平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

答案の「書き初め」 平成22年新司法試験論文憲法の答案例(25条1項関係)

Ⅰ 忘れないで

 

久しぶりの更新である。

久しぶりすぎて,MISIA「忘れない日々」を歌ってしまった。[1]

 

さて,司法試験受験生からの本試験の問題に関するご質問として,平成22年新司法試験論文憲法25条1項違反(生存権侵害)の主張のところの書き方がよく分からないというものが昨年は多かった(というかここ数年比較的多い)と感じており,私自身も,出題趣旨や採点実感等はもちろん,合格者の再現答案や法律家の書いた答案例,解説等を読んではいるものの,実際に書いてみると,特に規範のあてはめのところが書き難いなという印象を持っている。

 

そして,賢明な受験生であれば当然予想するとおり,25条1項は,平成30年のヤマの条文と1つであり,出題されれば,(新)司法試験論文憲法では8年ぶり2回目の,予備試験論文憲法では初の出題となる。

 

そこで,本日は,憲法25条1項と生活保護法についての憲法適合解釈に関する平成22年論文憲法の答案(ただし,25条1項違反の主張の部分のみ)を書いて(以前も書いてみたがあらためて書き直して)みようと思う。

 

答案の「書き初め」である。

 

 

Ⅱ 平成22年新司法試験・論文憲法の答案例[2]

 

第1 設問

 1 生活保護について[3]

Y市は,Xの生活保護の認定申請に対し,拒否処分をしての却下処分をしている。そこで,Xとしては,同処分が[4]Xの生存権憲法(以下,法名省略)[5]25条1項)を侵害するとともに,平等原則(14条1項)に反し,違憲であると主張する[6]。以下,詳述する。

 (1) 生存権(25条1項)侵害の主張

 ア まず,Xが生活保護を受ける権利は,健康で文化的な最低限度の生活を営む「権利」として,25条1項により保障される。そして,同項の権利は,抽象的権利と解される[7]ものの,Xの生活保護を受ける権利は,生活保護法(以下,「法」という。)19条1項等により具体化されている[8]

 しかし,Y市がインターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地法19条1項2号)として認めないという制度運用を行っている[9]ことから,上記申請拒否処分がされている。そこで,Xの生活保護を受ける権利が侵害されているといえないか。

 イ 【論証】法により生存権具体化されたにもかかわらず,これを法制度の適用・運用により請求を認めないとすることが生存権を侵害するか否かに関し,「居住地」・「現在地」(法19条1項2号)の該当性の問題[10]については,25条1項の趣旨に適合するように,すなわち,同項の趣旨を具体化した法の趣旨・目的(法1条)に適合するように解釈・適用(運用)を行うべきである。

 ウ まず,法19条が「生活の本拠」(民法22条)を意味する「住所」(住民基本台帳法4条)という文言を用いず,あえて「居住地」や「現在地」という文言を用いた趣旨[11],多数の生活困窮者が生活の本拠を有していないこと(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法1条,2条)に照らし,広く生活困窮者を保護すべきものとする点にあると考えられる。そこで,Xのようにシェルターでの居住実態はないがインターネット・カフェやビルの軒先で寝泊まりする者についても,当該店舗等の所在地が「所管区域内」(19条1項各号)にあり,具体的な事情を考慮して[12]法の目的に適合するといえる場合には,「居住地」または「現在地」を有する者に当たるとの解釈運用をすべきである[13]

 これをXについて検討すると,法の目的は,生活に困窮する国民に対し「必要な保護を行うとともに,自立を助長」(法1条)する点にある[14]ところ,Xは前述したとおり生活の本拠がない上,「貧困」というだけでなく病院に行くに行けない状況にあり,「最低限度」(法1条,3条)以下の,いわば「生存」そのものが脅かされうる者といえるため[15],「保護」(法1条)を行う要請は極めて強い。また,厳しい経済不況という状況が好転すれば,Xはより正規社員に採用され易くなると考えられるところ,それまでの間,必要な保護を継続することはXの「自立」(法1条)の助長にも資するといえる。

