平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

単語カードを使った司法試験の勉強法

「切り札を隠し持っているように思わせてるカードは

 実際は何の効力もない

 だけど捨てないで持ってれば

 何かの意味を持つ可能性はなくない」*1

 

 

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今日は、カードを使った司法試験(予備試験)の勉強方法について書きます。

  

↓は、無印良品の単語カード(1個100枚)。

値段は当時1個100円以下(70円前後?)だったと思います。

 

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情報を整理する教材として、伊藤塾短答式試験用の教材や、論文の答案集に論証パターンなどを入れ込んだファイル(B5サイズ・26穴)を使っていましたが、キーワードは1回は書いて覚えるということが昔から多かったこと(→どうせならカードにしようと思い立ったこと)や、記憶の定着が比較的良かった(自分には合っていた)こと、カードだといつでもどこでも気軽に持ち歩ける(→隙間時間を有効活用しやすい)ことなどから、カードも作っていました。

 

↓こちらがそのカードたち。

やや作りすぎた感がありますが・・・。

 

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分厚いものになると、リングを大きいものに変えていました。

リング自体も安かったと思います。コンビニにはなかったので文房具屋で買いましたが。

↓は特に分厚いものですね(250枚くらい・・・?)。

 

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カードの内容ですが、1問1答式で、主に規範、趣旨、定義のキーワード(文章にしていないことが多い)を書いていました。

 

例えば、カードの表面には「条例の法律適合性(憲94)のキ」(「キ」は規範の略)などと書いておき、

そのカードの裏面には、「対象事項・規定文言、趣旨・目的・内容・効果、徳島市公安条例ジケン」などと書いておくような感じです。

 

論文用では、原則として、絶対に落とせないキーワードだけを書いていました。

短答用だと、条文知識の(適宜条文ナンバー)キーワードも書いていましたね。

 

判例の事案や、論点の典型事例(適宜、その関連条文で問題となる文言)のキーワードなども書いて記憶していましたね。

 

 

このように最低限書かなければならない論文のキーワードや、短答のアシの知識であっても、私の場合、模試でド忘れしたり書くべき論点を書けなかったり・・・ということが少なくなかったので、この自分自身の弱点を克服すべく、また上に書いたような理由などから、単語カードを使って極力精度が高くなる記憶作業をしました。

 

ド忘れなどで論証やキーワードが書けないということがかなり減ったことも良かったのですが、それ以上に良かったのは、アウトプットのスピードが短答・論文ともにかなり高くなったということでした。

 

 

司法試験は↓のブログのとおり、早押しクイズのような面があると思われますので、特に論文式試験ではアウトプットの速さは(事務処理能力が高くないの人にはとりわけ)重要です。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

ちなみに、(ポケットにいれるのは基本的には1~2個なので他のものを)鞄の中に入れると小さくて見つからなかったり、最悪の場合無くなってしまったりしたこともあったので、↓のようなケースに入れていました。基本的には科目ごとに表紙の色がありました。

 

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確か、3回くらいやって、(その時は)完璧に覚えたな・自分の中でほぼ常識化したなと思ったものについては、捨てるわけではなく、別のリングのカード集に移して取っていました(科目ごとに、2軍用のカード集みたいなのが別にありました。模試直前などに2軍用を回すこともありました)。

 

カードの順番は、大体ですが、基本書などの体系順になっていた気がしますが、あまりこだわらないようにしていましたカードを作ることが自己目的化しないようにしようと注意していたからです。

 

 

 ちなみに、講義・授業や予備校の講座などで特に重要だと思った知識やノウハウも、適宜カード化していました。こうすることで、知識の要約ができ、論文であれば答案に書ける・使えるレベルの知識に再構成することができた気がします。

 

 

無印のカードが良かったのは、コンビニ(ファミマ)にも置いてあって入手しやすかったのと、当時は透明・プラスチックの表紙のものがあって、科目やカードの番号などが見やすかった点です。

 

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ということで、結構古典的な勉強法ですし、スマホの単語カードアプリなども悪くないとは思いますが、どうも自分は記憶が定着しにくい(他の受験生の書けるキーワードを落とすことが少なくない)とか、スマホで無意識にツイッターを見てしまうなど何だかんだで隙間時間を上手く使えていないなどといった受験生の方がいたら、一度、この単語カードの勉強法を試してみてはいかがでしょうか?

