平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

令和2年司法試験論文行政法の再検討(参考答案(改訂版)とその解説)

「司法試験は法律家の選抜試験ですが,要するに自分たちと同じ種類の人間たちを増やしていくという作業ですよね。法律家が自己増殖をしていく。(中略)自分たちにしかわからない周波数を流してそれで集まってくる奴を仲間にするという儀式を試験でやっている。(中略)仲間探しの試験でありまして,ですから波長が合わないともうこれはどうしようもない。

 スジという言葉をよく裁判官はいいますけど,スジというのがあるわけで,スジが読めない人,それを外す人,だけど強引に何とか持ってくる人,こういうのが一番合格して欲しくない人ということにたぶんなるわけであります。」[1]

 

 

「スジ」は過去問を丁寧に分析することで相当程度把握することができる。

 

令和2年司法試験論文式試験行政法の参考答案(Ⅱ)とその解説(ⅠとⅡの注)であるが,多く受験生はすでに一度検討したと思われるが,再度検討してもよい問題である。

 

当ブログ筆者も,この間,この問題について行政法に詳しい実務家や行政法研究者の先生方と意見交換をさせていただき,従前の参考答案やその解説の不十分な点について認識し加筆修正をしたところである。司法試験や予備試験の受験生の皆様にご一読いただき,何らかの新しい発見があれば幸いである。

 

 

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Ⅰ 全体的な印象

 

1 マニュアル思考が通用しにくく,法的思考力が試される問題

 司法試験論文行政法が基本知識や基本判例をベースに現場で思考させる問題であり,マニュアル思考ないし付け焼刃的な対処法では,対応が難しいタイプの問題と考えられる。

 

2 ベースとなった裁判例

 主として名古屋高判29年8月9日判例タイムズ1446号70頁をベースとした事例問題である。この裁判例は近時の重要判例解説にも収載されている(山下竜一「判批」(同裁判例解説)平成30年度重要判例解説50~51頁)。

 

3 行政法総論の知識,基本判例の深い理解の重要性

 上記重判の裁判例を知っていると有利ではあるが,知らなくても行政判例百選収載の基本判例すなわち盛岡用途地域指定事件判決(最一小判昭和59年4月22日民集36巻4号705頁)等を深く理解していれば上位合格水準の答案を書くことは可能と思われる。また,基本判例における行政法総論の知識(例えば,行政計画のうちの完結型·非完結型計画,用途地域と建築規制等の基本的な法制度の理解)の重要性も増してきているように思われる。いわば(基本判例を通じた)「行政法総論と行政救済法との架橋」を試すという面の(も)ある問題となっている。

 とはいえ,重要判例の深い理解(例えば,用途地域と建築制限はセットの制度であること,用途地域指定については指定を処分とみていわば指定全体を争わせるのではなく個別に建築制限を緩和・解除する処分の制度があり同制度を使って個別に取消訴訟等で争わせる仕組みになっていることについての理解)といっても,重要判例の数は多く,1つ1つ深い理解をすることにも限界がある。つまり,消化不良に陥らないようある程度効率的な学習をする必要がある。その対策については別途書いてみたい。

 

 

Ⅱ 参考答案

 

第1 設問1(1)

1 抗告訴訟の対象となる処分のうち,「行政庁の処分」(行訴法(以下法律名略)32項)とは[2],①公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(公権力性),②その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(法効果の直接性・具体性)③法律上認められているもの(法律の根拠)をいう[3]

2 本件計画についての具体的検討

(1) 本件計画の法的性格

 本件計画のような農業地区域を定める計画(農振法8条1項)は,同法2条の基本原則に照らし,農業地域の保全・形成や農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進するものであるから,その法的性格は,講学上の行政計画といえる。また,農業地区域を定める計画の変更(同法13条1項)等がなされない限り,農地の転用(同法17条農地法4条6項1号イ参照[4]が認められないことから,同計画は,都市計画法上の用途地域と同じく,同計画にかかる地域・地区内の土地所有者等に建築基準法上の新たな制約を課す法定の完結型計画の一種といえる[5]。ゆえに,一定の法状態の変動は生じるが,本件計画の効果も,用途地域指定についての昭和57年判決の場合と同様に,その効果はあたかも新たに制約を課する法令が制定された場合と同様不特定多数の者に対する一般的抽象的な効果にすぎないといえる。

