平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

弁護士会は手続的正義を実現できるか? ―9/24(木)東弁臨時総会・第2号議案について考える―

2020年9月24日(木)12時30分から、弁護士会館2階 講堂(クレオ)で、
東京弁護士会臨時総会が開催されます。

第1号議案は「代理行使できる総会の議決権数の変更のための東京弁護士会会則等の一部改正の件」、
第2号議案は「死刑制度廃止に向け、まずは死刑執行停止を求める決議」(案)の件」です。

どちらも重要な議案ではありますが、第2号議案については、他会の状況(千葉や埼玉)からすると、東京弁護士会(=東弁)においても、賛否が拮抗している可能性が高いです。
第2号議案は、実質的には、死刑制度の廃止を求める決議だといえます。


この件については、昨日、以下のツイートをしています。


私個人は(私も東弁会員です)、死刑は廃止すべきであるという立場ですが、本日まで様々な意見を持つ東弁会員の先生方と意見交換をさせていただき、その結果、この決議案の内容で決議をすることについて、その手続の妥当性にかなり疑問を持っています。

最大の疑問は、なぜ東京弁護士会では、札幌弁護士会が実施したような全会員アンケートを実施しようとしないのか?というものです。


賛否が拮抗しているのですから、極端なことをいえば、51vs49で可決あるいは否決されるということもあるわけです。
千葉は否決され、埼玉でもいったんは否決されているわけですから、せめて札幌のように、会員の考え方を把握してから、決議を実施すべきだと考えます。

弁護士はみな法の専門家です。そのような個々の弁護士(総会の議案との関係では東弁会員)がどのように考えているかは、重要なことです。
死刑廃止を成し遂げた国では、政治的リーターシップが決定的に重要であると分析されていること(庄武「死刑制度論における世論の意義」判例時報2441号107頁(110頁))は私も理解しているつもりですが、このリーダーシップ論のようなものは、法の専門家集団で構成される弁護士会にはそのまま妥当するものではないと思います。弁護士会は、会員のコンセンサスの形成に努めるべきで、そのためには、そもそも会員がどのように考えているのか調査する必要があると思います。


第2号議案は、会員の思想良心の自由(憲法19条)にも関わる問題も含む微妙な問題です。単に刑法の改正の話だから会員の思想良心は関係ないと理解するのは判例の立場からすると誤解です。犯罪被害者側の代理人をされている会員の場合、業務に具体的に関わる問題でもあるようです。

よって、この議案については、かなり慎重な手続を経るべきであり、少なくとも全会員アンケートを実施し、例えば、ある程度、死刑廃止賛成の意見が大多数を占めることが明らかになった段階か、そこまでいかなくても一定のコンセンサスが形成できたといえる段階で、議案とすべきでしょう。

総会は木曜日の午後という、平日に実施されます。当日出席して議論を聞いたうえで、賛否を決めたいという会員がいても打合せや裁判の期日等との関係で出席ができないかもしれません。ですから、(特に東弁のように会派の活動が活発な弁護士会では)実際に総会に出席する会員の賛否の割合と、総会に出席しない(できない)会員の賛否の割合とは一致せず、ズレがあると思います。

(なお、東弁では会員集会というものもありますが、この会に出席する弁護士はほとんど会派(俗称:派閥)に属している弁護士で限られていますし、常議員会も同様ですから、常議員会が賛成多数であっても、全会員の意向とズレることはあるわけです。)

このようなことから、重要な決議については、会員の意見を全会員アンケートという方法で調査した上で、総会で賛否を問う必要があると思います。

ギリギリで可決した場合には、近い将来、反対にその決議を取り消す議案が出てしまうこともありえない話ではありません。
そんなことをやっていて、市民に信頼されるのかということです。弁護士自治は市民の信頼が基盤となっています。


また、不十分な手続きでは、強行的に決議されたと感じる会員の会務離れ・会派離れなどを促すことになる可能性があります。
会内の対立や分断などありえない、無いと信じている、などと主張する会員の先生もいるようですが、これは現実を見みられない、あるいは見ようとしない意見というほかありません。

政府の強行採決を強く批判してきた弁護士会自身が、強行採決をするということになれば、「もうやってられない」と弁護士会や会派の活動から「離れて」いく会員が増えるでしょう。会務は、個々の会員が弁護士会のやることを(一応)概ね精神的に支持している(ほとんどのことにつき強くは反対していない)という面があって、何とか成り立っているというのが現実(その当否はさておき)だと思われます。


このように、東弁は、弁護士会の外部(市民の信頼)との関係でも、また内部(強制加入団体の構成員)との関係でも、今回の決議の手続を見直すべきでしょう。


40年前、東京弁護士会は、全会員アンケートを実施しています。

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40年前にやれたことが、技術的に、今日において、できない、ということはありえないわけです。
直ちに全会員アンケートを実施し、場合によっては、複数回実施して、会員の(場合によってはサイレントマジョリティーの)死刑廃止の賛否等を把握すべきです。


なお、このまま2号議案の採決を強行することは、弁護士自治の瓦解を招くおそれのある行為でもあると言わなければなりません。


弁護士会日弁連は、手続的正義を実現し、弁護士自治を守る団体であるはずです。

内容の議論をしよう、手続の議論はしてもしょうがない、別の機会にしよう、などという声も聞こえますが、行政法学ではそのような言説はずいぶん前に否定されています。正直「そこからですか・・・?」と残念に思いますが、行政法の基本書の行政手続のところだけでも精読してほしいものだと思います。今なら最高裁判事の宇賀克也先生の基本書でしょうか。



ところで、近時、日弁連コロナ法テラス特措法ロビー活動(しかも会員の業務に影響の大きい法案に関するロビイング)を理事会に事前に一切諮ることなく正副会長の意向だけで実行しました。手続的正義はどこに行ったのだ?という批判をし、具体的に声を上げた弁護士は少なくありません。



東弁はどうでしょうか。

手続的正義を実現し、弁護士自治を守る団体だと、本当にそうだといえるのでしょうか。

私たち会員一人ひとりがよく見ていかなければ、そして声をあげるべきときに声を上げなければ、私たちの属する団体が今後政府を批判しても、政府にも、そして市民にも「相手にされない」団体となってしまう危険があるでしょう。


私は、9月24日、出席します

疑問点について質問し、また、必要があれば意見を述べるつもりです。

他の東弁会員の先生方、一緒に、「本人出席」しませんか?
本人出席であれば、当日行けばOKです。

ぜひ、24日、総会会場でこの決議の手続の妥当性の問題点について一緒に考えましょう!

【9/12(土)@伊藤塾(渋谷)・教室ライブ実施 & Zoomウェビナー同時配信】明日の法律家講座(講師:弁護士 平 裕介)のご案内と事例問題

明日になりましたが、2020年9月12日(土)18:30~20:30、本ブログ筆者で弁護士・元伊藤塾塾生の平(たいら)が講師を担当させていただく「明日の法律家講座」が伊藤塾東京校(渋谷)で実施されます!!

 

 

 

「講師プロフィール」と「講師からのメッセージ」は↓の伊藤塾の関係ウェブサイトのとおりです。

https://www.itojuku.co.jp/itojuku/afterpass/kouenkai/tomorrowlaw/bn/tokyo294_200229.html

 

ちなみに、今回は、“明日法”史上初の実施方法として、教室でのライブ実施と同時に、Zoomウェビナーでのライブ配信をするということになりました!

 

つきましては、オンラインでの参加を希望される方は、恐縮ですが、下記の参加予約フォームより、ご予約ください。ご予約は簡単です。よろしくお願いいたします。

https://www.itojuku.co.jp/form/618

 

 

講演会当日の流れ・予定は、次の通りです。

 

・18:30~18:35 伊藤塾の司会者による講師紹介

・18:35~19:55 講演(80分)

・19:55~20:05 休憩・質問用紙の回収

 (質問用紙は予め受付の際に配付いたします)

 ・20:05~20:30 質問に対する回答

 

さて, ↑のポスター・チラシ の「講師からのメッセージ」で言及している「講師作成の事例問題」を,上記講座実施に先立ち,以下のとおり,本ブログで公開いたします。司法試験や予備試験の問題形式を意識して作成し、また、近時のニュースで憲法行政法上の問題がある事例を元ネタに作った問題です。

 

司法試験受験生や予備試験受験生の方々や司法試験・予備試験の受験を検討されている方々が多く受講される可能性が高いと伺いましたので,どのような事例問題を取り上げるのか,事前に知りたいという方々向けに問題のイメージを持っていただきたいという趣旨から「資料」の一部を公開するものです。

 

もっとも,事前にご検討いただく必要はありません。全く読んでいなくても全く問題なく本講座を受講することができますし、この事例問題の検討がメインではありません(参考資料として、少し触れる程度です)。

司法試験・予備試験受験生ではない方々(他士業の先生方や、憲法あるいは行政法と関係のある社会問題にご興味のある方々)でも、楽しんでいただける講演にしたいと考えていますので、ぜひ安心して明日、12日の夜、お誘い合わせの上(もちろんお一人でも)渋谷の伊藤塾にいらしてください or 上記方法により、オンラインでご参加ください。

なお、すでに伊藤塾の担当者の方から多数のご予約があった旨伺っています(時節柄、オンラインでの参加者が多数となりそうです)。

 

そして、ご出席いただきました方orオンラインご参加のご予約いただきました方には、もちろん全員に無料で、担当講師が作成した答案例とレジュメを配布・配信いたします!!

