平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

【4/4(土)←2/29(土)@伊藤塾(渋谷)】明日の法律家講座(講師:弁護士 平 裕介)のご案内と事例問題

【追記】新型コロナウィルス対策のため、2020年4月4日(土)の同じ時間帯に延期となりました。よろしくお願いいたします。


(以下は、延期決定前のブログ記事です。)


 2020年2月29日(土)18:30~20:30,本ブログ筆者が講師を担当させていただく「明日の法律家講座」を伊藤塾東京校(渋谷)で実施いたします!

 

「講師プロフィール」と「講師からのメッセージ」は↓の伊藤塾のポスター・チラシのとおりです。

伊藤塾ですでに掲載していただいているものです(東京校では実際に筆者自身も見ました)。


 

 f:id:YusukeTaira:20200209142524j:plain

 


当日の流れ(予定)は次の通りです。


・18:30~18:35 伊藤塾の司会者による講師紹介

・18:35~19:55 講演(80分)

・19:55~20:05 休憩・質問用紙の回収

 (質問用紙は予め受付の際に配付いたします)

 ・20:05~20:30 質問に対する回答

 

さて, ↑のポスター・チラシ の「講師からのメッセージ」で言及している「講師作成の事例問題」の一部を,上記講座実施に先立ち,以下のとおり,本ブログで公開いたします。

 

司法試験受験生や予備試験受験生の方々や司法試験・予備試験の受験を検討されている方々が多く受講される可能性が高いと伺いましたので,どのような事例問題を取り上げるのか,事前に知りたいという方々向けに問題のイメージを持っていただきたいという趣旨から公開するものです。

 

もっとも,事前にご検討いただく必要はありません。全く読んでいなくても全く問題なく本講座を受講することができますし、司法試験・予備試験受験生ではない方々(他士業の先生方や、憲法あるいは行政法と関係のある社会問題にご興味のある方々)でも、十分に楽しんでいただける講演にしたいと考えていますので、ぜひ安心して今月29日の夜、お誘い合わせの上(もちろんお一人でも)渋谷の伊藤塾にいらしてください。

 


ぜひとも多くの方々にご参加をご検討いただけると嬉しく思います。

 

よろしくお願いいたします!

 

 

*************************

 

 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。

 

 20××年2月10月,美術・芸術の専門家らで構成される団体「Aトリエンナーレ実行委員会」(以下「実行委員会」という。)は,実施期間を同年10月1日から同年12月10日までとする国際芸術祭「Aトリエンナーレ20××」(以下「本件芸術祭」という。)を行う目的で,B県の公の施設であるB県美術館ギャラリー展示室の利用許可を申請し,同年4月11日,B県美術館長は,その利用を許可した。

 本件芸術祭はB県やB県内の自治体C市の後援を受けて実施されるものであった。すなわち,本件芸術祭の総事業費は12億円であり,B県が6億円,C市が1億円を負担することが決まっていたが,本件芸術祭の協賛団体等の支援・協力を受けても実行委員会らによって残りの事業費全額を負担することは極めて困難な状況であった。

 そこで,B県は,文化庁に対し,同年4月8日,本件芸術祭の事業費の一部として使用する目的で,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」または「法」という。)5条により,文化庁の所管する国の文化資源活用推進事業の補助金の交付を申請したところ(以下この申請を「本件申請1」という。),同年5月10日,同事業としての補助金7800万円の交付を受けることが採択された。この「採択」は,補助金の交付申請に対する交付決定(法6条1項)それ自体ではなく,同決定の前の時点で慣行上なされている手続ではあるが,外部の文化芸術の有識者により構成される審査委員会の審議を経てなされるものであり,また,採択における交付予定金額とその後の交付決定における実際の交付金額が異なることは稀であり,採択段階で同事業の補助金を交付するとの決定がなされたにもかかわらず文化庁長官により同事業の補助金の交付決定が行われなかったという例は,同事業の補助金が同事業以外の目的に不正に流用されるおそれが交付決定前に発覚した場合を除いて,これまで1件もなかった。

