平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系(憲法・行政法)の「元ネタ論文」と「元ネタ裁判例」

平成30年司法試験(論文公法系科目)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅰ 論文公法系第1問(憲法

 平成30年司法試験論文公法系科目第1問(憲法)に関係があると考えられる考査委員の文献は次の通りである。

 

1 21条1項(知る自由・知る権利)関係

曽我部真裕青少年健全育成条例による有害図書類規制についての覚書」法學論叢170巻(平成24年)(以下「曽我部・有害図書類規制覚書」という。)499~514頁。[1]

 

曽我部真裕「判批」(岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)解説)憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」という。)178頁・133事件。

 

2 22条1項(職業の自由・営業の自由)関係

小山剛「経済的自由の限界」小山剛=駒村圭吾編『論点探究 憲法〔第2版〕』(弘文堂,2013年)214~223頁。[2]

 

小山剛「職業の自由と規制目的」棟居快行=工藤達朗=小山剛編集代表『プロセス演習 憲法』(信山社,第4版,2011年)256~272頁。

 

尾形健「判批」(薬局距離制限事件最大判昭和50年4月30日)解説)判プラ204頁・154事件。

 

 

Ⅱ 公法系第2問(行政法

 平成30年司法試験論文公法系科目第2問(行政法)に関係があると考えられる考査委員に関する文献(ただし①は考査委員が共著者の一人となっている書籍)・裁判例は次の通りである。

 

 1 墓地埋葬法・法律規定条例 原告適格(差止訴訟) 違法事由 主張制限

飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)120-136頁。

 

原告適格関係)小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)46-68頁〔高橋信行〕。[3]

 

 

 2 主張制限

角松生史「都市空間管理をめぐる私益と公益の交錯の一側面―行訴法10条1項「自己の法律上の利益に関係のない違法」をめぐって―」社会科学研究61巻3=4号139-159頁。[4] 

 

 3 違法事由(裁量の認否・裁量権の逸脱濫用/行政権の濫用)

古田孝夫東京地方裁判所判事(考査委員)らが担当した東京地判平成281116判例タイムズ1441号106頁・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394)。

 

高橋信行「判批」(最二小判昭和53年5月26日解説)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

 

 

Ⅲ 若干のコメント

1 公法系第1問(憲法)について

 (1)論文憲法の「ベース論文」

 ベースとなったのは,曽我部・有害図書類規制覚書の事案と考えられるが,千葉市コンビニエンスストアミニストップ」が成人誌の取り扱いを中止したニュース(朝日新聞デジタル2017年11月21日12時08分の記事等参照)を多少意識したのではないかとも思われる。

 

 (2)ベース論文公表から6年後に出題

 曽我部・有害図書類規制覚書501頁は,①有害図書類規制と青少年保護の問題につき,「科学的には、有害図書類が青少年の健全育成に対して悪影響を及ぼす可能性は全くないとは言えず、不明な点があること、しかし、有害図書類の影響により逸脱行為、ことに犯罪を犯す結果になり、あるいはとりわけ性に関する歪んだ価値観を形成してしまった場合には本人にとって取り返しがつかないという点を考慮すべきだと思われる」し,また,②青少年インターネット環境整備法17条1項の趣旨につき、「青少年に『フィルタリングサービスを利用させる必要があるか否かについては、最終的には、青少年を直接看護・養育する立場にある保護者がそれぞれの教育方針及び青少年の発達段階に応じて判断するのが適当である』という点にあ」るとし、「保護者の教育権の行使を支援するという目的であると思われる」とする。

 これらの視点は平成30年司法試験論文憲法との関係でも特に重要と思われる。

 すなわち,の視点は,「架空立法を素材に,基本的人権に関わる基本的な法理が予防的権力行使を前にした場合にどのような形で妥当するか」(平成28年司法試験論文式試験出題趣旨1頁)が問われた平成28年の問題意識を想起させるものといえ,「予防原則」や「規制の前段階化」の議論が関係するという意味でやはり過去問の検討が重要であった。

 ②は,規制目的に関して,「主として家庭教育等学校外における教育」等の「親の教育の自由」(旭川学テ事件・最大判昭和51年5月21日)ないし親の教育権も考慮しうるのではないかという視点であろう。

 

 なお,同501頁は,「現行の有害図書類の規制は、このような目的〔引用者注:保護者の教育権の行使を支援するという目的〕をとるものではないが、立法論としてこのような考え方を取り入れることはありうるとは思われる。」(下線引用者)としており,これが同論文が公表(平成24年)されてから約6年後の平成30年に司法試験の論文憲法の問題のベースになったものと考えられる。

 

 (3)研究者文献等に照らした加筆修正

 そして,上記ベース論文から作られた問題案に,各考査委員が(おそらく研究者の考査委員中心と思われるが)修正を加えていったものと思われ,その修正の際に前記憲法文献等が参照された可能性があると考えられる。

 

2 公法系第2問(行政法)について

 (1)論文行政法の「ベース裁判例

 司法試験論文行政法は,憲法とは異なり,研究者の考査委員の論文をベースとするのではなく,例年,具体的な裁判例をベースにしていると考えられる。

 そこで,どの個別法のどのような事例から出題するかという意味で「下敷き」[5]となったのは,古田考査委員ら担当の前掲東京地判平成281116行政法文献)思われる。

 

(2)研究者文献等に照らした加筆修正

 上記ベース裁判例行政法論文②・③・⑤により,研究者を中心に加筆修正していったのではないかと思われる。

 ちなみに,は墓地埋葬法のケース(この事例問題も東京地判平成22年4月16日を下敷きにしている(同文献124頁参照)わけだが)につき,差止訴訟の訴訟要件(原告適格は特に厚く検討されている),違法事由・違法事由の主張制限(行訴法10条1項)が聞かれているが,共著者である北村和生教授もこの飯島淳子教授の事例問題は認識していたはずであり,参考にしたのかもしれない。

 

 上記各文献等に照らし,さらに平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することとしたい。

  

 

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[1] 中央大学真法会指導スタッフ「司法試験・予備試験 出題論点直前予想」受験新報806(2018年4月)号(2018年)(以下「直前予想」という。)37頁以下(53頁)参照。

[2] 直前予想52頁。

[3] 直前予想54頁。

[4] 直前予想54頁。

[5] 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている(橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁)。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(3) 設問1(2)の答案例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  前々回のブログのとおり。

