平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(1)
既にツイッターでも述べたが,平成29年司法試験論文式試験公法系科目第1問(憲法)の予想(本命[1])につき,私は,新聞等の紙媒体のメディアへの助成の事案で,処分違憲の主張をさせる問題が出ると考える。
その根拠は,次の4点にある。
(1)周期的に21条1項が出やすい年度である
(2)日本の郵便法22条の第三種郵便制度と同様に,あるいはより手厚いメディアへの助成(援助)に関する法制度が海外にはあり,情報法(21条1項等)ご専門の考査委員(研究者)の先生が同種のフランスの制度について研究されたことがある(と思われる)
(3)この他の考査委員(研究者)の先生のうち1名は昨年問題案を作られたと予想され,今年は問題案を作る委員にはならないと予想する
(4)もう1名の考査委員(研究者)は,25条等,社会権を特に研究されている先生であるが,今年は,25条は周期的におそらく出ないであろうことなどにある。
ここで,いきなりの弱気発言を展開すると,(3)の点も心配ではあるが,より心配なのは(4)の点である。
おそらくだが,採点委員からカウントすると(4)の先生は3年目であり,作問委員としては2年目であるため,そろそろ問題案を作る(問題案が憲法の考査委員らによって採用される)委員になるのではないかとの予想もありえ,一時25条が本命と考えた。平成22年に生存権が出ているため,そろそろというのもある。特に生存権(その中でも制度後退型の事案)は,本当に危ないと思う。
しかし,25条は社会権であり,自由権(精神的自由権)ではない。この点に関し,平成28年は,13条後段(包括的基本権)と22条1項という精神的自由そのものからの出題ではなかった。22条1項の居住・移転の自由に精神的自由の要素があるとしても,例えば芦部先生のテキスト[2]では,経済的自由権として紹介されている。
統計的に,精神的自由権が連続で出るということはあっても,2年間連続で出ないということは,これまでなかった。そのため,平成29年は,社会権は出題されず,精神的自由権が出るということにある。
とすると,(3)の先生の思想・良心の自由(いわゆる君が代事件を活用する問題)も危ないわけだが,(もちろん制度上は問題ないが)おそらく今年は(3)の先生の問題が叩き台になるということはないのではないかと予想する。
よって,半ば消去法的であるが[3],(2)の先生(平成27年も考査(作問)委員)が問題案を作られるのではと予想する。
さて,話を本論に戻すが,予想される問題文の概要は,こうである。
202×年,ネット新聞・雑誌等のネットメディアが発展し続け,紙媒体の新聞,特に地方新聞といったメディアの広告収入が減り続け,経営し続けることを断念する社も多く出てきたという導入から問題文が始まる。
政府(又は地方政府)は,特に地方新聞の社の倒産が相次ぐと情報の質の多元性を確保できず,これは国民の知る権利との関係で問題であり,また地方自治の本旨との関係でも問題があるとして,「政治,経済,文化その他公共的な事項を報道し,又は論議することを目的とする」地方新聞社であるなど,一定の要件を満たした場合,地方新聞の社等に助成金を付与する(申請に対する処分の法形式をとる)という法律(地方政府の場合,条例)を作る。
X社は,この法律(又は条例)によって自社も助成金の給付を受けたいと考え,その申請をし,月数万円の給付金の交付を受けることとなった。
しかし,その後,政府の政策に反対し,特定の政党ないし見解を支持するような記事を載せる割合が増えたことや,広告欄を多く掲載したことなどをきっかけとして,処分庁より,助成金の給付の撤回(行政法学における撤回である)がなされてしまう。
X社としては,給付処分の撤回処分が違憲であると主張し,取消訴訟を提起する。政府(Y)としては助成の原資は税金であることから裁量がある旨主張し,撤回は合憲であると反論している。
そして,平成28年と同じ設問の形式での出題がなされ,資料として,上記助成についての架空の個別法(又は個別条例)が掲載されることになる。
設問には,次のとおりの限定があるものと予想する。
(あ)結社の自由については論じる必要はない。
(い)(条例の場合)法律と条例の関係(条例の法律適合性)については論じる必要がない。
