平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(7) 成田新法事件の千葉勝美調査官解説と平成29年司法試験

前回のブログ「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(6)」の続きである。

しばらく更新できないでいたため,忘れられてしまった[1]かもしれないが,めげずに書き進めていきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 1 はじめに

 

前回のブログで,私は,次の(A)・(B)の論点のうち,A)の論点について厚く書くべきであり,B)の論点については殆ど書く必要がないなどと述べた。その理由については,前回のブログを読んでいただきたい。

 

  • (A)論点1:川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[2]や成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[3]の活用(応用)が問われる論点である<刑事手続につき規定した33条の行政手続への適用又は準用が認められるか?>というもの[4]

 

  • (B)緊急逮捕の合憲性を認めた最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁[5]の活用(応用)が問われる論点である<現行犯逮捕の場合以外でも,無令状の身柄拘束が33条に違反せず許容されるか?>というもの[6]・・・上記(A)の適用又は準用が認められた後で問題となりうる論点

 

そこで,今回は,前回検討しなかった,(A)の論点において定立すべき規範内容に関する感想を述べていくこととする。

 

 

2 行政手続への憲法35条の適用又は準用の認否の基準と平成29年司法試験

 

まずは,刑事手続につき規定した憲法33条の行政手続への適用又は準用の認否について,どのような規範・基準を立てるのかを考える前提として,憲法35条の行政手続への適用又は準用の認否の規範・基準に関係する主要な判例を見ていきたい。なお,以下の各判例は,憲法でも行政法でも有名な判例である。

 

(1)川崎民商事件 の規範・基準

 

川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)は,35条に関し,次の枠内の文章の通り判示する(下線及び〔 〕内の文書は筆者)。

 

 所論のうち、憲法三五条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲である旨の主張である。

 たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、〔あ〕同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、また、〔い〕右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。

 さらに、〔う〕この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。

 憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。

 

このように,川崎民商事件は,次の3要素(3つの考慮事項)を総合的に考慮し,行政調査に係る行政手続に憲法35条の保障が及ぶか否かを判断すべき旨判示している。

 

<川崎民商事件の総合判断の3要素(3つの考慮事項)>

 

〔あ〕手続の性質(目的)

 ・・・刑事責任追及目的とする手続か

 

〔い〕手続の一般的作用(一般的機能)

 ・・・実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものか

 

〔う〕公益に照らした強制手段の合理性

 ・・・公益性上の目的・必要性に照らした

    強制の態様・程度(手段)の均衡・合理性

 

①~③の総合判断ということであるが,③だけをみても公益性上の目的・必要性と強制の態様・程度につき総合判断をしているものと考えられ,二重の意味での総合的判断のようにも読める。とすると,かなり柔軟な規範であるといえ,「基準」と呼ぶにはやや抵抗があるという方もいるだろう。

 

 

(2)成田新法事件 の規範・基準

 

成田新法事件(最大判平成4年7月1日)は,35条に関し,次の枠内の文章の通り判示する(下線及び〔 〕内の文書は筆者)。上記川崎民商事件を引用していることが分かる。

 

 憲法三五条の規定は、本来、主として刑事手続における強制につき、それが司法権による事前の抑制の下に置かれるべきことを保障した趣旨のものであるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁)。しかしながら、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政手続における強制の一種である立入りにすべて裁判官の令状を要すると解するのは相当ではなく、〔ア〕当該立入りが、公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものであるかどうか、〔イ〕刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるかどうか、また、〔ウ〕強制の程度、態様が直接的なものであるかどうかなどを総合判断して、裁判官の令状の要否を決めるべきである。

 本法三条三項は、運輸大臣は、同条一項の禁止命令をした場合において必要があると認めるときは、その職員をして当該工作物に立ち入らせ、又は関係者に質問させることができる旨を規定し、その際に裁判官の令状を要する旨を規定していない。しかし、右立入り等は、同条一項に基づく使用禁止命令が既に発せられている工作物についてその命令の履行を確保するために必要な限度においてのみ認められるものであり、その立入りの必要性は高いこと、右立入りには職員の身分証明書の携帯及び提示が要求されていること(同条四項)、右立入り等の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと規定され(同条五項)、刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものではないこと、強制の程度、態様が直接的物理的なものではないこと(九条二項)を総合判断すれば、本法三条一、三項は、憲法三五条の法意に反するものとはいえない。

 

このように,成田新法事件も,次の3つの要素(3つの考慮事項)を総合的に考慮し,行政調査に係る行政手続に憲法35条の保障が及ぶか否かを判断すべき旨判示している。

 

<成田新法事件の総合判断の3要素(3つの考慮事項)>

 

〔ア〕行政目的達成のため不可欠であること

 ・・・公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものか

 

〔イ〕手続の一般的作用(一般的機能)

 ・・・刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるか

 

〔ウ〕強制手段の直接性

 ・・・強制の程度、態様直接的なものであるか

 

ただし,成田新法事件では,川崎民商事件の〔あ〕の要素である手続の性質(目的)すなわち刑事責任追及目的とする手続かというものについては,少なくとも明確には言及していないものといえる。

 

また,川崎民商事件の〔い〕の要素と成田新法事件の〔イ〕の要素とはほぼ同じであるものの,他方で,川崎民商事件の〔う〕の要素については,(ざっくりいえば)成田新法事件の〔ア〕と〔ウ〕に分かれており,〔ア〕と〔ウ〕がそれぞれ独立の要素とされている。このことから,成田新法事件では,〔ア〕・〔ウ〕の重要度がより高いものとされていると考えられるだろう。

 

 

(3)平成29年司法試験で採るべき規範

 

では,答案では,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範のどちらを書くべきだろうか。

両方の規範を書いた上で比較検討しているような時間は通常ないと思われることから(司法試験の現場では)問題となる。

 

この点に関し,成田新法事件の調査官である千葉勝美は,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範は,「同様の見解に立った」ものと解説する[7]上記(2)で述べた判示の違いがあるにもかかわらず,あえて「同様の見解に立った」と解しているのである。

 

とすると,この部分の解説については疑問もあるようにも思われるが,とりあえず,「同様の見解に立っ」ていることを前提として良いものと思われる。

 

というのも,やや乱暴な議論かもしれないが,平成22年司法試験論文憲法の出題趣旨や採点実感(後掲の枠内の文章),上位合格者の再現答案等に照らすと,在外邦人選挙権訴訟と在宅投票制廃止訴訟の関係が問題となりうる平成22年司法試験論文憲法でも,在外邦人選挙権訴訟の規範だけを前提に書けば,一応(相対評価であることから)上位合格することができている[8]のであり,おそらく,このことは平成29年司法試験論文憲法における(35条の論点ひいては)33条の論点に関しても同様に妥当するといえるからである。

 

○平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁(抜粋,下線は筆者)

選挙権を行使できないということは,選挙権が事実上保障されていないことを意味する。「国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければなら」ず,「やむを得ない事由があるといえ」るためには,「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9月14日)。

 

○平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)3頁(抜粋,下線は筆者)

本問では,住所を有しない者に国政選挙における選挙権行使を認めないことの適否が問題となることから,最高裁平成17年9月14日大法廷判決(在外邦人選挙権訴訟)を踏まえて検討することが必要である。同判決は,近年の最高裁による違憲判決であり,選挙権又はその行使の制限の合憲性を検討する上で極めて重要かつ基本的な判決である。また,立法不作為が違憲違法とされる要件についても重要な判断を示している。そのため,当該判決に関しては,法科大学院の授業でも扱われていると思われるが,同判決について意識しない答案が極めて多数に上った。

 

○平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁(抜粋,下線は筆者)

選挙権の行使が妨げられたことについて,立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。立法不作為による国家賠償請求に触れた答案でも,在外邦人選挙権訴訟判決を意識した答案はまれであり,最高裁昭和60年11月21日判決(在宅投票制廃止訴訟)のみに基づいて検討する答案が多くあった

 

つまり,在外邦人選挙権訴訟の判示は,在宅投票制廃止訴訟の判示と「異なる趣旨をいうものではない」としている[9]のと同様に,成田新法事件の千葉調査官の判例解説は,同事件の規範が川崎民商事件の規範と「同様の見解に立った」ものとしている(在外邦人選挙権訴訟の場合よりも強い表現といえる。)わけである。

このことからすると,司法試験受験生としては,事案によりしっくりくる方の判例の規範を活用してよいということになるだろう。

 

そして,以上を前提として,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範のどちらの答案で書くべきかにつき検討すると,平成29年の問題の憲法33条の論点には,成田新法事件の規範を採る(活用・応用する)方がベターということになるものと思われる。

 

なぜならば,川崎民商事件の〔あ〕の要素である手続の性質(目的)すなわち刑事責任追及目的とする手続かという要素は,平成29年の事案では殆ど問題にならないものといえることなどから,違憲・合憲の結論が分かれ得る(設問1で違憲論を主張し,設問2では合憲とするための)規範として,あるいは,「あてはめ」[10]がより充実する規範として,よりしっくりくるのは,成田新法事件の方といえそうだからである。

 

ちなみに,「私見」の結論は「合憲」とするのが無難と考えられることについては,

「平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)」

の「2」の部分を読んでいただきたい。 

 

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では,以上のような理由から,成田新法事件の規範を採る(活用・応用する)として,上記〔ア〕~〔ウ〕の各要素の重み付けなどについて,どのように考えていくべきであろうか。

 

この点については,憲法38条のものではあるが,成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する所得税法違反事件(最三小判昭和59327[11])が参考になるように思われる。

 

・・・と,やや長くなってきたので,続きは次回以降のブログで述べることとする。

それではまた。

 

 

 

 

[1] この点に関し,「忘れられる権利」については様々な議論があるが,その逆の「忘れられない権利」については多分認められないだろう。

ちなみに,バンド「忘れらんねえよ」の元メンバー(ドラム)である酒田耕慈さんは,私が学生時代に所属していた某バンドサークルの1学年上の先輩であった。とてもユニークな人で,忘れられない。

なお,中央大学にはいくつかバンドサークルがあるが,そのうちの某バンドサークルで,私は4年間ボーカルとギターをやっていた。別のバンドサークルの2年(多分)上の先輩には,ナオト・インティライミさんがいたが,私は,司法試験の勉強との両立が難しいと考え(実際のところはよく知らないが,結構ボイストレーニングなどの練習がハードなイメージがあった。),そちらのサークルには入らず,上記某サークルと,伊藤塾中央大学駅前校)に入ることにした。

[2] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[3] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[4] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 2 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)354~355頁〔喜田村洋一〕の「論点5」を参照。

[5] 上田健介「判批」百選Ⅱ252~253頁(116事件)。

[6] 喜田村・前掲(4)350~351頁の「論点1」を参照。

[7] 千葉勝美「判解」最判解民事篇平成4年度259頁。

[8] 辰已法律研究所(公法系科目につき,西口竜司監修)『平成22年新司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(平成23年)35~39頁の答案②(153.86点,系別8~10位,論文総合49位)参照。なお,同30~34頁の答案①(161.90点,系別1位,論文総合228位)は,在外邦人選挙権訴訟と在宅投票制廃止訴訟の両方の判例の規範のキーワードを書けている。

[9] 野坂泰司「判批」百選Ⅱ324~325頁(152事件,在外邦人選挙権訴訟)でも,この点についての解説がある(同325頁・解説4)。

[10] もはや司法試験論文憲法では有名すぎることであるが,今日においても,答案では「あてはめ」を「個別具体的検討」などと変換する必要があると考えられる(そのように考えておく方が無難だろう)。残念ではあるが,考査委員も,過去の採点実感には相当程度拘束されると思われることから,この点についての批判的検討は無用である。

[11] 刑集38巻5号2037頁。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(6) 憲法33条のメイン論点

 「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(5)」の続きである。憲法の感想は長らくお休みとなってしまっていたが,少しずつ書き進めていきたい。

  

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上記ブログで,私は,平成29年司法試験論文憲法・問題文3頁3行目のキーワード(誘導文言)といえる「外国人の身体を拘束することは手続的保障の観点から問題」という部分などに鑑み,同問題の答案では,憲法33条違反をメインの主張として,すなわち,自己決定権の侵害(13条後段)違反の主張と並ぶもう一本の柱として厚く書くべきである旨述べた。

 

なお,メインの主張の二本の柱(各主張の分量の目安等)に関しては,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(3)」のブログを読んでいただきたい。

  

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さて,憲法33条の話といっても,何の判例を最も多く活用するのか,何の論点を最も厚く書くのかなどについては,現時点においても,なお疑問に感じている受験生が存するのではないかと思われる。

 

例えば,次の(A)・(B)の2つの論点のどちらを厚く書くのか,あるいはその両方を厚く書くのかである。

 

