平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系(憲法・行政法)の「元ネタ論文」と「元ネタ裁判例」

平成30年司法試験(論文公法系科目)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅰ 論文公法系第1問(憲法

 平成30年司法試験論文公法系科目第1問(憲法)に関係があると考えられる考査委員の文献は次の通りである。

 

1 21条1項(知る自由・知る権利)関係

曽我部真裕青少年健全育成条例による有害図書類規制についての覚書」法學論叢170巻(平成24年)(以下「曽我部・有害図書類規制覚書」という。)499~514頁。[1]

 

曽我部真裕「判批」(岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)解説)憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」という。)178頁・133事件。

 

2 22条1項(職業の自由・営業の自由)関係

小山剛「経済的自由の限界」小山剛=駒村圭吾編『論点探究 憲法〔第2版〕』(弘文堂,2013年)214~223頁。[2]

 

小山剛「職業の自由と規制目的」棟居快行=工藤達朗=小山剛編集代表『プロセス演習 憲法』(信山社,第4版,2011年)256~272頁。

 

尾形健「判批」(薬局距離制限事件最大判昭和50年4月30日)解説)判プラ204頁・154事件。

 

 

Ⅱ 公法系第2問(行政法

 平成30年司法試験論文公法系科目第2問(行政法)に関係があると考えられる考査委員に関する文献(ただし①は考査委員が共著者の一人となっている書籍)・裁判例は次の通りである。

 

 1 墓地埋葬法・法律規定条例 原告適格(差止訴訟) 違法事由 主張制限

飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)120-136頁。

 

原告適格関係)小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)46-68頁〔高橋信行〕。[3]

 

 

 2 主張制限

角松生史「都市空間管理をめぐる私益と公益の交錯の一側面―行訴法10条1項「自己の法律上の利益に関係のない違法」をめぐって―」社会科学研究61巻3=4号139-159頁。[4] 

 

 3 違法事由(裁量の認否・裁量権の逸脱濫用/行政権の濫用)

古田孝夫東京地方裁判所判事(考査委員)らが担当した東京地判平成281116判例タイムズ1441号106頁・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394)。

 

高橋信行「判批」(最二小判昭和53年5月26日解説)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

 

 

Ⅲ 若干のコメント

1 公法系第1問(憲法)について

 (1)論文憲法の「ベース論文」

 ベースとなったのは,曽我部・有害図書類規制覚書の事案と考えられるが,千葉市コンビニエンスストアミニストップ」が成人誌の取り扱いを中止したニュース(朝日新聞デジタル2017年11月21日12時08分の記事等参照)を多少意識したのではないかとも思われる。

 

 (2)ベース論文公表から6年後に出題

 曽我部・有害図書類規制覚書501頁は,①有害図書類規制と青少年保護の問題につき,「科学的には、有害図書類が青少年の健全育成に対して悪影響を及ぼす可能性は全くないとは言えず、不明な点があること、しかし、有害図書類の影響により逸脱行為、ことに犯罪を犯す結果になり、あるいはとりわけ性に関する歪んだ価値観を形成してしまった場合には本人にとって取り返しがつかないという点を考慮すべきだと思われる」し,また,②青少年インターネット環境整備法17条1項の趣旨につき、「青少年に『フィルタリングサービスを利用させる必要があるか否かについては、最終的には、青少年を直接看護・養育する立場にある保護者がそれぞれの教育方針及び青少年の発達段階に応じて判断するのが適当である』という点にあ」るとし、「保護者の教育権の行使を支援するという目的であると思われる」とする。

 これらの視点は平成30年司法試験論文憲法との関係でも特に重要と思われる。

 すなわち,の視点は,「架空立法を素材に,基本的人権に関わる基本的な法理が予防的権力行使を前にした場合にどのような形で妥当するか」(平成28年司法試験論文式試験出題趣旨1頁)が問われた平成28年の問題意識を想起させるものといえ,「予防原則」や「規制の前段階化」の議論が関係するという意味でやはり過去問の検討が重要であった。

 ②は,規制目的に関して,「主として家庭教育等学校外における教育」等の「親の教育の自由」(旭川学テ事件・最大判昭和51年5月21日)ないし親の教育権も考慮しうるのではないかという視点であろう。

 

 なお,同501頁は,「現行の有害図書類の規制は、このような目的〔引用者注:保護者の教育権の行使を支援するという目的〕をとるものではないが、立法論としてこのような考え方を取り入れることはありうるとは思われる。」(下線引用者)としており,これが同論文が公表(平成24年)されてから約6年後の平成30年に司法試験の論文憲法の問題のベースになったものと考えられる。

 

 (3)研究者文献等に照らした加筆修正

 そして,上記ベース論文から作られた問題案に,各考査委員が(おそらく研究者の考査委員中心と思われるが)修正を加えていったものと思われ,その修正の際に前記憲法文献等が参照された可能性があると考えられる。

 

2 公法系第2問(行政法)について

 (1)論文行政法の「ベース裁判例

 司法試験論文行政法は,憲法とは異なり,研究者の考査委員の論文をベースとするのではなく,例年,具体的な裁判例をベースにしていると考えられる。

 そこで,どの個別法のどのような事例から出題するかという意味で「下敷き」[5]となったのは,古田考査委員ら担当の前掲東京地判平成281116行政法文献)思われる。

 

(2)研究者文献等に照らした加筆修正

 上記ベース裁判例行政法論文②・③・⑤により,研究者を中心に加筆修正していったのではないかと思われる。

 ちなみに,は墓地埋葬法のケース(この事例問題も東京地判平成22年4月16日を下敷きにしている(同文献124頁参照)わけだが)につき,差止訴訟の訴訟要件(原告適格は特に厚く検討されている),違法事由・違法事由の主張制限(行訴法10条1項)が聞かれているが,共著者である北村和生教授もこの飯島淳子教授の事例問題は認識していたはずであり,参考にしたのかもしれない。

 

 上記各文献等に照らし,さらに平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することとしたい。

  

 

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[1] 中央大学真法会指導スタッフ「司法試験・予備試験 出題論点直前予想」受験新報806(2018年4月)号(2018年)(以下「直前予想」という。)37頁以下(53頁)参照。

[2] 直前予想52頁。

[3] 直前予想54頁。

[4] 直前予想54頁。

[5] 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている(橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁)。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。