 

2 元ネタとなった裁判例

  前々回のブログのとおり。 

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3 答案例

「第1 設問1(1)」につき,前回のブログのとおり。 

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第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 (1)本件条例13条1項違反

   ア 距離制限規定違反(同項本文)

 Eは,本件事業所(本件条例13条1項(2))は本件土地から約80メートル離れた位置にあるため,「100メートル以上離れていなければならない」(同項本文)との距離制限規定に反する違法事由があると主張する。

   イ 要件裁量の逸脱濫用(同項ただし書)

 また,Eは,同項ただし書が適用される場合でも,「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める」との要件を満たさないというべきであり,次のとおり,同項ただし書に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[1],同項ただし書は,あくまで同項本文の例外として市長が許可する場合であるから,その許可の裁量は狭く,考慮すべき事項を十分に考慮しない(考慮不尽)など判断過程が不合理であり,その結果,社会通念上著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用というべきである。

 ①Eの本件事業所の利用者は居住者と変わらない実態があり,渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれが生じることからEの利用者の減少が見込まれ,Eの営業上の利益に著しい被害を与えるものであること,Dの墓地は,すでに余り気味で,空き区画が出ていることから,大規模な本件墓地が事業を開始するとDの経営が破たんし,関係区域の「公衆衛生その他公共の福祉」すなわち周辺住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになること,これら及びの点を考慮すべきであるのに(十分)考慮されていないため,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (2)本件条例3条1項違反

 Eは,次のとおり,本件条例3条1項に反する違法事由があると主張する。

 本件墓地の実質的な経営者はAではなくCであり,Cは,本件条例3条1項柱書ただし書・同項(1)の「宗教法人法…に規定する宗教法人」ではない。そして,同項本文は墓地等を経営しうる者は原則として地方公共団体とし,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(同項ただし書)に宗教法人等でも許可しうるとしていることから,同文言に係る判断につき要件裁量が認められるとしても[2],例外的に許可しうる場合に係る同裁量は狭いものであり,上記(1)イと同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

 ①Aは本件土地の買収に必要な費用をCから全額無利息での融資を受けており,このようなCの協力がなければ大規模な墓地経営に乗り出すことは財政的に困難であったこと,本件説明会にはAの担当者だけではなくCの従業員も数名出席した上,実際にCの担当者も説明を行っており,Cが経営のノウハウを一部有しているといえること,これらの事情から,仮に今後Cの経営が悪化した場合,Aだけでは本件土地の造成工事費用を捻出することが事実上困難となったり本件墓地の事業の経営に係るCの助言を受けられなくなったりすることが考えられること,④③によりAの経営が悪化すると,前述したとおり,「公衆衛生」等に係る周辺住民や本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあることからすれば,これらの点につき考慮不尽がある結果,社会通念上著しく妥当性を欠いた判断といえ,裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (3)違法の主張制限(行訴法10条1項)について

 Eは,次のとおり,本件条例13条1項本文及び同項ただし書に係る違法事由並びに本件条例3条1項に係る違法事由につき,すべて「自己の法律上の利益」(行訴法10条1項)に関係があると主張する。

 違法の主張制限についての行訴法10条1項は同法9条2項を準用してはいないが,(ⅰ)違法の主張制限は,原告適格等の訴訟要件の問題ではなく本案審理の問題であるため,訴訟の効率的運用等の訴訟要件の趣旨は妥当しないというべきことや,(ⅱ)国民の権利利益の実効的に救済を図る平成16年改正法の趣旨に照らすと,行訴法10条1項は原告の利益とは全く無関係の違法事由の主張を認めないことを示した規定と解すべきである。

 ①の違法事由がEに関係のある違法事由であることは明白であり,取消訴訟の本案で主張できる。また,における渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれという事情は,本件事業所の利用者の健康や生活環境に被害・影響を与えうるものであり,これによりEの利用者の減少等も考えられるから,の違法事由もEの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。さらに,の違法事由についても,C・Aの経営が悪化すると,前述したとおり本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあるから,Eの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。

 2 B市の反論

 (1)本件条例13条1項違反について

 ア 距離制限規定違反の点に対する反論

 B市としては,次の通り反論すべきである。

 D・Eの各代表者が親族関係にあったことから,Eは,特に事業所に移転する必要性はなかったにもかかわらず,本件説明会後に短期間で,宗教法人Dの求めに応じて本件事業所に事務所を移転させているため,D・Eの事業所移転の主たる目的・動機は,法及び本件条例の趣旨・目的とは異なるものというべきである。ゆえに,本件で形式的に本件条例13条1項の距離制限規定の適用をすることは,Eらの不当な目的・動機をB市長が事実上容認することになり,行政権の著しい濫用[3]となるため,距離制限規定は本件許可処分には適用できないか,Eに対し同規定を主張しえないと考えるべきである。

 イ 要件裁量の逸脱濫用の点に対する反論

 本件条例13条1項ただし書の要件裁量については,法1条の「公衆衛生その他公共の福祉」の文言が概括的なものであること,法10条1項は最低限度遵守しなければならない事項を規定したものであり,各自治体の地域・地区の実情に照らした上記「公衆衛生その他公共の福祉」等に係る知事ないし市長(法2条5項)の公益的判断尊重する趣旨に出たものであること,本件条例13条1項ただし書も「市長が…認めるとき」と規定することからすると,広範な裁量がある[4]ものというべきである。

 また,裁量審査につき,仮にEの主張する前記判断枠組みによるとしても,(ⅰ)仮に上記距離制限規定(本件条例13条1項本文)が形式的には適用されるとしても,前記Eらの不当な目的・動機については,裁量判断(同項ただし書)に際して本件許可処分の積極事情として考慮しうるものといえること,(ⅱ)AはCからの融資を受けたとはいえ既に本件土地を購入していることや,本件説明会を行っていることに鑑みると,これらの点につき信義則の観点から配慮する必要[5]があるといえ,これも本件許可処分の積極事情して考慮しうることからすれば,前述したEの主張するような事情があるとしても,本件許可処分は,なお裁量の範囲内のものとして適法である。

 (2)本件条例3条1項違反について

 ※中途半端だが,諸事情により,次回あるいは次回以降のブログで書く予定である。

 