 

ぜひとも多くの方々にご参加をご検討いただけると嬉しく思います。

よろしくお願いいたします!

 

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明日の法律家講座(2020年9月12日/講師:弁護士 平 裕介)資料①(問題)

 

次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。

 

 203×年2月10月,美術・芸術の専門家らで構成される団体「Aトリエンナーレ実行委員会」(以下「実行委員会」という。)は,実施期間を同年10月1日から同年12月10日までとする国際芸術祭「Aトリエンナーレ203×」(以下「本件芸術祭」という。)を行う目的で,B県の公の施設(地方自治法244条1項)であるB県美術館のギャラリー展示室(室内)や展示スペース(屋外)の利用許可を申請し,同年4月11日,B県美術館長は,その利用を許可した。なお,同美術館は,博物館法18条に基づき設置された施設である。

 本件芸術祭はB県やB県内の自治体C市の後援を受けて実施されるものであった。すなわち,本件芸術祭の総事業費は12億円であり,B県が6億円,C市が1億円を負担することが決まっていたが,本件芸術祭の協賛団体等の支援・協力を受けても実行委員会らによって残りの事業費全額を負担することは極めて困難な状況であった。

 そこで,B県は,文化庁に対し,同年4月8日,本件芸術祭の事業費の一部として使用する目的で,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」または「法」という。)5条により,文化庁の所管する国の文化資源活用推進事業の補助金の交付を申請したところ(以下この申請を「本件申請1」という。),同年5月10日,同事業としての補助金7800万円の交付を受けることが採択された。この「採択」は,補助金の交付申請に対する交付決定(法6条1項)それ自体ではなく,同決定の前の時点で慣行上なされている手続ではあるが,外部の文化芸術の有識者により構成される審査委員会の審議を経てなされるものであり,また,採択における交付予定金額とその後の交付決定における実際の交付金額が異なることは稀であり,採択段階で同事業の補助金を交付するとの決定がなされたにもかかわらず文化庁長官により同事業の補助金の交付決定が行われなかったという例は,同事業の補助金が同事業以外の目的に不正に流用されるおそれが交付決定前に発覚した場合を除いて,これまで1件もなかった。

 実行委員会の委員でもあり,過去に同規模の国際芸術祭の芸術監督を務めたこともあるDは,日本と外国との文化の交流に関する講演会,研究会,セミナー,芸術祭等の開催・参加・支援等を目的とする一般社団法人Eの代表者であった。そこで,Eは,同年4月11日,日本と外国との国際文化芸術の知的交流・研究等を目的とし,日本と外国との国際文化芸術の交流等に関する事業に対する助成金の交付事業(独立行政法人基金法(以下「基金法」という。)14条1項1号イに係る事業)を実施している独立行政法人F会に対し,Eの事業の1つである本件芸術祭への参加及び支援に係る事業について,独立行政法人F会法13条により準用される補助金適正化法5条により,助成金の交付を申請したところ(以下この申請を「本件申請2」という。),同年5月15日,助成金1200万円の交付を受けることが採択された。この「採択」も,上記文化庁による採択の場合と同じく,外部有識者による審査委員会の審議を経てなされるものであり,助成金の交付申請に対する交付決定(法6条1項)それ自体ではないものの,同決定に先立ち慣行上常に実施される手続であり,これまで,上記のような不正流用が発覚した場合を除き,採択後に不交付とされた例は1件もなかった。

 同年10月1日,予定どおり本件芸術祭が開催され,合計20の企画展が同時に実施された。その企画展の1つとして,キリスト,ムハンマドブッダ天照大御神などの肖像群が燃えるように見える映像を含む映像作品「無宗教の世界 ~神々の成仏~」(1回の上映時間は約3分,以下この作品を「本件映像作品」という。),大学生と見られる女性の胸部を大きく強調して描いた現代的な美術作品「鵜澤ちゃんも遊びたい!」など,過去に美術館から撤去されたり報道等で問題があるのではないかと言われたりしたことのある作品を含む美術作品や芸術作品を約25点展示した企画展「滅私奉『公共』・その後」(以下「本件企画展」という。)も予定どおり開催された。本件芸術祭開催日初日は,特に本件企画展を含むすべての企画展に対する抗議の電話等はなかったが,翌日の同年10月2日午後,C市長Gが,ツイッターで「本件企画展は内容が不適切であるから,直ちに中止すべきである!」と述べ(以下,「本件ツイート」という。なお,C市長Gのツイッターをフォローしている者は約30万人いた。),また,翌日の午前には本件企画展の会場の入り口付近で座り込みをして「公益に反する表現!即刻中止!!」と書かれたポスターを掲げ,抗議活動を展開したことや,S官房長官が「本件企画展のことが報道されているが,本件芸術祭に関する補助金の決定にあたっては,事実関係を精査して適切に対応したい」と述べたことから,このC市長Gの活動が新聞報道やインターネットのニュース等の記事等を通じて広く取り上げられることとなった。そして,本件ツイートの後,同年10月2日午後から翌3日にかけ,インターネット上を中心に本件企画展を非難したり,本件企画展に美術作品・芸術作品を出展した作者らを誹謗中傷したりする市民らのツイートが多数なされるようになり,また,同月2日には合計200件の,同月3日には合計1000件の抗議の電話がB県や実行委員会の苦情受付窓口になされ,同日午後4時頃にはB県の市民窓口課に「ガソリン缶と花火を持って本件企画展の会場にお邪魔しますんで。すべて燃やすよ。愛国者(普通の日本人)より」というFAXが送られるという事件(以下「本件脅迫事件」という。)まであった。

 B県は,本件脅迫事件があったことなどから,同年10月4日から同月24日まで,本件企画展を中止し,本件企画展をより安全に安心して開催できるよう準備期間を設け,本件企画展会場内及びその周辺の警備体制を強化したり,本件企画展の閲覧を希望する者に対して本件企画展の趣旨を説明する10分程度の説明会への参加を義務付けたりするなどの対策を講じた。B県は,本件芸術祭の開催に当たって事前にB県警と協議するなど本件企画展を含む企画展の各会場周辺における通常の警備体制を整えていたため,比較的速やかに警備体制を強化することができた。なお,同月4日以降はB県や実行委員会の苦情受付窓口への電話は平均して10件程度に減少した。同月8日,本件脅迫事件の被疑者Hが逮捕され,また,本件企画展以外の企画展等は特に中止されることなく予定通り平穏に開催されていた。

 同月25日,本件企画展が再開された。同日のみB県や実行委員会の苦情受付窓口への電話が50件程度あったものの,同月26日以降は平均して10件程度に減少した。

 同月26日,文化庁は,本件申請1の審査をしたところ,補助金適正化法6条等に基づき,全額不交付とする決定をした(以下,この決定を「本件処分」という)。文化庁が本件処分を行うと同時にB県に交付した文書によると,本件処分の理由は,補助金申請者であるB県が,展覧会の開催に当たり,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識しえたにもかかわらず,それらの事実を文化庁から問合せを受けるまで文化庁に申告しなかったことにより,実現可能な内容になっているか及び事業の継続が見込まれるかについての適正な審査が行えなかったことであった。

 他方,F会(F会理事長)は,本件申請2につき審査をした上で,同年10月6日,Eに対し,助成金全額の交付決定をしたが,同月8日,本件映像作品の制作者の一人であるIが麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕され,同年12月22日,懲役1年6月,執行猶予3年の有罪判決を受けたことから,翌23日,同交付決定を取り消す決定(以下「本件取消決定」という。)をした。本件取消処分を行うと同時にF会がEに交付した文書には,「本件映像作品については,麻薬及び向精神薬取締法違反により有罪が確定した者であるIが本件映像作品の制作に関わっていることから,助成金の交付は公益性の観点から適当ではないため,独立行政法人基金法17条,補助金適正化法17条1項により,本件取消処分を行った。」と記載されていた。

 

〔設問1(憲法・司法試験論文タイプ)〕

 あなたは,司法修習における実務修習の選択型プログラム「公法系訴訟の実務」を選択した司法修習生J(以下「修習生J」という。)として,本件処分に関する憲法上の問題について,意見を述べることになった。その際,同プログラムの指導担当弁護士Kからは,参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及するように求められている。