  よって,法の目的に適合するといえる場合であり,Xが申請日前日に宿泊していたインターネット・カフェの所在地を「居住地」または「現在地」に当たるから,Y市の生活保護の申請拒否処分は,25条1項に反し,違憲である。

 (2) 平等原則(14条1項)[16]違反の主張

  (略)

 

 2 選挙権について

  (略)

 

第2 設問2

 1 生活保護について

 (1) 生存権侵害の主張について

 ア 想定されるY市の反論[17]

 Y市は,生活保護制度がY市の財政における有限の財源を前提とするものであることから,インターネット・カフェ等を「居住地」等と認めないとの法の解釈運用も,法の趣旨目的に適合する解釈運用の範囲内のものであると反論する[18]

 また,Y市は,Xのように住所がなくなったホームレスであっても,団体Aのシェルターなどに居住すれば,そこを住所としてあらためて住民登録できるのであるから,生活保護の受給を認めるとかえって法の目的に反すると反論する[19]

 イ 私見[20]

 確かに,25条1項の文言は抽象的であり,現にY市は生活保護の財源を4分の1負担していることから,法の解釈運用に際し財政上の理由を考慮することも許される場合があるといえる。また,Xのような者にまで生活保護の受給を認めると,シェルターなどに居住するのが適当といえる場合には,かえって「自立を助長」(法1条)することにはならないから,法の目的に反することになる。

 しかし,少なくともXのように「持病」があり「医療扶助[21]を受けるためにも生活保護の申請をする者については,Xのように「生存」そのもの(25条参照)あるいは「生命」(13条後段),そして個人の尊重(13条前段)を脅かされかねない者については[22],特に「保護」(法1条)の必要性が高い。そのため,このような者に対し,財政上の理由を重視し,インターネット・カフェ等を「居住地」・「現在地」に当たらないとすることは,法の趣旨目的に適合する解釈運用とはいえないものと解される。

 また,団体Aのシェルターは,現在「飽和状態」であり,「息苦しさ」を感じるほどであるから,起臥寝食の場として適当ではなく,そのような場所での日常生活を強いることはXの就労や求職活動の意欲を削ぐことになり[23],Xの「自立の助長」(法1条)を妨げることとなるものといえる。

 よって,Xが申請日前日に宿泊していたインターネット・カフェの所在地を「居住地」あるいは「現在地」に当たる旨解釈・適用(運用)することが25条1項の趣旨を具体化した法の趣旨・目的(法1条)に適合するものといえるから,Y市の生活保護の申請拒否処分は,25条1項に反し,違憲である。

 (2) 平等原則(14条1項)違反の主張

  (略)

 

 2 選挙権について

  (略)

                                    以上

 

 

Ⅲ 司法試験「合格後」がイメージできなくたっていい

 

私の答案(といっても25条の主張のみだが)を読んで,受験生の皆様はどのような感想・意見等をもっただろうか。25条1項の憲法適合解釈の規範・あてはめなどの一例として多少参考になったと感じていただければ幸甚である。

 

もちろん,本答案例は,叩き台の1つであるし,受験生の皆様においてより良いく改善するなどしていただきたい。

 

平等原則(14条1項)違反の主張や,選挙権(平成30年司法試験論文憲法では,生存権同様にヤマの1つ)についての主張については,かなり前の記事ではあるが,さしあたり

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

を参照されたい。なお、25条の主張・反論・私見についても書いてはいるが、25条については本ブログの方を参考にしていただきたい。

 

 

最後に一言,年頭から頑張る受験生の皆様へのメッセージを追記する。

 

私が司法試験受験生の頃(大学1年生の頃で,当時はまだ旧司法試験時代で法科大学院もない時代)から,「合格後」のことを具体的に考えるべきとの受験指導が流行っていたように(おそらく今もそうではないかと)思われる。

 

合格後のことを考えることは悪いことではないが,どのような法律家になるかについては「法律家になる資格を得てから考えても遅くはない」[24]と私は(も)思う。合格後のことを具体的にしっかりとイメージできる受験生はむしろ少数派ではないだろうか。

 

 

明確な動機がない受験生にも,「合格の女神は微笑む」[25]に決まっている。

 

