平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(8) 成田新法事件の3要素の「重さ」

前回のブログ「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(7)」の続きである。

 

前回のブログでは,<刑事手続につき規定した憲法33条の行政手続(平成29年司法試験の特労法)への適用又は準用が認められるか?>という論点につき,憲法35条に関する川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[1]と成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[2]の判示を比較し,成田新法事件の千葉勝美調査官解説や平成22年司法試験論文憲法の採点実感等に触れるなどした上で,成田新法事件の規範の方を活用・応用であると述べた。詳しくは,前回のブログを読んでいただきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

さて,今回は,前回検討しなかった,成田新法事件の規範の〔ア〕~〔ウ〕の3要素[3](前回ブログのものを次の通り再掲する。)の重み付け(加重)[4]の点をどのように考えていくかということなどに関する感想を述べてみようと思う。

 

<成田新法事件の総合判断の3要素>

 

〔ア〕行政目的達成のため不可欠

公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものか

 

〔イ〕手続の一般的作用(一般的機能)

刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるか

 

〔ウ〕強制手段の直接性

 …強制の程度、態様直接的なものであるか

 

前回も少しだけ触れたが,この3要素の加重の問題については,憲法38条のものではあるが,成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する所得税法違反事件(最三小判昭和59327[5])が参考になる

 

この昭和59年判例は,38条に関してではあるものの,次の枠内の文章の通り判示しており(下線及び〔 〕内の文書は筆者),成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する。

 

 憲法三八条一項の規定によるいわゆる供述拒否権の保障は、純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以外の手続においても、対象となる者が自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を求めることになるもので、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶものと解される(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁〔…川崎民商事件判決〕。なお、同昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁参照)。

 ところで、国税犯則取締法は、収税官吏に対し、犯則事件の調査のため、犯則嫌疑者等に対する質問のほか、検査、領置、臨検、捜索又は差押等をすること(以下これらを総称して「調査手続」という。)を認めている。しかして、右調査手続は、国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を実現するためのものであり、その性質は、一種の行政手続であって、刑事手続ではないと解されるが(最高裁昭和四二年(し)第七八号同四四年一二月三日大法廷決定・刑集二三巻一二号一五二五頁)、その手続自体が捜査手続と類似し、これと共通するところがあるばかりでなく、右調査の対象となる犯則事件は、間接国税以外の国税については同法一二条ノ二又は同法一七条各所定の告発により被疑事件となって刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において得られた質問顛末書等の資料も、右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として利用されることが予定されているのである。このような諸点にかんがみると、右調査手続は、実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものであって、租税犯捜査の特殊性、技術性等から専門的知識経験を有する収税官吏に認められた特別の捜査手続としての性質を帯有するものと認められる。したがって、国税犯則取締法上の質問調査の手続は、犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項についても供述を求めることになるもので、「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものというべきであって、前記昭和四七年等の当審大法廷判例及びその趣旨に照らし、憲法三八条一項の規定による供述拒否権の保障が及ぶものと解するのが相当である。

 

このように,昭和59年判例は,川崎民商事件の〔い〕の要素(詳しくは前回のブログ参照)すなわち「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものであることといった一要素だけで,憲法38条の保障が行政手続に及ぶものとしているように読めるのである。

 

上記〔い〕の要素は,裁量判断に係る考慮事項の問題の場合でいえば,単なる考慮事項(要考慮事項)ではなく,重視事項(要重視事項)とされるべきもの[6]といえよう。

 

とすると,判例は,川崎民商事件の〔い〕の要素,そしてこれと殆ど同じ内容の成田新法事件の上記〔イ〕の要素を重視した総合判断をしているといえ,さらにいえば(ここは論理の飛躍があるかもしれないが),1つの要素が相当程度当てはまるような場合には,35条の適用ないし準用を認めるべきと考えているものと評することが(一応)できるだろう。

 

そして,このように考えるのであれば,設問1では,33条の適用・準用の論点につき,成田新法事件の35条の規範を借用し,その上で,〔ウ〕強制手段の直接性(強制の程度,態様が直接的なものであること)を特に強調し,この要素を満たすと主張して,違憲論(33条違反)を展開すべきと考えられる[7]

 

もちろん,〔ア〕・〔イ〕には多少は触れるべきであるが,厚く論じるべきは〔ウ〕の要素であり,最悪,〔イ〕は(規範定立段階から)答案では一切言及しなくてもOKとおもわれる。ちなみに,〔ア〕については,設問1の規範でも書き,あてはめでも少しは書いておいた方が良い(設問2ではこの点のあてはめの反論(合憲主張)を一定程度論じることが必要となる)。

 

〔ウ〕や〔ア〕のあてはめについての具体的な話などについては,次回以降のブログで述べることとする。

 

 

【 追記 】

平成29年司法試験を受験した方は,短答式試験に通っているとしても,そろそろリスタートしないと,秋までズルズルいってしまうリスクがある。法律学の勉強を少しずつでも良いから,あるいは書類や机周りの整理からでもよいので,(まだ始めていない方は)明日から始めてみると良いだろう。月並みな話だが,合格する自信のある方は,要件事実や刑事事実認定の勉強を(再度)始めると良いと思う。

日頃より法律学に触れておくこと,法的な感覚を忘れないことは,重要である。9月に不合格となっていた場合,それが来年の対策になることはいうまでもないことだが,合格していた場合でも,スムーズに司法修習に入れるからである。

 

 

[1] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[2] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[3] 重み付け(加重)の対象となる「要素」につき,行政裁量の認められる処分等の違法事由論等では,「要素」ではなく「考慮事項」(要考慮事項)等の問題として議論が展開されている(例えば,芝池義一「行政決定における考慮事項」法學論叢116巻1=6号(1985年)571頁以下)。

[4] 裁量権の行使に係る「考慮事項の加重・減軽」につき,常岡孝好「裁量権行使に係る行政手続の意義」磯部力ほか編『行政法の新構想Ⅱ 行政作用・行政手続・行政情報法』(有斐閣,2008年)248頁参照。筆者は,成田新法事件の総合判断については,行政裁量は否定される(あるいは裁量が狭い)ものと考えているが,「要素」の重み付けについては,裁量権の行使に係る考慮事項の重み付けの議論を一定程度借用できるものと解している。

[5] 刑集38巻5号2037頁。

[6] 平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法78号(2016年)239頁以下(242頁)参照。

[7] なお,川崎民商事件の〔う〕の要素(前回ブログ参照)を活用(33条の論点に借用)しようとすると,強制の態様等の話と一緒に(同じ要素の中で)公益の話も論じなければならないため,原告(設問1の違憲論)にとってはやや不利になるものと考えられる。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。