 以上のことを前提として,【参考資料】を参照しつつ,あなた自身の意見を述べなさい。

 

 

〔設問2(行政法・司法試験論文タイプ)〕

(1) Eは,F会に対して本件取消決定の取消訴訟(行訴法3条2項)(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討しているが,本件訴訟を適法に提起することができるか。同項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」という訴訟要件に絞って,F会が行う反論を踏まえて,修習生Jの立場から,【検討会議の会議録】及び【参考資料】を参照しつつ検討しなさい。

(2) 本件取消決定には補助金適正化法に反する違法があるとのEの主張として,どのようなものが考えられるか。F会が行う反論を踏まえて,修習生Jの立場から,【検討会議の会議録】及び【参考資料】を参照しつつ検討しなさい。

 

 

〔設問3(憲法・予備試験論文タイプ)〕

 上記事例とは異なり,実行委員会によるB県美術館のギャラリー展示室(室内)や展示スペース(屋外)の利用許可の申請に対し,B県美術館長が,203×年4月11日,新型αウィルスの蔓延拡大を防止するという理由から,地方自治法244条2項の「正当な理由」があるとして,同展示室や展示スペースの利用を許可しないという申請拒否処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたものとする。この事例につき,必要に応じて対立する見解にも触れつつ,同事例に含まれる憲法上の問題を論じなさい(ただし,損失補償について論じる必要はない)。

 なお,上記処分時の203×年4月11日時点では,未だ同ウィルスに対するワクチンは開発されていたものの日本には同ワクチンが未だ普及していないこと,同ウィルスについては特に高齢者が罹患した場合の死亡率は高いこと(70代が17%,80代が30%),同時点における医学的及び疫学的知見では,密閉された空間において,人が密集し,近い距離で会話をするという3つの条件が揃った場合に同ウィルスが人から人へ感染しやすいということが判明していること,それ以外の場合においてどのように同ウィルスが感染するのか(あるいは,全く感染しないのか)などについては未だ医学的・疫学的に十分な解明がなされていないことを本設問の前提とすること。

 

 

〔設問4(行政法・予備試験論文タイプ)〕

(1) 〔設問3〕の本件不許可処分が適法であると仮定する場合,本件芸術祭のコンセプトに沿って芸術作品を創作していた芸術家らは,損失補償を請求することができるか。損失補償の要否の点に絞って論じなさい。

なお,すでに同芸術作品は完成しており,また,同芸術家らは,本件芸術祭に作品を出展した場合に報酬を受け取れることとなっていたものとする。

(2) 上記事例とは異なり,文化庁による本件申請1に対する処分が補助金全額(7800万円)を不交付とするものではなく,申請額全額から本件企画展に要する経費の一部の分を差し引いた分の6700万円を交付する内容であったとものとする場合,B県は,国を被告として,どのような訴訟を提起するべきか。

(3) 〔設問3〕の場合において(本件不許可処分ではなく)B県美術館の利用許可処分がなされたが,同処分後,B県からEに対し,新型αウィルスの蔓延拡大をできる限り防ぐため,複数回にわたり,B県美術館の利用の自粛を要請する行政指導がなされた。そして,B県及び厚生労働大臣においてB県が上記行政指導をしたこと,新型αウィルスはなお収束しておらず予断を許さない状況にあること,仮にEが実際に利用するのであれば大変遺憾であることといった情報やB県・厚生労働省の見解を各公式ウェブサイト及びSNS(FacebookTwitter)で表明したことから,同様の芸術祭を開催したときと比較して来場者が少なくなり,本件芸術祭のチケットが殆ど売れなかった。この場合,B県や国はEに対する損害賠償責任を負うか。国家賠償法上の違法性(同法1条1項)の点に絞って論じない。

 

 

【検討会議の会議録】

修習生J:「公法系の法律や憲法と関係する公法系の事件の面白さって何ですか?」

弁護士K:「そのことは,伊藤塾で私が講師を担当させていただく『明日の法律家講座』でもお話します。9月12日です。ライブとネット同時配信なので、ぜひ聞いてください。」

修習生J:「その講座,延期になったんですよね。検討してみます。」

弁護士K:「有難うございます。本件訴訟も公法系の事件ですよね。一緒に訴状案を検討してみましょう。論点ごとにメモを作成してもいいですね。Eは,本件訴訟を適法に提起できるでしょうか。助成金交付給付行政における行為は,その性質上,本来的には契約上の行為と解されるという見解が有力ですから,訴訟要件である処分性の肯否を検討しておきましょう。」

修習生J:「元司法試験考査委員をされていた中原茂樹先生の『基本行政法』に数頁にわたって書いてあった論点ですね。今,ちょうど持っていますが,第3版だと307頁以下です。」

弁護士K:「よく勉強されていますね。Jさんには,まず,本件取消決定の処分性の問題を検討していただきますが,その際には,本件の助成金基金法との関係や,取消の対象である助成金の交付決定の性質についても検討してください。」

修習生J:「かしこまりました。」

弁護士K:「次に,本案の問題ですが,本件取消決定は違法でしょうか。どのような違法事由があるのか,関係法令なども考慮しながら検討してみましょう。」

修習生J:「はい。ところで,憲法上の主張は,三段階審査で書けばいいんですよね。」

弁護士K:「いや,事案類型によると思いますので,必ずしもそうとは限りませんよ。実務だけではなく,令和元年予備試験論文憲法も,三段階審査では書きにくかったと思います。」

修習性J:「そうしますと,場合によっては,憲法行政法,同じような書面あるいは答案になるのでしょうか。」

弁護士K:「基本的には,そうなると思います。ただし,司法試験や予備試験の答案の場合には,引用したり強調したりする条文が多少変わるのが普通でしょうね。憲法では憲法の条文に言及する比重が大きくなり,行政法では個々の行政法規に言及することが多くなります。」

修習性J:「わかりました。訴状案を書くための準備として,論点ごとにメモを作成してみたいと思います。」

 

 

【参考資料 関係法令】

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)

補助金等の交付の申請)

第5条 補助金等の交付の申請(契約の申込を含む。以下同じ。)をしようとする者は、政令で定めるところにより、補助事業等の目的及び内容、補助事業等に要する経費その他必要な事項を記載した申請書に各省各庁の長が定める書類を添え、各省各庁の長に対しその定める時期

までに提出しなければならない。

補助金等の交付の決定)

第6条 各省各庁の長は、補助金等の交付の申請があつたときは、当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、当該申請に係る補助金等の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか、補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか、金額

の算定に誤がないかどうか等を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに補助金等の交付の決定(契約の承諾の決定を含む。以下同じ。)をしなければならない。

2~4 (略)

(決定の取消)

第17条 各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他(中略)法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すこと

ができる。

2~4 (略)

(理由の提示)

第21条の2 各省各庁の長は、補助金等の交付の決定の取消し、補助事業等の遂行若しくは一時停止の命令又は補助事業等の是正のための措置の命令をするときは、当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない。

(行政手続法の適用除外)

第24条の2 補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法(平成5年法律第88号)第2章及び第3章の規定は、適用しない。

(不服の申出)

第25条 補助金等の交付の決定、補助金等の交付の決定の取消、補助金等の返還の命令その他補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分に対して不服のある地方公共団体(中略)は、政令で定めるところにより、各省各庁の長に対して不服を申し出ることができる。

2~3 (略)

 

補助金適正化法施行令(昭和30年政令第255号)

補助金等の交付の申請の手続)

第3条 法第五条の申請書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 申請者の氏名又は名称及び住所

二 補助事業等の目的及び内容

三 補助事業等の経費の配分、経費の使用方法、補助事業等の完了の予定期日その他補助事業等の遂行に関する計画

四 交付を受けようとする補助金等の額及びその算出の基礎

五 (略)

2 前項の申請書には、次に掲げる事項を記載した書類を添附しなければならない。

一 申請者の営む主な事業

二 申請者の資産及び負債に関する事項

三 補助事業等の経費のうち補助金等によつてまかなわれる部分以外の部分の負担者、負担額及び負担方法

四 補助事業等の効果

五~六 (略)

3 (略)

 

独立行政法人基金法(平成14年法律第×××号)

(振興会の目的)

第3条 独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」という。)は、芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動その他の文化の振興又は普及を図るための活動に対する援助(中略)等を行い、その振興及び普及を図り、もって芸術その他の文化の向上に寄与することを目的とする。

(業務の範囲)

第14条 振興会は、第3条の目的を達成するため、次の業務を行う。

一 次に掲げる活動に対し資金の支給その他必要な援助を行うこと。

イ 芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための公演、展示等の活動

ロ~ハ (略)

 二~六 (略)

2 (略)

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の準用)