(A)論点1:川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[1]や成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[2]の活用(応用)が問われる論点である<刑事手続につき規定した33条の行政手続への適用又は準用が認められるか?>というもの[3]

 

(B)緊急逮捕の合憲性を認めた最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁[4]の活用(応用)が問われる論点である<現行犯逮捕の場合以外でも,無令状の身柄拘束が33条に違反せず許容されるか?>というもの[5]・・・上記(A)の適用又は準用が認められた後で問題となりうる論点

 

私の考える「正解」は,A)の論点について厚く書くべきであり,他方,B)の論点については殆ど書く必要がないというものである。

 

というのは,平成29年司法試験論文憲法の事案についてみると,(A)については,判例の規範のあてはめ次第では,(適用又は)準用の認否が変わってくるものと考えられ,この意味で微妙な論点となる[6]が,(B)については,緊急逮捕の要件(刑事訴訟法210条)と特労法を比較すると[7]違憲となる場合であることが殆ど明白といえるからである。

 

つまり,司法試験論文憲法では,結論が違憲か合憲かどちらでもよい(理由付けの説得力の程度が重要となる)論点がメインの(高配点の)論点として毎年問われているものと分析することができるところ,(B)の論点はこのような論点とはいえないが,(A)の論点はこのような論点に当たるといえるのである。

 

よって,33条に関する論点で,答案に厚く書くべき,高配点の論点は,(A)の論点であり,この(A)の論点が,原告の主張・被告反論の主戦場(主たる争点)となる。(A)の論点は,憲法の人身の自由に関する論点であるとともに,行政法の行政調査等のテーマでも問題となる論点であることから,公法学を研究する者としては大変興味深いものといえる。

 

ちなみに,私は,設問2の「私見」部分では適用・準用が(具体的規範のあてはめを行った上で)否定されるとの結論(つまり合憲説)を採った方が,戦略的には合格しやすいのではないかと考えている。

 

「私見」の結論は「合憲」とするのが無難と考えられることについては,

「平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)」

の「2」の部分を読んでいただきたい。 

 

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 (A)の論点において定立すべき規範内容やそのあてはめに関しては,次回以降のブログで述べることとする。それではまた。

 

 

 

[1] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[2] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[3] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 2 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)354~355頁〔喜田村洋一〕の「論点5」を参照。

[4] 上田健介「判批」百選Ⅱ252~253頁(116事件)。

[5] 喜田村・前掲(3)350~351頁の「論点1」を参照。

[6] この点については,次回以降のブログで論じることとする。

[7] ①特労法18条1項は,刑事訴訟法210条の犯罪の重大性の要件のような違反行為の類型の限定をしていないこと,②特労法18条1項は「充分な理由」(刑事訴訟法210条)まで要件とせず「相当な理由」とするにとどまっていること,③特労法18条4項は「48時間以内に」審査官への収容の報告をすれば足りるとされており,「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続」をしなくても良いものとされていること,④「急速を要」(刑事訴訟法210条)する程度も緊急逮捕の場合に比べると低いといえるであろうことから,(本問に憲法33条の(適用又は)準用が認められた場合には,)違憲となることがほぼ明らかであるといえよう。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(4) 原告適格再考 避難のための道路通行利益と「日常生活」

 

前々回のブログ「平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2) 原告適格の『正解』と『下位論点』」の「3」の部分で,平成29年司法試験論文行政法・設問1(1)の原告適格の論点につき,私は,厚く論じるべきメインの利益は,X2の通学のための日常生活上の道路使用の利益であると述べた。

 

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が,再度,(一部の利益について若干)検討をしてみたい。

 

平成29年の問題文2頁から3頁にかけての事実関係によると,前々回ブログ記載の(α)・(β)・(γ)の3つの事情が書かれており,それぞれについての利益がXらの原告適格を基礎づけるものかが問われていた。

前二者については,前々回のブログのとおりであり,特に考えは変わっていない。

 

しかし,次のとおり(γ)については,考え直した方が良いのではないかとも思いはじめている。他の弁護士(期が上)の先生と,本問について意見交換をさせていただいたことが,このことのきっかけとなった。

 

さて,問題とするのは,(γ)<C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xら(X1及びX2)としては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であった>という事情,同事情に関するXらの利益である。

 

当初(前々回のブログで),私は,この(γ)におけるXらの利益につき,生活上の利益(避難経路として市道を利用する利益)の問題として一応論じられるべきものといえるだろうとした上で,緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく,本問では別の避難経路(B通り)が確保されているため家屋から出られなくなるわけではなく,400メートル避難場所へ遠くなる程度では避難場所に避難できなくなるわけでもないから,個別保護要件を満たすことになるとは考えらず,よって,Xらの原告適格を基礎づけられるものとはいえない,などと述べた。

 

しかし,この「緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく」という点は,検討が不十分であったかもしれない。

 

今や,いつ日本のどこで震度6を超えるような大地震が起こってもおかしくないような状況であることにも鑑みると,災害時の避難場所(への円滑・迅速な非難)は,(日常生活の一部とまでいえなくても)日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものではないかと考えられるからである。

 

そうすると,(γ)についても,(α)と同じように,概ね次の通りの原告適格に関する論述が可能となるだろう。

 

すなわち,Xらが災害時に避難場所として指定された施設に行く(行き来する)ために道路を使用・通行する利益は,避難場所が日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものであるため,日常生活上の利益に関するものといえる。ゆえに,Xらは道路が使用できなくなると日常生活上の不利益を受ける旨主張している(①不利益要件充足)。

 

また,Xらが避難場所に行くために道路を通行する利益は,道路法71条1項1号・43条2号(,法1条)により保護される範囲に含まれるものであるといえる(②保護範囲要件充足)。

 

さらに,上記利益が著しく害されると,円滑な非難が困難となることなどから,災害時に避難者の健康状態が悪化する蓋然性が高くなるといえ,加えて,避難者が日常生活を不段通り送り続けていくことにも重大な支障が生じうることとなる。そこで,道路の使用ができなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受けない具体的利益は,一般的な公益に吸収解消されるものではなく,道路法により個別的に保護されるものと考えられる(③個別保護要件充足)。

 

本件では,本件市道を使用できなくなることによりXらとしては自宅から避難場所の小学校までの距離が400メートル遠くなるため,例えば災害時にXらが負傷した場合に,徒歩約10分余計に避難時間がかかると,怪我等の状態が悪化しかねないことから,Xらは,本件市道が使用できなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受ける者であるといえる(個別保護要件の規範のあてはめ)。

 

 

以上,(γ)についても以上のように書いてXらの原告適格を認めるべきとしておくと,設問1(1)の「重大な損害」や,設問1(2)の違法事由の主張(規制権限不行使の論点における(特に)被侵害法益の点)の点が,より書きやすくなるものと思われる。これらの論点において,間接的にではあるものの,上記のように,「健康」(あるいは「身体」,ひいては「生命))という点にも言及することができることとなるからである[1]

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(5)に続く。) 

 

 

 

[1] 「重大な損害」(行訴法37条の2第1項・2項)につき,中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)366,368頁は,回復が困難であるとの利益の性等を相当程度重視しているものと思われるところ,本問(平成29年司法試験論文行政法)でもXらの健康(や生命)にも触れられれば,「重大な損害」をより肯定しやすくなるものと考えられる。

また,規制権限不行使の論点における被侵害法益の点につき,中原・同書409頁,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)570頁等は,生命・身体(・健康)が被侵害法益となる場合に(国賠法上の違法性の話ではあるが)違法性が比較的肯定され易くなる旨説明しており,この考え方は非申請型義務付け訴訟(本問)にも妥当するだろう。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

 

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(3) 要件裁量の認否の「正解」の導き方

前回(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2))と同じく,平成29年司法試験 公法系第2問(論文行政法)の感想の続きを書き進めることとする。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

1 はじめに ~司法試験の「古典」としての要件裁量の認否~

 

本年も,複数の違法事由の認否が論点とされたが,注意すべきは裁量が肯定される違法事由よりも,裁量が否定される違法事由の点である。というのも,(行政裁量のうち)要件裁量を否定すべき(あるいは狭いものと解すべき)[1]要件・違法事由につき,裁量否定の違法事由が出題される場合は毎年のように,誤って裁量を肯定してしまうという受験生が少なからずいるように思われるからである。

 

裁量の認否(広狭)の点を誤ると,いくら同様の事実・事情を拾い,評価を加えたとしても,裁量の認否を正しく解答した他の受験生よりも,相対的に点数が低くなってしまうと考えられる(前回のブログの内容との関係でいうと,「上位論点」の設定自体を誤ることとなる)ことから,この部分については,それなりに注意を払い,確実に正解を導いておきたいところである。

 

このことは,何もここ数年の問題というものではない。むしろ,新司法試験の初期の頃から,ほかならぬ考査委員が既に指摘しているのであり,このような意味で,受験生がミスをしやすい「古典」的な論点といえる。

 

例えば,平成19年新司法試験の設問2につき,出題趣旨2頁は「実体法の問題として,入管法所定の退去強制事由に該当するという行政判断の当否を問うものである。これは,留学の在留資格に係る退去強制事由の解釈とその具体的適用に関するものであり,行政庁の広汎な裁量権が問題となるいわゆる在留特別許可に関するものではない」(下線は筆者)と明記し,さらに,同年新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要6頁では,設問2につき,「実体法,本案の問題ということになるが,出題者としては意図していなかった点,すなわち,例えば裁量統制の議論(中略)を,ここでは論じなくていいように問題を作ったはずであったが,それにもかかわらず,これらを延々と論じているものもあった。」(下線は筆者)との意見が述べられている[2]

 

平成29年の問題でいえば,誘導文(問題文4頁・弁護士D第3発言)で明記されるところの道路法432号(同法7111号)の認定・判断につき,監督処分を行う道路管理者に要件裁量が認められるかという点につき,正解筋としては,要件裁量を否定する(あるいは(狭いものと捉える)べきであった。しかし,おそらく受験生の多数派ではないだろうが,この要件につき,要件裁量を肯定するものと考え,あるいは要件裁量が認められることを当然の前提として,答案を書いた受験生がいるのではなかろうか。

 

また,昨年(平成28年司法試験)でいえば,それは設問4の建築基準法別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」の要件該当性の論点(要件裁量否定が正解)でも見られるミスであるといえる。

 

このように書いてくると,受験生の非難かと感じてしまう方もいるかもしれないが,そうではない。このブログは,そのようなミスや受験生を責める趣旨・目的に出たものではない。

要件裁量の認否についての誤解は,殆ど毎年のように生じうるものであることから,受験生が今後の司法試験や予備試験の論文行政法で上記のようなミスをしないよう,拙い助言等をしようとするものである。

 

そこで,今回は,受験生の利益のために,司法試験や予備試験の論文行政法における要件裁量の認否(広狭)の決め方という点に絞って,その解説を試みる。

 

すなわち,裁量の認否・広狭を決定するための一般的な考慮要素・考慮事項(下記2)との関係で,過去問(基本的には,平成24~28年までの5年分の司法試験論文行政法)で問題となった要件・違法事由につき,それぞれについての要件裁量の認否を検討(要件・違法事由の一部を必要に応じて検討)し(下記3),実際の司法試験における現実的な要件裁量の認否のポイント(当たりの付け方)をまとめ(下記4),その上で,平成29年の上記違法事由(道路法43条2号)についての要件裁量の認否を検討することとする(下記5)。

 

なお,効果裁量の有無の問題は,その文言の規定の仕方からすると,要件裁量の認否の論点よりも基本的には易しいものといえる(メニューがいくつか規定されており,「できる」と最後にかいてあれば,通常は効果裁量が肯定される)ため,今回のブログでは,検討対象とはしない(機会があれば別の回などに検討してみたい)。

               

 

2 裁量の認否・広狭を決定するための考慮要素(一般論)

 

 裁量の認否・広狭(範囲)を検討するに当たって考慮される要素・事項(考慮要素・考慮事項)は,論者によって若干のニュアンスの違いはあるものの,主に次の3つである。

すなわち,①処分の目的・性質,対象事項(侵害処分か授益処分か,授益処分であっても最低生活保障を図るような社会保障的処分か(そうではなく恩恵的利益の付与か),許可か特許か等を考慮する),②処分における判断の性質(当該分野や組織等の事情に通じている必要があるか,多種多様な事情を考慮する必要があるか,多元的な利益を公益又はこれと対立する私益として考慮し政策的判断を行う必要があるか),③法律の文言・処分の根拠法規の定め方等であり,このうちの1つだけで判断すべきものではなく,総合的な判断が必要とされる[3]。「3要素説」と呼んでもよいものであろう。なお,研究者の先生方は,③の法律の文言を一番先に挙げることが多いように思われる。