 確かに,用途地域内では特に開発行為による土地の区画形質の変更が規制されるのに対し,農地の転用では「農地を農地以外のもの」にすることが禁止されており(農地法4条6項1号),区画形質の変更を伴わない行為まで一般的に禁止しており(農振法15条の2参照),規制の程度が強い[6]ため,昭和57年判例の射程は及ばないようにもみえる。しかし,用途地域指定に関しては例外的に建築基準法上の建築制限を緩和ないし解除する許可制度が設けられており[7],本件計画にも農用地区域内の土地を農用地区域から例外的に除外する制度がある(同法13条2項)。つまり,土地所有者等の権利制限の一部解除を求める権利[8]を留保した行政計画である点で共通するから,昭和57年判例の射程が及び,本件計画の設定(本件計画自体)の処分性は認められない。

(2) 個別の農地を農業用区域から除外する計画変更の処分性

 次に,本件農地のような個別の農地を農業用区域から除外する計画変更は,上記(1)の個々の土地所有者等の権利制限の一部を解除するものといえるから,同計画変更の法効果の直接性・具体性(上記1②)があるといえる。

 また,同計画変更は,私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[9],公権力性(上記1①)も認めらえる。さらに,農振法13条1項・2項により法律の根拠(上記1③)も認められる。

したがって,同計画変更の処分性は認められる。

(3) 本件計画変更の申出の拒絶の処分性

ア 法効果の直接性・具体性

 本件計画変更の処分性は認められるとしても,農振法15条1項・2項が「申請」と明記するのに対し,本件計画変更の申出については,「除外」(同法13条2項)の「申請」権を法令上規定していない。また,同申出の拒絶に対する審査請求等の行政不服審査に関する規定もない。さらに,本件運用指針は講学上の法規命令ではなく行政規則にすぎない。そのため,同拒絶の処分性は認められず,職権による計画変更が前提とされているとのB市の反論が想定される。

 しかし,不服申立てではないが,勧告・調停という一定の手続が法定されている(同法14条1項・2項,15条1項・2項)。また,本件運用指針4条1~4項により,計画変更の申出とそれに対する可否の通知の手続が定められており,諮問機関の意見を求め(同条2項),県(国)との事前協議を行う(同条3項)という慎重な手続によることとされ,B市は信義則あるいは平等原則の見地から同手続に自己拘束されることから,この手続は確立した実務上の手続となっている。そのため,B市は,農地転用許可申請に対する不許可処分の前の段階で,同条4項の「通知」すなわち申出の拒絶をもって,同不許可処分の処分要件に関する最終決定を前倒しして行うことになる。すると,この中間的措置とはいえない最終決定としての申出の拒絶は,実質的には,除外(同法13条2項)の申請に対する拒否処分(不許可処分)として機能しているといえ[10],あるいは特段の事情のない限り,後の農地転用許可申請をしても不許可処分を受ける法的地位に立たされることになる。[11]

 また,見込みのない農地転用許可申請を行い,不許可処分を待って同処分に対する取消訴訟を提起して本件計画に不変更の違法性を争う方法も考えられ,加えて,本件計画については他の多くの利害関係人の利益を害することは少ないから,浜松市土地区画整理事業計画事件大法廷判決の場合とは異なり事情判決行訴法31条1項)がされる可能性は低いため,除外の申請権を認めうるための紛争の成熟性はないというB市の反論が想定される[12]

 しかし,同判決は非完結型計画の事案であるから,本件にはその射程が及ばない。また,申出の拒絶の処分性の認否は微妙な問題であるため同訴訟では違法性の承継も争点となりうること[13]に加え,同訴訟で争わせることは農地転用許可がなされないことによる損害を相当期間にわたり原告に負わせることになり,農地転用許可後に行う予定であった事業自体を断念させる結果をも生じさせかねないことに照らせば,実効的な権利救済を図る見地から,除外の申請権を認めるための紛争の成熟性はあるというべきである。