第17条 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)の規定(罰則を含む。)は、第14条第1項第1号の規定により振興会が支給する資金について準用する。この場合において、同法(中略)中「各省各庁」とあるのは「独立行政法人基金」と、「各省各庁の長」とあるのは「独立行政法人基金の理事長」と、同法第2条第1項(第2号を除く。)及び第4項、第7条第2項、第19条第1項及び第2項、第24条並びに第33条中「国」とあるのは「独立行政法人基金」(中略)と読み替えるものとする。

 

○文化芸術基本法(平成13年法律第148号)

(目的)

第1条 この法律は、文化芸術が人間に多くの恵沢をもたらすものであることに鑑み、文化芸術に関する施策に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、文化芸術に関する施策の基本となる事項を定めることにより、文化芸術に関する活動(以下「文化芸術活動」という。)を行う者(文化芸術活動を行う団体を含む。以下同じ。)の自主的な活動の促進を旨として、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。

(基本理念)

第2条 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない。

2 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の創造性が十分に尊重されるとともに、その地位の向上が図られ、その能力が十分に発揮されるよう考慮されなければならない。

3 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民がその年齢、障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない。

4 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、我が国及び世界において文化芸術活動が活発に行われるような環境を醸成することを旨として文化芸術の発展が図られるよう考慮されなければならない。

5 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、多様な文化芸術の保護及び発展が図られなければならない。

6~10 (略) 

 

○博物館法(昭和26年法律第285号)

(この法律の目的)

第1条 この法律は、(中略)博物館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(中略)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い(中略)地方公共団体(中略)が設置するもので次章の規定による登録を受けたものをいう。

2~3 (略)

(館長、学芸員その他の職員)

第4条 博物館に、館長を置く。

2 館長は、館務を掌理し、所属職員を監督して、博物館の任務の達成に努める。

3 博物館に、専門的職員として学芸員を置く。

4 学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる。

5~6 (略)

(設置)

第18条 公立博物館の設置に関する事項は、当該博物館を設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。

 

令和2年司法試験論文行政法の感想(4) 設問2の答案例

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。
それ以外の皆様は、よろしければ、ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京は後戻りしない

 老いてく者を置き去りにして

 目一杯 手一杯の

 目新しいモノを抱え込んでく」[1]

 

 

 

 出題傾向の変化が確定した。

 相当数の考査委員(研究者委員)の入れ替えもその一要因かもしれない。

  

 今後は,新しい出題傾向への対応が合否を分けることになるだろう。

 

 

  

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前回の続きである。

 

本日は,令和2年司法試験論文行政法の設問2の答案例を掲載する。

(今回のブログをもって令和2年司法試験論文行政法の答案例(速報版)の掲載は一応終了となる。)

 

参考になれば幸いである。

 

 

 

全体的な感想・印象

(前々々回のブログ記載のとおり) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第1 設問1(1)

(前々回のブログ記載のとおり)  

yusuketaira.hatenablog.com

 

第2 設問1(2)

(前回のブログ記載のとおり) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第3 設問2

1 農振法10条3項2号に掲げる土地(同法13条2項5号)に該当しないとの違法事由

(1) 「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)といえるためには,同法10条3項2号委任する同法施行規則4条の3所定の要件を満たす必要がある。そのため,諸般の客観的な事情からみて[2],「除外」(同法13条2項5号)に係る土地が土地改良事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)に当たる場合には,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらない。

 

(2) Xによると,①本件事業の主たる目的は,農地の冠水防止にあり,また,②本件事業によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくく,特に本件農地は高台にあるため,客観的に,本件事業によって生産性が向上することは考えられない。そして,これら①・②の事情が同法施行規則4条の3第1号括弧書き所定の各事項[3]に該当しうるものであることにも照らすと,本件農地は,本件事業の「施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」に当たるものといえる。

 

(3) したがって,本件農地は,同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)には当たらないから,本件農地については同号の要件を充足する。にもかかわらず,同号の要件を満たさないとするB市による同号に係る要件の認定は,同号に違反し違法である[4]

 

2 農振法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されない旨の違法事由

(1) 次に,本件農地が同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合(同法13条2項5号)は当たるものとされるとしても,同法施行令9条所定の期間制限が本件農地にも一律に適用されることは違法である旨の主張が考えられる。

 この点に関し,土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している農振法13条2項5号等の趣旨・目的は,(ⅰ)同事業によって農業の生産性の向上(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き参照)を図りつつ,他方で,(ⅱ)転用行為に係る利益すなわち「農用地以外の用途に供する」(同法13条2項柱書き)ことないし「他の利用」(同法2条)に係る土地所有者等の利益との合理的調整を図る点にあるものと解される[5]。そして,同法施行令9条所定の期間制限が一律に適用されると解することはかかる趣旨・目的に反し,施行令9条自体が違法無効となると考える。ゆえに,施行令9条自体が適法有効であると認められるには,期間制限が一律に適用されない例外を認めるという限定解釈を施すべきである[6]

 具体的には,(ⅰ´)実質的にみて,特定の農地を農用地区域外から除外しても農業の生産性の向上の点で具体的な支障がなく,かつ(ⅱ´)転用行為に関し著しい不利益を与える場合には,農振法施行令9条所定の期間制限は適用されないものと考える。

 

(2) 本問について検討すると,(ⅰ´)確かに,本件事業全体の工事が完成したのは平成30年12月であるから,本件農地については「8年」(同法施行令9条)を経過していないことになる。しかし,本件農地と関連する上流部分については,10年以上前の平成20年末頃には用排水施設の補修・改修の工事が終了しており,事業全体の工事の完了が平成30年となった理由は,事業の計画変更によって工事が中断されたからである。そうすると,実質的にみて,本件農地を除外しても本件事業による農業の生産性の向上の点で具体的な支障はない。

 また,(ⅱ´)本件農地の転用が認められないとXの長男の医院を本件農地上に開設できず,平成30年度の翌年度から8年の経過が必要とされると,事実上B市の地域に同医院を開設することを事実上断念させることとなりかねないことから,Xらに著しい経済的不利益を与える場合といえる。

 

(3) よって,同法施行令9条所定の期間制限は本件農地には適用されないから,同期間制限が適用されるとするB市による同条の要件認定(解釈適用)は,同条・同法13条2項5号に違反し違法である。

 なお,上記(1) (ⅰ´)(ⅱ´)の判断につき,仮にB市長に行政裁量要件裁量)が認められるとしても,上記(2)の事実関係に関し,重大な事実誤認あるいは考慮不尽が認められるというべきである[7]。よって,裁量権の逸脱濫用(行訴法30条参照)の違法があるから,同法施行令9条・同法13条2項5号の解釈適用に係る違法事由があるといえる。

                                                                         以上

  

 

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[1] Mr.Children「東京」『SUPERMARKET FANTASY』(2008年)。

[2] 一応規範のキーワードめいたものを書くことを試みたが,第3の1の違法事由については,条文→趣旨→規範→あてはめのスタイルで書かなくても,(本答案例のように)条文→あてはめで書くだけでも十分合格することができるレベルの答案となるだろう。

[3] 「主として農用地の災害を防止することを目的とするもの」(同法施行規則4条の3第1号括弧書き),「農業の生産性を向上することを直接の目的としないもの」(同)のことを指す記載である。

[4] 本答案例第3の1の部分は,「当該土地に係る土地が〔農振法〕第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合」(同法13条2項5号)の要件(の該当性)や,土地改良「事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」(同法施行規則4条の3第1号イ括弧書き)の要件(の該当性)については,行政裁量(要件裁量)が否定されるものと解することを大前提とするものである。要件裁量の認否も(半ば無理やり)論点にすることもできるかもしれないが,書くべき優先順位は相当低い論点であるし,また,本試験でこのことまで書いている時間的余裕はないだろう。

[5] (Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の合理的調整いわば2項対立の調整)をいう視点は,令和2年司法試験予備試験論文行政法や,令和3年司法試験論文行政法で出題される個別法の制度や特定の条文等の趣旨や目的を解釈する(答案に示す)ために有用であると考えられる。ちなみに,(Ⅰ)公益と(Ⅱ)私益の各キーワードないし具体的記述については,本答案例のように,個別法の関係条文を参考に書いていくと良いだろう。

[6] 旧監獄法施行規則事件(最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁)の1審(東京地判昭和61年9月25日民集45巻6号1069頁)・2審(東京高判昭和62年11月25日民集45巻6号1089頁)は,法規命令の限定解釈によって法規命令自体は適法有効であると解釈していた(岡崎勝彦「判批」(最三小判平成3年7月9日解説)小早川光郎=宇賀克也=交告尚史編『行政判例百選Ⅰ〔第5版〕』(有斐閣,2006年)98~99頁(99頁)・48事件参照)。なお,これは,憲法学における合憲限定解釈に似ているものといえよう。

[7] この裁量の点は配点が大きくないと考えられるため簡潔に書いた。

 

令和2年司法試験論文行政法の感想(3)設問1(2)の答案例

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。 それ以外の皆様は、よろしければ、ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでだって 待っているから