 

 

3 3要素説と司法試験論文行政法(過去問の検討)

 

次に,上記「3要素説」を,具体的に司法試験や予備試験の論文行政法にどのように活用すべきが問題となる。受験生としては,多くの本試験の事例に触れることで理解を図るのが良いと考えられる。

 

(1) 平成28年司法試験行政法

まずは,平成28年司法試験の検討から入る。早速,平成28年と3要件説との関係について考えたいところではあるが,その前に,出題の仕方から見てみよう。次の枠内は,同年論文行政法の問題文の一部である(下線は筆者)。

 

〔設問2〕

本件訴訟1(本件例外許可の取消訴訟)において,本件例外許可は適法であると認められるか。解答に当たっては,Xらによる本件例外許可の違法事由の主張として考えられるものを挙げて論じなさい。

 

【法律事務所の会議録】

弁護士C:次に,Xらが,本件訴訟1において主張し得る本件例外許可の違法事由としては,どのようなものが考えられますか。

弁護士D:第1に,除斥事由のあるBが建築審査会の同意に係る議決に加わっていることから,手続上の瑕疵があるという主張が考えられます。第2に,Y1市長による本件例外許可については,裁量権の範囲の逸脱,濫用があったという主張が考えられます

弁護士C:そうですね。第1については,除斥事由が定められた趣旨等を踏まえて検討してください。第2については,本件要綱の法的性質を踏まえた上で,本件例外許可についてのY1市長の裁量権の内容,範囲を検討し,説得的な主張ができるようにしてください。

弁護士D:検討してみます。

 

平成28年の問題の上記部分を見た瞬間,私は目を疑った。誘導文で「裁量」と言ってしまっているのである。行政法の法律論の根幹部分といってもよい点について,誘導があるのであるから,もはや行政法の基礎を問う気があるのか…とか,誤記なのではないかなどと感じたくらいである。

 

とはいえ,おそらく,このような年は平成28年のみであり,さすがに,平成29年ではこのような出題(会話文等での「裁量」のキーワードの明記)はなされなかった。まともな(?)行政法の試験に戻ったともいえるだろう。

 

さて,平成28年と3要件説との関係に話を戻す。仮に「裁量」の文字が明記されていなかった場合,どのように考えていくべきであろうか。前述したミスを未然に防止するため,受験生としては,この点の分析・検討を行っておく必要がある。

 

まずは,処分の性質(許可か特許かなど)との関係で,「例外許可」という「設問」の文字から,例外的に許可するものであり,特許的なものであるとして,裁量が認められると判断できるだろう。

司法試験論文では「設問」から読み始めるのが鉄則であるというのは周知のことと思われるところ,実は,この「設問」を読んだだけで,裁量ありとの当たりを付けられるわけである。あとの②・③は①の要素をいわば追認するように活用すれば良かろう。

 

(2) 平成27年司法試験行政法

平成27年司法試験では,消防法10条4項の委任を受けた(委任命令としての法的性質を有する)危険物政令9条1項ただし書について,要件裁量ないし効果裁量が認められるかが問われた。

 

正解は,認められるものと解されるということになる。

この場合は,法律が行政に「委任」をしている点,すなわち,委任が必要とされる理由は専門技術的事項に係る判断が要求されることや地域的事情に配慮する必要性等にあること[4]から,②判断の性質を決め手に裁量を肯定すべきとの結論を導けるだろう[5]

 

(3) 平成26年司法試験行政法

平成26年司法試験では,採石法33条の4の「公共の福祉に反すると認めるとき」(下線は筆者)について,要件裁量が認められるか,が問われた。

 

正解は,認められる(ものと解される)である。

 

この手のタイプの出題は重要といえる。受験生としては「公共の福祉に反する」という点(文言の抽象性の高さ)に特に目が行きがちであるが,より注目すべきは,「と認める」という文言である。

つまり,「公共の福祉に反するとき」でも別に良いわけであるが,あえて,「と認める」という文言を付加しているのである。「認める」のは行政庁(処分庁等)であるから,法律自体が行政に裁量を付与していることが分かる。

 

このように,平成26年の最大のポイントは,「と認める」という③法律の文言で裁量の認否を決すべき点といえる。

 

(4) 平成25年司法試験行政法

平成25年司法試験では,土地区画整理法21条1項4号について,要件裁量が認められるか,また,同法40条2項(←31条7号,21条2号後段等)について,行政裁量が認められるか,が問われた。関係する条文は次のとおりである(下線は筆者)。

 

土地区画整理法

(設立の認可の基準等及び組合の成立)

第21条 都道府県知事は,第14条第1項(中略)に規定する認可の申請があつた場合においては,次の各号(中略)のいずれかに該当する事実があると認めるとき以外は,その認可をしなければならない。

一 申請手続が法令に違反していること。

二 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(中略)に違反していること。

三 (略)

四 土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと。

2~7 (略)

  (経費の賦課徴収)

第40条 組合は,その事業に要する経費に充てるため,賦課金として(中略)組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。

2 賦課金の額は,組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置,地積等を考慮して公平に定めなければならない。

3~4 (略)

 

正解は,どちらについても認められない(ものと解される)である。

平成25年の問題は,やや難しい部類に入るかもしれない。

 

まず,不確定概念を用いた要件規定や,抽象的・概括的な要件規定であっても,客観的な事実に基づき,通常人の経験則に照らして判断・認定されるべき事項につき定めた要件の場合(…主に,一定の数字・数値で表しやすい場合など)判例は,裁量を認めた規定であるものとは解さない傾向があるものといえる。具体的には,土地収用の補償金の額についての「相当な価格」(土地収用法71条)[6]酒類販売免許に係る「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」(酒税法10条10号),「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」(同条11号)といった文言については,要件裁量が否定されている(あるいは裁量が狭いものと解されている)。

 

つまり,③法律の文言(不確定概念)は決め手にはならず,②判断の性質が決め手になる。

そこで,まず,賦課金の「額」といういわば「数」の文言に関する「公平に」(土地区画整理法40条2項)という点につき,裁量が認められないこととなるものと解される。

また,土地区画整理法21条1項4号の「経済的基礎」やこれとセットで規定される能力の十分性の要件について,要件裁量が否定される(あるいは範囲が狭い)ものと解される。

 

このような解釈については,同法21条1項柱書の「と認める」という文言と矛盾するのではないかという疑問が生じるだろう。

しかし,この「と認める」は,「事実」(同項柱書)の認定(事実認定)を指すものであり、事実認定は裁判所の専権事項である(少なくとも日本では伝統的に)から,事実認定には裁量は普通は認められないので,同項4号についての要件裁量も認められないということになる。なお,同項1号(「申請手続が法令に違反していること」)の場合が比較的分かりやすいだろうが,少なくともすべての号について要件裁量を肯定する趣旨ではないものといえる。

また,上記のような金額に関する問題については,「と認める」という文言があっても,経験則に照らし現在又は過去の確定した客観的事実を確認する行為であると捉えられるから,やはり要件裁量は否定されると考えるべきであろう。

 

(5) 平成24年司法試験行政法

平成24年司法試験では,都市計画法13条1項11号や同項19号について,要件裁量が認められるか,が問われた。関係する条文は次のとおりである(下線は筆者)。

 

都市計画法

(都市計画基準)

第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は,(中略)当該都市の特質を考慮して,次に掲げるところに従つて,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)

一~十 (略)

十一 都市施設は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めること。(以下略)

十二~十八 (略)

十九 前各号の基準を適用するについては,第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,かつ,政府が法律に基づき行う人口,産業,住宅,建築,交通,工場立地その他の調査の結果について配慮すること。

2~6 (略)

 

正解は,認められる(ものと解される)である。

本問では,関連する都市計画法の著名な判例が述べるとおり[7],政策的・技術的な判断が必要となることから,②判断の性質を決め手の1つにすべきであるが,受験生としては,注目すべき文言を記憶しておくべきである。

それは,「将来」,そして「見通し」(11号)という文言(←③法律の文言)である。

 

つまり,「過去裁判」か「未来裁判」か[8]という視点でみるとき,「将来」という文言はどちらかといえば,後者にかかるものといえよう。将来の予測には,政策的・専門技術的な判断が必要とされることが少なくないため,裁量が認められやすくなるのである。

 

また,19号のように,多くの事項について考慮する必要があり,それらを総合判断する必要があることが法律に定められている場合には(←③法律の文言),政策的な判断が必要とされることが多くなり,裁量が認められやすくなるといえる。

 

そこで,平成24年は,主として②・③を併せて決め手とし,裁量を肯定すべきといえる。

 

(6) 補足1:問題文における「解釈」や「判断」という語について

平成23年以前の検討については,機会があればブログで書くかもしれないが,今回はこのくらいにして,上記の過去問の検討に関して,若干の補足をする。

 

まず,平成28年司法試験論文行政法の問題文7頁には,「Xらの言い分について,法律解釈としてどのように主張を構成することができるかについて,検討してください。」という会話文中の指示があるところ,着目すべきは「解釈」あるいは「法令解釈」というキーワードである。

 

確かに,裁量が肯定される場合も,法律を解釈していることには変わらないわけであるし,また,100%確実なこととはいえないだろうが,どうやら司法試験論文行政法では,「解釈」あるいは「法令解釈」という語を,裁量が否定される(あるいは狭い)違法事由の誘導文に用いているのではないかと考えられるのである。とはいえ,この「解釈」といった語は,それだけで裁量否定の根拠とするのではなく,上記③法律の文言等による判断を補強するものとして活用するとよいだろう。

 

また,やや平成29年の検討の先取りになるが,平成29年司法試験論文行政法の問題文2頁・第4段落(「Y市長は」から始まる段落)5行目や同4頁・弁護士D第3発言1行目には,28年のように「解釈」という語は登場しないものの,「判断」というワードが記されている。「解釈」と同様に,一見,何の変哲もない語のようにみえるかもしれないが,冒頭(上記1)で触れた平成19年の出題趣旨の内容との関係で分析をしてみると,そういうわけでもなさそうである。

 

というのも,繰り返しになるが,平成19年新司法試験の出題趣旨2頁は,設問2につき「実体法の問題として,入管法所定の退去強制事由に該当するという行政判断の当否を問うものである。これは,留学の在留資格に係る退去強制事由の解釈とその具体的適用に関するものであり,行政庁の広汎な裁量権が問題となるいわゆる在留特別許可に関するものではない」(下線は筆者)と明記し,さらに前記1のとおり,ヒアリングでは,裁量の議論を「論じなくていいように問題を作った」と念を押しており,ここに「判断」及び「解釈」というワードが2つとも登場するのである。

おそらくだが,出題者としては,「判断」や「解釈」というキーワードを(前述したとおり,行政法学上必ずしも論理必然のことではないが)裁量を否定する違法事由の説明・誘導の場合に用いる傾向があるといえるだろう。

 

(7) 補足2:罰則規定について

また,平成19年のヒアリングは,問題となった退去強制事由の有無に関し,「本問の事案で言うと,留学生の資格外活動という,それ自体かなり客観的法則性の強い事由にかかわるもので,法律はそれについて刑罰の対象にまでしているというものであるから,およそ行政庁の裁量を論ずるような話ではないはずで,そのようなことを看過していると思われる」としている。このように,③法律の規定の一内容となるものであるが,司法試験では,要件規定の違反行為が罰則の対象になっていることも,裁量を否定する一要素となる。

 

(8) 補足3:行政規則との関係について

さらに,平成26~29年がそうであるが,法令以外の行政規則(行政手続法上の審査基準又は処分基準)が問題文に書かれた場合,100%の確率で,その行政規則と関係する処分要件等の規定の文言には裁量が認められる(よって当該行政規則は裁量基準である)ものと解される出題が続いている。

 

そのため,行政規則の存在を決め手に,裁量を肯定すると考える受験生も出てくるのかもしれない。しかし,それはリスキーであろう。なぜなら,平成30年以降は,裁量が否定される場合の解釈基準が掲載されることも十分に考えられるからである(なお,今回のブログでは解釈基準が出た場合の処理について検討はしないが,別の機会に検討を加えたい)。

 

 

4 小活 ~過去問の検討結果~

 

長くなってしまった。未だ平成29年の問題すなわち43条2号の要件裁量が否定される理由の話まで進んでいないが,上記過去問の検討結果等につき,簡単にまとめてみたい。

 

まず,上記過去問の中には,①処分の性質や②判断の性質に相当程度着目し,裁量の認否を検討したもの(要件・違法事由)があったことは間違いない。しかし,①も②も,政治的政策的判断や,専門的技術的判断などが必要とされるか,逆に,上記3(7)の平成19年ヒアリングにもあるとおり,客観的法則性の強い事由にかかわる要件といえるかという実質を重視するものといえるところ,多かれ少なかれ,行政作用には,政策的判断や専門的技術的判断な判断が要請されるため,はっきり言って,①や②は司法試験では決め手にならない(不明確な要素であり,決め手とすべきではない)のではないかと思われる。

