平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文行政法の感想(4) 設問1(2)(続き)・設問2の答案例

平成30年司法試験を受験した司法試験受験生の皆様,本当にお疲れ様でした。

今宵は,飲むなり,休むなり,久しぶりの「休み」を楽しんでいただければと思います。

 

また,本試験を受験していない方は,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,問題検討をした上で,よろしければ,以下のコメントを見ていただければ幸いです。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

  

2 元ネタとなった裁判例

  上記ブログと、次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

3 答案例

 

第1 設問1(1)

   次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 2 B市の反論

 (1)本件条例13条1項違反の主張に対する反論

   1つ上のブログのとおり。

 

 (2)本件条例3条1項違反の主張に対する反論

 上記(1)イと同様の理由から,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(本件条例3条1項ただし書)には広範な裁量があるものというべきである。

 ①本件条例は経営許可に際して宗教法人が墓地の敷地の買収に必要な費用を宗教法人以外の法人等から融資を受けることを禁止しているわけではなく,AがCの財政的な協力を受けたこと自体は法の趣旨に反しないこと,本件説明会ではCの担当者だけではなくAの担当者も説明を行っており,Aは宗教法人であるから経営に関し一定のノウハウを有していると考えられること,Aは10年前からB市区域内に登記れた事務所があり,法3条2項の「3年以上経過」の要件の3倍もの期間,B市内で事務所を構えていること,これらのことに加え,本件土地を購入済みなのであるから,仮に今後Cの経営が悪化するなどしたとしても,Aだけでも本件土地の造成工事費用を捻出しうると考えられ,さらに,継続的安定的な経営が予想され,周辺住民等の公益等にも適うものといえることからすれば,Eの主張するような考慮不尽があるとはいえず,本件許可処分は,裁量の範囲内のものとして適法である。

(3)違法の主張制限の主張に対する反論

 取消訴訟主観訴訟であることから[1],法9条の「法律上の利益」と10条1項の「法律上の利益」は基本的には同義に理解すべきであり,原告が主張できる違法事由は,原告適格の根拠とされた処分要件に関するものに限るものというべきである。

 そこで,「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行訴法10条1項)とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違背した違法をいうものと解すべきである。

 本件につき検討すると,まず,本件条例13条1項本文(距離制限規定)違反は,上記のとおりEに関して適用することは行政権の濫用であることに照らし,10条1項との関係でもEの利益に関係のない違法事由というべきである。

 次に,同項ただし書に係る違法については,悪臭発生等によりEの本件事業所の利用者の生活環境等に影響があるとしても,Eの営業侵害となるか否か(その程度)は不明であり,Eの利益に関係のない(ないし直接には関係のない公益に係る)違法事由といえる。

 さらに,本件条例3条1項違反についても,仮にAの経営悪化によってEの本件事業所の利用者の生活環境等に影響が出るとしても,と同様に,Eの利益に関係のない(ないし直接には関係のない公益に係る)違法事由といえる。

 よって,のいずれも,Eの「法律上の利益に関係のない違法」であり,Eは本案審理において,これらを主張することができない。

 

第3 設問2

 1 Aの主張(本件条例13条1項に係る違法)

 (1)Aとしては,以下のとおり,本件条例13条1項ただし書の「市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」との要件を満たすというべきであることから,本件不許可処分には同項に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[2],同項ただし書は,あくまで法10条1項の趣旨・目的に反しない範囲でB市の実情に照らし具体化した本件条例[3]の同項本文の例外的な場合としてあえて規定されたものであるから,同項ただし書の上記要件に係る市長の許可の裁量は狭く,前記第2の1(1)イ(Eの主張)の場合と同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

 (2)①Aは,本件墓地の設置に当たっては,「植栽を行う」(本件条例14条2項参照)などすることで,悪臭を防止するなどし,周辺住民らの健康や生活環境(「公衆衛生その他公共の福祉」)に十分に配慮しようとしていること(なお,同条の各要件を満たしているには問題はないものと考えられる),悪臭発生等のおそれなどを前提とする反対住民の感情は抽象的な危険に係るものであり,主観的な事情であることから重視すべきではないこと,墓地を利用する者がひとたび墓地の購入や利用を始めると,その多くは長期間利用を継続する傾向があるといいうることから,Dを含む小規模な墓地の経営が破綻する可能性は抽象的ないし低く,Dの営業上の利益を含む「公共の福祉」との関係でも問題がないことから,につき考慮不尽が,につき他事考慮が,の事項に係る評価の明白な合理性の欠如[4]があるといえ,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

                          

 2 B市の反論

 (1)B市は次のとおり反論すべきである。第2の2(1)イのB市の反論で述べたとおり,本件条例13条1項ただし書については,B市の実情に照らし公益的見地からする広範な要件裁量があるというべきである。

 (2)A主張の判断枠組みによるとしても,本件墓地につき,「植栽を行う」(本件条例14条2項)などすることは,同項に列挙されたことを実施するにすぎず,それ以上の具体的な提示をしていない以上,十分な配慮とはいえず,「公衆衛生その他公共の福祉」(同条1項ただし書)の点から問題がないとはいえないこと,反対住民の感情は「市民の宗教的感情」に関する面があるといえ,主観的な事情であっても法の目的(「国民の宗教的感情に適合」(法1条))から軽視し得ないこと,墓地の利用者も,代替わりなどを契機に墓を別の墓地に移転させることはありうるし,新規の利用者が少なくなれば,小規模な墓地の経営が破綻する可能性は低くなく,Dの営業上の利益・周辺住民の上記公益を含む「公共の福祉」(本件条例13条1項ただし書)との関係で問題があることから,判断過程が不合理とはいえず,裁量判断の範囲内であり裁量権の逸脱濫用の違法はない。

                                    以上

 

 

以上,検討が不十分なものであることは明白であろうから,引き続き,平成30年司法試験論文公法系科目(憲法行政法の問題を検討していくこととしたい。

 

 

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[1] 小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)257頁〔青栁馨〕。

[2] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについては被告B市の反論の部分で書くことにした。

[3] 法10条1項は,「法律規定条例」とも呼ばれ,その趣旨をいかに解するかは,理論的にアクチュアルな論点であり,平成30年司法試験行政法論文との関係でも重要な前提であろう(飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)120-136頁(125頁)参照)。会議録によると(問題文4頁・弁護士F第1発言参照),平成30年司法試験行政法論文の問題と関係では,法10条を「規制対象の性質に鑑みて要件を開いているもの」と解し,「法の目的と違背しない限り,条例による要件の設定は認められうる」(同124頁・注5)趣旨に出たものと解することになろう。

[4] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)120頁。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。