平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(2) 設問1(1)の答案例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  前回のブログのとおり。

 

2 元ネタとなった裁判例

  前回のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

  

 

3 答案例

 

第1 設問1(1)

  D及びEは,本件許可処分の名宛人以外の者であるため,D及びEに処分取消を求める原告適格が認められるか,すなわち「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に当たるか否かが争点となる。

 【論パ】「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,かかる利益が認められるには,行訴法9条2項の考慮事項に照らし当該処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うものであること,その利益が当該処分に関する個々の行政法により保護される利益の範囲に含まれるものであること,及びその場合の法の趣旨が,その利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える。[1]以下,D及びEの原告適格について検討する。

2 Dについて

(1)Dの主張

 Dとしては,墓地を経営する既存同業者であるDの営業上の利益に対する侵害を伴うこと,法10条1項が墓地を経営しようとする者は知事の許可を要するとしており,この許可は「公共の福祉」(法1条、本件条例13条柱書ただし書)に照らし行われ【180518AM追記】〔,下記第2(設問1(2)の解答)で述べるとおり,公益的見地からする行政庁の広範な裁量に委ねられているものであ〕るため,既存の許可業者の事業への影響も考慮され(本件条例13条3項ただし書参照),ゆえに上記利益は法により保護される利益の範囲に含まれること,()既存業者の経営が著しく悪化すると関係区域の「公衆衛生」(法1条),ひいては住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになるから,法の趣旨は,営業上著しい被害を受けるおそれのある者の利益個々人の個別的利益としても保護するものであると解されること,()本件墓地の規模は大きいため,Dの墓地経営が悪化し,廃業もあり得るため,Dは営業上著しい被害を受けるおそれがあるといえることからすれば,Dには原告適格が認められると主張するものと考えられる。

(2)Dの主張の認否

 ア B市の反論

 法10条1項や同項に係る本件条例には,公衆浴場法のように適正配置受給調整に関する規定が置かれていないことから[2],②保護範囲要件ないし③個別保護要件を欠き,Dの原告適格は認められないとの反論が考えられる。

 イ 私見

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律には適正配置や受給調整に関する規定が置かれていないが,判例は,一般廃棄物処理業が専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業ではなく,公共性の高い事業であることから,同法の趣旨は,一定の区域の衛生等を保持するための基礎となるものとして,既存業者の営業上の利益を個別的利益としても保護するものと解している[3]。そして,この判例の理由付けは,法(墓地埋葬法)にも妥当するといえるから,上記Dの主張のとおり,Dの原告適格は認められると考える。

3 Eについて

(1)Eの主張

 Eとしては,本件墓地の100メートル以内の区域(本件条例9条2項(4))で障害福祉サービス事業を営むEの営業上の利益に対する侵害を伴うこと,法10条1項の許可は「その他公共の福祉」(法1条)に照らし行われ,本件条例13条1項(2)などに照らすと,障害福祉サービス事業者の営業上の利益は法により保護される利益の範囲に含まれること,()同事業に著しい業務上の支障が生ずると,同事業の事業所を利用する者らの生活環境や衛生環境に被害・影響を及ぼしうることにもなるから,法の趣旨は,営業上著しい被害を受けるおそれのある同事業者の利益個々人の個別的利益としても保護するものであると解されること,()Eの事業所(本件事業所)は本件土地から100メートル以内の区域(本件条例9条2項(4))である80メートルの地点にあり,事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境及び衛生環境の悪化を生じさせることから,Eが営業上著しい被害を受けるおそれがあるといえることからすれば,Eには原告適格が認められると主張するものと考えられる。

(2)Eの主張の認否

 ア B市の反論

 Eの業務侵害のおそれは著しいものとまではいえないこと,また,Eは事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境及び衛生環境の悪化を生じさせることを考慮して原告適格があると主張するが,自転車競走法に基づく場外車券発売施設の設置許可処分につき,判例は,周辺住民の生活環境に係る利益が法律上の利益に当たらないとしてその原告適格を否定している[4]ことからすれば,②保護範囲要件ないし③個別保護要件を欠き,Eの原告適格は認められないとの反論が考えられる。

 イ 私見

 上記判例は,交通・風紀・教育など広い意味での周辺住民の生活環境に係る利益につき判示したものであるが,法1条に「公衆衛生」の文言が明記されていることからすれば,Eの事業所の利用者については,広い意味での生活環境の悪化にとどまらず,健康にも影響を及ぼしうるものと考えられること(飲料水の汚染のおそれにつき規定した本件条例13条2項参照)そして,このような利用者への影響も合わせ考えると,Eの業務侵害のおそれは著しいものといえる。

 よって,上記Eの主張のとおり,Eの原告適格は認められると考える。

 

  

 

 続き(設問1(2),設問2の答案例)は次回あるいは次回以降のブログで。

 

 

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[1] この論証は,小早川光郎教授の論文・基本書における記述を元考査委員である山本隆司教授が紹介し,被処分者以外の者(第三者)の原告適格についての判例の「定式」が3要件(①不利益要件,②保護範囲要件及び③個別保護要件)に「パラフレーズ」されている(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)432~433頁)とした内容を参考にしたものである。平成21年新司法試験論文公法系第2問(行政法)の超上位合格者答案(公法系科目2位・160点台,稲村晃伸ほか監修『平成21年新司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成22年)132頁)も,やや論証の内容は異なるものの,この①~③の3要件を示してあてはめを行っており,参考になるだろう。

 なお,原告適格の論証部分は,もっと短く書いても良い。例えば,ショートバ―ジョンとして「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。」などと書いてもよい。①~③についてはあてはめの論述の中でそれを理解していることを示せば良いだろう。

[2] 最二小判昭和37119青木淳一「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)352~353頁・170事件,最三小判平成26128・林晃大「判批」百選Ⅱ354~355頁・171事件参照。

[3] 最三小判平成26128・林晃大「判批」百選Ⅱ354~355頁・171事件参照。

[4] 最一小判平成211015・勢一智子「判批」百選Ⅱ346~347頁・167事件参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(1) 全体的な印象と元ネタ裁判例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

(1)違法事由のみの年という衝撃

 平成18年からの(新)司法試験がはじまって以来,初めて違法事由(本案)だけが出題される年となった。訴訟類型や訴訟要件の勉強は何だったのだろうかと思う受験生もいたかと思うが,これも司法試験考査委員の広範にすぎる作問裁量の範囲内ということで,諦めるしかなさそうである。

    【20180517AM訂正】

  行政法は会議録(会話文)をざっと読んだだけでよく読めていなかったのですが(←言い訳ですが…)、今朝あらためて読んでみたところ、問題文4頁の会議録からすると、設問1(1)は、処分取消訴訟の訴訟要件である原告適格(行訴法9条1項(・2項))の認否の問題でした。

 配点35で被処分者以外の者の原告適格を比較的じっくり検討させる問題という意味で、平成21年や平成23年に近い感じの設問だと思います。

 以上、大変失礼いたしました。(1)の点を訂正させていただきます。

 

(2)分量は少なめか普通

 設問が実質3つであり,頁数も2~7頁(6枚)と行政法にしては例年と比べるとやや少なめか普通の分量の問題であったように思われる。

 

(3)個別法は墓埋法&墓地経営許可条例

 墓地埋葬法は受験生にとっても相当程度メジャーな法律といえ[1],墓地は,いわゆる嫌忌施設とされるものであり,本問にあるように周辺住民からの反対運動が起きることもあり,自治体としても比較的気を遣う案件といえ,実務的でもそれなりに重要な個別法(・個別条例)が出題されたと思われる[2]

 

(4)久しぶりの「違法の主張制限」の論点

 平成21年司法試験論文公法系第2問(行政法)では,「自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのでしょうか。」という誘導があり,違法の主張制限の論点が出たが,これを展開すべき場合はレアであった。というのも,過去12回の(新)司法試験(プレテスト・サンプル問題を含めると過去14回の試験)で,違法の主張制限が正面から出題され,かつ,問題文(弁護士の会話文)で明確な誘導があったのは,1回(平成21年)だけなのである(平成23年については,明確な誘導はないと思われる)。

 とはいえ,当然のことかもしれないが,違法の主張制限は,①問題文で(明確な)誘導がある場合には必ず検討し,②平成21年のように誘導があると捉えられなかった場合でも特に違法事由が3~4個以上ある場合に論点として展開すべきかよく検討し,②の場合でも必要に応じて一定程度書くべき論点であった。

 そして,平成30年でも,問題文5頁に「Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討する必要がありますね。」との殆ど明確な誘導があったため、違法の主張制限の論点を書く必要があったが,久しぶりの出題であったことから,もしかしたら準備不足であったという受験生も一定数いたのではなかろうか。

 

2 元ネタとなった裁判例

 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている[3]

 私も同様の印象を持っているところ,平成30年の行政法の問題については,考査委員(実務家)の古田孝夫判事(東京地方裁判所)らが書いた東京地判平成281116判例タイムズ1441106・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394。ちなみに,東京地判の原告代理人(全5名)の中に岩橋健定弁護士[4]がいる。)が元ネタとなったものと思われる。

 

 なお,東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,年墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられており,その裁量権の逸脱・濫用がない限り,同許可は適法となるものとしている。かかる判示は,平成30年司法試験との関係でも重要といえよう。

 

 

 続きは次回あるいは次回以降のブログで。

 

 

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[1] 墓地埋葬法は,平成24年司法試験論文憲法(問題文3頁)で「参考資料」として掲載されており,最三小判昭和43年12月24日・周セイ(「倩」に草冠が付く)「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)112~113頁・55事件では,墓地埋葬法に関する通達の処分性が問題となっている。

[2] 筆者自身も,以前,法律相談を受けたことがある(結局受任はしなかったが)。

[3] 橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁。

[4] 岩橋健定「判批」百選Ⅰ226~227頁・112事件等参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(2) 答案構成

 平成30年司法試験(論文憲法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

 また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文憲法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 答案構成の骨子に関する若干のコメント(前回のブログの続き)

(1)問題文4頁の甲の最後の発言に基づく構成

 前回のブログ記載のとおり。

 

(2)出版・表現(情報を発信する側)の自由について

 前回のブログ記載のとおり。

 

(3)94条違反を書くか(消極)

 結論は消極であると思うが,徳島市公安条例事件最大判昭和50年9月10日)[1]を活用して憲法94条違反を書くか否かという点につき,一応検討する。

 この点につき,94条は岐阜県青少年保護育成条例事件最高裁判決では特に触れられていないことや,下記2(5)の答案構成の骨子にも特に挙がっていない(「一 条例による人権制限、罰則制定の可否」では徳島市公安条例事件を活用については特に触れていない)こと,青少年保護育成条例の憲法上の問題点を扱った問題の構成でも同様に94条違反は問題視していないこと[2]などからすると,特に94条については問題にしなくて良いと思われる。

 

(4)14条1項違反(平等権侵害、平等原則違反)を書くか(消極)

