平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

司法試験採点実感の「消費期限」と「賞味期限」  -審査基準を「若干緩めて」と書くのは「不適当」(26年憲法採点実感)は「消費期限」切れか?-

 

本日,ある司法試験受験生の方から,憲法の論文答案に関する興味深いご質問を受けた。他の受験生の方にも同様の疑問をお持ちの方がいるかもしれないと思い,ブログを更新することにした。

 

<質問>

「答案に,『審査基準をやや緩和して』というような記載をしてはならないと合格者の方から言われたのですが,本当でしょうか?基本書などで似たような書き方をしているのを読んだことがあるのですが…。」

 

<回答>

「『多少とも緩和した形で適用されるべき』とか『やや緩和した審査基準を適用すべき』などと書くことは,今日の司法試験では(ゆえに平成30年司法試験でも)問題ないように思われます。とはいえ,基準を緩和する理由についての記載を答案に書いておけば,『多少とも緩和・・・』などの部分をわざわざ書かなくてもよいでしょう。」

 

 

 

<回答理由等>

 

1 26年採点実感「審査基準を『やや下げて』『若干緩めて』はNG」

 

上記ご質問について,まず想起すべきは,平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(以下「26年採点実感」という。)におけるコメントである。

 

26年採点実感7頁・2「(6) 答案の書き方等」のところでは,「答案における用語の使用方法等について気になるところを指摘する。不適当な用語の使用は,その内容によっては,受験者の概念の理解に疑いを抱かせるものであるという点に留意願いたい。」(下線は引用者)とした上で,7つの事項につきコメントしている。ここでは,その7つのうち2つを紹介しよう。

 

(A)「・本来,『立法裁量』と書くべきところを『行政裁量』と書いているものが多かった。憲法訴訟における裁量論の意味をよく考えてほしい。」

 

(B)「・審査基準を『やや下げて』とか,『若干緩めて』といった記述が見られたが,判例や実務でこのような用語を使うかは疑問である。」

 

 

このうち,(A)については,異論はなかろう。「立法裁量」と書くべきところを「行政裁量」と書いてしまったら,それは明確な間違いだからである。[1]

 

他方で,(B)については,どうだろうか。冒頭の質問と関連する採点実感である。

 

この(B)は,(A)とは違い,(「上げて」とか「下げて」ややや稚拙な表現なので良くないが)明確な間違いとまではいえないように思われるし,(B)に対しては,以下に述べるとおり,2つの批判が考えられる。

 

 

2 26年採点実感の問題点

 

(1)伊藤正己補足意見「違憲判断の基準…多少とも緩和した形で適用」

 

第1に,「判例や実務でこのような用語を使うか」否かという点まで司法試験の採点に組み込むということなのだろうか。

 

もちろん,品位を欠く表現,あるいは稚拙にすぎる表現は司法試験でもNGであろうが,そこまでではない表現があった場合,得点を相対的に低くしたりするという趣旨の採点実感であれば,問題であろう。

 

それは基本的には司法修習で学ぶなどすれば足りる(二回試験では出ないが)ことと思われるからである。

 

第2に,「審査基準を『やや下げて』」という表現は,確かに判例で(殆ど)使われないのかもしれないが,「『若干緩めて』といった記述」については,使われることがあってもおかしくないのではないかと思われる。

 

 

判例・実務の例(と考えられるもの)であるが,例えば,考査委員自身が採点実感において明確に言及した判例でもある「岐阜県青少年保護育成条例事件判決」の「伊藤補足意見」(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)1頁・1(1))は,次のように述べている。

 

「…違憲判断の基準についても成人の場合とは異なり、多少とも緩和した形で適用されると考えられる。」(下線は引用者)

 

 

勉強の進んでいる受験生には言うまでもないことだが,この判決(最三小判平成元年9月19日刑集43巻8号785頁)は,憲法判例百選に収録された重要判例である(同[第6版]Ⅰ・55番事件・松井茂記教授解説)[2]

 

ちなみに,松井教授は「解説」2(1)部分で,次のとおり,伊藤補足意見を要約して紹介している。

 

伊藤正己裁判官の補足意見は,青少年に対する憲法的な表現の自由の保障の程度は成人の場合に比較して低いとし,成人に対する表現の規制の場合のように,その制約の憲法適合性について厳格な基準が適用されず,多少とも緩和した形で適用されるべきだとしている。しかし,後述するように,未熟な判断能力の青少年を保護するためパターナリズムに基づいて青少年の自由を制限することが認められるからといって,その保護の程度は低く,違憲審査の基準は緩やかでよいと考えることができるかどうか異論がありえよう。」(下線は引用者)

 

以上のような解説があることから,百選をよく読んでいる受験生であれば,答案で,審査基準を「緩和」するという表現を使ってしまうこともあるだろうが,

伊藤補足意見は(判例ないし)実務の例と呼んでも問題ないように思われる。

 

(2)考査委員(研究者)「やや緩和された…審査基準を適用すべき

 

ちなみに,蛇足になるかもしれないが,研究者・学者が「緩和」という表現を使っているかどうか確認しておこう。

 

平成27年から平成29年まで司法試験考査委員を担当された曽我部先生のテキストである新井誠=曽我部真裕=佐々木くみ=横大道聡『憲法Ⅱ 人権』(日本評論社,2016年)120頁〔曽我部真裕〕には,次の記載がある。

 

「…規制内容についての違憲審査のあり方に関する重要な考え方である内容規制・内容中立規制二分論(以下、『二分論』という)について説明する。

二分論とは、端的にいえば、表現規制を表現内容に基づく規制と表現内容に関わらない規制(内容中立規制)とに二分し、前者に対しては厳格な違憲審査基準を、後者に対してはやや緩和された(しかし経済的自由に対するものほど緩やかではない)審査基準を適用すべきだという考え方であり、有力な異論もあるが、学説においては広く支持されている。」(下線は引用者)

 

ということで,「やや緩和された」審査基準を適用すべきといった表現は,考査委員自身が用いているのである。

 

ちなみに,元司法試験(新司法試験)考査委員の赤坂先生も,先生のテキスト(赤坂正浩『憲法講義(人権)』(信山社,2011年)26頁で,「より厳しい審査」・「より緩やかな審査」という表現を用いているわけであり,「緩和」とか「緩やか」とか「やや」という語は,受験生(学生)だけではなく,研究者・学者も使っているものといえる。

 

(3)東京大学名誉教授(憲法学)「審査の厳格度を緩める

 

他にも,例えば「審査の厳格度を緩めることが可能」(高橋和之立憲主義日本国憲法 第4版』(有斐閣,2017年)244頁)という表現がある。

 

さらに他にも(以下,省略)。

 

というように,上記の26年採点実感は,研究者の立場ともズレのあるもののように思われ,その「瑕疵」の程度はかなり重大だろう。

 

 

3 採点実感の射程ないし「消費期限」

 

26年採点実感7頁(6)の前記(B)のような記述は,その後の採点実感や出題趣旨では登場していないものと思われる。

それは,①特定の考査委員(採点実感につき会議等で代表して報告等する考査委員)が変わったことと,上記2のとおり,②採点実感の内容自体にいわば「瑕疵」があったことに基づくものであろう。

 

今回のブログで問題にした箇所のように,司法試験の採点実感には,その後の司法試験に「射程」が及ばない(及ばなくなる)ものがある。

いわば「消費期限」[3]が切れている(切れる)採点実感も存在するものと考えられる。

 

とはいえ,「消費期限」の切れる要素は上記①・②であると思われるが,①・②を満たす場合は,かなり限られていることから,採点実感の殆どが今日でも生きている(消費期限の切れておらず,あるいは性質上切れることのない有効な)ものと思われるので,注意が必要である。

 

 

4 判例変更ならぬ「実感変更」

 

なお,このような「射程」や「消費期限」のことが,出題趣旨や採点実感において明記されることはさすがになかろう。

 

ただし,新しい出題趣旨や採点実感において昔の採点実感が実質的に・黙示的に覆されることはありうると思われる。

 

判例変更ならぬ採点実感の変更(実感変更)である。

 

実感変更は法定されていないものの,それは観念・存在しうるだろう。

 

 

というわけで,以上より,平成30年(以降)の司法試験論文憲法の答案で,「多少とも緩和した形で適用されるべき」とか「やや緩和した審査基準を適用すべき」などと書くことは,おそらく問題ないことなのかもしれないが,それでもリスクが心配という人は,審査基準を緩和する理由に係る記載を答案に書いておけば「多少とも緩和・・・」などの部分をわざわざ書かなくても点は入ると考えられるので,その部分を書かないようにすれば良いと思われる。

 

 

5 採点実感の「賞味期限」 ~採点委員は採点実感を何年分遡って読むのか~

 

最後に,冒頭のご質問からはやや外れることだが,受験生がどの年の採点実感をどの程度力を入れて読むべきかにつき付言する。

 

もとより推測であるが,司法試験の考査委員・採点委員は,過去の採点実感を事前に読んでいるものと考えられる。

 

特に初めて採点委員になった者は,採点の便宜上,過去どのように採点がなされたか知りたいだろうし,当局としても採点の安定性(←他の採点委員と開きがありすぎては困る)という観点から,採点委員に過去の採点実感を読んでほしいと考えるのが普通だからである。

 

そうすると,ではどこまで遡るのかということであるが,感覚的には,概ね直近の3年分というところではないかと思われる(特に1年前の採点実感は最初に目を通す採点実感と予想され,注意深く読むだろう)。

 

また,もしかしたら,4年前以前のものについては,それらをまとめた資料があるのかもしれない。

 

もちろん推測の域を出ないが,1~2年分では少ない感じがする(上記採点の安定性を確保し難くなる)し,4~5年分だとやや多い気がする(量が多く頭に入らないのでやはり採点の安定性を確保し難くなる)。

 

よって,受験生としても,直近3年分くらいは,(だれかがまとめたものではなく)法務省で公表されている採点実感そのもの(自分が選択しない選択科目のものを除く全文)をある程度しっかり読むべきであり,それ以外の年のものは,まとめられたものを読んだり,過去問検討の中で適宜(部分的に)読んだりすればよいだろう。

 

つまり,私の予想によると,4年前以前の採点実感については考査委員にその全文を読まれる期限を過ぎているため,いわば「賞味期限」[4]が切れているものといえるので,相対的に重要度が少し落ちるものとなるように思われる。

 

「消費期限」と区別し「賞味期限」とした理由は,上記のとおり重要なものを当局等がまとめた資料などは用意されているのかもしれないし,あるいは採点委員経験者の頭の中では特に重要なものについては未だ生き残っているものもあるだろうといった点にあるが,例えがこれで良かったのかは微妙なところかもしれない。

 

…と,このように色々と思いを巡らせるなどしながら,採点実感等を読むのも,司法試験の研究[5]の醍醐味ではないだろうか。

 

 

以上より,司法試験受験生としては,まずは直近3年分の採点実感を良く読み,4年前以前のものについては過去問検討やゼミ,あるいは授業等に際して,重要部分と思われる部分をピックアップするような作業をすると良いのではないかと思われる。参考になれば幸甚である。 

 

______________________

 

[1] とはいえ,「憲法訴訟における裁量論の意味をよく考えてほしい」という謎かけ的・禅問答的・ソクラテス的な言い回しは何とかならないものか。なお,このような禅問答的な部分の解答ないし見解を考査委員(採点委員や元考査委員・元採点委員を含む)が法科大学院や法学部の授業などで明示等することは,①司法試験の実施に係る平等原則違背行為や②秘密漏えい罪に当たる行為とまではいえなくても,③非立憲的な行為であるものと考えられ,強く非難されるべきものである。

[2] なお,岐阜県青少年保護育成条例事件判決は,平成30年司法試験論文憲法でも活用すべき判例となる蓋然性が高い判例であると考えられる。

[3] 消費期限とは,本来は,「傷みやすい食品に表示される、安全に食べられる期限」(新村出編『広辞苑第六版』(岩波書店,2008年)1393頁)を意味するものである。

[4] 賞味期限とは,本来は「比較的長持ちする加工食品を、定められた方法によって保存した場合,その品質が十分に保ておいしく食べられる期限」を意味するものである(新村出編『広辞苑第六版』(岩波書店,2008年)1398頁)。

[5] ここでの「研究」は一種の比喩である。司法試験の問題,出題趣旨,採点実感,ヒアリング,再現答案(特に上位答案),各種解説文献等は,何度検討しても(少なくとも私には)ほぼ毎回新たな発見があるものであり,これらの検討・再検討は,興味深く大変勉強になる。受験生の方々にもこの検討等の結果をできる限り還元していきたい。

 

 *このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その5 出題趣旨から探究する「答案枠組み」

平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨(以下,単に「出題趣旨」ということがある。)についての感想のつづきである。

 

前回のブログでは出題趣旨第3・4段落の感想を述べ,前回までに出題趣旨の第1~5段落の感想を述べた。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

そこで,今回のブログでも,「人権パターン」すなわち規範(判断枠組み・違憲審査枠組み)の理由付けと規範自体,そして規範へのあてはめ・結論という流れとの関係を意識しつつ,出題趣旨第6段落の感想を述べることとする。

 

 