 待っているから 待っているから」[1]

 

 

 Xが待っているのは,B市長の処分ですが…。

 

 

 

 

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前回の続きである。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

今回のブログでは,令和2年司法試験論文行政法の設問1(2)の答案例を掲載する。

参考になれば幸いである。

 

 

第1 設問1(1)

(前回のブログ記載のとおり)

yusuketaira.hatenablog.com

  

第2 設問1(2)

 

1 Xの置かれている状態,B市の対応の法的な意味

 Xは,申出書等の申請書類を所定の方法でB市の関係課に物理的に[2]提出し(本件運用指針4条1項),かかる申請書類はB市長の事務所に「到達」(行政手続法7条)したといえる。にもかかわらず,B市職員が同書類を返送するなどの対応をしているが,この行為は申請書類の不受理あるいは返戻にあたる。

 そのため,Xとしては,相当の期間申請書類の審査が開始されない状態に置かれているが,上記不受理・返戻の対応は,受理概念を否定し,法律による行政の原理の当然の要請として[3]申請の到達により審査義務が発生することを明確にした同法7条[4]に違反する行為である。

 

2 提起すべき抗告訴訟不作為の違法確認訴訟

 以上のとおり,本問では,B市長が,Xの法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分をすべきであるにかかわらず,これをしないことから,不作為の違法確認の訴え行訴法3条5項)を提起すべきである。[5]

 

3 訴訟要件の充足性

(1) 不作為の違法確認訴訟の訴訟要件は,①原告適格(「法令に基づく申請」(同法3条5項,申請権)・「申請をした者」(同法37条)),②狭義の訴えの利益,③被告適格(同法38条1項,11条)及び④管轄(同法12条)である[6]

 

(2) ①については,前記第1の2(3)のとおり,本件計画変更の申出について「除外」(農振法13条2項)の申請権が同法に基づき認められるものといえ,また,本件申出書等の申請書類は令和元年2年5月8日か,遅くとも令和元年2年5月10日までに到達しているから(上記1),Xは現実に申請をした者といえ,原告適格が認められるといえる。

 ②については,本問において行政庁の不作為状態が継続しており,これが解消されるなどの事情はない[7]ことから,狭義の訴えの利益が認められる。

 ③・④についても,特に問題はなく満たす。

 

(3) よって,同訴訟の訴訟要件を充足するといえる。

 

4 本案においてすべき主張

(1) 不作為の違法確認訴訟の本案勝訴要件は,「相当の期間」(行訴法3条5項)の経過である[8]。同期間経過の有無については,通常の所要期間を経過した場合には原則として違法となるが,同期間経過を正当とする特段の事情がある場合には違法とはならないという基準で判断すべきである。[9]

 

(2) 本問では,通常の所要期間に関し,法定の期間はないが,B市が「除外に1年程度要する旨を公表」していることから標準処理期間(行政手続法6条)も1年程度と考えられ定められていないが,また,Xと同時期に申出をした他の農地所有者らに対しては,すでに令和2年4月7月[10]に通知(本件運用指針4条4項)がなされていることから,平均的な審理(審査)期間[11]も1年程度2か月程度か遅くとも3か月であると考えられる。そうすると,同年5月13日の時点では,Xの申請(前記3(2)のとおり遅くとも令和元年5月10日までに行っている。)から1年3か月を経過しているから,標準処理期間通常の所要期間を経過したといえる。

 また,Xは申出をやめる意思がない旨をB市職員に伝えているから,本問ではB市職員の行政指導により円満な解決が見込まれるという事情[12]があるとはいえず,また,申請者が急に激増したという事情[13]もないから,標準処理期間や通常の所要期間の経過を正当とする特段の事情もない

 

(3) よって,「相当の期間」は経過しているから,Xの申請に対するB市長の不作為は違法である。

 

第3 設問2

(次回ブログで掲載予定)

 

 

 

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[1] GRAPEVINE「君を待つ間」『退屈の花』(1998年)。

[2] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅰ」という)458頁。

[3] 塩野宏=髙木光『条解 行政手続法』(弘文堂,平成12年)151頁。

[4] 宇賀・概説Ⅰ458頁参照。

[5] 設問の指示を受けて,申請型義務付け訴訟(不作為型)は本答案には一切書いていない。

[6] 大島義則『実務解説 行政訴訟』(勁草書房,2020年)(以下「大島・実務解説」という。)167頁〔朝倉亮太〕参照。

[7] 大島・実務解説178頁参照〔朝倉亮太〕。

[8] 大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕。

[9] 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2020年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)322,326頁,大島・実務解説168頁〔朝倉亮太〕,東京地判昭和39年11月4日行集15巻11号2168頁参照。この基準(規範)についての理由付けは特に要らないだろう。なお,「特段の事情」を違法性阻却事由と整理する立場に立つとしても(大島・実務解説183頁〔朝倉亮太〕参照),答弁書でこの点に関する主張がB市側から出てこないことは実務上普通考えられないように思われることや,答案政策の観点から(「B市の反論を想定し」とあるので加点要素と考えられるため),X(原告)側の主張として(先に)書いてしまっても(訴状において主張しても)よいと考えられる。

[10] 本答案例は,司法試験の実施日が「法律事務所の会議録」の会議日であることを前提に書いたものである。※当初、一部、問題文の年月日を誤読していました。失礼いたしました。

[11] 大島・実務解説188~190頁〔朝倉亮太〕参照。

[12] 宇賀・概説Ⅱ327頁,東京地判昭和52年9月21日行集28巻9号973頁参照。

[13] 宇賀・概説Ⅱ326~327頁,熊本地判昭和51年12月15日判例時報835号3頁参照。

 

令和2年司法試験論文行政法の感想(2) 設問1(1)の答案例

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。 それ以外の皆様は,よろしければ,ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の心臓のBPMは190になった」[1]

 

 

 

うすうす出題傾向の変化を感じていたが,今年,それが確信に変わった。

司法試験論文行政法が基本知識や基本判例をベースに現場で思考させる性格の(より)強い問題になってきているように感じられる。付け焼刃の対処法では対応が難しい問題といえ,平成20年代前半(平成25年まで)に近い印象である。

 

個人的には,痺れるような良問であった。

時代に合わせて変化する司法試験論文行政法を心から歓迎したい。

 

 

 

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 前回の続きである。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

本日は,令和2年司法試験論文行政法の設問1(1)の答案例を掲載する。

参考になれば幸いである。

 

 

第1 設問1(1)

 

1 【論パ[2]抗告訴訟の対象となる処分のうち,「行政庁の処分」(32項)とは[3],①公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(公権力性),②その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(法効果の直接性・具体性)③法律上認められているもの(法律の根拠)をいう[4]

 

2 本件計画についての具体的検討

(1) 本件計画の法的性格

 以上の定式を本問についてみると,まず,本件計画のような農業地区域を定める計画(農振法8条1項)は,同法2条の基本原則に照らし,農業地域の保全・形成や農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進するものであるから,その法的性格は,講学上の行政計画といえる。また,農業地区域を定める計画の変更(同法13条1項)等がなされない限り,農地の転用(同法17条農地法4条6項1号イ参照[5]が認められないことから,同計画は,都市計画法上の用途地域と同じく,同計画にかかる地域・地区内の土地所有者等に建築基準法上の新たな制約を課す法定の完結型計画の一種といえる[6]

 そうすると,上記のような一定の法状態の変動は生じるものの農振法15条の2,17条用途地域指定についての昭和57年判決の場合と同様に,その効果はあたかも新たに制約を課する法令が制定された場合と同様不特定多数の者に対する一般的抽象的な効果にすぎないとのB市の反論が想定される。

 しかし,用途地域内では特に開発行為による土地の区画形質の変更が規制されるのに対し,農地の転用では「農地を農地以外のもの」にすることが禁止されており(農地法4条6項1号),区画形質の変更を伴わない行為まで一般的に禁止しているため(農振法15条の2,17条参照),財産権に対する規制の程度が強い[7]。そこで,本件計画については,上記昭和57年判例の射程は及ばず,個々の土地所有者等に権利制限の一部解除を求める権利[8]あるいは転用行為の自由[9]が留保されており,本件計画によりこの権利・自由が具体的に制限されるものと解すべきである。

 

(2) 個別の農地を農業用区域から除外する計画変更の処分性

 次に,本件農地ような個別の農地を農業用区域から除外する計画変更は,上記(1)の個々の土地所有者等の権利制限の一部解除を求める権利あるいは転用行為の自由を回復するものといえるから,同計画変更の法効果の直接性・具体性(上記1②)があるといえる。

 また,同計画変更は,私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[10],公権力性(上記1①)も認められる。さらに,農振法13条1項・2項により法律の根拠(上記1③)も認められる。

 したがって,同計画変更の処分性は認められる。

 

