平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の「冒頭パターン」

平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨についての感想のつづきである。

 

前回は,同出題趣旨の第1段落の感想を述べた。

   

yusuketaira.hatenablog.com

 

そこで,今回のブログでは,同出題趣旨の第2段落(及び第5段落)の感想を述べることとする。

 

〔平成29年司法試験論文憲法・出題趣旨第2段落〕

本問での主な論点は,問題文にもヒントがあるように,①妊娠・出産(以下「妊娠等」という。)を滞在の際の禁止事項とし,違反があった場合には強制出国させることが,自己決定権(憲法第13条)の侵害ではないか,②令状等なくして収容を認めることが人身の自由や適正な手続的処遇を受ける権利(根拠条文は立場によるが,憲法第13条,第31条,第33条等。)を侵害するのではないか,ということである。」(下線は引用者)

 

この①・②のうち,このブログでは,①についてだけ感想を述べる。

 

②(人身の自由や適正な手続的処遇を受ける権利)については,さすがに平成30年では連続して出ないものと予想される上,他の人権(自由権・請求権…平成30年で出題可能性の高いもの)への応用がし難いと思われる内容であるため,受験生の関心との関係でも①(の一部)に絞ってコメントした方がよいと思ったからである。

 

 

1 優秀答案に「特定のパターン」はない?

 

ところで,平成27年司法試験の採点実感等に関する意見1頁1は,「優秀な答案に特定のパターンはなく,良い意味でそれぞれに個性的である。」(下線は引用者)と言い切る。

 

しかし,旧司法試験時代から多くの司法試験合格者を出してきた司法試験受験予備校の「伊藤塾」では,従前より,憲法の人権(自由権)の問題については,「処理手続」があるものと「塾生」(伊藤塾の受講者)らに解説しており,これは多くの合格者によって支持されてきたものと思われる。

 

そして,司法試験受験業界において,この「処理手続」が「人権パターン」と呼ばれ続けてきたことは,あまりに有名な話である。

 

「人権パターン」について,伊藤真憲法[第3版]【伊藤真試験対策講座5】』(弘文堂,平成19年)94,95頁は,次のとおり述べる。

 

憲法の問題は、人権の問題と統治機構の問題とに分かれますが、人権の問題の場合には、ある人が人権を制限されて、そのような人権制限が合憲か違憲かを問う問題が出題されることが多く、この場合の人権の処理手順としては、①だれの、②どのような内容の人権が、③だれによって制約され、④その制約が許されるか、そしてそれが憲法法訴訟上問題となった場合における問題点というものを論じていくことになります。」(94頁)

「人権の問題は、(中略)一定の処理手続がありますから、通常は、この処理手続にのせて検討すれば足ります。」(95頁)

 

さて,懸命な司法試験受験生であれば,憲法の論文答案について,特定の「パターン」を意識しないで論述を展開することがいかに無謀なことであるか知っているはずである。2時間という短い時間内で憲法の答案を書き切るには,いつくかの「パターン」を活用する必要がある。

 

なお,平成21年新司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁が,憲法の論文式問題につき「判例及び学説に関する知識を単に『書き連ね』たような,観念的,定型的,『自動販売機』型の答案を求めるものではなく,『考える』ことを求めている。すなわち,判例及び学説に関する正確な理解と検討に基づいて問題を解くための精緻な判断枠組みを構築し,そして事案の内容に即した個別的・具体的な検討を求めている。」と述べているとおり,基本書の文書やキーワードをそのまま貼り付けただけのような答案が問答無用で「F」となることはもはや説明不要であろう。

 

しかし,ここでいう「定型的」な答案というのは,答案を書き易くするための特定の「パターン」・「型」を使ってはならないという意味ではない。

 

上記「人権パターン」のように,憲法答案で書く内容の「順序」のようなものは決まっているのであり,それについて事前に良く押さえなければ,安定して良い答案を書くことはできないはずである。

 

 

2 答案の「書き出し」の型 ~3要素説~

 

上記「順序」の点に関し,特に憲法の論文に苦手意識のある受験生が悩む問題として,答案の「書き出し」の内容のことが挙げられよう。

 

「人権パターン」も,答案の「書き出し」の部分について詳しく述べているわけではないことから,特に憲法の答案を書き慣れていない方は,「書き出し」部分で時間を無駄に使ってしまう,いわばスタートダッシュできずに躓いてしまうということが少なくないように思われる。