〔出題趣旨第6段落(下線,〔1〕~〔4〕は引用者)〕

これに対して国の主張としては,〔1〕妊娠等の自由が憲法上保障されるとしても,出入国や国内での滞在は国家主権に属する事項であって,妊娠等を理由に強制出国処分とすることについては極めて広範な裁量が認められること,〔2〕子供が日本で生まれ育つことにより,日本の社会保障制度や保育・教育及び医療サービス等の負担となる可能性があり,また,親である外国人も含め,定住の希望を持つようになる蓋然性があること,〔3〕新制度は労働力確保のためであり,妊娠等によって相当期間に渡って就労が不可能になるから禁止事項として合理性があること(特労法第15条第6号が1月以上就労しないことを禁止事項としていることも参照。),〔4〕妊娠等禁止の条件は事前に周知され,誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく合憲であるといった点を指摘することが考えられよう。

 

 

1 「国の主張」までしか書いてくれない考査委員

 

まず,残念なのは,出題趣旨には,「国の主張」までしか書いていないということである。これを不親切である,あるいは不誠実であると感じた受験生もいるのではないだろうか。

 

ちなみに,出題趣旨で示されていない「私見」の具体例につき,考査委員自身(採点委員から担当する考査委員を含む)が法学部や法科大学院の授業の中などで(黙示的にも)具体的に示しているとすれば,直接的な問題(それ自体の)漏洩とは言えなくても,司法試験の公正さを大きく害する行為であると思われる。

 

違憲(平等原則違反行為)とまでは言えなくても,非立憲的な行為というべきである。

 

 

2 「反論」と「私見」の「型」

 

(1)採点実感「諦めるべきではない」 (修造か)

 

(出題趣旨の「国の主張」の一部を私見で書くということはあろうが)「私見」の例は出題趣旨には明記されていないから,「反論」と「私見」の型(後者がメインであるが)や内容の検討について「諦める」という選択肢もありそうなものであるが,そういうわけにはいかない。

 

平成27年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(以下「司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)」を「採点実感」と略す。)が次のように述べるからである。

 

「将来弁護士になれば,明らかに採用の余地がない主張はすべきでないことを前提としつつも,不利な事実関係にも配慮しながら,何とか裁判所に受け入れてもらえるような説得的な法律構成がないかと思い悩み,考えなければならないであろう。そのような悩みを見せずに簡単に諦めるべきではない。」(下線は引用者)

 

一応繰り返すが,これは採点実感であって,松岡修造の応援メッセージではない。考査委員自身のコメントである。

 

さて,長い前置きはこのくらいにして,設問2の型すなわち「私見」を中心とする「反論」と「私見」の型の話に進もう。この型を探るべく,過去の採点実感(平成26年採点実感)をみてみよう。

 

平成26年採点実感3~4頁(抜粋)(下線,〔1〕~〔4〕は引用者)

・〔1〕設問2について,被告の反論なのか自己の見解なのかさえ判然としない答案があった。[1]

 

・〔2〕設問2について,「被告側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で」とあるからか,被告の反論については全体で一点だけ簡単に示して,後は全て受験者自身の見解だけを書くというスタイルも見られたが,出題者の趣旨は,設問1で論述した原告側主張と対立する被告側主張を意識した上で,自身の見解を説得的に論証してもらいたいというものであるので,少なくとも両者の対立軸を示すに足りる程度の記載は必要である。

 

・〔3〕設問2について,【ある観点からの反論→それに対する受験者自身の見解→別の観点からの反論→それに対する受験者自身の見解→更に別の観点からの反論→それに対する受験者自身の見解・・・】という構成の答案が多かった。その結果,手厚く論じてもらいたい受験者自身の見解の論述が分断されてしまい,受験者自身が,この問題について,全体として,どのように理解し,どのような見解を持っているのかが非常に分かりづらかった。さらに,極端に言えば,「原告の△△という主張に対し,被告は××と反論する。しかし,私は,原告の△△という主張が正しいと考える」という程度の記載にとどまるものもあった。

 

・〔4〕受験者自身の見解について厚く論述している答案は多くなかった。一方当事者の立場として原告の主張を記載するのに時間を費やすだけで,必ずしも多角的な視点からの検討にまで至っていないことは残念であった。

 

この平成26年採点実感からすれば,次のことが指摘できるだろう。

 

〔1〕→「反論」の部分と「私見」の部分は分けて書くこと

(両者の区分が考査委員にも分かるように書くこと)

 

〔2〕→「反論」は争点ごとに複数書くこと(争点は必ず複数ある)

「反論」では,対立軸を示すに足りる程度の記載が必要

 

〔3〕→「私見」を「反論」よりも「厚く」書くこと

 

〔4〕→「私見」は「多角的」に書くこと

 

ちなみに,〔1〕や〔2〕に関し,平成28年採点実感3頁は,「本年は,昨年と異なり,各設問の配点を明示しなかったが,設問1では付添人の主張を,設問2ではあなた自身の見解を,それぞれ問い,検察官の反論については,あなた自身の見解を述べる中で,これを『想定』すればよいこととした。したがって,検察官の反論については,仮に明示して論じるにしても簡にして要を得た記述にとどめ,あなた自身の見解が充実したものになることを期待したものである。この点では,本問は,従来の出題傾向と何ら変わらない。」(下線は引用者)とする。

 

この「反論については,仮に明示して論じるにしても」が引っ掛かるが,次の(2)で述べるとおり,平成28年司法試験論文公法系科目1位再現答案(評価A,168.90点)[2](以下「1位答案」という。)や,公法系科目4~5位再現答案(評価A,159.05点)[3](以下「5位答案」という。)も,「反論」という小タイトルを付す・付さないということはさておき,「反論」という語を答案に明記しているし,1位答案に至っては,「検察官の反論」と「私見」という小タイトルまで明記している。

 

そのため,「反論」を「明示」することは特に禁止されているというわけではなく,むしろ,上記〔1〕の<「反論」の部分と「私見」の部分は分けて書く>というルールが平成30年以降も妥当するものと考えられる。平成28年も,そして出題形式が28年と同じである平成29年[4]も,「従来の出題傾向と何ら変わらない」(平成28年採点実感3頁)のであるから,平成28年の‘上位答案の射程’が平成30年(以降)も妥当するといえよう。

 

(2)「反論」と「私見」を書く順序

~28年公法系1位答案と4~5位答案の設問2の構成を参考に~

 

以上検討したように「反論」と「私見」を分けるとして,書き方の順序が問題となる。すなわち,「反論」ですべての争点について書き,「私見」でそのすべての争点について論じるべきか(パターンA),それとも,争点ごとに反論・私見を書いていくべきか(パターンB)[5]という問題である。

 

この問題について,出題趣旨や採点実感等は必ずしもコメントをしてくれていないように思われることから,1位答案や5位答案を検討してみる必要があるといえよう。

 

まずは,1位答案の骨子を見てみよう。

 

〔1位答案の答案構成の骨子〕

(〔1〕~〔3〕,各文末の(  )内の記載は引用者)

第2 設問2

 1 13条の主張について

  (1) 検察官の反論[6]

     そもそも位置情報は,・・・であり,・・・は,重要な自由ではなく,原告のいうほど厳格に審査する必要はない。(審査基準の厳格さに関する反論[7]・3行[8]

     立法のきっかけは,・・・立法事実として十分である。(目的審査に関する反論[9]・2行)

     未然に再犯のリスクを防ぐという観点からは,・・・20年の期間が長期に過ぎるともいえない。(手段審査に関する反論・3行[10]

 (2) 私見[11]

審査基準について検討するに,〔1〕確かに・・・けれども,〔2〕例えば,・・・が考えられるし,〔3〕また,・・・のであり,・・・重要な自由というべきである。(審査基準の厳格さに関する私見・8行[12]

     一方,目的については,〔1〕・・・ではないし,〔2〕なのであって,立法事実の裏付けがないとはいえない。(目的審査に関する私見・4行)

     もっとも,手段については,・・・手段によっても同等に目的達成が可能である。つまりLRAがあるといえるので,法14条,21条,31条1号2号は違憲である。(手段審査に関する私見・5行)

2 22条の主張について

  (1) 検察官の反論

〔1〕法は,・・・規制にしており,〔2〕しかも,・・・となっており,制約が強度とはいえない。(審査基準の厳格さに関する反論・4行)

     〔1〕一般的危険地域への立ち入りを禁止していないのは,むしろ・・・であり,〔2〕・・・である。ゆえに,・・・実質的関連性を欠いているとはいえない。(手段審査[13]に関する私見・5行)

(2) 私見

〔1〕一般的危険地域への・・・〔2〕しかも・・・であり,・・・実質的に関連していないといわざるを得ない。(審査基準の厳格さに関する私見・5行)

     〔1〕また,検察官は,・・・と主張するが,〔2〕・・・は不合理であり,〔3〕実際には,・・・とは評価できないのであり,この点でも検察官の反論は採用できない。(手段審査に関する私見・5行)

     よって,憲法22条に反して違憲である。(結論違憲)・1行)

 

次に,5位答案の骨子を分析しよう。

 

〔5位答案の答案構成の骨子〕

(〔1〕~〔4〕,各文末の( )内の記載,(1)~(3)の小タイトルは引用者)

第2 設問2について

 1 13条違反について

  (1) 審査基準の厳格さに関する反論・私見①[14]

   ア[15] まず,・・・から,・・・ため,厳格な審査基準を用いるべきではないとの反論が考えられる。(反論・3行)

   イ もっとも,・・・ではない。既に・・・ということはできない。(私見・5行)

 (2) 審査基準の厳格さに関する反論・私見②[16]

   ア 次に,・・・ことから,厳格な審査基準を用いるべきではないとの反論が考えられる。(反論・3行)

   イ たしかに,・・・であるといえる。また,・・・から,上記の反論は失当である。

      そうだとしても,確かに・・・ことからすれば,・・・ではない。しかがって重要な目的のために,目的と実質的関連性を有する手段であれば制約が正当化されると考える。(私見・11行(第1段落7行+第2段落4行))

(3) 手段審査[17]に関する反論・私見

         ア さらに,手段の相当性について,・・・であるから,人権侵害の危険は・・・よりも低く,手段として必要最小限度のものであるとの反論が考えられる。(反論・4行)

   イ もっとも,〔1〕・・・と同様の効果を持つ手段である。〔2〕一方で,・・・目的達成のために有効な手段とはいえない。

     さらに,〔3〕・・・であって,・・・わけではない。〔4〕目的達成のためには,このような手段を使わなくても,・・・ことでも足りる。

     このように,・・・目的と実質的関連性があるとはいえない。(私見・13行(第1段落5行+第2段落5行+第3段落3行)))

     しかがって,法は,13条に反し違憲である。(結論違憲)・1行)

2 22条違反について

  (1) 審査基準の厳格さに関して

上記1の反論(1)は,22条にもあてはまる。(反論・1行)

(2) 手段審査に関する反論・私見

ア ・・・ことから,手段として相当であるとの反論が考えられる。(反論・4行)

   イ もっとも,・・・ではないため,このような反論は失当である。

     〔1〕法23条・24条は,・・・であり,〔2〕その一方で,・・・といえるので,立ち入りを禁ずるだけで目的が達成されるという関係にあるわけではない。(私見・8行(第1段落4行+第2段落4行))

         このようなことからすれば,手段が目的達成に必要不可欠であるとはいえないのであるから,法23条・24条は,22条1項に反し違憲である。(私見→結論・2行)

3 14条違反について

  (1) ・・・合理的な理由があるとの反論が考えられる。(反論・4行)

(2) ・・・合理的な理由も基づくものとはいえない。(私見・4行)

       したがって,法は14条に反し違憲である。(結論・1行)

 

(3)パターンAか,パターンBか → パターンB

 

以上みてきたとおり,1位答案はパターンA(:まとめて反論→まとめて私見型)で,5位答案はパターンB(:争点ごとに反論・私見型)で,それぞれ答案を書いている。

 

ここで,各パターンのフレーム(自由権侵害の主張が2つの場合)を示してみたい。

 

ア パターンA:まとめて反論→まとめて私見型

第2 設問2

1 ●●条の主張について

  (1) 反論

                  審査基準の厳格さに関する反論

     目的審査に関する反論

     手段審査に関する反論

(2) 私見

     審査基準の厳格さに関する私見

     手段審査に関する私見

     結論(違憲

2 ▲▲条の主張について

   (上記1の構成と同じ)

 

イ パターンB:争点ごとに反論・私見型

第2 設問2

1 ●●条の主張について

  (1) 審査基準の厳格さについて

   ア 反論

   イ 私見

(2) 目的審査について

   ア 反論

   イ 私見

(3) 手段審査に関する私見

   ア 反論

   イ 私見

(4) 結論

2 ▲▲条の主張について

  (上記1の構成と同じ)

 

それでは,パターンA・Bどちらの答案構成(の骨子)によるのが良いだろうか。どちらでも良さそうなものであるが,過去の採点実感は次のようなコメントを残している。

 

「『被告側の反論』の想定を求めると,判で押したように,独立の項目として『反論』を羅列する傾向が見られる。むしろ『あなた自身の見解』の中で,自らの議論を展開するに当たって,当然予想される被告側からの反論を想定してほしいのにもかかわらず,ばらばらな書き方をするために,かえって論理的な記述ができなくなっている(あるいは,非常に論旨が分かりづらくなっている)という傾向が顕著になっている。」(下線は引用者)(平成23年採点実感3~4頁)

 