 

___________

[1] ただし,サビの「忘れないで」から「きっと思い出して」までである。

[2] 本答案例の作成にあたっては,①公法系科目1位(161点)の再現答案(辰已法律研究所『司法試験 論文全過去問集1 公法系憲法【第2版】』(平成27年)210~213頁)(以下「1位答案」という。),②大島義則『憲法ガール』(法律文化社,2013年)61頁以下,③木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)(以下「木村・LIVE本」という。)などを参考にした。なお,④西口竜司ほか監修『平成22年新司法試験論文過去問答案パーフェクトぶんせき本』(辰已法律研究所,平成23年)30頁によると,1位答案の得点等は,161.90点(論文総合228位の方の答案)である。

[3] 問題文3頁最終段落の1行から項目立てをし,タイトルを付けただけである。「第2 選挙権について」も同様である。

[4] いわゆる処分違憲適用違憲)の問題であることをこのように明記すること。なお,適用違憲(芦部説・第三類型)に関し,芦部信喜著,高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)388頁(以下「芦部・憲法」という。)参照。

[5] 憲法の答案では,憲法法名は,このように省略すると良いだろう。

[6] 〔a〕問題文「設問1」の1行上の行に「Xは(中略)生活保護と選挙権について弁護士に相談した。」とあることや,〔b〕平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(以下「出題趣旨」という。)第2段落で①「生存権保障の問題」を検討して欲しい旨の記載があるとともに,②「自治体による別異取扱いに関しては(中略)先例(最大判昭和33年10月15日)がある」とされ,出題趣旨第3段落では「もう一つ」の問題として(「一つ」の問題の方は,上記「生存権保障の問題」:①と②に分かれる問題である),③「選挙権(投票権)に関する問題」を検討して欲しい旨の記載があることなどからすれば,例えば,①~③の主張のほかに,22条1項(居住・移転の自由の侵害)を別の項目を立てて論じる答案(渋谷秀樹『憲法起案演習―司法試験編』(弘文堂,2017(平成29)年)206頁以下の「起案例」はこの構成を採る)は,筋が悪いと言わざるを得ないだろう。研究者の学問(研究発表)や出版は自由(憲法23条・憲法21条1項)だが,受験生が司法試験の答案で書く場合,不合格のリスク(具体的な危険)を覚悟すべき内容といわなければならない。ちなみに,このような構成を採って不合格になった場合,誰も(裁判所も)助けてはくれないことを受験生は肝に銘じておくべきである(国家試験における合格・不合格の判定は,裁判の対象にならない(芦部・憲法340頁参照))。

[7] 今日では,学説・判例は抽象的権利説を採ることでほぼ一致している(野中俊彦=中村睦男=高橋和之=高見勝利『憲法Ⅰ(第5版)』(有斐閣平成24年)507頁〔野中〕参照)ことなどから,少なくとも本問では,抽象的権利説の理由付けを書く必要はなかろう。

[8] 基本的な事項を書き落としてはならないが,このように短く書くと良い。ちなみに,「具体化されている」との点に関し,本来的には,生存権の行使要件や,Xが「要保護者」(法19条1項1号・2号)といえるかを検討する必要があると思われる(生存権の行使要件につき,木村・LIVE本267~268頁等参照)。しかし,本試験の問題文によると,Y市側も特にこの要保護者該当性(Xが該当すること)を争っているわけではないと考えられるため,(要件事実としては必要かもしれないが)本件では争点になっておらず,ゆえに配点は恐らく殆どないため,要保護者該当性(あるいは生存権の行使要件)の問題については,特に行数を割いて論じる必要はないと考えられるし,書いている時間やスペースもないだろう(この部分については異論があるだろう)。

