平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(6) 憲法33条のメイン論点

 「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(5)」の続きである。憲法の感想は長らくお休みとなってしまっていたが,少しずつ書き進めていきたい。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

上記ブログで,私は,平成29年司法試験論文憲法・問題文3頁3行目のキーワード(誘導文言)といえる「外国人の身体を拘束することは手続的保障の観点から問題」という部分などに鑑み,同問題の答案では,憲法33条違反をメインの主張として,すなわち,自己決定権の侵害(13条後段)違反の主張と並ぶもう一本の柱として厚く書くべきである旨述べた。

 

なお,メインの主張の二本の柱(各主張の分量の目安等)に関しては,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(3)」のブログを読んでいただきたい。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

さて,憲法33条の話といっても,何の判例を最も多く活用するのか,何の論点を最も厚く書くのかなどについては,現時点においても,なお疑問に感じている受験生が存するのではないかと思われる。

 

例えば,次の(A)・(B)の2つの論点のどちらを厚く書くのか,あるいはその両方を厚く書くのかである。

 

(A)論点1:川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[1]や成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[2]の活用(応用)が問われる論点である<刑事手続につき規定した33条の行政手続への適用又は準用が認められるか?>というもの[3]

 

(B)緊急逮捕の合憲性を認めた最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁[4]の活用(応用)が問われる論点である<現行犯逮捕の場合以外でも,無令状の身柄拘束が33条に違反せず許容されるか?>というもの[5]・・・上記(A)の適用又は準用が認められた後で問題となりうる論点

 

私の考える「正解」は,A)の論点について厚く書くべきであり,他方,B)の論点については殆ど書く必要がないというものである。

 

というのは,平成29年司法試験論文憲法の事案についてみると,(A)については,判例の規範のあてはめ次第では,(適用又は)準用の認否が変わってくるものと考えられ,この意味で微妙な論点となる[6]が,(B)については,緊急逮捕の要件(刑事訴訟法210条)と特労法を比較すると[7]違憲となる場合であることが殆ど明白といえるからである。

 

つまり,司法試験論文憲法では,結論が違憲か合憲かどちらでもよい(理由付けの説得力の程度が重要となる)論点がメインの(高配点の)論点として毎年問われているものと分析することができるところ,(B)の論点はこのような論点とはいえないが,(A)の論点はこのような論点に当たるといえるのである。

 

よって,33条に関する論点で,答案に厚く書くべき,高配点の論点は,(A)の論点であり,この(A)の論点が,原告の主張・被告反論の主戦場(主たる争点)となる。(A)の論点は,憲法の人身の自由に関する論点であるとともに,行政法の行政調査等のテーマでも問題となる論点であることから,公法学を研究する者としては大変興味深いものといえる。

 

ちなみに,私は,設問2の「私見」部分では適用・準用が(具体的規範のあてはめを行った上で)否定されるとの結論(つまり合憲説)を採った方が,戦略的には合格しやすいのではないかと考えている。

 

「私見」の結論は「合憲」とするのが無難と考えられることについては,

「平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)」

の「2」の部分を読んでいただきたい。 

 

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 (A)の論点において定立すべき規範内容やそのあてはめに関しては,次回以降のブログで述べることとする。それではまた。

 

 

 

[1] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[2] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[3] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 2 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)354~355頁〔喜田村洋一〕の「論点5」を参照。

[4] 上田健介「判批」百選Ⅱ252~253頁(116事件)。

[5] 喜田村・前掲(3)350~351頁の「論点1」を参照。

[6] この点については,次回以降のブログで論じることとする。

[7] ①特労法18条1項は,刑事訴訟法210条の犯罪の重大性の要件のような違反行為の類型の限定をしていないこと,②特労法18条1項は「充分な理由」(刑事訴訟法210条)まで要件とせず「相当な理由」とするにとどまっていること,③特労法18条4項は「48時間以内に」審査官への収容の報告をすれば足りるとされており,「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続」をしなくても良いものとされていること,④「急速を要」(刑事訴訟法210条)する程度も緊急逮捕の場合に比べると低いといえるであろうことから,(本問に憲法33条の(適用又は)準用が認められた場合には,)違憲となることがほぼ明らかであるといえよう。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。