ここで,考査委員は,独立の項目(小タイトル)として「反論」を書くことにネガティブな印象をもった旨のコメントをしていると考えられる。

 

そうすると,パターンAが170点近い答案なので,パターンAも捨てがたいところではあるが,上記平成23年採点実感を重視するならば,パターンBの方がベターということになるだろう。

 

(4)反論と私見の割合・・・ 1 : 2~3程度

 

ちなみに,「反論」と「私見」の割合は,1位答案・4~5位答案からすれば,1:2あるいは1:2~3程度ということになりそうである。反論を3行書いたら私見は6行程度(あるいは7行以上)書く必要があるということである。

 

ちなみに,やや繰り返しになるが,この割合の問題につき,平成28年採点実感3頁は,「本年は,昨年と異なり,各設問の配点を明示しなかったが,設問1では付添人の主張を,設問2ではあなた自身の見解を,それぞれ問い,検察官の反論については,あなた自身の見解を述べる中で,これを「想定」すればよいこととした。したがって,検察官の反論については,仮に明示して論じるにしても簡にして要を得た記述にとどめ,あなた自身の見解が充実したものになることを期待したものである。この点では,本問は,従来の出題傾向と何ら変わらない。」(下線は引用者)としていることからすれば,例えば,「たしかに,・・・とも思える。しかし,・・・。」という「反論」を明示しないようなスタイルで書いたとしても点数は入るようになっていると思われる。

 

 

3 出題趣旨第6段落の分析

 

さて,以上に述べたとおり,パターンBの骨子・フレームで憲法の答案を書くとして,次に,その骨子の中身となる出題趣旨第6段落について検討する。

 

同段落は,大別して4つの「国の主張」に言及する。

 

まず,〔1〕「妊娠等の自由が憲法上保障されるとしても出入国や国内での滞在は国家主権に属する事項であって,妊娠等を理由に強制出国処分とすることについては極めて広範な裁量が認められること」(下線は引用者,以下の〔2〕~〔4〕についても同じ)についてみる。

 

〔1〕は,「保障」レベルを積極的には争点にしない趣旨に出たものと考えられる。平成28年は「保障」レベルの話も争点となりうるし,23年などは「保障」されるか否かの話が争点の1つとなるものと考えられ,厚く書くべき問題といえるだろうが,平成29年は,これらとは逆に,問題となる自由が憲法上の自由・人権として「保障」される点は争点とはなりにくい問題であったと考えられる。

 

また,〔1〕は,立法裁量や行政裁量が肯定されうる(争点となりうる)事案・場合の問題に参考になるものといえ,(厳格ではない)規範定立の理由に係る主張である。

 

また,「〔4〕妊娠等禁止の条件は事前に周知され,誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく合憲である」との国の主張も,(厳格ではない)規範定立の理由に係る主張である。

 

このように,〔1〕と〔4〕は基本的には,規範(判断枠組み・審査基準・違憲審査基準)定立までの理由(厳格な基準によるべきではないとする理由)に関する国の主張というべきである。

加えて,〔4〕は,規範のあてはめ・適用における規制の相当性(があること・規制が弱いこと)に関わる主張でもあるといえよう。

 

次に,〔2〕「子供が日本で生まれ育つことにより,日本の社会保障制度や保育・教育及び医療サービス等の負担となる可能性があり,また,親である外国人も含め,定住の希望を持つようになる蓋然性があること」についてみる。

 

〔2〕は,規制の効果・関連性の「可能性」や「蓋然性」(規制して意味があるであろうこと)について言及するものであり,参考になる。

 

さらに,〔3〕「新制度は労働力確保のためであり,妊娠等によって相当期間に渡って就労が不可能になるから禁止事項として合理性があること(特労法第15条第6号が1月以上就労しないことを禁止事項としていることも参照。)」について。

 

〔3〕も,規制の効果・関連性がある(規制して意味がある)可能性ないし蓋然性があることについて説明するものといえる。

 

 

4 パターンBによる‘答案枠組み’

 

以上の分析から,自由権の制約が問題となる事例につき,以下の枠内のとおり,パターンB(争点ごとに反論・私見型)による答案(設問1・設問2)の骨子の例を示しておくことにする。

 

判断枠組み・違憲審査枠組みを包含する‘答案枠組み’である,といったら少々大げさだろうか…。

 

第1 設問1

 1 ・・・法●条等の法令違憲の主張(憲法●●条違反)[18]

(1)・・・法(以下「法」という。)●条●項●号[19]は,・・・が・・・する場合に・・・する行為を禁止事項としており,その違反があった場合には・・・という強制措置がと(執)られることとされている(法●●条●項)。では,かかる措置をとることは●●権/●●の自由(憲法(以下法名略)●●条)を侵害しないか。

 (2)本件自由が憲法上保障されること

    ●●条は,・・・ことから,●●権/●●の自由を保障している。

    そして,・・・(という)自由(以下「本件自由」という。)は,・・・であり,・・・といえることから,●●条で保障されるものといえる。

 (3)判断枠組み(審査基準/違憲審査基準)

   ア まず,本件自由は,・・・であることから重要であり,●●権の中でも特に尊重されなければならない。

     また,法●●条は,・・・から,・・・という態様の制約にとどまらず,強制の程度がより大きいものであるといえ,規制の程度は強いことから,●●●●事件とは事案が異なり,国の●●裁量は限定されるべきである。

   イ そこで,・・・といった本件自由につき一定の制限を課す必要があり,このような反対利益への配慮を要する場合であるとしても,その合憲性の判定は,中間審査基準によるべきであり,目的の重要性及び手段の実質的関連性があることを要するものと考える。

 (4)審査基準の具体的な適用

 ア 目的審査 (・・・立法事実がない/十分ではない)

・・・という(更なる)規制は,・・・という従来の規制である直接的な措置と比べて周辺的なものにすぎないものであるから,立法事実が十分であるとはいえず,重要な立法目的とまではいえない。

   イ 手段審査 (・・・関連性なし,相当性を欠く・LRAがあるなど)

     仮に目的が重要だとしても,・・・という事実(事情)に照らすと,当該規制手段が全て・・・(という規制目的)につながるとは限らず,合理性に欠けるものといえる。(・・・目的・手段の関連性がない(乏しい),あるいは,規制手段の実効性を欠く(両者を一言でいえば「意味のない規制」ということ))

    さらに,・・・ことから,規制手段の相当性を欠くし、目的達成のためには,このような規制手段によらなくても,・・・でも足りるといえ,より制限的でない他の選び得る手段(LRA)がある。

    したがって,実質的関連性があるともいえない。

以上より,法は,●●条に反し違憲である。

2 ・・・法▲▲条等の法令違憲の主張(憲法▲▲条違反)

  (基本的には,上記第1の1の構成と同じ)

 

 

 

第2 設問2

1 ●●条の主張について

  (1) 審査基準の厳格さについて

   ア 被告側の/検察官の/国の反論

    まず,・・・ことから,厳格な審査基準を用いるべきではないとの反論が考えられる。

   イ 私見

    しかし,・・・ことから,上記反論は採用できない。

    また,・・・とも思えるが,・・・というべきであるから,上記中間審査基準によるべきと考える。

(2) 目的審査について

 ア 反論

       ・・・ことから,・・・となる可能性があり,目的は重要であるとの反論が考えられる。

 イ 私見

    ・・・との事実からすれば,・・・となる可能性が裏付けられるし,加えて,・・・となる蓋然性があるため,目的は重要であると考える

(3) 手段審査について

ア 反論

     ・・・であるから,規制の相当性を欠くものとはいえず,また,Xの主張する・・・という代替手段は規制の実効性があるとはいえないことから,LRAたりえず,実質的関連性があるとの反論が考えられる。

 イ 私見

    しかし,・・・と比較すると,法の規制は不相当な規制といえ,かかる規制に伴う・・・といった萎縮的効果もあるといえる。

    さらに,上記代替手段は・・・ことから,必ずしも規制の実効性があるとはいえないが,一方で,・・・という代替手段によっても,実効的な規制は可能であるといえるから,LRAがないとはいえない。

    したがって,実質的関連性があるとはいえないと考える。

(4) 結論

    よって,法は,●●条に反し違憲である。

2 ▲▲条の主張について

  (基本的には,上記第2の1の構成と同じ)

 

 

                              以上

 

 

5 考査委員が記した「希望」に関して

 

考査委員は,出題趣旨第6段落〔2〕で「親である外国人も含め,定住の希望を持つようになる蓋然性がある」とし,関連性あるいは規制の実効性の点についてコメントしている。

 

どのような形であれ,考査委員が「希望」に言及した例はこれが初めてではなかろうか。出題趣旨が公表された時期等からすれば,先見の明(?)があったというべきかもしれない。

 

いずれにせよ,少なくとも,考査委員のいう「希望」は,有用で具体的な中身があるもののようである。

 

本ブログは,どうだろうか。

 

司法試験受験生にとって,中身のあるもの,すなわち,合格への「希望」を見出す,あるいはそのきっかけとなるような内容になっているだろうか。

 

 

__________________

[1] 過去の採点実感でも同様の指摘がある。例えば,「被告側の反論が全く論じられていない答案もあった。問題文をきちんと読んでいないことがうかがえる。」(平成23年採点実感3頁)というものである。

[2] 辰已法律研究所『平成28年司法試験論文合格答案再現集 上位者7人全科目・全答案』(平成28年)(以下「上位本」と略す。)2~4頁,辰已法律研究所,西口竜司=柏谷周希=原孝至(監修)『平成28年 司法試験論文週去問答案 パーフェクトぶんせき本』(辰已法律研究所,平成29年)(以下「ぶんせき本」と略す。)32~37頁。

[3] 上位本70~72頁,ぶんせき本38~41頁。

[4] 平成28年の「〔設問2〕」は,「〔設問1〕で述べられたAの付添人の主張に対する検察官の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。」であり,平成29年の「〔設問2〕」は,「〔設問1〕で述べられた甲の主張に対する国の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。」である。このように両者は同一の形式を採る。

[5] 他のパターンもあるかもしれないが,大別すると,この2つのパターンを挙げることができると考える。

[6] 小タイトルは「検察官の反論」である。また,1位答案は,ア・イ・ウという,さらに下位のナンバリングをしていない。ただし,段落を変えていることに加え,接続詞やこれに準じるもの(「まず」「また」「そして」「この点については」など)を書いていない点も参考になるだろう。

[7] 1位答案は,緩やかな審査基準(合理性の基準など)の内容を具体的に明記しているわけではなく,理由のポイントを書いて「原告のいうほど厳格に審査をする必要はない」(ぶんせき本34頁)との記載にとどめている。なお,平成26年採点実感7頁によると「審査基準を『やや下げて』とか,『若干緩めて』といった記述が見られたが,判例や実務でこのような用語を使うかは疑問である。」とされているので,要注意である。

[8] 実際の正確な行数は分からない。文字の大きさ,書き方のクセなどによって多少行数は変わるだろう(例えば,ぶんせき本の場合,3行で表記されている部分が実際の答案では4行で書かれているということもありうると思われる)。

[9] 1位答案は,目的審査の部分で「立法事実」の存否・程度の検討をしているところ,これは,芦部信喜高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)226頁と同様の立場(判例の理解)を採るもの思われる。法規制をしなければ弊害が生じるという因果関係立法事実によって合理的に裏付けることができるか否かのあてはめは,手段審査ではなく目的審査の中で検討されるべきであろう(同文献227頁参照)。

[10] 上位本7頁では3行であるが,ぶんせき本では2行となっている。上位本の方が,より正確であると思われるため,(ぶんせき本と行数が異なる場合には)上位本の行数の方を表記することとした(5位答案にいても同様)。

[11] 小タイトルは「私見」である。また,1位答案は,「(2) 私見」の部分でも,ア・イ・ウという,さらに下位のナンバリングをしていない。ただし,段落を変えていることに加え,基本的には,接続詞やこれに準じるもの(「まず」「また」「そして」「この点については」など)を書いていない点も参考になるだろう(一か所だけ「また」が登場する)。

[12] 8行書いており,「見せ場」を作っているといえる。

[13] 目的審査については,13条の主張と共通するものとし,22条の主張では,争点から外されているため,書かれていない。

[14] 5位答案は,「第2」と「1」・「2」・「3」のレベルまでしか,タイトルが付されておらず,「(1)」レベルや「ア」レベルはタイトルが付されていない。ゆえに,「審査基準の厳格さについて①」といった小タイトルは,本ブログ筆者が便宜上付したものである。

[15] 5位答案は「ア」「イ」のレベルまでナンバリングを付している(ただし,前注のとおり,小タイトルを付しているわけではない)。

[16] 5位答案は,「第2」と「1」・「2」・「3」のレベルまでしか,タイトルが付されておらず,「(1)」レベルや「ア」レベルはタイトルが付されていない。ゆえに,「審査基準の厳格さについて①」といった小タイトルは,本ブログ筆者が便宜上付したものである。

[17] 5位答案は,設問1で目的審査については,つまるところ合憲としてしまっているので(上位本70頁,ぶんせき本38頁),設問2で目的審査は行っていないということのようである。このような構成も答案政策としては(本問でそうすべきか否かはともかく)有用な場面もあるかもしれない。

