平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(1) 全体的な印象と元ネタ裁判例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

(1)違法事由のみの年という衝撃

 平成18年からの(新)司法試験がはじまって以来,初めて違法事由(本案)だけが出題される年となった。訴訟類型や訴訟要件の勉強は何だったのだろうかと思う受験生もいたかと思うが,これも司法試験考査委員の広範にすぎる作問裁量の範囲内ということで,諦めるしかなさそうである。

    【20180517AM訂正】

  行政法は会議録(会話文)をざっと読んだだけでよく読めていなかったのですが(←言い訳ですが…)、今朝あらためて読んでみたところ、問題文4頁の会議録からすると、設問1(1)は、処分取消訴訟の訴訟要件である原告適格(行訴法9条1項(・2項))の認否の問題でした。

 配点35で被処分者以外の者の原告適格を比較的じっくり検討させる問題という意味で、平成21年や平成23年に近い感じの設問だと思います。

 以上、大変失礼いたしました。(1)の点を訂正させていただきます。

 

(2)分量は少なめか普通

 設問が実質3つであり,頁数も2~7頁(6枚)と行政法にしては例年と比べるとやや少なめか普通の分量の問題であったように思われる。

 

(3)個別法は墓埋法&墓地経営許可条例

 墓地埋葬法は受験生にとっても相当程度メジャーな法律といえ[1],墓地は,いわゆる嫌忌施設とされるものであり,本問にあるように周辺住民からの反対運動が起きることもあり,自治体としても比較的気を遣う案件といえ,実務的でもそれなりに重要な個別法(・個別条例)が出題されたと思われる[2]

 

(4)久しぶりの「違法の主張制限」の論点

 平成21年司法試験論文公法系第2問(行政法)では,「自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのでしょうか。」という誘導があり,違法の主張制限の論点が出たが,これを展開すべき場合はレアであった。というのも,過去12回の(新)司法試験(プレテスト・サンプル問題を含めると過去14回の試験)で,違法の主張制限が正面から出題され,かつ,問題文(弁護士の会話文)で明確な誘導があったのは,1回(平成21年)だけなのである(平成23年については,明確な誘導はないと思われる)。

 とはいえ,当然のことかもしれないが,違法の主張制限は,①問題文で(明確な)誘導がある場合には必ず検討し,②平成21年のように誘導があると捉えられなかった場合でも特に違法事由が3~4個以上ある場合に論点として展開すべきかよく検討し,②の場合でも必要に応じて一定程度書くべき論点であった。

 そして,平成30年でも,問題文5頁に「Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討する必要がありますね。」との殆ど明確な誘導があったため、違法の主張制限の論点を書く必要があったが,久しぶりの出題であったことから,もしかしたら準備不足であったという受験生も一定数いたのではなかろうか。

 

2 元ネタとなった裁判例

 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている[3]

 私も同様の印象を持っているところ,平成30年の行政法の問題については,考査委員(実務家)の古田孝夫判事(東京地方裁判所)らが書いた東京地判平成281116判例タイムズ1441106・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394。ちなみに,東京地判の原告代理人(全5名)の中に岩橋健定弁護士[4]がいる。)が元ネタとなったものと思われる。

 

 なお,東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,年墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられており,その裁量権の逸脱・濫用がない限り,同許可は適法となるものとしている。かかる判示は,平成30年司法試験との関係でも重要といえよう。

 

 

 続きは次回あるいは次回以降のブログで。

 

 

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[1] 墓地埋葬法は,平成24年司法試験論文憲法(問題文3頁)で「参考資料」として掲載されており,最三小判昭和43年12月24日・周セイ(「倩」に草冠が付く)「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)112~113頁・55事件では,墓地埋葬法に関する通達の処分性が問題となっている。

[2] 筆者自身も,以前,法律相談を受けたことがある(結局受任はしなかったが)。

[3] 橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁。

[4] 岩橋健定「判批」百選Ⅰ226~227頁・112事件等参照。

 

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