 以上のことから,農振法13条2項は「除外」につき,農地所有者等の「申請」(行政手続法2条3号)権を認める趣旨に出たものと解され,本件運用指針は農振法13条2項の趣旨を具体化したものと解される。ゆえに、申出の拒絶は、申請に対する拒否処分であるといえ、法効果の直接性・具体性(上記1②)が認められる。(

イ また,農振法13条2項により法律の根拠(上記1③)も認められ,さらに,計画変更の場合と同様に,申出の拒絶についても公権力性(上記1①)が認められる。

 よって,申出の拒絶の処分性は認められる。[14]

 以上より,本件計画の変更及びその申出の拒絶は,抗告訴訟の対象となる処分に該当すると考える。

 

第2 設問1(2)

1 Xの置かれている状態,B市の対応の法的な意味

 Xは,申出書等の申請書類を所定の方法でB市の関係課に物理的に[15]提出し(本件運用指針4条1項),かかる申請書類はB市長の事務所に「到達」(行政手続法7条)したといえる。にもかかわらず,B市職員が同書類を返送するなどの対応をしているが,この行為は申請書類の不受理あるいは返戻にあたる。

 そのため,Xとしては,相当の期間申請書類の審査が開始されない状態に置かれているが,上記不受理・返戻の対応は,受理概念を否定し,法律による行政の原理の当然の要請として[16]申請の到達により審査義務が発生することを明確にした同法7条[17]に違反する行為である。

2 提起すべき抗告訴訟不作為の違法確認訴訟

 以上のとおり,本問では,B市長が,Xの法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分をすべきであるにかかわらず,これをしないことから,不作為の違法確認の訴え行訴法3条5項)を提起すべきである。[18]

3 訴訟要件の充足性

(1) 不作為の違法確認訴訟の訴訟要件は,①原告適格(「法令に基づく申請」(同法3条5項,申請権)・「申請をした者」(同法37条)),②狭義の訴えの利益,③被告適格(同法38条1項,11条)及び④管轄(同法12条)である[19]

(2) ①については,前記第1の2(3)のとおり,本件計画変更の申出について「除外」(農振法13条2項)の申請権が同法に基づき認められるものといえ,また,本件申出書等の申請書類は令和元年5月8日か,遅くとも令和元年5月10日までに到達しているから(上記1),Xは現実に申請をした者といえ,原告適格が認められるといえる。

 ②については,本問において行政庁の不作為状態が継続しており,これが解消されるなどの事情はない[20]ことから,狭義の訴えの利益が認められる。

 ③・④についても,特に問題はなく満たす。

(3) よって,同訴訟の訴訟要件を充足するといえる。

4 本案においてすべき主張

(1) 不作為の違法確認訴訟の本案勝訴要件は,「相当の期間」(行訴法3条5項)の経過である[21]。同期間経過の有無については,通常の所要期間を経過した場合には原則として違法となるが,同期間経過を正当とする特段の事情がある場合には違法とはならないという基準で判断すべきである。[22]

(2) 本問では,通常の所要期間に関し,法定の期間はないが,標準処理期間(行政手続法6条)も1年程度と考えられ,また,Xと同時期に申出をした他の農地所有者らに対しては,すでに「先月中」すなわち令和2年4月中[23]に通知(本件運用指針4条4項)がなされていることから,平均的な審理(審査)期間[24]も1年程度と考えられる。そうすると,同年5月13日の時点では,Xの申請(前記3(2)のとおり遅くとも令和元年5月10日までに行っている。)から1年を経過しているから,通常の所要期間を経過したといえる。

 また,上記特段の事情があるというB市の反論が想定されるが,Xは申出をやめる意思がない旨を文書で明確にB市職員に伝えているため,本問ではB市職員の行政指導により円満な解決が見込まれるという事情[25]はなく,申請者が急に激増したという事情[26]もないから,上記特段の事情はない

