弁護士会は手続的正義を実現できるか? ―9/24(木)東弁臨時総会・第2号議案について考える―
2020年9月24日(木)12時30分から、弁護士会館2階 講堂(クレオ)で、
東京弁護士会臨時総会が開催されます。
第1号議案は「代理行使できる総会の議決権数の変更のための東京弁護士会会則等の一部改正の件」、
第2号議案は「死刑制度廃止に向け、まずは死刑執行停止を求める決議」(案)の件」です。
どちらも重要な議案ではありますが、第2号議案については、他会の状況(千葉や埼玉)からすると、東京弁護士会(=東弁)においても、賛否が拮抗している可能性が高いです。
第2号議案は、実質的には、死刑制度の廃止を求める決議だといえます。
この件については、昨日、以下のツイートをしています。
東弁の(実質的に)死刑廃止決議案の賛否を問う臨時総会は9月24日(金)12:30~ですが、他会の状況からすると、賛成·反対が拮抗している可能性が高いです。代理人選任届の提出期限は過ぎましたが、本人出席は当日ドタ参で可能です。国政選挙と同じく会員の一人ひとりの意思表示が弁護士自治には重要です pic.twitter.com/IctfqHag9O
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2020年9月17日
私個人は(私も東弁会員です)、死刑は廃止すべきであるという立場ですが、本日まで様々な意見を持つ東弁会員の先生方と意見交換をさせていただき、その結果、この決議案の内容で決議をすることについて、その手続の妥当性にかなり疑問を持っています。
最大の疑問は、なぜ東京弁護士会では、札幌弁護士会が実施したような全会員アンケートを実施しようとしないのか?というものです。
賛否が拮抗しているのですから、極端なことをいえば、51vs49で可決あるいは否決されるということもあるわけです。
千葉は否決され、埼玉でもいったんは否決されているわけですから、せめて札幌のように、会員の考え方を把握してから、決議を実施すべきだと考えます。
弁護士はみな法の専門家です。そのような個々の弁護士(総会の議案との関係では東弁会員)がどのように考えているかは、重要なことです。
死刑廃止を成し遂げた国では、政治的リーターシップが決定的に重要であると分析されていること(庄武「死刑制度論における世論の意義」判例時報2441号107頁(110頁))は私も理解しているつもりですが、このリーダーシップ論のようなものは、法の専門家集団で構成される弁護士会にはそのまま妥当するものではないと思います。弁護士会は、会員のコンセンサスの形成に努めるべきで、そのためには、そもそも会員がどのように考えているのか調査する必要があると思います。
第2号議案は、会員の思想良心の自由(憲法19条)にも関わる問題も含む微妙な問題です。単に刑法の改正の話だから会員の思想良心は関係ないと理解するのは判例の立場からすると誤解です。犯罪被害者側の代理人をされている会員の場合、業務に具体的に関わる問題でもあるようです。
よって、この議案については、かなり慎重な手続を経るべきであり、少なくとも全会員アンケートを実施し、例えば、ある程度、死刑廃止賛成の意見が大多数を占めることが明らかになった段階か、そこまでいかなくても一定のコンセンサスが形成できたといえる段階で、議案とすべきでしょう。
総会は木曜日の午後という、平日に実施されます。当日出席して議論を聞いたうえで、賛否を決めたいという会員がいても打合せや裁判の期日等との関係で出席ができないかもしれません。ですから、(特に東弁のように会派の活動が活発な弁護士会では)実際に総会に出席する会員の賛否の割合と、総会に出席しない(できない)会員の賛否の割合とは一致せず、ズレがあると思います。
(なお、東弁では会員集会というものもありますが、この会に出席する弁護士はほとんど会派(俗称:派閥)に属している弁護士で限られていますし、常議員会も同様ですから、常議員会が賛成多数であっても、全会員の意向とズレることはあるわけです。)
このようなことから、重要な決議については、会員の意見を全会員アンケートという方法で調査した上で、総会で賛否を問う必要があると思います。
ギリギリで可決した場合には、近い将来、反対にその決議を取り消す議案が出てしまうこともありえない話ではありません。
そんなことをやっていて、市民に信頼されるのかということです。弁護士自治は市民の信頼が基盤となっています。
また、不十分な手続きでは、強行的に決議されたと感じる会員の会務離れ・会派離れなどを促すことになる可能性があります。
会内の対立や分断などありえない、無いと信じている、などと主張する会員の先生もいるようですが、これは現実を見みられない、あるいは見ようとしない意見というほかありません。
政府の強行採決を強く批判してきた弁護士会自身が、強行採決をするということになれば、「もうやってられない」と弁護士会や会派の活動から「離れて」いく会員が増えるでしょう。会務は、個々の会員が弁護士会のやることを(一応)概ね精神的に支持している(ほとんどのことにつき強くは反対していない)という面があって、何とか成り立っているというのが現実(その当否はさておき)だと思われます。
このように、東弁は、弁護士会の外部(市民の信頼)との関係でも、また内部(強制加入団体の構成員)との関係でも、今回の決議の手続を見直すべきでしょう。
40年前、東京弁護士会は、全会員アンケートを実施しています。
40年前にやれたことが、技術的に、今日において、できない、ということはありえないわけです。
直ちに全会員アンケートを実施し、場合によっては、複数回実施して、会員の(場合によってはサイレントマジョリティーの)死刑廃止の賛否等を把握すべきです。
なお、このまま2号議案の採決を強行することは、弁護士自治の瓦解を招くおそれのある行為でもあると言わなければなりません。
今回の決議を強行しても、弁護士自治瓦解のリスクとは無関係と評する意見に接しましたが、比較法的には、誤りだと言わなければなりません。東弁会員(特にだ柔軟性ある若い世代の弁護士)には、今回の決議(2号議案)の問題点を正確に把握していただき、その上で、正しい判断をしていただきたいと思います
— 平 裕介 (@YusukeTaira) 2020年9月16日
弁護士会や日弁連は、手続的正義を実現し、弁護士自治を守る団体であるはずです。
内容の議論をしよう、手続の議論はしてもしょうがない、別の機会にしよう、などという声も聞こえますが、行政法学ではそのような言説はずいぶん前に否定されています。正直「そこからですか・・・?」と残念に思いますが、行政法の基本書の行政手続のところだけでも精読してほしいものだと思います。今なら最高裁判事の宇賀克也先生の基本書でしょうか。
ところで、近時、日弁連はコロナ法テラス特措法のロビー活動(しかも会員の業務に影響の大きい法案に関するロビイング)を理事会に事前に一切諮ることなく正副会長の意向だけで実行しました。手続的正義はどこに行ったのだ?という批判をし、具体的に声を上げた弁護士は少なくありません。
東弁はどうでしょうか。
手続的正義を実現し、弁護士自治を守る団体だと、本当にそうだといえるのでしょうか。
私たち会員一人ひとりがよく見ていかなければ、そして声をあげるべきときに声を上げなければ、私たちの属する団体が今後政府を批判しても、政府にも、そして市民にも「相手にされない」団体となってしまう危険があるでしょう。
私は、9月24日、出席します。
疑問点について質問し、また、必要があれば意見を述べるつもりです。
他の東弁会員の先生方、一緒に、「本人出席」しませんか?
本人出席であれば、当日行けばOKです。
ぜひ、24日、総会会場でこの決議の手続の妥当性の問題点について一緒に考えましょう!