 実行委員会の委員でもあり,過去に同規模の国際芸術祭の芸術監督を務めたこともあるDは,日本と外国との文化の交流に関する講演会,研究会,セミナー,芸術祭等の開催・参加・支援等を目的とする一般社団法人Eの代表者であった。そこで,Eは,同年4月11日,日本と外国との国際文化芸術の知的交流・研究等を目的とし,日本と外国との国際文化芸術の交流等に関する事業に対する助成金の交付事業を実施している独立行政法人F会に対し,Eの事業の1つである本件芸術祭への参加及び支援に係る事業について,独立行政法人F会法13条により準用される補助金適正化法5条により,助成金の交付を申請したところ(以下この申請を「本件申請2」という。),同年5月15日,助成金1200万円の交付を受けることが採択された。この「採択」も,上記文化庁による採択の場合と同じく,外部有識者による審査委員会の審議を経てなされるものであり,助成金の交付申請に対する交付決定(法6条1項)それ自体ではないものの,同決定に先立ち慣行上常に実施される手続であり,これまで,上記のような不正流用が発覚した場合を除き,採択後に不交付とされた例は1件もなかった。

 同年10月1日,予定どおり本件芸術祭が開催され,合計20の企画展が同時に実施された。その企画展の1つとして,キリスト,ムハンマドブッダ天照大御神などの肖像群が燃えるように見える映像を含む映像作品「無宗教の世界 ~神々の成仏~」(1回の上映時間は約3分,以下この作品を「本件映像作品」という。),大学生と見られる女性の胸部を大きく強調して描いた現代的な美術作品「鵜澤ちゃんも遊びたい!」など,過去に美術館から撤去されたり報道等で問題があるのではないかと言われたりしたことのある作品を含む美術作品や芸術作品を約25点展示した企画展「滅私奉『公共』・その後」(以下「本件企画展」という。)も予定どおり開催された。本件芸術祭開催日初日は,特に本件企画展を含むすべての企画展に対する抗議の電話等はなかったが,翌日の同年10月2日午後,C市長Gが,ツイッターで「本件企画展は内容が不適切であるから,直ちに中止すべきである!」と述べ(以下,「本件ツイート」という。なお,C市長のツイッターをフォローしている者は約30万人いた。),また,翌日の午前には本件企画展の会場の入り口付近で座り込みをして「公益に反する表現!即刻中止!!」と書かれたポスターを掲げ,抗議活動を展開したことから,このC市長の活動が新聞報道やインターネットのニュース等の記事等を通じて広く取り上げられることとなった。そして,本件ツイートの後,同月2日午後から翌3日にかけ,インターネット上を中心に本件企画展を非難したり,本件企画展に美術作品・芸術作品を出展した作者らを誹謗中傷したりする市民らのツイートが多数なされるようになり,また,同月2日には合計200件の,同月3日には合計1000件の抗議の電話がB県や実行委員会の苦情受付窓口になされ,同日午後4時頃にはB県の市民窓口課に「ガソリン缶と花火を持って本件企画展の会場にお邪魔しますんで。すべて燃やすよ。愛国者より」というFAXが送られるという事件(以下「本件脅迫事件」という。)まであった。

 B県は,本件脅迫事件があったことなどから,同月4日から同月24日まで,本件企画展を中止し,本件企画展をより安全に安心して開催できるよう準備期間を設け,本件企画展会場内及びその周辺の警備体制を強化したり,本件企画展の閲覧を希望する者に対して本件企画展の趣旨を説明する10分程度の説明会への参加を義務付けたりするなどの対策を講じた。なお,同月4日以降はB県や実行委員会の苦情受付窓口への電話は平均して10件程度に減少した。同月8日,本件脅迫事件の被疑者Hが逮捕され,また,本件企画展以外の企画展等は特に中止されることなく予定通り平穏に開催されていた。

