平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

あいちトリエンナーレ(表現の不自由展)の補助金不交付は、違法か?

皆様、今晩は。m(_ _)m

前回のブログ↓を公表したところ、多くの方に読んでいただきました(アクセス数が普段よりかなり多かった)。

yusuketaira.hatenablog.com


大変有難いことで、前回は訴訟を含む争訟方法、すなわち、愛知県がどのような法的手続で国(文化庁)と補助金不交付決定の違法性(・不当性)争うことができるかという点を中心に書いた(といっても、ほとんど自分のツイートをまとめただけだが…)ので、今回は、本案の違法事由の争点(予想されるもの)に関するこれまでのツイートをまとめる方法で、再度、基本的には論点整理のためのメモ的なものを残しておくこととします。


1 申請の形式上の要件に適合しない申請であるか(予想される争点1)


この争点では、この山形地方裁判所の判決が1つのポイントとなってくると思います(詳細はツリーを読んでください)。

愛知県側としては、今回の申請は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請ではなく、同要件を満たしているものであると主張することになります。



2 補助金交付のための実体的要件を満たすか(予想される争点2)

国(文化庁)側としては、特に上記1の争点のところで勝てないなと判断した場合には、取消訴訟(や不服申出の手続)の中で、理由を追加してくると思われます。

すなわち、補助金適正化法6条の実体的要件をみたさないという主張を追加してくるでしょう。

この点については、↓のとおり、要件裁量が認められると考えられますので、実体的審査(平等原則)や判断過程審査による統制(要件裁量の統制)についての主張、つまり裁量権の逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)主張がなされ、その認否が争われることになります。

なお、実体的審査と判断過程審査の話は重なりがある話だと思われます(さらに上記1の争点の話とも多少の重なりがあるでしょう)。


(1)実体的審査


(2)判断過程審査



3 表現の自由の話は?

本件で最も話題になっている「表現の自由」ですが、(独立した憲法21条違反の主張として展開されるというよりは、)基本的には、上記争点2の補助金適正化法6条1項違反の主張(考慮事項の重み付けの話)の中で、表現の自由を実質的に保護する趣旨からの適切な考慮事項の重み付けがなされるべきであるとの主張において登場するという感じになると考えられます。

もちろん、表現の自由が重要ではないというわけではなく、行政事件訴訟の違法事由の審査の実務という観点からは、このようなことになってくるということです。

ということで、少なくとも地裁高裁レベルでは、争点1でも争点2でも、憲法違反が前面に出てくるというよりは、補助金適正化法6条違反の問題が中心に審査され、その中で憲法の話が登場するということになるでしょう(このことの当否については議論があるところですが、ここでは立ち入りません)。



なお、以上は、違法(違法性、違法事由)の話でしたが、これとは一応区別される不当(不当性)の話については、不服の申出(補助金適正化法25条1項)では審査がなされうることになります(裁判所での訴訟では、不当性の問題は審査されません)。

ちなみに、この不服の申出の規定は、行政不服審査法の特例規定といえるものなので、行政不服審査の議論(例えば↓の拙稿)が参考になります。


以上、市民の皆様、記者の皆様、受験生の皆様、学生の皆様、その他多くの方々に参考になれば幸甚です。m(_ _)m