[9] 問題文2頁第6段落3~4行目を殆どそのまま写し,関係条文(法19条1項2号)を書き加えただけである。

[10] 憲法25条1項と生活保護法についての憲法適合解釈(木村・LIVE本269頁)の請求の【論証】(論証パターン,論パ)であり,最三小判平成16年3月16日民集58巻3号647頁(以下「平成16年判例」という。)も(同判例は規範部分を明記しているものとはいえないが)多少参考にしている。法19条1項2号以外の他の条文の場合でも,基本的にこの【論証】を使い回せば良いだろう。この【論証】の規範からすると,私自身は,あてはめで,法の趣旨,法の目的(法1条:②必要な保護と③自立助長の2つ)との3つの事項を分けて検討すべきであると考えている。この点に関し,平成16年判例は,生活保護法4条1項の「資産等」等の解釈適用につき,生活保護「法の趣旨目的」に照らした判示をしており,趣旨と目的を明確に分けていないことなどから異論があるところだとは思うが,私は,趣旨と目的を,さらに目的の「保護」と「自立」を(できる限り)分けてあてはめをすべきではないかと考えており,その方が司法試験の出題趣旨に沿う答案が書き易くなるのではないかと考えている。

[11] まず生活保護法(19条)の「趣旨」の点についてのあてはめを行っている。(その次に「目的」(法1条)の点についてのあてはめを行っている。)

[12] 出題趣旨第6段落(「事案の内容に即した個別的・具体的検討を行うことが求められる」)を(一応)考慮している。

[13] 1つ前の段落(「イ」)の【論証】部分を上位ルールとすると,この「ウ」の第1段落の部分は下位ルールである。なお,上位規範・下位規範という語が用いられることもあると思われるが,宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開 第2版』(日本評論社,2014年)319頁は,「上位ルール」・「下位ルール」という語を使っている。

[14] 1条のキーワードを写しただけである。

[15] 出題趣旨第2段落の内容を考慮した記載である。

[16] 木村・LIVE本271頁は,「平等権」とするが,最大判平成33年10月15日(憲法判例百選Ⅰ[第6版]34事件)の下飯坂潤夫裁判官・奥野健一裁判官の補足意見では「憲法14条の原則」(下線は引用者)と表現されており,少なくとも司法試験の答案では「平等原則」(だけ)でも良いと思われるし,平等権を書く場合でも,平等原則違反・平等権侵害などと書いた方が良いと思われる。

[17] 「平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)」(以下「採点実感」という。)2~3頁・2(2)アの内容等を考慮して,本答案(25条関係)では,規範(前述した上位ルール・下位ルール)レベルでの反論は書かないという方針を採り,下位ルールを前提とした反論・私見を書いている。少なくともこの年のこの部分(25条1項違反の部分)では規範レベルでの争点を作るのは得策ではなかろう。

[18] 採点実感2~3頁・2(2)アの内容を重視し,「裁量」や「行政裁量」という用語は避けた

[19] このように,反論レベルでは,理由付けをすべて書かずに,「私見」の「確かに,・・・」の段落で,残りの理由付けを書くようにすると良い。このような記述ができるようになるために,多くの受験生は,一定の訓練(答案練習)をする必要があると思われる。

[20] 「反論」と「私見」の分量は,(予想・分析される)設問2の反論と私見の配点等を考慮すると,できるだけ1:2以上となるようにするのが良いと思われる。

[21] 設問1では書かなかった(その理由としては,①あえて書かなかった,②うまく書けなかった,③書き忘れたなどが挙げられるが,①のように戦略的に書かないということができるようになると,比較的合格答案が容易にかけるようになるものと思われる)事項について,私見で書いている。憲法13条後段の話や「飽和状態」等の話についても同様である。

[22] 憲法13条の話については,蛇足かもしれない。なお,生存権が個人の尊重(憲法13条)のために「不可欠の権利」であると考えることに関し,木村・LIVE本270頁参照。

[23] 「飽和状態」等の事実の評価をしている。

[24] 宮本航平「多摩研からのスタート」(司法試験合格体験記)中央大学ロースクール進学対策特別委員会現行司法試験対策特別委員会編『法律家を目指す諸君へ〔2003年度版〕』(中央大学出版部,2003年)183頁。なお,この著者は,2002(平成14)年の(旧)司法試験合格者(受験回数:択一2回,論文2回,口述1回)である。

[25] 伊藤真『合格のお守り』(日本実業出版社,2008年)80頁。

 

 

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