に加えて,d.の実効性があることも前提とするものといえるからである。しばしば実効性の点を(殆ど)考えることなく答案を書く受験生がいるが,平成20年採点実感などからすれば,早く改善すべきことといえよう。

 

残ったのは,

a.厳密に定められた手段といえるか

e.等

の2つである。

 

まず,a.につき,元考査委員の文献[30]が「『厳格審査の基準』も,違憲という結論に直結した硬直した審査基準として捉えていない。『必要不可欠な公益』に仕える目的であるか否か,そして手段が目的達成のために『綿密に規定されている』(narrowly tailored)か否かを事案に即して個別的・具体的に検討しなければならない」としている。」としていることに照らすと,「厳密に定められた手段といえるか」とは厳格審査の手段審査のあてはめ(あるいはその要素)について言及したものと考えられる(これは上記(2)の小タイトルとはズレる話だが,ご容赦いただきたい)。

 

次に,e.である。出題趣旨を読む際は特に,「等」の内容についてもできる限り検討しておいた方がよいだろう。

 

「等」には,合理性の基準を採用する場合の手段審査の考慮事項(あてはめの要素)が含まれうるが,ここでは,中間審査基準の考慮事項としてさらに書きうる(と考えられる)ものを1つだけ挙げておきたい。

 

それは,手続の適正担保されていることである。

 

この考慮事項に関し,最一小決平成8年1月30日(宗教法人オウム真理教解散命令事件)は,「本件解散命令は,法81条の規定に基づき,裁判所の司法審査によって発せられたものであるから,その手続の適正も担保されている」(下線は引用者,以下同じ。)とし,「以上の諸点にかんがみれば,本件解散命令及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は,憲法20条1項に違背するものではないというべきであ」ると判示している[31]

 

このように,判例は精神的自由権の1つである信教の自由の違憲審査において(31条等の違憲審査においてではない),処分の手続の適正さが担保されていることを考慮事項の1つとしているのであるから,司法試験でも,精神的自由権では同様の考慮事項を考慮して構わないものと思われる。

 

 

5 判例の規範を活用する場合も十分な理由付けを書くこと

 

以上,(規範が緩やかと解される)判例の規範を活用しない場合について書いてきたが,このことは,判例の規範を活用する場合(自由権違憲審査の場合)も同様であると考えられるので,あと少し続ける。

 

すなわち,<①人権の重要性の程度,②制約の態度・程度(強弱),③人権につき一定の制限を課す必要があるか(その程度)に照らすと,●●●●事件とは事案の本質的部分が共通するものといえる。そこで,・・・・・・(:同事件の判例の規範)によるべきである。>などといった型で書くべきである。

 

つまり,漫然と人権・論点が一緒だからという理由で,十分な理由付けを書くことなく,判例の規範を採る旨書いてはならないということである。

 

平成30年は,設問1から(比較的厳格な)判例の規範を採って答案を書いていくような問題(平成22年の選挙権,平成26年のタイプ[32])が出る可能性が高いものと思われる。4年スパンとすれば,平成30年は丁度出題される頃だろう。

 

 

6 出題趣旨と向き合おう

 

以上,出題趣旨第3段落及び第4段落,とりわけ考査委員の示す「一例」や「例え」の部分についての感想を述べてきた。これらの感想は司法試験受験生が出題趣旨を「分析」する際に参考にしていだきたい。

 

今年,残念ながら不合格となってしまった方にとって,その年の問題の出題趣旨の分析は,辛い作業かもしれない。

私にもその経験があるから,少しは気持ちが分かる。

 

しかし,「コンプレックス」をも「モチベーション」に変えるつもりで[33],分析を進めてほしいと思う。

 

 

「腑甲斐無い自分に 銃口を突き付けろ」[34]

 

 

 

___________

[1] ちなみに,出題趣旨等でも,「求められ(てい)る」と「期待され(てい)る」という用語の使い分けがなされる。後者は加点事由に係る事項ということになるが,仮に多くの受験生が書いてくると(司法試験は相対評価であるから)実質的には基礎点的なものに関する事項というものになるだろう。

[2]  芦部信喜高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)92頁は,「問題は、いかなる人権がどの程度に外国人に保障されるのかを具体的に判断していくことである。」とする。

[3]  「一例」がある部分と,ない部分とでは,基本的には,論点の重要度が客観的に異なるものと考えるべきである。

[4] 誤解しないでほしいが,一般的に人権・自由の保障レベルの話がメインの重要な論点とされないという意味ではない。現実に,このレベルの話がメインの論点となる年は少なくない(出題趣旨や上位再現答案等に照らせば,23年,25年(教室使用の自由を23条で構成する場合),28年など)。

[5] 「人権パターン」については,前回のブログ(2017年10月9日)で簡単な説明(紹介)をした。

[6] マクリーン事件最大判昭和53年10月4日)の判示に照らしてみてもそういえるだろう。司法試験受験生は,さしあたり長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」と略す。)4頁〔愛敬浩二〕の判旨(ⅲ)部分を参照されたい。

[7] しかし,予備試験では十分出題されうるだろう。

[8] この論述順序の点について,特に実務家委員は,特段の事情のない限り(おそらくマクリーンの判示の順序がどうだとかそういった点についてのこだわりをもっていないと思われるので)「出題趣旨」記載の順序に従って論述されている答案に好印象を抱くと考えられる。

[9] 愛敬・前掲注(6)4頁。

[10] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 1 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)117頁〔宍戸常寿〕。