 

ゆえに,結局,3要素説の要素のうち司法試験との関係で,一番の決め手となるものは,(消去法的ではあるが[9]③法律の文言であるということになる(ただし,本来学説が想定する文言よりも広い意味での文言、規定の仕方・内容という意味での「法律の文言」ということになると思われる)。もちろん,③は独立した要素ではなく,①・②と関係するものではあるが,③は①・②よりも明確な要素といえるだろう。憲法でいえば,(不正確な使い方かもしれないが)「文面審査」に近い方法で判断すると良いということである。

 

要件裁量の認否の当たりの付け方についてまとめると,次の通りとなる。

③の要素だけで要件裁量の認否を決するわけではない(前記2)ため,答案には①・②のことも書くわけであるが,まずは,③で当たりを付ける必要があり,その際のポイントをまとめたものが次の枠内の内容となっている(ゆえに,逐一次の(Ⅰ)~(Ⅷ)を答案に書いていくわけではない)。

 

【要件裁量の認否の当たりの付け方】

 

(Ⅰ)「と認める」をいう文言があるか

(Ⅱ)「将来」「見通し」という文言があるか

(Ⅲ)「例外(許可)」というような特許的な行政処分を推察させる文言があるか

(Ⅳ)考慮事項が多数(4~5つ以上)規定された文言があるか

(Ⅴ)命令・条例への委任があるか

 

(Ⅵ)金額についての文言があるか

(Ⅶ)当該要件に係る禁止行為が刑罰規定の対象とされているか

(Ⅷ)「解釈」や「判断」というキーワードが会話文(会議録)等に書かれているか

 

★(Ⅰ)~(Ⅴ)につき,○(各文言がある)の場合には,裁量を肯定すべき

★(Ⅵ)~(Ⅷ)につき,○(文言があるなど)の場合には,裁量を否定すべき

 

なお,3要素説と予備試験論文行政法との関係を検討した上で,その検討結果を上記枠内の内容に入れ込んだ方がより丁寧かもしれないが,それについては他日を期することとしたい。

 

5 平成29年司法試験行政法道路法43条2号)の検討

平成29年司法試験論文行政法では,道路法432(←同法71条1項1号)の認定につき,監督処分を行う道路管理者に要件裁量が認められるかが問題となっている。

すなわち,本件フェンスの設置が同号の「みだりに(中略)道路の(中略)交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」にあたるかが問題となる。前記4の8つのポイント((Ⅰ)~(Ⅷ))のうち,特に問題となるもの(次の4つ)を,道路法43条2号の要件にあてはめてみよう。

 

(Ⅰ)「と認める」をいう文言があるか

          → ない(「虞のあると認める行為」などとは規定されていない)

(Ⅳ)考慮事項が多数(4~5つ以上)規定された文言があるか

          → ない(特に「…虞のある」に係る考慮事項が規定されているわけではない)

 

(Ⅶ)当該要件に係る禁止行為が刑罰規定の対象とされているか

           → されている(道路法102条3号)

(Ⅷ)「解釈」や「判断」というキーワードが会話文(会議録)等に書かれているか

   → 書かれている(問題文2・4頁に「判断」とある)

 

よって,正解筋としては,要件裁量を否定すべき(あるいは(狭いものと捉えるべき)ということになり,既に注(後掲の注)(1)で触れたとおり,裁量(権)の逸脱・濫用の審査ではなく,判断代置的審査によって違法性を判断すべきこととなる。なお,①・②の要素との関係につき,特に答案に書くべきことは,客観的法則性の強い事由が規定された要件(専門技術的判断が必要とされないか,あるいはその程度が低い)と考えられるということである。

 

ちなみに,路線の廃止又は変更についての道路法10条1項は「(前略)市町村長は,(中略)市町村道について,一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合においては」と規定するところ,(Ⅰ)「長は」・「と認める」という文言から,比較的容易に要件裁量が認められるとの当たりをつけることができる。

 

6 おわりに ~違法事由論の‘最初の分かれ道’を正しく進もう~

 

このように,今回のブログで書かれているレベルの過去問の検討をしておけば裁量の認否という,いわば違法事由の問題の‘最初の分かれ道’で,間違った方の道に進まずに済むわけである。

 

受験生としては,裁量を肯定した後の裁量権の逸脱濫用の規範(あるいは,裁量を否定したあとの判断代置的審査の規範)の話に特に目が行きがちであり,確かにそれも重要ではあるが,まずは,極限状態に置かれる本試験であっても,裁量の肯否・認否の点を正しく解答できるように,裁量の肯否・認否の考慮要素に関するポイントをしっかり押さえておくべきであろう。私の拙い過去問分析とその結果(まとめ)を参考にしていただければ幸甚である。

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(4)に続く。) 

 

 

 

[1] 高橋信行(平成29年司法試験考査委員(行政法))『自治体職員のためのようこそ行政法』(第一法規,平成29年)102頁等は「裁量を認める・広く認める」場合と,「裁量を認めない・狭く認める」場合とを分け,前者につき「司法審査は緩やかになる」とし,後者につき「司法審査は厳しくなる」とする。前者については,裁量(権)の逸脱・濫用の審査を,後者については判断代置的審査をすることとなるといえる(中原茂樹(元司法試験考査委員(行政法平成27年まで))『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)128頁以下等参照)。

[2] なお,同ヒアリングは「裁量統制を論じている者が非常に多かったが,法科大学院で必ず教えるのがマクリーン判決であるため,外国人,入管法というと,もうこれは裁量の問題だというふうに思い込んでしまう者が多かったのだと思われる。しかし,本問はそうではなく,問題となっているのは退去強制事由の有無であり(中略)およそ行政庁の裁量を論ずるような話ではないはず」であり,「この点は,作題のときから,裁量統制の答案が出てくるであろうということは予想されていたし,法科大学院でこの条文そのものについて必ずしも教えているわけではないため,それを裁量処分だとする記載があっても,それだけでは減点の対象とはしないことにしようということは,考査委員の間で申合せをしていた。」(下線は筆者)とする。しかし,平成19年は,外国人・入管法についてマクリーン判決であることなどから,裁量を認めただけでは減点対象としないと説明しているわけであり,他の個別法にはこの話は必ずしも妥当しないことに加え,一度考査委員がヒアリングで注意したのであるから,仮に同様の入管法等の要件裁量の認否が問われた場合に裁量の認否を誤ると,それだけでも減点対象となる蓋然性は大いにあるものと考えられる。

[3] 川神裕「裁量処分と司法審査(判例を中心として)」判例時報1932号11頁(2006年)参照。なお,山本隆司「日本における裁量論の変容」判例時報1933号14頁(2006年),同『判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)221頁,中原・前掲注(1) 130頁以下,高橋・前掲注(1) 102頁等も参照。山本・前掲「日本における裁量論の変容」14頁は,法律の運用によって権利利益が侵害される程度ないし侵害される権利利益の要保護性が高ければ高いほど(この判断の際には憲法の基本権利が考慮される),行政裁量は認められにくくなる旨説く。この点は,川神・前掲文献11頁の「処分の目的・性質,対象事項」の要素のところで考慮しうるものと解される。

[4] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第5版〕』(有斐閣,2013年)270頁参照。

[5] 高橋・前掲注(1)124頁等参照。

[6] 土地収用法71条につき,最三小判平成9年1月28日判時1598号56頁。酒税法10条10・11号につき,最二小判平成10年7月3日判時1652号43頁。

[7] 最一小判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁,日野辰哉「判批」宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2012年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)160~161頁(79事件,小田急訴訟上告審本案判決)参照。

[8] 藤田宙靖 「自由裁量論の諸相―裁量処分の司法審査を巡って―」日本學士院紀要70巻1号77頁(2015年)参照。ただし,同頁は,原発許可取消訴訟のような「将来の文明の進路の選択に係るような」裁判が「未来裁判」であるものとしているため,筆者(本ブログの筆者)は,司法試験との関係で,「未来裁判」の意義ないし射程を広く捉えるものである。

[9] 稲葉浩志(作詞),B’zlove me, I love you』(1995年)も,「消去法でイケることもある」としている。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等に属する(あるいはこれを卒業・修了した)学生・司法試験受験生を指すものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,この点につき,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2) 原告適格の「正解」と「下位論点」

今週は様々な「意見交換会」が続き,ここのところ中々更新できなかったが,今回は,平成29年司法試験 公法系第2問(論文行政法)の感想の続きを書き進めることとする。なお,行政法の方に筆者の興味が移ってしまったことから,平成29年司法試験 公法系第1問の感想は(1)から(5)まで書いたが,お休み中である。

 

さて,前回ブログでも述べたが,行政法は誘導がかなりある上,出題趣旨や採点実感も比較的具体的に詳しく書かれているので,毎年のことではあるが,同じ公法系科目でも憲法とは異なり,問題の解説は誰がやってもそれほど大きくは変わらない部分が多いだろう[1]

 

しかし,少数とは思うが,論点によってはそうでもなさそうである。

そこで,今回は,司法試験にここのところ4年のうち3回出題されている[2]「常連論点」の被処分者以外の者の原告適格の論点を中心に感想を述べたいと思う。なお,基本的には原告適格の話をするわけだが(下記1~3),原告適格と同じく,非申請型義務付け訴訟(1号義務付け訴訟)の訴訟要件である「重大な損害」の話についても最後に少しだけ触れることとする(下記4)。

 

1 司法試験論文における「正解」 ~上位論点と下位論点~

 

原告適格の話に入る前に述べておきたいのは,司法試験論文における「正解」のことである。

 

司法試験論文には「正解がない」などと言われることがあるところ,確かに,「正解」が結論の当否を意味するものであれば,設問等で指示がない限り,基本的には上記格言(?)は正しいものであることが少なくない。

例を挙げると,行政法の各違法事由の話では,最終的な結論を違法とするか適法とするかはどちらでも良く,結論がどちらかにより得点差がつくことは多くない。他方,その理由付けの説得力の程度によって評価が決まる場合が殆どといえる。

あるいは,訴訟要件の話でいえば,ある訴訟要件を認めるか認めないかにつき,結論はどちらでも良く,その理由付けに点数がふられているわけである。もちろん,判例学説上ほぼ争いがないことなどから,あまり問題にならないような訴訟要件を書かなければならない場合もあり,そのような場合には,結論も判例等の立場に合致していることが必要となる。

 

しかし,司法試験論文では,①答案に論じるべき論点を設定した上で,②その論点の中で特に問題となる事項(それが1つとは限らない),すなわち,いわば論点の中の論点(以下「下位論点」という。また,上記①の「論点」を「上位論点」という。)を選定し,その下位論点を(も)ある程度丁寧に論じる必要がある。そして,この意味では,司法試験論文には,「正解」があるといわなければならない。

 

さらに言えば,概ねE評価以上の答案の多くは,①上位論点の点では差がつかず,②下位論点のところで差が付くのである。

私も司法試験受験生時代に,同じ「論点」を書けているのになぜ上位答案と下位答案があるのかという疑問に直面したことがあるが,そこで言われる「論点」とは,①上位論点のことを指すことが圧倒的に多かったわけである。

 

確かに,①上位論点を落とせば,いわゆる「死因」(大きなミス)と言われるわけで,それでは合格答案には届かなくなる蓋然性が相当程度高くなる。

しかし,②下位論点の選定を誤った場合にも,それなりの得点差がつくものと思われる。実際の合否・当落のラインは,むしろ,②下位論点の選定が正しかったかで決まると考えておくべきであろう。②正しい下位論点まで選定できていること,そこまで明記できていることが司法試験における「正解」なのである。

 

そして,②下位論点を正しく見つけられるかについては,当該上位論点に関する一定程度の深い理解が必要となる。抽象論の前置きはこのくらいにして,以下,原告適格という上位論点につき,具体的に,その下位論点に関する解説を試みる。

 

2 原告適格の下位論点 ~厚く論じるべき利益の選定~

 

被処分者以外の者の原告適格の認否という①上位論点における②下位論点として,最も重要なものは,何の利益について中心的に論じるべきかである。この点を正しく理解できているか(それが答案に表現されているか)という点に,上記1の意味での「正解」が存するといえる。

 

その前提として,前回のブログの一部を殆ど繰り返すが,被処分者以外の者の原告適格については,以下の枠内の論証パターン(ただし,長めのversion [3])が通用する。