 94条の場合と同様に,結論は消極であると思うが,14条1項違反を書くか否かという点についても検討する。

 この点につき,確かに,福岡県青少年保護育成条例事件最大判昭和60年10月23日)[3]では,憲法14条1項違反も問題となっている。しかし,同事件では,売春等取締条例事件最大判昭和33年10月15日)[4]の趣旨に徴し14条1項に違反しないことが「明らか」と判示されている。そこで,本条例案についても(本条例案の罰則には懲役刑があるなどの事情はあるものの)14条1項違反となる見込みは低いものと思われ,答案から落とす(あるいは落としてもよい)論点となるものと考えられる。

 

(5)昭和53年(前回のブログ参照)の答案構成の骨子

 旧司法試験昭和53年論文憲法第1問を解説した井上英治『司法試験 過去問講座Ⅰ 憲法』(法曹同人,平成元年)267頁以下(267~268頁)によると,答案構成は次のとおりとなっている。平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子に参考に(一応)なるものだろう。

 

一 条例による人権制限、罰則制定の可否

二1 情報提供権と情報受領権の関係

 2 出版する者の表現の自由

(一)LRAの基準

(二)成人の読む自由との関係

(三)漠然性の故に無効の理論

 (四)検閲禁止との関係

   ・広義の事前抑制禁止原則

3 販売業者の営業の自由

 

3 平成30年司法試験論文憲法の答案構成の骨子

 平成30年司法試験論文憲法の答案構成(の骨子)は次のとおりとなると思われる。

 

第1 図書類を購入する側について

 1 青少年の知る自由(知る権利)[5]

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

 ア 漠然不明確性+過度の広汎性の点から,青少年の知る自由侵害(21条1項・31条違反)?

 イ 想定される反論

 合憲限定解釈可能であり,明確 ←税関検査事件,徳島市公安条例事件

 ウ 私見違憲

 過度に広汎の点も考慮すると不明確 ←広島県暴走族追放条例事件[6]

(2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

 ア 知る自由の違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条は岐阜県青少年保護育成条例[7]に比べて規制の対象がより広いものであるから,規制態様がより強く,青少年との関係ではパターナリズムによる規制であるから,少なくとも中間審査基準で判断されるべき[8]

立法事実(科学的証明)がなく,あるとしても規制手段が過剰であり,青少年の知る自由侵害(21条1項)?[9]

 イ 立法事実の検討[10]

 反論:立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 私見違憲):立法事実なし(青少年非行などの害悪が生ずる相当の蓋然性が必要[11]であるがこれがない上,社会の共通認識にもなっているとはいえない等)

 ウ 規制手段の検討[12]

 反論:過剰ではない(漫画やアニメなど絵による描写は青少年がアクセスし易い等)

 私見違憲):過剰規制である(業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑)まで設ける必要はない等)

 

 2 18歳以上の人の知る自由

 (1)本条例案7条柱書括弧書き・(2)と明確性(21条1項,31条)

    ・上記第1の1(1)と同じ。

 (2)本条例案8条の知る自由の侵害(21条1項)

    ア 違憲審査基準(判断枠組み)

 青少年と異なり,18歳以上の人の場合には,自分自身で性的画像の不快さを判断可能[13]→より厳格な判断枠組み(厳格審査基準)によるべき

    イ 反論

 思わぬところで性的なものを見てしまう(見ない利益は憲法13条後段で保護される)から,より緩やかな判断枠組みによるべき/他で購入可能

    ウ 私見違憲

 一般人であれば,書籍等が置いてある場所については,ある程度予見可能であるため,厳格審査基準でよい / 他のより緩やかな手段もありうる(例えば,規制図書類につき,立ち読みできないようにする規制,目に付き難いコーナーを設けるよう義務付ける等)

 

(3 検閲・事前抑制に当たらないこと[14]

 

第2 図書類を販売する側について

 1 本条例案8条1項とスーパーマーケット・コンビニエンスストアの営業の自由

(1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件[15]の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

←【20180519AM追記】(1)で判断枠組みの定立に際して、規制目的(消極か積極か複合的かなど)についても検討をしておく必要がある。第2の2・3についても同様の話になりうるが,規制目的を決め手にできないとい旨論述をするのが良いだろう。

(2)個別具体的検討[16]

 ア 反論

 店舗への影響があるので合理性を欠く規制

 イ 私見(合憲)

 確かに,規制図書類の販売に「集客力」はあるものの,売上約150店舗のうち,規制図書類の売上げが売上げ全体の20%を超えるのは,僅か10店舗のみであり,反論のとおり,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

 

 2 本条例案8条2項と学校周辺の規制区域内の店舗の営業の自由【20180519AM追記】〔・財産権(損失補償)〕

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件のように許可制をとるものではないが,同様に距離制限を設けた上で(段階的とはいえ)規制(9条等)をするものであるから,単なる営業態様規制にとどまるものではなく,実質的には開業規制的なものであり,規制態様が強いから,薬局距離制限事件の審査基準で判断されるべき 

(2)立法事実の検討

 ア 反論

 立法事実あり(社会の共通認識があれば足りる等)

 イ 私見違憲

 立法事実なし(単なる観念上の想定にすぎず,確実な根拠に基づく合理的な判断[17]といえることが必要[18]であるがこれがない等)

(3)規制手段の検討

 ア 反論

 過剰ではない(9条等は段階的規制で,経過措置もある(附則)等)

 イ 私見違憲:特に10店舗につき)

 過剰規制である(店舗の移転は実際には困難であることが多い,業界の自主規制が一定程度機能していることから,罰則(懲役刑,両罰規定)まで設ける必要はない等)

【20180519AM追記】(4)財産権憲法29条)の制約と損失補償

 ア 問題点

 特に「10店舗」については,仮に,財産権(29条1項)を侵害する違憲な制約とはいえなくても,損失補償(29条3項)を要するのではないか,条例案に損失補償に係る条項はないが,それがない場合でも判例上直接請求されうるから,条例案に損失補償の条項を明記すべきではないか問題となる。

 イ 判断枠組み

   特別の犠牲説の論パ

 ウ 反論

   (主目的は)消極目的であることなどから、特別の犠牲にあたらない

 エ 私見(10店舗につき損失補償必要)

 侵害の強度等も考慮すると,「10店舗」(問題文3頁)については必要→規制区域内の店舗で規制図書類の売上げが全体の20パーセントを超える店舗について,一定期間の損失を補償する旨の条項を設けるべき

 

 3 本条例案8条3項4項と書店・レンタルビデオ店の営業の自由

 (1)違憲審査基準(判断枠組み)

 本条例8条1項は薬局距離制限事件の許可制と比べて規制の対象がより強いとまではいえない営業態様規制であり,規制態様が比較的弱いため,著しく不合理なものではない限り22条に違反しないとの審査基準で判断されるべき

 (2)個別具体的検討

 ア 反論

 内装工事が必要であるなど,店舗への影響がある

 イ 私見(合憲)

 経過措置があり,その間に内装工事可能であるから,店舗への影響は大きくなく,著しく不合理な規制ではない

                                   以上

 

 

以上,前回同様雑駁な感想にとどまった。

 

表面的な検討にとどまっている部分も少なくなく,たたき台としての機能もない部分も多いだろうが,多少なりとも参考になれば(ただし受験生については本試験が終わった後に)幸いである。

 

続きについては次回以降のブログで書くかもしれない。

 

 

【20180519AM追記財産権と損失補償の論点等につき,追記した。「規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが」(問題文4頁)とあるので,当初は必要ないかとも考えたが,必ずしもそうとは言い切れないとも思われ,答案構成の必要と思われる部分に付け加えたである。書くべきか悩ましい論点と思うが,平成18年新司法試験論文憲法でも損失補償は問われており,平成30年でも論点になったといえるのかもしれない。

 

 

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[1] 木村草太「判批」百選Ⅰ(←前回ブログと同じ略称を用いている。以下同じ。)186~188頁・88事件,尾形健「判批」判プラ441~442頁・342事件。

[2] 武市周作「青少年保護育成条例」小山剛=畑尻剛=土屋武編号『判例から考える憲法』(法学書院,2014年)(以下「武市」という。)83~93頁。

[3] 宍戸常寿「判批」判プラ404頁・308事件。

[4] 新村とわ「判批」百選Ⅰ72~73頁・34事件,尾形健「判批」判プラ440~441頁・341事件。

[5] 岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)を解説した曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件「解説」2は,「知る自由(本書128事件〔最大判平元・3・8―レペタ事件〕参照)との関係での自販機…との関係での自販機収納規制の合憲性については,受領者が青少年の場合と成人の場合とで区別を要する」としており,第1の1と2の答案構成と整合するものと思われる。また,「知る自由」としたが,「知る権利」でも良いと思われる(木下・別冊法セ31頁には「ウェブサイト閲覧者の『知る権利』」との記載があり,木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太憲法』(辰已法律研究所,平成26年)(以下「木村・LIVE本」という。)164頁も「知る権利」と記述する)。ちなみに,「知る自由」につきレペタ事件については言及できるといいだろうが(武市86,88頁等参照),現実には難しいかもしれない。

[6] 西村裕一「判批」百選Ⅰ189~190頁・89事件,宍戸常寿「判判」判プラ406頁・310事件。

[7] 松井茂記「判批」百選Ⅰ118-119頁・55事件),橋本基弘「判批」メディア百選128-129頁・63事件),曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件。

[8] 判断枠組みの厳格度等についても,反論→私見の形式で書いても良いだろう。

[9] 武市92~93頁参照。

[10] 武市88~90,92~93頁参照。

[11] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

[12] 武市90~93頁参照。

[13] 木村・LIVE本162頁参照。

[14] 難しいところであるが,時間があれば書くとよいというレベルの論点かもしれない。

[15] 石川健治「判批」百選Ⅰ205~207頁・97事件,尾形健「判判」判プラ204頁・154事件。

[16] 緩やかな基準によったことから,立法事実と規制手段を一緒に書いてしまっている。

[17] 武市90頁等参照。

[18] 高見勝利「判批」高橋和之=長谷部恭男=石川健治憲法判例百選[第5版]』(有斐閣,2007年)114~115頁(115頁)・56事件参照。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(1) 全体的な印象

 【注意】

 平成30年司法試験(論文憲法)を受験した司法試験受験生は以下のコメントを見ないで下さい。

 

 また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文憲法の問題を検討をすることは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。

 

 宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

(1)千葉市のコンビニの成人誌取扱い中止のニュースを想起させる事案

 平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)は,千葉市コンビニエンスストアミニストップ」が成人誌の取り扱いを中止したニュース(朝日新聞デジタル2017年11月21日12時08分の記事等参照)を想起させるものであり,今日的な問題といえる。

 受験生も一度は(深い検討をしたかはさておき)考えたことのある問題であったように思われ,その意味でイレギュラーな事案ではなかっただろう。

 