 

「書き出し」部分なんて,ノリでテキトーに書けばよいではないかと思う人こそ読んでほしいわけだが,「書き出し」部分は3つの必要事項・要素について書く必要がある。いわば「書き出し」3要素説である。

 

すなわち,平成29年出題趣旨は,「本問での主な論点」は「〔1〕妊娠・出産(中略)を滞在の際の禁止事項とし,〔2〕違反があった場合には強制出国させることが,〔3〕自己決定権(憲法第13条)の侵害ではないか」(〔1〕~〔3〕は引用者)であるとする。

 

この記載から,憲法答案の書き出し部分では,〔1〕法律・条例や処分が(本問では法律が)特定の行為を「禁止事項」としていることを指摘し,その上で,〔2〕違反があった場合に法律等に基づいて特定の「強制」的な措置をとることが,〔3〕●●権あるいは●●の自由(憲法●●条)の侵害ではないか?という問題提起が必要となる(ただし,〔3〕は違憲主張の形にして書く)。まとめると次のとおりとなる。

 

  答案の「書き出し」の型の3要素

〔1〕特定の行為に係る禁止事項

〔2〕違反があった場合の特定の強制措置

〔3〕人権(自由)名+条文ナンバー → 違憲主張(問題提起)

 

ちなみに,出題趣旨第5段落が「本問では,違憲の主張をする場合,その瑕疵は特労法そのものに求められるべきであり,問題文にも,『Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。』とされているのであるから,法令違憲を検討すべきである。仮に適用違憲に言及するとしても簡潔なものにとどめるべきであろう。」としていることからすれば,上記〔2〕の部分か,あるいは,例えば,「●●法●条●項●号の法令違憲の主張(●●条違反)」などのタイトルを付して,答案で,法令違憲の主張をしているのか,処分違憲適用違憲の主張をしているのかを明示すべきである。

 

 

3 書き出し3要素説による「冒頭パターン」

 

以上のことから,答案の書き出し3要素説の「冒頭パターン」は次のとおりとなる。

 

(1)2文パターン

 

第1 設問1

 1 ●●法●条等の法令違憲の主張(憲法●●条違反)

(1)●●法(以下「法」という。)●条●項●号[1]は,●●が●●する場合に●●する行為禁止事項としており,その違反があった場合には●●という強制措置をと(執)る(ことができる)こととしている(法●●条●項)。そこで,Xとしては,かかる措置をとることが●●権/●●の自由(憲法(以下法名略)●●条●項)を侵害すると主張する。

 (2)・・・・・・

 

 

(2)1文パターン(若干短いバージョン)

 

第1 設問1

 1 ●●法●条等の法令違憲の主張(憲法●●条違反)

(1)●●法(以下「法」)●条●項●号は,●●が●●する行為禁止事項としており,違反があった場合には●●という強制措置をと(執)る(とりうる)としている(法●●条●項)ことから,Xとしては,同措置が●●権/●●の自由(憲法(以下法名略)●●条●項)を侵害すると主張する。

 (2)・・・・・・

 

 

4 「冒頭パターン」と考査委員・元考査委員の見解との関係

 

ところで,平成28年司法試験の採点実感等に関する意見1頁は,「本問では,架空の性犯罪継続監視法が〔A〕いかなる憲法上の人権を〔B〕どのような形で制約することになるのかを正確に読み取り,被侵害利益を特定して,その重要性や規制の程度等を論じて違憲審査基準を定立し,問題文中の事実に即して適用するなどして結論を導かねばならない。」(下線,〔A〕及び〔B〕は引用者)とする。

 

とすると,先に「憲法上の人権」と憲法の条文(条項)をもっと先に書く必要があり,上記の冒頭パターンには問題があるのでは?…とも思えてしまうかもしれない。

 

しかし,元考査委員の青柳幸一教授が考査委員であった年に書いた青柳幸一「審査基準と比例原則」戸松秀典=野坂泰司編『憲法訴訟の現状分析』(有斐閣平成24年)138頁(次の枠内,下線は引用者)によると問題はないものと思われるし,上記平成28年の採点実感等が以下の青柳教授の見解を修正しているものとは考えられないだろう。

 