 (3)違法の主張制限について

 上記と同じ。

 

第3 設問2

 上記と同じ。

 

  

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[1] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについては被告B市の反論の部分で書くことにした。

[2] 1つ上の注と同じである。

[3] 最二小判昭和53年5月26日・高橋信行「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

[4] 東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられている旨判示している。

[5] 高橋信行「判批」百選Ⅰ61頁の解説2・3参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(2) 設問1(1)の答案例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  前回のブログのとおり。

 

2 元ネタとなった裁判例

  前回のブログのとおり。 

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3 答案例

 

第1 設問1(1)

  D及びEは,本件許可処分の名宛人以外の者であるため,D及びEに処分取消を求める原告適格が認められるか,すなわち「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に当たるか否かが争点となる。

 【論パ】「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,かかる利益が認められるには,行訴法9条2項の考慮事項に照らし当該処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うものであること,その利益が当該処分に関する個々の行政法により保護される利益の範囲に含まれるものであること,及びその場合の法の趣旨が,その利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える。[1]以下,D及びEの原告適格について検討する。

2 Dについて

(1)Dの主張

 Dとしては,墓地を経営する既存同業者であるDの営業上の利益に対する侵害を伴うこと,法10条1項が墓地を経営しようとする者は知事の許可を要するとしており,この許可は「公共の福祉」(法1条、本件条例13条柱書ただし書)に照らし行われ【180518AM追記】〔,下記第2(設問1(2)の解答)で述べるとおり,公益的見地からする行政庁の広範な裁量に委ねられているものであ〕るため,既存の許可業者の事業への影響も考慮され(本件条例13条3項ただし書参照),ゆえに上記利益は法により保護される利益の範囲に含まれること,()既存業者の経営が著しく悪化すると関係区域の「公衆衛生」(法1条),ひいては住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになるから,法の趣旨は,営業上著しい被害を受けるおそれのある者の利益個々人の個別的利益としても保護するものであると解されること,()本件墓地の規模は大きいため,Dの墓地経営が悪化し,廃業もあり得るため,Dは営業上著しい被害を受けるおそれがあるといえることからすれば,Dには原告適格が認められると主張するものと考えられる。

(2)Dの主張の認否

 ア B市の反論

 法10条1項や同項に係る本件条例には,公衆浴場法のように適正配置受給調整に関する規定が置かれていないことから[2],②保護範囲要件ないし③個別保護要件を欠き,Dの原告適格は認められないとの反論が考えられる。

 イ 私見

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律には適正配置や受給調整に関する規定が置かれていないが,判例は,一般廃棄物処理業が専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業ではなく,公共性の高い事業であることから,同法の趣旨は,一定の区域の衛生等を保持するための基礎となるものとして,既存業者の営業上の利益を個別的利益としても保護するものと解している[3]。そして,この判例の理由付けは,法(墓地埋葬法)にも妥当するといえるから,上記Dの主張のとおり,Dの原告適格は認められると考える。

3 Eについて

(1)Eの主張

 Eとしては,本件墓地の100メートル以内の区域(本件条例9条2項(4))で障害福祉サービス事業を営むEの営業上の利益に対する侵害を伴うこと,法10条1項の許可は「その他公共の福祉」(法1条)に照らし行われ,本件条例13条1項(2)などに照らすと,障害福祉サービス事業者の営業上の利益は法により保護される利益の範囲に含まれること,()同事業に著しい業務上の支障が生ずると,同事業の事業所を利用する者らの生活環境や衛生環境に被害・影響を及ぼしうることにもなるから,法の趣旨は,営業上著しい被害を受けるおそれのある同事業者の利益個々人の個別的利益としても保護するものであると解されること,()Eの事業所(本件事業所)は本件土地から100メートル以内の区域(本件条例9条2項(4))である80メートルの地点にあり,事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境及び衛生環境の悪化を生じさせることから,Eが営業上著しい被害を受けるおそれがあるといえることからすれば,Eには原告適格が認められると主張するものと考えられる。

(2)Eの主張の認否

 ア B市の反論

 Eの業務侵害のおそれは著しいものとまではいえないこと,また,Eは事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境及び衛生環境の悪化を生じさせることを考慮して原告適格があると主張するが,自転車競走法に基づく場外車券発売施設の設置許可処分につき,判例は,周辺住民の生活環境に係る利益が法律上の利益に当たらないとしてその原告適格を否定している[4]ことからすれば,②保護範囲要件ないし③個別保護要件を欠き,Eの原告適格は認められないとの反論が考えられる。

 イ 私見

 上記判例は,交通・風紀・教育など広い意味での周辺住民の生活環境に係る利益につき判示したものであるが,法1条に「公衆衛生」の文言が明記されていることからすれば,Eの事業所の利用者については,広い意味での生活環境の悪化にとどまらず,健康にも影響を及ぼしうるものと考えられること(飲料水の汚染のおそれにつき規定した本件条例13条2項参照)そして,このような利用者への影響も合わせ考えると,Eの業務侵害のおそれは著しいものといえる。

 よって,上記Eの主張のとおり,Eの原告適格は認められると考える。

 

  

 

 続き(設問1(2),設問2の答案例)は次回あるいは次回以降のブログで。

 

 

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[1] この論証は,小早川光郎教授の論文・基本書における記述を元考査委員である山本隆司教授が紹介し,被処分者以外の者(第三者)の原告適格についての判例の「定式」が3要件(①不利益要件,②保護範囲要件及び③個別保護要件)に「パラフレーズ」されている(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)432~433頁)とした内容を参考にしたものである。平成21年新司法試験論文公法系第2問(行政法)の超上位合格者答案(公法系科目2位・160点台,稲村晃伸ほか監修『平成21年新司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成22年)132頁)も,やや論証の内容は異なるものの,この①~③の3要件を示してあてはめを行っており,参考になるだろう。

 なお,原告適格の論証部分は,もっと短く書いても良い。例えば,ショートバ―ジョンとして「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。」などと書いてもよい。①~③についてはあてはめの論述の中でそれを理解していることを示せば良いだろう。

[2] 最二小判昭和37119青木淳一「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)352~353頁・170事件,最三小判平成26128・林晃大「判批」百選Ⅱ354~355頁・171事件参照。

