平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

令和2年司法試験論文行政法の感想(4) 設問2の答案例

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。
それ以外の皆様は、よろしければ、ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京は後戻りしない

 老いてく者を置き去りにして

 目一杯 手一杯の

 目新しいモノを抱え込んでく」[1]

 

 

 

 出題傾向の変化が確定した。

 相当数の考査委員(研究者委員)の入れ替えもその一要因かもしれない。

  

 今後は,新しい出題傾向への対応が合否を分けることになるだろう。

 

 

  

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前回の続きである。

 

本日は,令和2年司法試験論文行政法の設問2の答案例を掲載する。

(今回のブログをもって令和2年司法試験論文行政法の答案例(速報版)の掲載は一応終了となる。)

 

参考になれば幸いである。

 

 

 

全体的な感想・印象

(前々々回のブログ記載のとおり) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第1 設問1(1)

(前々回のブログ記載のとおり)  

yusuketaira.hatenablog.com

 

第2 設問1(2)

(前回のブログ記載のとおり) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第3 設問2

1 農振法10条3項2号に掲げる土地(同法13条2項5号)に該当しないとの違法事由

(1) 「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)といえるためには,同法10条3項2号委任する同法施行規則4条の3所定の要件を満たす必要がある。そのため,諸般の客観的な事情からみて[2],「除外」(同法13条2項5号)に係る土地が土地改良事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)に当たる場合には,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらない。

 

(2) Xによると,①本件事業の主たる目的は,農地の冠水防止にあり,また,②本件事業によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくく,特に本件農地は高台にあるため,客観的に,本件事業によって生産性が向上することは考えられない。そして,これら①・②の事情が同法施行規則4条の3第1号括弧書き所定の各事項[3]に該当しうるものであることにも照らすと,本件農地は,本件事業の「施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」に当たるものといえる。

 

(3) したがって,本件農地は,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらないから,本件農地については同号の要件を充足する。にもかかわらず,同号の要件を満たさないとするB市による同号に係る要件の認定は,同号に違反し違法である[4]

 

2 農振法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されない旨の違法事由

(1) 次に,本件農地が同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)は当たるものとされるとしても,同法施行令9条所定の期間制限が本件農地にも一律に適用されることは違法である旨の主張が考えられる。

 この点に関し,土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している農振法13条2項5号等の趣旨・目的は,(ⅰ)同事業によって農業の生産性の向上(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き参照)を図りつつ,他方で,(ⅱ)転用行為に係る利益すなわち「農用地以外の用途に供する」(同法13条2項柱書き)ことないし「他の利用」(同法2条)に係る土地所有者等の利益との合理的調整を図る点にあるものと解される[5]。そして,同法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されると解することはかかる趣旨・目的に反し,施行令9条自体が違法無効となると考える。ゆえに,施行令9条自体が適法有効であると認められるには,期間制限が一律に適用されない例外を認めるという限定解釈を施すべきである[6]

 具体的には,(ⅰ´)実質的にみて,特定の農地を農用地区域外から除外しても農業の生産性の向上の点で具体的な支障がなく,かつ(ⅱ´)転用行為に関し著しい不利益を与える場合には,農振法施行令9条所定の期間制限は適用されないものと考える。

 

(2) 本問について検討すると,(ⅰ´)確かに,本件事業全体の工事が完成したのは平成30年12月であるから,本件農地については「8年」(同法施行令9条)を経過していないことになる。しかし,本件農地と関連する上流部分については,10年以上前の平成20年末頃には用排水施設の補修・改修の工事が終了しており,事業全体の工事の完了が平成30年となった理由は,事業の計画変更によって工事が中断されたからである。そうすると,実質的にみて,本件農地を除外しても本件事業による農業の生産性の向上の点で具体的な支障はない。

 また,(ⅱ´)本件農地の転用が認められないとXの長男の医院を本件農地上に開設できず,平成30年度の翌年度から8年の経過が必要とされると,事実上B市の地域に同医院を開設することを事実上断念させることとなりかねないことから,Xらに著しい経済的不利益を与える場合といえる。

 

(3) よって,同法施行令9条所定の期間制限は本件農地には適用されないから,同期間制限が適用されるとするB市による同条の要件認定(解釈適用)は,同条・同法13条2項5号に違反し違法である。

 なお,上記(1) (ⅰ´)(ⅱ´)の判断につき,仮にB市長に行政裁量要件裁量)が認められるとしても,上記(2)の事実関係に関し,重大な事実誤認あるいは考慮不尽が認められるというべきである[7]。よって,裁量権の逸脱濫用(行訴法30条参照)の違法があるから,同法施行令9条・同法13条2項5号の解釈適用に係る違法事由があるといえる。

                                                                         以上

  

 

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[1] Mr.Children「東京」『SUPERMARKET FANTASY』(2008年)。

[2] 一応規範のキーワードめいたものを書くことを試みたが,第3の1の違法事由については,条文→趣旨→規範→あてはめのスタイルで書かなくても,(本答案例のように)条文→あてはめで書くだけでも十分合格することができるレベルの答案となるだろう。

[3] 「主として農用地の災害を防止することを目的とするもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き),「農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同)のことを指す記載である。

[4] 本答案例第3の1の部分は,「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)の要件(の該当性)や,土地改良「事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)の要件(の該当性)については,行政裁量(要件裁量)が否定されるものと解することを大前提とするものである。要件裁量の認否も(半ば無理やり)論点にすることもできるかもしれないが,書くべき優先順位は相当低い論点であるし,また,本試験でこのことまで書いている時間的余裕はないだろう。

[5] (Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の合理的調整いわば2項対立の調整)をいう視点は,令和2年司法試験予備試験論文行政法や,令和3年司法試験論文行政法で出題される個別法の制度や特定の条文等の趣旨や目的を解釈する(答案に示す)ために有用であると考えられる。ちなみに,(Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の各キーワードないし具体的記述については,本答案例のように,個別法の関係条文を参考に書いていくと良いだろう。

[6] 旧監獄法施行規則事件(最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁)の1審(東京地判昭和61年9月25日民集45巻6号1069頁)・2審(東京高判昭和62年11月25日民集45巻6号1089頁)は,法規命令の限定解釈によって法規命令自体は適法有効であると解釈していた(岡崎勝彦「判批」(最三小判平成3年7月9日解説)小早川光郎=宇賀克也=交告尚史編『行政判例百選Ⅰ〔第5版〕』(有斐閣,2006年)98~99頁(99頁)・48事件参照)。なお,これは,憲法学における合憲限定解釈に似ているものといえよう。

[7] この裁量の点は配点が大きくないと考えられるため簡潔に書いた。