 

人によっては効果絶大だと思います。

 

 

 

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「一歩また一歩 確実に進む

 そんなイメージも忘れずに」*2

 

 

   

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,あくまで私個人の意見,感想等を私的に述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定多数又は少数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等に属する学生・司法試験受験生等をいうものではありません。

 

 

*1:Mr.Children桜井和寿作詞・作曲)「幻聴」(2015年)

*2:Mr.Children・前掲「幻聴」

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(4) 「反論」の正体と“中立意見型”論文問題の答案枠組み(上位規範)

 「息を切らしてさ 駆け抜けた道を 振り返りはしないのさ

ただ未来だけを見据えながら 放つ願い」[1]

 

 

司法試験受験生が受験対策をするには,仮に一度本試験会場で解いた問題であっても,よほど自信がない限り,再検討しておく必要がある。

 

すなわち,司法試験論文において「振り返りはしない」とは,終わったことを何も考えないという意味ではない。答案に書いたことはその時点の自分の力を出したものであるとして“後悔することはしない”ものと限定解釈しなければならないだろう。

 

本試験の問題を再読することになる受験生もいるが,「未来」を見据えるためには必要な作業である。

 

 

 

   ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

<目 次>

 

(1)「設問」の再確認と「法律家甲」の正体

 

(2)「参考とすべき判例」の正体

 

(3)「反論」の正体

  ア 私的諮問機関就任のための委任契約締結

  イ 諮問機関の公正中立性

  ウ 法律家甲=弁護士の場合 ~弁護士の使命と役割~

  エ 法律家甲=憲法学者の場合 ~研究者の職責~

  オ 委任契約の「委任の本旨」における答申(意見)の中立性

  カ 法律家甲の「意見」と「反論」の意味

  キ 「反論」の意味に関する別の解説について

  ク “中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(次回のブログの導入)

 

 

 

 

(1)「設問」の再確認と「法律家甲」の正体

 

「〔設問〕

あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。」

 

平成30年司法試験論文憲法の「法律家甲」とは何者なのか?

 

この問題については,前回のブログで明らかにした。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

「法律家甲」とは,①「弁護士甲」,②「憲法学者甲」,又は③「弁護士であって憲法学者でもある者である甲」であると解される。

 

 

(2)「参考とすべき判例」の正体

 

ちなみに,「参考とすべき判例」とは,平成29年司法試験論文憲法の出題趣旨1頁記載の「基本判例」を意味するものと考えられる。

 

そして,この「基本判例」の意味については,次のブログで概ね解明済みといえるから,こちらをご一読いただきたい。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

このブログにあるとおり,「基本判例」とは,「弁護士」が「知っている」と考査委員が考える「重要な憲法判例(平成23年論文憲法出題趣旨1頁)のことを意味するものと解される。

そして,おそらく考査委員は,マイナーな地裁レベルの裁判例についても弁護士が知っているだろうとは考えていないだろうから,「基本判例」とは,概ね憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ[第6版]に収載されている判例を意味するものといえる。

 

 

(3)「反論」の正体

 

ア 私的諮問機関就任のための委任契約締結

 

さて,「法律家甲」や「参考とすべき判例」の意味が判ったところで,いよいよ本題の「想定される反論」の正体を探りたい。

 

「法律家甲」が条例案憲法上の問題点につき,一定の意見を述べるに際して,踏まえる必要があるとされる「想定される反論」とは何か?である。この問題は、「法律家甲」がどのような立場に立って「意見」を述べるべきかという問題と密接にかかわる。

 

これを解明するに当たっては,まずは,法律家甲とA市との法律関係法律家甲の法的地位に言及する必要があるだろう。

 

本問の事案で,行政主体であるA市は,A市担当者X(補助機関)をして,法律家甲に「条例案」に関する「憲法上の問題についての意見を求め」ており,A市と法律家甲との間には,行政契約としての委任契約(民法643条)が締結されたものと考えられる。

なぜなら,この場合における法律家甲は,特定の政策課題に外部の専門家等が意見を述べる場合[2]と同様に,私的諮問機関と一般にいわれるもの[3]にあたると考えられるからである。

 

ところで,やや話が脱線するが,委任契約は,原則として無償契約とされている(民法648条1項)[4]が,実務的には,弁護士は通常,契約の相手方が行政主体であっても有償契約を締結するものと思われる。

