平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験出題趣旨(行政法)の感想 その1:出題趣旨と 『基本行政法』との考え方の違い

 

平成29年司法試験論文式試験の「出題趣旨」が公表された。

本ブログの存在を筆者自身が殆ど忘れていたが,出題趣旨の公表を契機に,久しぶりに更新することとした。

 

といっても,今回は,行政法の出題趣旨で気になった1つの点だけに言及する。

 

(以下「出題趣旨」3頁より抜粋,下線は引用者)

〔設問1⑴〕は非申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問うものである。行政事件訴訟法第3条第6項第1号及び第37条の2の規定に従って,本件フェンスを撤去させるために道路管理者Y市長が道路法第71条第1項の規定に基づき行うべき処分を「一定の処分」として具体的に特定した上で,当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあるか,また,その損害を避けるため他に適当な方法がないか,そして原告適格の有無について論じなければならない。
 重大な損害を生ずるおそれの検討に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案した上で,本件市道を,X2が小学校への通学路として利用できないこと及びXらが災害時の避難路として利用ができないこと(以下「本件被侵害利益」という。)がそれぞれ「重大な損害」に当たるかどうかについて論じることが求められる。
 損害を避けるための他に適当な方法の検討に当たっては,(中略)それが「他に適当な方法」に当たるかどうかを検討することが求められる。

 原告適格の検討に当たっては,行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第9条第2項の規定に基づき,道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を踏まえ,本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか,また本件被侵害利益の内容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。

(以上,引用終わり)

 

ということで,この部分を読み,考査委員の1人である中原茂樹先生の『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)367~368頁のコラム「『重大な損害を生ずるおそれ』(行訴法37条の2第1項・2項)と原告適格(同条3項・4項)との関係」とは,答案の書き方に関する立場が違うとの感想を抱くに至った。

 

すなわち,同コラムでは、非申請型義務付け訴訟の訴訟要件の「検討順序」として「まず、原告適格の有無を(中略)検討した後、原告適格が認められる者について、1項にいう『重大な損害を生ずるおそれ』の有無を(中略)を検討することが考えられる。」(368頁)としているが,これは上記「出題趣旨」とは異なる立場であるといえる。

 

結局のところ,「出題趣旨」の方は,条文で各訴訟要件が規定されている順序のとおりに検討すればOKとの立場であった。

 

 

このように『基本行政法』とは異なる立場で書いても,受かるのである。

 

 

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