(2)想起される主な判例

 本問と特に関係のある,あるいは,答案でも必ず活用すべきといえる判例は,①岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)[1]と,②薬局距離制限事件最大判昭和50年4月30日)[2]の2つであるといえよう。ちなみに,憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社2014年)で,①につき,平成30年司法試験考査委員(憲法)の曽我部真裕教授が,②につき,同じく考査委員(憲法)の尾形健教授が解説を担当されている。

 また,この2つの判例のほかにも,③広島県暴走族追放条例事件最大判平成19年9月18日)[3]等の活用が考えられるが,2時間という制限時間内でこの3つ以上に判例を挙げて活用しようとすると時間不足に陥るリスクがあると思われるため,この3つ(あるいは①・②の2つ)を挙げ,手堅く書いていくのが良いように思われる。

 

(3)(新)司法試験との関係

 本問と似たような問題は,有害情報につき,平成20新司法試験論文公法系第1問(憲法)で,また,職業選択・営業の自由につき,平成26司法試験論文公法系第1問(憲法)で,それぞれ出題されている。

 後述するように設問の形式には変更があったものの,平成30年本試験においても,過去問の検討が重要であったといえる。

 

(4)旧司法試験的との関係

 旧司法試験的との関係については,まず,岐阜県青少年保護育成条例を想起させる事件有害図書については,旧司法試験昭和53年第1問で出題されたことがある。問題文は次のとおりである[4]

 

ある県では、自動販売機による有害図書類の販売を規制するため、次の案による条例の制定を検討している。この条例案に含まれる憲法上の諸論点につき説明せよ。

「第〇条 自動販売機には、青少年に対し性的樹青を著しく刺激し又は残虐性をはなはだしく助長し、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めて知事が指定した文書、図画又はフイルムを収納し又は陳列してはならない。

2 知事は、前項の規定に違反する業者に対し、必要な指示又は勧告をすることができ、これに従わないときは、撤去その他の必要な措置を命ずることができる。この命令に違反した業者は、3万円以下の罰金に処せられる。」

 

 また,旧司法試験平成22年第1法務省のウェブサイトで問題と出題趣旨が公表されている)でも,薬局距離制限事件等を想起させる事案が出題されている。問題文と出題趣旨は次の通りである。

 理容師法は,「理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に行われるように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的」(同法第1条)として制定された法律である。同法第12条第4号は,理容所(理髪店)の開設者に「都道府県が条例で定める衛生上必要な措置」を講ずるよう義務付け,同法第14条は,都道府県知事は,理容所の開設者が上記第12条の規定に違反したときには,期間を定めて理容所の閉鎖を命ずることができる旨を規定している。

 A県では,公共交通機関の拠点となる駅の周辺を中心に,簡易な設備(洗髪設備なし)で安価・迅速に散髪を行うことのできる理容所が多く開設され,そこでの利用者が増加した結果,従来から存在していた理容所の利用者が激減していた。そのような事情を背景に,上記の理容師法の目的を達成し,理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要望した場合等に適切な施術ができるようにすることで理容業務が適正に行われるようにするとともに,理容所における一層の衛生確保により,公衆衛生の向上を図る目的で,A県は,同法第12条第4号に基づき,衛生上必要な措置として,洗髪するための給湯可能な設備を設けることを義務付ける内容の条例を制定した。このA県の条例に含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

 なお,法律と条例の関係については論じる必要はない。

【参照条文】理容師法

第1条この法律は,理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に行われるように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的とする。

第1条の2 この法律で理容とは,頭髪の刈込,顔そり等の方法により,容姿を整えることをいう。

② この法律で理容師とは,理容を業とする者をいう。

③ この法律で,理容所とは,理容の業を行うために設けられた施設をいう。

第12条理容所の開設者は,理容所につき左に掲げる措置を講じなければならない。

一 常に清潔に保つこと。

二 消毒設備を設けること。

三 採光,照明及び換気を充分にすること。

四 その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置

(出題趣旨)

条例による理容所の規制につき,一見すると公衆衛生上の観点からの営業態様に関する規制について,その実態が競争制限的で既存業者保護となる効果を持ち,かつ,違反者に対しては理容所の閉鎖という法律上の効果を伴う点で,単なる営業態様規制ではなく,開業規制とも考え得る点を,憲法第22条第1項の職業選択の自由との関係でどのように考えることができるのかを問うことを意図したものである。

 

(5)設問形式の変更

 反論を想定しつつ,「法律家」(弁護士や裁判官等とはされていない)の立場で,私見のみを論じる形式の設問に変わった。これは大きな変更点といえる。

 さらに,設問で「判例…を踏まえて論じなさい」と明記されたこともこれまで以上に判例の指摘や判例の事案との比較等を重視するという現れではないかとも思われ,重要と思われる。

 

(6)多論点型の問題

 上記の設問形式の変更に伴い,例年よりも、書くべき論点が多くなったと思われ,旧司法試験に近くなったのではないか(あるいはプレテストの設問にもやや近い)との印象も受けた。時間配分の点もより重要になってくるだろう。

 そして,どの論点まで選定すべきか,選定した各論点につき,それぞれどの程度注力するのかといった点が特に重要である。そして,その際には,行政法のみならず論文憲法にも導入された<会話文>の誘導に乗り切る必要があるが,憲法ではほぼ初めてのことだったのではないかといえ,慣れていない分,やや難しいように感じる。本問との関係では,例えば,〔1〕税関検査事件最大判昭和59年12月12日)の判示[5]北方ジャーナル事件最大判昭和61年6月11日)[6]そして,岐阜県青少年保護育成条例事件の判示に照らすと,検閲(憲法21条2項前段)に当たらないことになりそうであるから,検閲の論点については,論じないとすることも一応考えられ[7],また,〔2〕明確性の理論[8]については,同理論のうちの漠然性のゆえに無効の理論[9]の点だけを主張するのではなく,過度の広汎性のゆえに無効[10]の点を併せて主張すべきであろう。すなわち,不明確だ・明確だという水掛け論に終始してしまうことを避けるべく,漠然不明確性の問題に「過度の広汎性の問題を組み合わせ、条文の不明確性故に本来許されるべき言論活動にまで規制が及んでいることを問題にするという戦略」[11]が本問でも恐らく有効と思われる。

 

2 答案構成の骨子に関する若干のコメント

(1)問題文4頁の甲の最後の発言に基づく構成

 答案構成は,問題文4頁の甲の最後の発言すなわちXと甲とのこれまでのやり取りを総括するような,いわば「まとめ」の部分によるべきであろう。そこで,答案構成ないしその骨子は次のとおりとなると思われる。

 ちなみに、本条例案の条文ナンバーについては、次回検討してみたい。

 

第1 図書類を購入する側について

 1 本条例案と青少年の知る自由(知る権利)

 2 本条例案と18歳以上の人の知る自由 

 

第2 図書類を販売する側について

 1 本条例案とスーパーマーケット・コンビニエンスストアの営業の自由

 2 本条例案と学校周辺の規制区域内の店舗の職業選択・営業の自由

 3 本条例案と書店・レンタルビデオ店の営業の自由

 

 

 

(2)出版・表現(情報を発信する側)の自由について

 上記の「まとめ」部分によって答案構成の骨子を作ると,図書類を「出版」(憲法21条1項)等をする者の出版の自由や表現の自由の主張の項目がなくなってしまい,不安に思うかもしれないが,ここは素直に出題者の事実上の誘導に乗っかって書くしかないものと思われ,青少年・大人の知る自由(知る権利)を論じる中で,そのような出版・表現の自由の話を少し書いていくということになるだろう。とはいえ,そうすると,違憲主張の適格性ないし違憲主張の適格[12]の論点が出てくることになり,その論点まで書くのかという問題も生じ,制限時間との関係で悩ましいことになるといえる。

 

以上雑駁な感想を述べた。

 

続きは次回。

 

 

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[1] 松井茂記「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」という。)118-119頁・55事件),橋本基弘「判批」堀部政男=長谷部恭男『メディア判例百選』(有斐閣,2005年)(以下「メディア百選」という。)128-129頁・63事件),曽我部真裕「判批」憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」という。)178頁・133事件。

[2] 石川健治「判批」百選Ⅰ205~207頁・97事件,尾形健「判判」判プラ204頁・154事件。

[3] 西村裕一「判批」百選Ⅰ189~190頁・89事件,宍戸常寿「判批」判プラ406頁・310事件。

[4] 伊藤真憲法[第3版]【伊藤真試験対策講座5】』(弘文堂,平成19年)724~725頁。

[5] 阪本昌成「判批」百選Ⅰ156~157頁・73事件,曽我部真裕「判批」判プラ177頁・132事件。

[6] 阪口正二郎「判批」百選Ⅰ152~154頁・72事件,曽我部真裕「判批」判プラ158~159頁・116事件。

[7] ただし,曽我部真裕「判批」判プラ178頁・133事件の解説3(伊藤補足意見)に照らすと,検閲についても論じて良さそうであり,書くべきか悩ましい論点と思われる。いずれにせよ,大展開すべき(厚く書くべき)論点ではなかろう。

[8] 芦部信喜高橋和之補訂〕『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)(以下「芦部・憲法」という。)・205頁。

[9] 芦部・憲法205頁。

[10] 芦部・憲法205頁。

[11] 木下智史「公法系科目〔第1問〕の解説」法学セミナー編集部『新司法試験の問題と解説2008』(別冊法学セミナー198号,2008年8月)(以下「木下・別冊法セ」という。)30頁以下(32頁)参照。

[12] 野中俊彦=中村睦男=髙橋和之=高見勝利『憲法Ⅱ(第5版)』(有斐閣平成24年)299頁以下〔野中〕。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(4・完)

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3)

のブログの続きである。

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2) yusuketaira.hatenablog.com

 

  

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

引き続き,脚注付きの答案例を示すことをもって問題解説とすることにしたい。

 

 

Ⅰ 答案例(続き)

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

   (略)・・・平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)~(3)のとおり。

 

 

第2 設問2

1 X1の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,地方自治法244条2項より「正当な理由」があれば閲読を制限しうるし,同法242条の2第1項が公の施設の管理に関する事項を条例に委任していることからすれば,閲読制限に係る判断には一定の行政裁量がある[1],ため,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する[2] [3]

   イ 私見

 いわゆる格差社会において大学生等の生活水準が必ずしも安定しない状況に鑑みると,一定の割合の学生は,多くの図書を購入することが事実上不可能ないし困難な状況にあると考えられる。そして,図書館は,特にそのような学生が多くの図書を閲読するための公の施設となっているといえる。このような図書館の今日における機能に照らすと[4],閲読制限に係る判断に裁量があるとしても,その範囲は狭いものというべきであるから,原告と同じ判断枠組みで判断すべき[5]と考える[6]

(2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,「めかんち」は目の不自由な人に対する差別用語であり,対抗言論の法理が妥当し難く,特に子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものであることからすれば,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるというべきと反論する。

