平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(3)

前回のブログの続きである。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1) 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,引き続き,脚注付きの答案例を掲載することをもって問題解説とすることとしたい。

 

本日は,設問1の本件訴訟2(X2の主張)まで。

続きは次回。

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

   (略)・・・ 前回のブログ=平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)の答案例とおり

 

 2 本件訴訟2におけるX2の主張

(1)X2は,条例8条1項6号に基づく本件廃棄により,X2が翻訳した本件図書をY市立図書館という公の場でその利用者に閲覧させることができなくなった。そこで,X2としては,本件廃棄が国家の中立義務に反するものであり,21条1項に違反し,違憲であるとの主張を行うものと考える。[1]

(2)確かに,表現の自由の核心は国家からの自由であり,国家による積極的行為を請求しうる権利はないものと解される[2]。ゆえに,21条1項は,特定の図書につき国家が同書を購入することを請求する権利をX2に保障するものではない。

(3)もっとも,公立図書館には配架する図書の購入を含む国家による助成(援助)につき,国家に表現内容の選別に係る一定の行政裁量があるとしても,図書館が公衆に多様な意見等を伝達するなど情報の流通過程に係る重要な場ないし手段であることに鑑みると,いったん購入・助成をした後は,図書廃棄(助成の撤回)につき内容中立的な運用を行わなければ,国家の中立義務[3]21条1項)に違反するものと解すべきである。

 具体的には,情報流通過程を歪める危険性の程度,②廃棄しないことによる弊害・害されうる公益等[4]の事情を考慮し,総合的に判断すべきである[5]

(4)個別具体的検討

 本件図書は「児童文学」であるため,児童が公立図書館において閲覧する蓋然性が高いものといえるところ,大人と比べると,あるいは家庭の経済的事情等から,児童は書店等で本件図書を事実上購入できないような場合もあると考えられる。そうすると,教育を受ける権利や成長発達権(26条1項)を有する児童が無料で本件図書を読む機会を実質的に奪われることとなる。加えて,X1のような学生を含む成人も本件図書利用の申請すらできなくなってしまい,X1の主張同様,本件図書の閲読の申請に対する拒否処分は21条1項に反するものと考えられることからすれば,本件図書を廃棄することに関する①情報流通過程を歪める危険性は非常に大きいものといえる。

 他方,本件図書は,全560頁のうち,432頁の1~2行に1か所だけ「めかんち」という語が記載されているにすぎず,また,同頁の3行目でかかる語を用いたことにつき,主人公Dがこれを非難ないし批判する文があるとの文脈からすれば(参考資料1),②廃棄しないことによる弊害すなわち目の不自由な人の個人の尊厳(13条前段)あるいは人格権(13条後段)が害される程度は甚大であるとまではいえない

 よって,本件廃棄は,内容中立的な運用が行われたものとはいえず,国家の中立義務(21条1項)に違反するため違憲である。 

  

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[1] 憲法の論文答案の冒頭部分である。なお,この冒頭部分のパターン(「冒頭パターン」)については,本ブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」(2017年10月9日)をご参照いただきたい。

[2] 芦部信喜高橋和之補訂〕『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)177頁参照。

[3] 小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)203頁以下参照。この(2)部分のとおり,設問1の段階から,特定の人権・憲法上の自由の問題としては主張できないとした上で(「権利論を断念し」(小山・作法203頁)),直接には,「国家の中立義務」(小山・作法203頁)違反の問題とする立場を採るのが良いと思われる。信教の自由などの人権の問題としては主張・処理できない問題につき,政教分離の問題(人権の問題そのものではなく、国家の義務ないし制度政教分離の場合には制度的保障)の問題)として処理するというケースと同様の発想といっても良いかもしれない。

[4] ②の考慮事項のところで,被害を受ける可能性のある者の人格権(13条後段)侵害や個人の尊厳(13条前段)の侵害の程度,対抗言論の可否などにつき,あてはめていくことになるだろう。

[5] 総合判断方式・総合考量(衡量)方式・個別的比較衡量の規範によるものである。原告側の主張としてはやや弱気な判断枠組みの定立と言わざるを得ないだろうが,内容選別に係る一定の裁量を認める以上,あるいは,司法試験の答案政策として私見の規範と統一するという観点から,やむを得ないところではないかと思われる。また,船橋市立図書館図書廃棄事件(最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)158-159頁・74事件)の判断枠組みを参考にした規範・判断枠組みとはなっていない。本問は「独断的な評価」といった同判例の規範を使い難い事案と思われるため,邪道とは思うが,原告レベルではこの判例の活用を正面から検討することはしなかった。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(2)

前回のブログの続きである。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1) yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,本問の解説の続きであるが,以後,答案例(脚注付きのもの)を掲載することをもって本問の解説とすることとしたい。

 

本日は,設問1の本件訴訟1(X1の主張)までとする。

 

続きは次回。

 

 

第1 設問1

 1 本件訴訟1におけるX1の主張

 (1)X1は,条例8条1項6号に基づく本件処分を受けたため,本件図書を閲読できなくなった。そこで,X1としては,本件処分がX1の公立図書館に配架された図書を閲読する自由憲法(以下,法名略)21条1項)を侵害し,違憲であるとの主張を行うものと考える。[1]

 (2)同項の表現の自由は,情報をコミュニケイトする自由であるから,本来,受け手の存在を前提としており,知る権利を保障する意味を含む[2]ものと解される。そして,X1の情報を公立図書館に配架された図書を閲読する自由(以下「本件自由」という。)は,かかる知る権利の請求権的側面のもの(抽象的権利)として捉えることができ[3]立法の制定により具体的請求権となるもの[4]と考える。本件自由は図書館法(以下「」という。)2条,10条,3条1号,条例1条,2条,3条1号等,Y市立図書館の設置に関する法や条例の関係規定により具体化されているといえ[5],本件処分により,本件自由は制約されている[6]

 (3)判断枠組み

 本件自由は,自己実現や自己統治の価値がある上,教育(法1条)や「研究」(法3条6号)とも関係することから,23条や26条1項とも密接に関係する重要な人権である。また,本件自由については,公会堂等(地方自治法244条1項参照)の指定されたパブリック・フォーラムの利用制限の場合[7]と同様に比較的厳格な審査をすべきである。

 そこで,「差別的表現」(条例8条1項6号)に当たるといえるには,当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性があるだけでは足りず,明らかな差し迫った同危険の発生が具体的に予見されることが必要と解すべきである[8]

 (4)個別具体的検討

 条例8条2項は,大学の研究者が図書館資料を研究目的で利用する場合には,利用を許可できるものとしている。そして,同項の趣旨は,そのような場合であれば,類型的にみて当該表現による人格権や個人の尊厳の侵害の危険が生ずる蓋然性が低いことから同資料の閲読等を認める点にあるものと考えられる。

 とすると,文学部4年生のX1が社会学のゼミで同ゼミの担当教員の指導のもとにゼミ報告を行う場合であっても,同項の趣旨は概ね妥当するものといえ,全560頁のうち432頁に1箇所のみ「めかんち」という語が記載されているにとどまるものであることからみても,X1が本件図書を閲読する場合については,少なくとも,明らかな差し迫った人格権等侵害の危険の発生が具体的に予見されるとまではいえない。

 よって,本件処分は,X1の本件自由を侵害し,憲法21条1項に違反するため違憲である。

 

 

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[1] 憲法の論文答案の冒頭部分である。なお,この冒頭部分のパターン(「冒頭パターン」)については,本ブログ「平成29年司法試験出題趣旨(憲法)の感想 その3 憲法答案の『冒頭パターン』」(2017年10月9日)をご参照いただきたい。

[2] 芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第6版』(岩波書店,2015年)(以下「芦部・憲法」という。)176頁参照。

[3] 矢口俊昭「判批」(東京地裁平成13年9月12日評釈)判例セレクト2001年10頁等参照。(なお,同裁判例東大和市図書館事件)は,小山・後掲注(4)199頁でも紹介されているものである。)

[4] 小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁,芦部・憲法176頁参照。小山・作法199頁の「aa」の見解に立つと,答案が続かなくなるか,あるいはかなり書き難くなると思われるため,本答案例は,小山・作法199頁の「bb」の見解に立っている。

[5] 小山・作法199頁参照。

[6] 請求権については,基本的には「権利の一段階画定方式」が採られるものと考えられる(木村草太『憲法の急所―権利論を組み立てる 第2版』(羽鳥書店,2017年)22頁)が,本件のような知る権利の請求権的側面の問題については,請求権そのものではない上,個人の利益と公共の福祉の衡量を要件・効果の画定段階で十分に行えない場合と考えられることから(木村・同書23頁以下参照),具体化された権利(知る権利)の「制約」→「正当化」という流れの答案とした。

[7] 小山・作法199頁参照。

[8] 泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日,川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)の判断枠組みを参考にした規範である。司法試験受験生の危機管理として,“迷ったら中間審査基準”というのでも良い(中間審査基準を採る場合,本問では,あてはめは,関連性審査(因果関係)の点を中心に検討すればよい)だろう。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題 解説(1)

 前回のブログでは,平成30年司法試験論文憲法の予想問題を掲載した。

 要するに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問の改題である。  

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 問題意識自体はやや古いかもしれないが,周知のとおり,今日では(今日でもなお)ヘイト・スピーチやヘイト・クライムの問題が新聞等でも話題になっており,また,格差が拡大し続ける社会において大学生・大学院生等の学生の生活水準が必ずしも安定しない(あるいは不安定になり続ける)状況における図書館の現代的な意義などにも鑑みると,今日においても,重要性の高い問題といえるだろう。

 

 

 では,解説に入る。

 

 まず,答案構成の大枠を決める必要がある。そのためには,法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択と,論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)を決める必要がある。

 

 ここで構成等を間違えてしまうと,4段階(優秀・良好・一応・不良)の答案ボックスの下位2つに入り易くなるので,特に論文憲法が苦手な司法試験受験生はよく注意する必要があるだろう。

 

 

第1 法令違憲と処分違憲適用違憲)の構成の選択

 

(1)3つの構成

 司法試験論文憲法の問題がどのような問題であれ,答案構成の段階で,法令違憲・処分違憲適用違憲)の構成の選択を検討しなければならない。

 

 構成としては,

<1>法令違憲・処分違憲適用違憲)の両主張を書く構成

<2>法令違憲の主張だけを書く構成

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

の3つが考えられる。

 

(2)問題文の指示と事実の比率による構成の選択

 

 上記3つの構成のどれを採るべきかは,

①問題文の指示(比較的わかりやすい誘導の有無

②立法事実(立法の背景事情)と個別具体的な事実との比率

によればよいものと考えられる。

 

 ここで,①問題文の指示とは,わかりやすい誘導の有無を意味する。例えば,(ⅰ)「あなたが弁護士としてAの付添人に選任されたとして,性犯罪者継続監視法が違憲であることを訴えるためにどのような主張を行うかを述べなさい。」(平成28年論文憲法問題文・設問1部分)(下線は引用者),(ⅱ)「C社は,本条例自体が不当な競争制限であり違憲であると主張して,不許可処分取消訴訟を提起した。」(平成26年論文憲法問題文)(下線は引用者)といった記載が問題文にあれば,法令(条例)違憲だけの主張をすべきとのわかりやすい誘導があるとみて良いだろう。

 

 次に,①の問題文の指示がないときの処理方法であるが,②立法事実(立法の背景事情等)と個別具体的な事実との比率を考えて,例えば,立法事実については1割程度しか書かれておらず,他方で,個別具体的な事実は9割くらい書かれているといったような場合には,処分違憲適用違憲)の主張のみを書けば良いと考えられる。