[3] 最三小判平成26128・林晃大「判批」百選Ⅱ354~355頁・171事件参照。

[4] 最一小判平成211015・勢一智子「判批」百選Ⅱ346~347頁・167事件参照。

 

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平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(1) 全体的な印象と元ネタ裁判例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

(1)違法事由のみの年という衝撃

 平成18年からの(新)司法試験がはじまって以来,初めて違法事由(本案)だけが出題される年となった。訴訟類型や訴訟要件の勉強は何だったのだろうかと思う受験生もいたかと思うが,これも司法試験考査委員の広範にすぎる作問裁量の範囲内ということで,諦めるしかなさそうである。

    【20180517AM訂正】

  行政法は会議録(会話文)をざっと読んだだけでよく読めていなかったのですが(←言い訳ですが…)、今朝あらためて読んでみたところ、問題文4頁の会議録からすると、設問1(1)は、処分取消訴訟の訴訟要件である原告適格(行訴法9条1項(・2項))の認否の問題でした。

 配点35で被処分者以外の者の原告適格を比較的じっくり検討させる問題という意味で、平成21年や平成23年に近い感じの設問だと思います。

 以上、大変失礼いたしました。(1)の点を訂正させていただきます。

 

(2)分量は少なめか普通

 設問が実質3つであり,頁数も2~7頁(6枚)と行政法にしては例年と比べるとやや少なめか普通の分量の問題であったように思われる。

 

(3)個別法は墓埋法&墓地経営許可条例

 墓地埋葬法は受験生にとっても相当程度メジャーな法律といえ[1],墓地は,いわゆる嫌忌施設とされるものであり,本問にあるように周辺住民からの反対運動が起きることもあり,自治体としても比較的気を遣う案件といえ,実務的でもそれなりに重要な個別法(・個別条例)が出題されたと思われる[2]

 

(4)久しぶりの「違法の主張制限」の論点

 平成21年司法試験論文公法系第2問(行政法)では,「自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのでしょうか。」という誘導があり,違法の主張制限の論点が出たが,これを展開すべき場合はレアであった。というのも,過去12回の(新)司法試験(プレテスト・サンプル問題を含めると過去14回の試験)で,違法の主張制限が正面から出題され,かつ,問題文(弁護士の会話文)で明確な誘導があったのは,1回(平成21年)だけなのである(平成23年については,明確な誘導はないと思われる)。

 とはいえ,当然のことかもしれないが,違法の主張制限は,①問題文で(明確な)誘導がある場合には必ず検討し,②平成21年のように誘導があると捉えられなかった場合でも特に違法事由が3~4個以上ある場合に論点として展開すべきかよく検討し,②の場合でも必要に応じて一定程度書くべき論点であった。

 そして,平成30年でも,問題文5頁に「Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討する必要がありますね。」との殆ど明確な誘導があったため、違法の主張制限の論点を書く必要があったが,久しぶりの出題であったことから,もしかしたら準備不足であったという受験生も一定数いたのではなかろうか。

 

2 元ネタとなった裁判例

 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている[3]

 私も同様の印象を持っているところ,平成30年の行政法の問題については,考査委員(実務家)の古田孝夫判事(東京地方裁判所)らが書いた東京地判平成281116判例タイムズ1441106・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394。ちなみに,東京地判の原告代理人(全5名)の中に岩橋健定弁護士[4]がいる。)が元ネタとなったものと思われる。

 

 なお,東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,年墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられており,その裁量権の逸脱・濫用がない限り,同許可は適法となるものとしている。かかる判示は,平成30年司法試験との関係でも重要といえよう。

 

 

 続きは次回あるいは次回以降のブログで。

 

 

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[1] 墓地埋葬法は,平成24年司法試験論文憲法(問題文3頁)で「参考資料」として掲載されており,最三小判昭和43年12月24日・周セイ(「倩」に草冠が付く)「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)112~113頁・55事件では,墓地埋葬法に関する通達の処分性が問題となっている。

[2] 筆者自身も,以前,法律相談を受けたことがある(結局受任はしなかったが)。

[3] 橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁。

[4] 岩橋健定「判批」百選Ⅰ226~227頁・112事件等参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(2) 答案構成

 平成30年司法試験(論文憲法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

 また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文憲法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 答案構成の骨子に関する若干のコメント(前回のブログの続き)

(1)問題文4頁の甲の最後の発言に基づく構成

 前回のブログ記載のとおり。

 

(2)出版・表現(情報を発信する側)の自由について

 前回のブログ記載のとおり。

 

(3)94条違反を書くか(消極)

 結論は消極であると思うが,徳島市公安条例事件最大判昭和50年9月10日)[1]を活用して憲法94条違反を書くか否かという点につき,一応検討する。

 この点につき,94条は岐阜県青少年保護育成条例事件最高裁判決では特に触れられていないことや,下記2(5)の答案構成の骨子にも特に挙がっていない(「一 条例による人権制限、罰則制定の可否」では徳島市公安条例事件を活用については特に触れていない)こと,青少年保護育成条例の憲法上の問題点を扱った問題の構成でも同様に94条違反は問題視していないこと[2]などからすると,特に94条については問題にしなくて良いと思われる。

 

(4)14条1項違反(平等権侵害、平等原則違反)を書くか(消極)

 94条の場合と同様に,結論は消極であると思うが,14条1項違反を書くか否かという点についても検討する。

 この点につき,確かに,福岡県青少年保護育成条例事件最大判昭和60年10月23日)[3]では,憲法14条1項違反も問題となっている。しかし,同事件では,売春等取締条例事件最大判昭和33年10月15日)[4]の趣旨に徴し14条1項に違反しないことが「明らか」と判示されている。そこで,本条例案についても(本条例案の罰則には懲役刑があるなどの事情はあるものの)14条1項違反となる見込みは低いものと思われ,答案から落とす(あるいは落としてもよい)論点となるものと考えられる。

 

(5)昭和53年(前回のブログ参照)の答案構成の骨子

 旧司法試験昭和53年論文憲法第1問を解説した井上英治『司法試験 過去問講座Ⅰ 憲法』(法曹同人,平成元年)267頁以下(267~268頁)によると,答案構成は次のとおりとなっている。平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子に参考に(一応)なるものだろう。

 

一 条例による人権制限、罰則制定の可否

二1 情報提供権と情報受領権の関係

 2 出版する者の表現の自由

(一)LRAの基準

(二)成人の読む自由との関係

(三)漠然性の故に無効の理論

 (四)検閲禁止との関係

   ・広義の事前抑制禁止原則

3 販売業者の営業の自由

 

3 平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子

 平成30年司法試験論文憲法の答案構成(の骨子)は次のとおりとなると思われる。

 

第1 図書類を購入する側について

 1 青少年の知る自由(知る権利)[5]

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

 ア 漠然不明確性+過度の広汎性の点から,青少年の知る自由侵害(21条1項・31条違反)?

