平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(2) 答案構成

 平成30年司法試験(論文憲法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

 また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文憲法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 答案構成の骨子に関する若干のコメント(前回のブログの続き)

(1)問題文4頁の甲の最後の発言に基づく構成

 前回のブログ記載のとおり。

 

(2)出版・表現(情報を発信する側)の自由について

 前回のブログ記載のとおり。

 

(3)94条違反を書くか(消極)

 結論は消極であると思うが,徳島市公安条例事件最大判昭和50年9月10日)[1]を活用して憲法94条違反を書くか否かという点につき,一応検討する。

 この点につき,94条は岐阜県青少年保護育成条例事件最高裁判決では特に触れられていないことや,下記2(5)の答案構成の骨子にも特に挙がっていない(「一 条例による人権制限、罰則制定の可否」では徳島市公安条例事件を活用については特に触れていない)こと,青少年保護育成条例の憲法上の問題点を扱った問題の構成でも同様に94条違反は問題視していないこと[2]などからすると,特に94条については問題にしなくて良いと思われる。

 

(4)14条1項違反(平等権侵害、平等原則違反)を書くか(消極)

 94条の場合と同様に,結論は消極であると思うが,14条1項違反を書くか否かという点についても検討する。

 この点につき,確かに,福岡県青少年保護育成条例事件最大判昭和60年10月23日)[3]では,憲法14条1項違反も問題となっている。しかし,同事件では,売春等取締条例事件最大判昭和33年10月15日)[4]の趣旨に徴し14条1項に違反しないことが「明らか」と判示されている。そこで,本条例案についても(本条例案の罰則には懲役刑があるなどの事情はあるものの)14条1項違反となる見込みは低いものと思われ,答案から落とす(あるいは落としてもよい)論点となるものと考えられる。

 

(5)昭和53年(前回のブログ参照)の答案構成の骨子

 旧司法試験昭和53年論文憲法第1問を解説した井上英治『司法試験 過去問講座Ⅰ 憲法』(法曹同人,平成元年)267頁以下(267~268頁)によると,答案構成は次のとおりとなっている。平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子に参考に(一応)なるものだろう。

 

一 条例による人権制限、罰則制定の可否

二1 情報提供権と情報受領権の関係

 2 出版する者の表現の自由

(一)LRAの基準

(二)成人の読む自由との関係

(三)漠然性の故に無効の理論

 (四)検閲禁止との関係

   ・広義の事前抑制禁止原則

3 販売業者の営業の自由

 

3 平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子

 平成30年司法試験論文憲法の答案構成(の骨子)は次のとおりとなると思われる。

 

第1 図書類を購入する側について

 1 青少年の知る自由(知る権利)[5]

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

 ア 漠然不明確性+過度の広汎性の点から,青少年の知る自由侵害(21条1項・31条違反)?

 イ 想定される反論

 合憲限定解釈可能であり,明確 ←税関検査事件,徳島市公安条例事件

 ウ 私見違憲

 過度に広汎の点も考慮すると不明確 ←広島県暴走族追放条例事件[6]

(2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

 ア 知る自由の違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条は岐阜県青少年保護育成条例[7]に比べて規制の対象がより広いものであるから,規制態様がより強く,青少年との関係ではパターナリズムによる規制であるから,少なくとも中間審査基準で判断されるべき[8]

立法事実(科学的証明)がなく,あるとしても規制手段が過剰であり,青少年の知る自由侵害(21条1項)?[9]

 イ 立法事実の検討[10]

 反論:立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 私見違憲):立法事実なし(青少年非行などの害悪が生ずる相当の蓋然性が必要[11]であるがこれがない上,社会の共通認識にもなっているとはいえない等)

 ウ 規制手段の検討[12]

 反論:過剰ではない(漫画やアニメなど絵による描写は青少年がアクセスし易い等)

 私見違憲):過剰規制である(業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑)まで設ける必要はない等)

 

 2 18歳以上の人の知る自由

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

    ・上記第1の1(1)と同じ。

 (2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

    ア 違憲審査基準(判断枠組み)

 青少年と異なり,18歳以上の人の場合には,自分自身で性的画像の不快さを判断可能[13]→より厳格な判断枠組み(厳格審査基準)によるべき

    イ 反論

 思わぬところで性的なものを見てしまう(見ない利益は憲法13条後段で保護される)から,より緩やかな判断枠組みによるべき/他で購入可能

    ウ 私見違憲

 一般人であれば,書籍等が置いてある場所については,ある程度予見可能であるため,厳格審査基準でよい / 他のより緩やかな手段もありうる(例えば,規制図書類につき,立ち読みできないようにする規制,目に付き難いコーナーを設けるよう義務付ける等)

 

(3 検閲・事前抑制に当たらないこと[14]

 

第2 図書類を販売する側について

 1 本条例案8条1項とスーパーマーケット・コンビニエンスストアの営業の自由

(1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件[15]の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

←【20180519AM追記】(1)で判断枠組みの定立に際して、規制目的(消極か積極か複合的かなど)についても検討をしておく必要がある。第2の2・3についても同様の話になりうるが,規制目的を決め手にできないとい旨論述をするのが良いだろう。

(2)個別具体的検討[16]

 ア 反論

 店舗への影響があるので合理性を欠く規制

 イ 私見(合憲)