 

(3)本問の構成

 

 本問では,「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の2つがあるため,一応分けて考える必要があるだろうが,事実関係がほぼ共通するので,あえて一緒に検討してしまおう。

 

 本問では,①問題文の指示があるとはいえないが,②法令違憲の主張で使う事実と,処分違憲適用違憲)の主張で使う事実の比率をみると,一見すると(感覚的には),前者1割:後者9割といった感じの問題といえるだろう。前者については,問題文の第一段落の「・・・理念のもと,・・・することを目的に」のところくらいしか書かれていないと考えることができるからである。

 

 したがって,構成としては,

「本件訴訟1」と「本件訴訟2」の双方につき,

<3>処分違憲適用違憲)の主張だけを書く構成

を選択することになる。

 

 なお,合憲限定解釈の主張を答案に書く場合に関し,泉佐野市民会館事件(最三小判平成7年3月7日・川岸令和「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182-183頁・86事件)が,処分違憲(特定の処分の違憲の主張)の中で,合憲限定解釈(同解釈そのものか自体にはやや難しい問題があるように思われるが)を展開していることからすれば,合憲限定解釈の主張を<3>で書いても特に問題はなかろう。

 

 

第2 論じない論点(論じない方が良いと考えられる論点等)

 

1 検閲,事前抑制の理論の適否

 検閲については,判例の規範・定式を満たさないことは明らかであり,また,事前抑制についても,その規範を満たさないと考えるのが普通と思われるから,答案に書くべきではないだろう。小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)(以下「小山・作法」という。)199頁も,「市販の図書について図書館での閲覧を禁止することは,検閲や表現の事前抑制に該当しない」(下線は引用者)とする。

     

2 内容規制か内容中立規制か

 これを1つの論点というかは微妙なところがあるが,この点はさておき,本問は内容規制の事案であることは明らかといえるから,内容規制であることだけを答案に明記すれば足りるだろう。

 

3 違憲主張適格(違憲主張の適格性)

 違憲主張適格(違憲主張の適格性)については,まず,(ⅰ)X1の知る権利(法で具体化されたもの)のところでは,書く必要がないし,(ⅱ)X2の「国家の中立義務」(小山・作法203頁)の問題については(国家の中立義務の問題として捉えるべきことについては次回のブログで述べる),政教分離原則等(人権ではなく「制度」)と同様に「中立義務」違反の主張の理由付けの中で人権(表現の自由等)の話が登場することから,第三者所有物没収事件とは事案が質的に異なるため,違憲主張適格は論点にすべきではない(反論レベルからでも展開するようなことは避けるべき)だろう。

 

 このように,論じない・落とす論点をしっかり検討しておけば,余計なこと(点が入らないか入っても殆ど配点がなく,他の書くべき点を十分に書けなくなるという意味で実質的には(手形法のようにいうと)有害的記載事項)を書かずに済むことになる。

 

 

 続きは次回。

 

  

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文憲法 予想問題

「未来は読めず 不安が付きまとう」

Mr.Childrenヒカリノアトリエ」(2017年))

 

しかし,未来が読めてしまったら,出題予想の自由もなかったわけで,それはそれで寂しい気がする。

 

ということで,平成30年司法試験論文憲法の予想問題であるが,旧司法試験論文憲法平成14年第1問をベースに,一応ヘイトスピーチ(差別的憎悪言論)の問題も多少念頭に置きつつ作成した。

 

関連判例がいずれも大法廷のものではないので微妙だが,百選収載判例ではあるので,出てもおかしくないだろう。関連判例は,他にもあるが,ひとまず次の2つを挙げる。いずれも短答式でも重要な判例なので,司法試験受験生は再確認されたい。

 

①最一小判平成17年7月14日,中林暁生「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)158-159頁(74事件)。

 

②最三小判平成2年4月17日,藤野美都子「判批」長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)346-347頁(162事件)。

 

 

旧司法試験論文憲法平成14年第1問の問題と出題趣旨は次のとおり。

(問題)
 A市の市民であるBは,A市立図書館で雑誌を借り出そうとした。ところが,図書館
長Cは,「閲覧用の雑誌,新聞等の定期刊行物について,少年法第61条に違反すると判断したとき,図書館長は,閲覧禁止にすることができる。」と定めるA市の図書館運営規則に基づき,同雑誌の閲覧を認めなかった。これに対し,Bは,その措置が憲法に違反するとして提訴した。
 この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

 

(出題趣旨)
 本問は,市民が,公立図書館において,その所蔵する雑誌を閲覧する権利は,憲法
保障されているか,保障されるとして,それを憲法上どのように位置付けるか,また,
その市民の権利を制約することが正当化される事情はどのようなものかを問うとともに,設例の状況において,具体的にどのような方法によって解決が図られるべきかを問うものである。

http://www.moj.go.jp/content/000049025.pdf

 

 ちなみに,旧司法試験論文憲法平成14年第1問は,知る権利の請求権的側面の(1つの考え方ではあるが,その問題として捉えられるものと考えられる)事例問題であり,知る権利の請求権的側面については,例えば原告主張においては「積極的・抽象的権利」(小山剛 『「憲法上の権利」の作法 第3版』(尚学社,2016年)199頁)と解すべきものとして論じていくことが考えられる。

 

ところで,昨年(平成29年)の予想はやや抽象的だったので,今年(平成30年)はもう少し具体的にしてみた。ちなみに,29年の方も危ないとは思っているが,同じでは芸がないので変えてみた次第である。

 

平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(1)

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

ということで,以下,平成30年司法試験論文憲法の予想問題である。

解説は次回。

 

 

[公法系科目]

 

〔第1問〕(配点:100)

 

 202×年,A県Y市は,「地方から差別のない社会・個人の尊厳を守る社会を実現する」理念のもと,市立図書館を対象に,差別的表現を含む書籍の配架を制限等することを目的に,Y市図書館条例(以下「Y市条例」または「条例」と略す場合がある。)8条1項6号を新設(改正)し,「差別的表現を含む」(同号)図書等の図書館資料については,Y市教育委員会(以下「委員会」という。)が管理するY市立図書館を含むY市の図書館(以下単に「図書館」ということがある。)は,その「利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる」(条例8条1項)とした。ただし,研究者が研究目的等のために閲読を請求した場合には,これを認めることができるとされている(同条2項)。

 条例の上記改正・施行から3年後,B大学文学部4年次生でY市民のX1は,「差別的表現とヘイトスピーチ」というテーマで,社会学のゼミ報告を行うために,『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版,X2訳,イギリス版の原書と殆ど同時期に出版されたもの。以下「本件図書」ということがある。)の閲読を請求した。本件図書の原書は,条例の上記改正・施行の1年前に出版・発行されたイギリス作家Cによる児童文学ファンタジー小説であり,2000年代から2010年代のイギリスを舞台に,法律を勉強する大学生で魔法使いでもある主人公のDが,強い絆で結ばれた学友であるE・Fらと切磋琢磨しながら日本の司法試験に相当する法曹資格試験の勉強に励み成長していく日々や,世界中の法曹資格者らを禁じられた黒魔法「JOBUTSU」により葬ってきた闇の魔法使いGとDとの戦いなどを描いた物語である。

 本件図書は,X2がCの許可を得て本件図書の原書を翻訳した全560頁の長編作品であり(本件図書の原書も同じ頁数),図書館でも閲読されることの多い人気図書の1つで,発売当時はベストセラーにもなった。しかし,本件図書432頁1行目に,「the blind」に「めかんち」という目の不自由な人に対する侮辱的ニュアンスのある日本語を充てた箇所があり,条例の上記改正・施行後,約2年間は,同箇所について特に苦情が寄せられることがなかったものの,Xが本件図書の閲読を請求する約半年前に,同箇所につき目の不自由な人に対する差別的表現があり,特に,この表現が小学校や中学校等での目の不自由な子ども(児童・生徒)に対するいじめや差別の原因となると,子どもは大人以上にひどく傷つくことになるなどとして,関係団体(目の見えない子どもを中心に支援活動を行う公益法人)Hから全国の公立図書館に宛てて本件図書の提供には差別が助長されることなどがないように十分な配慮してほしい旨の要望書が提出された。

 Y市立図書館は,Hから同要望書が提出されたことを踏まえ,条例の関係規定を根拠に,X1に本件図書の利用・閲読を制限する(認めない)処分(本件処分)を行った。なお,本件処分の手続に問題はなかった。

 X1は,本件閲読不許可処分は憲法に違反するものである旨主張して,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟1)。

 本件訴訟1が提起されてから6か月後,本件訴訟1係属中に,Y市立図書館は,条例の関係規定を根拠に,X1に同書を廃棄した(本件廃棄)。なお,本件廃棄の手続に問題はなかった。

 さらにその3か月後,この本件廃棄の事実を知人から聞いたX2は,本件廃棄は憲法に違反するものである旨主張して,国賠法1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起した(本件訴訟2)。

 

 

〔設問1〕

 あなたが本件訴訟1及び本件訴訟2の原告訴訟代理人弁護士である場合,本件訴訟1及び本件訴訟2において,それぞれどのような憲法上の主張を行うかを述べなさい。ただし,条文の漠然性及び過度の広汎性の問題,条例の法律適合性(憲法94条)の問題並びに国賠法上の問題は論じなくてよい。

 

〔設問2〕

 〔設問1〕で述べられた原告訴訟代理人弁護士の主張に対する被告の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。 

 

 

 

【参考資料1】 C著(X2訳)『ロード・オブ・ザ・JOBUTSU』(日本語版)

432頁1行目~同頁3行目

 

P「所詮〝めかんち〟野郎の放つ魔法など,そうそう当たるものではないさ。論文試験の憲法の予想と大して変わらない的中率といっておこうか。」

D「いまのは聞き捨てならないな。あんただって偏見視されたら傷つくだろう?」

 

 

【参考資料2】 図書館法(昭和25年法律第118号)(抜粋)

 (この法律の目的)

第1条 この法律は,社会教育法(昭和24年法律第207号)の精神に基き,図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め,その健全な発達を図り,もつて国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「図書館」とは,図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して,一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で,地方公共団体日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。

2 (略)

(図書館奉仕)

第3条 図書館は,図書館奉仕のため,土地の事情及び一般公衆の希望に沿い,更に学校教育を援助し,及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し,おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。

 一 郷土資料,地方行政資料,美術品,レコード及びフィルムの収集にも十分留意して,図書,記録,視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し,一般公衆の利用に供すること。

 二 図書館資料の分類排列を適切にし,及びその目録を整備すること。

 三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち,その利用のための相談に応ずるようにすること。

 四 他の図書館,国立国会図書館地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に附属する図書館又は図書室と緊密に連絡し,協力し,図書館資料の相互貸借を行うこと。

 五 分館,閲覧所,配本所等を設置し,及び自動車文庫,貸出文庫の巡回を行うこと。

 六 読書会,研究会,鑑賞会,映写会,資料展示会等を主催し,及びこれらの開催を奨励すること。

 七 時事に関する情報及び参考資料を紹介し,及び提供すること。

 八 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し,及びその提供を奨励すること。

 九 学校,博物館,公民館,研究所等と緊密に連絡し,協力すること。

(設置)

第10条 公立図書館の設置に関する事項は,当該図書館を設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。

(職員)

第13条 公立図書館に館長並びに当該図書館を設置する地方公共団体教育委員会が必要と認める専門的職員,事務職員及び技術職員を置く。

 

 

【参考資料3】 Y市図書館条例(改正後のもの)(抜粋)