 

無償であっては弁護士が「食べていけ」なくなり[5],ひいては弁護士自身が「成仏[6]してしまう危険が生じる[7]から,A市と法律家甲は,甲が本条例案に法的意見を述べるに際して有償契約[8](そしておそらく随意契約地方自治法234条1項2項・同法施行令167条の2第1項2号参照,平成22年新司法試験論文行政法参照)を締結したものと予想される。

 

 

イ 諮問機関の公正中立性

 

「成仏」する前に,話を早く本線に戻そう。

 

諮問機関は,「専門的知見の活用,行政過程の公正中立性の確保,利害調整等を目的として,行政庁の諮問を受けて答申を行う権限を有する機関」[9](下線引用者)であり,かかる諮問機関の目的は,法定の諮問機関のみならず,私的諮問機関にも妥当するものだろう[10]

 

重要なのは,あくまで中立」の立場から,ある特定の課題について意見を述べるという上記目的に照らすと,弁護士や研究者が自治体から条例案憲法適合性について諮問を受けた場合に締結する委任契約については私人や私企業から弁護士が訴訟代理人の法律事務の委任を受けるときなどに締結する委任契約の場合とは異なり中立」の立場からの答申(司法試験では解答)が求められているということである。

 

 

ウ 法律家甲=弁護士の場合 ~弁護士の使命と役割~

 

次に,このような「中立」の立場からの答申という点を補強する論拠について,弁護士の使命と研究者の職責について考えてみたい。

 

まずは,弁護士の使命すなわち法律家甲が弁護士の場合について見ていこう(法律家甲が憲法学者の場合については,下記 エ で検討する)。

 

弁護士は,①「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条1項)としつつ,②「当事者その他関係人の依頼等によって法律事務を行うことを職務とする」(同法3条1項)ものである。

 

そして,ここに弁護士の①「公益的役割」と②「当事者の代理人としての役割」という「一見矛盾するかにみえ」る2つの性格が現われており[11],さらに「弁護士の代理人的役割の限界を画するものが,公益的役割であると解する」立場がある。

 

上記①・②のうち,②は,概ね党派性すなわち「依頼者利益の擁護や実現を第一義とすること」[12]に置き換えることができ,また,①は,特定の私益のためではなく広く公益のために中立性公正性[13]のある意見等を述べる役割と言い換えることができると思われる。

 

もっとも,上記の弁護士の②党派性を①中立・公正な立場から公益を保護するとの役割論で限定するといったような立場を採り得る場合があるとしても,このような立場は,私人や私企業と弁護士が訴訟代理人の法律事務の委任を受けるなどの委任契約を締結する場合には妥当しうるが,弁護士が自治体(地方公共団体)から条例案憲法適合性について諮問を受けた場合に締結する委任契約については,実質的には妥当しないといえるか,あるいは,形式的に妥当するとしても②の点が①の点に吸収されるものと解すべきである。

 

というのも,そもそも本条例案のような規制条例(地方自治法14条2項)の案は,「地域における事務」(住民の事務を含むものと解されている[14]。同法2条2項,14条1項)に関する条例の案であり,もとより同事務は公共性のある事務[15]であるから,規制条例の案は公共の利益(公益・公の利益)に関する事務に係る条例案であって,もっぱら特定個人ないし特定の団体や集団の利益(私益ないし集積した私益)を保護することを目的とするものではなく[16],ましてや自治体の長や個々の公務員の利益保護を目的とするものではないからである。

 

ゆえに,自治体が弁護士に規制条例案憲法適合性に関して意見を諮問する場合における委任契約につき,不正確かもしれないが強いて党派性という語を用いて説明を試みるのであれば,自治体を委任者(依頼者)とする場合の弁護士の党派性は,その自治体の住民の利益すなわち公益の擁護(保護)・実現を意味することであるといえるため,このような契約では,弁護士の②党派性を形式的に観念しうるとしても,それは,①中立・公正な立場から公益を保護する役割を演じることを意味することと同じになる(②=①となる)わけである。

 

つまり,この場合における弁護士は,一方当事者の代理人としてのリーガルサービスすなわち「党派的サービス」[17]を提供・供与する者ではなく,「中立的サービス」[18]を提供・供与すべき地位にある者といわなければならない。ここで弁護士には,公益保護のための党派性なき意見の答申が求められているということである。

