平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

令和元年(平成31年・2019年)司法試験論文憲法(論文式試験公法系科目第1問)解説速報(1)

令和元年(平成31年・2019年)司法試験論文憲法論文式試験公法系科目第1問)の解説速報であるが,本年,本試験を受けている(まさに真っ最中の)受験生は基本的には読むべきではなかろう。

以下,一定の空白スペースがあるが,その後に若干の解説文があるため十分に注意されたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令和元年(平成31年・2019年)司法試験論文憲法論文式試験公法系科目第1問)は、フェイクニュース規制法という架空法律の案(法案)の合憲性が問われた。憲法31条も一応問題にはなるようだが,基本的には“21条祭り”であったといえよう。

 

 

1 元ネタはドイツのSNS対策法か

2017(平成29年)6月30日,ドイツ連邦議会において,「SNSにおける法執行を改善するための法律」,通称「フェイスブック法」が成立したことから,この議論が日本にも妥当しないかを問うものと思われる。また,暗に,憲法改正に関する国民投票法に虚偽報道規制がないこと(公職選挙法にはある)[1]などを念頭においた出題ということなのかもしれない。なお,20XX年の「甲県の化学工場の爆発事故」(問題文2頁第2段落)は福島県福島第一原発のいわゆる水素爆発事故を想起させるものといえよう。

 

関連する主要な論文としては,例えば,鈴木秀美「ドイツのSNS対策法と表現の自由」メディア・コミュニケーション68号(2018年(平成30年))1~12頁(慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要)がある[2]。なお,同じ慶應義塾大学の小山剛教授(平成31年(令和元年)司法試験考査委員)がこの論文を読んだ可能性があり,試験問題を作成する時期(おそらく2018年秋頃か)に照らすと,ドイツ憲法に精通する小山先生が問題の下地ないし叩き台を作った可能性が高そうである。

 

2 「設問」(問題文3頁)の分析

(1)中立意見型の設問(平成30年を踏襲)

「A省から依頼を受けて,法律家として」必要に応じて「参考とすべき判例」や「反論」を踏まえつつ「あなた自身の意見」(私見)を述べよという設問であることから(第1~第3段落),中立意見型(リーガル・オピニオン型,法律意見型,法律オピニオン型等とも呼ばれる)の問題であり,平成30年司法試験論文憲法の出題形式が基本的には踏襲されたと評価できる。なお,20XX年においても日本に総務省が残っている限り,「A省」というのは「総務省」になるのかもしれない。

 

★20190516加筆 「中立意見型」の呼称については、次の過去のブログをご覧ください。  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

(2)法令違憲のみ(平成30年を踏襲)

「立法措置」(第1段落)の合憲性を論ぜよということであるから,法令違憲のみ書けば足り,適用違憲・処分違憲は書く必要がない(前年と同じ)。

 

(3)若干の新傾向

判例の立場に問題があると考える場合」にはそのことについても「論じるように」とされており(第2段落),要するに殆ど“誘導”であるため,これに素直に従い,1つくらいは参考とすべき判例の問題点を指摘し,それに対する批判を書く必要はあっただろう。ただし,2つも3つも書いている時間的な余裕はないと思われる。

 

以上のような誘導文は,少なくとも平成30年では明記されていなかったものであり,これまでは,どちらかというと最高裁判例を真っ向から批判するというよりは,判例との差異があることを指摘し,その上で,判例をうまく活用していくという答案を書くことが基本的には求められていたようにも思われるが,今後はより深い判例学習をしてほしいという考査委員からのメッセージが読み取れるだろう。

 

(4)「論じなくてよい」論点

独立行政委員会制度の合憲性については「論じなくてよい」(第4段落)ということであるから,この論点については,司法試験的には論じてはならないということになる。

 

3 答案構成の骨子・大枠(参考判例や反論を含む)

答案構成の骨子・大枠については,まず,立法措置①と立法措置②とで大別すべきであり,立法措置①については,文面審査(下記第1の1)と実体審査(下記第1の2)を分ける必要があると思われる。

 

また,立法措置②については,「設問」の上の3行の記載(つまり,(A)「SNS利用者を含む一般市民」や(B)「SNS事業者」から意見聴取が行われ,憲法上の疑義を指摘する意見もあったとの記載)を重視して,(A)と(B)を分けて書くのがよいだろう。ちなみに,(A)については,SNS利用者の自由・人権のほかSNS利用して情報を受領する者の自由・人権の制約も問題となると考えられる。(ただし,文面審査すなわち明確性の論点(漠然性のゆえに無効(不明確性),過度の広汎性のゆえに無効(過度広汎性))については,(A)・(B)共通して問題になることから,先に書いてしまうのがよかろう。)

 

 なお,以下の各参考判例は,最三小決平成29年1月31日を除き,すべて憲法判例百選(第6版)Ⅰ・Ⅱに収載されたものである(ただし,この平成29年判例もメディア判例百選(第2版)には収載されている)。

 

 第1 立法措置①の合憲性

 1 法案2条1号の明確性(21条1項,31条)

(1)漠然性のゆえに無効

   ・徳島市公安条例事件

(2)過度の広汎性のゆえに無効

   ・広島市暴走族追放条例事件

※法案6条の「流布」等の明確性については受験政策上,問題にしない方が良いと思われる。

 

 2 一般市民SNS利用者)らSNS事業者表現の自由(21条1項)

