平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(3) 要件裁量の認否の「正解」の導き方

前回(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2))と同じく,平成29年司法試験 公法系第2問(論文行政法)の感想の続きを書き進めることとする。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

1 はじめに ~司法試験の「古典」としての要件裁量の認否~

 

本年も,複数の違法事由の認否が論点とされたが,注意すべきは裁量が肯定される違法事由よりも,裁量が否定される違法事由の点である。というのも,(行政裁量のうち)要件裁量を否定すべき(あるいは狭いものと解すべき)[1]要件・違法事由につき,裁量否定の違法事由が出題される場合は毎年のように,誤って裁量を肯定してしまうという受験生が少なからずいるように思われるからである。

 

裁量の認否(広狭)の点を誤ると,いくら同様の事実・事情を拾い,評価を加えたとしても,裁量の認否を正しく解答した他の受験生よりも,相対的に点数が低くなってしまうと考えられる(前回のブログの内容との関係でいうと,「上位論点」の設定自体を誤ることとなる)ことから,この部分については,それなりに注意を払い,確実に正解を導いておきたいところである。

 

このことは,何もここ数年の問題というものではない。むしろ,新司法試験の初期の頃から,ほかならぬ考査委員が既に指摘しているのであり,このような意味で,受験生がミスをしやすい「古典」的な論点といえる。

 

例えば,平成19年新司法試験の設問2につき,出題趣旨2頁は「実体法の問題として,入管法所定の退去強制事由に該当するという行政判断の当否を問うものである。これは,留学の在留資格に係る退去強制事由の解釈とその具体的適用に関するものであり,行政庁の広汎な裁量権が問題となるいわゆる在留特別許可に関するものではない」(下線は筆者)と明記し,さらに,同年新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要6頁では,設問2につき,「実体法,本案の問題ということになるが,出題者としては意図していなかった点,すなわち,例えば裁量統制の議論(中略)を,ここでは論じなくていいように問題を作ったはずであったが,それにもかかわらず,これらを延々と論じているものもあった。」(下線は筆者)との意見が述べられている[2]

 

平成29年の問題でいえば,誘導文(問題文4頁・弁護士D第3発言)で明記されるところの道路法432号(同法7111号)の認定・判断につき,監督処分を行う道路管理者に要件裁量が認められるかという点につき,正解筋としては,要件裁量を否定する(あるいは(狭いものと捉える)べきであった。しかし,おそらく受験生の多数派ではないだろうが,この要件につき,要件裁量を肯定するものと考え,あるいは要件裁量が認められることを当然の前提として,答案を書いた受験生がいるのではなかろうか。

 

また,昨年(平成28年司法試験)でいえば,それは設問4の建築基準法別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」の要件該当性の論点(要件裁量否定が正解)でも見られるミスであるといえる。

 

このように書いてくると,受験生の非難かと感じてしまう方もいるかもしれないが,そうではない。このブログは,そのようなミスや受験生を責める趣旨・目的に出たものではない。

要件裁量の認否についての誤解は,殆ど毎年のように生じうるものであることから,受験生が今後の司法試験や予備試験の論文行政法で上記のようなミスをしないよう,拙い助言等をしようとするものである。

 

そこで,今回は,受験生の利益のために,司法試験や予備試験の論文行政法における要件裁量の認否(広狭)の決め方という点に絞って,その解説を試みる。

 

すなわち,裁量の認否・広狭を決定するための一般的な考慮要素・考慮事項(下記2)との関係で,過去問(基本的には,平成24~28年までの5年分の司法試験論文行政法)で問題となった要件・違法事由につき,それぞれについての要件裁量の認否を検討(要件・違法事由の一部を必要に応じて検討)し(下記3),実際の司法試験における現実的な要件裁量の認否のポイント(当たりの付け方)をまとめ(下記4),その上で,平成29年の上記違法事由(道路法43条2号)についての要件裁量の認否を検討することとする(下記5)。

 

なお,効果裁量の有無の問題は,その文言の規定の仕方からすると,要件裁量の認否の論点よりも基本的には易しいものといえる(メニューがいくつか規定されており,「できる」と最後にかいてあれば,通常は効果裁量が肯定される)ため,今回のブログでは,検討対象とはしない(機会があれば別の回などに検討してみたい)。

               

 

2 裁量の認否・広狭を決定するための考慮要素(一般論)

 