 

 

エ 法律家甲=憲法学者の場合 ~研究者の職責~

 

次に,法律家甲=研究者(憲法学者)の場合について若干の検討を加えよう。

 

研究ないし研究活動の定義については様々な理解があるように思われるが,ここでは「研究活動とは,特定の団体や集団の利害に囚われることなく,法の解釈や実務の運用について,あるべき姿を探ろうとする知的営為」[19](下線引用者)という伊藤眞先生の定義を採ることとして考えていきたい。

 

そうすると,条例案憲法適合性につき,研究者が私的諮問機関として答申する場合であっても,それは上記研究活動といえるか,あるいは「研究活動の延長」[20]としての活動といえ,ゆえに結論としては弁護士と同じということになる。

すなわち,その答申内容が「公正中立性に裏打ちされた……研究者としての姿勢に基づくもの」[21]でなければならず,依頼する自治体側も「それを期待している」[22]と推察しうることから,このような研究者の職責にも照らすと,研究者にも,公益保護のための党派性なき意見の答申が求められているということになる。

 

 

オ 委任契約の「委任の本旨」における答申(意見)の中立性

 

話を冒頭の委任契約の話に戻そう。

委任契約に係る善管注意義務の内容,すなわち「委任の本旨に従う」(民法644条)こととは,委任契約の目的とその事務の性質に応じて最も合理的に処理する[23]ことを意味するものと解されている。

 

そして,上記 エ で述べたことなどからすると,自治体が規制条例案憲法適合性に関して意見を諮問する場合における自治体・弁護士or憲法学者間の委任契約の委任の本旨(委任の趣旨)は,中立・公正な立場からその自治体における公益を保護・実現する事務を最も合理的に処理することであると解すべきである。[24]

 

とすると,平成30年司法試験論文憲法の設問における法律家甲が弁護士の場合,私人かを依頼者とする場合の党派性を観念することはそもそもできず,ゆえに,法律家甲としては,中立・公正な立場からその自治体における公益を広く保護・実現するための「意見を述べる」(同設問)すなわち答申する法的地位に立つことになる。

 

 

カ 法律家甲の「意見」と「反論」の意味

 

以上より,平成30年司法試験論文憲法の「設問」における法律家甲が述べるべき「意見」は,中立な第三者的立場からの意見を意味し,他の解釈(例えば自治体寄りの立場に立って意見を述べるような解釈)は成り立たないと私は考える。

 

よって,この法律家(弁護士)甲の「意見」に対応する「反論」とは

(A)甲が条例案の特定の条項について違憲だと考えた場合には,その逆の合憲側の理由付けに係る主張を意味し,(B)甲が条例案の特定の条項について合憲だと考えた場合には,その逆の違憲側の理由付けに係る主張を意味するものと解される。

 

平成29年(司法試験論文憲法までの違憲側の主張,合憲側の「反論」・私見という設問の場合における「反論」(合憲側のものに限定される反論)とは異なるということである。[25]

 

また,上記「反論」の捉え方からすると,「反論」を条例案(本条例制定)に反対する市民の側の違憲側の主張のみを意味するものと解することは誤りということになろう(反対に合憲の主張のみを意味するものと解することも誤りであることについては下記 キ 参照)。なぜなら,そのような考え方は甲の「意見」の中立・公正性に適う考え方ではないからである。

 

なお,未だ条例「案」の段階ということで,私見(あるいは「反論」)の部分で,第1回新司法試験(平成18年)の前の年(平成17年)に実施された新司法試験のプレテスト公法系科目第1問の問い2にあったような「違憲の疑いを軽減させる方策」,いわば「ミティゲーション・プラン」[26]に言及し,これを検討すべきかという点も悩ましい問題ではある。

 

しかし,プレテストとは異なり,平成30年の設問等では違憲の疑いを軽減させる方策」まで検討せよと明記されているわけではないのであるから,これを無理に検討する必要はないと思われる。

 

というのも,特に平成30年のようないわゆる多論点型の論文問題では,特に「満遍なく広域制圧型の答案,薄く広くの答案」に「結果的に高い評価を与えなければならない」(下線引用者)[27]という採点傾向があると一応考えられる[28]ことから,個々の論点において,検討が(通常は)難しい方策をつっこんで考えすぎて時間をかけすぎると実質的に時間不足になってしまう(よって低評価となる)リスクが高まるからである。