  この点につき,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,かかる利益が認められるには,行訴法9条2項の考慮事項に照らし,①当該処分が原告を含む不特定多数者の一定の具体的利益に対する侵害を伴うものであること,②その利益が当該処分の根拠法規(当該処分に関する個々の立法)により保護される利益の範囲に含まれるものであること,③その場合の根拠法規(立法)の趣旨が,その利益を一般的公益としてではなく,原告ら自身の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える。

 

このように,答案には,上記論パを貼り付けた後,上記①の不利益要件の話,あるいは原告が主張する利益の内容の話を,まずは書くべきこととなる[4]

そして,受験生としては,(a)原告適格に関する近時の最高裁判例の大まかな流れ(主に行訴法9条2項の第2の必要的考慮事項(利益の内容・性質論)原告適格(個別保護要件)の認否に関する判例の流れ)と,(b)司法試験論文行政法の出題傾向を知っておく必要があるだろう。そうでなければ,前回のブログ述べた「早押しクイズ」としての司法試験行政法に十分対応できず,迅速に厚く書くべき下位論点を選定することは困難だからである。

 

(1) 判例の流れ

まず,上記判例の流れについては,平成16年行政事件訴訟法改正の前後で大別するのが一般的であろうが,ここでは,司法試験との関係で特に必要な改正後の流れについて述べることとし,また,以下の(ⅰ)~(ⅲ)の3つの利益に分類・整理をし,それぞれに関係する判例の要点を押さえることとする。

研究者の先生方の基本書等のうち,この3分類が明記されているものは多くはないように思われるが,司法試験論文行政法を分析してきた結果,試験に合格することとの関係では,それなりに使える分類ではないかと思われるので,受験生の皆様において参考にしていただけると幸甚である。なお,この3分類は,取消訴訟原告適格(行訴法9条1項(・2項))だけではなく,平成29年で問われた非申請型義務付け訴訟の原告適格(同法37条の2第3項・4項・9条2項)でも使える話である。

 

(ⅰ)私益1:生命・身体(健康)

生命・身体(健康)という私的利益(私益:公益との対比で用いている)については,直接的かつ重大な(あるいは,著しい)被害を受ける者については原告適格が認められるものとされてきた[5]

また,原告適格を肯定するための条文上の根拠は,次の(ⅱ)の場合ほどには厳格に要求されてこなかったものといえる。手がかりとなる明確な根拠法令の根拠規定・条文がない場合であっても,利益が害された場合に上記被害を受けるリスクがあるといえる場合には,判例は概ね個別保護性を肯定してきたわけである。

なお,この立場は上記改正前後であまり変わっていないものと思われる。

 

(ⅱ)私益2:財産・営業上の利益

財産に係る利益・営業上の利益(憲法では29条や22条の問題)については,(ⅰ)よりも条文上の根拠が厳格に要求される。長くなるため詳しい解説は控えるが,都市計画法1条には「財産」と書いていないが,建築基準法1条には「財産」と書いてある点を重視し,最高判判例の結論が分かれた(川崎市開発許可事件[6]で肯定,千代田生命総合設計許可事件[7]で否定)とする理解もあるくらいである。

 

そして,(ⅰ)と(ⅱ)は,個々人に帰属する私人の利益・私益であり,不特定多数人の者の利益・公益とは対極にある利益概念といえる。

 

(ⅲ)生活利益等

最後に,純粋な私益とはいえないもの(公益と私益との中間的な利益と位置付けるべきもの)だろうが,生活環境・住環境,交通・教育・風紀,都市環境・景観等に係る利益について,判例は微妙な立場をとっている。

 

すなわち,最高裁は,平成16年改正法以降も,(広い意味での)生活環境・住環境等に関する住民の利益について,原告適格(個別保護要件)を積極的に肯定してきたとまではいえない。例えば,具体的な生命・健康の被害を受けない利益と直ちには言えなくても[8],いわゆる(あ)嫌忌施設の周辺住民が同施設から生じる騒音等の被害(ストレス等)を受けない住民の[9]利益や,(い)交通・風紀・教育に関する住民の利益,(う)都市環境・景観に関する住民の利益については,原告適格が肯定されることはそれほど多くはない[10]

 

ちなみに,(ⅲ)の生活環境に係る利益の「生活」とは,日常生活を意味するものと考えられる。これに対し,(ⅰ)の利益は,逆のいわば非日常のケースのもの(例えば,隣の違法建物物が震度4程度の地震で倒れてきて,自己の家屋や生命・身体に被害を受けるような場合の利益)といえるのではないだろうか。

 

やや繰り返しになるが,この日常生活における(ⅲ)生活環境等に係る利益は,非日常における(ⅰ)の健康に係る利益と,極力,区別されるべきものであろう[11]

そこで,答案では,上記①の不利益要件を検討する段階で,(ⅰ)の利益の問題として論じ始めるのか,(ⅲ)の利益の問題として論じ始めるのかを明記すべきである。この最初の①不利益要件(利益の内容・性質の選定)のレベルに,合否・当落のボーダーラインがあると言っても過言ではないと思われる。

 

例えば,日照に係る利益についての最高裁判例[12]があるが,基本的には,この利益も,まずは(ⅲ)の利益の問題(行訴法9条2項の第2の必要的考慮事項)として検討を始める必要があろう。日照侵害に伴い「健康」被害が生じうることはあるかもしれないが,日照に係る利益は,一般的には直ちに健康被害につながるものではないため,①不利益要件の段階では(ⅰ)の利益ではなく,(ⅲ)の利益の問題として検討を始め,その上で,(②保護範囲要件又は)③の個別保護要件の段階で,その利益が侵害された場合の被害の程度等(行訴法9条2項の第4の必要的考慮事項)として,健康被害につながりうる重大な利益侵害となるとの論述をすべきものといえる。①の段階から「健康」被害を強調することは,(ⅰ)と(ⅲ)の利益の性質を理解できてないものと採点者に評価されるリスクがあると思われる。

 

ちなみに,同判例の調査官解説[13]は,総合設計許可制度の処分要件を定めた規定について次のとおり説明をする。「建築基準法59条の2第1項は,建築される建築物の規模,形態を抑制し,建築される建築物の敷地上に必要な空聞を確保することにより,周辺の他の建築物を保護し,これを通じてその居住者,所有者の個別,具体的利益の保護を図るものである。このようにして保護される個別,具体的利益には, 同項に基づく総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物が含まれると解される(第三小法廷判決)が,これらに尽きるものではなく,災害の発生とは無関係に当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康も含まれるものと解するのが相当である。本判決〔筆者注:最一小判平成14年3月28日〕はそのことを明らかにしたものである。」と。

この判例の読み方は一様ではないかもしれないが,「当該処分において考慮されるべき利益」(行訴法9条2項)を「日照」として捉え,同利益が原告から主張される利益であるとして上で[14],法令違反があった場合に「害されることとなる利益」が日照を阻害される周辺住民の「健康」であることに鑑み,一定の範囲で原告適格を認めうるとしたものと解される。

 

ただし,航空運送事業大規模な工事を伴う事業に伴う騒音等が生じるケースについては,健康と生活環境を分けて論じにくいものと思われる。この点については,著名な小田急高架訴訟大法廷判決[15]が,都市計画事業の認可に関する規定につき,「事業地の周辺地域に居住する住民に対し,違法な事業に起因する「騒音,振動等」によってこのような「健康又は生活環境」に係る著しい被害を(直接的に)受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されると判示しているため,大規模な事業ケースに関しては,①不利益要件の段階から,健康と生活環境を一緒に論じてしまってもよいのかもしれない。しかし,私としては,このようなケースであっても,問題文や弁護士等による会話文(誘導文)に照らし,原告が特に生活環境に係る利益の主張をしているということが分かれば,まずは生活環境に係る利益を①不利益要件のところで書き,③個別保護要件の段階で「健康」被害やその程度等に言及した方が良いのではないかと考えている。

 

なお,一般消費者の利益や学術研究者の利益については,最高裁原告適格を否定する[16]ため,このような利益が司法試験で問われることは,中々ないだろうが,配点の小さいサブの問題(サブの「下位論点」)として問われる可能性はあろう。

 

(2) 司法試験論文行政法の出題傾向(原告適格に関する頻出「下位論点」)

 

次に,司法試験論文行政法の出題傾向,つまり,原告適格につき,良く出る「下位論点」の話をする。

 

平成18年以降の(新)司法試験論文行政法では,(ⅰ)の私益が問われることは少なく(薄く書くべきサブの下位論点では聞かれるが,メインでは聞かれないと言う意味),逆に,(ⅱ)・(ⅲ)の利益が答案に書くべき下位論点として出題されやすいという傾向がある。

(ⅰ)の話が全く問われないというわけではない(実際に平成21年ではメインの下位論点として聞かれている)が,司法試験では,認否の結論が分かれ得る問題が出る(前記1)ことからすれば,(ⅱ)・(ⅲ)が出やすいという傾向は自然なことといえるだろう。

 

まとめると,次の枠内のとおりとなる。

 

 〔被処分者以外の原告適格の認否と出題の傾向〕

 

(ⅰ)私益1:生命・身体(健康)

    → ○(~△)

     / 司法試験ではあまり出ない(①H21(F,H))

 

(ⅱ)私益2:財産に係る利益・営業上の利益

    → △(基本的に条文の根拠が必要)

     / 司法試験に出やすい(①H21(G),②H23(X1),③H26)

                      

(ⅲ)生活環境・都市環境・景観に係る利益,風紀に係る利益等

    →  △~× / 司法試験に出やすい(①H23(X2),②H28,③H29(X2))

 

(ⅳ)その他:親の子どもの身体の安全等に関する精神的利益

    → × / 司法試験にあまり出ない(①H21(I))

 

  ※○=認められやすい

   △=認められる場合の方が多いが,認められないこともある

   ×=そう簡単には認められない

 

  ※H●●は,その年にメインの下位論点として問われたことを意味するものである。

   例えば,H29=平成29年ではX1の利益として(ⅳ)が一応問われていると考えることもできなくはないが,仮に問われているとしても,メインの下位論点として問われているわけではなく,サブの下位論点として出題されているものである(配点が低いため,最悪書き落としてもよいレベルのものだろう)。

 

 

以上のことから,司法試験論文行政法では,論じるべき下位論点が(ⅰ)でななく(ⅲ)なのではないかというある種の予断(ここでは決して悪い意味のものではない)をもって問題文を読む方がよいのではないかと思われる。

 

 

3 平成29年の下位論点(厚く論じるべき利益)

(1) 厚く論じるべきメインの利益は,通学のための日常生活上の道路使用の利益

平成29年の問題文2頁から3頁にかけての事実関係によると,次の(α)・(β)・(γ)の3つの事情が書かれており,それぞれについての利益がXらの原告適格を基礎づけるものかが問題となっている。

 

まず,(α)X2は,C小学校への通学路として本件市道を利用しており,C小学校まではB通りを通っても行くことができるが,周辺の道路状況から,本件市道を通るほうが,C小学校までの距離は約400メートル短いものとされている。

 

そして,問題文8頁の最一小判昭和39116民集18巻1号1頁の「自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用」・「日常生活上諸般の利益」(下線は筆者)という判示を参考に考えるべきことや,同判例の詳細な解説[17]の内容,さらに,上記2の判例の流れ及び司法試験の出題傾向に照らせば,X2の(ⅲ)の生活上の利益がメインの下位論点(配点が高いもの)となるものと考えられる。

 

逆に,(ⅰ)の「生命・身体」の利益等はサブの下位論点にとどまり,配点は低いだろう。

すなわち,(β)普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で,B通りよりも本件市道のほうがX2にとって安全であるとX1が考えているという点については,上記まとめにおける(ⅳ)のX1(親)の精神的な利益の問題といえる。また,仮に(ⅰ)のX2の生命・身体の安全が問題となっているとしても,直接的かつ重大な被害を受けるおそれを推察させる事情は本問には出てきていないと思われる。

したがって(β)の事情に関する利益((ⅳ),(ⅰ))は,サブの下位論点の話であり,配点は低い。

なお,会話文の冒頭部分(問題文4頁・弁護士D第1発言)からすると,(β)の利益については論じなくてもOKといえるかもしれない(ただし,次の(γ)の事情に係る利益については短く論じる必要がある)。

 

さらに,(γ)C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xらとしては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であったとの点については,(ⅲ)の生活上の利益(避難経路として市道を利用する利益)の問題として一応論じられるべきものといえよう。

しかし,緊急避難は日常の問題ではなく,本問では別の避難経路(B通り)が確保されているため,家屋から出られなくなるわけではなく,400メートル避難場所へ遠くなる程度では避難場所に避難できなくなるというわけでもないから,個別保護要件を満たすものとは考えらず,ゆえに,Xらの原告適格を基礎づけられるものではない。