 裁量の認否・広狭(範囲)を検討するに当たって考慮される要素・事項(考慮要素・考慮事項)は,論者によって若干のニュアンスの違いはあるものの,主に次の3つである。

すなわち,①処分の目的・性質,対象事項(侵害処分か授益処分か,授益処分であっても最低生活保障を図るような社会保障的処分か(そうではなく恩恵的利益の付与か),許可か特許か等を考慮する),②処分における判断の性質(当該分野や組織等の事情に通じている必要があるか,多種多様な事情を考慮する必要があるか,多元的な利益を公益又はこれと対立する私益として考慮し政策的判断を行う必要があるか),③法律の文言・処分の根拠法規の定め方等であり,このうちの1つだけで判断すべきものではなく,総合的な判断が必要とされる[3]。「3要素説」と呼んでもよいものであろう。なお,研究者の先生方は,③の法律の文言を一番先に挙げることが多いように思われる。

 

 

3 3要素説と司法試験論文行政法(過去問の検討)

 

次に,上記「3要素説」を,具体的に司法試験や予備試験の論文行政法にどのように活用すべきが問題となる。受験生としては,多くの本試験の事例に触れることで理解を図るのが良いと考えられる。

 

(1) 平成28年司法試験行政法

まずは,平成28年司法試験の検討から入る。早速,平成28年と3要件説との関係について考えたいところではあるが,その前に,出題の仕方から見てみよう。次の枠内は,同年論文行政法の問題文の一部である(下線は筆者)。

 

〔設問2〕

本件訴訟1(本件例外許可の取消訴訟)において,本件例外許可は適法であると認められるか。解答に当たっては,Xらによる本件例外許可の違法事由の主張として考えられるものを挙げて論じなさい。

 

【法律事務所の会議録】

弁護士C:次に,Xらが,本件訴訟1において主張し得る本件例外許可の違法事由としては,どのようなものが考えられますか。

弁護士D:第1に,除斥事由のあるBが建築審査会の同意に係る議決に加わっていることから,手続上の瑕疵があるという主張が考えられます。第2に,Y1市長による本件例外許可については,裁量権の範囲の逸脱,濫用があったという主張が考えられます

弁護士C:そうですね。第1については,除斥事由が定められた趣旨等を踏まえて検討してください。第2については,本件要綱の法的性質を踏まえた上で,本件例外許可についてのY1市長の裁量権の内容,範囲を検討し,説得的な主張ができるようにしてください。

弁護士D:検討してみます。

 

平成28年の問題の上記部分を見た瞬間,私は目を疑った。誘導文で「裁量」と言ってしまっているのである。行政法の法律論の根幹部分といってもよい点について,誘導があるのであるから,もはや行政法の基礎を問う気があるのか…とか,誤記なのではないかなどと感じたくらいである。

 

とはいえ,おそらく,このような年は平成28年のみであり,さすがに,平成29年ではこのような出題(会話文等での「裁量」のキーワードの明記)はなされなかった。まともな(?)行政法の試験に戻ったともいえるだろう。

 

さて,平成28年と3要件説との関係に話を戻す。仮に「裁量」の文字が明記されていなかった場合,どのように考えていくべきであろうか。前述したミスを未然に防止するため,受験生としては,この点の分析・検討を行っておく必要がある。

 

まずは,処分の性質(許可か特許かなど)との関係で,「例外許可」という「設問」の文字から,例外的に許可するものであり,特許的なものであるとして,裁量が認められると判断できるだろう。

司法試験論文では「設問」から読み始めるのが鉄則であるというのは周知のことと思われるところ,実は,この「設問」を読んだだけで,裁量ありとの当たりを付けられるわけである。あとの②・③は①の要素をいわば追認するように活用すれば良かろう。

 

(2) 平成27年司法試験行政法

平成27年司法試験では,消防法10条4項の委任を受けた(委任命令としての法的性質を有する)危険物政令9条1項ただし書について,要件裁量ないし効果裁量が認められるかが問われた。

 

正解は,認められるものと解されるということになる。

この場合は,法律が行政に「委任」をしている点,すなわち,委任が必要とされる理由は専門技術的事項に係る判断が要求されることや地域的事情に配慮する必要性等にあること[4]から,②判断の性質を決め手に裁量を肯定すべきとの結論を導けるだろう[5]

 

(3) 平成26年司法試験行政法

平成26年司法試験では,採石法33条の4の「公共の福祉に反すると認めるとき」(下線は筆者)について,要件裁量が認められるか,が問われた。

 

正解は,認められる(ものと解される)である。

 