 同月25日,本件企画展が再開された。25日のみB県や実行委員会の苦情受付窓口への電話が60件あったものの,同月26日以降は平均して10件程度に減少した。

 同月26日,文化庁は,本件申請1の審査をしたところ,補助金適正化法6条等に基づき,全額不交付とする決定をした(以下,この決定を「本件処分」という)。文化庁が本件処分を行うと同時にB県に交付した文書によると,本件処分の理由は,補助金申請者であるB県が,展覧会の開催に当たり,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識しえたにもかかわらず,それらの事実を文化庁から問合せを受けるまで文化庁に申告しなかったことにより,実現可能な内容になっているか及び事業の継続が見込まれるかについての適正な審査が行えなかったことであった。

 他方,F会は,本件申請2につき審査をした上で,同年10月6日,Eに対し,助成金全額の交付決定をしたが,同月8日,本件映像作品の制作者の一人であるIが麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕され,12月22日,懲役1年6月,執行猶予3年の有罪判決を受けたことから,翌23日,同交付決定を取り消す決定(以下「本件取消決定」という。)をした。本件取消処分を行うと同時にF会がEに交付した文書には,「本件映像作品については,麻薬及び向精神薬取締法違反により有罪が確定した者であるIがその制作にかかわっていることから,助成金の交付は公益性の観点から適当ではないため,独立行政法人基金法第17条,補助金適正化法第17条第1項により,本件取消処分を行った」と記載されていた。

 

 

〔設問1(憲法)〕 

 あなたは,司法修習における実務修習の選択型プログラム「公法系訴訟の実務」を選択した司法修習生J(以下「修習生J」という。)として,本件処分に関する憲法上の問題について,意見を述べることになった。

 その際,同プログラムの指導担当弁護士Kからは,参考とすべき判例があれば,それを踏まえて論じるように,そして,判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている。また,当然ながら,本件処分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にする必要があるし,自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は,それについても論じる必要がある。

 以上のことを前提として,【参考資料】を参照しつつ,あなた自身の意見を述べなさい。

 

 

〔設問2(行政法)〕

(1) Eは,F会に対して本件取消決定の取消訴訟(行訴法3条2項)(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討しているが,本件訴訟を適法に提起することができるか。同項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」という訴訟要件に絞って,F会が行う反論を踏まえて,修習生Jの立場から,【法律事務所の会議録】及び【参考資料】を参照しつつ検討しなさい。

 

(2) 本件取消決定には補助金適正化法に反する違法があるとのEの主張として,どのようなものが考えられるか。文化庁が行う反論を踏まえて,修習生Jの立場から,【法律事務所の会議録】及び【参考資料】を参照しつつ検討しなさい。

 

 

【法律事務所の会議録】

修習生J:「公法系の法律や憲法と関係する公法系の事件の面白さって何ですか?」

弁護士K:「それはですね・・・(中略)。ところで,Eは,本件訴訟を適法に提起できるでしょうか。助成金交付給付行政における行為は,その性質上,本来的には契約上の行為と解されるという見解が有力ですから,訴訟要件である処分性の肯否を検討しておきましょう。」

修習生J:「元司法試験考査委員をされていた中原茂樹先生の『基本行政法』に数頁にわたって書いてあった論点ですね。今,ちょうど持っていますが,第3版だと307頁以下です。司法試験の勉強でも十分対策しましたので任せてください。」

弁護士K:(以下,追って掲載)

 

 

【参考資料】(各法令等(抄)の関係条文は追って掲載)

補助金適正化法

  

補助金適正化法施行令

  

独立行政法人基金

 

 ○文化芸術基本法

  

○博物館法

 

○文化芸術振興費補助金交付要領

 


*************************

 

 


それでは、皆様、今月末(2月29日)の土曜日、渋谷でお会いしましょう!

 

皆様とお会いできることを楽しみにしています。