 

ただし,何かうまい方策を思いついた場合には,1つくらいは書いておくとそれか高評価に結び付くこともあるだろうから,そのくらいの検討はすべきであろう。

 

 

キ 「反論」の意味に関する別の解説について

 

以上のような「反論」の捉え方に対し,次のような解説がある。

 

すなわち,平成30年司法試験論文憲法の設問につき「憲法上の問題について意見を述べなさいとした上で,いかなる憲法上の権利との関係で問題となるのかを明確にし参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい,としている。」とし,「従来の形式との比較でいえば,憲法上の権利の明確化は原告の憲法上の権利の主張と重なり,想定される反論を踏まえる部分は被告の反論に通じるところがある。また,反論と判例を踏まえて論じるという部分は私見と通じるところがある。」[29]と解くものである。

 

かかる解説については,「重なり」とか「通じるところがある」という部分がそれぞれ何を意味するのか,必ずしも明らかではない点が問題であるように思われる。法律家であれば,一義的な語を用いる必要があろう。そして仮に,これらが“共通する”とか“イコール”だといった意味であれば(…あくまで仮定の話であるが),若干のミスリードを招く側面があるものと言わざるを得ないだろう。

 

上記 カ で述べたとおり,平成29年(司法試験論文憲法)までの違憲側の主張,合憲側の「反論」・私見という設問の場合における「反論」(合憲側のものに限定される反論)とは異なるといえるからである。

 

また,そもそも,原告の憲法上の権利の主張においても法曹実務家(訴訟代理人)であれば「判例」は当然に踏まえるものであって,「私見」で初めて触れたり踏まえたりするものではないから,やはり上記解説文は,受験生等の読者に誤解を生じさせる側面がある(全面的におかしいと批判するものではない)と言わざるを得ないだろう。

 

安念潤司教授も次のとおり指摘する。

 

「最低限いえるのは,実務家になる以上,判例の知識を披瀝することが『マスト』だということだ。判例は実務家にとって端的に法であり,一に制定法,二に判例,三・四がなくて五もないといっていいくらいである判例に比べれば学説などとるに足りない。これを私は,脚韻を踏んで判例はカミ,学説はゴミ』と数えてきた。」[30]

 

なお,安念先生こそ司法試験受験生にとって「カミ」ではないかと思われるわけであるが,このことについては,次のブログを参照されたい。

 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

とはいえ,上記解説が,<「反論」ではすべて合憲論(合憲側の理由)を書くというルール・縛りを自分の中で作り,その上で(あ)憲法上の問題点+予想される違憲論と,(い)「反論」=合憲論をぶつけ合わせ,最終的に何らかの理由を付して(あ)か(い)のどちらかを選ぶというものを「法律家甲」の「意見」とするという答案政策>をオススメするという趣旨に出たものであれば(これも仮定の話だが),それは一定数の受験生にとって有益なものといえるだろう。

(下記 ク の書き方とは若干異なるが)このような書き方であっても,特に主要な論点については,「設問」に解答したことにはなると思われるし,受験生としてもかなり機械的答案を書いていくことができるからである。

 

 

ク “中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(次回のブログの導入)

 

さて,以上のことから,私の考える“中立意見型[31]の問題(平成30年司法試験論文憲法及び新司法試験プレテスト論文憲法(公法系第1問)がこれに当たる。)の答案構成の大枠(答案フレーム)は次の通りとなる。答案枠組みの上位規範(上位ルール)ということもできるだろう。

 

くどいようだが,平成30年の「設問」を再確認する。

 

「〔設問〕

あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。」

 

 

この設問に対し,私のオススメする答案枠組みの上位規範(上位ルール)は次のとおりである。

 

「法律家甲」としては,

①本条例案各関係条項の憲法上の問題点について短く(憲法の条項とともに概ね3行程度くらいで)指摘して憲法上の論点を明確にした上で,

 ↓

中立の立場に立って,(基本的には)参考とすべき判例を踏まえつつ[32]違憲論又は合憲論の私見を展開し,

 ↓

必要に応じて,その私見とは反対の側の理由付けである「反論」(反論について参考とすべき判例もありうる[33]を書きつつその反論に対する私見側からの再反論(反論への批判・反論潰しの主張)を書くべきである。

 