この手のタイプの出題は重要といえる。受験生としては「公共の福祉に反する」という点(文言の抽象性の高さ)に特に目が行きがちであるが,より注目すべきは,「と認める」という文言である。

つまり,「公共の福祉に反するとき」でも別に良いわけであるが,あえて,「と認める」という文言を付加しているのである。「認める」のは行政庁(処分庁等)であるから,法律自体が行政に裁量を付与していることが分かる。

 

このように,平成26年の最大のポイントは,「と認める」という③法律の文言で裁量の認否を決すべき点といえる。

 

(4) 平成25年司法試験行政法

平成25年司法試験では,土地区画整理法21条1項4号について,要件裁量が認められるか,また,同法40条2項(←31条7号,21条2号後段等)について,行政裁量が認められるか,が問われた。関係する条文は次のとおりである(下線は筆者)。

 

土地区画整理法

(設立の認可の基準等及び組合の成立)

第21条 都道府県知事は,第14条第1項(中略)に規定する認可の申請があつた場合においては,次の各号(中略)のいずれかに該当する事実があると認めるとき以外は,その認可をしなければならない。

一 申請手続が法令に違反していること。

二 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(中略)に違反していること。

三 (略)

四 土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと。

2~7 (略)

  (経費の賦課徴収)

第40条 組合は,その事業に要する経費に充てるため,賦課金として(中略)組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。

2 賦課金の額は,組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置,地積等を考慮して公平に定めなければならない。

3~4 (略)

 

正解は,どちらについても認められない(ものと解される)である。

平成25年の問題は,やや難しい部類に入るかもしれない。

 

まず,不確定概念を用いた要件規定や,抽象的・概括的な要件規定であっても,客観的な事実に基づき,通常人の経験則に照らして判断・認定されるべき事項につき定めた要件の場合(…主に,一定の数字・数値で表しやすい場合など)判例は,裁量を認めた規定であるものとは解さない傾向があるものといえる。具体的には,土地収用の補償金の額についての「相当な価格」(土地収用法71条)[6]酒類販売免許に係る「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」(酒税法10条10号),「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」(同条11号)といった文言については,要件裁量が否定されている(あるいは裁量が狭いものと解されている)。

 

つまり,③法律の文言(不確定概念)は決め手にはならず,②判断の性質が決め手になる。

そこで,まず,賦課金の「額」といういわば「数」の文言に関する「公平に」(土地区画整理法40条2項)という点につき,裁量が認められないこととなるものと解される。

また,土地区画整理法21条1項4号の「経済的基礎」やこれとセットで規定される能力の十分性の要件について,要件裁量が否定される(あるいは範囲が狭い)ものと解される。

 

このような解釈については,同法21条1項柱書の「と認める」という文言と矛盾するのではないかという疑問が生じるだろう。

しかし,この「と認める」は,「事実」(同項柱書)の認定(事実認定)を指すものであり、事実認定は裁判所の専権事項である(少なくとも日本では伝統的に)から,事実認定には裁量は普通は認められないので,同項4号についての要件裁量も認められないということになる。なお,同項1号(「申請手続が法令に違反していること」)の場合が比較的分かりやすいだろうが,少なくともすべての号について要件裁量を肯定する趣旨ではないものといえる。

また,上記のような金額に関する問題については,「と認める」という文言があっても,経験則に照らし現在又は過去の確定した客観的事実を確認する行為であると捉えられるから,やはり要件裁量は否定されると考えるべきであろう。

 

(5) 平成24年司法試験行政法

平成24年司法試験では,都市計画法13条1項11号や同項19号について,要件裁量が認められるか,が問われた。関係する条文は次のとおりである(下線は筆者)。

 

都市計画法

(都市計画基準)

第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は,(中略)当該都市の特質を考慮して,次に掲げるところに従つて,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)

一~十 (略)

十一 都市施設は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めること。(以下略)

十二~十八 (略)

十九 前各号の基準を適用するについては,第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,かつ,政府が法律に基づき行う人口,産業,住宅,建築,交通,工場立地その他の調査の結果について配慮すること。

2~6 (略)

 

正解は,認められる(ものと解される)である。

本問では,関連する都市計画法の著名な判例が述べるとおり[7],政策的・技術的な判断が必要となることから,②判断の性質を決め手の1つにすべきであるが,受験生としては,注目すべき文言を記憶しておくべきである。

それは,「将来」,そして「見通し」(11号)という文言(←③法律の文言)である。

 