また,災害時といっても隣の家が直ちに倒れてくるという場合を前提とするものではないため,仮に(ⅰ)のXらの生命・身体の利益の問題と捉えたとしても,直接的かつ重大な被害を受けるおそれはないから,(ⅰ)の利益の問題と捉えたとしても,やはり原告適格を基礎づけることはできない。

 

なお,(γ)については,平成21年の過去問(建築基準法等)の接道要件に関する話と混同してしまうと,(γ)(あるいは(β))の事情に係る諸利益がメインの下位論点となるものではないかと誤解してしまうこととなるように思われ[18],注意が必要である。

 

したがって(γ)の利益も,(β)の利益と同じく,サブの下位論点の話であり,配点は低い。

 

(2) 答案のポイント

 

以上より,平成29年司法試験論文行政法では,(α)のX2が小学校に通うために日常的に道路を使用・通行する利益(:(ⅲ)の生活上の利益)をメインの下位論点として厚く書くべきであり,①不利益要件の段階で,この点を明記すべきである。逆に,(β)及び(γ)の話は薄く触れる程度(原告適格は否定)で良いだろう。

 

その上で,②保護範囲要件のレベルでは,道路法71条1項1号・43条2号(,法1条)に言及し,小学生が通学のために日常的に道路を使用・通行する利益が道路法により保護される範囲に含まれるものであることを指摘する必要がある。

さらに,③個別保護要件の段階で,同利益が著しく害されると,小学生が自宅での勉強やそれ以外の諸活動に充てられる時間が減り(月単位・年単位でみると相当な時間のロスとなる),日々の学習等(小学生の生活上必須の行動)にも支障が生じると考えられることから,通学のために道路の使用ができなくなることにより日常生活に係る著しい被害を受けない具体的利益は,一般的な公益に吸収解消されるものではなく,法により個別的に保護されるものといえるなどと書くべきである。

 

加えて,(α)X2の利益については,「400メートル」という事実をいかに評価するかがポイントとなる。往復で800メートルとすると,小学生の足では徒歩10分程度といえよう(自転車通学は危険であるから禁止されていると思われる)。週に5日で約1時間弱の時間を通学時間に取られるとなると,上記のとおり日々の学習等にも著しい支障が生じると思われる。したがって,X2は通学のために本件市道を使用できなくなることにより日常生活に係る著しい被害を受けることとなるものといえるから,X2には原告適格が認められる。

 

他方,上記(1)のとおり,X1の話はサブの下位論点であり,X1には原告適格が認められないということになるだろう。

 

 

4 重大な損害について

最後に,「重大な損害」(行訴法37条の2第1項(・2項))の論点について,簡単に述べておく。

 

条文(行訴法37条の2)で出てくる順番には反するが,考査委員である中原教授の検討順序[19]等からすると,原告適格の話を先に,重大な損害の話を後に書くべきである。

 

★追記(平成29年司法試験論文式試験出題趣旨公表後)★ 

 出題者は重大な損害の話を先に,原告適格の話を後で書いてほしいと考えているようである(平成29年司法試験出題趣旨3頁・本文第2段落,第3段落以下)。条文(行訴法37条の2)の順番のとおりに書くべきということだと思われる。

 

重大な損害は,原告適格が認められるよりもハードルが高いものと考えられる[20]が,本問では,X2が現実に通学路として使用していることに加え,X2の上記日常生活の利益に係る著しい支障は,小学生の成長発達(憲法26条1項参照)にも相当適度の支障を生じさせるおそれがあり,子どもの成長発達は金銭的には評価しえない,かけがえのない利益であるから,「重大な損害」が認められるといえることになるだろう[21]

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(3)に続く。) 

 

 

 

[1] 大島義則『行政法ガール』(法律文化社,2014年)202頁も,同主旨のコメントをしているように思われる。同頁は,「『もうそこに,ほどんど答えが書いてあるんじゃないのか』というほど強烈な『誘導』がある」,「行政法の問題では『設問』と『誘導』に基づいて整理すれば,ほとんど一義的に大まかな答案構成が決定される」としている。なお,当職が今更述べるまでもないことではあるが,同書は司法試験論文行政法を分析・理解するのに極めて有用な書籍である。念のため付言すると,『行政法カール』ではない。注意されたい。

[2] 被処分者以外の者の原告適格の認否は,予備試験も併せてカウントすると,平成25年からカウントして5年のうち4回出題も出題されている頻出論点である。

[3] 判例の定式をパラフレーズしたもので,元司法試験考査委員の山本隆司先生が言及される立場(小早川光郎先生の立場)を参考にしたものである(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)433頁参照)。ちなみに,論証における①は不利益要件,②は保護範囲要件,③は個別保護要件と呼ばれる。書き易く,かつ,あてはめもし易いものと思われ,オススメである。ちなみに,平成21年論文公法系論文5番以内=160点台,論文総合1位合格者答案も似たような規範を書いている。なお,①部分については,「当該処分により不利益を受け,または受けるおそれがあること」としてもよいだろう。

[4] 最高裁判例は必ずしも①→②→③という流れで判示していないように思われるが,①→②→③の順で書く方が,論者の思考過程が考査委員に伝わりやすいことから,答案ではこの流れで書くべきものと思われる。

[5] 例えば,最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁,大西有二「判批」宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣,2012年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)354~355頁(171事件,もんじゅ事件)。

[6] 最三小判平成9年1月28日民集51巻1号250頁。

[7] 最三小判平成14年1月22日民集56巻1号46頁,百選Ⅱ364~365頁(176事件)〔仲野武志〕。なお,同じく総合設計許可制度に関する東京地判平成23年9月30日判時2156号30頁の判例評釈として「建築基準法上の総合設計許可処分に際しての公開空地の有効係数評価と特定行政庁の裁量」自治研究89巻11号114頁。

[8] 福島第一原発の異常確認後に繰り返し言われ続けられた「直ちに健康に影響はない」との格言を想起することにより,記憶の補助とすべきである。

[9] 「住民」の利益であって,事業者の利益とは区別されるべきである。事業者の利益は,基本的には(ⅱ)の営業上の利益に位置付けられるものと解される。ちなみに,後掲注(10)・サテライト大阪事件最高裁判決は,医療施設等の開設者の「健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益」(下線は筆者)について判示しており,平成21年司法試験論文行政法の学校法人X1の原告適格についても同様に問題とされるべき利益(「文教上の利益」(出題趣旨2頁))が出題された。この「文教上の利益」は,上記判示に照らすと法人の「業務」についての利益であり,主として営業の利益であるものと捉えられるだろう。

[10] 最一小判平成21年10月15日民集63巻8号1711頁,勢一智子「判批」百選Ⅱ368~369頁(178事件,サテライト大阪事件)等参照。なお,(あ)~(う)をいっしょくたに論じることには問題があるとの批判もあろうが,司法試験では弁護士等による会話文(誘導文)があることなどから,試験合格との関係では,それほど大きな問題はないだろう。

[11] ただし,このような見解か正しいか否かについては十分な検証ができていない。

[12] 最一小判平成14年3月28日民集56巻3号613頁。

[13] 髙世三郎「判解」最判解民事平成14年度(上)307頁。

[14] 髙世・前掲注(13)307~308頁等参照。

[15] 最大判平成17年12月7日民集59巻10号2645頁,百選Ⅱ366~367頁(177事件)〔横山信二〕。

[16] 前者につき,最大判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁,岡田周一「判批」百選Ⅱ294~295頁(141事件,主婦連ジュース事件)。後者につき,最大判平成元年6月20日判時1334号201頁,平田和一「判批」百選Ⅱ358~359頁(173事件,伊場遺跡訴訟)。

[17] 石井昇「道路の自由使用と私人の地位―路線廃止等における反射的利益―」小早川光郎=高橋滋『行政法と法の支配』(有斐閣,平成11年)13頁以下。なお,同書は南博方先生の古稀記念論文集である。

[18] この点に関し,石井・前掲注(17)25頁以下参照。

[19] 中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)(363~)368頁。同様の順番で検討するものとして,神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)221~222頁。なお,宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015年)344~345頁は,これらの文献とは逆に,条文の項数の順に従い,原告適格よりも重大な損害を先に挙げている。

[20] 中原・前掲注(19)367~368頁参照。

[21] 「重大な損害を生ずるおそれ」と認められる場合はどのような場合かにつき,小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)126~129頁〔横田明美〕,及び同文献掲載の各判例・裁判例等を参照。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を,憲法21条1項(表現の自由)に基づき書いているものですので,この点につき,ご留意ください。

 

 

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(1) 「早押しクイズ」としての司法試験行政法

平成29年司法試験 公法系第1問の感想は(1)から(5)まで書いたが,途中で少し飽きてきたので,今回は,予定を変更して,平成29年司法試験 公法系第2問(論文行政法)の感想を述べてみたい。

 

行政法は誘導がかなりある上,出題趣旨や採点実感も比較的具体的に詳しく書かれてので,ほぼ毎年のことではあるが,(憲法と異なり)問題解説は誰がやってもそこまで大きくは変わらないと思われる。そこで,問題の本筋からは大きく外れる内容のものも相当程度交えつつ,私個人の感想を述べることとする。

 

 

1 第一印象

 

平成29年司法試験論文行政法を見て,最初に感じたことは,次の3点である。

やはり当職は,普通の研究者ではないのかもしれない。

 

①X1の覚悟について

よくXらは「訴訟」まで提起したいと考えてくれた。この事案で,そしてこの日本社会で,ここまで闘う市民が実際にいるのだろうか。

 

というのも,本問の各訴訟は,小学生(X2)を巻き込んでの訴訟である。

違法事由等を立証するために,場合によっては,小学生の陳述書を巻いたりすることもあるのかもしれない。

また,いかに親権者(X1)がいるとはいえ,X2が原告の一人となる以上,X1だけにすべて訴訟に関する説明をするというわけにもいかないだろう。そこで,例えば,受任する際などには,X2も法律事務所に来てもらって,これからあなたは訴訟の原告になりますとか,あなたはX1と一緒に住んでいる自治体相手に訴訟をしますとか,あるいは簡単でも訴訟とは何かくらいは事務所等で説明すべきであろう。

これを聞いて小学生のX2はどう思うだろうか。X1もX2も,良い法教育的な側面もあるなどと感じるのだろうか。

しかし,現実の生の訴訟は,法教育とは違う。原告となる者にも,きっと良い影響だけではないと思われ,特に小学生のX2には一定の負担(特に心理的負担)が生じることとなるだろう。

 

X1はこのようなX2の負担をも考慮した上で,なお設問の各訴訟を提起しようというのか。

もう一度言うが,それでも,本問ではX1はX2とともに「訴訟」を提起するわけである。このような市民というか,子どもをもつ親が,リアルに,本当にいるのだろうか(子どもの負担については十分に考えないのか)。

小学校まで400メートル遠くなったぞー!幅員5メートルの市道の方は危ないッ!!

よって「訴訟」!!って,これは研究室の●の上だけの(以下略)。

 

いわゆる潜在的需要という観点も分からなくはないが,二回試験では公法系の科目がないことからしても,司法試験では,もう少し現実に起こり易い,そして事例の多い問題(例えば,平成19年新司法試験論文行政法入管法の事案や,近時話題となった待機児童問題の事案など)を出すべきと思われる。

 

 

②弁護士2名の着手金問題

そして,弁護士D及び弁護士Eはよくぞ受任した。これが法の光を世の隅々まで照らす理想の法曹なのか。さて,着手金はいくらだろう[1]

 

弁護士2名だから,仮に着手金40万円とすると,Xらは現に支払うのだろうか。

小学校まで400メートル遠くなった!幅員5メートルの市道の方は危ない!よって訴訟!40万ポンと出します!勝ったら報酬も喜んで払います!って,今日の日本社会にこのようなお客様はいるだろうか。潜在的需要として,実は隠れているだけか。

 

仮に40万円では高いということであれば,法の支配を広めていくのに赤字覚悟で,例えば20万円とかでやるのか[2]。しかも事件は2つあるが,どうなのか。弁護士は社会の犠牲になって違法・不当の闇を照らすことが使命なのか。しかし勝訴率を考えると報酬はもらえないかもしれない。

いやいや,実はDやEは,道路法スペシャリストで,それほど事件処理に時間もかからないから(しかも良質なお仕事)比較的安く受任できて赤字にならないのか。こんな事務所がどこにあるのか。仮にあっても滅茶苦茶限られるのでは…。

 

いずれにせよ,1件でも弁護士2名で20万円で行政訴訟をやるのは,通常は大変である。このあたりの金額の感覚(経費のことなど)は,「一般人」の「社会通念」[3]からすると,中々分かっていただけないところなのかもしれないが,各弁護士があるいは日弁連・単位会の広報等によって分かっていただけるよう努力する必要があるだろう。

 

ところで,行政訴訟を多く受任されているあの先生やあの先生は,この事案,着手金いくらで受けるのだろうか。実に興味深い。

ちなみに,仮にあの先生が当職と一緒にやってくれるとしたら[4],どちらが起案の叩き台を担当するのだろう。

やはり起案は大変だから叩き台担当が負担大だが,一緒にやっていただく先生との関係を考慮すると1:1となろうか。いや,しかし,あの先生とは,他にも一緒に・・・(以下略)。

 

 

③行政事件の暗闇こそ積極的に法テラしてほしい

上記②のようなこともあり,このような案件こそ,(より)積極的に法テラスで扱うことが望ましいように思われる。

法テラスは法務省管轄だが,司法試験で行政法を必修としたのも法務省(行政)主導のはずだ(おそらく…)。とすると,きっと行政を相手にする訴訟にも法テラスは民事・刑事と同じように協力的であるはず(淡い期待)。むしろ,民事・刑事の方が得意とする弁護士が多いのであるから,行政事件こそ手厚く総合法律支援法による支援をすべきではないか。

とはいえ,法テラスには,行政法に詳しい弁護士の先生方が本当に「揃って」いるのだろうか。一般事件とは別に行政事件の窓口あるいは枠のようなものが,今はあるのか…[5]

 

あるいは,法テラスの行政事件についての報酬基準等はどうなっているのだろうか。訴訟前提で交渉した結果,結局依頼者がやめるといったら弁護士にはお金はでるのか。出てもペイするのか。

仮に,割に合わない金額でも社会における不法の闇を照らすべく,行政事件を沢山やって,いわゆる「成仏」をしたら,それは本望なのか。

しかし平均余命まではまだ結構あるし,まだ成仏は嫌である。せ,生存権!!