[18] 第1の1は,2017年10月9日ブログの「冒頭パターン」の「2文パターン」によっている。

[19] 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(以下「実感」と略す。)3頁は,「条例第4条の第1号ないし第3号,あるいは第3号のイ及びロにつき,それぞれを適宜区別しながら審査しているものが見られた点は評価できる一方で,特に第3号のイ及びロについて,全てまとめて一つの審査をしているものがあり,気になった。」としている。そこで,法令違憲の主張をする際には,項数や号数等(複数ある場合は複数)まで特定すべきであろう。また,このことは処分違憲の主張の場合であっても同様であるように思われる。

ちなみに,行政法の答案で号数等までしっかり書くべきことは,次の①~③とおり,もはや受験生の間では殆ど常識となっているように思われる。①「条文の引用が正確にされているか否かも採点に当たって考慮することとした。」(20年実感5頁)/②「条文を条・項・号まで的確に挙げているか,すなわち法文を踏まえているか否かも,評価に当たって考慮した。」(21年実感5頁)/③「関係法令の規定に言及する場面で,単純な文理解釈を誤っている答案や,条文の引用が不正確な答案(項・号の記載に誤りがあるなど)が少なくなかった。また,関係しそうな条文を,よく考えずに単に羅列しただけの答案も散見された。このような答案は,条文解釈の姿勢を疑わせることになる。」(25年実感6頁)

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

 

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その4 出題趣旨と「人権パターン」の関係

平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨(以下,単に「出題趣旨」ということがある。)についての感想のつづきである。

 

前回までに,同出題趣旨の第1・2・5段落の感想を述べた。

 

前回のブログでは,最後の方で,司法試験論文憲法で,「冒頭パターン」を活用し,その後,「人権パターン」の流れに乗った答案を書けば,スムーズに答案を書くことができる(答案構成もし易くなる)だろうとし,さらに,出題趣旨と「人権パターン」との関係については,次回言及するなどと述べた。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 そこで,今回のブログでは,出題趣旨第3段落及び第4段落の感想を述べ,「人権パターン」の規範(判断枠組み・違憲審査枠組み)定立部分とあてはめ部分(設問1まで)の話をすることとしたい。

かなり長くなるが,受験生にとって有益なものとなれば幸甚である。

 

〔出題趣旨第3段落(下線,〔1〕~〔4〕は引用者)〕

〔1〕①の自己決定権の侵害については,まず,自己決定権が憲法上保障されるか,そして,その自己決定権に妊娠等の自由が含まれるかということが問題となる。さらに,妊娠等の自由が自己決定権に含まれるとしても,本問のBが外国人であることから,別途の考慮が必要となる。〔2〕この点については,マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁)及びそこで示された権利性質説が直ちに想起されることだろう。そして,権利性質説からすれば,妊娠等に関わる自己決定権は外国人にも保障されるということになろう。〔3〕しかし,注意すべきは,同判決が,外国人に対する人権保障は「外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」として,人権として保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情として考慮されることはあり得るとしていることである。〔4〕外国人の出入国及び在留に関わる問題に関しては,単純な権利性質説に基づく議論では不十分である。

 

 1 1~2文(2~4行程度)で書くべきサブ論点

 

第1~2文等から,

①自己決定権が憲法上(憲法13条後段に基づき)「保障」されるか,

②その自己決定権に妊娠等の自由が含まれるか,

そして第3~4文も合わせて読むと,

③妊娠等の自由が外国人にも,「権利の性質」上「保障」されるか,

という3つの論点については,簡潔に触れることが求められている[1]と考えられる。

 

なぜなら,出題趣旨第4段落の「一例」の記載と関連する論点である<④妊娠等の自由が外国人にも保障されるとして,どの程度保障されるべきものか(外国人の人権の保障の程度論)[2]>とは異なり,特に,出題趣旨において考査委員による具体例を用いた説明がない[3]からである。

 

つまり,①~③の論点は,1文あるいは2文短く書くべき論点といえよう。

書かないと基礎が分かっていないと判定されるが,決して時間を使ってはならないという類の論点である。メインの論点(<メイン論点>)ではなく,サブの論点というべきである[4]

答案構成の段階で<サブ論点>には「サ」などの印を書いておくと良いだろう。

 

ちなみに,このような論点に時間を(必要以上に)消費する受験生がいるが,そのような受験生は①~③の論点を「ワナ」の論点,<ワナ論点>と位置付け,注意すべきであろう。憲法論文が苦手な人にとって<サブ論点>は<ワナ論点>となり易いのである。

 

なお,出題趣旨第3段落(特に下線部分)からすれば,外国人の在留の権利(在留権の保障を論点として展開すべきではなく,その代わりというわけではないだろうが,いずれにせよ,後述する人権の「保障」の話を書く段階で,外国人の「在留に関わる問題」であることに言及すべきであるといえよう。

 

つまり,在留権を大展開した,あるいは在留権の「保障」論からスタートしたような答案は,基本的にはNGの構成ということになるだろう。

 

 

2 「人権パターン」による答案でもOK

 

ところで,出題趣旨第3~4段落の内容からすると,おそらく考査委員は,今をときめく「三段階審査」の立場ではない,「人権パターン」[5]による答案を書くことを許容していると考えられる。

 

つまり,(A)「保護」→「制約」→「正当化」(比例原則を中心とするあてはめ)の三段階審査論によらなくても,(B)人権パターンによる型に乗せ,人権主体論→「保護」論→保護の「程度」論→審査基準論(違憲審査基準等のあてはめ)という流れで答案を書いてOKとしているように思われ,出題趣旨からすれば,むしろ(B)の方が良いのではと思われる。

 

とはいえ,疑問点あるいは注意点が2つある。

 

第1に,出題趣旨第3段落からすれば,人権パターンで一番最初に書く(ことが多いと考えられてきたように思われる)[6]「外国人」の人権共有主体性の話は,一番最初に書くわけではなく,上記③の論点の段階で書くべきではないのかという疑問点を挙げられよう。

 

この記載の順序の点につき,平成30年司法試験で再度外国人の人権が出る可能性はかなり低いだろう[7]が,仮に再度出た場合には,③の段階で外国人の人権共有主体性の議論を始めた方が無難であると思われる。採点委員としては出題趣旨と同じ順序での論述がなされている方が良い印象を持つと思われる[8]からである。

(ただし,マクリーン事件の判旨[9]からすれば,最初に人権共有主体性の話を書いても問題は殆ど減点されるということはないだろう。)

 

そして第2に,「人権パターン」の「保護」論の後の,保護の「程度」論のところで,「制約」の態様・程度(強度)の話を書いておくべきであるということである。このことについては,後述する「立論」の「一例」の部分でも解説する。

 

ちなみに,宍戸常寿教授は,平成25年の著書[10]で,次の枠内のとおり述べている。

 

学説では、裁判所が人権制限の合憲性を判断する基準を準則化する立場(二重の基準論、違憲審査基準論)が広く支持されている。他方、最近では、各人権条項がいかなる自由・利益を保護するか、憲法上保護された権利の制約があるか、その制約は憲法上正当化されるかという3段階の審査により人権制限の合憲性を判断すべきであり、特に最後の正当化の審査段階では、比例原則を中心に判断すべきだとの立場も、説かれるようになっている。もっとも、両者の立場は実際には相当程度重なり合っているとの指摘もみられる。

 

最後の一文にあるところの違憲審査基準論と三段階審査論が「両者の立場は実際には相当程度重なり合っている」とする指摘は(賢明な受験生はよく知っているとおり)重要である。

そのため,違憲審査基準論で三段階審査に比べると十分に(あるいは体系的に)意識されてこなかったものと思われる「制約」の態様・程度(強度)話を,人権パターンにおける保護の「程度」論のところで明記しておくべきと考えられる。

 

なお,このことは次の第4段落第2文(「立論」の「一例」)の〔2-2〕のの記述からも裏付けられるものと思われる。

 

〔出題趣旨第4段落(下線,〔1〕~〔3〕は引用者)〕

〔1〕B代理人甲としては,マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,本件のような場合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。〔2-1〕様々な立論があり得るだろうが,飽くまで一例ということで示すとすれば,まず,妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であり,また,人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,新制度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。),自己決定権の中でも特に尊重されなければならないこと,また,〔2-2〕本件が,再入国と同視される在留期間の更新拒否ではなく,強制出国の事例であって〔2-3〕マクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘して,立法裁量には限界があるとして〔2-4〕中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)によるべきだという主張をすることなどが考えられる。〔3-1〕その上で,例えば,規制目的は定住を促す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹底することであり,これは,滞在期間を限定し,永住や帰化を認めないという直接的な措置と比べて周辺的であり,重要な立法目的とまでは言えないこと,〔3-2〕仮に目的が重要だとしても,妊娠等が全て定住につながるとは限らず,合理性に欠けることなどを指摘することが考えられる。

 

 

3 規範定立と規範の理由3つ(出題趣旨第4段落〔1〕・〔2〕)

 

上記〔2-1〕以下では,「あくまで一例」ということで立論の例を挙げているが,この部分は大変重要である。あくまで一例と強調しているからといって,受験生としては,決して軽く読んではならない。殆ど答案例が示されているといってもよい極めて重要な部分である。

 

メイン論点が人権保障の「程度」論であることを示すとともに(これは明らかであるが),何と考査委員自身が,いわば,理想の(これを100点というかどうかはさておき)解答例を示したものに等しい(あるいはそれに近い)論述だからである。

 

しかも,〔2-1〕~〔2-4〕が受験生にとって有難いのは,一応制限時間内に「書ける」分量で書かれていることである。ゆえに大いに参考にすべきであり,十分な分析が必要となる。

 

(1)〔2-1〕人権の「重要」性論・・・判断枠組みの理由その1

 

人権の保障の程度論では,判断枠組みの理由付けを3つ書き,その上で,判断枠組みを選定することになる。

 

この理由の1つ目として,〔2-1〕部分は,人権保障の程度論の段階で,まず,①「妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であ」ること,②「人生においても妊娠等ができる期間には限りがあ」ることの2つのことから,人権(自由)の重要性[11]が高い旨述べている。

 

人権・自由の重要性については,単に「重要」(が高い)と答案に書くのではなく(それでも多分OKだろうが),上記〔2-1〕のとおり,●●権「の中でも特に尊重されなければならない」と書けば良いのである。

キーワードは,<特に尊重>である。

 

ちなみに,上記〔2-1〕は,「妊娠」「出産」の評価として,①「本人の人生にとって極めて重要な選択」とか②「人生」における「限り」のある(短い)期間というものを書いているが,受験生の皆様はどう感じるだろうか。

 

簡単に書けると思うのではないだろうか。

 

個人的には,もう少し具体的に書いた方が良いと思われ,例えば,①については,①´前者妊娠・出産は,妊娠した者の人生観やライフスタイル・暮らしそのものを大きく変えうることの決定に関する事項であり,人格的生存の根幹にかかわるものであるから,「本人の人生にとって極めて重要な選択」であるなどと書くべきではないかと考えられる。

 

つまり,時間不足に陥るリスクもあるので,長々と書く分は減らした方が良いが,このようなメイン論点では,人権の重要性について具体的に書くなど「見せ場」を作ると良いと思われる[12]。さらにいえば,人権の重要性の話では,短答式試験で押さえた知識と社会常識を活用し,上記①´のような具体的な記載をすることで答案の「見せ場」を作ることが比較的容易であるといえよう。

 

ちなみに,この人権の「重要性」論に関し,平成28年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(以下「平成28年実感」という。)1頁の「2 総論」部分は,次の枠内の記載のとおり述べており(〔1〕~〔8〕,下線は引用者),〔2〕の部分で人権の「重要性」論に言及している。

 

・本問では,〔1〕架空の性犯罪継続監視法がいかなる憲法上の人権をどのような形で制約することになるのかを正確に読み取り,〔2〕被侵害利益を特定して,その重要性や〔3〕規制の程度等を論じて〔4〕違憲審査基準を定立し,問題文中の事実に即して適用するなどして結論を導かねばならない。〔5〕その際,当該権利(自由・利益)を憲法上の人権として保障すべき理由,〔6〕これに一定の制限を課す必要がある理由反対利益への配慮),〔7〕これらを踏まえて当該違憲審査基準を採用した理由,〔8〕同基準を適用して合憲又は違憲の結論を導いた理由について,いかに説得的に論じているかが,評価の分かれた一つのポイントとなる。

 

(2)〔2-2〕制約の態様・程度論・・・判断枠組みの理由その2

 

出題趣旨第4段落〔2-2〕及び平成28年実感〔3〕のとおり,判断枠組みの理由付けとして,さらに,制約(規制)の態様・程度(強度)について書く必要がある。

 

型は,<●●●●という(弱い)態様の制約にとどまらず,強制の程度が(より)大きい●●●●の事案である(こと)>といったもので良いだろう。

 

ちなみに,〔2-2〕では,特に表現の自由で登場するところの事前規制[13]・事後規制,内容規制[14]・内容中立規制[15]という規制態様に係る類型論には(少なくとも直接は)触れていない点にも注意する必要があるだろう。更新のタイミングで日本から出ていけと言われるのか,更新のタイミングが未だ到来していないのに出ていけと言われるのかは違うという〔2-2〕の主張は,強いていうならば,事前・事後規制の応用ということになるかもしれない(この点については自信はないが…)。

 

(3)〔2-3〕当該判断枠組みの採用理由(「事案が異なる」など)・・・判断枠組みの理由の〆のワード

 