(3) 本件計画変更の申出の拒絶の処分性

ア 法効果の直接性・具体性

 本件計画変更の処分性は認められるとしても,農振法15条1項・2項が「申請」と明記するのに対し,本件計画変更の申出については,「除外」(同法13条2項)の「申請」権を法令上規定しておらず,また,同申出の拒絶に対する審査請求等の行政不服申立てに関する規定もなく,さらに,本件運用指針は講学上の法規命令ではなく行政規則にすぎないから,同拒絶の処分性は認められず,職権による計画変更が前提とされているとのB市の反論が想定される。

 しかし,行政不服申立てではないものの,勧告·調停という一定の手続は法定されている(同法14条1項·2項、15条1項·2項)。また,本件運用指針4条1~4項により,計画変更の申出とそれに対する可否の通知の手続が定められており,「申請」ではなく「申出」とされてはいるものの,諮問機関の意見を求め(同条2項),県(国)との事前協議を行う(同条3項)という慎重な手続によることとされ,B市は信義則あるいは平等原則の見地から同手続に自己拘束されることから,同手続は確立した実務上の手続となっている。そのため,B市は,農地転用許可申請に対する不許可処分の前の段階で,同条4項の「通知」すなわち申出の拒絶をもって,同不許可処分の処分要件に関する最終決定を前倒しして行うことになる。すると,この中間的措置とはいえない最終決定としての申出の拒絶は,実質的には,除外(同法13条2項)の申請に対する拒否処分(不許可処分)として機能しているといえ[11],あるいは申出を行っても申出をした者は特段の事情のない限り事後に農地転用許可申請をしても不許可処分を受けるという法的地位に立たされることになる。

 また,見込みのない農地転用許可申請を行い,不許可処分を待って同処分に対する取消訴訟を提起して本件計画に不変更の違法性を争う方法も考えられ,加えて,本件計画については他の多くの利害関係人の利益を害することは少ないから,浜松市土地区画整理事業計画事件(大法廷判決)の場合とは異なり事情判決行訴法31条1項)がされる可能性は低いため,除外の申請権を認めうるための紛争の成熟性はないという反論が想定される[12]

 しかし,浜松市土地区画整理事業計画事件は非完結型計画の事案であるため,完結型計画の本件には判例の射程が及ばないというべきある。また,申出の拒絶の処分性の認否は微妙な問題であるため同訴訟では違法性の承継も争点となりうること[13]に加え,同訴訟で争わせることは農地転用許可がなされないことによる損害を相当期間にわたり原告に負わせることになり,農地転用許可後に行う予定であった事業自体を断念させる結果をも生じさせかねないことに照らせば,実効的な権利救済を図る見地から,除外の申請権を認めるための紛争の成熟性はあるというべきである。

 したがって,法効果の直接性・具体性(上記1②)は認められる。

イ また,農振法13条2項等は,行政機関の判断で,処分の手続を用いる仕組みを構築することを許容している趣旨の規定と解しうるから,法律の根拠(上記1③)も認められる[14]。さらに,計画変更の場合と同様に,申出の拒絶についても公権力性(上記1①)が認められる。

 よって,申出の拒絶の処分性は認められる。[15]

 

 以上より,本件計画の変更及びその申出の拒絶は,抗告訴訟の対象となる処分に該当すると考える。

 

第2以下は、次回掲載予定)

 

 

 

 

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[1] あいみょん「君はロックを聴かない」(2017年)。

[2] 「論パ」とは,「論証パターン」(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号23頁(2018年)〔井田〕)の略称である。論証パターンの「利点」と「危険」に関し,賢明な受験生は,同23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[3] 判例(最一小判昭和39年10月29日)による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)283頁(以下「中原・基本」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式といえるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をした(「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかといった問題提起をしていない)。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容,物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・同書79頁参照)。

[4] 学説における3要件説に立ったことを示している。このような立場を採る研究者・元(新)司法試験考査委員の文献として,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)364~365頁(ただし,同365頁は第1要件を権力性と称する)。他方で,実務的には,処分性は行為の公権力性及び法律上の地位に対する影響の2つの要素により判定され,その際に実効的な権利救済の観点も考慮されている(大島義則『実務解説 行政訴訟』(勁草書房,2020)35頁〔大島義則〕参照)。なお,少なくとも本問については,どちらの立場に立って答案を書いても大差はないものと思われる。

[5] なお,農地法4条に基づく転用は,実務上「自己転用」と呼ばれることがある(宮﨑直己『農地法講義[三訂版]』(大成出版社,2019年)(以下「宮﨑・農地法講義」という。)129頁)。

[6] 木村琢磨(令和2年司法試験考査委員(行政法))『プラクティス行政法〔第2版〕』(信山社,2017年)119頁参照。同頁は,「行政計画は,法定の計画か法定外の計画かという観点から区別されるが,行政救済法との関係で重要なのは,完結型と非完結型の区分である。」とする。

[7] 髙木賢=内藤恵久『改訂版 逐条解説 農地法』(大成出版社,2017年)123頁参照。

[8] 千葉地判昭和63年1月25日判例時報1287号40頁,大橋洋一行政法判例の動き」平成30年度重要判例解説30頁以下(33頁)参照。

[9] 宮﨑・農地法講義142頁参照。

[10] 処分性の第1要件である公権力性がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがある(横浜地判平成12年9月27日(判例地方自治217号69頁・裁判所ウェブサイト)事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」と判示している)。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)42頁〔野呂充〕参照)。

[11] 山本・探究340~341頁参照。

[12] 前掲津地判平成29年1月26日参照。なお,この控訴審判決である名古屋高判29年8月9日判例タイムズ1446号70頁は,原審(津地判)ほど浜松市土地区画整理事業計画事件大法廷判決(最大判平成20年9月10日民集63巻8号2029頁)を意識したものとはなっていない(山下竜一「判批」(名古屋高判29年8月9日解説)平成30年度重要判例解説50~51頁(51頁)参照)。なお,この農地転用許可申請の不許可処分を待って同処分に対する取消訴訟を提起するという他の訴訟による手段があることについては,用途地域指定についての昭和57年判決でも言及があるが、答案のこの部分では、同判例に(明確に)言及をすることはしなかった。

[13] 前掲千葉地判昭和63年1月25日参照。

[14] 太田匡彦「判批」(最一小判平成15年9月4日(判時1841号89頁)解説)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)324~325頁(325頁)・157事件,山本・探究318頁参照。ただし,答案例のこの部分は理由付けが弱い。同判例のような保険給付・援護費の「補完」関係のような要素が本問では読み取れないと思われるからである(山本・探究318頁等参照)。

[15] 前掲千葉地判昭和63年1月25日は,申出の拒絶の処分性を肯定したが,前掲名古屋高判29年8月9日・前掲津地判平成29年1月26日のように,処分性を否定してもよいし,その方が無難かもしれない。

 

令和2年司法試験論文行政法の感想(1)

令和2年司法試験受験中の受験生の皆様は試験終了まで読まないように(下にスクロールしないで)してください。
それ以外の皆様は、よろしければ、ご笑覧ください。よろしくお願いいたします。






























本日実施された令和2年司法試験論文行政法の感想(1)である。


1 第一印象
第一印象は「重判で見たやつかも」である。

結構前になるが、平成30年度重要判例解説が出た当初、関係の裁判例=名古屋高判平成29年8月9日判タ1446号70頁・同重要判例解説行政法8事件(主なもとネタ裁判例と思われる)のツイート↓していた。


https://twitter.com/YusukeTaira/status/1122829717940228097?s=19

ということで、一応、注目はしていた裁判例が出題されたことにはなる。

(とはいえ、今年も個別法の予想(入管法)が外れてしまったが…。)



2 重判の裁判例を知らなくても基本判例を勉強していれば書ける(設問1(1))
会話文で、用途地域指定の処分性(否定)の判例(最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁)が引かれているので、基本的な判例の射程を正面から聞いていることが分かる。

設問1(1)は、上記1の裁判例に結論を合わせるならば、処分性を否定することになる。もっとも、事案も同一とは限らず、重判解説51頁3にもある土地区画整理事業計画事件(最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁)の活用次第では処分性肯定も可能だろう。

なお、設問1(2)の設問内容自体を処分性肯定の誘導と読んでも本試験の場ではおかしくないことだと思われるため、処分性肯定で書いた受験生は多いように思われる。



3 不作為の違法確認訴訟とは…(設問1(2))
去年もマイナーな無効確認訴訟(行訴法3条4項)が出たが、今年は、設問1(2)で、(平成16年改正後は)よりマイナーな(?)不作為の違法確認訴訟(行訴法3条5項)が聞かれた。