つまり,「過去裁判」か「未来裁判」か[8]という視点でみるとき,「将来」という文言はどちらかといえば,後者にかかるものといえよう。将来の予測には,政策的・専門技術的な判断が必要とされることが少なくないため,裁量が認められやすくなるのである。

 

また,19号のように,多くの事項について考慮する必要があり,それらを総合判断する必要があることが法律に定められている場合には(←③法律の文言),政策的な判断が必要とされることが多くなり,裁量が認められやすくなるといえる。

 

そこで,平成24年は,主として②・③を併せて決め手とし,裁量を肯定すべきといえる。

 

(6) 補足1:問題文における「解釈」や「判断」という語について

平成23年以前の検討については,機会があればブログで書くかもしれないが,今回はこのくらいにして,上記の過去問の検討に関して,若干の補足をする。

 

まず,平成28年司法試験論文行政法の問題文7頁には,「Xらの言い分について,法律解釈としてどのように主張を構成することができるかについて,検討してください。」という会話文中の指示があるところ,着目すべきは「解釈」あるいは「法令解釈」というキーワードである。

 

確かに,裁量が肯定される場合も,法律を解釈していることには変わらないわけであるし,また,100%確実なこととはいえないだろうが,どうやら司法試験論文行政法では,「解釈」あるいは「法令解釈」という語を,裁量が否定される(あるいは狭い)違法事由の誘導文に用いているのではないかと考えられるのである。とはいえ,この「解釈」といった語は,それだけで裁量否定の根拠とするのではなく,上記③法律の文言等による判断を補強するものとして活用するとよいだろう。

 

また,やや平成29年の検討の先取りになるが,平成29年司法試験論文行政法の問題文2頁・第4段落(「Y市長は」から始まる段落)5行目や同4頁・弁護士D第3発言1行目には,28年のように「解釈」という語は登場しないものの,「判断」というワードが記されている。「解釈」と同様に,一見,何の変哲もない語のようにみえるかもしれないが,冒頭(上記1)で触れた平成19年の出題趣旨の内容との関係で分析をしてみると,そういうわけでもなさそうである。

 

というのも,繰り返しになるが,平成19年新司法試験の出題趣旨2頁は,設問2につき「実体法の問題として,入管法所定の退去強制事由に該当するという行政判断の当否を問うものである。これは,留学の在留資格に係る退去強制事由の解釈とその具体的適用に関するものであり,行政庁の広汎な裁量権が問題となるいわゆる在留特別許可に関するものではない」(下線は筆者)と明記し,さらに前記1のとおり,ヒアリングでは,裁量の議論を「論じなくていいように問題を作った」と念を押しており,ここに「判断」及び「解釈」というワードが2つとも登場するのである。

おそらくだが,出題者としては,「判断」や「解釈」というキーワードを(前述したとおり,行政法学上必ずしも論理必然のことではないが)裁量を否定する違法事由の説明・誘導の場合に用いる傾向があるといえるだろう。

 

(7) 補足2:罰則規定について

また,平成19年のヒアリングは,問題となった退去強制事由の有無に関し,「本問の事案で言うと,留学生の資格外活動という,それ自体かなり客観的法則性の強い事由にかかわるもので,法律はそれについて刑罰の対象にまでしているというものであるから,およそ行政庁の裁量を論ずるような話ではないはずで,そのようなことを看過していると思われる」としている。このように,③法律の規定の一内容となるものであるが,司法試験では,要件規定の違反行為が罰則の対象になっていることも,裁量を否定する一要素となる。

 

(8) 補足3:行政規則との関係について

さらに,平成26~29年がそうであるが,法令以外の行政規則(行政手続法上の審査基準又は処分基準)が問題文に書かれた場合,100%の確率で,その行政規則と関係する処分要件等の規定の文言には裁量が認められる(よって当該行政規則は裁量基準である)ものと解される出題が続いている。

 

そのため,行政規則の存在を決め手に,裁量を肯定すると考える受験生も出てくるのかもしれない。しかし,それはリスキーであろう。なぜなら,平成30年以降は,裁量が否定される場合の解釈基準が掲載されることも十分に考えられるからである(なお,今回のブログでは解釈基準が出た場合の処理について検討はしないが,別の機会に検討を加えたい)。

 

 

4 小活 ~過去問の検討結果~

 

長くなってしまった。未だ平成29年の問題すなわち43条2号の要件裁量が否定される理由の話まで進んでいないが,上記過去問の検討結果等につき,簡単にまとめてみたい。

 