このうち,どちらも思い切った予想と自分でも思うが,短答式試験対策のためにも勉強しておくことが重要である。
なお,冒頭で述べたとおり,周期的に,今年は,法令違憲ではなく,処分違憲が出ると予想する。おそらく処分違憲だけの年となるだろう。
ちなみに,以下,現行法の類似の(といっても金員を給付するものではないが)制度を紹介する。下記の第三種郵便物制度(郵便法22条,郵便代が割り引かれるもの)であり,従前は,処分庁(郵政事業庁長官等)が「認可」する方式を採っていたものである。
第22条 (第三種郵便物) 第三種郵便物の承認のあることを表す文字を掲げた定期刊行物を内容とする郵便物で開封とし、郵便約款の定めるところにより差し出されるものは、第三種郵便物とする。 2 第三種郵便物とすべき定期刊行物は、会社の承認のあるものに限る。 3 会社は、次の条件を具備する定期刊行物につき前項の承認をする。 一 毎年一回以上の回数で総務省令で定める回数以上、号を追つて定期に発行するものであること。 二 掲載事項の性質上発行の終期を予定し得ないものであること。 三 政治、経済、文化その他公共的な事項を報道し、又は論議することを目的とし、あまねく発売されるものであること。 4~5 (略) ※下線は筆者 |
このように,予想されるテーマは,表現の自由への政府の援助・助成である。
この点,青柳幸一元司法試験考査委員のテキスト[4]では,「表現の自由と援助者としての政府」の項目で次の説明がなされている。
伝統的に,国家は表現を規制する存在と捉えられてきた(規制者としての政府)。しかし,国家と自由の関係は,表現の自由も含めて,一面的ではない。自由を現実的に保障するためには,国家が必要でもある。近時,「規制者としての政府」だけではなく,「援助者としての政府」という文脈での問題が,日本でも論じられている。 国家に対して表現活動に対する援助を請求する権利を憲法から直接導き出すことはできない。ただし,援助を提供することが決定された場合には,近代国家における基本原理であり,そして思想の自由,表現の自由を保障する憲法上の原則でもある,思想や表現に対する「国家の中立性」が求められる。したがって,公立美術館が美術作品を,公立図書館が図書類を購入し収蔵した場合には,その管理に関して内容中立的な運用が求められる。 ※下線は筆者 |
そして,上記の「国家の中立性」,「内容中立的な運用が求められる」ことに関し,小山剛教授のテキスト[5]によると,「国家の中立義務とはドイツの郵便新開業務決定(BVerfGE80,124)で展開された要請である」とされている。
このことから,青柳元委員は,ドイツの連邦憲法裁判所での判示を日本にも導入すべきと考えたのかもしれない。
さらに,「表現の自由と援助者としての政府」の項目において,富山県立近代美術官事件(天皇コラージュ事件),船橋市立図書館図書廃棄事件が青柳元委員のテキスト[6]で紹介されている。
両方とも,憲法判例百選[第6版]で解説されている重要判例である(Ⅰ・74番,Ⅱ・167番)。これらの判例・裁判例の要点の記憶は,短答式試験対策としても有用であるが,上記のような予想問題が出るのでれば論文式試験対策としても合格の鍵を握るものとなるだろう。
ここで問題なのは,上記各判例・裁判例(や上記憲法学上の学説・理論)を答案にどのように活用するかであるが,長くなったので,また明日以降に。[7]
[1] 「本命」も何も,予想は1つでなければならないというご批判もあろうかと思われるため,このブログでは,予想を1つに絞っている。
[2] 芦部信喜(著),高橋和之(補訂)『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)230頁。
[3] この点に関し,稲葉浩志(作詞),B’z『love me, I love you』(1995年)は,「消去法でイケることもある」とする。短答式試験でもこの発想が重要。
[5] 小山剛『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)204頁。
[6] 青柳・前掲注(4)187~188頁。
[7] ただし,確約はできない。
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