   イ 私見

 確かに,「めかんち」のような差別用語を用いた表現行為には,対抗言論の法理が妥当し難い。

 しかし,①参考資料1によると,本件図書においては,「めかんち」が,その用語を用いた者を主人公Dが非難する文脈コンテクスト)で記述されていることからすれば,目の見えない者の尊厳や,子どもの成長発達に回復し難い悪影響を与えうるものとまではいえないと考える。加えて,②改正条例施行後2年間は苦情が寄せられなかったことや,③本件図書の「めかんち」が原因となりヘイトスピーチヘイトクライムが助長されたという事実が特に確認できないという本件の事実関係[7]にも照らすと,本件図書をX1に閲読させることにつき,明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,21条1項に違反する。

2 X2の主張について

 (1)判断枠組み

   ア 反論

 被告としては,国家による助成援助ついては,財源の有限性から表現内容の選別に係る広範な裁量があるため,害される公益を特に重視して判断しうるなど,より緩やかな判断枠組みによるべきであると反論する。

   イ 私見

 確かに,内容の選別に係る裁量は,購入時点においては広いものといえるが,いったん図書の内容が適当なものと判断として図書を購入・配架した以上,また,上記図書館の重要性等から,図書の廃棄については同程度の広い裁量を認めるべきではない。ゆえに,原告と同じ判断枠組みで判断すべきと考える。

 (2)個別具体的検討

   ア 反論

 被告としては,本件図書は発売当初,ベストセラーとなっていることから,情報流通過程を歪める危険性は低く,団体Hから現実に苦情があったことから,子どものいじめや差別が助長される可能性など,②害される公益は重大であると反論する。

   イ 私見

 (ⅰ)本件図書は,被告の述べるとおりベストセラーになっていることから,古本としても入手し易くなっているといえること,(ⅱ)大学生であれば大学の図書館も利用可能であり,大学の図書館に本件図書がなくても配架のリクエストや他大学からの取り寄せが可能であること,(ⅲ) 他大学からの取り寄せに要する費用は通常は安価であること,(ⅳ)後述するように,公益法人Hの苦情を契機に廃棄の判断をしたのであり,Y市の独断的な評価により不公正[8]廃棄をしたわけではないことなどから,情報流通過程を歪める危険性が高いとまではいえないと考える。

 また,(ⅰ)児童・生徒自身(子ども)は,心身ともに成長発達過程にあることから,個人の尊厳の侵害や自身が差別される記述等につき,大人と比べると通常は声を上げ難いこと,(ⅱ)公益法人である団体Hは,目の見えない子どもを中心に支援活動を行い,目の見えない子どもを巡る諸問題につき一定の知見を有していると考えられるから,その苦情は重く見るべきこと,(ⅲ)個人の尊厳(13条)や差別(14条1項参照),成長発達権(26条1項参照)に係る危険が差し迫った明白なものではなく,ある程度抽象的なものであっても,いったん児童等の個人の尊厳等が傷付けられる回復し難い不可逆的な損害を生じさせうることに照らせば,廃棄しないことによる弊害(害される公益)は大きいと考える。

 よって,本件廃棄は,前記国家の中立義務(21条1項)に違反するものではなく,合憲である。

 

 

Ⅱ 明らかな差し迫った司法試験本番へ向けて

 

 司法試験受験生の皆様、本当に、あともう少しですね。

 

「今まで続けてきたことに自信を持って、試験当日を迎えましょう。」[9]

  

 

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[1] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁・判旨(2)等参照。

[2] 「反論」は「被告としては,・・・と反論する。」という型で書くとよい(西口竜司ほか監修『平成29年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成30年)(以下「ぶんせき本」という。)28頁の159.90点(公法系科目3~4位)の再現答案(以下「超上位答案」という。)・第2の1等参照)。「反論」では,判断枠組み(規範)レベルまでのもの1つ(か2つ)と,あてはめレベルのものを1つ(か2つ)をそれぞれ合計2~3行程度で書くと決めておけば迷いが生じなくて良いと思われるし,時間不足にも陥りにくく,得点も加算され易くなるだろう。

[3] ぶんせき本28頁の超上位答案・第2の1(2)アも被告である「国は,・・・立法府の裁量が広く働くれことを主張して,基準を下げるべきであると反論する。」としており,緩やかなものとすべき(下げるべき)「基準」の内容までは明らかにしていない。この書き方は,特に原告と私見の判断枠組み(審査基準等)を同じものとする構成を採る場合(例えば,ぶんせき本30頁の超上位答案・第2の1(2)イ等)であっても有効であるものと思われる。

[4] 今日(現代)の社会状況に言及しようとしている論述であり,憲法では加点され易いものと思われる。

[5] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」という。)182-183頁・86事件)の園部逸夫裁判官の補足意見は,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」という判示を前提としつつも,「判断に裁量権の行使を誤った違法はない」として行政裁量(要件裁量)を認めている

[6] 私見では,原告主張(設問1)との重複を極力避けるようにしている(加点され易くするため)。このことはあてはめの点でも同じである。

[7] 問題文の事実関係とはやや離れるため,③の点まで書いて良いかについては意見が分かれるかもしれない。

[8] 船橋市立図書館図書廃棄事件(最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」百選Ⅰ158-159頁・74事件)の判示のキーワードの一部を活用している。

[9] 伊藤真『合格のお守り』(日本実業出版社,2008年)79頁。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

行訴法上の「処分」性拡大の波及効果について

 「結末ばかりに気を取られ この瞬間を楽しめない」[1]

 

世はGW真っ只中であるが,司法試験受験生にとっては中々苦しい時期だろう。

とはいえ,あと約2週間となった。ラストスパートをかけるには絶好のタイミングである。

  

 

さて,ブログを解説して1年が過ぎた。特にそれを自分で勝手に記念するわけではないが,講学上の行政指導として制定されたものとされる行政作用(例えば医療法30条の7に基づく病院開設中止勧告)に行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項の「処分」性を認めることに関する「処分性拡大の波及効果[2]について,受験生からご質問をいただくことが少なくないので,本日のブログで取り扱うこととしたい。

 

この「処分性拡大の波及効果」にはいくつかの論点があるが,このうち,一般的にも,また司法試験との関係でも,主要な論点と考えられる「違法性の承継」(平成28年司法試験論文行政法で出題)と,行政手続法(以下「行手法」という。)上の「不利益処分」(あるいは「行政指導」)の関係規定の適否(平成20年新司法試験論文行政法で出題)の2つについて[3]若干の検討を加えることとする。周期的に,後者の論点は平成30年の司法試験や予備試験の論文行政法に出ても何らおかしくないし,後者の論点も平成30年予備試験論文行政法に出る蓋然性が相当程度あるといえるだろう。

 

以下,前提論点である行政指導と行訴法3条2項の「処分」性の関係,特に病院開設中止勧告事件[4]が上記病院開設中止「勧告」に処分性を認めた趣旨の理解の仕方に触れた上で(下記),処分性拡大の波及的効果の主な2つの問題である違法性の承継(下記)及び行手法上の「不利益処分」(あるいは「行政指導」)の関係規定の適否(下記)について若干の検討を加えることとする。

 

1  行訴法3条2項の「処分」に当たるか

(1)基本的方針

(2)論述の具体例

(3)行政指導として法定された行政作用に行訴法上の処分性を認める趣旨

2  違法性の承継の肯否

(1)基本的方針

(2)論述の具体例

3  行政手続法上の不利益処分or行政指導の関係規定の適否

(1)基本的方針

(2)論証例(論証パターン)

4 結びにかえて

 

 

        行訴法3条2項の「処分」に当たるか

      (1)基本的方針

上記病院開設中止「勧告」など任意性を前提とする講学上の行政指導として制定された(個別法がその旨予定して法定した)行政作用であっても,病院開設中止勧告事件の理由付けが妥当する場合には,行訴法3条2項の「処分」に当たるものと解される。多くの受験生がこのような立場を採るだろう。

 

      (2)論述の具体例

行政指導に関するものではないが,以前,ブログで,都市計画法32条1項の公共施設管理者の「同意」の処分性を肯定する論述を試みたので参考にしていただけると幸いである。  

 

yusuketaira.hatenablog.com

  

      (3)行政指導として法定された行政作用に行訴法上の処分性を認める趣旨

病院開設中止勧告事件の勧告のような行政指導については,最高裁判所が行政指導として制定された行政作用(典型的な行政処分とはいえない,行政処分のうちの「中核」部分ではない「フリンジ(周辺)部分」にある行政作用[5])に行訴法上の処分性を認めた趣旨の理解の仕方が現状一様ではない。

この論点すなわち処分性拡大の波及効果の諸論点の前提論点と位置付けられるものについては,司法試験(新司法試験)でも論じる必要があるとされている。

 

すなわち,平成20年新司法試験論文行政の出題趣旨は,介護保険103条1項の「勧告」の手続の違法性(手続(法)的違法事由)に関し,①「勧告の手続法的違法が問題となろう。その前提として,勧告にはどのような行政手続が要請されるのかが論じられなければならない。」(下線は引用者)とした上で,②「例えば,勧告を不利益処分ととらえる場合には,行政手続法の不利益処分手続が適用される。この場合には具体的にどのような手続規制が要求されるのかを明らかにした上で,本件事案でそうした手続が踏まれていたのかを検討することとなろう。これに対し,勧告を行政指導と解する場合には,知事の行う行政指導については,行政手続法は適用除外となり,B県行政手続条例の定める行政指導手続が要求される。この点を指摘した上で,本件で手続に関する適法が認められるのかを同条例に即して検討することが求められる。」としている。

 

上記出題趣旨もいうように「前提」論点であるから,あまり論じている時間やスペースがないが,多少なりとも言及できていると点数が違ってくるだろうから,受験生としても短く論じられるよう意識・準備しておいてほしいところである[6]

 

さて,この前提論点につき,学説は大別すると次の2説に分かれているといえよう。

すなわち,この趣旨は,専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあるとする見解(〔A説〕[7]と,この趣旨につき,単に取消訴訟による権利保護・行政統制の便宜だけではなく,法効果を持たないものとして立法されたはずの行政作用につき,「元々の法令の欠陥や、法執行を担当する行政機関が事実上作り出した新たな法環境」にかんがみ,「現在ではもはや、行政処分へと位置付けを変えるべきであるという決断を、司法があえて行うもの」と考える見解(〔B説〕)である[8]。そして,やや下記の議論の先取りとなるが,〔B説〕は,上記の処分性を認めた趣旨につき,(基本的には)通常の行政処分と同様に,出訴期間のほか,行手法や行政不服審査法の対象にすることも合意するものと理解する立場となるものと解される[9]

 

 これら2説の存在を前提に,以下,違法性の承継の論点と,行政手続法で適用される規定についての論点をそれぞれ検討する。

 