まず,上記過去問の中には,①処分の性質や②判断の性質に相当程度着目し,裁量の認否を検討したもの(要件・違法事由)があったことは間違いない。しかし,①も②も,政治的政策的判断や,専門的技術的判断などが必要とされるか,逆に,上記3(7)の平成19年ヒアリングにもあるとおり,客観的法則性の強い事由にかかわる要件といえるかという実質を重視するものといえるところ,多かれ少なかれ,行政作用には,政策的判断や専門的技術的判断な判断が要請されるため,はっきり言って,①や②は司法試験では決め手にならない(不明確な要素であり,決め手とすべきではない)のではないかと思われる。

 

ゆえに,結局,3要素説の要素のうち司法試験との関係で,一番の決め手となるものは,(消去法的ではあるが[9]③法律の文言であるということになる(ただし,本来学説が想定する文言よりも広い意味での文言、規定の仕方・内容という意味での「法律の文言」ということになると思われる)。もちろん,③は独立した要素ではなく,①・②と関係するものではあるが,③は①・②よりも明確な要素といえるだろう。憲法でいえば,(不正確な使い方かもしれないが)「文面審査」に近い方法で判断すると良いということである。

 

要件裁量の認否の当たりの付け方についてまとめると,次の通りとなる。

③の要素だけで要件裁量の認否を決するわけではない(前記2)ため,答案には①・②のことも書くわけであるが,まずは,③で当たりを付ける必要があり,その際のポイントをまとめたものが次の枠内の内容となっている(ゆえに,逐一次の(Ⅰ)~(Ⅷ)を答案に書いていくわけではない)。

 

【要件裁量の認否の当たりの付け方】

 

(Ⅰ)「と認める」をいう文言があるか

(Ⅱ)「将来」「見通し」という文言があるか

(Ⅲ)「例外(許可)」というような特許的な行政処分を推察させる文言があるか

(Ⅳ)考慮事項が多数(4~5つ以上)規定された文言があるか

(Ⅴ)命令・条例への委任があるか

 

(Ⅵ)金額についての文言があるか

(Ⅶ)当該要件に係る禁止行為が刑罰規定の対象とされているか

(Ⅷ)「解釈」や「判断」というキーワードが会話文(会議録)等に書かれているか

 

★(Ⅰ)~(Ⅴ)につき,○(各文言がある)の場合には,裁量を肯定すべき

★(Ⅵ)~(Ⅷ)につき,○(文言があるなど)の場合には,裁量を否定すべき

 

なお,3要素説と予備試験論文行政法との関係を検討した上で,その検討結果を上記枠内の内容に入れ込んだ方がより丁寧かもしれないが,それについては他日を期することとしたい。

 

5 平成29年司法試験行政法道路法43条2号)の検討

平成29年司法試験論文行政法では,道路法432(←同法71条1項1号)の認定につき,監督処分を行う道路管理者に要件裁量が認められるかが問題となっている。

すなわち,本件フェンスの設置が同号の「みだりに(中略)道路の(中略)交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」にあたるかが問題となる。前記4の8つのポイント((Ⅰ)~(Ⅷ))のうち,特に問題となるもの(次の4つ)を,道路法43条2号の要件にあてはめてみよう。

 

(Ⅰ)「と認める」をいう文言があるか

          → ない(「虞のあると認める行為」などとは規定されていない)

(Ⅳ)考慮事項が多数(4~5つ以上)規定された文言があるか

          → ない(特に「…虞のある」に係る考慮事項が規定されているわけではない)

 

(Ⅶ)当該要件に係る禁止行為が刑罰規定の対象とされているか

           → されている(道路法102条3号)

(Ⅷ)「解釈」や「判断」というキーワードが会話文(会議録)等に書かれているか

   → 書かれている(問題文2・4頁に「判断」とある)

 

よって,正解筋としては,要件裁量を否定すべき(あるいは(狭いものと捉えるべき)ということになり,既に注(後掲の注)(1)で触れたとおり,裁量(権)の逸脱・濫用の審査ではなく,判断代置的審査によって違法性を判断すべきこととなる。なお,①・②の要素との関係につき,特に答案に書くべきことは,客観的法則性の強い事由が規定された要件(専門技術的判断が必要とされないか,あるいはその程度が低い)と考えられるということである。

 

ちなみに,路線の廃止又は変更についての道路法10条1項は「(前略)市町村長は,(中略)市町村道について,一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合においては」と規定するところ,(Ⅰ)「長は」・「と認める」という文言から,比較的容易に要件裁量が認められるとの当たりをつけることができる。