 

それに「成仏」というが,そもそも当職は仏教徒ではない。私人間とはいえ,また,憲法学者ではないとはいえ,信教の自由にも配慮した発言をしていただきたかったわけである。

 

 

・・・・・・と,このような余計なことに思いを馳せていては,2時間という制限時間で解かなければならない司法試験は到底合格できないので,要注意である。

 

 

以上が,当職の第一印象である。 

 

 

2 「早押しクイズ」としての司法試験行政法

 

さて,次の感想である。

平成28年は13頁まであった問題文が,平成29年では,8頁となった。

その差は実に5頁である。5頁といえば,殆ど憲法論文の分量に匹敵する。

かなりのダイエットに成功しており,私の中では,ライザップの,あのCMの効果音が流れたほどである[6]

 

設問までの事実関係の記載も,「会議録」も,さらには「関係法令」まで,それぞれ2頁になっているというのは,考査委員の先生方も相当苦労されたのではないかと思われる。この点では,考査委員の先生方に圧倒的感謝である。

 

とはいえ,予想どおり設問は4つ(1(1)・1(2)・2(1)・2(2)で4つという意味)あり,書く事項がかなり多い点は,昨年(平成28年)と変わっていない。

というか,むしろ書くことは昨年よりも多いのではないかと思われる。しかも,設問1は書き慣れていないと結構時間を食うタイプの問題といえ,また,最後の設問が25点もある。せめて設問2(2)が15点くらいであれば,ほぼ途中答案になったとしても沈まずに済むこともあるだろうが,25点はかなり大きい。考査委員の先生方もこのようなことまでは考慮してくれなかったかもしれないが,多くの受験生にとっては,なお処理が難しく心理的にも厳しい試験であったと想像する。

 

このようなことでは,行政法論文は,憲法(平成29年の問題は2~5頁まで)とは異なり,あまり深く考える時間をとれない問題となっているように思われ,現実には,要件ないし論点ごとに,いかに既存の論証パターンを早く貼りつけられるか,そして誘導にしたがって,その論パへのあてはめができるかという点がかなり重要になってくるように思われる。

というか,受かるかどうかという観点からすると,相対評価であるから,8割9割それで受かるのかもしれない。

 

このような出題傾向が続く場合(あくまでこのような出題傾向が続く限り),個別法の読み方等は要点さえつかめば,それほど難しいことではないだろうから,あとは論証の記憶と迅速な吐き出し,過去問を用いた誘導への訓練が合格にとって大切なこととなってくる。

しかし,これは,司法制度改革や法科大学院の理念に合致することだろうか。

 

確か,法科大学院が始まった年くらいに,某ロースクールの教授の先生がソクラテス・メソッド形式で授業をした際,5秒だか10秒だかで答えられなければ次の人に質問するという10秒(5秒)ルールを取り入れた(という噂)と聞いたことがあるが,まさにこの速さが司法試験でも求められているように感じられるのである。

 

司法試験論文行政法は,いつから「早押しクイズ」になったのか[7]

 

 

3 また原告適格4年連続過去4年で3回出題)

 

今年も,設問1(1)で,原告適格が出た[8]

また原告適格だ。

 

被処分者以外の者の原告適格は,取消訴訟,非申請型義務付け訴訟と,差止訴訟でも問題になるため,司法試験・予備試験では,処分性と同様に,殆ど毎年問題になっている

 具体的には,①平成25年予備試験論文行政法設問2,②平成26年司法試験論文行政法(公法系第2問)設問3,平成27年司法試験論文行政法設問1平成28年司法試験論文行政法設問1というように,予備試験と併せると4年連続で出題されており,そして④今年(平成29年司法試験論文行政法設問1(1))で5年連続5年のうち4回出題(司法試験では4年連続のうち3回出題)である。 

 【※失礼しました。上記のとおり一部訂正いたします。】 

 

なお,無効等確認訴訟でも問題となるが,まだ(新)司法試験や予備試験での出題はない(同訴訟で原告適格についての論点は出ていない)。

 

 

行政救済法(訴訟要件あるいは仮の救済の要件の)分野からの出題の頻度は,

処分性 ≧ 原告適格 >「重大な損害」という感じだろう。

 

 

このように,司法試験は,変化球は普通は来ないが,ストレートを投げますよと言っておいて160キロのストレートが来るような試験になってきているように思われる。

直球勝負なのだが,かなり早い直球に目を慣らしておかないと,うまく打ち返せない。

他方で,変化球的な論点といえるであろう国家賠償法2条1項だとか,判決の効力の話だとかは中々問われないし,国家賠償法1条1項についても(憲法よりも)殆ど問われない。

 

もちろんこのような傾向が続くとは言い切れないし,統計的な分析というものには限界がある。現に,平成29年司法試験論文憲法では,統計を無視して2年連続で憲法13条後段メインの出題がなされた。

そのため,受験生は国家賠償法2条1項などの論文では殆ど出ない論点についても一応の準備はしておくべきだろう。憲法33条を行政手続に準用等できるか?といった論点が出ても動じないようになれるはずである(いや,それでも33条は重箱の隅というべきか)。

 

平成29年の予備試験論文行政法でも平成30年の司法試験・予備試験でも,原告適格はヤマである。5度(4度)あることは6度(5度)ある。

 

原告適格の論パについては,長いものと短いものを用意しておくべきであろう。平成29年司法試験では短いものを使った方が無難であったかもしれない(特に,問題文を読む速度や,書くのが遅めの受験生は)。

そこで,以下,取消訴訟の場合ついてだけであるが,論証例等を挙げておくので,必要な受験生は,適宜参考にされたい。

 

<問題提起の書き方例>

Xは,本件処分の名宛人以外の者(第三者)であるため,Xに本件処分の取消を求める原告適格が認められるか。「法律上の利益」(行訴法9条1項)の認否が問題となる。

 

<規範・コンパクトなversion [9]

この点につき,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,同利益の認否については,9条2項の(必要的)考慮事項に照らし,個別具体的に判断する。

 

<規範・長めのversion 1 [10]

この点につき,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,行訴法9条2項の考慮事項に照らし,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益も上記の法律上保護された利益に当た(り,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有す)るものというべきである。

 

<規範・長めのversion 2 [11]

この点につき,「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,かかる利益が認められるには,行訴法9条2項の考慮事項に照らし,①当該処分が原告を含む不特定多数者の一定の具体的利益に対する侵害を伴うものであること,②その利益が当該処分の根拠法規(当該処分に関する個々の立法)により保護される利益の範囲に含まれるものであること,③その場合の根拠法規(立法)の趣旨が,その利益を一般的公益としてではなく,原告ら自身の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える。

 

 

4 また裁量基準(4年連続)

今年も,設問2(2)で,裁量基準が出た。フェティッシュとしての裁量基準か。

 

前記3と同様に,平成26・27・28年と,3年連続で同じ論点が出ていたのであり,今年で(司法試験だけで)4年目である。こうなってくるとこれから毎年出てもおかしくない。どうしてこうなったのか。

 

ちなみに,裁量基準がある場合の裁量処分の違法性(裁量権の逸脱濫用)の認否を論じさせる問題では,次の3点(②と③を分けないで論じる研究者の先生が多数と思われるので,大きく分ければ2点…①と,②・③というレベルの違い)に注意すべきである。

まず,裁量権の逸脱・濫用審査については,① 裁量基準(の内容)自体の合理性[12](不合理性ないし著しい不合理性)の審査をし(…法令の趣旨に反するものか否かで判断する),②同基準が不合理ではないとしても, 裁量基準の具体的な適用(あてはめ)の段階での誤りがないかを審査し,最後に,③個別事情[13](上記裁量基準の規定内容以外のもので,当該個別法(や憲法)に照らし,要考慮(要重視)事項と解される個別の事情)を選定し[14],その上で,それを考慮したかについて問題文の事案に即してあてはめるという審査を行うべきこととなる。

 

そして,上記①・②・③すべてがべったりと問題とされる年は基本的にはないことを頭に入れておくべきであろう。

 

例えば,平成28年では,主に②が問われ,この点を厚く論じれば良かった。すなわち,(①の不合理性にかかる事情や)③の個別事情が殆ど書かれていないのにもかかわらず,②裁量基準に挙げられた事情が考慮されていないため,いわゆる判断過程審査における考慮不尽[15]の違法の有無が問題となったもの考えられる。

逆に,平成27年は,処分庁が②の裁量基準通りに判断した事案であったため,上記 ①や③の点が問題となり,①・③を厚く書くこととなった。①裁量基準自体が不合理なものであれば,判断過程の合理性を欠くこととなるし(他事考慮,考慮不尽等),あるいは③の個別事情を考慮していない場合には考慮不尽として裁量権の逸脱濫用が導かれることとなる。

 

では,平成29年はどうだったか。平成29年(設問2(2))では,処分庁が②の裁量基準通りに判断せず,これに違反して処分を行った事案であることは明白であるから,上記の平成28年の検討結果からすると,一応①と③が問題となりうるが,XらもY市も①の合理性自体はを自認するであろうから争いにならず,かつ,その内容も法の趣旨には合致するものといえるため,基本的には③のみが問題となるといえるだろう。そして,③の個別事情がない(あるいは乏しい)と言えるにもかかわらず,これ裁量基準に反する処分がなされた場合には,平等原則[16]あるいは考慮不尽[17]として裁量権の逸脱濫用が導かれることとなるのである。29年の問題は,27年の上記違法事由を多角的によく検討していれば,その検討結果が活かされるものであったといえる。

つまり,平成23年論文行政法まで過去問を遡って検討できていなくても,27年を含む過去3年分(26~28年)の検討でも十分対応可能であったと思われる。つまり,平成29年でも,裁量基準の定めが(どの程度合理性を有し,逆に)「どの程度例外を認める趣旨」(平成26年司法試験論文出題趣旨2頁)のものかの検討をすべきであったということである。

 

ちなみに,この平等原則等の点に関し,最三小判平成27年3月3日民集69巻2号143頁は,次のとおり判示する。すなわち,「行政手続法…12条1項に基づいて定められ公にされている処分基準は,…不利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し,その相手方の権利利益の保護に資するために〔=を保護する趣旨で〕定められ公にされるものというべきである。したがって,行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に,当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され,この意味において,当該行政庁の後行の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことがき束されて」(下線及び〔 〕内は筆者)いるとし,当該処分基準はこのような意味での法的効果を有するものとする。

 

なお,以上のような感じで,平成29年司法試験論文行政法については,平成26~28年の過去3年の司法試験を潰しておけば,出る論点は殆ど網羅的に潰せたと思われる。

できれば平成23年(裁量基準がある場合の違法事由と同意の関係)や平成18年(18年では問われてはいないが二項道路の(一括)指定の処分性)なども検討していれば良かったのだろうが,他の科目の勉強もあり,憲法はおそらく最低直近5年分くらいは潰さないと対応できない上,特に1回目の受験の方は時間もなく現実的には難しいだろう。

 

このように行政法は3年説,憲法は5年説というのが,(現時点では)望ましいように思われる。

もちろん,網羅できない論点(平成29年でいえば,例えば規制権限の不行使の論点)については,少なくとも論点単位で,基本書・判例集や演習書等を用いて勉強しておくべきであろう。

 

 

5 事案の背景―「保育園落ちた日本死ね!!!」問題

 

平成29年司法試験論文行政法では,「保育園」が登場するが,これには流行語にも選ばれ話題となった「保育園落ちた日本死ね!!!」(待機児童問題)の影響があるのではなかろうか…。

 

いずれにせよ,受験生は,司法試験に落ちないよう,夏もバリバリ勉強しよう。

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2)に続く。)

 

 

[1] もはや研究者の発想ではない。しかし,法学の研究者の先生方には,こういった現場の問題についてもできれば発想していただきたい。事件は研究室で起きてるんじゃない,現場で起きてるんだ!