 第1条 この条例は,図書館法(昭和25年法律第118号。以下「法」という。)第10条の規定に基づき,図書館〔注:Y市立図書館を指す。以下同じ。〕の設置及び管理に関し,必要な事項を定めるものとする。

第2条 市〔注:Y市を指す。以下同じ。〕は,図書館を設置する。

2 図書館の名称及び位置は,次の通りとする。

  (名称)       (位置)

  Y市立図書館     Y市民甲1丁目2番3号

  Y市立東図書館    Y市民乙4丁目5番6号

  Y市立西図書館    Y市民丙7丁目8番9号

第3条 図書館は,次の事業を行う。

 一 法第3条に掲げる事業に関すること。

 二 (略)

第5条 図書館の管理は,市教育委員会(以下「委員会」という。)が行う。

第8条 図書館資料が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは,委員会は,当該図書館資料の利用を制限し,利用を停止し,又は廃棄することができる。

 一~二 (略)

 三 プライバシーその他の人権を侵害するもの。

 四 わいせつ出版物である旨の判決が確定したもの。

 五 (略)

 六 差別的表現を含むもの

2 前項の規定にかかわらず,大学(中略)の研究者が図書館資料を研究目的で利用しようとするときは,委員会は,当該図書館資料の利用を許可することができる。

 

 

 

____________

*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

もしも司法試験論文行政法で判例変更を狙う主張を論じさせる問題が出たら ~公共施設の管理者の同意の処分性(判例は否定)を肯定する答案例~

 

 Ⅰ 判例変更を狙う主張という難題

 

 「『白か黒で答えろ』という難題を突き付けられ

        ぶち当たった壁の前で僕らはまた迷っている」[1]

 

Mr.Children「GIFT」の歌詞であるが,司法試験の論文答案でも,殆どの場合,適法か違法か,合憲か違憲か,無罪か有罪かなど,「白か黒」のどちらかに決めなければならず,結論や理由付けをどう書いていくべきかなどを迷うことが少なくない。

 

弁護士も,依頼人の求めなどに応じて「白か黒」一方の立場での主張を展開しなければならないわけであるが,依頼人(あるいはボス弁など)から「判例変更」を狙う主張を(も)してほしいと求められることが(稀にだが)あるわけで,そのようなときには通常,最高裁判例の論理という「壁」にぶち当たり,構成等をどのように書いていくべきかなどを迷いながら,判例変更の主張を起案していくことになる。

 

そして,司法試験論文式試験においても,法曹の実務で問題となる以上,「難題」だとは思うが,この「判例変更」を狙う主張が出題されないとは言い切れないだろうし,仮に,判例変更の主張(の骨子)を答案に書く日が平成30年5月の本試験の日であったとしても,当たり前ではあるが,受験生は文句ひとつ言わず(人によっては試験終了後に言うだろうが)制限時間内で答案を書いていかなければならないわけである。

 

では,公法系科目で判例変更を狙う主張を書く問題が出る場合,果たしてどの判例が出題されるのだろうか。

 

この問いに対し,一番確率が高いのは,最一小判平成7323民集49巻3号1006頁[2](以下「平成7年判例」ということがある。)ではないかと思われ,司法試験論文式試験行政法(公法系科目第2問)で,平成7年判例を変更すべき旨主張する(あるいは同主張の骨子を書かせるような)問題が出題されるのではないかと考えられるのである。

 

この平成7年判例は,都市計画法(以下「法」ということがある。)上の開発許可(法29条1項)を得るための公共施設管理者の不同意(法32条参照)の処分性(行訴法32項)を否定した判例として有名であり,開発許可制度や公共施設管理者の同意の制度が法において極めて重要なものであり[3],実務的にもしばしば問題となる法制度であることからすると[4],この判例に関する事案が出る蓋然性は低くないように思われる。

 

平成7年判例については,従前から「判例変更の可能性もある」との解説があり[5],また,主に平成16年行訴法改正以降の「最高裁判例における処分性の拡張傾向」[6]に照らし,現に,高裁レベルで不同意の処分性を肯定した判決が出ている高松高判平成25530判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」ということがある。))ことから,平成30年司法試験論文行政法でも出題されることも具体的に想定して,できれば具体的な答案を念頭におきつつ準備をしておくのが望ましいだろう。

 

そこで,本日は,まさにこの判例変更の主張を(この主張だけではないが)答案に書かせる事例問題である曽和俊文「公共施設管理者の不同意をめぐる紛争」曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社2016年)172178頁の問題(第2部・問題3,同問題の解説は179頁以下答案(下記)を書いてみることにした。ちなみに,この「第2部・問題3」は,同書の事例問題の中でも特に重要なものであると考えられる。

 

もちろん,この『事例研究行政法[第3版]』については,各自購入していただくか(…良質な問題・解説以外にも「ミニ講義」や「コラム 答案を読んで」など受験生にとって役に立つ記載が多数あるといえ,購入すべき一冊といえる),図書館で借りるなどしていただきたい。

 

 

Ⅱ 『事例研究行政法[第3版]』第2部・問題3の答案例

 

第1 設問1

 1 小問1

  (1) 不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起[7] [8]

 Mは,公共施設管理者の不同意(以下単に「不同意」という。)[9]の違法性を争い,公共施設管理者の同意を得るために[10],乙市を被告として(行政事件訴訟法(以下,法律名を省略する[11]か「行訴法」と略す。)1111号,381[12]),不同意の処分取消訴訟32)と,公共施設管理者の同意(以下単に「同意」という。)の申請型義務付け訴訟(362)を併合提起(37条の32)すべきである。以下,各訴訟の訴訟要件において特に留意すべきことについて論ずる。[13]

  ア 不同意の取消訴訟32項)

   () 処分性

【論パ[14]不同意は「行政庁の処分」(32項)[15]といえるかにつき,同項の処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち(①公権力性[16]),その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが(②法効果性,法効果の直接性・具体性[17]法律上認められているもの(③法律の根拠[18])をいう。

 これを本問についてみると,確かに,「同意」という文言が用いられてはいるものの[19],不同意は,都市計画法(以下「法」という。)321に基づき行政の一方的な決定によってなされ[20]私法上の対等当事者間においてはあり得ない行為であるから[21],①公権力性及び③法律上の根拠の要件を満たす[22]

 次に,②法効果性等に関し,最高裁判例[23]は,不同意は公共施設の適正な管理上,開発行為を行うこと相当でない旨の公法上の判断の表示であって[24],同意が得られなければ公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないことなどから,不同意自体は開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえないとし,②法効果性ないし法効果の直接性を否定する[25]

 しかし,法が公共施設管理者の同意書を開発許可(法29条1項)の申請書(法30条1項)の添付書類として要求していることから(同条2項),同意が得られない場合には,開発許可申請を行っても,申請者は,相当程度の確実さをもって[26],あるいは特段の事情のない限り,同申請が適法に行われていないとして申請拒否処分がなされるとの法的地位に立たされる[27]。加えて,上記判例の後に法323項が同条に新たに付加されたため[28],同意権者に完全な自由はなく「公共施設の適切な管理」に支障を及ぼすおそれのない場合には不同意は許されないと解される。さらに,合理的理由なく不同意とされる場合に,同意に係る周辺住民等に対する第三者効のある取消訴訟321項)等による救済手段が図られなければ[29],開発行為の許可を求める者が開発行為の途を閉ざされる結果につながりかねず,ひいては憲法29条あるいは憲法22条1項の趣旨に反することとなるため,同手段のような実効的な権利救済が図られる[30]べきである。

 また,不同意の場合には,開発許可の申請手続を適法に行えなくなる仕組みとなっており(法30条2項等参照),開発許可の申請者は当該開発許可が法令上の制限に適合しているか否かの判定を受ける機会が保障されなくなるため,同申請を適法に行う地位も侵害するというべきである[31]

 したがって,上記判例は変更されるべきであり,不同意につき,②法効果の直接性も満たすと考えることから,不同意の処分性は肯定される。

   () その他の訴訟要件

 Mは,不同意処分の相手方であるから,原告適格もあり(9条1項),不同意の通知がなされた日が2009年8月20日であることからすれば出訴期間も経過していない(14条1項[32])といえるなど,その他の訴訟要件も満たす[33]

   () よって,Mは,不同意の取消訴訟を提起すべきである。

  イ 同意の申請型義務付け訴訟(362号)

   () 同意も不同意の場合と同様に直接的な法効果があるといえるから,「一定の処分」(3条6項2号)[34]に当たり,拒否処分型(37条の3第1項2号)にあたるものであるから前述した不同意の処分取消訴訟と併合提起する必要がある(同条3項)。さらに,Mは法32条1項に基づき同意を得るための申請をしたものと解される[35]ため,「法令に基づく申請」(同条2項)をしたといえ,訴訟要件をすべて満たす。

    () よって,Mは,同意の義務付け訴訟を提起すべきである。

  (2) 実質的当事者訴訟(4条後段)

   ア 「公法上の法律関係に関する訴訟」(給付訴訟)

 Mとしては,不同意・同意の処分性(3条2項)が否定される場合であっても[36],予備的に,法32条1項の同意をせよという実質的当事者訴訟としての給付訴訟(4条後段,民法414条2項ただし書参照)を提起すべきである[37]

   イ 「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(確認訴訟)

 また,同訴訟が認められない場合に備えて[38]同意義務があることの確認訴訟[39]4条後段)を提起することが考えられる。

【論パ】この点に関し,確認訴訟の訴訟要件である確認の利益は,①確認対象選択の適切性[40],②方法選択の適切性[41],③即時確定の必要性[42]の有無によって判断すべきである[43]

 本問では,①現在の法律関係を確認するものであること[44],②同意の処分性が否定される場合には前記取消訴訟[45]では争えず,他に適切な救済手段がないこと,③同意が得られないと,老人デイサービスセンターの設置が計画通りに進まないこととなるため,Mの開発行為に係る権利ないし法的地位に現実的かつ具体的な不安・危険が現時点で生じている[46]といえることから,確認の利益を満たす。

 よって,同意義務があることの確認訴訟も提起しうる。

 2 小問2

 Mは,開発行為の申請の不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るために,甲県を被告として(11条1項1号,38条1項),①不許可処分の取消訴訟(3条2項)[47]と,②開発許可の申請型義務付け訴訟(3条6項2号)を併合提起(37条の3第2号)すべきである。[48]

 ①については,審査請求前置[49]の訴訟要件(8条1項ただし書,法50条・52条)を満たすようにすべく,訴訟提起前に甲県開発審査会に審査請求を行い,裁決を経てから訴訟を提起する必要がある。[50]

 なお,後述するように,不同意の処分性が肯定される場合,いわゆる違法性の承継が認められると考えることなどから,①不許可処分の取消訴訟で,不同意についての違法事由を主張しうるものといえ,裁判所もこれについて実体判断をなしうるものと考える。ゆえに,不許可処分の違法性を争い,開発許可を得るための訴訟として,上記①・②は有効な[51]救済手段といえる。[52]

第2 設問2

 1 設問1-1の訴訟における違法性(法321項に係る違法)の主張

  (1) 処分要件充足を示す事実の不存在[53]

 法32条1項の「同意」は,開発許可の申請者と公共施設管理者との「協議」を前提とし(同条1~3項),かかる協議は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行うものとするとされている(同条3項)。ゆえに,法32条1項の趣旨[54]公共施設の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険がないことを同意の処分要件とする点にあると解される。そこで,公共施設管理者は,かかる危険がない場合には,法32条1項の「同意」をなすべきであり,この場合に不同意とすることは違法というべきである。