〔2-2〕及び平成28年実感〔7〕からすれば,判断枠組みの理由付けの〆の部分のキーワードの1つとして,「事案が異なること」を書くと良いだろう。もちろん,そのキーワードの前の論述を「一例」のようにしっかり書いておく必要がある。型は次のとおりとなる。

 

<〔2-1〕(人権の重要性)〔2-2〕(制約の程度等が強いこと)(など)に照らせば,●●●●事件とは事案が異なることから,・・・>

 

ちなみに,マクリーン事件の判断枠組みによる場合には,(広い)裁量を前提とする裁量権逸脱濫用の規範による判断の中で憲法論が論じられることになるところ,このような緩やかな規範を示す判例(出題趣旨等で明示又は黙示に書かれるような)関連判例である場合には,少なくとも原告(被告人)側の主張(設問1)では,その判例の規範を使わないようにすべきである[16]

 

そこで,裁量を前提とする判例の場合,<立法/行政裁量は限定されるべき>というワードもまた,判断枠組みの理由付けの〆の部分のキーワードの1つとなるものといえよう。(なお,この点につき,下記(5)参照)

 

(4)〔2-4〕規範(判断枠組み・違憲審査枠組み)の定立(審査基準論)

 

上記(3)のとおり,判例の規範が緩やかであり,判例の規範を使わない場合には, <上記判断枠組みの理由(上記(1)・(2),下記(5)の3つの理由)に照らし,●●●●事件とは事案が異なることから>などと書き,規範=判断枠組み=違憲審査枠組みを設定すると良い[17]

 

〔2-4〕では,判断枠組みとして,審査基準論における「目的の重要性,手段の実質的関連性」を審査する「中間審査基準」を採用すべきだという主張をすべきとしている。

 

異論もあるところとは思うが,「中間審査基準」の場合には,目的は「正当」よりも「重要」とする方が出題趣旨に合っているし,「合理的関連性」ではなく「実質的関連性」としている点も同じである[18]

 

(5)補足1:制限を課す必要がある理由・・・判断枠組みの理由その3

 

平成28年実感〔6〕は,個人の人権・自由についての「一定の制限を課す必要がある理由(反対利益への配慮)」に言及する。これは,上記(1)の人権の重要性(いわば人権のプラス面[19])とは逆の,他者の人権や公益を制約する弊害的な性格(いわば人権のマイナス面)が小さいか大きいか(すなわち,当該人権の制約の本来的可能性[20]が低いか高いか)というものであり,平成28年実感は,判断枠組みの理由付けとして,必要に応じてこのマイナス面を(も)答案に書いて欲しいと述べているものといえる。

 

そのため,<人権につき一定の制限を課す必要がある>というキーワードは正確に記憶しておいて答案で適宜書けるようにしておくべきである。

 

ちなみに,「立法裁量」または「行政裁量」が認められる(広いとはいえなくても肯定される)こと(その裁量肯定の根拠・理由)は,「上記一定の制約を課す必要がある理由」になると思われる。このことからすれば,〔2-3〕ではマイナス面に言及していることになるから,「厳格審査基準」ではなく「中間審査基準」ということになるのである[21]

 

(6)補足2:平成28年実感〔1〕等の説明

 

平成28年実感の〔1〕は,前回のブログの「冒頭パターン」を意味し,同〔5〕は,「人権パターン」における「保障」レベルの話に言及する部分である。

 

 

4 規範のあてはめ(出題趣旨第4段落〔3〕)

 

出題趣旨第4段落〔3〕は,「例えば」として,規範へのあてはめの一例を挙げた部分である。先の「一例」のところでも述べたとおり,「例」は決して軽視してはならない。

 

「『一例』を笑うものは『一例』に泣く」と肝に銘じ,考査委員の示す「例」を穴が空くほどよく読み,精密な分析を行うべきであり,その際に本ブログが参考になれば望外の喜びである。

 

さて,この部分を読み,少なからず‘違和感’を覚えたのは私だけだろうか。というのも,目的審査の記載(〔3-1〕)の方が手段審査のそれ(〔3-2〕)よりも長かった(約2倍の分量)からである。

 

このことに関し,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(以下「平成20年実感」という。)4頁は,「〔①〕必要不可欠の(重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,〔②a〕厳密に定められた手段といえるか,〔②b〕目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,〔②c〕規制手段の相当性,〔②d〕規制手段の実効性〔②e〕等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体的に検討すること」を求めている。

 

この記載は,平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(補足)2頁でも繰り返し言及されており,「審査基準の下で目的手段審査を行う場合」(同頁)における目的審査のキーワード(上記①)及び手段審査のキーワードと考慮事項を示したもの(上記②a~②e)であるため,採点実感の中でも特に重要なものといえる。

 

そして,平成20年実感4頁の上記記載などからすれば,司法試験では,通常は(多くの場合は,というべきか)手段審査の方が検討事項が多いものといえることから,普通は,手段審査のあてはめの記載が長くなるはずである。

しかし,出題趣旨第4段落〔3〕はその逆であったため,ある種の違和感を覚えることとなった。

 

とはいえ,考査委員としては,(事案にもよるが)目的審査にも点を振っておくからちゃんと書いてくれとコメントしているものと思われる。そのため,例えば,設問1(原告(被告人)の主張)で「…であるから,目的は重要といえる」などと簡単に書かない方が無難と考えられよう(事案にもよるが)。

 

以上のとおり,違和感が解消されたか否かよくわからないが,とにかく前に進む[22]こととする。

 

(1)目的審査のあてはめ(中間審査基準を採用する場合)に関して

 

〔3-1〕は,「規制目的」が①「定住を促す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹底すること」(下線は引用者,以下同じ)であり,これは,②「滞在期間を限定し,永住や帰化を認めないという直接的な措置と比べて周辺的」であり,③「重要な立法目的とまでは言えない」ものであるとしている。

 

この部分は(も)大いに参考になる。

 

なぜならば,司法試験の自由権規制の問題では,これまでの法律を新たな架空の法律や条例(条例の場合,上乗せ・横出し条例)をもって規制を厳しくするという類のものがしばしば出題されるところ,そのような問題では,<●●●という更なる法的規制は,●●●という従来の規制である直接的な措置と比べて周辺的[23]なものにすぎないものであるから,(大きな意義を有するものではなく,ゆえに)重要な立法目的とまでは言えない>という型が通用する場合が多いと考えられるからである。

 

あえて平たく言うならば,「ダメ押し」の規制目的は,「周辺的」な規制目的にすぎないから,大したイミがない!重要じゃない!ということだろう。

 

このように書くと論証パターンのような型を提示しているなどと言われそうだが,参考にするのは法務省が公表する出題趣旨であって,その記載を参考にするなというのは信義則違反となる行為といえるだろうから,上記のような型を答案作成の際に適宜(必要に応じて)参考にするのは悪いことではなかろう。

 

(2)手段審査のあてはめ(中間審査基準を採用する場合)に関して

 

次に,〔3-2〕は,「仮に目的が重要だとしても,」(下線は引用者,以下同じ)と前置き[24]をした上で,「妊娠等が全て定住につながるとは限らず合理性に欠けることなど」を指摘することが考えられると述べている。

 

思わず「え…,いや,あの,そっ……それだけですか?」などと口走ってしまった受験生[25]は,出題趣旨,採点実感等をかなり分析している人かもしれない。

 

というのも,「妊娠等が全て定住につながるとは限ら」ないとの記載は,平成20年実感の〔②b〕目的と手段の実質的関連性がないことについて言及しただけの記載であり,他の考慮事項の具体例については(少なくともこの第4段落では)一切書いてくれていない[26]からである。

 

とはいえ,〔3-2〕から,<仮に目的が重要だとしても,●●という事実に照らすと,当該規制手段が全て●●(という規制目的)につながるとは限らず,合理性に欠けるものであるから,実質的関連性はない>といった型を見出すことができるだろう。

 

なお,上記の型で「合理性」という用語が登場するところ,考査委員は,実質的関連性の基準のあてはめ(手段審査)であるにもかかわらず,「合理性の基準」でも用いられる「合理性」を使っており,問題があると思う受験生もいるかもしれない。

 

しかし,おそらく問題はないだろう。

 

薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日)が中間審査基準を採用したものか否かは争いがあるところではある[27]が,同判決は,手段審査のあてはめのところで,「設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは, 目的と手段の均衡を著しく失するものであって, とうていその合理性を認めることができない」(下線は引用者)としていることからすれば[28],司法試験論文でも中間審査基準の手段審査のあてはめで「合理性」という用語を使うのはOKだろう(ただし,平成30年の採点委員が平成29年の出題趣旨等をしっかり読んでいる限り,という留保をつけておく)。

 

最後に,平成20年実感②の手段審査a~eについて補足しておこう。

 

まず,b.目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無については,

上記の型で書けば良い。

 

次に,c.規制手段の相当性と,d.規制手段の実効性であるが,これらは,LRAを論じる際に,セットで書くべきものといえよう。LRAは,規制「目的を達成するため規制の程度のより少ない手段」[29]であり,c.の相当性に加えて,d.の実効性があることも前提とするものといえるからである。しばしば実効性の点を(殆ど)考えることなく答案を書く受験生がいるが,平成20年採点実感などからすれば,早く改善すべきことといえよう。

 

残ったのは,

a.厳密に定められた手段といえるか

e.等

の2つである。

 

まず,a.につき,元考査委員の文献[30]が「『厳格審査の基準』も,違憲という結論に直結した硬直した審査基準として捉えていない。『必要不可欠な公益』に仕える目的であるか否か,そして手段が目的達成のために『綿密に規定されている』(narrowly tailored)か否かを事案に即して個別的・具体的に検討しなければならない」としている。」としていることに照らすと,「厳密に定められた手段といえるか」とは厳格審査の手段審査のあてはめ(あるいはその要素)について言及したものと考えられる(これは上記(2)の小タイトルとはズレる話だが,ご容赦いただきたい)。

 

次に,e.である。出題趣旨を読む際は特に,「等」の内容についてもできる限り検討しておいた方がよいだろう。

 

「等」には,合理性の基準を採用する場合の手段審査の考慮事項(あてはめの要素)が含まれうるが,ここでは,中間審査基準の考慮事項としてさらに書きうる(と考えられる)ものを1つだけ挙げておきたい。

 

それは,手続の適正担保されていることである。

 

この考慮事項に関し,最一小決平成8年1月30日(宗教法人オウム真理教解散命令事件)は,「本件解散命令は,法81条の規定に基づき,裁判所の司法審査によって発せられたものであるから,その手続の適正も担保されている」(下線は引用者,以下同じ。)とし,「以上の諸点にかんがみれば,本件解散命令及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は,憲法20条1項に違背するものではないというべきであ」ると判示している[31]

 

このように,判例は精神的自由権の1つである信教の自由の違憲審査において(31条等の違憲審査においてではない),処分の手続の適正さが担保されていることを考慮事項の1つとしているのであるから,司法試験でも,精神的自由権では同様の考慮事項を考慮して構わないものと思われる。

 

 

5 判例の規範を活用する場合も十分な理由付けを書くこと

 

以上,(規範が緩やかと解される)判例の規範を活用しない場合について書いてきたが,このことは,判例の規範を活用する場合(自由権違憲審査の場合)も同様であると考えられるので,あと少し続ける。

 

すなわち,<①人権の重要性の程度,②制約の態度・程度(強弱),③人権につき一定の制限を課す必要があるか(その程度)に照らすと,●●●●事件とは事案の本質的部分が共通するものといえる。そこで,・・・・・・(:同事件の判例の規範)によるべきである。>などといった型で書くべきである。

 

つまり,漫然と人権・論点が一緒だからという理由で,十分な理由付けを書くことなく,判例の規範を採る旨書いてはならないということである。

 

平成30年は,設問1から(比較的厳格な)判例の規範を採って答案を書いていくような問題(平成22年の選挙権,平成26年のタイプ[32])が出る可能性が高いものと思われる。4年スパンとすれば,平成30年は丁度出題される頃だろう。

 

 

6 出題趣旨と向き合おう

 

以上,出題趣旨第3段落及び第4段落,とりわけ考査委員の示す「一例」や「例え」の部分についての感想を述べてきた。これらの感想は司法試験受験生が出題趣旨を「分析」する際に参考にしていだきたい。

 

今年,残念ながら不合格となってしまった方にとって,その年の問題の出題趣旨の分析は,辛い作業かもしれない。

私にもその経験があるから,少しは気持ちが分かる。

 

しかし,「コンプレックス」をも「モチベーション」に変えるつもりで[33],分析を進めてほしいと思う。

 

 

「腑甲斐無い自分に 銃口を突き付けろ」[34]

 

 

 

___________

[1] ちなみに,出題趣旨等でも,「求められ(てい)る」と「期待され(てい)る」という用語の使い分けがなされる。後者は加点事由に係る事項ということになるが,仮に多くの受験生が書いてくると(司法試験は相対評価であるから)実質的には基礎点的なものに関する事項というものになるだろう。

[2]  芦部信喜高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)92頁は,「問題は、いかなる人権がどの程度に外国人に保障されるのかを具体的に判断していくことである。」とする。