 イ 想定される反論

 合憲限定解釈可能であり,明確 ←税関検査事件,徳島市公安条例事件

 ウ 私見違憲

 過度に広汎の点も考慮すると不明確 ←広島県暴走族追放条例事件[6]

(2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

 ア 知る自由の違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条は岐阜県青少年保護育成条例[7]に比べて規制の対象がより広いものであるから,規制態様がより強く,青少年との関係ではパターナリズムによる規制であるから,少なくとも中間審査基準で判断されるべき[8]

立法事実(科学的証明)がなく,あるとしても規制手段が過剰であり,青少年の知る自由侵害(21条1項)?[9]

 イ 立法事実の検討[10]

 反論:立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 私見違憲):立法事実なし(青少年非行などの害悪が生ずる相当の蓋然性が必要[11]であるがこれがない上,社会の共通認識にもなっているとはいえない等)

 ウ 規制手段の検討[12]

 反論:過剰ではない(漫画やアニメなど絵による描写は青少年がアクセスし易い等)

 私見違憲):過剰規制である(業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑)まで設ける必要はない等)

 

 2 18歳以上の人の知る自由

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

    ・上記第1の1(1)と同じ。

 (2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

    ア 違憲審査基準(判断枠組み)

 青少年と異なり,18歳以上の人の場合には,自分自身で性的画像の不快さを判断可能[13]→より厳格な判断枠組み(厳格審査基準)によるべき

    イ 反論

 思わぬところで性的なものを見てしまう(見ない利益は憲法13条後段で保護される)から,より緩やかな判断枠組みによるべき/他で購入可能

    ウ 私見違憲

 一般人であれば,書籍等が置いてある場所については,ある程度予見可能であるため,厳格審査基準でよい / 他のより緩やかな手段もありうる(例えば,規制図書類につき,立ち読みできないようにする規制,目に付き難いコーナーを設けるよう義務付ける等)

 

(3 検閲・事前抑制に当たらないこと[14]

 

第2 図書類を販売する側について

 1 本条例案8条1項とスーパーマーケット・コンビニエンスストアの営業の自由

(1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件[15]の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

←【20180519AM追記】(1)で判断枠組みの定立に際して、規制目的(消極か積極か複合的かなど)についても検討をしておく必要がある。第2の2・3についても同様の話になりうるが,規制目的を決め手にできないとい旨論述をするのが良いだろう。

(2)個別具体的検討[16]

 ア 反論

 店舗への影響があるので合理性を欠く規制

 イ 私見(合憲)

 確かに,規制図書類の販売に「集客力」はあるものの,売上約150店舗のうち,規制図書類の売上げが売上げ全体の20%を超えるのは,僅か10店舗のみであり,反論のとおり,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

 

 2 本条例案8条2項と学校周辺の規制区域内の店舗の営業の自由【20180519AM追記】〔・財産権(損失補償)〕

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件のように許可制をとるものではないが,同様に距離制限を設けた上で(段階的とはいえ)規制(9条等)をするものであるから,単なる営業態様規制にとどまるものではなく,実質的には開業規制的なものであり,規制態様が強いから,薬局距離制限事件の審査基準で判断されるべき 

(2)立法事実の検討

 ア 反論

 立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 イ 私見違憲

 立法事実なし(単なる観念上の想定にすぎず,確実な根拠に基づく合理的な判断[17]といえることが必要[18]であるがこれがない等)

(3)規制手段の検討

 ア 反論

 過剰ではない(9条等は段階的規制で,経過措置もある(附則)等)

 イ 私見違憲:特に10店舗につき)

 過剰規制である(店舗の移転は実際には困難であることが多い,業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑,両罰規定)まで設ける必要はない等)

【20180519AM追記】(4)財産権憲法29条)の制約と損失補償

 ア 問題点

 特に「10店舗」については,仮に,財産権(29条1項)を侵害する違憲な制約とはいえなくても,損失補償(29条3項)を要するのではないか,条例案に損失補償に係る条項はないが,それがない場合でも判例上直接請求されうるから,条例案に損失補償の条項を明記すべきではないか問題となる。

 イ 判断枠組み

   特別の犠牲説の論パ

 ウ 反論

   (主目的は)消極目的であることなどから、特別の犠牲にあたらない

 エ 私見(10店舗につき損失補償必要)

 侵害の強度等も考慮すると,「10店舗」(問題文3頁)については必要→規制区域内の店舗で規制図書類の売上げが全体の20パーセントを超える店舗について,一定期間の損失を補償する旨の条項を設けるべき

 

 3 本条例案8条3項4項と書店・レンタルビデオ店の営業の自由

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

 (2)個別具体的検討

 ア 反論

 内装工事が必要であるなど,店舗への影響がある

 イ 私見(合憲)

 経過措置があり,その間に内装工事可能であるから,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

                                   以上

 

 

以上,前回同様雑駁な感想にとどまった。

 

表面的な検討にとどまっている部分も少なくなく,たたき台としての機能もない部分も多いだろうが,多少なりとも参考になれば(ただし受験生については本試験が終わった後に)幸いである。

 

続きについては次回以降のブログで書くかもしれない。

 

 

【20180519AM追記財産権と損失補償の論点等につき,追記した。「規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが」(問題文4頁)とあるので,当初は必要ないかとも考えたが,必ずしもそうとは言い切れないとも思われ,答案構成の必要と思われる部分に付け加えたである。書くべきか悩ましい論点と思うが,平成18年新司法試験論文憲法でも損失補償は問われており,平成30年でも論点になったといえるのかもしれない。

 

 

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[1] 木村草太「判批」百選Ⅰ(←前回ブログと同じ略称を用いている。以下同じ。)186~188頁・88事件,尾形健「判批」判プラ441~442頁・342事件。