 これをMに対する乙市市長の不同意についてみると,①市道丙号線は、老人デイサービスセンターが設置された場合の送迎車両等の頻繁な通行に対しでも十分な幅員を有しており、②同センターでは、法律の規制に適合した合併海化槽を設置することを計画しており、飲用に耐えうる水質の排水がされ、汚水等が水路に流れる可能性は全くないことから[55]、Mの開発行為により市道水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はないといえる。

 よって,Mは,設問1-1の訴訟の本案において,本件では上記処分要件を充足する事実が存在しない旨の違法事由の主張を行うべきである。

  (2) 裁量権の逸脱濫用の主張[56]

【論パ】32条1項の「同意」に際しての公共施設の適切な管理に支障の判断に関し,仮に,専門的技術的な判断あるいは地域の特性や地域住民の意見を斟酌した判断[57]に係る行政裁量が認められるとしても[58]他事考慮重大な事実誤認[59]が認められることにより,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用となり違法となる(行訴法30条)ものと考える[60]

 本問では,地元の丙町協議会や水利組合等が道路や水路を事実上日常的に利用しているとしても,地元協議会等の利害関係人の同意を得たこと自体は公共施設の適切な管理に係る具体的な支障の有無と直接関係するものとはいえないから考慮事項とはならないものといえる。そこで,①丙町協議会の排水同意がないこと,②丙堰土地改良区からの陳情書・反対署名の存在,③丙町協議会からの要望書・反対署名の存在それ自体を考慮することは他事考慮である。

 また,仮に,地元協議会等の利害関係人の意見等が公共施設の適切な管理に係る事項を推認するものとして考慮事項に関係するものであるとしても,前記のとおり,道路や水路の適切な管理に支障を及ぼす客観的・具体的な危険はなく,かかる危険につき乙市が相応の調査・検証を行った形跡もみられないので,地元協議会等の抽象的な不安感等からMの開発行為に反対をしているものといえ,重大な事実誤認があるか,あるいは上記調査不足による考慮不尽といえる。

 これらのことから,乙市市長の不同意の判断の内容は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くので,Mは裁量権の逸脱濫用の違法を主張すべきである。

 2 設問1-2の訴訟における違法性の主張

  (1) Mの開発許可の申請に対する不許可処分の理由は,同申請に必要な添付書類である同意書(法30条2項)が提出されていない点にある。そこで,Mとしては,設問1-2の訴訟において,前記のとおり不同意が違法であり,本来は同意書が交付されるべきであったことから,許可処分がなされるべきであり,不許可処分は違法であるとの主張をすべきである。

  (2) 裁判所の審査範囲について

 以上の違法事由の主張に関し,確かに,同意書を開発許可の申請の添付書類とする法30条2項等の趣旨が,同意(法32条1項)するか否かの判断につき法は公共施設管理者に委ねており,知事は開発許可の申請の許否にあたって同意書の有無の形式審査をすれば足りるとする点にあるものと解されることから,裁判所の審査範囲・審査権限も,同様に同意・不同意の実体判断の適否にまでは及ばないとも思える。

 しかし,裁判所の審査権限については必ずしも知事のそれと同様である必要はないことから,裁判所は同意の適否を審査できるものと考える。

  (3) 違法性の承継について

 また,同意の処分性が肯定される場合,違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる[61]

 【論パ】この点については,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限(14条)の趣旨からすれば[62]違法性の承継は原則として否定されるが,実体法的観点及び②手続法的観点両面からみて例外的に肯定されうると解すべきである[63] [64]

 これを本問についてみると,公共施設管理者の同意は開発許可の前提として要求される行為であり,それ自体独立した意味をもつ行為ではなく,①先行処分と後行処分とが結合して周囲公益等を考慮して開発行為を許可するという一つの目的・効果の実現を目指しているといえる。また,②不同意については法35条2項のような文書による通知が法定されていないことに加え,本件のように不同意が処分であるか否かが不明確な場合には,先行処分を争うための手続的保障が十分とはいえず,不許可処分を受けるまでは争訟を提起しないことがあるとしても,その判断はあながち不合理ともいえない

 よって,本件で違法性の承継は肯定されると考える。なお,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば,以上の違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴機関内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。[65]

                                    以 上

 

 

Ⅲ GIFT

 

以上,もとより拙い答案例ではあったが,処分性(判例変更の主張)の点や,それ以外の論点に関する論述について,多少なりとも参考になっただろうか。

 

この答案が,司法試験という「壁」を超えていこうとする受験生の皆様への「GIFT」となれば幸いである。

 

 

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[1] 桜井和寿Mr.Children)「GIFT」(2008年)。

[2] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)324~325頁156事件。

[3] 碓井光明「都市計画法精義Ⅰ」(信山社,2013年)(以下「碓井都市計画法精義Ⅰ」という。)183頁は,都市計画「法における最も重要な制度として,開発許可制度が存在する」(下線は引用者)とする。かかる開発許可(都市計画法29条1項)を申請しようとする者は,予め開発行為に関係がある「公共施設の管理者と協議し,その同意を得なければならない」(同法32条1項)。

[4] 本ブログの筆者は,弁護士として,建築審査会の実務を担当することがあるが,開発審査会のみならず,建築審査会においても,この開発許可制度はしばしば問題となる(例えば,開発許可が本来必要であったにも関わらず,同許可を得ないで建築確認を得たことは違法である旨の主張などが展開されることがある)。

[5] 北村喜宣「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2012年)338~339頁(339頁の解説6)163事件。なお,碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も「行政処分性を肯定すべきであると考える」とし,橋本博之『行政判例ノート〔第3版〕』(弘文堂,2013年)204頁も,平成7年判例につき,「判例変更されて処分性が認められるべきである,との考え方もありえよう」とする。

[6] 南博方原編,高橋滋=市村陽典=山本隆司編『条解 行政事件訴訟法〔第4版〕』(弘文堂,2014年)(以下「高橋ほか・条解」)という。)68頁〔高橋滋〕。

[7] 曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016年)(以下「曽和ほか・事例研究」という。)180頁以下〔曽和〕の解説では,処分性を否定する見解に立つ場合(行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟の構成)を先に検討しているが,①資料1の弁護士らの会話文に「最高裁での判例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」とあり「次に、(中略)平成7年判決を前提とすれば、(中略)開発許可を得たい者はどうすればいいのか?これも考えてみてくれますか?」とあること(曽和ほか・事例研究176頁〔曽和〕),②出題者自身が不同意の取消訴訟と同意の義務付け訴訟の併合提起が「最も妥当ではないかと思われる」と解説していること(同185頁),③「普通,行政訴訟であれば,行政処分をつかまえて取消訴訟を起こし執行停止を求めるというのが,実務家的,実務的には当たり前の話」(平成19新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」8頁)であり,それが「オーソードックスなやり方」(平成18年新司法試験に関する「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」5頁)であることなどから,本答案例では,処分性を肯定する抗告訴訟の構成を先に書いた。なお,本設問・小問には,「争訟」ないし「法的手段」ではなく,「訴訟」(行政訴訟に限定していない)について検討せよと書いてあるため,仮の救済について答案に書く必要はないが,抗告訴訟や実質的当事者訴訟等の行政訴訟のみならず民事訴訟も一応(形式的には)検討の対象となっている点に留意する必要がある。

[8] 訴訟類型(2つの抗告訴訟を挙げる必要がある問題)のタイトルのところでは,タイトルが長くなりすぎることを防ぐために,行政事件訴訟法の条文は書かない方が良いだろう(本文で書けば足りる)。他方,各訴訟要件のところでは基本的には書いた方が良いと思われる。

[9] この省略の注意書きについては,読者への便宜上一応書いたが,書かなくてもよいかもしれない(ややくどいし,採点委員も分かるので)。「同意」についても同様である。

[10] 読者への便宜上一応書いたが,設問のオウム返しにすぎないので,この訴訟の目的の部分は省略可能である。

[11] 訴訟類型・訴訟要件に関する設問・小問では,行政事件訴訟法を,以下「行訴法」とする,などと略すとだけ書くよりも,このように法律名を(すべて)省略する場合がある旨の記載を付しておいた方が良いと思われ,あるいは,より短く「(以下法律名略)」などと書いてもよいだろう。なぜなら,法律名をすべて省略しても普通は採点委員が混乱等することはなく特にマイナスになることはないと考えられ,同時に(多少は)時間ロスを防げるからである。多くの受験生にとって行政法の論文は制限時間との戦いであるから,時間は少しであっても無駄にはできない

[12] 「(行訴法)11条1項1号,38条1項」については(他の訴訟要件についてはともかく),六法を引いて確認しなくても書けるように記憶しておく方が良いだろう。前記のとおり,時間は少しでも無駄にできない。

[13] 読者への便宜上一応書いたが,殆ど設問のオウム返しにすぎないので,この一文は省略可能である。また,同様に便宜上,各訴訟の訴訟要件でそれほど問題とならないようなものについても,基本的には条文を挙げて一言でも説明を加えるように努めたが,本試験ではそのような訴訟要件については言及する必要がない場合があるので注意を要する。

[14] 「論パ」とは,「論証パターン」(井田良=細田啓介=関根澄子=宗像雄=北村由妃=星長夕貴「〔座談会〕論理的に伝える」法学教室448号23頁(2018年)〔井田〕)の略称である。論証パターンの「利点」と「危険」に関し,賢明な受験生は,同23~24頁〔宗像〕を読むと良いだろう。

[15] 受験生の答案で,処分性の論点に関し,よく「行政庁の処分その他公権力の行為に当たる行為」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をするものを見かけるが,不正確である。判例(最一小判昭和39年10月29日)による処分性の「定式」(中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)281頁(以下「中原・基本」という。)参照)を書く場合,それは,「その他公権力の行為に当たる行為」の部分ではなく「行政庁の処分」の部分の定式であるから(神橋一彦『行政救済法(第2版)』(信山社,2016年)43~44頁),「行政庁の処分」(行訴法3条2項)といえるかという問題提起をしなければならない。ちなみに,「その他公権力の行為に当たる行為」は「行政庁の処分」以外の行為で行政行為類似の優位性を持つものであり,人の収容、物の留置のような継続的な性質を持った事実行為がこれに当たる(神橋・同書79頁参照)。なお,①中原・基本281頁では,「処分性の基本的定式」,「処分の定式」という語を,②角松生史「判批」百選Ⅱ332頁は,(判例の)「定式」という語を,③山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)365頁注3)は「最高裁の定式」という語を,④宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という。)158頁は,「最高裁判決における定義」という語をそれぞれ用いている。司法試験考査委員・元考査委員が「定式」という用語を使っていることなどから,受験生も法科大学院の授業やゼミなどで「処分性の判例の定式」といった用語を使って質疑応答等を行ってもよいだろう。

[16] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)(以下「櫻井=橋本・行政法」という。)267頁,曽和ほか・事例研究292頁〔佐伯祐二〕。なお,山本・探究365頁は,「公権力性」ではなく「権力性」という語を用いる。

[17] ②の判示の点についてはネーミングが難しいが,野呂充=野口貴公美=飯島淳子=湊二郎『行政法』(有斐閣,2017年)(以下「野呂ほか・有斐閣ストゥディア」という。)174頁〔湊〕を参考にして,このように書いた。‘直接法効果性’や‘直接の法効果性’などとより短く書いてもよいかもしれないが,多くの基本書ではこのような短いワードは用いられていないので本答案例では避けた。とはいえ,採点委員によっては「法効果性,法効果の直接性・具体性」という表現は長くてくどいと感じるかもしれないから,「法効果の直接性・具体性」だけか,あるいは‘直接の法効果性’くらい短い方が良いのかもしれない。

