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平成29年司法試験 公法系第1問の感想(2)

 

【注意】読みたくない司法試験受験生は,以下の文書を読まないで下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(1)」(平成29年5月17日ブログ)の続きである。ここ数日諸々の業務のため,殆ど問題や関連しそうな文献を見られていないのが残念であるが,感想を少しずつ書き進めることとしたい。

 

 

さて,司法試験論文式試験公法系科目第1問すなわち論文憲法の問題では,その時々の社会問題が背景にあるように思われる。

 

平成27年は,自由(人権)と安全(予防:将来の安全)がテーマであり,同年の事案はISIS等のテロ行為の問題を思い起こさせるものであった。また,平成25年の事案は,日本の各地で行われた特定秘密保護法に反対する大規模なデモ行進を想起するものであった。

 

そして,平成29年では,今日における国家戦略特区への外国人の受入れ問題(国家戦略特別法)を意識したと思われる架空法令が出題されており,さらに,2020東京オリンピックパラリンピックがその背後にあるものと思われる[1]

 

なお,国家戦略特区に関しては,シンガポールとの比較がなされることがある[2]シンガポールでは,メイドなど女性の外国人単純労働者には,入国前及び滞在中に妊娠検査が義務付けられており,妊娠した場合,雇用主は人材開発省に報告の義務があり,当該外国人労働者は強制送還されることになっているようであり[3],このあたりは,平成29年でその違憲性が問われた「特労法」と似ているものといえる。

 

 

 

ちなみに,第1問(憲法)だけではなく,第2問(行政法)でも,2020年東京オリンピックパラリンピックが意識されていたものと考えられる。というのも,第2問では,「道路法」が出題されたわけであるが,「道路」で思い出されるべきは,(土地収用法の事案ではあるが)1964年東京オリンピックに際して「道路」を拡幅するために,日光の太郎杉を切ることとなってよいのかが問題となった著名な事件(日光太郎杉事件[4])であることから,第2問の事案の背景には道路とオリンピックという共通点が見て取れるのである。

 

歴史的に,オリンピック(・パラリンピック)は,政治利用されてきたとの指摘や批判がなされているところであるが,平成29年において,オリンピック・パラリンピックは,我が国の司法試験にも利用されることとなったものといえよう。

 

つまり,平成29年司法試験論文公法系のテーマは,オリンピック・パラリンピックの司法試験利用であったというべきである。

政治利用と比べると弊害は少ないようにもみえるが,司法試験にも,オリンピック・パラリンピックを(間接的にせよ)利用してはならないというべきであろう。このことにより,将来の法曹がオリンピック・パラリンピックの政治利用に鈍感になってはいけないと危惧するからである。・・・というは言いすぎだろうか。

 

 

 

ところで,平成29年では,「裁量」(立法裁量)の有無及び広狭が問題となるところ,司法試験論文式試験公法系科目においては,一見すると,第2問(行政法)の方が答案作成者に与えられる「裁量」(答案作成裁量)の幅が狭く,第1問(憲法)は広いように思われる。なぜなら,第2問には必ず,弁護士等による会話文・会議録(いわゆる「誘導」の会話)が掲載されるが,第1問には第2問のような会話文は掲載されることがなく,さらには,第2問には配点割合が書かれているため,第2問の方が,書くべき分量,順序,内容が分かりやすいからである。

 

とはいえ,第1問がフィギュアスケートフリースケーティング(自由演技で良い)であり,第2問はショートプログラム(規定演技が求められる)であると例えるのは,誤りであろう。実は,どちらもショートプログラムであり,第1問も,答案作成者に与えられている裁量の幅は,第2問とあまり変わらないのではないかと思われる。主たる理由は,(どちらもショートプログラムでなければ)採点委員が大変だからである[5]

 

そのため,一見,フリーで滑ってよいように思える憲法は,実はある程度の規定演技が要求されている科目と考えられ,‘フリーで書くと合格も滑る’という残酷な関係がみてとれるわけである。

 

だからこそ,(新)司法試験論文公法系は,第1問の方が検討のしがいがあると私自身は考えている[6]。そして,公法を研究する者としては,司法試験論文公法系は,第1問から検討に入りたいと毎年思っているのであり,平成29年も,第1問から検討することにした。

 

 

 