[2] 武市周作「青少年保護育成条例」小山剛=畑尻剛=土屋武編号『判例から考える憲法』(法学書院,2014年)(以下「武市」という。)83~93頁。

[3] 宍戸常寿「判批」判プラ404頁・308事件。

[4] 新村とわ「判批」百選Ⅰ72~73頁・34事件,尾形健「判批」判プラ440~441頁・341事件。

[5] 岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)を解説した曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件「解説」2は,「知る自由(本書128事件〔最大判平元・3・8―レペタ事件〕参照)との関係での自販機…との関係での自販機収納規制の合憲性については,受領者が青少年の場合と成人の場合とで区別を要する」としており,第1の1と2の答案構成と整合するものと思われる。また,「知る自由」としたが,「知る権利」でも良いと思われる(木下・別冊法セ31頁には「ウェブサイト閲覧者の『知る権利』」との記載があり,木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太憲法』(辰已法律研究所,平成26年)(以下「木村・LIVE本」という。)164頁も「知る権利」と記述する)。ちなみに,「知る自由」につきレペタ事件については言及できるといいだろうが(武市86,88頁等参照),現実には難しいかもしれない。

[6] 西村裕一「判批」百選Ⅰ189~190頁・89事件,宍戸常寿「判判」判プラ406頁・310事件。

[7] 松井茂記「判批」百選Ⅰ118-119頁・55事件),橋本基弘「判批」メディア百選128-129頁・63事件),曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件。

[8] 判断枠組みの厳格度等についても,反論→私見の形式で書いても良いだろう。

[9] 武市92~93頁参照。

[10] 武市88~90,92~93頁参照。

[11] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

[12] 武市90~93頁参照。

[13] 木村・LIVE本162頁参照。

[14] 難しいところであるが,時間があれば書くとよいというレベルの論点かもしれない。

[15] 石川健治「判批」百選Ⅰ205~207頁・97事件,尾形健「判判」判プラ204頁・154事件。

[16] 緩やかな基準によったことから,立法事実と規制手段を一緒に書いてしまっている。

[17] 武市90頁等参照。

[18] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(1) 全体的な印象

 【注意】

 平成30年司法試験(論文憲法)を受験した司法試験受験生は以下のコメントを見ないで下さい。

 

 また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文憲法の問題を検討をすることは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。

 

 宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

(1)千葉市のコンビニの成人誌取扱い中止のニュースを想起させる事案

 平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)は,千葉市コンビニエンスストアミニストップ」が成人誌の取り扱いを中止したニュース(朝日新聞デジタル2017年11月21日12時08分の記事等参照)を想起させるものであり,今日的な問題といえる。

 受験生も一度は(深い検討をしたかはさておき)考えたことのある問題であったように思われ,その意味でイレギュラーな事案ではなかっただろう。

 

(2)想起される主な判例

 本問と特に関係のある,あるいは,答案でも必ず活用すべきといえる判例は,①岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)[1]と,②薬局距離制限事件最大判昭和50年4月30日)[2]の2つであるといえよう。ちなみに,憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社2014年)で,①につき,平成30年司法試験考査委員(憲法)の曽我部真裕教授が,②につき,同じく考査委員(憲法)の尾形健教授が解説を担当されている。

 また,この2つの判例のほかにも,③広島県暴走族追放条例事件最大判平成19年9月18日)[3]等の活用が考えられるが,2時間という制限時間内でこの3つ以上に判例を挙げて活用しようとすると時間不足に陥るリスクがあると思われるため,この3つ(あるいは①・②の2つ)を挙げ,手堅く書いていくのが良いように思われる。

 

(3)(新)司法試験との関係

 本問と似たような問題は,有害情報につき,平成20新司法試験論文公法系第1問(憲法)で,また,職業選択・営業の自由につき,平成26司法試験論文公法系第1問(憲法)で,それぞれ出題されている。

 後述するように設問の形式には変更があったものの,平成30年本試験においても,過去問の検討が重要であったといえる。

 

(4)旧司法試験的との関係

 旧司法試験的との関係については,まず,岐阜県青少年保護育成条例を想起させる事件有害図書については,旧司法試験昭和53年第1問で出題されたことがある。問題文は次のとおりである[4]

 

ある県では、自動販売機による有害図書類の販売を規制するため、次の案による条例の制定を検討している。この条例案に含まれる憲法上の諸論点につき説明せよ。

「第〇条 自動販売機には、青少年に対し性的樹青を著しく刺激し又は残虐性をはなはだしく助長し、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めて知事が指定した文書、図画又はフイルムを収納し又は陳列してはならない。

2 知事は、前項の規定に違反する業者に対し、必要な指示又は勧告をすることができ、これに従わないときは、撤去その他の必要な措置を命ずることができる。この命令に違反した業者は、3万円以下の罰金に処せられる。」

 

 また,旧司法試験平成22年第1法務省のウェブサイトで問題と出題趣旨が公表されている)でも,薬局距離制限事件等を想起させる事案が出題されている。問題文と出題趣旨は次の通りである。

 理容師法は,「理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に行われるように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的」(同法第1条)として制定された法律である。同法第12条第4号は,理容所(理髪店)の開設者に「都道府県が条例で定める衛生上必要な措置」を講ずるよう義務付け,同法第14条は,都道府県知事は,理容所の開設者が上記第12条の規定に違反したときには,期間を定めて理容所の閉鎖を命ずることができる旨を規定している。

 A県では,公共交通機関の拠点となる駅の周辺を中心に,簡易な設備(洗髪設備なし)で安価・迅速に散髪を行うことのできる理容所が多く開設され,そこでの利用者が増加した結果,従来から存在していた理容所の利用者が激減していた。そのような事情を背景に,上記の理容師法の目的を達成し,理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要望した場合等に適切な施術ができるようにすることで理容業務が適正に行われるようにするとともに,理容所における一層の衛生確保により,公衆衛生の向上を図る目的で,A県は,同法第12条第4号に基づき,衛生上必要な措置として,洗髪するための給湯可能な設備を設けることを義務付ける内容の条例を制定した。このA県の条例に含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

 なお,法律と条例の関係については論じる必要はない。

【参照条文】理容師法

第1条この法律は,理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に行われるように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的とする。