[18] 山本・探究365頁,野呂ほか・有斐閣ストゥディア174頁。

[19] 北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の①の理由,安本典夫『都市法概説〔第2版〕』(法律文化社,2013年)(以下「安本・都市法」という。)95頁参照。なお,安本・都市法95頁は,「同意」を法50条1項に挙げていない点(なお,曽和ほか・事例研究177頁〔曽和〕では同項が一部省略されているため,この点が分からない)を同意・不同意の処分性を否定する論拠として紹介する。

[20] 曽和ほか・事例研究32頁〔北村和生〕参照。

[21] 処分性の第1要件である公権力性がメインでは問われていない場合には,このようなあてはめをすると良い。裁判例でもこのようなあてはめをしているものがある(横浜地判平成12年9月27日(判例地方自治217号69頁,裁判所ウェブサイト)事実及び理由・第三の2(二)は,「以上のような本件条例の規定の仕方からすると、本件条例九条一項に基づく指導又は勧告は、私法上の対等当事者間においてはおよそあり得ない行為であり、被告が公権力の行使として行うものであることに疑いはない。」と判示している)。なお,第1要件である公権力性がメインで問われている問題(抗告訴訟の対象となる処分か,対象とならない契約かが問題となる給付行政の事案(例:労災就学援護費不支給の処分性が争われた最一小判平成15年9月4日・百選Ⅱ326頁157事件〔太田匡彦〕)の問題,山本・探究320頁参照)では,「当該行為が国民の権利義務を一方的に変動させる行為だから処分である」との記述は「不適切ないし不十分」とされるリスクがあると考えられる(曽和ほか・事例研究42頁〔野呂充〕参照)。

[22] ①公権力性を否定する論拠については,ほかに,「私道のように私人が管理者となる場合もあるがその同意に公権力性があるとはいえない」(北村喜宣「判批」百選Ⅱ325頁・3「否定説」の④の理由)というものがあり,これに対する反論としては,「私道は法にいう公共施設にはあたらない」(同頁・3「肯定説」の理由①)というものがある。もっとも,問題文の事例や資料1の弁護士らの会話文において,「私道」の点は特に言及されていないものと考えられることから(曽和ほか・事例研究172~176頁〔曽和〕等参照),本答案例では,この点については書かなかった。

[23] 最一小判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁(以下「平成7年判例」ということがある。)・百選Ⅱ324~325頁156事件〔北村喜宣〕。

[24] 不同意がそれ自体で開発行為を認めないという法的効果をもつ決定ではなく,開発行為に対する制限は開発不許可決定で明確になるという理由付けと考えられる(曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕の解説参照)。

[25] 資料1の弁護士らの会話文(曽和ほか・事例研究175頁〔曽和〕)で判例の重要判示が引用されているため,会話文を見ながら書けるが,仮にこのような引用の記載がなくても,この部分は書けた方が良いだろう。

[26] 「相当程度の確実さをもって」は,不同意の処分性を肯定した高松高判平成25年5月30日判例地方自治384号64頁(以下「平成25年高松高判」という。)が引用する最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(百選Ⅱ332~333頁160事件〔角松生史〕)のキーワードである。なお,平成25年高松高判は,曽和ほか・事例研究184頁〔曽和〕の解説や,百選Ⅱ325頁〔北村喜宣〕の解説でも言及されており,重要な裁判例といえる。

[27] 「地位に立たされる」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示の語である。ここでは,申請拒否処分がなされるという法的地位に立たされることで,開発許可を受ける権利ないし開発行為をするする権利(財産権)に関する法的地位に変動があるという理由付けを書いている。なお,この理由付けは,後述する手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付け(「また,」から始まる次の段落の内容)とも両立し得るものと思われ,少なくとも訴訟代理人弁護士として両方を主張して良いのではないかと考える。

[28] 平成25年高松高判も,平成7年判例の後に法が改正(平成12年)され,「法32条3項が付加されたこと」に言及する(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕の解説でもこの部分が引用されている)。なお,これに対し,中川丈久=斎藤浩=石井忠雄=鶴岡稔彦編著『公法系訴訟実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂,平成23年)(以下「中川ほか・実務の基礎」という。)384頁は,都市計画法32条の改正前(平成7年判例当時)の条文と後(現行法)の条文とで,「体裁に違いはあるものの,その規定内容に変更はなさそうである」とし,32条3項後の事案であっても平成7年判例の「射程に入る」ものと考えられるとし,同意の処分性が肯定されることを前提とする訴訟類型である「抗告訴訟で争う方法は,さしあたりは見込みがなさそうである」としており,平成25年高松高判とは異なる立場をとる。しかし,本問の会話文(「最高裁での判例例変更も狙って、同意の処分性を肯定する理屈を考えてくれませんか?」)の要請に照らすと,このように「さしあたりは見込みがなさそうである」などと答案に書いてしまうことは不適当といえるから,少なくとも本問の答案では,中川ほか・実務の基礎384頁のような立場は取るべきではない。

[29] 最一小判平成21年11月26日民集63巻9号2124頁(百選Ⅱ420~421頁204事件〔興津征雄〕)は,公法上の当事者訴訟等との比較において,条例の取消訴訟を通じて救済を与えることの意義につき,取消判決や執行停止決定に第三者効が認められていることを指摘し,「実効的な権利救済」という観点から処分性を肯定する論拠としている(高橋ほか・条解69頁)ことから,ややつまみ食い的な使い方ではあるが,この部分を本答案でも活用した。

[30] 「実効的な権利救済を図る(という観点から)」も,平成25年高松高判が引用する最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(百選Ⅱ316~317頁152事件〔山下竜一〕)の判示のキーワードである。同判例は手続的権利(申請権)ではなく実体的権利(財産権関係)についての判例であるため,本問でもこの判例のキーワードは財産権に関する理由付けとして用いることとした。ちなみに,同判例は,将来,高度の蓋然性をもって換地処分がなされるという法的地位に立たされるという理由付けだけで土地区画整理事業の事業計画の決定の処分性を肯定しているわけではなく,「実効的な権利救済を図る」観点も併せて処分性肯定の理由としている(百選Ⅱ316頁〔山下竜一〕)ので,本答案例もこの両方の理由を書いた。

[31] 曽和ほか・事例研究183~184頁〔曽和〕の解説参照。この段落では,手続的権利(申請権)が侵害されるという理由付けを併せて(付加的に)書いている。

[32] 不同意の処分性を肯定することに鑑みれば,行訴法14条3項によって処理すると解する立場の方が筋が通っている(一貫性がある)かもしれず,3項の適用があるとすれば1項ではなく3項の方で処理する必要がある。とはいえ,不同意につき3項が適用されるかについてはやや疑問が残る余地があると思われ,本答案例では同条1項で処理している。

[33] 不同意の処分取消訴訟に関しては,開発審査会に不同意に係る審査請求を行っていることから,審査請求前置(8条1項ただし書,法50条・52条。ただし,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された。)の点は特に触れなくてもよいだろう。曽和ほか・事例研究183頁等〔曽和〕の解説でも触れていない。

[34] 同意の処分性の理由付けは少なくとも本問ではこのくらい短くてよいだろう。ちなみに,中原・基本36頁は,「一定の処分」(3条6項2号)を37条の3第1~3項とは別立てで訴訟要件の規定と位置付けており,本答案例もこれに倣った。なお,宇賀・概説Ⅱ339頁以下は,37条の3第1~3項を訴訟要件の規定と位置付け,とくに3条6項2号はそのような規定と捉えていないようである。

[35] ここは説明が必要と思われるが,既に不同意の処分性を肯定したことから,このくらい簡単な説明で済ませている。なお,曽和ほか・事例研究183,185頁等〔曽和〕の解説でも特に37条の3第2項の「法令に基づく申請」についての説明はない。

[36] 「同意の処分性が否定された場合の争い方も考えるべき」(曽和ほか・事例研究189頁等〔曽和〕)すなわち答案に書くべきである。

[37] 碓井都市計画法精義Ⅰ200頁も,仮に不同意の処分性を否定する場合には,「公法上の当事者訴訟としての『同意義務の確認の訴え』又は『同意せよ』との給付訴訟が考えられよう。」とする。また,同頁は,この給付訴訟につき,「行政機関を被告としても差し支えないと解すべきである」としており,本問では乙市市長が給付訴訟の被告となると考えることになるが,この点については,難しい論点と思われる割には配点が殆どないものと思われることから,本答案例では触れることを避けた。

[38] 中川ほか・実務の基礎385頁は,同意請求権が成立することが難しいことから請求棄却となる可能性が高い旨指摘する。

[39] 曽和ほか・事例研究181頁〔曽和〕はこの訴訟を選択する。なお,中川ほか・実務の基礎385頁は,特定の事項について「協議する義務の不存在を確認する」という確認訴訟を提起することが「適切であろうか」としており,「協議」(法32条3項)の確認は,本問(設問1・小問1)の「同意を得るため」の訴訟としては,やや迂遠ではないかと思われるため,本答案例では書かなかった。もっとも,現実の訴訟では,このような一定の「協議」についての確認訴訟(あるいは一定の「協議」をせよ・協議を続行せよとの給付訴訟)も併せて提起しておくのが良いと思われる。

[40] 中原・基本380頁は,「確認対象の選択の適切さ」とする。

[41] 中原・基本381頁は,「確認訴訟という方法選択の適切さ」あるいは「給付訴訟等に対する補充性」・「確認訴訟の補充性」としている。

[42] 櫻井=橋本・行政法354~355頁は,③の即時確定の利益(即時確定の現実的必要性,紛争の成熟性)に関し,近時の判例は,「有効適切な手段」(在外国民選挙権訴訟最高裁(大法廷)判決)ないし「目的に即した有効適切な争訟方法」(教職員国旗国歌訴訟最高裁判決)というメルクマールを用いていおり,「紛争の成熟性を柔軟に認めるという方向性」を示している旨解説する。

[43] 行訴法4条後段の確認訴訟における確認の利益は,同法が特に規定を置いていないことから,「民事訴訟法における確認の利益論を基礎としつつ」も「行政訴訟の特質を踏まえた解釈をする必要がある」(中原・基本380頁)とされる訴訟要件である。なお,曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕や,中原・基本380頁以下などは,即時確定の利益(即時確定の必要性)を3番目の要件として挙げる(本答案例もこの立場による)のに対し,櫻井=橋本・行政法354~355頁は,確認の利益の要件・判断要素等として,「即時確定の現実的必要性(紛争の成熟性)」を1番目に挙げている(即時確定の利益・必要性を意味するものと考えられる)。ちなみに,この3要件のための理由付けの記載は(司法試験の答案では)要らないだろう。

[44] 曽和ほか・事例研究182頁〔曽和〕も,①のあてはめで「現在の法律関係の確認」の点のみ言及する。

[45] 給付訴訟については,②のあてはめでは特に言及しない方針を採っている(厳密には「等」に含まれている)。

[46] 中原・基本382頁(「確認訴訟が認められるためには,原告の権利や法的地位に、現実的かつ具体的な不安や危険が生じていなければならない。」)参照。

[47] なお,碓井都市計画法精義Ⅰ189頁は,都市計画「法29条の許可が行政処分であることを疑う者はいないであろう」とする。行政手続法上の申請に対する処分であり,典型的な行政行為であることから,本問の答案でも開発許可の処分性(肯定)の点を特に論じる必要はない。

[48] 小問2の答案は,このように短く書くべきである(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕も同様に短く解説している)。