[2] 20万円でも高すぎると考える研究者の先生は,法科大学院に入り直していただき,行政訴訟というか法曹の実務を勉強していただきたい。

[3] なお,一般人の社会通念に基づく「違法」性の審査(司法審査)の限界と,専門家の集団意識を通じた「不当」性の審査(行政不服審査)の基準等について考察した小論として,平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法研究78号239頁以下。

[4] 実際の問題文ではボス弁Dとイソ弁(あるいはノキ弁?)Eの事案と思われるので,問題文の事案からやや脱線しているがお付き合い頂けると幸甚である

[5] 阿部泰隆『行政の組織的腐敗と行政訴訟最貧国 放置国家を克服する司法改革を』(現代人文社,2016年)94頁によれば,少なくとも過去の時点では,「行政訴訟を得意とする弁護士に相談したい」と言っても「一般事件になりますね」とのことであったようである。なお,阿部泰隆先生の「隆」は,正確には,正確には西郷隆盛の「隆」(「生」の上に「一」が入るもの)である。

[6] ちなみに,知り合いの先輩弁護士の先生がライザップに通われ,かなりのダイエットに成功されていて,びっくりしたことまで思い出した。人が変わったようだった。健康目的で始めたとのことである。

[7] 最初(平成18年)からかそうだったという批判もあるかもしれないが…。

[8] 関連する重要な文献として,石井昇「道路の自由使用と私人の地位―路線廃止等における反射的利益―」小早川光郎=高橋滋『行政法と法の支配』(有斐閣,平成11年)13頁以下がある。本問との関係で,受験生にはこの文献を必ず読んで欲しい。今後の試験対策に有益と思われる。なお,同書は南博方先生の古稀記念論文集であり,南先生は,「理論と実務との架橋」という法科大学院の理念に係る活動を実践された先生である(小早川光郎=高橋滋・同書はしがきⅲ頁参照)。

 

[9] 平成23年司法試験論文公法系上位1%以内の答案も同様の論述をしている。なお,司法試験で原告適格の規範部分を書く場合,基本的には,その規範の理由付けの記述は不要(法律上保護に値する利益説等への批判についての記述も不要)である。また,答案のメリハリがなくなる上に時間不足等リスクが生じることなどから,行訴法9条2項の全文言を書き写すようなことも(時間がかかるので)得策とはいえないだろう。

[10] 基本的には判例もんじゅ事件等)の言い回しを取り入れたもの。人によっては覚え難いかもしれない。

[11] 判例の定式をパラフレーズしたもので,元司法試験考査委員の山本隆司先生が言及される立場(小早川光郎先生の立場)を参考にしたものである(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)433頁参照)。ちなみに①は不利益要件,②は保護範囲要件,③は個別保護要件と呼ばれる。比較的書き易く,かつ,あてはめもし易いのではないかと思われ,オススメである。ちなみに,平成21年論文公法系論文5番以内=160点台,論文総合1位合格者答案も似たような規範を書いている。なお,①部分については,「当該処分により不利益を受け,または受けるおそれがあること」としてもよいだろう。

[12] 中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)156頁,高橋信行自治体職員のためのようこそ行政法』(第一法規,平成29年)134頁参照。

[13] 中原・前掲注(12)157頁参照。

[14] 裁量基準の定めがどの程度例外を認める趣旨のものかの検討を要するということである(平成26年司法試験論文出題趣旨2頁)。

[15] 山本・前掲注(11)304頁参照。

[16] 中原・前掲注(12)156頁,高橋・前掲注(12)135頁参照。

[17] 山本・前掲注(11)304頁参照。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を,憲法21条1項(表現の自由)に基づき書いているものですので,この点につき,何卒ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(5)

「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(4)」(平成29年5月22日ブログ)の続きである。前回までの補足をするにとどまる短い内容であるが,少しずつ書き進めていきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

さて,一年前の話に遡るが,平成28年司法試験論文憲法では,将来における害悪発生を予防するために現時点において個人の行為に制限を課す,いわゆる「規制の前段階化」と呼ばれる傾向の権力行使の憲法上の正当性が問われていた(出題趣旨・第5段落参照)。

そして,「規制の前段階化」というキーワードが,「江戸川区子ども未来館アカデミー「法律ゼミ」その3(憲法編) 法教育フォーラム」(講師:西原博史教授(早稲田大学),テーマは「恐怖の『閉じ込め施設』~どこまで『見込み』で人権制限できるの?~」)でも言及されていたこと[1]や,西原教授が法学教室の演習(連載)でGPS発信機」を「手術」で人の体内に埋め込む法案の合憲性を問う問題を作成していること(西原博史「演習」法学教室320号196~197頁(2007年))などから、平成28年は西原教授が問題の原案(いわゆる叩き台)を作ったのではないかと思われる。

 

そうすると,論理必然とは言えないが,平成29司法試験論文憲法では,西原教授(引き続き考査委員)は(もとより問題作成には関係するものの)問題の原案までは作らず,他の2名の考査委員(研究者・学者の考査委員)が原案を作る蓋然性が高かったのではないかと考えられる。

 

この2名のうち,まず,曽我部真裕教授は,多くの受験生が持っていると思われる判例解説集『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(以下「判プラ」と略す。)で,マクリーン事件を含む外国人の人権に関する判例解説を担当されており[2],問題の原案の作成に深く関わられたのではないかと思われる。

 

また,もう1名の尾形健教授は,『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』で堀木訴訟の解説を担当されていること[3]から,社会権(特に生存権)のイメージが強い受験生も多いかもしれないが,他にも(というか生存権とも関連する話なのだが),例えば,『憲法の争点』で「労働と自己決定」というテーマの解説を担当されており[4],自己決定(権)に関する研究もされていることがわかる。

平成29年論文憲法における架空の個別法が「特労法」であり,同法の目的が外国人の「特定労働における労働力の円滑な供給を実現」する点などにあったこと(法1条)と,「自己決定権」(問題文3頁1行目)が問われていたことからすれば,尾形教授も曽我部教授同様,深く原案の作成に関係したことものといえよう。

 

なお,この2名うち,どちらがメインで原案を作ったのかということは判らないが,国家戦略特別法を意識した問題であるため,もしかしたら法務省側の考査委員が事案の大枠を設定し,次に,曽我部教授がマクリーン事件を活用すべきケースで「入国・在留に関わる場面」の具体的な事案等[5]を考え,さらに,尾形教授が「自己決定権」という人権の制約が問題となる事実関係等を考えたのではないだろうか。

 

ちなみに,曽我部教授も尾形教授も判プラの著者であることから,問題作成に際して比較的連携がとりやすかったのではないかと想像する。

 

 

と,ここで疑問が生じる。

「直ちに外国人の身柄を拘束すること」についての「手続的保障」(問題文3頁3行目)の点,すなわち,自己決定権とともに,もう一つの違憲主張の柱を構成する身柄の拘束に対する手続的保障(憲法33条[6])であるが,(1)これはどこから降ってきた論点なのか?という疑問であり,さらには,(2)33条をメインに論じて良いのか?という疑問も浮かぶ。

 

ここでやや脱線するが,確かに,プレテストでは適正手続,令状主義が問われており,成田新法事件・川崎民商事件は,憲法だけでなく行政法でも重要な判例とされているが,これまで本試験(平成18年以降の(新)司法試験)では,一度も出ていなかったため,適正手続関係は出ないのではという(誠に勝手ではあるが)「信頼」が少し生まれてしまっていたように思われる。

もちろん,信頼が法的に保護されるためには,行政法学や関係判例で問題とされる厳格な要件を満たす必要があり,(新)司法試験では,人権からしか出しませんとか,適正手続は出題しませんという公的な見解を表示しているわけではなく,むしろプレテストで適正手続等の論点を出しているため,信頼が保護されないことは明白である。

 

 

さて,話を戻すと,(1)手続的保障の論点は,どこから降ってきたかという点は,これは曽我部教授であると想像する。

やや根拠としては弱いかもしれないが,曽我部教授は,大石眞先生還暦記念の書籍『憲法改革の理念と展開(上・下)』(信山社,2012年)の編者であるところ,この大石教授が刑事手続(憲法的刑事手続)を研究されている[7](もちろん他にも様々なテーマを研究されているが)からである。

 

 

また,(2)の疑問である,33条をメインに論じて良いのか?という点であるが,

 

答えは,YES[8] である

 

 

この点については,問題文3頁3行目のキーワード(誘導文言)といえる「外国人の身体を拘束することは手続的保障の観点から問題」という部分と,判プラ244頁〔宍戸常寿〕の33条についてのキーワード(といえる)「身体の拘束に対する保障」(下線は筆者)という文字が殆ど一致するということがかなり大きいと思われる(もちろん問題文の内容が一番大きいが)。

 

想像の域を出ないが,曽我部教授も,この判プラ244頁〔宍戸常寿〕の「身体の拘束に対する保障」という部分を確認した上で,問題文3頁3行目を作成したのではないだろうか。

 

なぜなら,33条は,①「逮捕令状主義」[9],②「不法な逮捕…からの自由」[10],③「『不法な逮捕からの自由』の保障」[11],④「不当逮捕からの自由」[12],⑤「被疑者の権利」・「33条の令状主義」[13],⑥「現行犯以外の場合,司法官憲=裁判官の令状なしに逮捕されない権利」[14],⑦「逮捕・勾留に関わる権利」[15]などといったキーワードで表わされることが多く,「身柄の拘束」というキーワードは(おそらくだが)かなり少数派ではないかと思われるからである。

 

もちろん,同じ判プラの著者である尾形教授による文面という可能性もあるが,上記憲法改革の理念と展開の編者ではない(著者の一人ではあるが)ため,その可能性は比較的低くなるのではないかと(大変勝手な話かもしれないが)思われる。

 

 

ということで,平成29年司法試験論文憲法では,31条や13条後段よりも,まずは(少なくとも設問1では),33条を論じて欲しかったというのが,問題文(司法試験考査委員)及び関係文献(というか,主に判プラ)から読みとれるメッセージであったものと考えられるのであり,31条や13条後段は,厚く書くなら設問2からということになると思われる。

 

 

 

判プラ凄すぎィ!! 続きは次回。

 

 

 

 

[1] http://www.houkyouiku.jp/14082101 参照。「近未来SFのようなシナリオを通じて、『規制の前段階化』と呼ばれる規制動向に対してどう向き合うかを考えてもらう、現代法学の最先端の企画です」との西原教授(平成28年司法試験の考査委員)のコメントにおいて,「規制の前段階化」というキーワードについての言及がある。

[2] 淺野博宣ほか著,憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」と略す。)4~17頁〔曽我部真裕〕。

[3] 尾形健「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)294~295頁(137事件)。

[4] 尾形健「労働と自己決定」大石眞=石川健治編『憲法の争点』(有斐閣,2008年)(以下,「争点」と略す。)100~101頁。なお,尾形健「『自律』をめぐる法理論の諸相」菊池薫実編著『自律支援と社会保障』(日本加除出版,2008年)43頁も参照されたい。

[5] 曽我部真裕「判批」判プラ7頁。

[6] これ以外にも31条や13条後段が問題となるが,今回のブログでは,33条に話を絞ることとする。

[7] さしあたり,争点158~161頁等参照。

[8] なお,当職は,何かと話題の○○クリニックとは関係がない。

[9] 大石眞=大沢秀介『判例憲法(第3版)』(有斐閣,2016年)102頁。

[10] 芦部信喜高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)246頁。

[11] 佐藤幸治日本国憲法』(成文堂,2011年)335頁。

[12] 高橋和之立憲主義日本国憲法 第4版』(有斐閣,2017年)288頁。

[13] 青柳幸一『憲法』(尚学舎,2015年)228頁。

[14] 渋谷秀樹=赤坂正浩『憲法1人権〔第6版〕』(有斐閣,2016年)36頁。

[15] 木下智史=伊藤建『基本憲法Ⅰ―基本的人権』(日本評論社,2017年)245頁。

 

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