        違法性の承継の肯否

      (1)基本的方針

前述した〔A説〕によると,行訴法上の処分性を認めた趣旨専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあり,違法性の承継を遮断する趣旨までは含まないものと解されることから,取消訴訟の排他的管轄(行訴法上の出訴期間の規定)が適用されないものとする立場がありうる[10]。この立場によると,<甲説>違法性の承継の肯否は問題とならず,その論述は不要(先行行為の違法性の主張を認める)ということになると思われる。

しかし,この<甲説>によると,処分という行政制度の根幹に関わる仕組みの基本的前提を覆すことになりかねないという問題があり[11],また,行訴法上の処分性を認める以上,取消訴訟の排他的管轄に伴う「遮断効」は否定できないとの見解もある[12]ため,<乙説>違法性の承継の肯否を問題とすべきとの立場も考えられる。

そこで,<甲説>の立場に言及した上で,「仮に違法性の承継の肯否が問題となるとしても」などとして,<乙説>の立場に立ち,違法性の承継の肯否の問題を答案で論じる(いわば“二段構えの主張”)のも良いかもしれない[13]。そして,その際には,違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判例[14]である安全認定判決(新宿区「たぬきの森」事件(本案判決)[15]の判断枠組みないし一定の範囲で違法性の承継を肯定した同判決の理由付けに照らした論述(下記(2)及びそこに引用したブログ参照)をすべきものと考えられる。

 

      (2)論述の具体例

行政指導に関するものではないが,以前,上記と同様に(上記の以前のブログで),「同意」の処分性を肯定した場合の違法性の承継の肯否に関する論述を試みたことがあるが,本ブログでも,あらためて<乙説>に立つ場合の論述例(ないし論証パターン)の枠組み(規範定立部分だけではなく,問題提起からあてはめまでのフレーム)[16]を示しておくこととする。「仮に違法性の承継の肯否が問題となるとしても」などとして(上記“二段構えの主張”),同問題を答案で論じる場合に参考にしていただきたい。

 

○論述例(違法性の承継を肯定する場合)

「○○[17]」(○○法○○条○項)の処分性が肯定される場合,違法性の承継の肯否すなわち先行処分(先行行為)としての○○に係る違法を後行処分である△△〔:典型的な行政処分である後行行為〕の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる。

 この点については,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限(14条)の趣旨からすれば[18]違法性の承継は原則として否定されるが,実体法的観点及び②手続法的観点両面からみて例外的に肯定されうると解すべきである[19] [20]

 これを本問についてみると,○○は・・・の前提として要求される行為であり,それ自体独立した意味をもつ行為ではなく○○△△とが結合して・・・・・・という一つの目的・効果の実現を目指しているものといえる。また,○○については事前の公聴会が法定されている(○○法○○条○項)ものの,○○法には文書による個々の通知が法定されているわけではなく,加えて,本件のように○○(先行行為)が処分であるか否かが不明確な場合には,先行処分を争うための手続的保障が十分とはいえず,△△(後行処分)を受けるまでは争訟を提起しないことがあるとしても,その判断はあながち不合理ともいえない[21]

 よって,本件で違法性の承継は肯定されると考える。

 

 

        行政手続法上の不利益処分or行政指導の関係規定の適否

      (1)基本的方針

行訴法上の処分性を肯定する場合,その行政作用について,[あ]行手法上の処分の関係規定(「勧告」の場合,不利益処分の規定[22](…理由付記,弁明手続の規定))を適用すべきか,それとも[い]行政指導の関係規定を適用すべきかが問題となる。

この点につき,〔A説〕に立ち,違法性の承継のところ(前記)で,<甲説>に立つ場合には,違法性の承継の論点と行手法の論点が同時に問題になる事案では特に(論点相互間の関係,答案の読み手への印象等を考慮すると),[い]の行政指導の規定を適用すべきとの帰結となろう。

他方で,〔B説〕に立つ(違法性の承継のところで,<乙説>の立場に立つ)場合には,行訴法と行手法(・行審法)とを統一的に解釈し,いわばパッケージ[23]として適用すべきであるという見解を採ることになるから,[あ]の不利益処分の規定を適用すべきとして良いだろう。

この論点も,前記の問題と同じく,基本的には,前提論点で〔A説〕〔B説〕のいずれの立場を採るかにより結論が異なってくるものといえ,また,前記2(1)のような“二段構えの主張”を答案で展開するのも悪くはないだろう。

 

      (2)論証例(論証パターン)

論述例ないし論証パターンとしては,次のようなものが考えられるので,適宜参考にしていただきたい。

 

○論証パターン・[い]の立場の場合

行訴法3条2項の「処分」に当たると解される行政作用については,病院開設中止勧告事件が行政指導の処分性(同項)を認めた趣旨専ら早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあると解されることから,行手法上はなお「行政指導」(同法2条6号)に当たると考えるべきである。よって,行政指導に関する行政手続法の関係規定(32条以下[24])が適用される。

 

○論証パターン・[あ]の立場の場合

行訴法3条2項の「処分」に当たると解される行政作用については,病院開設中止勧告事件が行政指導の処分性(同項)を認めた趣旨早期に実効性ある救済の機会を付与する点にあるのみならず,行訴法と行手法(・行審法)とを統一的に解釈[25],いわばパッケージとして適用すべきとする点にもあると解されることから[26],行手法上も「不利益処分」(同法2条4号柱書)に当たるものと解される。よって,不利益処分についての行政手続法の関係規定が適用される。

 

       結びにかえて

以上のとおり述べてきたわけであるが,最高裁判例・学説の議論をそのまま司法試験の答案に反映させることには,実は,多少問題があるのではないかと思われる。というのも,〔A説〕〔B説〕も(特に〔B説〕は),あくまで最高裁判例の判示を前提とするのに対し,多くの司法試験の答案では,一審段階における主張・反論や第三者的立場での(≒裁判所の)判断につき解答することが求められているものと考えられることから,最高裁判例処分性を認めた場合の論拠がそのまま妥当するわけではないと思われ,問題は単純ではないように思われる(このことは上記及びどちらの論点についても妥当することだろう)。

とはいえ,このような観点は,行政法の基本書・演習書で(おそらく)特に問題視されてはいないようであるから[27],少なくとも司法試験受験生が答案を書く際に気にすることではないだろう。

 

いずれにせよ,受験生は,このようなやや難しい(と思われる)論点について,前提論点に深入りしすぎることなどにより時間不足に陥るリスクに注意すべきである。

受験生が「早押しクイズ」(下記ブログ参照)としての,あるいは,「事務処理超優先型」・「暗記ゲーム型」(多くの受験生にとって主な暗記の対象は「『予備校教育の代名詞』とも言われる『悪名高き』論証パターン[28]あるいはそれに類似するものということになるだろう[29]。)の司法試験論文行政法の問題に挑むためには,そして,本試験でベストを尽くすためには,過去問で出ているような重要論点等につき事前にどの見解・立場に立つかをしっかり決めておくことが重要となってくるわけであるところ[30],本ブログの各拙稿がその一助となれば幸いである。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

私は,全受験生がベストを尽くせることを願ってやまない。最後の一秒まで駆け抜けてほしい。

 

「夢じゃないあれもこれも その手でドアを開けましょう」[31]

 

 

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[1] B’zultra soul」(稲葉浩志作詞,松本孝弘作曲,2001年)。

[2] 中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)(以下「中原・基本行政法」という。)316頁。

[3] このほかに,行訴法上の「処分」と行政不服審査法上の「処分」とを同様に考えることになるのかという論点や,行政庁の教示義務(行政事件訴訟法)が生じるかという論点がある。阿部泰隆『行政法解釈学Ⅱ』(有斐閣,2009年)(以下,「阿部・解釈学Ⅱ」という。)115頁,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)382~384頁,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下,「神橋・救済法」という。)83~84頁参照。

[4] 最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁,宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)332~333頁・160事件〔角松生史〕。

[5] 塩野宏行政法Ⅱ[第5版補訂版]行政救済法』(有斐閣,2013年)120頁参照。

[6] なお,平成20年新司法試験論文行政法を解説した石井昇「公法系科目〔第2問〕の解説」別冊法学セミナー198号(2008年)38,44頁や,橋本博之『行政法解釈の基礎―「仕組み」から解く』(日本評論社,2013年)(以下「橋本・解釈の基礎」という。)79頁は,この「前提」論点には(殆ど)触れていないものと思われる。

[7] 最高裁が「勧告」に行訴法上の処分性を認めた趣旨はあくまで取消訴訟による実効的な権利救済の必要性・便宜にあり,「勧告」の実体法上の法的性質は依然として行政指導であるとする考え方である(阿部・解釈学Ⅱ115頁参照)。なお,塩野・行政法Ⅱ120頁,大久保規子「処分性をめぐる最高裁判例の展開」ジュリスト1310号(2006年) 18頁(24頁),小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)(以下「論点体系」という。)309頁〔青栁馨〕,中原・基本行政法317頁,神橋・救済法84頁,大島義則『行政法ガール』(法律文化社,2014年)(以下「大島・行政法ガール」という。)114頁等も参照。

[8] 中川丈久「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」藤山雅行=村田斉志編『新・裁判実務体系 第25巻 行政争訟〔改訂版〕』(青林書院,2012年)139頁以下(141頁)参照。

[9] 中川・前掲「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」143頁参照。ただし,山本・探究383頁は,病院開設中止勧告事件(最高裁判決)が「行手法・行審法・行訴法を体系的に解釈して『処分』を統一的に理解することを,あえて放棄する決断をしたとは,判決文から読み取りにくいし最高裁が処分とした行為に行手法や行審法が適用されないと,学説があえて理解する理由もないように思われる」としつつも,「出訴期間制限」については,「裁判を受ける権利を実際上大きく制限するものであり,手続保障のために処分性を承認することと当然には連動」しないものと解している(同書384頁)。

[10] 高橋滋『行政法』(弘文堂,2016年)329頁参照。塩野・行政法Ⅱ119~120頁もこの立場に立つか,この立場と親和的と思われる。

[11] 中原・基本行政法317頁参照。

[12] 最三小判平成17年10月25日集民218号91頁の藤田宙靖裁判官補足意見,中川・前掲「処分性を巡る最高裁判例の最近の展開について」143頁参照。神橋・救済法84頁も「ある行為に処分性を認めることによって、公定力や不可争力などの一種の遮断的効果が生じることが考えられる」とする。

[13] ただし,論述の分量が増えるため,時間不足のリスクが増大することは否めないので,注意が必要である。

[14] 倉地康弘「判解」ジュリスト1415号82頁参照。

[15] 最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁・宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)170~171頁・84事件〔川合敏樹〕。

[16] 「勧告」等(行政指導として法定された行政作用)につき,<甲説>に立ち,“二段構えの主張”もしないという答案を書く場合には,この(2(2)記載の)論証例を書くことはない。この点については十分に注意されたい。