[49] 「審査請求前置主義」と書いてもよい(曽和ほか・事例研究185頁〔曽和〕,櫻井=橋本・行政法296頁)。

[50] 本問では,審査請求前置についても書く必要があるが,平成26年行政不服審査法改正に伴う法の改正によりこの訴訟要件は廃止された(曽和ほか・事例研究186頁〔曽和〕参照)ため,今日では問題とならないものである。

[51] 「有効な」ではなく「実効性のある」と書いてもよいだろう。

[52] この段落は,①・②の訴訟の適法性(訴訟要件の話)ではなく勝訴可能性の高さという意味での実効性・有効性の話を書いている部分である。なお,平成23年司法試験論文行政法・設問2・小問(1)は,「最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴え」(下線は引用者)を書くことを求めている。

[53] 中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)参照。(1)では,要件裁量が(効果裁量も)否定されることを前提とする実体的違法事由(法32条1項(・3項)に係る違法性)の主張である(曽和ほか・事例研究189頁〔曽和〕の「コラム 答案を読んで」③参照)。

[54] 裁量否定の場合の判断代置方式による審査(大橋洋一行政法Ⅰ 現代行政過程論[第3版]』(有斐閣,2016年)209頁,判断代置的審査)は,できる限り(時間と答案のスペースの許す限り)条文文言→趣旨→規範→あてはめ→結論という法的三段論法の流れで書くべきである(平成21年新司法試験採点実感6頁下から2行目~7頁上から7行目参照)。

[55] この部分は問題文(曽和ほか・事例研究172~173頁(・186頁)〔曽和〕)事実関係の一部を写しただけの記載であり,事実の評価の記述がない。評価の文があった方がベターだろう。

[56] 曽和ほか・事例研究187頁〔曽和〕の解説参照。中川丈久「コラム 取消訴訟における実体的違法事由」中川ほか・実務の基礎511~512頁(512頁)は,「行政庁の法令解釈自体に誤りはないが,事実へのあてはめにあたって,行政庁の裁量に委ねられるべき判断があり,その裁量判断が合理性を欠くとして(社会通念上著しく不相当である,専門技術的な判断に看過し難い過誤がある等),違法な処分であるという主張も考えられる」とする。

[57] 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2013年)318~319頁参照。

[58] 平成25年高松高判の原審である徳島地判平成24年5月18日判例地方自治384号70頁は,同意・不同意につき,裁量を肯定しており,安本・都市法96頁も裁量を肯定する立場を採っているものと考えられる。なお,後掲の最一小判平成21年12月17日も,安全認定に係る「安全上の支障の有無は,専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり,知事が(中略)判断するのが適切である」(下線は引用者)と判示しており,「安全」(危険)に関する判断は,裁量が否定されるものと解される場合もあるが,本件のように裁量が肯定される場合もある。ちなみに,行政裁量が否定されるものと解されうる例(著名な憲法判例)として,泉佐野市民会館事件(長谷部恭男=石川健治=宍戸常寿編『憲法判例百選Ⅰ[第6版]』(有斐閣,2013年)182~183頁〔川岸令和〕)を挙げることができるだろう。同判例の事案では「公の秩序をみだすおそれがある場合」(市立泉佐野市民会館条例7条1号)に要件裁量が認められるかが問題となるが,この文言は不確定的法概念ではあるものの,判例が同号の「趣旨」に照らし,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」などといった比較的厳格な規範を定立していることからすると,要件裁量を否定しうる(要件裁量を否定した判例である)と解することができるだろう(ただし,同判例園部逸夫裁判官の補足意見は,要件裁量を肯定している)。

[59] 碓井都市計画法精義Ⅰ200~201頁,曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕参照。

[60] 曽和ほか・事例研究186~187頁等〔曽和〕の解説でも指摘されているとおり,本問では本答案例のように,裁量が否定されることを前提とする主張を行うとともに,裁量が肯定されるとしても違法となるとの主張を行うべきである。

[61] 違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判例(倉地康弘「判解」ジュリスト1415号82頁参照)として,最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁・宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣,2017年)170~171頁84事件〔川合敏樹〕。

[62] 違法性の承継の根拠論に関し,板垣勝彦「建築確認の取消訴訟において建築安全に基づく安全認定の違法を主張することの可否」『住宅市場と行政法耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規,平成29年)269頁以下参照。また,違法性の承継が公定力(取消訴訟の排他的管轄)の例外なのか,不可争力(出訴期間制限)の例外なのか,という論争がある(同頁)ところ,後掲の(1つ下の)注(平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の)のとおり,平成28年の考査委員は,公定力説と不可争力説を併記してよいとしているものと思われる。

[63] 違法性の承継の論証パターンのショートバージョンである。なお,この部分の論証パターンとそのあてはめの部分については,平成28年司法試験論文行政法の出題趣旨3頁の次の記載を参考にした。「〔設問3〕は,いわゆる違法性の承継の問題であるが,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば,違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で,まず,違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で,最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には,違法性の承継が認められるための考慮要素として,実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。」(下線は引用者)

[64] 平成28年司法試験論文行政法の採点実感等5頁等も参考にした。

[65] 「(3) 違法性の承継について」の部分のショートバージョンは次の通りである。

「同意の処分性が肯定される場合には,いわゆる違法性の承継の肯否すなわち先行処分としての不同意に係る違法を後行処分である開発許可の申請に対する不許可処分の取消訴訟の中で取消事由として主張しうるのかが問題となる。もっとも,不同意の取消訴訟と不許可処分の取消訴訟を出訴期間内に提起しておけば違法性の承継の問題は生じないので,Mの訴訟代理人としては両訴訟を出訴期間内に併行して提起し,同意の違法性を主張すべきである。」

 このように,先行処分となりうる不同意の取消訴訟を出訴期間内に提起できる事案の問題(本問)では,違法性の承継の規範とあてはめを省略して短く書くことができるものといえよう。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

答案の「書き初め」 平成22年新司法試験論文憲法の答案例(25条1項関係)

Ⅰ 忘れないで

 

久しぶりの更新である。

久しぶりすぎて,MISIA「忘れない日々」を歌ってしまった。[1]

 

さて,司法試験受験生からの本試験の問題に関するご質問として,平成22年新司法試験論文憲法25条1項違反(生存権侵害)の主張のところの書き方がよく分からないというものが昨年は多かった(というかここ数年比較的多い)と感じており,私自身も,出題趣旨や採点実感等はもちろん,合格者の再現答案や法律家の書いた答案例,解説等を読んではいるものの,実際に書いてみると,特に規範のあてはめのところが書き難いなという印象を持っている。

 

そして,賢明な受験生であれば当然予想するとおり,25条1項は,平成30年のヤマの条文と1つであり,出題されれば,(新)司法試験論文憲法では8年ぶり2回目の,予備試験論文憲法では初の出題となる。

 

そこで,本日は,憲法25条1項と生活保護法についての憲法適合解釈に関する平成22年論文憲法の答案(ただし,25条1項違反の主張の部分のみ)を書いてみようと思う。

 

答案の「書き初め」である。

 

 

Ⅱ 平成22年新司法試験・論文憲法の答案例[2]

 

第1 設問

 1 生活保護について[3]

Y市は,Xの生活保護の認定申請に対し,拒否処分をしての却下処分をしている。そこで,Xとしては,同処分が[4]Xの生存権憲法(以下,法名省略)[5]25条1項)を侵害するとともに,平等原則(14条1項)に反し,違憲であると主張する[6]。以下,詳述する。

 (1) 生存権(25条1項)侵害の主張

 ア まず,Xが生活保護を受ける権利は,健康で文化的な最低限度の生活を営む「権利」として,25条1項により保障される。そして,同項の権利は,抽象的権利と解される[7]ものの,Xの生活保護を受ける権利は,生活保護法(以下,「法」という。)19条1項等により具体化されている[8]

 しかし,Y市がインターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地法19条1項2号)として認めないという制度運用を行っている[9]ことから,上記申請拒否処分がされている。そこで,Xの生活保護を受ける権利が侵害されているといえないか。

 イ 【論証】法により生存権具体化されたにもかかわらず,これを法制度の適用・運用により請求を認めないとすることが生存権を侵害するか否かに関し,「居住地」・「現在地」(法19条1項2号)の該当性の問題[10]については,25条1項の趣旨に適合するように,すなわち,同項の趣旨を具体化した法の趣旨・目的(法1条)に適合するように解釈・適用(運用)を行うべきである。

 ウ まず,法19条が「生活の本拠」(民法22条)を意味する「住所」(住民基本台帳法4条)という文言を用いず,あえて「居住地」や「現在地」という文言を用いた趣旨[11],多数の生活困窮者が生活の本拠を有していないこと(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法1条,2条)に照らし,広く生活困窮者を保護すべきものとする点にあると考えられる。そこで,Xのようにシェルターでの居住実態はないがインターネット・カフェやビルの軒先で寝泊まりする者についても,当該店舗等の所在地が「所管区域内」(19条1項各号)にあり,具体的な事情を考慮して[12]法の目的に適合するといえる場合には,「居住地」または「現在地」を有する者に当たるとの解釈運用をすべきである[13]

 これをXについて検討すると,法の目的は,生活に困窮する国民に対し「必要な保護を行うとともに,自立を助長」(法1条)する点にある[14]ところ,Xは前述したとおり生活の本拠がない上,「貧困」というだけでなく病院に行くに行けない状況にあり,「最低限度」(法1条,3条)以下の,いわば「生存」そのものが脅かされうる者といえるため[15],「保護」(法1条)を行う要請は極めて強い。また,厳しい経済不況という状況が好転すれば,Xはより正規社員に採用され易くなると考えられるところ,それまでの間,必要な保護を継続することはXの「自立」(法1条)の助長にも資するといえる。

  よって,法の目的に適合するといえる場合であり,Xが申請日前日に宿泊していたインターネット・カフェの所在地を「居住地」または「現在地」に当たるから,Y市の生活保護の申請拒否処分は,25条1項に反し,違憲である。

 (2) 平等原則(14条1項)[16]違反の主張

  (略)

 

 2 選挙権について

  (略)

 

第2 設問2

 1 生活保護について

 (1) 生存権侵害の主張について

 ア 想定されるY市の反論[17]

 Y市は,生活保護制度がY市の財政における有限の財源を前提とするものであることから,インターネット・カフェ等を「居住地」等と認めないとの法の解釈運用も,法の趣旨目的に適合する解釈運用の範囲内のものであると反論する[18]

 また,Y市は,Xのように住所がなくなったホームレスであっても,団体Aのシェルターなどに居住すれば,そこを住所としてあらためて住民登録できるのであるから,生活保護の受給を認めるとかえって法の目的に反すると反論する[19]

 イ 私見[20]

 確かに,25条1項の文言は抽象的であり,現にY市は生活保護の財源を4分の1負担していることから,法の解釈運用に際し財政上の理由を考慮することも許される場合があるといえる。また,Xのような者にまで生活保護の受給を認めると,シェルターなどに居住するのが適当といえる場合には,かえって「自立を助長」(法1条)することにはならないから,法の目的に反することになる。

 しかし,少なくともXのように「持病」があり「医療扶助[21]を受けるためにも生活保護の申請をする者については,Xのように「生存」そのもの(25条参照)あるいは「生命」(13条後段),そして個人の尊重(13条前段)を脅かされかねない者については[22],特に「保護」(法1条)の必要性が高い。そのため,このような者に対し,財政上の理由を重視し,インターネット・カフェ等を「居住地」・「現在地」に当たらないとすることは,法の趣旨目的に適合する解釈運用とはいえないものと解される。

 また,団体Aのシェルターは,現在「飽和状態」であり,「息苦しさ」を感じるほどであるから,起臥寝食の場として適当ではなく,そのような場所での日常生活を強いることはXの就労や求職活動の意欲を削ぐことになり[23],Xの「自立の助長」(法1条)を妨げることとなるものといえる。