[11] 青柳幸一『憲法』(尚学舎,2015年)87頁参照。

[12] とはいえ,「見せ場」を作ろうとして失敗するというリスクがあることは否定できない。もっとも,司法試験論文はリスクとの戦いの連続と言っても良い。リスクを避けて答案を書くべきとき(「守り」の答案)もあれば,あえてチャレンジしてみるべきとき(「攻め」の答案)もあるだろう。

[13] 芦部・前掲(2)198頁(事前抑制の理論)参照。

[14] 芦部・前掲(2)195頁。

[15] 芦部・前掲(2)196頁。

[16] ただし,これは自由権侵害の主張の場合である。憲法25条1項違反の主張の場合,別途検討を要する。

[17] ちなみに,出題趣旨第4段落〔1〕は,要するにマクリーン事件判決の規範を外し,別の規範を立てるべきとの主張をするとよいと述べるものである。

[18] 司法試験論文憲法との関係では,他説を採用するのは止した方がよいだろう。なお,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁も,「中間審査基準における目的審査で『正当な目的』とするのは誤りである。中間審査基準では,『重要な目的』であることが求められる。」と断じている。

ちなみに,同頁が「厳格審査の基準であるのか,それとも審査基準が緩和されるのか等について,論ずる必要がある」としていることからすれば,審査基準の厳格度を「上げて」とか「下げて」とか書くよりも(このような書き方はNG),<厳格審査基準を緩和した基準によるべきであり,中間審査基準により判定する>などと書くとよいだろう。

[19] なお,平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨2頁「ユーザーにとっての利便性の向上等は,情報提供側〔引用者注:原告側のこと〕のプラス面として挙げることができる」と述べており,「プラス面」という用語を使っている。

[20] 青柳・前掲注(11)87頁参照。

[21] 司法試験では,設問1段階から,あえて「中間審査基準」で書くというのは(私は)答案政策上,良いことであると考えている。①原告(被告人)側の主張で,あえて最初に「確かに」としてマイナス面などを書いておくと,かえって自分の弱点を認識している(そしてその部分をフォローしている)点で印象が良くなる場合が多いと思われること,②その弱点(双方に弱点がある。弱点のない事案はでない)が事案の特殊性であり,出題者が気付いて欲しい部分であることが少なくないと思われること,③私見では厳格審査基準は採り難いが,(別の理由を付して・加えて)中間審査基準(同じ規範)を取れば省エネ答案となる上,設問2のあてはめが設問1のそれとかみ合ったものとなりやすくなる(あたかもかみ合っているように読まれ易くなる)ことなどがその理由である。

 なお,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁は,「『厳格な審査が求められる』と一般的な言い回しをしながら,直ちに『厳格審査の基準』あるいは『中間審査の基準』と書くことには,問題がある。合理性の基準よりも審査の厳格度が高められるものには,『厳格審査の基準』と『中間審査の基準』とがあるので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要である。」(下線は引用者)としており,この指摘にも注意を要する。

[22] ちなみに,司法試験論文の問題文の誘導(会話文)で意味が分からないと思ったときも,とりあえず次の会話等を読めばその前の文の意味が分かるときもある。とはいえ,会話文は特に重要であるから,適宜立ち止まって考えれるべきときもある。このように,司法試験論文には「人生」が凝縮されているというと言いすぎだろうか。

[23] 「周辺的」を「補充的」などと言い換えてもいいかもしれない。

[24] この前置きの記載もぜひ真似して欲しい。司法試験論文憲法の答案で重要な記載の1つであり,代理人(弁護人)としてのスピリットを感じるものといえよう。法曹適格を推認させる記載と言うとやや言いすぎかもしれないが…。

[25] 大黒摩季の「チョット」(1993年)のイントロが頭の中で流れた,これを歌い出しそうになった,又は「チョット待ってよ…」と歌ってしまった受験生についても同様である。

 なお,この選曲につき時代錯誤だと思う人は,より時代錯誤な(中世の人のような意識をもった,特に高齢の)政治屋の方々をまずは批判されたい。批判の方法はいくつかあるが,とりあえず選挙権の行使という方法を挙げることができる。

 雨が降っても投票に行こう。

[26] ただし,出題趣旨第6段落の記載からすれば,他の考慮事項のことも読み取れるように思われるが,この点については次回のブログで感想を述べる予定である。

[27] この点に関し,平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁は,薬事法違憲判決(最高裁)の「判断枠組みが『中間審査の基準』(厳格な合理性の基準)を採用した判決と解するのか,それとも事実に基づいて個別的・具体的に審査した結果,違憲という結論も導かれる『合理性の基準』を採った判決と捉えるのか検討する必要がある」と述べている。

[28] 司法試験受験生は,さしあたり百選Ⅰ206頁〔石川健治〕の判旨(ⅸ)を参照されたい。

[29] 芦部・前掲注(2)210頁。

[30] 青柳幸一「審査基準と比例原則」戸松秀典=野坂泰司『憲法訴訟の現状分析』(有斐閣,2012年)140頁。

[31] 司法試験受験生は,さしあたり百選Ⅰ90頁〔光信一宏〕の判旨(ⅱ)・(ⅲ)を参照されたい。 

[32] ただし,平成26年については議論があろう。

[33] Mr.Children「I’ll be」(同『DISCOVERY』(1999年)の7曲目)の歌詞「コンプレックスさえも いわばモチベーション」参照。

[34] Mr.Children・前掲注(33)。

 

 

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