「日本で検討すべきは,アメリカ型かドイツ型かという二者択一的思考ではなく,両者のそれぞれの長所を活かす合憲性審査の方法であると思われる。

まず,ジャーゴン[2]で彩ることなく,人権問題を素朴に発見することから始まる。つまり,「どのような行為が,何(例えば・法律)によって,どのような目的・理由で,どのように制約されているのか」という,問題の発見である。次に,「どのような行為」に関して,当該行為が憲法上保障されているか否かを,条文に則して検討する。

 

この文献の内容に関し,平成26年司法試験の採点実感等に関する意見1頁は,「本年の問題においても,事案を正確に読んでいるか,憲法上の問題を的確に発見しているか,その上で,関係する条文判例憲法上の基本的な理論を正確に理解しているか,さらに,実務家として必要とされる法的思考及び法的論述ができているかということに重点を置いて採点した。」(下線は引用者)としており,「発見」というワードが共通することなどから,同採点実感は,おそらく上記文献を前提に書いたものであると考えられる。

 

同文献のうち,「どのような目的・理由で」などの部分は,上記「冒頭パターン」部分ではなく,基本的には,その先の審査基準(判断枠組み)の選定の理由付けで書くべき部分と思われるが,いずれにせよ,憲法の条文・条項(上記2の3要素の〔3〕の段階のもの)を書く前に,上記2の3要素の〔1〕と〔2〕の話(問題の「発見」の話)を書いておく必要があるということである。

 

 

5 「冒頭パターン」から「人権パターン」へ

 

司法試験論文憲法では,以上の「冒頭パターン」を活用し,第1の1(2)以下で,「人権パターン」の流れに乗った答案を書けば,スムーズに答案を書くことができる(答案構成もし易くなる)だろう。

 

「人権パターン」については,様々な議論があるが,これについては次回言及したい。

 

本ブログが受験生の皆様にとって少しでも合格への「希望」[3]につながるものとなれば幸いである。

 

_________

[1] 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(以下「実感」と略す。)3頁は,「条例第4条の第1号ないし第3号,あるいは第3号のイ及びロにつき,それぞれを適宜区別しながら審査しているものが見られた点は評価できる一方で,特に第3号のイ及びロについて,全てまとめて一つの審査をしているものがあり,気になった。」としている。そこで,法令違憲の主張をする際には,項数や号数等(複数ある場合は複数)まで特定すべきであろう。また,このことは処分違憲の主張の場合であっても同様であるように思われる。

ちなみに,行政法の答案で号数等までしっかり書くべきことは,次のとおり,もはや受験生の間では殆ど常識となっているように思われる。

・「条文の引用が正確にされているか否かも採点に当たって考慮することとした。」(平成20年実感5頁)

・「条文を条・項・号まで的確に挙げているか,すなわち法文を踏まえているか否かも,評価に当たって考慮した。」(平成21年実感5頁)

・「関係法令の規定に言及する場面で,単純な文理解釈を誤っている答案や,条文の引用が不正確な答案(項・号の記載に誤りがあるなど)が少なくなかった。また,関係しそうな条文を,よく考えずに単に羅列しただけの答案も散見された。このような答案は,条文解釈の姿勢を疑わせることになる。」(平成25年実感6頁)

 

[2] 「ジャーゴン」(jargon)とは「特定グループの内だけで通じる用語。業界用語。」(新村出編『広辞苑 第六版』(岩波書店,2008年)1292頁)のことを意味する。

なお,近時,某知事が,記者会見において,横文字(アウフヘーベン)の意味・内容に関する質問を受けた際に,その内容は「辞書で調べて」などと回答したことがあるが,説明責任を十分に果たしていないものと思われる。住民・国民の知る権利を尊重した態度ではないように思われるが,そのような態度に「希望」を見出す住民等が一定数存在することから,筆者としては法教育の重要性を日々実感している次第である。

 

[3] 「希望」に関する桜井和寿Mr.Children)の曲として,「名もなき詩」(1996年,アルバム『深海』(同年)7曲目),「くるみ」(2004年,アルバム『シフクノオト』(同年)の4曲目),「かぞえうた」(2011年,アルバム『(an imitation)blood orange』(2012年)の7曲目)などがある。それぞれ「希望」が見えないときに司法試験受験生に聴いて欲しい一曲であり,前二曲は,現に受験生時代の私が「希望」を見出すきっかけとなったものである。

 

 

 *このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。