 よって,Xが申請日前日に宿泊していたインターネット・カフェの所在地を「居住地」あるいは「現在地」に当たる旨解釈・適用(運用)することが25条1項の趣旨を具体化した法の趣旨・目的(法1条)に適合するものといえるから,Y市の生活保護の申請拒否処分は,25条1項に反し,違憲である。

 (2) 平等原則(14条1項)違反の主張

  (略)

 

 2 選挙権について

  (略)

                                    以上

 

 

Ⅲ 司法試験「合格後」がイメージできなくたっていい

 

私の答案(といっても25条の主張のみだが)を読んで,受験生の皆様はどのような感想・意見等をもっただろうか。25条1項の憲法適合解釈の規範・あてはめなどの一例として多少参考になったと感じていただければ幸甚である。

 

もちろん,本答案例は,叩き台の1つであるし,受験生の皆様においてより良いく改善するなどしていただきたい。

 

なお,平等原則(14条1項)違反の主張や,選挙権(平成30年司法試験論文憲法では,生存権同様にヤマの1つ)についての主張については,特にリクエストやご質問等があれば,後日ブログで書くこととしたい。

 

 

最後に一言,年頭から頑張る受験生の皆様へのメッセージを追記する。

 

私が司法試験受験生の頃(大学1年生の頃で,当時はまだ旧司法試験時代で法科大学院もない時代)から,「合格後」のことを具体的に考えるべきとの受験指導が流行っていたように(おそらく今もそうではないかと)思われる。

 

合格後のことを考えることは悪いことではないが,どのような法律家になるかについては「法律家になる資格を得てから考えても遅くはない」[24]と私は(も)思う。合格後のことを具体的にしっかりとイメージできる受験生はむしろ少数派ではないだろうか。

 

 

明確な動機がない受験生にも,「合格の女神は微笑む」[25]に決まっている。

 

 

___________

[1] ただし,サビの「忘れないで」から「きっと思い出して」までである。

[2] 本答案例の作成にあたっては,①公法系科目1位(161点)の再現答案(辰已法律研究所『司法試験 論文全過去問集1 公法系憲法【第2版】』(平成27年)210~213頁)(以下「1位答案」という。),②大島義則『憲法ガール』(法律文化社,2013年)61頁以下,③木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)(以下「木村・LIVE本」という。)などを参考にした。なお,④西口竜司ほか監修『平成22年新司法試験論文過去問答案パーフェクトぶんせき本』(辰已法律研究所,平成23年)30頁によると,1位答案の得点等は,161.90点(論文総合228位の方の答案)である。

[3] 問題文3頁最終段落の1行から項目立てをし,タイトルを付けただけである。「第2 選挙権について」も同様である。

[4] いわゆる処分違憲適用違憲)の問題であることをこのように明記すること。なお,適用違憲(芦部説・第三類型)に関し,芦部信喜著,高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)388頁(以下「芦部・憲法」という。)参照。

[5] 憲法の答案では,憲法法名は,このように省略すると良いだろう。

[6] 〔a〕問題文「設問1」の1行上の行に「Xは(中略)生活保護と選挙権について弁護士に相談した。」とあることや,〔b〕平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(以下「出題趣旨」という。)第2段落で①「生存権保障の問題」を検討して欲しい旨の記載があるとともに,②「自治体による別異取扱いに関しては(中略)先例(最大判昭和33年10月15日)がある」とされ,出題趣旨第3段落では「もう一つ」の問題として(「一つ」の問題の方は,上記生存権保障の問題」:①と②に分かれる問題である),③「選挙権(投票権)に関する問題」を検討して欲しい旨の記載があることなどからすれば,例えば,①~③の主張のほかに,22条1項(居住・移転の自由の侵害)を別の項目を立てて論じる答案(渋谷秀樹『憲法起案演習―司法試験編』(弘文堂,2017(平成29)年)206頁以下の「起案例」はこの構成を採る)は,筋が悪いと言わざるを得ないだろう。研究者の学問(研究発表)や出版は自由(憲法23条・憲法21条1項)だが,受験生が司法試験の答案で書く場合,不合格のリスク(具体的な危険)を覚悟すべき内容といわなければならない。ちなみに,このような構成を採って不合格になった場合,誰も(裁判所も)助けてはくれないことを受験生は肝に銘じておくべきである(国家試験における合格・不合格の判定は,裁判の対象にならない(芦部・憲法340頁参照))。

[7] 今日では,学説・判例は抽象的権利説を採ることでほぼ一致している(野中俊彦=中村睦男=高橋和之=高見勝利『憲法Ⅰ(第5版)』(有斐閣平成24年)507頁〔野中〕参照)ことなどから,少なくとも本問では,抽象的権利説の理由付けを書く必要はなかろう。

[8] 基本的な事項を書き落としてはならないが,このように短く書くと良い。ちなみに,「具体化されている」との点に関し,本来的には,生存権の行使要件や,Xが「要保護者」(法19条1項1号・2号)といえるかを検討する必要があると思われる(生存権の行使要件につき,木村・LIVE本267~268頁等参照)。しかし,本試験の問題文によると,Y市側も特にこの要保護者該当性(Xが該当すること)を争っているわけではないと考えられるため,(要件事実としては必要かもしれないが)本件では争点になっておらず,ゆえに配点は恐らく殆どないため,要保護者該当性(あるいは生存権の行使要件)の問題については,特に行数を割いて論じる必要はないと考えられるし,書いている時間やスペースもないだろう(この部分については異論があるだろう)。

[9] 問題文2頁第6段落3~4行目を殆どそのまま写し,関係条文(法19条1項2号)を書き加えただけである。

[10] 憲法25条1項と生活保護法についての憲法適合解釈(木村・LIVE本269頁)の請求の【論証】(論証パターン,論パ)であり,最三小判平成16年3月16日民集58巻3号647頁(以下「平成16年判例」という。)も(同判例は規範部分を明記しているものとはいえないが)多少参考にしている。法19条1項2号以外の他の条文の場合でも,基本的にこの【論証】を使い回せば良いだろう。この【論証】の規範からすると,私自身は,あてはめで,法の趣旨,法の目的(法1条:②必要な保護と③自立助長の2つ)との3つの事項を分けて検討すべきであると考えている。この点に関し,平成16年判例は,生活保護法4条1項の「資産等」等の解釈適用につき,生活保護「法の趣旨目的」に照らした判示をしており,趣旨と目的を明確に分けていないことなどから異論があるところだとは思うが,私は,趣旨と目的を,さらに目的の「保護」と「自立」を(できる限り)分けてあてはめをすべきではないかと考えており,その方が司法試験の出題趣旨に沿う答案が書き易くなるのではないかと考えている。

[11] まず生活保護法(19条)の「趣旨」の点についてのあてはめを行っている。(その次に「目的」(法1条)の点についてのあてはめを行っている。)

[12] 出題趣旨第6段落(「事案の内容に即した個別的・具体的検討を行うことが求められる」)を(一応)考慮している。

[13] 1つ前の段落(「イ」)の【論証】部分を上位ルールとすると,この「ウ」の第1段落の部分は下位ルールである。なお,上位規範・下位規範という語が用いられることもあると思われるが,宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開 第2版』(日本評論社,2014年)319頁は,「上位ルール」・「下位ルール」という語を使っている。

[14] 1条のキーワードを写しただけである。

[15] 出題趣旨第2段落の内容を考慮した記載である。

[16] 木村・LIVE本271頁は,「平等権」とするが,最大判平成33年10月15日(憲法判例百選Ⅰ[第6版]34事件)の下飯坂潤夫裁判官・奥野健一裁判官の補足意見では「憲法14条の原則」(下線は引用者)と表現されており,少なくとも司法試験の答案では「平等原則」(だけ)でも良いと思われるし,平等権を書く場合でも,平等原則違反・平等権侵害などと書いた方が良いと思われる。

[17] 「平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)」(以下「採点実感」という。)2~3頁・2(2)アの内容等を考慮して,本答案(25条関係)では,規範(前述した上位ルール・下位ルール)レベルでの反論は書かないという方針を採り,下位ルールを前提とした反論・私見を書いている。少なくともこの年のこの部分(25条1項違反の部分)では規範レベルでの争点を作るのは得策ではなかろう。

[18] 採点実感2~3頁・2(2)アの内容を重視し,「裁量」や「行政裁量」という用語は避けた

[19] このように,反論レベルでは,理由付けをすべて書かずに,「私見」の「確かに,・・・」の段落で,残りの理由付けを書くようにすると良い。このような記述ができるようになるために,多くの受験生は,一定の訓練(答案練習)をする必要があると思われる。

[20] 「反論」と「私見」の分量は,(予想・分析される)設問2の反論と私見の配点等を考慮すると,できるだけ1:2以上となるようにするのが良いと思われる。

[21] 設問1では書かなかった(その理由としては,①あえて書かなかった,②うまく書けなかった,③書き忘れたなどが挙げられるが,①のように戦略的に書かないということができるようになると,比較的合格答案が容易にかけるようになるものと思われる)事項について,私見で書いている。憲法13条後段の話や「飽和状態」等の話についても同様である。

[22] 憲法13条の話については,蛇足かもしれない。なお,生存権が個人の尊重(憲法13条)のために「不可欠の権利」であると考えることに関し,木村・LIVE本270頁参照。

[23] 「飽和状態」等の事実の評価をしている。

[24] 宮本航平「多摩研からのスタート」(司法試験合格体験記)中央大学ロースクール進学対策特別委員会現行司法試験対策特別委員会編『法律家を目指す諸君へ〔2003年度版〕』(中央大学出版部,2003年)183頁。なお,この著者は,2002(平成14)年の(旧)司法試験合格者(受験回数:択一2回,論文2回,口述1回)である。

[25] 伊藤真『合格のお守り』(日本実業出版社,2008年)80頁。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

 

 

 

平成29年司法試験採点実感(行政法)の感想 その1 司法試験の採点でマイナー判例を重視することに関するリスク

久しぶりの更新である。

 

受験生の皆様には本ブログの存在を忘れられてしまったかもしれないし,「忘れられない権利」は憲法上及び法律上保障・保護されないものと解されるが,細々と続けていきたい。なお,「忘れらんねえよ」の元ドラムの酒田さんは,本ブログ筆者の大学時代の先輩(同じバンドサークル)である。

 

 

さて,司法試験法(以下「法」という。)によると,司法試験は,「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする」(法1条1項,下線は引用者)試験であり,また,「論述式による筆記試験」は,「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とする」(法3条2項柱書,下線は引用者)ものである。

 

では,この「必要な(専門的な)学識」とは具体的に何を意味し,そしてどのような学習によって習得すべきものなのか。

 

このことに関し,平成18年新司法試験終了後に公表された新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要3頁で,行政法の新司法試験考査委員(行政法)は,「判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置いてほしい。さらに,余裕があれば判例雑誌や裁判所のホームページで行政事件の最新の裁判例を読み,具体的に生起する事象に対する行政訴訟による対応を考察してほしい。」(下線は引用者)という指摘をした(他の)考査委員がいることに言及し,さらに,このような学習方法・態度等は「法科大学院に求めるものである」としている。

 

これらのコメントや,法科大学院における教育が限られたコマ数で実施されていること,司法試験は8科目あり一つの科目だけに充てられる時間は(研究者が自分の専門分野の研究をする場合とは異なり)現実には相当程度限られていることなどを考慮すると,法曹三者に「なろうとする者に必要な(専門的な)学識」のうち,判例の知識については,「判例百選等」の基本判例で足り,また,「最新の裁判例」は基本判例を活用・応用できるかということを(基本判例を十分に理解しているかを)確認するためにできる限り読んだ方が良いものと位置付けられるものというべきである。