 ・法案6条の「虚偽であることを知りながら」につき,真実であると誤信したことにつき,確実な資料や根拠があり,相当の理由があるときなども処罰されるように読めるため,21条1項に違反しないかが問題となる。

 ★20190522加筆修正 同条の読み方に誤解があったことが分かったため,上記取り消し線部分を削除することとする。なお、問題文3頁の「設問」の上の3行の記述からすると、第1の2では、「SNS利用者」の「虚偽表現」の自由の侵害がメインの人権問題となるだろうが、SNS事業者の虚偽表現に係る情報を流通させることの制約や、SNSではない媒体で表現を行う者の自由も問題とすることもできる(あるいはそれらについても書きべき)と思われる。法案2条1号自体は、SNS利用者の表現行為だけを問題にするものではないので、やや上記の3行の記述や問題文2頁の立法事実に係る記載に引っ張られすぎという批判はあろう。

 ・夕刊和歌山事件

  (・月刊ペン事件

      ★20190520加筆  平和神軍観察会事件(最判平成22年3月15日・判例ラクティス憲法〔増補版〕157頁・115事件〔曽我部真裕〕)を想起できなくても十分な解答はできたように思われるが、同判例を知っていると多少有利だったかもしれない(本試験分析をする際に,受験生は同頁の「解説」も読むと良いだろう)。同判例の解説者は司法試験考査委員の曽我部先生である。同判例は,憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ[第6版]には収載されていないため,百選ではなく,判プラを使って勉強していた受験生の方が基本的には有利だったといえるだろう(なお,それが良いことか悪いことかについては,ここで特にコメントしない)。

 ・反論★20190522加筆修正 合憲の立場からの主張:合憲限定解釈可能

 ・反論に対する私見からの批判(再反論:合憲限定解釈不可能、違憲

 ★20190522加筆修正 この合憲限定解釈の可否の論点は,第1の1(1)で書いた方が良いと思われる。

 

3 一般市民らの知る自由(21条1項)

  ※サブ論点(おそらくここはメインではない。上記2で触れれば不要でも良いかも。)

★20190522削除 第1の3(一般市民のSNSでの表現(虚偽表現)を閲読する・知る自由)は、第1の2の違憲審査基準の定立の理由付けのところなどで書けば足りるのではないかと考える。

 

第2 立法措置②の合憲性

 1 法案の明確性(21条1項,31条)

  ・法案2条1号の明確性については,第1の1と同じ

  (・法案9条1項「速やかに」は漠然性のゆえに無効か(「24時間」などとすべき)

  ・徳島市公安条例事件 …下記2の実体審査のところで実質的に触れれば足りるかもしれない)

 

 2 一般市民の自由

(1)SNS利用者の選挙運動の自由(21条1項)

   ・個別訪問事件

   ・判例に問題がある…そもそも判例(個別訪問事件)と事案類型が異なるのでより厳格な基準(中間審査基準)によるべきであるが,事案類型が異ならないとしても,判例が選挙に関する事項につき全般的に広い裁量を認めているとすれば問題がある

   

(2)SNS利用者の知る自由(21条1項)

    ※サブ論点(前記と同様だが,おそらくここはメインではない)

 ★20190526削除 第2の2(2)は、第2の3のところで書けば足りるだろう。

★20190516加筆 なお,SNS事業者への賠償責任への制限(免除)規定(法案13条)が賠償請求をなし得る(はずの)者の財産権(憲法29条1項)を侵害しないかも一応論点として書くこともできるかもしれない。しかし,この点は配点は低いか殆どないのではないかと思われる。ちなみに,消費者契約法解除に伴う損害賠償額等を制限する消費者契約法の規定につき,これが憲法29条に違反しない(合憲)とした判例がある(最二小判平成18年11月2日(憲法判例百選第6版に収載されている判例ではない))。

 

 SNS事業者の自由等

(1)法案9条1項等の合憲性(憲法21条1項に違反するか)

   ・博多駅事件…ネット上で情報を流通させる自由(←事実の報道の自由)も21条1項で保障される

   ・最三小決平成29年1月31日…本決定とは事案が異なる。法案9条1項各号の要件を満たした場合でも(苦情件数要件もなく,また)例外なく(削除期間の延長等)削除しなければならないとする点(同項柱書)は違憲,罰則による強制まで行う点(法案26条)も違憲

(2)法案9条2項・20条の合憲性(憲法31条に違反するか)

 ・成田新法事件

  ・合憲

 

4 続きは次回

ということで,もしかしたら昨年と同じくらいか、昨年以上に多論点型の問題であったと思われる。

 

判例と問題文の事案類型の違いや,私見のあてはめなどにつき,殆ど解説できなかったが,ひとまず今日はこのあたりで。

 

 

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[1] 国民投票法(あるいは関連立法)における規制を国が検討している可能性もある(仮にそうであるとすると問題がある)ように思われる。

[2] 本論文を引用した論文として,成原慧「フェイクニュース憲法問題―表現の自由と民主主義を問い直す」法学セミナー772号(2019年)18~22頁(20頁),工藤郁子「AIと選挙制度」山本龍彦編著『AIと憲法』(日本経済新聞出版社,2018年)325~348頁(340頁)。

 昨年,工藤郁子先生から『AIと憲法』をご恵贈いただいた。改めて厚く御礼を申し上げる次第である。AIの問題が正面から司法試験論文憲法で問われる日もそう遠くないだろう。