平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(3) 設問1(2)の答案例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  前々回のブログのとおり。

 

2 元ネタとなった裁判例

  前々回のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

3 答案例

「第1 設問1(1)」につき,前回のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 (1)本件条例13条1項違反

   ア 距離制限規定違反(同項本文)

 Eは,本件事業所(本件条例13条1項(2))は本件土地から約80メートル離れた位置にあるため,「100メートル以上離れていなければならない」(同項本文)との距離制限規定に反する違法事由があると主張する。

   イ 要件裁量の逸脱濫用(同項ただし書)

 また,Eは,同項ただし書が適用される場合でも,「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める」との要件を満たさないというべきであり,次のとおり,同項ただし書に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[1],同項ただし書は,あくまで同項本文の例外として市長が許可する場合であるから,その許可の裁量は狭く,考慮すべき事項を十分に考慮しない(考慮不尽)など判断過程が不合理であり,その結果,社会通念上著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用というべきである。

 ①Eの本件事業所の利用者は居住者と変わらない実態があり,渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれが生じることからEの利用者の減少が見込まれ,Eの営業上の利益に著しい被害を与えるものであること,Dの墓地は,すでに余り気味で,空き区画が出ていることから,大規模な本件墓地が事業を開始するとDの経営が破たんし,関係区域の「公衆衛生その他公共の福祉」すなわち周辺住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになること,これら及びの点を考慮すべきであるのに(十分)考慮されていないため,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (2)本件条例3条1項違反

 Eは,次のとおり,本件条例3条1項に反する違法事由があると主張する。

 本件墓地の実質的な経営者はAではなくCであり,Cは,本件条例3条1項柱書ただし書・同項(1)の「宗教法人法…に規定する宗教法人」ではない。そして,同項本文は墓地等を経営しうる者は原則として地方公共団体とし,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(同項ただし書)に宗教法人等でも許可しうるとしていることから,同文言に係る判断につき要件裁量が認められるとしても[2],例外的に許可しうる場合に係る同裁量は狭いものであり,上記(1)イと同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

 ①Aは本件土地の買収に必要な費用をCから全額無利息での融資を受けており,このようなCの協力がなければ大規模な墓地経営に乗り出すことは財政的に困難であったこと,本件説明会にはAの担当者だけではなくCの従業員も数名出席した上,実際にCの担当者も説明を行っており,Cが経営のノウハウを一部有しているといえること,これらの事情から,仮に今後Cの経営が悪化した場合,Aだけでは本件土地の造成工事費用を捻出することが事実上困難となったり本件墓地の事業の経営に係るCの助言を受けられなくなったりすることが考えられること,④③によりAの経営が悪化すると,前述したとおり,「公衆衛生」等に係る周辺住民や本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあることからすれば,これらの点につき考慮不尽がある結果,社会通念上著しく妥当性を欠いた判断といえ,裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (3)違法の主張制限(行訴法10条1項)について

 Eは,次のとおり,本件条例13条1項本文及び同項ただし書に係る違法事由並びに本件条例3条1項に係る違法事由につき,すべて「自己の法律上の利益」(行訴法10条1項)に関係があると主張する。

 違法の主張制限についての行訴法10条1項は同法9条2項を準用してはいないが,(ⅰ)違法の主張制限は,原告適格等の訴訟要件の問題ではなく本案審理の問題であるため,訴訟の効率的運用等の訴訟要件の趣旨は妥当しないというべきことや,(ⅱ)国民の権利利益の実効的に救済を図る平成16年改正法の趣旨に照らすと,行訴法10条1項は原告の利益とは全く無関係の違法事由の主張を認めないことを示した規定と解すべきである。

 ①の違法事由がEに関係のある違法事由であることは明白であり,取消訴訟の本案で主張できる。また,における渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれという事情は,本件事業所の利用者の健康や生活環境に被害・影響を与えうるものであり,これによりEの利用者の減少等も考えられるから,の違法事由もEの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。さらに,の違法事由についても,C・Aの経営が悪化すると,前述したとおり本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあるから,Eの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。

 2 B市の反論

 (1)本件条例13条1項違反について

 ア 距離制限規定違反の点に対する反論

 B市としては,次の通り反論すべきである。

 D・Eの各代表者が親族関係にあったことから,Eは,特に事業所に移転する必要性はなかったにもかかわらず,本件説明会後に短期間で,宗教法人Dの求めに応じて本件事業所に事務所を移転させているため,D・Eの事業所移転の主たる目的・動機は,法及び本件条例の趣旨・目的とは異なるものというべきである。ゆえに,本件で形式的に本件条例13条1項の距離制限規定の適用をすることは,Eらの不当な目的・動機をB市長が事実上容認することになり,行政権の著しい濫用[3]となるため,距離制限規定は本件許可処分には適用できないか,Eに対し同規定を主張しえないと考えるべきである。

 イ 要件裁量の逸脱濫用の点に対する反論

 本件条例13条1項ただし書の要件裁量については,法1条の「公衆衛生その他公共の福祉」の文言が概括的なものであること,法10条1項は最低限度遵守しなければならない事項を規定したものであり,各自治体の地域・地区の実情に照らした上記「公衆衛生その他公共の福祉」等に係る知事ないし市長(法2条5項)の公益的判断尊重する趣旨に出たものであること,本件条例13条1項ただし書も「市長が…認めるとき」と規定することからすると,広範な裁量がある[4]ものというべきである。

 また,裁量審査につき,仮にEの主張する前記判断枠組みによるとしても,(ⅰ)仮に上記距離制限規定(本件条例13条1項本文)が形式的には適用されるとしても,前記Eらの不当な目的・動機については,裁量判断(同項ただし書)に際して本件許可処分の積極事情として考慮しうるものといえること,(ⅱ)AはCからの融資を受けたとはいえ既に本件土地を購入していることや,本件説明会を行っていることに鑑みると,これらの点につき信義則の観点から配慮する必要[5]があるといえ,これも本件許可処分の積極事情して考慮しうることからすれば,前述したEの主張するような事情があるとしても,本件許可処分は,なお裁量の範囲内のものとして適法である。

 (2)本件条例3条1項違反について

 ※中途半端だが,諸事情により,次回あるいは次回以降のブログで書く予定である。

 

 (3)違法の主張制限について

 上記と同じ。

 

第3 設問2

 上記と同じ。

 

  

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[1] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについては被告B市の反論の部分で書くことにした。

[2] 1つ上の注と同じである。

[3] 最二小判昭和53年5月26日・高橋信行「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

[4] 東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられている旨判示している。

[5] 高橋信行「判批」百選Ⅰ61頁の解説2・3参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。