[3]  「一例」がある部分と,ない部分とでは,基本的には,論点の重要度が客観的に異なるものと考えるべきである。

[4] 誤解しないでほしいが,一般的に人権・自由の保障レベルの話がメインの重要な論点とされないという意味ではない。現実に,このレベルの話がメインの論点となる年は少なくない(出題趣旨や上位再現答案等に照らせば,23年,25年(教室使用の自由を23条で構成する場合),28年など)。

[5] 「人権パターン」については,前回のブログ(2017年10月9日)で簡単な説明(紹介)をした。

[6] マクリーン事件最大判昭和53年10月4日)の判示に照らしてみてもそういえるだろう。司法試験受験生は,さしあたり長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下「百選Ⅰ」と略す。)4頁〔愛敬浩二〕の判旨(ⅲ)部分を参照されたい。

[7] しかし,予備試験では十分出題されうるだろう。

[8] この論述順序の点について,特に実務家委員は,特段の事情のない限り(おそらくマクリーンの判示の順序がどうだとかそういった点についてのこだわりをもっていないと思われるので)「出題趣旨」記載の順序に従って論述されている答案に好印象を抱くと考えられる。

[9] 愛敬・前掲注(6)4頁。

[10] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 1 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)117頁〔宍戸常寿〕。

[11] 青柳幸一『憲法』(尚学舎,2015年)87頁参照。

[12] とはいえ,「見せ場」を作ろうとして失敗するというリスクがあることは否定できない。もっとも,司法試験論文はリスクとの戦いの連続と言っても良い。リスクを避けて答案を書くべきとき(「守り」の答案)もあれば,あえてチャレンジしてみるべきとき(「攻め」の答案)もあるだろう。

[13] 芦部・前掲(2)198頁(事前抑制の理論)参照。

[14] 芦部・前掲(2)195頁。

[15] 芦部・前掲(2)196頁。

[16] ただし,これは自由権侵害の主張の場合である。憲法25条1項違反の主張の場合,別途検討を要する。

[17] ちなみに,出題趣旨第4段落〔1〕は,要するにマクリーン事件判決の規範を外し,別の規範を立てるべきとの主張をするとよいと述べるものである。

[18] 司法試験論文憲法との関係では,他説を採用するのは止した方がよいだろう。なお,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁も,「中間審査基準における目的審査で『正当な目的』とするのは誤りである。中間審査基準では,『重要な目的』であることが求められる。」と断じている。

ちなみに,同頁が「厳格審査の基準であるのか,それとも審査基準が緩和されるのか等について,論ずる必要がある」としていることからすれば,審査基準の厳格度を「上げて」とか「下げて」とか書くよりも(このような書き方はNG),<厳格審査基準を緩和した基準によるべきであり,中間審査基準により判定する>などと書くとよいだろう。

[19] なお,平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨2頁「ユーザーにとっての利便性の向上等は,情報提供側〔引用者注:原告側のこと〕のプラス面として挙げることができる」と述べており,「プラス面」という用語を使っている。

[20] 青柳・前掲注(11)87頁参照。

[21] 司法試験では,設問1段階から,あえて「中間審査基準」で書くというのは(私は)答案政策上,良いことであると考えている。①原告(被告人)側の主張で,あえて最初に「確かに」としてマイナス面などを書いておくと,かえって自分の弱点を認識している(そしてその部分をフォローしている)点で印象が良くなる場合が多いと思われること,②その弱点(双方に弱点がある。弱点のない事案はでない)が事案の特殊性であり,出題者が気付いて欲しい部分であることが少なくないと思われること,③私見では厳格審査基準は採り難いが,(別の理由を付して・加えて)中間審査基準(同じ規範)を取れば省エネ答案となる上,設問2のあてはめが設問1のそれとかみ合ったものとなりやすくなる(あたかもかみ合っているように読まれ易くなる)ことなどがその理由である。

 なお,平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁は,「『厳格な審査が求められる』と一般的な言い回しをしながら,直ちに『厳格審査の基準』あるいは『中間審査の基準』と書くことには,問題がある。合理性の基準よりも審査の厳格度が高められるものには,『厳格審査の基準』と『中間審査の基準』とがあるので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要である。」(下線は引用者)としており,この指摘にも注意を要する。

[22] ちなみに,司法試験論文の問題文の誘導(会話文)で意味が分からないと思ったときも,とりあえず次の会話等を読めばその前の文の意味が分かるときもある。とはいえ,会話文は特に重要であるから,適宜立ち止まって考えれるべきときもある。このように,司法試験論文には「人生」が凝縮されているというと言いすぎだろうか。

[23] 「周辺的」を「補充的」などと言い換えてもいいかもしれない。

[24] この前置きの記載もぜひ真似して欲しい。司法試験論文憲法の答案で重要な記載の1つであり,代理人(弁護人)としてのスピリットを感じるものといえよう。法曹適格を推認させる記載と言うとやや言いすぎかもしれないが…。

[25] 大黒摩季の「チョット」(1993年)のイントロが頭の中で流れた,これを歌い出しそうになった,又は「チョット待ってよ…」と歌ってしまった受験生についても同様である。

 なお,この選曲につき時代錯誤だと思う人は,より時代錯誤な(中世の人のような意識をもった,特に高齢の)政治屋の方々をまずは批判されたい。批判の方法はいくつかあるが,とりあえず選挙権の行使という方法を挙げることができる。

 雨が降っても投票に行こう。

[26] ただし,出題趣旨第6段落の記載からすれば,他の考慮事項のことも読み取れるように思われるが,この点については次回のブログで感想を述べる予定である。

[27] この点に関し,平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁は,薬事法違憲判決(最高裁)の「判断枠組みが『中間審査の基準』(厳格な合理性の基準)を採用した判決と解するのか,それとも事実に基づいて個別的・具体的に審査した結果,違憲という結論も導かれる『合理性の基準』を採った判決と捉えるのか検討する必要がある」と述べている。

[28] 司法試験受験生は,さしあたり百選Ⅰ206頁〔石川健治〕の判旨(ⅸ)を参照されたい。

[29] 芦部・前掲注(2)210頁。

[30] 青柳幸一「審査基準と比例原則」戸松秀典=野坂泰司『憲法訴訟の現状分析』(有斐閣,2012年)140頁。

[31] 司法試験受験生は,さしあたり百選Ⅰ90頁〔光信一宏〕の判旨(ⅱ)・(ⅲ)を参照されたい。 

[32] ただし,平成26年については議論があろう。

[33] Mr.Children「I’ll be」(同『DISCOVERY』(1999年)の7曲目)の歌詞「コンプレックスさえも いわばモチベーション」参照。

[34] Mr.Children・前掲注(33)。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の「冒頭パターン」

平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨についての感想のつづきである。

 

前回は,同出題趣旨の第1段落の感想を述べた。

   

yusuketaira.hatenablog.com

 

そこで,今回のブログでは,同出題趣旨の第2段落(及び第5段落)の感想を述べることとする。

 

〔平成29年司法試験論文憲法・出題趣旨第2段落〕

本問での主な論点は,問題文にもヒントがあるように,①妊娠・出産(以下「妊娠等」という。)を滞在の際の禁止事項とし,違反があった場合には強制出国させることが,自己決定権(憲法第13条)の侵害ではないか,②令状等なくして収容を認めることが人身の自由や適正な手続的処遇を受ける権利(根拠条文は立場によるが,憲法第13条,第31条,第33条等。)を侵害するのではないか,ということである。」(下線は引用者)

 

この①・②のうち,このブログでは,①についてだけ感想を述べる。

 

②(人身の自由や適正な手続的処遇を受ける権利)については,さすがに平成30年では連続して出ないものと予想される上,他の人権(自由権・請求権…平成30年で出題可能性の高いもの)への応用がし難いと思われる内容であるため,受験生の関心との関係でも①(の一部)に絞ってコメントした方がよいと思ったからである。

 

 

1 優秀答案に「特定のパターン」はない?

 

ところで,平成27年司法試験の採点実感等に関する意見1頁1は,「優秀な答案に特定のパターンはなく,良い意味でそれぞれに個性的である。」(下線は引用者)と言い切る。

 

しかし,旧司法試験時代から多くの司法試験合格者を出してきた司法試験受験予備校の「伊藤塾」では,従前より,憲法の人権(自由権)の問題については,「処理手続」があるものと「塾生」(伊藤塾の受講者)らに解説しており,これは多くの合格者によって支持されてきたものと思われる。

 

そして,司法試験受験業界において,この「処理手続」が「人権パターン」と呼ばれ続けてきたことは,あまりに有名な話である。

 

「人権パターン」について,伊藤真憲法[第3版]【伊藤真試験対策講座5】』(弘文堂,平成19年)94,95頁は,次のとおり述べる。

 

憲法の問題は、人権の問題と統治機構の問題とに分かれますが、人権の問題の場合には、ある人が人権を制限されて、そのような人権制限が合憲か違憲かを問う問題が出題されることが多く、この場合の人権の処理手順としては、①だれの、②どのような内容の人権が、③だれによって制約され、④その制約が許されるか、そしてそれが憲法法訴訟上問題となった場合における問題点というものを論じていくことになります。」(94頁)

「人権の問題は、(中略)一定の処理手続がありますから、通常は、この処理手続にのせて検討すれば足ります。」(95頁)

 

さて,懸命な司法試験受験生であれば,憲法の論文答案について,特定の「パターン」を意識しないで論述を展開することがいかに無謀なことであるか知っているはずである。2時間という短い時間内で憲法の答案を書き切るには,いつくかの「パターン」を活用する必要がある。

 

なお,平成21年新司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁が,憲法の論文式問題につき「判例及び学説に関する知識を単に『書き連ね』たような,観念的,定型的,『自動販売機』型の答案を求めるものではなく,『考える』ことを求めている。すなわち,判例及び学説に関する正確な理解と検討に基づいて問題を解くための精緻な判断枠組みを構築し,そして事案の内容に即した個別的・具体的な検討を求めている。」と述べているとおり,基本書の文書やキーワードをそのまま貼り付けただけのような答案が問答無用で「F」となることはもはや説明不要であろう。

 

しかし,ここでいう「定型的」な答案というのは,答案を書き易くするための特定の「パターン」・「型」を使ってはならないという意味ではない。

 

上記「人権パターン」のように,憲法答案で書く内容の「順序」のようなものは決まっているのであり,それについて事前に良く押さえなければ,安定して良い答案を書くことはできないはずである。

 

 

2 答案の「書き出し」の型 ~3要素説~

 

上記「順序」の点に関し,特に憲法の論文に苦手意識のある受験生が悩む問題として,答案の「書き出し」の内容のことが挙げられよう。

 

「人権パターン」も,答案の「書き出し」の部分について詳しく述べているわけではないことから,特に憲法の答案を書き慣れていない方は,「書き出し」部分で時間を無駄に使ってしまう,いわばスタートダッシュできずに躓いてしまうということが少なくないように思われる。

 

「書き出し」部分なんて,ノリでテキトーに書けばよいではないかと思う人こそ読んでほしいわけだが,「書き出し」部分は3つの必要事項・要素について書く必要がある。いわば「書き出し」3要素説である。

 

すなわち,平成29年出題趣旨は,「本問での主な論点」は「〔1〕妊娠・出産(中略)を滞在の際の禁止事項とし,〔2〕違反があった場合には強制出国させることが,〔3〕自己決定権(憲法第13条)の侵害ではないか」(〔1〕~〔3〕は引用者)であるとする。

 

この記載から,憲法答案の書き出し部分では,〔1〕法律・条例や処分が(本問では法律が)特定の行為を「禁止事項」としていることを指摘し,その上で,〔2〕違反があった場合に法律等に基づいて特定の「強制」的な措置をとることが,〔3〕●●権あるいは●●の自由(憲法●●条)の侵害ではないか?という問題提起が必要となる(ただし,〔3〕は違憲主張の形にして書く)。まとめると次のとおりとなる。

 

  答案の「書き出し」の型の3要素

〔1〕特定の行為に係る禁止事項

〔2〕違反があった場合の特定の強制措置

〔3〕人権(自由)名+条文ナンバー → 違憲主張(問題提起)

 

ちなみに,出題趣旨第5段落が「本問では,違憲の主張をする場合,その瑕疵は特労法そのものに求められるべきであり,問題文にも,『Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。』とされているのであるから,法令違憲を検討すべきである。仮に適用違憲に言及するとしても簡潔なものにとどめるべきであろう。」としていることからすれば,上記〔2〕の部分か,あるいは,例えば,「●●法●条●項●号の法令違憲の主張(●●条違反)」などのタイトルを付して,答案で,法令違憲の主張をしているのか,処分違憲適用違憲の主張をしているのかを明示すべきである。

 

 

3 書き出し3要素説による「冒頭パターン」

 

以上のことから,答案の書き出し3要素説の「冒頭パターン」は次のとおりとなる。

 

(1)2文パターン

 

第1 設問1

 1 ●●法●条等の法令違憲の主張(憲法●●条違反)

(1)●●法(以下「法」という。)●条●項●号[1]は,●●が●●する場合に●●する行為禁止事項としており,その違反があった場合には●●という強制措置をと(執)る(ことができる)こととしている(法●●条●項)。そこで,Xとしては,かかる措置をとることが●●権/●●の自由(憲法(以下法名略)●●条●項)を侵害すると主張する。

 (2)・・・・・・

 

 

(2)1文パターン(若干短いバージョン)

 