[17] 「○○」には,例えば「勧告」などの文言が入る。

[18] 違法性の承継の根拠論に関し,板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全に基づく安全認定の違法を主張することの可否」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)269頁以下参照。違法性の承継が公定力(取消訴訟の排他的管轄)の例外なのか,不可争力(出訴期間制限)の例外なのか,という論争がある(同頁)ところ,後掲の(1つ下の)注(平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の)のとおり,平成28年の考査委員は,公定力説と不可争力説を併記してよいものとしているように思われる。

[19] 違法性の承継の論証パターンのショートバージョンである。なお,この部分の論証パターンとそのあてはめの部分については,平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の次の記載を参考にした。「〔設問3〕は,いわゆる違法性の承継の問題であるが,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば,違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で,まず,違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で,最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には,違法性の承継が認められるための考慮要素として,実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。」(下線は引用者)

[20] 平成28年司法試験論文行政法の採点実感等5頁等も参考にした。

[21] 後行行為の段階までは「争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない」という前掲・最一小判平成21年12月17日のキーフレーズと殆ど同様のフレーズ(の一部)を②の要素のあてはめの部分に盛り込んでいる。ただし,これを②のあてはめとして良いかについては議論があるところと考えられる(論点体系296~297頁〔青栁馨〕は,このキーフレーズの部分を「手続保障」の要素とは別の第3の要素としている(「③」というナンバリングをしているため)ものと思われる)。

[22] 橋本・解釈の基礎79頁,神橋・救済法84頁。

[23] 中原・基本行政法317頁参照。

[24] ちなみに,地方公共団体の機関がする行政指導については,行手法3条3項の適用除外規定に注意する必要がある(大島・行政法ガール119頁注8参照)。

[25] 「処分」という同じ概念(文言)については同じく解すべきというのが主たる論拠だろう(阿部・解釈学Ⅱ115頁参照)。

[26] 中原・基本行政法317頁,山本・探究383頁参照。

[27] 神橋・救済法73~75頁,橋本・解釈の基礎79頁参照。

[28] 呉明植(伊藤塾首席講師)『憲法伊藤塾呉明植基礎本シリーズ6】』(弘文堂,2018年)Ⅴ頁。なお,賢明な受験生は「悪名高き」と評価・批判する者の利害関係も考えてみると良いだろう。

[29] 「論証パターン」(「論パ」と略されることもある。)が掲載されている教材は(最近では特に)多く,例えば,伊藤真伊藤塾塾長)『伊藤真試験対策講座』シリーズ(弘文堂),呉・前掲『伊藤塾呉明植基礎本シリーズ』を挙げることができる。また,これらの教材とはややコンセプトが異なるように思われるが複数の受験生(といってもそれほど数は多くないが)から最近聞いた話によると,相当数の受験生が重要条文についての趣旨・要件等や重要論点についての規範と理由(要するに特に理解・記憶すべき情報)をまとめたサブノートのような教材である『趣旨・規範ハンドブック』シリーズを使っているようである(辰已法律研究所の司法試験のいわゆる直模試験で,会場にいる多くの受験生が休憩時間に『趣旨・規範ハンドブック』を見ていたとの情報を最近複数名の受験生から聞くことができた)。

なお,旧司法試験及び新司法試験考査委員であった(委員の期間は1998~2004年,2005~2007年)井田良教授も「論証パターン」の「有用性」と「危険性」を認識している(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号(2018年)8頁以下(23頁)〔井田〕)ところ,同文献を読む限り井田教授も,その「有用性」をすべて否定しているわけではないものと推察されることからすれば,司法試験考査委員経験のある研究者の先生であっても,論証パターンの「有用性」につき一定程度認めているものと言ってよいものと思われる。ちなみに,論証パターンの「利点」と「危険」に関し,特に同文献23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[30] もちろん,設問や弁護士の会話文等の内容次第では別の見解・立場に立つ必要があることもあるが,そのようなことをすべき回数はそれほど多くないだろう。

[31] B’z・前掲注(1)。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

LOVE 司法試験 ONLY (平成27年論文行政法)

世は空前のTOKIOブームのようだが,平成30年司法試験を受ける受験生においては,もちろんカラオケで「オンリー・ユー」などといって騒いでいる場合ではない。

直前期は「オンリー・司法試験」[1]である。

 

 

さて,一般論として,司法試験受験生から本試験の過去問の質問を受ける立場にある場合,特に直近3年ないし5年分くらいの過去問についてはよく聞かれるわけであるが,その場で問題を一から読んでいては迅速にそれなりの回答することは普通できない。そのため,質問を受ける側も,大体どんな問題かくらいは直ぐに思い出せるようにしておいた方がよいし,そのためには受験生と同様に実際に構成をメモしてみたり,あるいは起案してみたりすることが必要になってくるはずである。

 

これを平成30年司法試験論文行政法(その対策)との関係でみると,多くの受験生が差止訴訟や損失補償が出るのではないかと予想し,直近でそれらが問われた平成27年司法試験論文行政法を比較的しっかりと検討することが予想され[2],特に平成30年司法試験の直前期には,平成27年司法試験論文行政法の質問が複数(か多数)寄せられること予想される。

実際に最近,平成27年に関するご質問をいくつかいただいており,今後もこれが続くのではないかと思う。

 

そこで,質疑応答の合理化ないしその時間の省エネ化を図るべく,また,直前期に答案の流れや論証を再確認等するための読みものとして(外食する場合の待ち時間などにいかがでしょうか),一応の検討結果にすぎないものではあるが,次のとおり本ブログに〔起案例〕を掲載することとした。

 

〔起案例〕には,脚注を付したので,適宜参考にしていただきたい(参考にならないものもあるかもしれないが)。もちろん今年はまだ司法試験を受験しないが受験勉強中という方にもご一読頂けると幸甚である。

 

 

〔起案例〕

1 設問[3]

1 差止訴訟の提起

 Xは,消防法(以下「法」という。)10条4項の「技術上の基準」に適合しないとして法12条2項に基づきなされる本件命令が発せられることを事前に阻止するために[4],本件命令の差止めの訴え(行訴法(以下,法律名を省略する。)3条7項)を提起することが考えられる。

2 「一定の処分…がされようとしている」(3条7項[5][6]

(1)「一定の処分」(3条7項)のうち,「処分」とは,公権力の主体たる国または公共団体[7]が行う行為のうち,その行為によって,直接[8]国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律[9]上認められているものをいう。[10]

  本件命令は,これが発せられると法12条2項より移転義務が生じるものであり,不利益処分(行政手続法2条4号本文)であるから,典型的な「処分」といえる。

(2)[11]一定の」(3条7項)といえるためには,裁判所が請求を特定して判断することができる程度の特定性が必要と解される[12]

  本件命令は,本件取扱所の「修理」や「改造」ではなく,「移転」(法12条2項)命令に特定されており,上記特定性の点も満たすため「一定の」といえる。

(3)処分が「されようとしている」(3条7項)とは,処分がされる一定の蓋然性[13]のある場合と解される。

 本件では,本件葬祭場の営業が開始されれば,Y市長が本件命令を発することが確実[14]とのことであり,平成27年5月末には営業開始が予定[15]されている。ゆえに,本件命令がなされる具体的な時期の予告があるといえ,Xは本件命令に従う意思がないため,相当程度の蓋然性があるから,一定の処分が「されようとしている」場合といえる。

3 「重大な損害を生ずるおそれ」(37条の41項本文)[16]

【論証】「重大な損害を生ずるおそれ」については,同条2項の各事項に係る事実に照らし,処分より生ずるおそれのある損害が処分後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解する。

 上記判断枠組みを本件に即して具体的に検討するにあたっては,①取消訴訟等の救済による損害回復の困難性,②事業者の事業の基盤揺るがしかねない損害となるかなどを総合的に考慮すべきものと考える。[17]

 ①本件命令が出されると直ちにウェブサイトで公表され,顧客の信用を失うことになる[18]。そして,一度失われた顧客の信用はいったん喪失すると容易には回復できないものであり,取消訴訟の提起,執行停止の決定等での救済による損害の回復は極めて困難である。また,②Xは本件取引所で平成17年から[19]10年間も事業を営み信用を得てきたことからしても,かかる信用の失墜は,Xの事業の基盤を揺るがしかねない損害といえる。

 よって,差止めを命ずる方法によるのでなければ救済が困難といえ,本件では「重大な損害を生ずるおそれ」も認められる。

4 「損害を避けるため他に適当な方法がある」(37条の41項ただし書)

【論証】「損害を・・・方法があるとき」[20]補充性)とは,個別法において差止めを求める処分の前提となる処分が規定されており[21]当該処分の取消訴訟を提起し取消判決を受ければ,当然に後続する処分[22]をなしえなくなることが法定されている場合をいう[23]ものと解する。

 本件では,上記のような規定が法定されているわけではないので,補充性の訴訟要件も認められる。

 Xは,前記のとおり不利益処分という本件命令の名宛人であるため,「法律上の利益を有する者」(原告適格,37条の4第3項・4項)といえる。

 以上より,訴訟要件を満たすので,差止めの訴えが認められる。

第2 設問2

1 法・政令の趣旨,本件基準の法的性質等

 本件命令が適法と認められるか[24]に関し,まず,危険物政令(以下「政令」という。)9 条1項1号ただし書の趣旨,本件基準の法的性質等につき検討する[25]

 同号ただし書は,法10条4項の「技術上の基準」に関し,同項で委任を受けた政令19条1項により準用される規定であり,委任命令としての法的性質を有する。そして,政令9条1項1号ただし書は「市町村長等が安全であると認めた場合」についての例外を定めるところ,この「安全」性については,地域の気候や土地の利用状況等[26]地域の特性[27]を考慮の上判断されるものとして要件裁量を認める趣旨に出たものと考えられる。そうすると,本件基準は,行政の内部基準として法の委任に基づかずに定められた行政規則裁量基準であり,行政手続法上の「処分基準」(同法121項)としての法的性質を有する[28]ものといえる。

2 本件基準①及び同②の合理性の認否

(1)【論証】処分基準(行手法121)が定められる趣旨は,不利益処分の公正さを確保し,その相手方の権利利益の保護に資するなどの点にある。そこで,公正・平等な取扱いの要請,相手方の信頼[29]の保護等の観点から,公にされている処分基準の定めが法令の趣旨に適合する合理的なものである場合には,その定めと異なる取扱いをすることが相当といえる特段の事情(個別事情)がない限り,そのような取扱いは裁量権逸脱濫用するものとして違法となるものと解される[30]。そして,Xの問合せに対してY市職員から本件基準に照らした説明がなされている[31]ため,本件基準は公にされており,上記法的効果を有するものといえる。

(2)本件基準①の合理性

 政令9条1項1号ただし書の趣旨は,事後的な事情変更があった場合に法12条2項に基づく移転義務が生じる事態をできる限り避けようとする[32]点にある。しかし,建築基準法上,工業地域では一般取引所を建築でき,倍数制限がない[33]にもかかわらず,本件基準①・三は,事情変更があっても倍数50を超える場合には一律に保安距離の短縮を認めないこととしており,50という数値に特に客観的な根拠があるわけではないから[34]上記の法及び政令の趣旨に反するものであって合理的なものとはいえない