(3) よって,「相当の期間」は経過しているから,Xの申請に対するB市長の不作為は違法である。

 

第3 設問2

1 農振法「10条3項2号に掲げる土地」(同法13条2項5号)に該当しないとの違法事由

(1) 「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)といえるためには,同法10条3項2号委任する同法施行規則4条の3所定の要件を満たす必要がある。そのため,諸般の客観的な事情からみて[27],「除外」(同法13条2項5号)に係る土地が①「主として農地用の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き)あるいは②土地改良事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)に当たる場合には,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらない。

(2) Xによると,①´本件事業の主たる目的は,農地の冠水防止にあり,また,②´本件事業によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくく,特に本件農地は高台にあるため,本件事業によって生産性が向上することは考えられない。ゆえに,これらの客観的な事情からみて,除外に係る土地は上記①,②のいずれにも該当するものといえる。

(3) したがって,本件農地は,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらないから,本件農地については同号の要件を充足する。にもかかわらず,同号の要件を満たさないとするB市による同号に係る要件の認定は,同号に違反し違法である[28]

2 農振法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されない旨の違法事由

(1) 次に,本件農地が同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)は当たるものとされるとしても,同法施行令9条所定の期間制限が本件農地にも一律に適用されることは違法である旨の主張が考えられる。

 この点に関し,土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している農振法13条2項5号同法施行令9条趣旨・目的は,(ⅰ)同事業によって農業の生産性の向上(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き参照)を図りつつ,他方で,(ⅱ)転用行為に係る利益すなわち「農用地以外の用途に供する」(同法13条2項柱書き)ことないし「他の利用」(同法2条)に係る土地所有者等の利益との合理的調整を図ったものと解される[29]

 そこで,同法施行令9条にいう「事業の工事が完了」については,上記趣旨・目的に適合する限り,事業全体の工事の完了時期ではなく除外に係る農地に関連する事業の一部分の工事の完了時期をいうものと解すべきである。あるいは,8年という期間制限が一律に適用されると解することは,上記趣旨・目的に反し,施行令9条自体が違法無効となると解されることから,施行令9条自体が適法有効であると認められるには,期間制限が一律に適用されない例外を認めるという限定解釈を施すべきである[30]。具体的には,(ⅰ´)実質的にみて,特定の農地を農用地区域外から除外しても農業の生産性の向上の点で具体的な支障がなく,かつ(ⅱ´)転用行為に関し著しい不利益を与える場合には,「事業の工事が完了」の文言を上記のとおり解釈するか,あるいは農振法施行令9条所定の期間制限が適用されないものと考えるべきである。

(2) 本問では,(ⅰ´)本件農地と関連する上流部分については,平成20年末頃には用排水施設の補修・改修の工事が終了しており,本件事業全体の工事の完了平成30年12月となった理由は,事業の計画変更によって工事が中断されたからである。また,前記第3の1の事実関係より,本件農地を除外しても本件事業による農業の生産性の向上の点で具体的な支障はない。

 また,(ⅱ´)本件農地の転用が認められないとXの長男の医院を本件農地上に開設できず,平成30年度の翌年度から8年の経過が必要とされると,事実上B市の地域に同医院を開設することを事実上断念させることとなりかねないことから,Xらに著しい経済的不利益を与えることになる。

(3) よって,上記趣旨・目的に適合する法令の解釈適用という考え方からは,本件農地は同法施行令9条所定の期間制限にかからないか,あるいは同期間制限が適用されない農地であるから,同期間制限が適用されるとするB市の要件認定は,同法13条2項5号に違反し違法である[31]。 

                                     以上

 

 

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[1] 棟居快行『司法試験 論文本試験過去問 憲法』(辰已法律研究所,平成12年)161頁。

[2] 判例(東京都ごみ焼却場設置事件(最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁))による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)283頁(以下「中原・基本行政法」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式といえるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下「神橋・救済法」という。)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をした(「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかといった問題提起をしていない)。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容,物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・救済法79頁参照)。とはいえ,設問1(1)は「抗告訴訟の対象となる処分に該当するかを検討」させるものであり,最高裁判例の立場は必ずしも明確ではないので(最近の最高裁判例で上記東京都ごみ焼却場設置事件判決を引いているものはむしろ少ない),無理をせず,「抗告訴訟の対象となる処分(行訴法3条2項)とは・・・」という問題提起の方がよいかもしれない。