 

そうすると,上記の「基本判例」は,大半の基本書及び大半の判例集,特に判例百選(百選とはいっても扱われる判例の数は100を大幅に超え,行政法では2冊で263選となってはいるが…)に掲載されているものである必要があるというべきである。

 

さらに,以上のことから, 司法試験の採点(積極の・プラスの事項)において,

(あ)基本判例を知っている(正確に理解し記憶している)ことは,重視ないし考慮される事項となるべきものであるが,他方で,

(い)基本判例以外の判例を知っていることは,重視ないし考慮されることが禁止されるべきであり,少なくとも,多くの基本書や判例集,特に判例百選で取り上げられていないようなマイナーな判例を知っていることは,重視される事項となるべきではなく,考査委員もそのことを十分に念頭において問題を作り,かつ採点を行うべきであろう。

 

そのようにしなければ,ひいては「漏洩」(問題文や考査委員作成の模範答案そのものなどではなく,論点レベル・判例レベルの漏洩を含む)のリスクが高まるからである。

 

例えば,マイナー判例に係る秘密を知る者が法科大学院や学部の授業や課外講座等で一定程度あるいは詳しく扱うことによって一部の受験者が不当に得をする結果となり,司法試験の公正が害されるという事態が生じやすくなるからである(この漏洩リスクに関しては,次回以降のブログで詳しく述べたい)。

 

 

さて,以上のような見地から,「平成29年司法試験の採点実感(公法系科目第2問)」(以下,「29年採点実感行政法」という。)において登場する最判昭和62年11月24民集登載判例ではない。以下「昭和62年判例」ということがある。)が,上記「基本判例」にあたるか否かなどにつき,検討してみたいと思う。

 

29年採点実感行政法において,昭和62年判例は,次の2箇所で登場する。

 

「・・・本件フェンスの除却に加えて原状回復まで求めることなどが述べられており,・・・里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないと判断した最高裁判所昭和62年11月24日判決(集民152号247頁)に言及して適切に論じている答案は,優秀な答案と判断した。」(29年採点実感行政法1頁)

 

「・・・本件市道を生活上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があるという観点から,前記⑴の最高裁昭和62年判決に言及している答案は,優秀な答案と判断した。 」(同2頁)

 

このように,29年採点実感行政法は,昭和62年判例に「言及」したか否かを考慮ないし重視していることから,受験者が昭和62年判例を知っているか否かという点を(当該論点に関して)優秀な答案とするか否かの考慮事項ないし重視事項としているのである。

おそらくであるが,主に「里道」というキーワードが書かれているか否かで「言及」したか否を判定したものと推察される。

 

では,この昭和62年判例は,「基本判例」だろうか。

 

結論を先に述べると,決して基本判例」などではない

 

それどころか,少なくとも司法試験では(行政法(公法)の研究者・学者の間では,という意味ではない)「マイナー判例」と称されるべきものである。

 

ゆえに,上記のような採点方法には,問題があったものと指摘せざるを得ない。

過去の司法試験の採点ではみられないものと思われる(この点についても,次回以降のブログで詳しく述べたい。)

 

以下,本ブログ筆者が調べた限りのものであり,不十分な調査とは思うが,昭和62年判例が掲載されている基本書等と,逆に掲載されていない基本書等を挙げておくこととする。

 

様々なテキストを使う司法試験受験生がいることを考慮し,受験生の皆様が読みそうな書籍についてはできる限り挙げることとしたが,学者の論文集やコンメンタールなどについては,原則として除外している。

 

 

1 昭和62年判例が掲載されている基本書・判例集・演習書等

 

A.基本書

(1)阿部泰隆(※)『行政法解釈学Ⅱ』(有斐閣,2009(平成21)年)122頁,149頁(全623頁)・関係記載は2行(122頁)+4行(149頁)=6(※「隆」は「生」の上に「一」が入る)

(2)宇賀克也『行政法』(有斐閣,2012(平成24)年)298頁,306頁(全472頁)・関係記載は6行(298頁)+5行(306頁)=11

(3)宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』(有斐閣,2015(平成27)年)194頁,207頁(全572頁)・6行(194頁)+5行(207頁)=11

(4)大橋洋一行政法Ⅱ 現代行政救済論[第2版]』(有斐閣,2015(平成27)年)115頁(全508頁)・関係記載は32行(115~116頁)

(5)小早川光郎行政法 上』(弘文堂,1999(平成11)年)231頁(全321頁)・関係記載は3行(又は5行)

(6)高木光=常岡孝好=橋本博之=櫻井敬子『行政救済法[第2版]』(弘文堂,2015(平成27)年)330頁(全446頁)・関係記載は2

B.判例集・判例解説書

(7)稲葉馨=下井康史=中原茂樹=野呂充編『ケースブック行政法[第5版]【弘文堂ケースブックシリーズ】』(弘文堂,2014(平成26)年)337頁(全610頁)・関係記載は5行(又は8行)・もっとも,個別に掲載される12の取消訴訟原告適格判例(12-1~12-12)には選ばれていない。

(8)山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)448~449頁(全641頁)・関係記載は7行(又は11行)

C.演習書・実務書等

(9)中川丈久=斎藤浩=石井忠雄=鶴岡稔彦編著『公法系訴訟の実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂,2015(平成23)年)574頁(全656頁)・関係記載は7行(又は9行)であり,同じ頁で,平成29年司法試験論文行政法に掲載されていた最判昭和39年1月16民集18巻1号1頁も紹介(関係記載3行)されている

(10)藤山雅行=村田斉志編『新・裁判実務体系 第25巻 行政争訟〔改訂版〕』(青林書院,2012(平成24)年)476頁,478頁,480頁〔齊木敏文〕(全665頁)・関係記載は4行(476頁)+4行(478頁),480頁(11行)=19

 

 

2 昭和62年判例が掲載されていない基本書・判例解説書・演習書等

 

(1)阿部泰隆(※)『行政法再入門(上)』(信山社,2015(平成27)年)全398頁(※「隆」は「生」の上に「一」が入る)・阿部泰隆(※)『行政法再入門(下)』(信山社,2015(平成27)年)全340頁(※「隆」は「生」の上に「一」が入る)

(2)市橋克哉=榊原秀訓=本多滝夫=平田和一『アクチュアル行政法〔第2版〕』(法律文化社,2015(平成27)年)全356頁

(3)稲葉馨=人見剛=村上裕章=前田雅子『行政法 第3版』(有斐閣,2015(平成27)年)全376頁

(4)宇賀克也『ブリッジブック行政法〔第2版〕』(信山社,2012(平成24)年)全306頁

(5)神橋一彦『行政救済法〔第2版〕』(信山社,2016(平成28)年)全425頁

(6)小早川光郎行政法講義〔下Ⅱ〕』(弘文堂,2005(平成17)年)全124頁(117~240頁)(同〔下Ⅰ〕(全115頁)及び同〔下Ⅲ〕(全112頁(241~352頁))にも記載なし)

(7)櫻井敬子『行政救済法のエッセンス〈第1次改訂版〉』(学陽書房,2015(平成27)年)全242頁・櫻井敬子『行政法のエッセンス〈第1次改訂版〉』(学陽書房,2016(平成28)年)全222頁

(8)櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016(平成28)年))全420頁

(9)塩野宏行政法Ⅱ[第五版補訂版]行政救済法』(有斐閣,2013(平成25)年)全389頁(Ⅰ・第六版(全410頁)及びⅢ・第四版(全406頁)にも掲載なし)

(10)芝池義一『行政法読本〔第4版〕』(有斐閣,2016(平成28)年)全463頁

(11)芝池義一『行政救済法講義〔第3版〕』(有斐閣,2007(平成19)年)全312頁

(12)下山憲治=友岡史仁=筑紫圭一『行政法』(日本評論社,2017(平成29)年)全228頁

(13)曽和俊文=山田洋=亘理格『現代行政法入門〔第3版〕』(有斐閣,2015(平成27)年)全402頁

(14)髙木光『行政法』(有斐閣,2015(平成27)年)全528頁

(15)高橋滋『行政法』(弘文堂,2016(平成28)年)全475頁

(16)高橋信行『自治体職員のための ようこそ行政法』(第一法規,2017(平成29)年)全226

(17)野呂充=野口貴公美=飯島淳子=湊二郎『行政法』(有斐閣,2017(平成29)年)全284頁

(18)橋本博之『現代行政法』(岩波書店,2017(平成29)年)全294頁

(19)原田尚彦『行政法要論(全訂第七版補訂二版)』(学陽書房,2012(平成24)年)全462頁

(20)原田大樹『例解行政法』(東京大学出版会,2013(平成25)年)全539頁

(21)藤田宙靖行政法総論』(青林書院,2013(平成25)年)(全641頁)

B.判例集・判例解説書

(22)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2012(平成24)年)全554

(23)橋本博之『行政判例ノート[第3版]』(弘文堂,2013(平成25)年)全397頁

宇賀克也『判例で学ぶ行政法』(第一法規,2015(平成27)年)全393頁

C.演習書・実務書等

(24)石森久広『ロースクール演習行政法〔第2版〕』(法学書院,2015(平成27)年)全421頁

(25)大島義則『行政法ガール』(法律文化社,2014(平成26)年)全256頁

(26)大西有二編著『設例で学ぶ 行政法の基礎』(八千代出版,2016(平成28)年)全264頁

(27)大貫裕之『ダイアローグ行政法』(日本評論社,2015年)全412頁

(28)北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016(平成28)年)全436頁

(29)小早川光郎=青栁馨編著『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,2017(平成29)年) 全652頁・・・「本書は、行政事件に携わる法律実務家のための実務コンメンタールが必要であるとの認識に基づいて企画されたもの」(はしがき(1)頁)である。

(30)曽和俊文=野呂充=北村和生編著『事例研究行政法[第3版]』(日本評論社,2016(平成28)年)全515頁

(31)高木光=高橋滋=人見剛『行政法事例演習教材』(有斐閣,2009(平成21)年)全214頁

(32)土田伸也『基礎演習行政法 第2版』(日本評論社,2016(平成28)年)全298ページ

(33)中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015(平成27)年)全447頁

(34)橋本博之『行政法解釈の基礎―『仕組み』から解く』(日本評論社,2013(平成25)年)全282頁

(35)原田大樹『演習行政法』(東京大学出版会,2014(平成26)年)全542頁

(36)亘理格=大貫裕之編『Law Practice行政法』(商事法務,2015(平成27)年)全296

 

(37)辰已法律研究所『趣旨・規範ハンドブック1 公法系[第5版]』(辰已法律研究所,2015(平成27)年)全277頁

 

 

調査結果は,以上のとおりであるところ,多くの受験は「あ,私の使っている基本書/演習書/予備校本には載っていないんだ・・・」という感想を持たれるのではなかろうか。

 

 

ここで,あえて繰り返そう。

 

基本判例以外の判例を知っていることは,重視ないし考慮されることが禁止されるべきであり,少なくとも,多くの基本書や判例集,特に判例百選で取り上げられていないようなマイナーな判例を知っていることは,重視される事項となるべきではない

 

そのようにしなければ,不公正な疑いのある司法試験が実施されることになるし,場合によっては,またあのような忌まわしき悪夢が繰り返されることになる。

 

 

 

   全ての受験生,そして法曹が思っていることである。

 

      司法試験は公正に実施されるべきである。

      それに,あんな事件は,もうたくさんだ。

 

 

 

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