(3)本件基準②の合理性[35]

 本件基準②は,同③の防火塀の高さを前提に短縮限界距離につき定めているが,同③の高さより高い防火塀を設置する場合等についても,倍数10以上の場合には一律に同距離を20メートルとしている(同②一(ろ))。しかし,同③の高さより高い防火塀を設置するか否かに係る事情を一律に考慮できないこととされている上,20メートルという数値に特に客観的な根拠があるとはいえないのに同事情を一切考慮できないように規定されていることから,本件基準②の内容は,上記の法及び政令の趣旨に反し,不合理である。

 したがって,本件では,本件基準①及び②を適用すべきでない。

(4)個別事情の有無

 さらに,仮に本件基準①・②が画一的・硬直的なものではなく個別事情を考慮して例外を認めるものと解され,合理的といえるとしても[36],上記個別事情の有無が問題となる。

 (ⅰ)本件取引所は,倍数55,短縮限界距離に関係する距離が18メートルであるため,本件基準①及び②を僅かに満たさないものにすぎない[37]。また,(ⅱ)同③の水準以上の高さの防火塀や,政令で義務付けられた水準以上の消火設備の設置をする用意があるとXが述べていること,(ⅲ)Xは倍数を減らすと経営が成り立たなくため事実上倍数を減らせないこと,(ⅳ)Xの所有する敷地内では,本件取扱所を本件葬祭場から20メートル以上離れた位置に移設することは不可能であり,同敷地外に移転する場合には巨額な費用を要することになること[38]も考慮すると,[39]本件では,本件基準と異なる取扱いをすることが相当といえる個別の特段の事情があるというべきである。

(5)よって,本件基準が合理的であるとしても,本件では個別事情を考慮すべきであるから,考慮不尽となる結果,社会通念上著しく妥当性を欠く判断となり裁量権の逸脱濫用があるといえ,本件命令は違法である。

3 政令23条の適否

(1)政令23条と政令911号ただし書との関係[40]

 政令23条と政令9条1項1号ただし書とは要件を異にするものであり,また,政令23条は,一般基準に適合しない特殊な施設等の出現に備えて設けられ[41],製造所等の設備等に応じ,より柔軟に一般基準の適用を除外するものとする趣旨に出た規定と解される。とすると,政令23条は,そもそも政令911号ただし書の基準を適用すべきでない特例を定めたものと考えられる。

(2)本件取扱所については,本件基準③の水準以上の高さの防火塀や,政令で義務付けられた水準以上の消火設備の設置をする用意がある旨Xが述べていることなどからすれば[42],「火災の発生及び延焼のおそれが著しく少なく,かつ…被害を最少限度に止めることができると認めるとき,又は…同等以上の効力があると認めるとき」に当たりうる。

 よって,Xが法定の基準以上の防火措置をとることにより,政令23条が適用される余地もある。ゆえに,同条を適用しないことは,同条における要件認定に係る裁量権の逸脱・濫用[43]といえ,本件命令は違法となる。

第3 設問3

 Xは,本件命令により,本件取扱所を移転して損失が生じたとして移転にかかった費用を請求できるか[44]

2 判断基準[45]

【論証】憲法293の趣旨が特別の犠牲に対する公平の観点からの救済にあり,財産権(同29条1項)保障の実質化と財産権の側面における平等原則(同14条1項)の実現にあることからすると,損失補償の要否は,損失が特別の犠牲に当たるか否かで判断すべきである[46]。すなわち,侵害行為の対象の特定性形式的基準)と,侵害行為が財産権の本質を侵すほど強度なものか実質的基準)により決すべきであり[47],実質的基準については,規制の目的,②規制の程度,③事後的な事情変更に係る事項[48]考慮する。

3(1)本件では,まず,本件命令はXのみに対するものであるから,侵害行為の対象の特定性はあるといえ,形式的基準を満たす。

(2)次に,実質的基準についてみると,本件命令(122[49]が発せられるための要件を規定する121は,取扱所の所有者等に対し,104の技術上の基準に適合するように維持すべき義務を課している[50]。そして,法の目的が国民の生命,身体及び財産を火災から保護することなどにあること(法1条[51])に照らすと,上記維持義務(法12条1項)は,公共の安全のための警察目的(消極目的)の規制であり,取扱所の所有者等は許可を受けた時点以降も継続的に基準適合状態を維持する必要があるとの趣旨に出たものと解される[52]

 とすれば,②規制の程度が強く,かつ,損失を受ける者が事後的な事情変更に係る事情の発生をあらかじめ計画的に回避できなかった場合に限り,実質的基準を満たし,損失補償が必要となると考える。[53]

 本件では,本件取引所の移転につき巨額な費用[54]を要しており,さらに,本件取引所の移転により失った顧客の信用は容易には回復できないものであることから,規制の程度は強いといえる。

 また,Xが本件取扱所の営業を始めた平成17年の時点では,本件葬祭場の所在地は,第一種中高層住居専用地域(都市計画法9条3項)とされていたのであり,同地域では,葬祭場の建築は原則として不可能とされていた(建築基準法48条3項本文)。そのため,10年後の平成26年都市計画決定で第二種中高層住居専用地域に指定替えがなされることや,これに伴い小規模な葬祭場が建設されること(同条4項本文等)などを抽象的に予見しうる余地はあったとしても,Xが指定替えに関する各事情の発生を平成17年の時点で具体的に予見することは不可能か極めて困難であったといえる。加えて,確かに指定替え前の第一種中高層住居専用地域においても学校や病院等は建築可能とされていたが,これらは小規模な葬祭場の場合とは異なり当該地域の実情に応じて計画的に建設されることから,学校や病院等の建設については本件取引所の設置時に計画的に回避可能な事情といえるとしても,本件葬祭場の新設は計画的に回避可能な事情とはいえない[55]

 よって,Xの損失に係る侵害行為は財産権の本質を侵すほど強度なものであり,受忍限度を超えるものといえる。

4 以上より,Xの損失は特別の犠牲に当たる[56]ため,Xは,Y市に憲法29 条3項に基づき,損失補償を請求できる。

                                    以上

 

なお,仮に私が平成27年司法試験論文行政法を採点・評価する場合には,かなり大雑把なものではあるし(一応の目安くらいにしかならない),いかがなものかという点もあるかもしれないが,次のような〔採点基準〕によるだろうと思われる。参考程度にご笑覧いただけると幸甚である。

 

 〔採点基準〕 

【設問1(配点:20/100点)の採点基準】

1 消防法12条2項の移転命令の差止訴訟を提起すべきこと・・・2点程度

2 一定の処分の蓋然性(訴訟要件①)の検討・・・ 3点程度

3 重大な損害(訴訟要件②)の検討・・・7点程度

4 上記1・2以外の訴訟要件の検討・・・3点程度

5 裁量点・・・5点程度

(「裁量点」部分については,本試験同様,①事案解析能力,②論理的思考力,③法解釈・適用能力,④論理的構成力及び⑤文書表現能力のそれぞれの程度により評価するものとする。設問2・3についても同じ。)

 

【設問2(配点:50/100点)の採点基準】

1 法12条2項の移転命令の要件が,法10条4項,政令9条1項1号の技術上の基準不適合であること,同号但書には要件裁量が認められると解すること,本件基準の性質等の検討など・・・8点程度

2 要件裁量の逸脱濫用の主張1:本件基準①の不合理性の主張・・・7点程度

3 要件裁量の逸脱濫用の主張2:本件基準②の不合理性の主張・・・5点程度

4 要件裁量の逸脱濫用の主張3:個別事情の考慮に関する主張・・・7点程度

5 危険物政令23条に係る違法事由の検討・・・/8点程度

6 裁量点・・・15点程度

 

【設問3(配点:30/100点)の採点基準】

1 損失補償の要否に関する規範の定立(特に実質(的)基準)・・・4点程度

2 形式(的)基準への言及(同基準の検討)・・・2点程度

3 実質(的)基準・①規制目的の検討・・・7点程度

4 実質(的)基準・②規制の強度等の検討・・・4点程度

5 実質(的)基準・③事後的な事情変更に係る事項等の検討・・・5点程度

6 裁量点・・・8点程度

 

直前期の皆様,受験が終わったら,カラオケで「LOVE YOU ONLY」を歌って盛り上がりましょう。

 

 

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[1] TOKIO「LOVE YOU ONLY」(1994年)参照。

[2] 差止め訴訟や損失補償は,それぞれ平成30年行政法(行政救済法分野からの出題)のヤマの1つである。差止訴訟は平成23年平成27年と出題されており,訴訟類型としての重要性(平成16年改正法で法定)にも照らすと,3~4年に一度出題されると予想される。損失補償は,平成24年平成27年と出題されており,概ね3年に1度出る傾向があると予想され,全受験生がしっかり準備をしてくる論点と思われる。

[3] ①最後の設問が「設問4」の場合,②設問3までであっても設問の中に「小問」がある場合(実質的には設問4の場合と同程度の論点数),③最後の設問の配点割合が「20」以上の場合には,特に,時間管理に注意することが重要となる。人によっては時間を余らせるように書いていってもよいだろう(余らないことが多い)。

[4] 「本件命令が発せられることを事前に阻止するために,」という部分は「設問1」の記載をそのまま写した部分である。要するに,冒頭部分の記述は,①設問の記載と②「本件命令」の根拠法規・処分要件規定(冒頭部分では法律レベルのみで足りるだろう。ここではいずれも問題文2頁最終段落・(3)に明記されている条項を記載しただけである。)をつなげただけの文章にすぎない。ちなみに,この①(設問の記載)につき,オウム返しは不要という見解もあるだろう。しかし,本答案のこの部分のように,あまり長くならないのであれば,書いてしまっても問題ないだろうし,出題趣旨との関係では書いた方がむしろ採点者が読み易いと感じる場合もあるように思われる。

[5] 関連する条文として,(a)行訴法3条7項のみを挙げる立場(小林久起『司法制度改革概説3 行政事件訴訟法』(商事法務,2004年)(以下,「小林・行訴法」という。)187頁,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)(以下,「神橋・救済法」という)227頁),(b) 行訴法3条7項と行訴法37条の4第1項とを一緒に挙げる立場(中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)(以下「中原・基本行政法」という。)があるようである。過去問の出題趣旨や採点実感からは,司法試験の考査委員がいずれの立場に立ったかは明確ではないが,平成27年司法試験の採点実感等に対する意見(公法系科目第2問)3(1)が「差止め訴訟を挙げた上で,行政事件訴訟法第3条第7項及び第37条の4に規定された『一定の処分…がされようとしている』,『重大な損害を生ずるおそれ』等の訴訟要件について論じていれば,一応の水準の答案と判定した」としていることなどから,(b)の立場に立っても良いようにも思えるが,この記述では(a)か(b)かなお不明確であるといえるため,本答案は行訴法の立案担当者(小林久起)の立場((a)の立場)に立っている。