第1 設問1

 1 ●●法●条等の法令違憲の主張(憲法●●条違反)

(1)●●法(以下「法」)●条●項●号は,●●が●●する行為禁止事項としており,違反があった場合には●●という強制措置をと(執)る(とりうる)としている(法●●条●項)ことから,Xとしては,同措置が●●権/●●の自由(憲法(以下法名略)●●条●項)を侵害すると主張する。

 (2)・・・・・・

 

 

4 「冒頭パターン」と考査委員・元考査委員の見解との関係

 

ところで,平成28年司法試験の採点実感等に関する意見1頁は,「本問では,架空の性犯罪継続監視法が〔A〕いかなる憲法上の人権を〔B〕どのような形で制約することになるのかを正確に読み取り,被侵害利益を特定して,その重要性や規制の程度等を論じて違憲審査基準を定立し,問題文中の事実に即して適用するなどして結論を導かねばならない。」(下線,〔A〕及び〔B〕は引用者)とする。

 

とすると,先に「憲法上の人権」と憲法の条文(条項)をもっと先に書く必要があり,上記の冒頭パターンには問題があるのでは?…とも思えてしまうかもしれない。

 

しかし,元考査委員の青柳幸一教授が考査委員であった年に書いた青柳幸一「審査基準と比例原則」戸松秀典=野坂泰司編『憲法訴訟の現状分析』(有斐閣平成24年)138頁(次の枠内,下線は引用者)によると問題はないものと思われるし,上記平成28年の採点実感等が以下の青柳教授の見解を修正しているものとは考えられないだろう。

 

「日本で検討すべきは,アメリカ型かドイツ型かという二者択一的思考ではなく,両者のそれぞれの長所を活かす合憲性審査の方法であると思われる。

まず,ジャーゴン[2]で彩ることなく,人権問題を素朴に発見することから始まる。つまり,「どのような行為が,何(例えば・法律)によって,どのような目的・理由で,どのように制約されているのか」という,問題の発見である。次に,「どのような行為」に関して,当該行為が憲法上保障されているか否かを,条文に則して検討する。

 

この文献の内容に関し,平成26年司法試験の採点実感等に関する意見1頁は,「本年の問題においても,事案を正確に読んでいるか,憲法上の問題を的確に発見しているか,その上で,関係する条文判例憲法上の基本的な理論を正確に理解しているか,さらに,実務家として必要とされる法的思考及び法的論述ができているかということに重点を置いて採点した。」(下線は引用者)としており,「発見」というワードが共通することなどから,同採点実感は,おそらく上記文献を前提に書いたものであると考えられる。

 

同文献のうち,「どのような目的・理由で」などの部分は,上記「冒頭パターン」部分ではなく,基本的には,その先の審査基準(判断枠組み)の選定の理由付けで書くべき部分と思われるが,いずれにせよ,憲法の条文・条項(上記2の3要素の〔3〕の段階のもの)を書く前に,上記2の3要素の〔1〕と〔2〕の話(問題の「発見」の話)を書いておく必要があるということである。

 

 

5 「冒頭パターン」から「人権パターン」へ

 

司法試験論文憲法では,以上の「冒頭パターン」を活用し,第1の1(2)以下で,「人権パターン」の流れに乗った答案を書けば,スムーズに答案を書くことができる(答案構成もし易くなる)だろう。

 

「人権パターン」については,様々な議論があるが,これについては次回言及したい。

 

本ブログが受験生の皆様にとって少しでも合格への「希望」[3]につながるものとなれば幸いである。

 

_________

[1] 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(以下「実感」と略す。)3頁は,「条例第4条の第1号ないし第3号,あるいは第3号のイ及びロにつき,それぞれを適宜区別しながら審査しているものが見られた点は評価できる一方で,特に第3号のイ及びロについて,全てまとめて一つの審査をしているものがあり,気になった。」としている。そこで,法令違憲の主張をする際には,項数や号数等(複数ある場合は複数)まで特定すべきであろう。また,このことは処分違憲の主張の場合であっても同様であるように思われる。

ちなみに,行政法の答案で号数等までしっかり書くべきことは,次のとおり,もはや受験生の間では殆ど常識となっているように思われる。

・「条文の引用が正確にされているか否かも採点に当たって考慮することとした。」(平成20年実感5頁)

・「条文を条・項・号まで的確に挙げているか,すなわち法文を踏まえているか否かも,評価に当たって考慮した。」(平成21年実感5頁)

・「関係法令の規定に言及する場面で,単純な文理解釈を誤っている答案や,条文の引用が不正確な答案(項・号の記載に誤りがあるなど)が少なくなかった。また,関係しそうな条文を,よく考えずに単に羅列しただけの答案も散見された。このような答案は,条文解釈の姿勢を疑わせることになる。」(平成25年実感6頁)

 

[2] 「ジャーゴン」(jargon)とは「特定グループの内だけで通じる用語。業界用語。」(新村出編『広辞苑 第六版』(岩波書店,2008年)1292頁)のことを意味する。

なお,近時,某知事が,記者会見において,横文字(アウフヘーベン)の意味・内容に関する質問を受けた際に,その内容は「辞書で調べて」などと回答したことがあるが,説明責任を十分に果たしていないものと思われる。住民・国民の知る権利を尊重した態度ではないように思われるが,そのような態度に「希望」を見出す住民等が一定数存在することから,筆者としては法教育の重要性を日々実感している次第である。

 

[3] 「希望」に関する桜井和寿Mr.Children)の曲として,「名もなき詩」(1996年,アルバム『深海』(同年)7曲目),「くるみ」(2004年,アルバム『シフクノオト』(同年)の4曲目),「かぞえうた」(2011年,アルバム『(an imitation)blood orange』(2012年)の7曲目)などがある。それぞれ「希望」が見えないときに司法試験受験生に聴いて欲しい一曲であり,前二曲は,現に受験生時代の私が「希望」を見出すきっかけとなったものである。

 

 

 *このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その2:出題趣旨のいう「基本判例」・「学説」とは何か?

 平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨についての感想が途中になってしまっていた。長いこと放置してしまっていたが,憲法改正の前に表現の自由を行使しておかねばと思い立ち,約3週間ぶりに更新することとした。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

とはいえ,憲法改正はまだまだ先であるから[1],本日はとりあえず,第1段落(後掲の枠内)についての感想を述べることとする(第2段落以下については次回以降に感想を述べたい)。

私は元I塾生であり「ゆっくり急げ」の精神の下,法を学んできたわけだが,どういうわけか,前段だけを頑なに守るようになってしまった。塾長に合わせる顔がないわけだが,「やればできる!必ずできる!」を信じて書き進めることとする。

 

 

〔平成29年司法試験論文憲法・出題趣旨第1段落〕

今年度は,いわゆる外国人非熟練労働者の入国・在留を認める架空立法を素材に,外国人の人権保障に関するいくつかの問題を問うこととした。基本判例や学説に関する適切な理解や初見の条文の正確な読解を前提に,具体的な事案に即して的確な憲法論を展開することができるかどうかが問われる。

 

 

1 外国人の人権の出題とオリンピックの政治利用

 

「外国人」の人権は,平成18年以降の(新)司法試験では初めての出題である。いわゆる特区制度や,2020年東京オリンピックを契機により多くの外国人が日本に入国することに関連した出題という見方も可能である。

 

ちなみに,オリンピックは政治利用されてはならないものとされているが,現実は逆であるところ,平成29年の司法試験ではオリンピックの司法試験利用がなされたという捉え方もできるかもしれない。

 

司法府の政治化は避けるべき事態であるが,仮にオリンピックの司法試験利用がなされたとすれば,問題であるように思われる。

 

…と,多く受験生にとっては興味がないであろう(しかしそれは残念だが)前置きはこのくらいにして,「基本判例」と「学説」という2つの用語に着目したい。

 

 

2 「基本判例」とは何か

 

まず,「基本判例」とは何だろうか。

 

「基本判例」とは,過去の出題趣旨と同様の意味合いということであれば,「弁護士」が「知っている」(と考査委員が考える)「重要な憲法判例」(平成23年出題趣旨1頁)のことを意味するものと考えられる。

 

具体的には,これまでの出題趣旨,ヒアリング及び採点実感(以下「出題趣旨等」という。)で明示的に言及された判例は,少なくとも上記「基本判例」に該当するだろう。

 

また,黙示的に言及された判例[2]も,「基本判例」に該当するものと考えられる。

 

なお,出題趣旨等で明示的に言及された判例は,原則として百選[3]で選ばれた判例であり[4],唯一の例外は平成26年の出題趣旨で言及された農業災害補償法が定める農業共済組合への「当然加入制」の合憲性をめぐる判決(最三判平成17年4月26日判例時報1898号54頁)であるが,この判例があるからといって百選以外に手を広げるのは得策ではなかろう。

 

ちなみに,「基本判例」と聞いて思い浮かぶのは,元新司法試験考査委員の野坂泰司先生の連載である。それは,2005(平成17)年から2008(平成20)年にかけて,「判例講座 憲法基本判例を読み直す」とのタイトルで『法学教室』誌上に連載されたものであり,2011年に書籍化された[5]

 

同書では,平成29年司法試験でもその活用が求められた(おそらく多くの受験生にとってサプライズであった)「川崎民商事件」(同書第16章,303頁以下)についても詳細な解説がなされている。

 

平成29年の出題趣旨における「基本判例」と元考査委員の野坂先生の「憲法基本判例」とが重なるものであるとすれば,同書に掲載されており,未だ出題のない判例が平成30年以降のヤマということになるかもしれない

 

そのヤマの判例とは,例えば,(A)森林法事件(同書第13章,233頁以下),(B)堀木訴訟(同書第15章,283頁以下),(C)旭川学テ事件(同書第20章,409頁以下)である。

 

とはいえ,平成27年・29年とマクリーン事件の活用が聞かれており[6],比較的短期スパンでの出題があり得ることが示されているため,例えば,平成26年でその活用が求められた(と考えられる)薬事法事件(同書第12章,209頁以下)などについてもよく確認しておくべきであり,油断は禁物である。

 

ところで,本年も「架空立法」(条例や,平成21年の「規則」を含む)それ自体の違憲性についての主張(法令違憲の主張)を書くことが求められた。このようなタイプの問題は,次の表のとおり,ここ4年で3回という頻度で出されていることから,平成30年では,法令違憲の主張をしてくれと言う考査委員からの強いメッセージ(本年では「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。」(下線は引用者)という一文)が書かれず,処分違憲のみのタイプか,法令違憲と処分違憲を両方論じさせる問題が出る可能性が高いだろう。

 

架空法令の法令違憲の主張だけが主な論点となった年

平成18年,26年,28年,29年

架空法令の法令違憲と処分違憲[7]の双方が主な論点となった年

平成19年,20年,21年,22年,23年,(25年,)

処分違憲[8]の主張だけが主な論点となった年

24年,25年,27年,

 

 

3 「学説」とは何か

 

次に,上記「基本判例」の直後に書かれた「学説」とは何だろうか。

 

この点につき,平成23年出題趣旨1頁は,「弁護士」が「知っている」(と考査委員が考える)「主要な学説」を司法試験受験生も知っておかねばならない旨述べている。

 

しかし,平成29年出題趣旨は,平成23年出題趣旨のような限定がなく,特に「主要な学説」とはせず,単なる「学説」としているのである。

 

ではなぜ,「主要な」が取れてしまったのであろうか。

 

それは,司法試験における「芦部」時代の終焉を意味するものと思われる。

 

芦部信喜先生のテキスト『憲法』(岩波書店[9]は,今も多くの合格者が使う基本書であり,元考査委員の青柳幸一教授も法科大学院の授業で(青柳教授自身のテキスト[10]も使われてはいたものの)芦部信喜先生のこのテキストを使用されていた(教科書指定あるいは参考書指定)と数名の受験生から聞いたことがある。

 

そのため,平成18年から27年までは,(おそらく)芦部説を「主要な」学説(学会基準ではなく受験生基準)として活用すれば基本的には足りたものといえよう。

 

しかし,平成28年以降は,もはやそのような時代ではなくなってしまったのかもしれない。

 

とはいえ,「主要な」学説以外の学説を書いて良い,あるいは書くべきとして,そのような問題の答案を学者(研究者)の委員はともかく,実務家の委員が適切に採点できるのだろうか(甚だ疑問である)。

 

さらに言えば,多くの実務家が知らないような「学説」(そのような意味で主要なものとはいえないであろう学説)を活用した方が得点を伸ばしやすいような論文問題が出るとすれば,受験生の<憲法離れ>が進んでしまうのではなかろうか[11]。それは国家的損失につながりかねないことであり,決して大げさなことではないと私自身は考えている。

 

特に先端的・最新の「学説」を書かせるような問題を出す場合,以上のような弊害を生む(すでに生んでいる?)だろう。

 

なお,別の考え方として,平成29年出題趣旨の「学説」を平成23年出題趣旨の「主要な学説」の意味に限定解釈して読むというものもあるが,考査委員の構成等に照らすと,恐らくこれは違うと思われる。

 

 

4 「統治」の出題可能性

 

出題趣旨に「外国人の人権保障に関するいくつかの問題を問うこととした」とあるとおり,平成29年も「人権」の問題が出た。

 

平成18年から(プレ・サンプルも含め)29年まで,論文憲法では,人権(あるいは人権メイン)の問題しか出されていない。

 