 

6 おわりに ~違法事由論の‘最初の分かれ道’を正しく進もう~

 

このように,今回のブログで書かれているレベルの過去問の検討をしておけば裁量の認否という,いわば違法事由の問題の‘最初の分かれ道’で,間違った方の道に進まずに済むわけである。

 

受験生としては,裁量を肯定した後の裁量権の逸脱濫用の規範(あるいは,裁量を否定したあとの判断代置的審査の規範)の話に特に目が行きがちであり,確かにそれも重要ではあるが,まずは,極限状態に置かれる本試験であっても,裁量の肯否・認否の点を正しく解答できるように,裁量の肯否・認否の考慮要素に関するポイントをしっかり押さえておくべきであろう。私の拙い過去問分析とその結果(まとめ)を参考にしていただければ幸甚である。

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(4)に続く。) 

 

 

 

[1] 高橋信行(平成29年司法試験考査委員(行政法))『自治体職員のためのようこそ行政法』(第一法規,平成29年)102頁等は「裁量を認める・広く認める」場合と,「裁量を認めない・狭く認める」場合とを分け,前者につき「司法審査は緩やかになる」とし,後者につき「司法審査は厳しくなる」とする。前者については,裁量(権)の逸脱・濫用の審査を,後者については判断代置的審査をすることとなるといえる(中原茂樹(元司法試験考査委員(行政法平成27年まで))『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)128頁以下等参照)。

[2] なお,同ヒアリングは「裁量統制を論じている者が非常に多かったが,法科大学院で必ず教えるのがマクリーン判決であるため,外国人,入管法というと,もうこれは裁量の問題だというふうに思い込んでしまう者が多かったのだと思われる。しかし,本問はそうではなく,問題となっているのは退去強制事由の有無であり(中略)およそ行政庁の裁量を論ずるような話ではないはず」であり,「この点は,作題のときから,裁量統制の答案が出てくるであろうということは予想されていたし,法科大学院でこの条文そのものについて必ずしも教えているわけではないため,それを裁量処分だとする記載があっても,それだけでは減点の対象とはしないことにしようということは,考査委員の間で申合せをしていた。」(下線は筆者)とする。しかし,平成19年は,外国人・入管法についてマクリーン判決であることなどから,裁量を認めただけでは減点対象としないと説明しているわけであり,他の個別法にはこの話は必ずしも妥当しないことに加え,一度考査委員がヒアリングで注意したのであるから,仮に同様の入管法等の要件裁量の認否が問われた場合に裁量の認否を誤ると,それだけでも減点対象となる蓋然性は大いにあるものと考えられる。

[3] 川神裕「裁量処分と司法審査(判例を中心として)」判例時報1932号11頁(2006年)参照。なお,山本隆司「日本における裁量論の変容」判例時報1933号14頁(2006年),同『判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)221頁,中原・前掲注(1) 130頁以下,高橋・前掲注(1) 102頁等も参照。山本・前掲「日本における裁量論の変容」14頁は,法律の運用によって権利利益が侵害される程度ないし侵害される権利利益の要保護性が高ければ高いほど(この判断の際には憲法の基本権利が考慮される),行政裁量は認められにくくなる旨説く。この点は,川神・前掲文献11頁の「処分の目的・性質,対象事項」の要素のところで考慮しうるものと解される。

[4] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第5版〕』(有斐閣,2013年)270頁参照。

[5] 高橋・前掲注(1)124頁等参照。

[6] 土地収用法71条につき,最三小判平成9年1月28日判時1598号56頁。酒税法10条10・11号につき,最二小判平成10年7月3日判時1652号43頁。

[7] 最一小判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁,日野辰哉「判批」宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2012年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)160~161頁(79事件,小田急訴訟上告審本案判決)参照。

[8] 藤田宙靖 「自由裁量論の諸相―裁量処分の司法審査を巡って―」日本學士院紀要70巻1号77頁(2015年)参照。ただし,同頁は,原発許可取消訴訟のような「将来の文明の進路の選択に係るような」裁判が「未来裁判」であるものとしているため,筆者(本ブログの筆者)は,司法試験との関係で,「未来裁判」の意義ないし射程を広く捉えるものである。

[9] 稲葉浩志(作詞),B’zlove me, I love you』(1995年)も,「消去法でイケることもある」としている。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等に属する(あるいはこれを卒業・修了した)学生・司法試験受験生を指すものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,この点につき,ご留意ください。