申請書の返戻事案ということで古典的であるが、今さら感がある。考査委員は現場思考を望んでいるのだろうか…。



4 法規命令の限定解釈による主張か(設問2)
設問2は、行政法の教科書にはあまり書かれていないため、基本的には現場思考の問題といえる。

法規命令(政令)自体を無効にできないという会話文上の縛りがあるので、法律の趣旨に適合する限定解釈を施し(ゆえに政令自体は合理的内容となる)、本件に施行令9条を適用することは裁量権の逸脱濫用であるなどと主張することになろう。

憲法の合憲限定解釈のような考え方であるが、例えば、旧監獄法施行規則事件(最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁)の1審・2審では、上記ような法規命令の限定解釈によって法規命令自体は適法有効であるとしていた(しかし最高裁は違法無効としたが)。

なお、法規命令と行政規則とは違うため、行政規則としての裁量基準の話で登場する個別事情考慮義務を考慮すべきという筋の答案だと、何も書かないよりはよいのかもしれないが、普通は高い評価は得られないと思われる(もっとも相対評価マジックはあるかもしれない)。



5 理論と実務の架橋を図る良問

農地法、農振法は、実務で問題となりやすい個別法であるため、出題分野あるいは個別法としては、また基礎知識をベースに現場での思考力をできるだけ試そうとしている点でも、昨年に引き続き理論(研究)と実務の架橋図ろうとする良い問題であった思われる。


以上、とりあえずの全体的な感想ないし印象であるが、お読みいただいている皆様に少しでも参考になれば幸いである。

コロナ法テラス特例法案と弁護士自治(1) ~特例法案に係る日弁連のロビー活動は会則59条違反か?~

「組織は個人とは異なるレベルの力を持ち,そして,組織の中の対立関係はもしかすると一部の個人を阻害してしまいます。(中略)

けれども現実の組織は決して悪役ではありません。企業や大学などたいていの組織は社会に貢献する『善の組織』で,個人ではなしえない大きなプラスの価値を実現しています。また実際には,組織は内部の個人のインセンティブを組織に沿わせ,対立関係を解消する工夫を施しているはずで,そうでなければ組織としての目的を実現できません。」[1]

 

 

 

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1 コロナ法テラス特例法案に係る日弁連の「要望」と会内手続

 

Twitterで話題となった(なり続けている)「新型コロナウイルス感染症等の影響を受けた国民等に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律案」(以下「コロナ法テラス特例法案」という。)が衆議院のウェブサイトで公表された。

 

本法案の内容は以下のサイトで確認できる。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g20105025.htm

 

議案提出者は階猛議員ほか3名である。本法案は,閉会中審査とされた。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DCF436.htm

 

階猛議員のTwitterなどによると,「日弁連」からの「要望」ないし「要請」があったことなどから,本法案が提出されたようである。

 

しかし,「いわぽん」先生(弁護士・56期)の2020年6月20日のブログ(「新型コロナ法テラス特措法案要請の顛末」)によると,日弁連執行部は,国会議員らに対する上記な要望・要請をするに当たって,事前に,日弁連の理事会で(もちろん総会でも)審議や報告をしなかったようである。つまり,総会や理事会レベルでは事前手続は皆無であり,事後に(6月19日)理事会に報告をするという手続を経ただけであったようである。

 

https://yiwapon.net/archives/9747

 

さて,本ブログの筆者は,従前からTwitterでは問題がある旨指摘していたが,このような日弁連日弁連執行部のメンバー)の活動,すなわち,ロビイング[2]ないしロビー活動[3]という対外的活動とそのことに関する会内の手続(理事会への事後報告)は,弁護自治との関係で問題があるというべきではないだろうか?[4]

  

[https://twitter.com/YusukeTaira/status/1272157265328365568:embed#新型コロナ法テラス特措法案に関し、強制加入団体の日弁連は、内部構成員(会員である弁護士)の営業の自由や利害に深くかかわる法案(法律改正案)であるにもかかわらず、会員に抜き打ちで不意打ち的に、多数の国会議員に積極的な提案・要請をした… https://t.co/RdFLGBvHHH]

 


2 弁護士自治の要素と「会則による行政の原理」

 

今,「弁護士自治」と述べたが,弁護士自治については,論者によって一定していない感があるが,一般には,弁護士の資格審査や弁護士の懲戒を弁護士の団体に任せ,それ以外の弁護士の職務活動や規律についても,裁判所,検察庁または行政官庁の監督に服せしめない原則をいうものと解されている[5]

 

このような弁護士自治の一要素として,弁護士会自治を実施することができる組織と体制が必要であることが挙げられ,その組織と体制は,日弁連会則を頂点とする様々な規定に基づいており,それに従い総会・理事会や正副会長,事務総長を頂点とする事務部門が整備されているのである[6]

 

以上のことから,実質的に「弁護士自治」すなわち「弁護士」の「自治(自己統治―Self Governance)」の存在意義があるものといえるためには,上記の日弁連会則が正副会長を含む日弁連会員らによって遵守されることが必要であるというべきである。

 

例えば,日弁連会則が日弁連執行部(正副会長等)によって蔑ろにされるような事態が仮に生じてしまった場合,弁護士自治が「内部から」崩壊ないし瓦解[7]するリスクが高まるものと言わざるを得ない。

 

ゆえに,弁護士自治の要素として,「日弁連執行部が日弁連会則に基づき日弁連会則に従って日弁連の活動を行うこと」が(も)挙げられるべきである。

本ブログ筆者としては,このことを法律による行政の原理(法治主義[8]ならぬ「会則による行政の原理」(会則主義)と称したい。

 

 

3 理事会審議事項(日弁連会則59条)の解釈

 

さて,日弁連会則34条は,日弁連総会(定時総会・臨時総会)の審議事項として,「理事会…において総会に付することを相当と認めた事項」(同条5号)を定め,また,その理事会審議事項として,「本会の運営に関する重要事項」(同会則59条1号),「その他会長において必要と認めた事項」(同条7号)を規定している。

 

そして,特定の法案に対し特定の観点から反対意見を述べる場合(例えば,下記4のスパイ防止法案の場合)や,逆に,賛成意見を述べる場合,さらに,国会議員等に働きかけを行う場合であるロビイングを行う場合,法案の内容次第では,「本会の運営に関する重要事項」(同会則59条1号)に当たる場合となるものと解される。

 

では,この「法案の内容次第」とは何を意味するか。

 

ズバリこのような場合だと言うことは容易ではないが,少なくとも,[1]日弁連の活動が,直接又は間接に会員である弁護士個人に重大な利害,影響を及ぼす場合[9]であって,かつ,[2]「会員の意見が大きく別れる問題」[10]については「重要事項」(同会則59条1号)に当たると解されよう。

 

なお,同号に当たると言えなくても,「その他会長において必要と認めた事項」(同条7号)に当たるというべきであり,すなわち,上記2要件を満たす場合には,会長の手続の裁量[11]ないし手続裁量[12]類似の裁量判断(消極的な裁量)を拘束し,会長において「必要と認め」ないという判断を許さない(必要と認めないことは裁量権の消極的濫用となる)ものと解すべきであろう。

 

 

4 スパイ防止法案に関する活動の場合(総会決議)

 

ところで,弁護士自治の問題に関する重要判例のうち,特に重要な判例・裁判例の1つとして,国家秘密法案スパイ防止法)に反対する旨の総会決議(1987(昭和62)年)の無効確認等請求訴訟[13]が挙げられる。同訴訟において,東京高裁第5民事部は,次のとおり判示した。

 

「法人は、本来その定められた目的の範囲内で行為能力を有するものであり、その活動は目的によって拘束されるものである。特に、被控訴人のような強制加入の法人の場合においては、弁護士である限り脱退の自由がないのであり、法人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがあることを考えるならば、個々の会員の権利を保護する必要からも、法人としての行動はその目的によって拘束され、たとえ多数による意思決定をもってしても、目的を逸脱した行為に出ることはできないものであり、公的法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主張や目的に出たり、中立性、公正を損うような活動をすることは許されないものというべきである。」(下線引用者)[14]

 

このように,東京高裁は,日弁連総会決議が手続的に適法になされた事案につき,たとえ多数による意思決定をもってしても,中立性,公正性を損なうような活動をすることは許されない(弁護士法の目的の範囲外の活動となる)旨判示している。

 

また,日弁連自身も,この訴訟の第一審の第2回口頭弁論において陳述した平成元年9月21日付け被告準備書面において,以下のような主張をしている。

 

「もちろん、『国民の付託』による弁護士自治も、無限定ではありえない。

この問題については、次の5点をはっきり確認しておく必要がある。

1 弁護士自治の理念と限界を規定しているのが弁護土法(1条・45条2項など)であり、その適合性をまず弁護土会自身が判断するところに弁護士自治の本旨がある。

2 したがって、本件決議についても、決議の内容が直後的に弁護士法に違

反しているかどうかではなく、日弁連がそれを弁護士法に適合しているものと判断したことが訴訟の対象になっている。

3 ところで、何が弁護士法1条の規定に沿うのかは、状況によって問題の中身が千差万別であり、条文解釈によって一義的に定めることが本質的には不可能であって、結局多数意見による会内合意の共通項がその枠組を決定するものと言わなければならない。