[3] ここでは学説における3要件説に立ったことを示している。このような立場を採る研究者・元(新)司法試験考査委員の文献として,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)364~365頁。他方で,実務的には,処分性は行為の公権力性及び法律上の地位に対する影響の2つの要素により判定され,その際に実効的な権利救済の観点も考慮されているという分析がある(大島義則『実務解説 行政訴訟』(勁草書房,2020年)(以下「大島・実務解説」という。)35頁〔大島義則〕参照)。なお,少なくとも本問については,どちらの立場に立って答案を書いても大差はないだろう。

[4] なお,農地法4条に基づく転用は,実務上「自己転用」と呼ばれることがある(宮﨑直己『農地法講義[三訂版]』(大成出版社,2019年)(以下「宮﨑・農地法講義」という。)129頁)。

[5] 木村琢磨(令和2年司法試験考査委員)『プラクティス行政法〔第2版〕』(信山社,2017年)119頁参照。同頁は,「行政計画は,法定の計画か法定外の計画かという観点から区別されるが,行政救済法との関係で重要なのは,完結型と非完結型の区分である。」とする。

[6] 髙木賢=内藤恵久『改訂版 逐条解説 農地法』(大成出版社,2017年)123頁参照。

[7] 例えば,建築基準法48条1項ただし書の例外許可である。この例外許可については,平成28年司法試験論文式試験公法系科目第2問で(その違法事由等が)出題されている。なお,同問題の解説として,大島義則『行政法ガールⅡ』(法律文化社,2020年)63~109頁等。

[8] 千葉地判昭和63年1月25日判例時報1287号40頁,大橋洋一行政法判例の動き」平成30年度重要判例解説30頁以下(33頁)参照。なお,宮﨑・農地法講義142頁は,転用行為の自由を留保したものである旨解説する。

[9] 処分性の第1要件である公権力性がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがある(横浜地判平成12年9月27日判例地方自治217号69頁・事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」と判示している)。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日判例時報1841号89頁)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)42頁〔野呂充〕参照)。

[10] 山本・探究340~341頁参照。

[11] この部分は,次のとおり,よりコンパクトに書くこともできると思われる。「本件計画変更の処分性は認められるとしても,農振法15条1項・2項が「申請」と明記するのに対し,本件計画変更の申出については,「除外」(同法13条2項)の「申請」権を法令上規定していない。また,同申出の拒絶に対する審査請求等の行政不服審査に関する規定もない。そのため,同拒絶の処分性は認められず,職権による計画変更が前提とされているとのB市の反論が想定される。しかし,前記のとおり,本件計画には昭和57年判決の射程が及ぶことから,用途地域指定制度にも建築基準法上の建築制限解除の例外許可制度が認められていることとパラレルに考えると,除外のための申請権が認められているものと解され,ゆえに,本件計画変更の申出の拒絶は,申請に対する拒否処分(不許可処分)といえる。」

[12] 前掲津地判平成29年1月26日参照。なお,この控訴審判決である名古屋高判29年8月9日判例タイムズ1446号70頁は,原審(前掲津地判平成29年1月26日)ほど浜松市土地区画整理事業計画事件大法廷判決(最大判平成20年9月10日民集63巻8号2029頁)を意識したものとはなっていない(山下竜一「判批」(前掲名古屋高判29年8月9日解説)平成30年度重要判例解説50~51頁(51頁)参照)。

[13] 前掲千葉地判昭和63年1月25日参照。

[14] 前掲千葉地判昭和63年1月25日は,申出の拒絶の処分性を肯定したが,前掲名古屋高判29年8月9日・前掲津地判平成29年1月26日のように,処分性を否定してもよいかもしれない(設問1(1)は処分性否定の結論を示すことを禁止はしていないように思われる)が,X(原告)の訴訟代理人となる弁護士Dの立場からの「B市の反論を想定しながら」の解答であるため,処分性肯定の結論の方が無難かもしれない。