 確かに,規制図書類の販売に「集客力」はあるものの,売上約150店舗のうち,規制図書類の売上げが売上げ全体の20%を超えるのは,僅か10店舗のみであり,反論のとおり,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

 

 2 本条例案8条2項と学校周辺の規制区域内の店舗の営業の自由【20180519AM追記】〔・財産権(損失補償)〕

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件のように許可制をとるものではないが,同様に距離制限を設けた上で(段階的とはいえ)規制(9条等)をするものであるから,単なる営業態様規制にとどまるものではなく,実質的には開業規制的なものであり,規制態様が強いから,薬局距離制限事件の審査基準で判断されるべき 

(2)立法事実の検討

 ア 反論

 立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 イ 私見違憲

 立法事実なし(単なる観念上の想定にすぎず,確実な根拠に基づく合理的な判断[17]といえることが必要[18]であるがこれがない等)

(3)規制手段の検討

 ア 反論

 過剰ではない(9条等は段階的規制で,経過措置もある(附則)等)

 イ 私見違憲:特に10店舗につき)

 過剰規制である(店舗の移転は実際には困難であることが多い,業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑,両罰規定)まで設ける必要はない等)

【20180519AM追記】(4)財産権憲法29条)の制約と損失補償

 ア 問題点

 特に「10店舗」については,仮に,財産権(29条1項)を侵害する違憲な制約とはいえなくても,損失補償(29条3項)を要するのではないか,条例案に損失補償に係る条項はないが,それがない場合でも判例上直接請求されうるから,条例案に損失補償の条項を明記すべきではないか問題となる。

 イ 判断枠組み

   特別の犠牲説の論パ

 ウ 反論

   (主目的は)消極目的であることなどから、特別の犠牲にあたらない

 エ 私見(10店舗につき損失補償必要)

 侵害の強度等も考慮すると,「10店舗」(問題文3頁)については必要→規制区域内の店舗で規制図書類の売上げが全体の20パーセントを超える店舗について,一定期間の損失を補償する旨の条項を設けるべき

 

 3 本条例案8条3項4項と書店・レンタルビデオ店の営業の自由

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

 (2)個別具体的検討

 ア 反論

 内装工事が必要であるなど,店舗への影響がある

 イ 私見(合憲)

 経過措置があり,その間に内装工事可能であるから,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

                                   以上

 

 

以上,前回同様雑駁な感想にとどまった。

 

表面的な検討にとどまっている部分も少なくなく,たたき台としての機能もない部分も多いだろうが,多少なりとも参考になれば(ただし受験生については本試験が終わった後に)幸いである。

 

続きについては次回以降のブログで書くかもしれない。

 

 

【20180519AM追記財産権と損失補償の論点等につき,追記した。「規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが」(問題文4頁)とあるので,当初は必要ないかとも考えたが,必ずしもそうとは言い切れないとも思われ,答案構成の必要と思われる部分に付け加えたである。書くべきか悩ましい論点と思うが,平成18年新司法試験論文憲法でも損失補償は問われており,平成30年でも論点になったといえるのかもしれない。

 

 

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[1] 木村草太「判批」百選Ⅰ(←前回ブログと同じ略称を用いている。以下同じ。)186~188頁・88事件,尾形健「判批」判プラ441~442頁・342事件。

[2] 武市周作「青少年保護育成条例」小山剛=畑尻剛=土屋武編号『判例から考える憲法』(法学書院,2014年)(以下「武市」という。)83~93頁。

[3] 宍戸常寿「判批」判プラ404頁・308事件。

[4] 新村とわ「判批」百選Ⅰ72~73頁・34事件,尾形健「判批」判プラ440~441頁・341事件。

[5] 岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)を解説した曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件「解説」2は,「知る自由(本書128事件〔最大判平元・3・8―レペタ事件〕参照)との関係での自販機…との関係での自販機収納規制の合憲性については,受領者が青少年の場合と成人の場合とで区別を要する」としており,第1の1と2の答案構成と整合するものと思われる。また,「知る自由」としたが,「知る権利」でも良いと思われる(木下・別冊法セ31頁には「ウェブサイト閲覧者の『知る権利』」との記載があり,木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太憲法』(辰已法律研究所,平成26年)(以下「木村・LIVE本」という。)164頁も「知る権利」と記述する)。ちなみに,「知る自由」につきレペタ事件については言及できるといいだろうが(武市86,88頁等参照),現実には難しいかもしれない。

[6] 西村裕一「判批」百選Ⅰ189~190頁・89事件,宍戸常寿「判判」判プラ406頁・310事件。

[7] 松井茂記「判批」百選Ⅰ118-119頁・55事件),橋本基弘「判批」メディア百選128-129頁・63事件),曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件。

[8] 判断枠組みの厳格度等についても,反論→私見の形式で書いても良いだろう。

[9] 武市92~93頁参照。

[10] 武市88~90,92~93頁参照。

[11] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

[12] 武市90~93頁参照。

[13] 木村・LIVE本162頁参照。

[14] 難しいところであるが,時間があれば書くとよいというレベルの論点かもしれない。

[15] 石川健治「判批」百選Ⅰ205~207頁・97事件,尾形健「判判」判プラ204頁・154事件。

[16] 緩やかな基準によったことから,立法事実と規制手段を一緒に書いてしまっている。

[17] 武市90頁等参照。

[18] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。