 

ここで,③の点で「必要に応じて」反論を書くべきとしたのは,前述したとおり,特に「満遍なく広域制圧型の答案,薄く広くの答案」に「結果的に高い評価」が付く傾向がある平成30年のような問題では,いくつかの論点(例:検閲,条例の法律適合性など比較的合憲と言い易いもの)では②私見までしか書かず,他方,主要な(配点の大きそうな)論点では,③反論・再反論まで書くという方法(答案枠組み)による方が効率よく得点を稼げるのではないかと考えるからである。

 

ただし,主要な論点以外の配点の低い論点に触れるとしても,そのような論点に時間や答案スペースを必要以上に割いてしまうと,その反動で,主要な論点の記載が不十分となることになりうるから,例えば,答案を書き出すまでに時間をかけ過ぎてしまったという場合や,もともとそこまで多くの枚数をかけないというタイプの受験生[34]であれば,あえて配点の低そうな論点については“捨てる”[35](あえて触れない・書かない)という答案政策を適宜採ることもアリだと思われる(“捨てる”ことについてはそれなりの勇気が必要だとは思う)。

 

ちなみに,このような答案枠組みに関し,設問には「参考とすべき判例及び想定される反論」とか「参考とすべき判例想定される反論」とは書かれておらず,「参考とすべき判例想定される反論」と書かれている点にもそれなりの意味があると思われる。

 

すなわち,並立助詞としての「や」が「日本人は正月に神社やお寺に行く」[36]の場合の「や」の場合のようにand/orand又はorを意味するものと考えられる場合には,すべての触れるべき論点のうち,特定の(いくつかの)論点については必ずしも「判例」と「反論」両方を書かなくても良いということになるものと考えられるのである。

 

加えて,設問には判例」の方が先に書かれていること(「想定される反論や参考とすべき判例」とは書かれていないこと)や上記の安念先生の格言ないし標語にも照らすと,優先順位としては当該論点と関連性のある「判例」(上記(2)参照)があれば,その判例の方を優先的に書く必要があるといえよう。

 

以上,司法試験受験生・予備試験受験生の参考になれば幸いである。

 

 

 

   ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

次回は,上記の“中立意見型”論文問題の答案枠組みの上位規範(上位ルール)を前提とする,答案枠組みの下位規範下位ルール,上位規範(上位ルール)をある程度詳しく具体化するものについて検討する。

 

法律家甲の「意見」・「判例」・「反論」を効率的に書くための答案枠組みを提示したい。

 

 

 

「さあ次の扉をノックしよう」[37]

 

 

 

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[1] Mr.Children桜井和寿作詞・作曲)「終わりなき旅」(1998年)。なお,同趣旨の歌詞として「バックミラーはいらない 振り向くつもりもない」(B’zKOSHI INABA作詞・TAK MATSUMOTO作曲)「CHAMP」(2017年))がある。道交法違反である。

[2] 塩野宏行政法Ⅲ[第四版] 行政組織法』(有斐閣,2012年)(以下「塩野・行政法Ⅲ」という。)・行政法Ⅲ88頁。

[3] 塩野・行政法Ⅲ88頁。この点に関し,同頁は,私的諮問機関を「国組法上の行政機関として位置づけることはできない」とし,私的諮問機関の構成員については「国家公務員法上の公務員(非常勤職員)としての任命行為が行われている」ものではないから,「国と構成員との関係は,雇用契約関係(公務員関係を含む)にたつものではなく,ある特定の政策課題に意見をのべるということで寄与することを内容とする委任契約であるとみることができる」(下線引用者)とする。ちなみに,私的諮問機関の名称は,「有識者会議,研究会,懇談会,調査会等」いろいろであり(同頁),私的諮問機関は,「事実上の諮問機関」とも呼ばれる(稲葉馨「自治組織権と附属機関条例主義」塩野古稀行政法の発展と変革 下巻』(有斐閣,平成13年)333頁以下(335頁))。

