平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

弁護士会の総会運営と手続的正義について

 

 

「『自由の歴史は大部分手続的保障の歴史であった』と考える立場は、人権保障にとってきわめて重要な視点であることを看過してはならない。」*1

 

 

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明日(2020年3月2日)、東京弁護士会の臨時総会開催される予定とのことだが、感染症の予防上の措置が十分にとられているのか、取られていないとすると総会手続の瑕疵が生じると考えられることから、以下、簡単なメモを残すこととする。

 

 

202022716:12 日本経済新聞

「新型コロナウィルス 閉鎖空間で短時間浮遊の可能性」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56122330X20C20A2CC1000/

 

新型ウイルスは、せきやくしゃみでウイルスが直接口などに入る飛沫感染、せきなどで飛び散ったウイルスが手などを介して体内に入る接触感染が起きるとされていた」(同記事)が、「マスクや手袋をしていた医療関係者や検疫官らの感染も相次いでいる」(同記事)ことが指摘されている。

 

この点に関し、「日本感染症学会の舘田一博理事長によると、せきなどで生じる飛沫は水分を多く含み浮遊しないが、会話で生じるつばがウイルスを含んで飛び、ごく短時間空気中に浮遊している可能性があるという。飛沫よりも水分が少なく小さいため通常のマスクでは防げない。」(同記事)ということのようである。

 

 

ところで、このような事実も考慮しての判断をする自治体もあると思われるが、現在、多くの小学校・中学校・高校では、臨時休業を決めている。

 

学校保険安全法20条は「学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。」と規定しているところ、子どもには比較的感染しにくい、あるいは感染しても重篤化しにくいと言われているにもかかわらず、法令上「感染症の予防上必要があるとき」に当たると判断しているところも少なくないようである。

 

 

他方で、東京弁護士会の臨時総会の対応については、例えば、以下のような対応(あ)~(お)が考えられる。ただし、この5つは必要な対応ではあるが、これらすべてを実施したからといって決して十分な対応とはいえないと考えられる。

 

(あ)当日、熱のある方や風邪気味の方の出席はご遠慮いただく

(い)会場への入口などにアルコール消毒液を置く

(う)マスクを少なくとも参加者分は用意・提供する

(え)総会運営に関し、発言者用のマイクを離れた場所(例えば前方の両端等)に設置し、そのマイク周辺には席を設けず、発言があるごとにマイクをアルコール消毒するという対策を行う

(お)空調をよくきかせる

 

 

しかし、明日、4号議案(死刑廃止関連議案)まで当初の予定どおり扱うとなると、審議時間(裁決までの時間)が相当長時間になることが予想されるため(2~3時間、あるいはそれ以上か)、少なくとも以下の26の事項を指摘することができるだろう。他にもある(漏れはある)とは思うが、とりあえず書き出してみたい。

 

 

(A)会場に入場する人の体温を図ることを強制できない(実は熱があったりするのに来てしまう方もいる可能性)こと

(B)長い時間(少なくとも4~5時間でしょうか)会場(クレオ)にとどまること

(C)アルコール消毒を入口で強制する措置が取られないだろうこと(その措置を取るとの事前のアナウンスはない)こと

(D)マスクは通常のものであって医療従事者がするようなマスクではないと考えられる(医療従事者がするようなマスクであるとの事前のアナウンスはない)こと

(E)マスク着用義務を果たしていない者(正しく付けていない者を含む)に対する対応が取られない可能性があること(その措置を取るとの事前のアナウンスはない)こと

(F)会場内でも会話が多少はなされる可能性があるにもかかわらず、2メートル間隔をとって座る準備ができていない(そのアナウンスはない)こと

(G)アルコール消毒をする担当の東弁職員あるいは東弁会員(弁護士)への感染リスクは考慮できていない(その対策は不十分である)こと

(H)アルコール消毒をする時間などがあるため、運営がいつもよりも長くかかってしまうこと(それだけ長時間拘束される)