[6] ①処分性,②特定性及び③蓋然性の3つの要件(いずれも行訴法3条7項の文言の話)を漏らさず素早く書くことが求められる。②・③のどちらかを落とす答案をみることが少なくないが,ここで差を付けられるのは勿体ない。また,特に書くのが遅い人などは腕・手の筋トレをする必要がある。司法試験は筋力も要求している側面があるというほかないから(その当否はここでは検討しない),筋力勝負に負けない体作り(腕作り)も重要である。

[7] 「公共団体」を「地方公共団体」とする誤記をみることがあるが要注意である。

[8] 「直接」を落とす答案をみることがあるが,要注意である。判例の定式を書き間違えると,短答式試験に引き直せば3点(あるいはそれ以上)失うと思っておいた方が無難である。

[9] 「法令」ではなく「法律」である。要注意。

[10] 本件命令は,典型的な行政行為(法律行為的行政行為・命令的行為・下命)であり行政手続法上の不利益処分であることから,特に時間がない場合(例えば答案構成までに時間を45分以上使ってしまった場合)などには,処分性の判例の定式は省略した方が良い場合があると考えられる。

[11] このようなナンバリングをする場合,「次に」,「さらに」などの接続詞は要らないだろう。

[12] 小林・行訴法186頁参照。同頁は,「『一定の処分又は裁決』とは、差止めの訴えの要件を満たしているか否かについて裁判所の判断が可能な程度に特定される必要があると考えられます。」(下線は引用者)とする。

[13] 中原・基本行政法396頁(「一定の処分がされる蓋然性があることが必要である。」)や,神橋・救済法227頁(「処分がなされる一定の蓋然性が必要とされることになる」)と同様の立場に立つ記述である。差止め訴訟による救済の必要性を基礎づける訴訟要件である。

[14] 会議録・弁護士E第1発言の一部をそのまま書き写した部分である。

[15] 問題文2頁第2段落3行目参照。

[16] 文言が重複することになるので,第1の3や4の小タイトルは付けなくてもよい(行訴法の条文ナンバーは忘れず書くこと)。

[17] この段落は,省略した上,あてはめのところで①・②の考慮事項を書いてもOKである。

[18] 会議録・弁護士D第1発言の一部を殆ど書き写した部分である。

[19] 問題文2頁第1段落3行目参照。

[20] 「4」のタイトル(一行上の行)で文言を引き写しているため,ここでは文言の一部を省略している。

[21] ショート・バージョンの場合,個別法において差止めを求める処分の前提となる処分が規定されている場合をいう(ものと解する)。と書くと良い。

[22] 後続処分とは,差止めを求める処分のことを意味する。

[23] 神橋・救済法229頁参照。実質的当事者訴訟等の提起が可能であることは含まないものと解していることも(一応)含んでいる表現である。

[24] いわゆる「オウム返し」に近い記載である。書き出しに迷うくらいならば設問の一部をこのように(殆ど)書き写すというのもアリだろう。

[25] 根拠法規・処分要件規定の趣旨や,法令以外の内部基準の法的性質・法的効果については,会議録等における明確な誘導(会議録・弁護士D第4発言)がなくても答案に書く必要がある(小タイトルを付けた上で小タイトルにもキーワードを書く必要があるかはどちらでもよいと思うが)。

[26] 西口竜司ほか監修『平成27年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成28年)(以下「ぶんせき本」という。)92頁の150.23点(公法系科目30位,論文総合20位)の再現答案(以下「超上位答案」という。)の記述を参考にした。

[27] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第6版〕』(有斐閣,2017年)326頁は「行政裁量が認められる根拠」の1つとして「全国一律の基準を定めることが適当でなく,地域の特性や地域住民の意見を斟酌して決定すべき事項については,法律であらかじめ行政を全面的に拘束してしまうべきではない」とする。ゆえに,本問では<専門的・技術的(or政策的)な判断を要する>といった論述をせずに,「地域の特性」というところから書いていく方がベターといえよう。

[28] ①行政規則,②裁量基準or解釈基準,③審査基準or処分基準という内部基準の法的性質の‘3点セット’を書けるようにしよう。

[29] 審査基準の場合とは異なり,不利益処分の場合であることから,いわば市民の<プラスの信頼>とは異なる「信頼」(後掲最三小判平成27年3月3日参照)といえよう。

[30] 最三小判平成27年3月3日(平成27年度重要判例解説・行政法6事件)の次の判示を取り入れた論述(殆ど論証パターン部分)である。特段の事情(裁量基準には定められていないが,法の趣旨に照らすと考慮すべきものと解される個別事情)がある場合,逆に内部基準と異なる取扱いをしなければ違法となるものと解するということである。なお,同判例は,不利益処分についての処分基準で,かつ裁量基準がある場合についてのものではあるが,審査基準(行政手続法5条1項)の場合にも応用可能と考えられる。他方,裁量が否定される場合の行政規則(解釈基準)の場合については,解釈基準の内容につき「合理的」か否かという規範ではなく,(ⅰ)解釈基準に示された「解釈が正しいか」否かという規範によるべきであり(→正しい場合には,そのあてはめの審査をし,誤っている場合には(裁判所が示す)正しい解釈によることになる。中原・基本行政法159~160頁のコラム参照。),かつ(ⅱ)裁量基準の場合に登場するような個別事情は考慮すべきではないものと解される。ちなみに,(ⅰ)につき,解釈基準において示された「解釈が正しいか」否かは結局のところ法の趣旨(・目的)に適合するものといえるか否かによることになろう。そうすると,裁量基準が登場する場合の処理と解釈基準が登場する場合の処理との大きな違いは,個別事情の考慮の審査をするか否かという点なのではないかと考えられる。

[31] 問題文2頁第3段落参照。

[32] 会議録・弁護士E第3発言第一文を要約したものである。ぶんせき本94頁の超上位答案も参照。

[33] 会議録・弁護士D第5発言第2文を殆どそのまま書き写した部分である。

[34] 一律に数値基準で判断するがその数値に客観的な裏付けがあるとはいえないような場合には,ある程度,使い回しの効く表現といえるだろう。裁量基準で量的(数値)基準が出てきた場合に同様の論述をすると最低限守れる答案を書けるように思われる。

[35] ぶんせき本の超上位答案は触れていないし,必ずしも会議録の誘導から導くことのできる記載ではないよう思われる。ただし,出題趣旨では本件基準②の合理性の点も指摘しなければならないとされているため,本答案ではこの点も書いている。

[36] 裁量基準の合理性が認められることを前提としても,個別事情を考慮すべきである旨の主張を書いておく必要がある。

[37] 出題趣旨参照。

[38] 「特段の事情」に係る(ⅱ)~(ⅳ)の事情につき,問題文3頁第1段落参照。

[39] ここで「特段の事情」に係る(ⅰ)~(ⅳ)の事情につき,一定の評価を食わせる記述ができればより良いだろうが,実際に司法試験の制限時間内でそこまでやるのは中々難しいように思われる。

[40] 本問のように司法試験では,2つの規定の「関係」を問われることがあるところ,まずは原則的な規定と例外規定(特例規定)という関係が聞かれているかどうかを検討してみよう。一般法と特別法の考え方の応用ともいえる。

[41] 会議録・弁護士E第5発言の一部を要約した部分である。

[42] ここは仕方なく重複記載をした部分である。

[43] 本来は,政令23条の「・・・認める」(2か所)に要件裁量を認めることの根拠(←文言と判断の性質)を書く必要があるが,政令23条の主張については,比較的配点が少ない(時間・答案スペースを殆ど割けない)ため,この程度の短い記載にとどめている。

[44] なお,訴訟類型は問われていないので,実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)のうちの給付訴訟を提起すべきことについては書く必要はないと考えられる。また,<・・・特定多数人の利益や効用をもたらすものであるから,「公共のために用ひる」(憲法29条3項)との要件を満たす>ことは明らかなので,その論述も必要ないだろう(採点実感3(3)、4(4)参照)。

[45] 憲法の論文でも使える論証パターンである。憲法では平成18年新司法試験論文で損失補償の諸論点が聞かれている(このことに関し,さしあたり,木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)69~70頁,大島義則『憲法ガール Remake Edition』(法律文化社,2018年)195~201頁等を参照されたい。)。なお,宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣,2018年)505頁は,「損失補償の要否」の「判断基準」の項目のところで,「①侵害行為の特殊性,②侵害行為の強度,③侵害行為の目的,等を総合的に判断する必要があると考えられる。(中略)従来の立法・判例をみると,③が重視されているものが少なくない。」などとする。

[46] ショートバージョンの論証パターン(理由付けの一部を省略)は「憲法293の趣旨が特別の犠牲に対する公平の観点からの救済にあることからすると,損失補償の要否は,損失が特別の犠牲に当たるか否かで判断すべきである。」となる。現実にはショートバージョンくらいしか書けない(時間がない)というのが殆どかもしれないが。

[47] 時間がなければ実質的基準だけ書いて(→「すなわち,侵害行為が財産権の本質を侵すほど強度なものかにより決すべきであり,・・・」と書く)あてはめれば良い。形式的基準には殆ど配点がないものと思われる。

[48] ③は本件に即した(会議録から読み取るべき)考慮事項(要考慮事項)である。

[49] 根拠法規・処分要件規定が‘スタート条文’である。これは損失補償の設問・論点であっても同じである。

[50] 会議録・弁護士E第9発言第一文を殆どそのまま書き写した部分である。

[51] 憲法でも,消極目的規制か積極目的規制か(あるいはそれ以外か,

複合的規制などか)が問題となる(例えば,平成26年司法試験論文憲法)。憲法でも行政法でも,個別法の目的規定(通常は1条)に照らした解釈が求められているといえる。

[52] 出題趣旨参照。

[53] ここで下位規範を定立している。警察目的(消極目的)の規制の場合には,「財産権に内在する制約として受忍すべきである」という考え方が有力であることから(宇賀・前掲『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』506頁),論証パターン部分で書いた上位ルールにおける①~③の各考慮事項を並列的に検討するというよりは,<原則的には損失補償は不要とされるが,一定の厳格な要件を満たした場合に例外的に損失補償が必要とされる>といった基準(下位ルール)を立てている(その上で,下位ルールのあてはめを行っている)。このような上位ルールのあてはめに関する論述は積極目的規制の場合であっても応用可能であろう。

[54] 問題文3頁第1段落参照。

[55] 出題趣旨参照。ただし,この段落はもっと短く書ける(より短く書くべき)だろう。

[56] 上位(最上位)規範(のキーワード)のあてはめも忘れずに書くこと。このように,時間がない状況においても,最後まで(法的)三段論法を守り抜く姿勢を答案に示せるように時間管理をしよう。

 

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