司法試験では「人権」から出るというのがもはや慣行となった感があるものの,平成29年では,これまで出たことがなかった33条が出されたり,13条が2年連続で出されるなど,多くの受験生にとって(おそらく)想定外の問題が出題された。

 

このようなことから,予備試験だけではなく,司法試験でも「統治」メインの問題が出ることが今後はありうるのではなかろうか。

 

司法試験において「統治」分野で活用すべき「基本判例」を予想することは難しいが,上記野坂先生の著書では,警察予備隊訴訟(第2章,17頁)と,苫米地事件(第4章,49頁)が取り上げられており,いずれも大法廷の判例で,百選にも掲載されていることから,受験生においては,まずはこの2つの「基本判例」(第一次的には野坂先生の考える「基本判例」ではあるが)の解説等を検討されてはいかがだろうか。

 

論文での出題可能性はかなり低いとは思うが,幸い行政法とは異なり短答式試験で出題される可能性があるから無駄にならない可能性が高いと思われる。

 

 

5 何の変哲もない立憲主義

 

最後になるが,出題趣旨に書かれた「基本判例」の「基本」の意義・射程は,必ずしも明確ではないところ,何が「基本」の判例であり,何が「応用」(?)の判例なのかを法務省の公表資料からこれを探るのであれば,「百選」の判例は「基本」であり,「判例雑誌や裁判所のホームページ」で公表される「最新の裁判例」(平成18年ヒアリング3頁第2段落)は「応用」ということになりそうである。

 

・・・と,結局,何の変哲もない内容で終わってしまうこととなった。オチのない話ほど退屈なものはなかろう。

 

 

とはいえ,何の変哲もないことこそ大切なものであることがある[12]

 

例えば,今ある日本国憲法は,多くの法曹にとって,いわば空気のもののように,言い換えれば「何の変哲もない」もののようになっていると思われる。

 

しかし,空気のようにそこに存在するものが,不必要に改正を叫ばれ,メディアなどによって不当に騒がれ,なくなろうとしている。

 

憲法改正によって権力者が人権をより厚く保障するだろうなどと楽観視することが許されるのは,夢の中のお花畑の中だけに限られているし,少なくとも法曹であれば,そのような楽観視を不当に誘導する行為が弱き者の生活基盤を失わしめることとなることを目をそらさずに理解しなければならない。

 

改憲に際して権力者が様々な条項に手をつけてくることも考えられるだろう。「『個よりも全体の価値を』といったスローガン」[13]のようなものを前文などに入れ込んでくるかもしれない。

これらは非常に恐ろしいことであり,とりあえず憲法を変えてみようという浅はかな発想は,取り返しがつかなくなる事態[14]を招くものといえよう。

 

 

「今ある」近代立憲主義の「よりよい形を追求していくことが憲法学の任務である」[15]と私も考える。

 

そしてその任務は,権力者に権限濫用等の隙を与える極めてリスキーな改憲という手段によるのではなく,「今ある」憲法を活かすという手段で達すべきである。

 

 

________

[1] などと呑気なことを言っているとあっという間に「公共の福祉」が「公共の利益」に変更され,97条なども吹っ飛んでしまいそうなので要注意だが…。

[2] ①明示的に言及された判例と②黙示的に言及されたと考えられる判例につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑179号(新日本法規,2016(平成28)年9月8日)1頁以下(特に4~7頁の一覧表を参照)。なお,かかる拙稿(無料でウェブ上で誰でも閲覧可)では,①を「狭義での関連判例」,②を「広義の関連判例と考えられるもの」と分類している。

[3] 長谷部恭男石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』・『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)。

[4] この点に関し,平成18年ヒアリング3頁(ただし,実務家の考査委員で公法系第2問・行政法を担当した方の発言)では,「条文をしっかりと理解すること,それから判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置」いた判例学習が必要である旨述べている。法務省のウェブサイト(出題趣旨・ヒアリング・採点実感のいわゆる三種の神器)で,特定の書籍名が紹介されたのは,これが初めてではないだろうか。

[5] 野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣,2011年)。

[6] 平成27年につき,平・前掲(2)7頁。

[7] 平成20年のように,刑事事件の場合,「処分違憲」と書かずに,「…に対する処罰の違憲性」(平成20年出題趣旨2頁)と書く方が良いだろう。

[8] ここにいう「処分」は基本的には行政処分を指すものであると思われるから,例えば,「公金支出」(平成24年出題趣旨1頁)の違憲性が問われた場合には「処分違憲」という用語は避けた方が良いだろう。

[9] 最新版は,芦部信喜(著),高橋和之(補訂)『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)である。

[10] 青柳幸一『わかりやすい憲法(人権)』(立花書房,平成25年)ないし青柳幸一『憲法』(尚学社,2015年)。

[11] 受験生(合格者)はコスパを意識する・重視する者が多いため(それ自体悪いことではないだろう。法曹に必要なスキルの一つであると思われる。),短い時間で多くの得点を取れる勉強をする(例えば,同じ公法系科目で論文では同じ点数(100)の行政法をしっかり勉強して安定的に点数を稼ぐなど)ものと思われる。

[12] 木村和(KAN)「何の変哲もないLove Songs」同『何の変哲もないLove Songs』(2005年)参照。なお,同曲をBank Bandがカバーしている(Bank Band『沿志奏逢2』(2008年)の1曲目)。

[13] 新井誠=曽我部真裕=佐々木くみ=横大道聡『憲法Ⅰ 総論・統治』(日本評論社,2016年)13頁〔新井誠〕。

[14] 原発被害(人災)によって故郷・家族を失った方々がいるが,取り返しのつかない失敗もある。この現実を直視しない・できない者は,憲法を語るにふさわしくない者といわなければならない。

[15] 新井・前掲注(13)13頁〔新井誠〕。

 

 

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平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その1:受験生「中間審査基準でマクリーン判決を超えてもいいんですか?」→考査委員「いいんです。」

 

「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(4)」(平成29年5月22日ブログ)などでも述べたとおり,平成29年司法試験論文憲法には,憲法学にとって喫緊の課題と評される「マクリーン判決を超える 」(愛敬浩二「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)5頁(1事件,マクリーン事件)。)方策を受験生に問うという側面があるものと考えられるところ,このことをこのたび公表された平成29年司法試験論文式試験「出題趣旨」1頁でよく確認することができた。

  

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このマクリーン判決の超え方に関しては,マクリーン事件とは事案が異なると主張してその判断枠組み(基準)をより厳格なものにするための理由付けをどのように書くべきかが特に重要であると考えられる。今年の出題趣旨は,この点についてかなり具体的な記述をしており,大変参考になる。マクリーン判決の超え方に関して「中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)を使って良いとしている点も注目である。

 

 

(以下「出題趣旨」の抜粋,下線及び[A]・[B]は引用者)

代理人甲としては,マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,本件のような場合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。様々な立論があり得るだろうが,飽くまで一例ということで示すとすれば,まず,[A]妊娠等が本人の人生にとって極めて重要な選択であり,また,人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,新制度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。),自己決定権の中でも特に尊重されなければならないこと,また,[B]本件が,再入国と同視される在留期間の更新拒否ではなく,強制出国の事例であってマクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘して,立法裁量には限界があるとして中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)によるべきだという主張をすることなどが考えられる。

(引用終わり)

 

この点に関し,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(4)」(平成29年5月22日ブログ)でも書いたとおり,私は,違憲審査枠組みの設定に関して考慮されるべき事項・要素として,①制約される人権の重要性(いわば人権のプラス面),②他社の人権等や公益を制約する弊害的な(いわば人権のマイナス面)が小さいこと(=当該人権の制約の本来的可能性が低いこと),③規制態様の強さの3つを適宜活用すべきと考えている(①・②につき,青柳幸一『憲法』(尚学社,2015年)87頁参照)。

 

上記「出題趣旨」のAの部分は,①人権の重要性(いわば人権のプラス面)という考慮事項・要素を活用したものであり,また,Bの部分は,③規制態様の強さの考慮事項・要素を活用したものといえる。

 

ちなみに,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(3)」(平成29年5月21日ブログ)では,上記の3つの考慮事項を活用して,私なりのマクリーンの超え方に係る文書を書いた。出題趣旨の記載と多少重なる部分があると思っているが,読者の皆様はどのように思われるだろうか。 

 

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(以下,一部を再掲,下線と[a]・[b]は引用者)

ウ 正当化理由の有無を判定する段階の要点

 上記Bの人権制約は正当化されるか。我が国の農業及び製造業に必要な労働力の確保という労働政策等(法1条)からの規制であり,制約根拠(公共の福祉,13条後段)はあるとしても,その制約が許されるものかが問題となる。

 この点については,確かに,外国人の在留権(在留の権利)は,国際慣習法上,保障されているものではないと解されている(マクリーン事件)。とすると,外国人の妊娠・出産の権利・自由の保障も,法における特定労務外国人制度の枠内で与えられているにすぎないもののようにもみえる。

 しかし,特労法は入管法の外国人在留制度と比べて在留の要件を限定しており(法4条1項),帰化・永住を希望しないことがその要件となっていること(同項4号),認証は原則として3年のみで効力を失うことなどからすると,特労法における外国人の人権行使が,…日本国民の人権や公益(国益)と衝突することは比較的少ないといえる。そのため,入管法上の在留更新等の場合よりも,手厚い人権保障が要請されるものというべきである。

 また,[a]妊娠・出産という人生の選択をする自由は,その者の日々の生活や生き方,ものの見方・思想などを大きく変えうるものであり,自身の子に,価値遺伝的素質を伝承するという意味でも人格的生存の根幹に密接にかかわるものといえる。このような意味で,妊娠・出産の権利・自由は,精神的自由等における自己実現の価値の大前提たる極めて重要な意義を有する。加えて,[b]例外を許さず,妊娠・出産の権利・自由が全面的に制約されており,その意味で比較的強い規制といえる

 とすると,マクリーン事件(外国人在留制度)で問題となった外国人の表現の自由の場合とは異なり,特労法との関係では,妊娠・出産の権利・自由は,同法の制度の枠内で保障されるという弱い保障にとどまらず,より手厚く保障されるものというべきである。具体的には,マクリーン事件の採ったような裁量権の逸脱濫用審査に係る審査密度の低い審査枠組みではなく,立法目的が重要であり,かつ立法目的と手段との間に実質的関連性があるといえる場合でなければ違憲とされる審査基準によるべきである。

(引用終わり)

 

 

なお,出題趣旨では,マクリーン判決の超え方に関して「中間審査基準」を使ってもよいとしているが,これは今日の裁判実務とは(残念ではあるが)必ずしも整合しないものであろう。そこで,出題趣旨でも「飽くまで一例ということで示すとすれば」と断っているのではないかと思われる。

 

とはいえ,この手の事案で「中間審査基準」が(一応)ありうる立論として法務省のウェブサイトで公表された事実は大きいだろう。考査委員の先生方の意気込みを感じ,感動したので,ブログを更新した次第である。

 

 

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平成29年司法試験出題趣旨(行政法)の感想 その1:出題趣旨と 『基本行政法』との考え方の違い

 

平成29年司法試験論文式試験の「出題趣旨」が公表された。

本ブログの存在を筆者自身が殆ど忘れていたが,出題趣旨の公表を契機に,久しぶりに更新することとした。

 

といっても,今回は,行政法の出題趣旨で気になった1つの点だけに言及する。

 

(以下「出題趣旨」3頁より抜粋,下線は引用者)

〔設問1⑴〕は非申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問うものである。行政事件訴訟法第3条第6項第1号及び第37条の2の規定に従って,本件フェンスを撤去させるために道路管理者Y市長が道路法第71条第1項の規定に基づき行うべき処分を「一定の処分」として具体的に特定した上で,当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあるか,また,その損害を避けるため他に適当な方法がないか,そして原告適格の有無について論じなければならない。
 重大な損害を生ずるおそれの検討に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案した上で,本件市道を,X2が小学校への通学路として利用できないこと及びXらが災害時の避難路として利用ができないこと(以下「本件被侵害利益」という。)がそれぞれ「重大な損害」に当たるかどうかについて論じることが求められる。
 損害を避けるための他に適当な方法の検討に当たっては,(中略)それが「他に適当な方法」に当たるかどうかを検討することが求められる。

 原告適格の検討に当たっては,行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第9条第2項の規定に基づき,道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を踏まえ,本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか,また本件被侵害利益の内容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。

(以上,引用終わり)

 

ということで,この部分を読み,考査委員の1人である中原茂樹先生の『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)367~368頁のコラム「『重大な損害を生ずるおそれ』(行訴法37条の2第1項・2項)と原告適格(同条3項・4項)との関係」とは,答案の書き方に関する立場が違うとの感想を抱くに至った。

 

すなわち,同コラムでは、非申請型義務付け訴訟の訴訟要件の「検討順序」として「まず、原告適格の有無を(中略)検討した後、原告適格が認められる者について、1項にいう『重大な損害を生ずるおそれ』の有無を(中略)を検討することが考えられる。」(368頁)としているが,これは上記「出題趣旨」とは異なる立場であるといえる。

 

結局のところ,「出題趣旨」の方は,条文で各訴訟要件が規定されている順序のとおりに検討すればOKとの立場であった。

 

 

このように『基本行政法』とは異なる立場で書いても,受かるのである。

 

 

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