(I)空調をよくきかせたことがかえってアダとなる可能性(エアコン・空調機器の風が強いと感染リスクが上がる可能性)

(J)風邪気味の方が仮に全員欠席しても、症状のない方も感染している可能性があること(特に若者には症状が出にくいこと)

(K)首相の2020年2月29日18時からの記者会見でも明らかになったとおり、全国的に検査が十分に受けられていない状況があること

(L)十分に検査を受けられない状況であるため、実は感染しているのに(間違って)会場に来る方もいること

(M)検査を十分受けられない状況にもかかわらず、インフルエンザなどに比べると、重篤化した場合、死に至るまでの時間が速いとの報道もあること

(N)新しいウィルスなので未知の問題がなおあること(重篤化の速度、陽性→陰性→陽性となることなど)

(O)政府のいう、ここ1~2週間が勝負、のその期間内(というか、1~2週間と言いだした24日あたりからカウントすると、そのど真ん中の日)での開催であること

(P)公的団体・公益団体である弁護士会としては、職員・会員の生命健康への配慮はもちろん、ウィルスの感染拡大をできる限り防止するという社会的責任を果たすべきであるにもかからず、その責任を果たす総会運営となっているか疑問が残ること

(Q)(P)に関し、現時点で日本を入国制限する国が複数あることから、感染拡大防止の社会的要請は極めて高いこと

(R)2020年3月1日の京都コングレス関係の公開シンポジウムが中止となっており、京都コングレスとの関連性に配慮する必要性が低減したこと

(S)京都コングレス本体の中止や延期あるいは縮小開催の可能性は否定できないこと(ゆえに(R)と同じ事情あり)

(T)WHOが2月29日に世界的危険度を最高レベルのものに引き上げたこと

(U)上記の各事項に照らすと、当初は出席予定であって方も、欠席となる可能性もあり、そうなると手続的な不当性が指摘されうること、現実に欠席を表明した会員が出ていること

(V)(U)に照らし、手続的な不当にとどまらず手続的に違法となった場合には、事後に総会決議無効確認訴訟がなされた場合、決議が無効となる可能性も否定できないこと

(W)年齢的に基礎疾患のある年代の先生方も例年多く出席されており、小学校などよりリスクが極めて高いこと(他方で小学校は臨時休業の所が多い)

(X)基礎疾患のある会員も、殆どの会員は、公共交通機関あるいはタクシーなどを利用しなければ総会の会場に来られないが、特に電車が混む帰宅時(総会終了予定時刻の夕方)に感染リスクが(さらに)高まること

(Y)他会(一弁、二弁等)が総会をやっているから、というのは上記各事項からすると合理的な理由にならないこと

(Z)東京弁護士会は、2015年7月16日、安保関連法案の「強行採決」に抗議する旨の会長声明(伊藤茂明会長)を出しているが、明日、4号議案を上程・可決した場合、(A)~(Y)の各事項に照らすと、同議案の「強行採決」をしたとの批判をされかねないこととなり、自己矛盾した公的団体であると内外から言われかねず、ひいては対外的及び内部の会員や職員からの信用・信頼を失ってしまうおそれがあり、それがひいては弁護士自治を壊すおそれにつながりかねないこと

 

 

他方で、4号議案は扱わず、1~3号議案までで終わらせるということに変更するのであれば、30分程度で明日の臨時総会が終わるのではないかと予想されるが、この場合、生命健康・感染拡大リスクは低減するものと思われる。

 

 

なお、以上は、死刑廃止の結論(賛成・反対)にかかわらず、その総会・議決の手続に関して思うところを簡単な覚書きとして述べたものである。

 

明日、手続的正義に適う総会運営(適宜一部ないし全部を中止する判断を含む)がなされることを一法曹として期待したい。

 

 

*1:芦部信喜高橋和之補訂)『憲法 第七版』(岩波書店、2019年)252頁。