4 国家秘密法問題の場合には、何をとり上げるのかではなく、どのような角度からとり上げるのかが重要な問題であって、答弁書・本案前の申立理由三項「本件決議の特徴」記載の通り、法律実務の専門家の立場から、人権侵害の危険の有無・程度を検討することに徹し憲法9条等会員の意見が大きく別れる問題には触れないことにするという点で、会内合意の共通項が確立されてきた。

5 (略)」(下線引用者)[15]

 

以上のことからすれば,判例・裁判例や(これまでの)日弁連としては,団体(日弁連)として会員の見解の分かれうる法案に対し特定の観点から反対意見を表明する場合には,多数決による会内合意を示す手続(総会決議)を行っていることが弁護士法の「目的の範囲」内の活動となることの重要な要素となることを暗示してきたものと解されよう。

 

また,上記3の2要件との関係でいうと,日弁連は,スパイ防止法案につき特定の観点から会として反対意見を述べることに関しては,[2]の要件だけで,総会審議事項とすべきものと考え,かつ,理事会審議事項であり「重要事項」(同会則59条1号)にも当たる(当たりうる)ものと解してきたものと考えられる[16]

 

 

5 コロナ法テラス特例法への当てはめ

 

それでは,コロナ法テラス特例法について,上記2要件を当てはめてみよう。

 

[1]「日弁連の活動が,直接又は間接に会員である弁護士個人に重大な利害,影響を及ぼす場合」(第1要件)については,少なくとも「間接」の「利害」を及ぼすことは論を待たないであろう。

 

また,[2]「会員の意見が大きく別れる問題」(第2要件)についても,殆ど明白ではないかと思われる。

 

もちろん日本司法支援センター(法テラス)は公益に資する活動を行っているが,他面において,弁護士からは法テラスに対する批判が絶えない。例えば,(行政事件の)「持ち込み案件」につき,「弁護士としては、安くて、手間がかかって、とても割に合わない」という意見がある[17]

 

したがって,コロナ法テラス特例法案に賛成する旨の日弁連としてのロビー活動は,「重要事項」(日弁連会則59条1号)に当たるものといえる。

 

そうすると,日弁連執行部(会長・副会長)としては,本来は,最低限,理事会での審議をすべきであったということになる。

 

しかし,前記1のとおり,日弁連執行部(会長・副会長)は,事後に(6月19日)理事会に報告をするということしか行っておらず,理事会の審議事項として,理事会に諮る事前手続を経なかったわけである(ゆえに,もちろん総会の審議事項にもなっていない)。

 

よって,日弁連執行部(会長・副会長)によるコロナ法テラス特例法案に賛成する旨の日弁連としてのロビー活動は,(実質的に)日弁連会則59条等に違反して行われた疑いがあるものと言わざるをえない。

本来は,事前に理事会に諮り,かつ総会決議がなされて初めてなしうる活動というべきではなかろうか。理事会審議事項や総会審議事項となることによって,会としての活動を行うことにつき,反対(消極)意見等が明らかになることが多いが,そのような機会を経ないことには適正手続[18]の趣旨に照らすと問題があるだろう。

 

本ブログ筆者は日弁連執行部のメンバーではないため事実関係の詳細までは分からないが,少なくとも,日弁連執行部(特に会長・副会長)としては,以上のような一会員の(Twitterを見る限り「一会員」だけはないと思われる。)意見に関し,できる限りの説明を尽くす責任があるように思われる。[19]

 

 

なお,以上の意見に対しては,(A)すでに(概ね)会内合意はできていた(したがって,第2要件を満たすものではない),(B)緊急性の高い案件であることなどから,理事会や総会の審議を経なくても行いうる活動であった,といった反論が考えられよう。

 

これらについては,追って検討することとしたい。

 

 

 

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「組織にとって重要なのは『組織を構成する個人のインセンティブを調整・制御し,組織の性能をいかにして高めるか』ということです。現実社会の善の組織が役割を最大限に果たすためには,この問いを真剣に考える必要があります。」[20]

 

 

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[1] 玉田康成「書評『組織の経済学』」書斎の窓669号(2020年)38頁(38~39頁)。

[2] ここでは,「ロビイング」を「利益団体が政府において意思決定や政策形成を行う政治家や官僚などに,その利益の実現を目指して働きかけを行うこと」を意味するものとして用いている(永井史男=水島治郎=品田裕編著『政治学入門』(ミネルヴァ書房,2019年)147頁〔田村哲樹〕参照)。なお,この定義にいう「政治家」には,当然,国会議員(野党の議員を含む)も含まれる。

[3] ロビイングは,ロビー活動とも呼ばれる(新村出編『広辞苑 第七版』(岩波書店,2018年)3149頁)。

[4] なお,本ブログ筆者は,刑事事件以外では,法テラスが手続に関係する事件を殆ど扱った経験がないことなどから,本ブログでは,基本的には,コロナ法テラス特例法案の内容の妥当性に関する問題は扱わないこととし,日弁連会則(会内手続・ガバナンス)の点だけを検討をすることにする。

[5] 髙中正彦『弁護士法概説 第5版』(三省堂,2020年)11頁。

[6] 矢吹公敏「『弁護士自治』の意義と要素」弁護士自治研究会編著『JLF叢書vol.24 新たな弁護士自治の研究-歴史と外国との比較を踏まえて』(商事法務,2018年)(以下「新たな弁護士自治の研究」という。)1頁(3~5頁)参照。

[7] 髙中・前掲注(5)16頁,石田京子「弁護士自治と海外制度」新たな弁護士自治の研究95頁(111頁)参照。

[8] 塩野宏行政法Ⅰ[第六版] 行政法総論』(有斐閣,2015年)77頁。

[9] この第1要件については,日弁連被告事件(後掲)の東京高判平成4年12月21日自由と正義44巻2号(1993年)103頁が「法人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがあることを考えるならば…」と判示していることや,株式会社(日弁連のように公益法人ではないが)も,株主の地位に重大な影響を及ぼす場合などには株主総会の特別決議が必要と解されていること(田中亘『会社法 第2版』(東京大学出版会,2019年)187頁参照)などを考慮した。

[10] 第2要件については,日弁連が,国家秘密法案(スパイ防止法案)に反対する総会決議(1987(昭和62)年)につき,「法律実務の専門家の立場から,人権侵害の危険の有無・程度を検討することに徹し,憲法9条会員の意見が大きく別れる問題には触れないことにするという点で,会内合意の共通項が確立されてきた」(自由と正義40巻11号(1989年)105頁,下線引用者)と説明していることなどを考慮した。

[11] 塩野・前掲注(8)146頁。

[12] 橋本博之『現代行政法』(岩波書店,2017年)76頁。

[13] 本件訴訟は,弁護士である原告(控訴人・上告人)ら111名が,被告(被控訴人・被上告人)日弁連に対し,日弁連総会でなされた「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関する法律案」(当時自民党が国会に提出すべく準備中であった法律案)を国会に提出することに反対する決議(1987(昭和62)年5月30日付け「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案に反対する決議」)につき,日弁連の目的(弁護士法45条2項)の範囲を逸脱し,また,同決議と見解を異にする原告らの思想良心,言論の自由を著しく侵害し,ひいては結社の自由,職業選択の自由をも侵害するものであるから,その内容において憲法19条,21条,22条に違反し無効であると主張して,同総会決議の無効確認を請求するとともに,日弁連が行う同法案の反対運動(その費用は会員の一般会費により賄われている日弁連の会財政から支出)に対する差止めと慰謝料の支払いを求めたもの(差止請求,慰謝料請求)である。

[14] 東京高判平成4年12月21日自由と正義44巻2号(1993年)101~103頁。なお,上告審は,この控訴審の判断を正当として是認している(最二小判平成10年3月13日自由と正義49巻5号(1998年)210頁)。 

[15] 「『総会決議無効訴訟』報告(2)」自由と正義40巻11号(1989年)96頁(96,104~105頁)。

[16] なお,同時に[1]の要件(日弁連の活動が,直接又は間接に会員である弁護士個人に重大な利害,影響を及ぼす場合)を満たすとも考えられよう。

[17] 阿部泰隆『行政の組織的腐敗と行政訴訟最貧国 放置国家を克服する司法改革を』(現代人文社,2016年)94頁。

[18] 塩野・前掲注(8)295頁。

[19] なお念のため付言すると,本ブログの目的は,諸外国にも類例をほとんどみないと言われる自治権を認めた日本の弁護士自治(髙中・前掲注(5)11頁参照)を守る(特に内部からの崩壊・瓦解を防ぐ)点にある。

[20] 玉田・前掲注(1)39頁。