[15] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅰ」という)458頁。

[16] 塩野宏=髙木光『条解 行政手続法』(弘文堂,平成12年)151頁。

[17] 宇賀・概説Ⅰ458頁参照。

[18] 設問の指示を受けて,申請型義務付け訴訟(不作為型)は本答案には一切書いていない。

[19] 大島・実務解説167頁〔朝倉亮太〕参照。

[20] 大島・実務解説178頁参照〔朝倉亮太〕。

[21] 大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕。

[22] 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)322,326頁,大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕,東京地判昭和39年11月4日行集15巻11号2168頁参照。この基準(規範)についての理由付けは特に要らないだろう。なお,「特段の事情」を違法性阻却事由と整理する立場に立つとしても(大島・実務解説183頁〔朝倉亮太〕参照),答弁書でこの点に関する主張がB市側から出てこないことは実務上普通考えられないように思われることや,答案政策の観点から(一応加点要素と考えられるため),X(原告)側の主張として(先に)書いてしまっても(訴状において主張しても)よいと考えられる。

[23] 本答案例は,司法試験の実施日が「法律事務所の会議録」の会議日であることを前提に書いたものである。

[24] 大島・実務解説188~190頁〔朝倉亮太〕参照。

[25] 宇賀・概説Ⅱ327頁,東京地判昭和52年9月21日行集28巻9号973頁参照。

[26] 宇賀・概説Ⅱ326~327頁,熊本地判昭和51年12月15日判例時報835号3頁参照。

[27] 一応規範らしい規範を立てることを試みたが,第3の1の違法事由については,条文→趣旨→規範→あてはめのスタイルで書かなくても,(本答案例のように)条文→あてはめで書くだけでも十分合格することができるレベルの答案となるだろう。

[28] 本答案例第3の1の部分は,「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)の要件該当性や,「主として農地用の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き),土地改良「事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)の各要件該当性につき,行政裁量(要件裁量)が否定されるものと解することを前提とする内容となっている。要件裁量の認否も(半ば無理やり)論点にすることもできるかもしれないが,書くべき優先順位は低い論点であるし,また,本試験でこのことまで書いている時間的余裕はないと思われる。

[29] (Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の合理的調整いわば2項対立の調整)をいう視点は,令和2年司法試験予備試験論文行政法や,令和3年司法試験論文行政法で出題される個別法の制度や特定の条文等の趣旨や目的を解釈する(答案に示す)ために有用であると考えられる。ちなみに,(Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の各キーワードないし具体的記述については,本答案例のように,個別法の関係条文を参考に書いていくと良いだろう。

[30] 旧監獄法施行規則事件(最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁)の1審(東京地判昭和61年9月25日民集45巻6号1069頁)・2審(東京高判昭和62年11月25日民集45巻6号1089頁)は,法規命令の限定解釈によって法規命令自体は適法有効であると解釈していた(岡崎勝彦「判批」(最三小判平成3年7月9日解説)小早川光郎=宇賀克也=交告尚史編『行政判例百選Ⅰ〔第5版〕』(有斐閣,2006年)98~99頁(99頁)・48事件参照)。なお,これは,憲法学における合憲限定解釈に似ているものといえよう。

[31] なお,上記(1) (ⅰ´)(ⅱ´)の判断につき,仮にB市長に行政裁量要件裁量が認められるとしても,上記(2)の事実関係に関し,重大な事実誤認あるいは考慮不尽が認められるというべきである。よって,裁量権の逸脱濫用(行訴法30条)の違法があるから,同法施行令9条・同法13条2項5号の解釈適用に係る違法事由があるといえる。もっとも,この裁量統制の話は,そもそも裁量が認められるか微妙であることに加え,配点が大きくない箇所と考えられるため,答案に書く必要はないと思われる。

 

※ 出題趣旨公表後に、第1の2(3)アイの一部を若干ですが修正しました。