・・・と,このように,前置き部分の話を長々と書いたことにより(そして書くのが疲れてきたため),結局,今回のブログでも殆ど踏み込んだ内容の話には入れなかったが,最後に,論文憲法の予想を外してしまった主な理由の4つ目(3つ目までは,前回のブログで書いた。4つ目は前回書くのを失念してしまった。)を述べておきたい。

 

すなわち,4つ目は,平成27年(司法試験論文憲法)に,マクリーン事件[7]が(も)活用しうる判例(関連判例)とされていたと考えられ[8],わずか2年で(平成29年に)また出題されるとは予想できなかったということである。

 

しかし,この考えも安易なものであった。マクリーン事件憲法21条1項(他にも関係条文はあるが)の判例であり,平成29年の事案や論点の予想をする上で,よく検討すべき判例の一つであったといえるかもしれない。無念である。

 

 

 

なお,マクリーン事件は,行政法でも重要判例の1つとされているが,注意すべきは,憲法マクリーン事件を活用するときは,行政法の答案になってはいけないということである。つまり,裁量権の逸脱濫用の「違法」を中心に書きすぎると,通常は憲法の答案には成り難いからであり,点数が下がってしまうリスクが高くなるからである。

 

そこで,例えば,答案で,裁量権の逸脱・濫用の点に関し,判断過程統制から社会観念審査につなげる最高裁判例[9]の規範を用いるとしても,それは設問2(私見)だけにし,設問1では,マクリーン事件の射程が及ばないとし[10],中間審査基準(ここでは,目的の重要性,実質的関連性・手段の相当性を要件とするものいう。)等のより厳格な規範を採って(…(注)国賠法上の違法の規範の話ではない。),違憲違憲・違法)とすべきものと思われる。

 

ちなみに,この点に関し,「平成27年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)」3頁・2「(5) その他」も,「憲法上の主張や見解について問われているにもかかわらず,A市の反論や『あなた自身の見解』において裁量論に迷い込み,憲法論から離れてA市側の行為の当・不当を長々と論じている答案が散見された。A市側に一定の裁量があり,また,問題文から拾い上げる要素にも大きな違いはないかもしれないとしても,あくまで憲法上の主張や見解について論じることを意識して答案を作成してほしかった。」(下線は筆者)としている。

 

 

次回,続きを書く予定である。

 

 

 

[1] 日本商工会議所「国家戦略特区に対する意見」(平成27年4月9日)1頁は,国家戦略特区に指定された全国6区域のうち,東京圏につき,「東京オリンピックパラリンピックも視野に、世界で一番ビジネスのしやすい環境を整備」するなどの目標に言及する。なお,この文献はウェブ上で公表されている。

[2] 日本商工会議所・前掲注(1)11頁参照。

[3] 竹内ひとみ「シンガポールの外国人雇用対策」日本労働研究雑誌564号99頁(2007年)。なお,この文献はウェブ上で公表されている。

[4] 東京高判昭和48年7月13日行裁集24巻6=7号533頁。

[5] 平成27年司法試験では論文憲法の問題の漏えいがあったことはあまりにも有名であるが,その漏洩事件に関する報道によると,模範答案のようなものが存在していた可能性があることが推察される。この模範答案の存在は,論文憲法でも,ある程度の規定演技が求められることの間接事実(あるいはそれに類する事情)の1つといえるだろう。

[6] 第1問(司法試験論文憲法)も,第2問(同行政法)のような会話文・会議録を問題文に掲載した方が良いと思われる。あるいは,そこまでできなくても,出題趣旨や採点実感等については,第2問のように,より具体的に書くべきである。受験生には答案を具体的に書くようになどと説きながら,考査委員自身は個々の判例名を挙げるなどして具体的に出題趣旨や採点実感等を書かないというのは,立場が違うとはいえ,ややアンバランスではないかと思われる。私人は具体的に,公の側の人間は許されるというのは,例えが適当ではないかもしれないが,●●学園問題における私人と,政治家・公務員等の異なる対応を見ているようであり,少々疑問に思うところである。

[7] 最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁。

[8] 平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規)179号7頁(2016年)の「別表」参照(この拙稿はウェブ上で公表されている)。なお,「関連判例」の意味については,同2頁。

[9] 最三小判平成18年2月7日民集60巻2号401頁等。

[10] 射程が及ばないとする理由付けなどについては,次回のブログで書く予定である。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を,憲法21条1項(表現の自由)に基づき書いているものですので,この点につき,ご留意ください。