第1条の2 この法律で理容とは,頭髪の刈込,顔そり等の方法により,容姿を整えることをいう。

② この法律で理容師とは,理容を業とする者をいう。

③ この法律で,理容所とは,理容の業を行うために設けられた施設をいう。

第12条理容所の開設者は,理容所につき左に掲げる措置を講じなければならない。

一 常に清潔に保つこと。

二 消毒設備を設けること。

三 採光,照明及び換気を充分にすること。

四 その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置

(出題趣旨)

条例による理容所の規制につき,一見すると公衆衛生上の観点からの営業態様に関する規制について,その実態が競争制限的で既存業者保護となる効果を持ち,かつ,違反者に対しては理容所の閉鎖という法律上の効果を伴う点で,単なる営業態様規制ではなく,開業規制とも考え得る点を,憲法第22条第1項の職業選択の自由との関係でどのように考えることができるのかを問うことを意図したものである。

 

(5)設問形式の変更

 反論を想定しつつ,「法律家」(弁護士や裁判官等とはされていない)の立場で,私見のみを論じる形式の設問に変わった。これは大きな変更点といえる。

 さらに,設問で「判例…を踏まえて論じなさい」と明記されたこともこれまで以上に判例の指摘や判例の事案との比較等を重視するという現れではないかとも思われ,重要と思われる。

 

(6)多論点型の問題

 上記の設問形式の変更に伴い,例年よりも、書くべき論点が多くなったと思われ,旧司法試験に近くなったのではないか(あるいはプレテストの設問にもやや近い)との印象も受けた。時間配分の点もより重要になってくるだろう。

 そして,どの論点まで選定すべきか,選定した各論点につき,それぞれどの程度注力するのかといった点が特に重要である。そして,その際には,行政法のみならず論文憲法にも導入された<会話文>の誘導に乗り切る必要があるが,憲法ではほぼ初めてのことだったのではないかといえ,慣れていない分,やや難しいように感じる。本問との関係では,例えば,〔1〕税関検査事件最大判昭和59年12月12日)の判示[5]北方ジャーナル事件最大判昭和61年6月11日)[6]そして,岐阜県青少年保護育成条例事件の判示に照らすと,検閲(憲法21条2項前段)に当たらないことになりそうであるから,検閲の論点については,論じないとすることも一応考えられ[7],また,〔2〕明確性の理論[8]については,同理論のうちの漠然性のゆえに無効の理論[9]の点だけを主張するのではなく,過度の広汎性のゆえに無効[10]の点を併せて主張すべきであろう。すなわち,不明確だ・明確だという水掛け論に終始してしまうことを避けるべく,漠然不明確性の問題に「過度の広汎性の問題を組み合わせ、条文の不明確性故に本来許されるべき言論活動にまで規制が及んでいることを問題にするという戦略」[11]が本問でも恐らく有効と思われる。

 

2 答案構成の骨子に関する若干のコメント

(1)問題文4頁の甲の最後の発言に基づく構成

 答案構成は,問題文4頁の甲の最後の発言すなわちXと甲とのこれまでのやり取りを総括するような,いわば「まとめ」の部分によるべきであろう。そこで,答案構成ないしその骨子は次のとおりとなると思われる。

 ちなみに、本条例案の条文ナンバーについては、次回検討してみたい。

 

第1 図書類を購入する側について

 1 本条例案と青少年の知る自由(知る権利)

 2 本条例案と18歳以上の人の知る自由 

 

第2 図書類を販売する側について

 1 本条例案とスーパーマーケット・コンビニエンスストアの営業の自由

 2 本条例案と学校周辺の規制区域内の店舗の職業選択・営業の自由

 3 本条例案と書店・レンタルビデオ店の営業の自由

 

 

 

(2)出版・表現(情報を発信する側)の自由について

 上記の「まとめ」部分によって答案構成の骨子を作ると,図書類を「出版」(憲法21条1項)等をする者の出版の自由や表現の自由の主張の項目がなくなってしまい,不安に思うかもしれないが,ここは素直に出題者の事実上の誘導に乗っかって書くしかないものと思われ,青少年・大人の知る自由(知る権利)を論じる中で,そのような出版・表現の自由の話を少し書いていくということになるだろう。とはいえ,そうすると,違憲主張の適格性ないし違憲主張の適格[12]の論点が出てくることになり,その論点まで書くのかという問題も生じ,制限時間との関係で悩ましいことになるといえる。

 

以上雑駁な感想を述べた。

 

続きは次回。

 

 

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[1] 松井茂記「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」という。)118-119頁・55事件),橋本基弘「判批」堀部政男=長谷部恭男『メディア判例百選』(有斐閣,2005年)(以下「メディア百選」という。)128-129頁・63事件),曽我部真裕「判批」憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」という。)178頁・133事件。

[2] 石川健治「判批」百選Ⅰ205~207頁・97事件,尾形健「判判」判プラ204頁・154事件。

[3] 西村裕一「判批」百選Ⅰ189~190頁・89事件,宍戸常寿「判批」判プラ406頁・310事件。

[4] 伊藤真憲法[第3版]【伊藤真試験対策講座5】』(弘文堂,平成19年)724~725頁。

[5] 阪本昌成「判批」百選Ⅰ156~157頁・73事件,曽我部真裕「判批」判プラ177頁・132事件。

[6] 阪口正二郎「判批」百選Ⅰ152~154頁・72事件,曽我部真裕「判批」判プラ158~159頁・116事件。

[7] ただし,曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件の解説3(伊藤補足意見)に照らすと,検閲についても論じて良さそうであり,書くべきか悩ましい論点と思われる。いずれにせよ,大展開すべき(厚く書くべき)論点ではなかろう。

[8] 芦部信喜高橋和之補訂〕『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)(以下「芦部・憲法」という。)・205頁。

[9] 芦部・憲法205頁。

[10] 芦部・憲法205頁。

[11] 木下智史「公法系科目〔第1問〕の解説」法学セミナー編集部『新司法試験の問題と解説2008』(別冊法学セミナー198号,2008年8月)(以下「木下・別冊法セ」という。)30頁以下(32頁)参照。

[12] 野中俊彦=中村睦男=髙橋和之=高見勝利『憲法Ⅱ(第5版)』(有斐閣平成24年)299頁以下〔野中〕。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(4・完)

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3)

のブログの続きである。

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題  

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 平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2) yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

引き続き,脚注付きの答案例を示すことをもって問題解説とすることにしたい。

 

 

Ⅰ 答案例(続き)

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

   (略)・・・平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)~(3)のとおり。

 

 

第2 設問2

1 X1の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,地方自治法244条2項より「正当な理由」があれば閲読を制限しうるし,同法242条の2第1項が公の施設の管理に関する事項を条例に委任していることからすれば,閲読制限に係る判断には一定の行政裁量がある[1],ため,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する[2] [3]

   イ 私見

 いわゆる格差社会において大学生等の生活水準が必ずしも安定しない状況に鑑みると,一定の割合の学生は,多くの図書を購入することが事実上不可能ないし困難な状況にあると考えられる。そして,図書館は,特にそのような学生が多くの図書を閲読するための公の施設となっているといえる。このような図書館の今日における機能に照らすと[4],閲読制限に係る判断に裁量があるとしても,その範囲は狭いものというべきであるから,原告と同じ判断枠組みで判断すべき[5]と考える[6]

(2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,「めかんち」は目の不自由な人に対する差別用語であり,対抗言論の法理が妥当し難く,特に子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものであることからすれば,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるというべきと反論する。

   イ 私見

 確かに,「めかんち」のような差別用語を用いた表現行為には,対抗言論の法理が妥当し難い。

 しかし,①参考資料1によると,本件図書においては,「めかんち」が,その用語を用いた者を主人公Dが非難する文脈コンテクスト)で記述されていることからすれば,目の見えない者の尊厳や,子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものとまではいえないと考える。加えて,②改正条例施行後2年間は苦情が寄せられなかったことや,③本件図書の「めかんち」が原因となりヘイトスピーチヘイトクライムが助長されたという事実が特に確認できないという本件の事実関係[7]にも照らすと,本件図書をX1に閲読させることにつき,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,21条1項に違反する。

2 X2の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,国家による助成援助ついては,財源の有限性から表現内容の選別に係る広範な裁量があるため,害される公益を特に重視して判断しうるなど,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する。

   イ 私見

 確かに,内容の選別に係る裁量は,購入時点においては広いものといえるが,いったん図書の内容が適当なものと判断として図書を購入・配架した以上,また,上記図書館の重要性等から,図書の廃棄については同程度の広い裁量を認めるべきではない。ゆえに,原告と同じ判断枠組みで判断すべきと考える。

 (2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,本件図書は発売当初,ベストセラーとなっていることから,情報流通過程を歪める危険性は低く,団体Hから現実に苦情があったことから,子どものいじめや差別が助長される可能性など,②害される公益は重大であると反論する。

   イ 私見

 (ⅰ)本件図書は,被告の述べるとおりベストセラーになっていることから,古本としても入手し易くなっているといえること,(ⅱ)大学生であれば大学の図書館も利用可能であり,大学の図書館に本件図書がなくても配架のリクエストや他大学からの取り寄せが可能であること,(ⅲ) 他大学からの取り寄せに要する費用は通常は安価であること,(ⅳ)後述するように,公益法人Hの苦情を契機に廃棄の判断をしたのであり,Y市の独断的な評価により不公正[8]廃棄をしたわけではないことなどから,情報流通過程を歪める危険性が高いとまではいえないと考える。

 また,(ⅰ)児童・生徒自身(子ども)は,心身ともに成長発達過程にあることから,個人の尊厳の侵害や自身が差別される記述等につき,大人と比べると通常は声を上げ難いこと,(ⅱ)公益法人である団体Hは,目の見えない子どもを中心に支援活動を行い,目の見えない子どもを巡る諸問題につき一定の知見を有していると考えられるから,その苦情は重く見るべきこと,(ⅲ)個人の尊厳(13条)や差別(14条1項参照),成長発達権(26条1項参照)に係る危険が差し迫った明白なものではなく,ある程度抽象的なものであっても,いったん児童等の個人の尊厳等が傷付けられる回復し難い不可逆的な損害を生じさせうることに照らせば,廃棄しないことによる弊害(害される公益)は大きいと考える。

 よって,本件廃棄は,前記国家の中立義務(21条1項)に違反するものではなく,合憲である。

 

 

Ⅱ 明らかな差し迫った司法試験本番へ向けて

 

 司法試験受験生の皆様、本当に、あともう少しですね。

 

「今まで続けてきたことに自信を持って、試験当日を迎えましょう。」[9]

  

 

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[1] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁・判旨(2)等参照。

[2] 「反論」は「被告としては,・・・と反論する。」という型で書くとよい(西口竜司ほか監修『平成29年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成30年)(以下「ぶんせき本」という。)28頁の159.90点(公法系科目3~4位)の再現答案(以下「超上位答案」という。)・第2の1等参照)。「反論」では,判断枠組み(規範)レベルまでのもの1つ(か2つ)と,あてはめレベルのものを1つ(か2つ)をそれぞれ合計2~3行程度で書くと決めておけば迷いが生じなくて良いと思われるし,時間不足にも陥りにくく,得点も加算され易くなるだろう。

[3] ぶんせき本28頁の超上位答案・第2の1(2)アも被告である「国は,・・・立法府の裁量が広く働くれことを主張して,基準を下げるべきであると反論する。」としており,緩やかなものとすべき(下げるべき)「基準」の内容までは明らかにしていない。この書き方は,特に原告と私見の判断枠組み(審査基準等)を同じものとする構成を採る場合(例えば,ぶんせき本30頁の超上位答案・第2の1(2)イ等)であっても有効であるものと思われる。

[4] 今日(現代)の社会状況に言及しようとしている論述であり,憲法では加点され易いものと思われる。

[5] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」という。)182-183頁・86事件)の園部逸夫裁判官の補足意見は,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」という判示を前提としつつも,「判断に裁量権の行使を誤った違法はない」として行政裁量(要件裁量)を認めている

[6] 私見では,原告主張(設問1)との重複を極力避けるようにしている(加点され易くするため)。このことはあてはめの点でも同じである。

[7] 問題文の事実関係とはやや離れるため,③の点まで書いて良いかについては意見が分かれるかもしれない。

[8] 船橋市立図書館図書廃棄事件(最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」百選Ⅰ158-159頁・74事件)の判示のキーワードの一部を活用している。

[9] 伊藤真『合格のお守り』(日本実業出版社,2008年)79頁。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。