[4] 我妻栄『債権総論 中巻二』(有斐閣,1962年)654頁参照。

[5] この点に関し,平成28年度賃金構造基本統計調査によると,弁護士の平均「給与」は年間約759万円であり,高等学校教諭の給与が約661万円であることなどから,「弁護士の給与は決して低くはない」(伊藤真編著『伊藤真が教える司法試験予備試験の合格法』(日本経済新聞出版社,2018年)224頁)とか,「食えない」というのは「誤解」がある(同223頁)という評価もある。しかし,①法科大学院の額日や司法試験受験のための書籍代・答案練習等の費用等に係る投資額の大きさ,②司法修習生生活保護受給者並の司法修習を強いられており国から受給可能な金員では(さらに借金をしなければ)司法修習生活が相当難しいこと(司法修習でも書籍代等はかかる),③昨今特に弁護士の平均給与が上昇傾向にあるとは考えられないことなどからすると,「食えない」というあえて強い評価をする弁護士がいることにも目をそむけてはいけないように思われる。

[6] 高橋宏志「成仏」法学教室307号(2004年)1頁参照。

[7] なお,「世の中の人々のお役に立つ仕事をしている限り,世の中の人々の方が自分達を飢えさせることをしない……。人々の役に立つ仕事をしていれば,法律家も飢え死にすることはないであろう。」(高橋・前掲注(6)1頁)という意見もある。安全圏から説かれる主観的・楽天的なご意見である。

[8] 弁護士が報酬の点に触れないで依頼を受けた場合であっても,暗黙の合意があると解して弁護士報酬を請求しうるだろう(日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法〔第4版〕』(弘文堂,平成19年)24頁以下参照)。

[9] 宇賀克也『行政法概説Ⅲ 行政組織法/公務員法/公物法 〔第4版〕』(有斐閣,2015年)(以下「宇賀・行政法概説Ⅲ」という。)30頁。ちなみに,群馬中央バス事件(最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁)は,「一般に,行政庁が行政処分をするにあたって,諮問機関に諮問し,その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは,処分行政庁が,諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し,これに十分な考慮を払い,特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより,当該行政処分客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられる」(下線引用者)と判示する。

[10] 宇賀・行政法概説Ⅲ31頁参照。

[11] 加藤新太郎「弁護士役割論の基本問題」『弁護士役割論[新版]』1頁以下(5頁)参照。

[12] 伊藤眞「法律意見書雑考」判例時報2331号141頁以下(141頁)。以下,同文献を「伊藤・法律意見書雑考」と略す。

[13] 伊藤・法律意見書雑考141頁参照。

[14] 塩野・行政法Ⅲ160頁。

[15] 塩野・行政法Ⅲ161頁。

[16] 仲野武志「行政法における公益・第三者の利益」髙木光=宇賀克也編『行政法の争点』(有斐閣,2014年)14頁参照。なお,同頁では,公益を「国民の一般の利益」すなわち「国家を構成する団体としての国民の利益」を指すものとしており,また,「地方公共団体レヴェルの公益(住民の一般の利益)」については「立ち入ることができなかった」としている(同15頁)。

[17] 加藤新太郎「和解的解決と弁護士の役割論」『弁護士役割論[新版]』322頁以下(同頁)。

[18] 加藤・前掲注(17)322頁。日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』(有斐閣,1996年)15頁。

[19] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[20] 伊藤・法律意見書雑考145頁。

[21] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[22] 伊藤・法律意見書雑考144頁。

[23] 我妻・前掲注(4)670頁参照。

[24] この点につき,山本博史「条例制定過程の現状と課題」北村喜宣=山口道昭=出石稔=礒崎初仁編『自治政策法務―地域特性に適合した法環境の創造』(有斐閣,2011年)413頁以下(420頁)は,「有識者の意見を条例に反映させる手続」としての「有識者による条例検討会」に言及し,このような検討会等の「有識者の意見反映の手続は,〔引用者注:条例案の〕主に『適法性』,『有効性』の基準の達成度を上げる機能を有」し,また,「中立的な立場からの助言は『公平性』の基準の達成度を上げ」(下線引用者)るものと考えるとする。なお,伊藤・法律意見書雑考141頁は,法律意見書の内容の中立性に関し,法律意見書を裁判所に提出する争訟的案件の場合とは異なり,「非争訟的案件の場合」には「意見書作成依頼の趣旨」から「作成者たる弁護士にも中立的判断が求められる」(下線引用者)とし(平成30年司法試験論文憲法も「非争訟的案件」の場合といえよう。),また,金子正史「審議会行政論」雄川一郎=塩野宏園部逸夫『現代行政法体系 第7巻』(有斐閣,昭和60年)113頁(137頁等)は,「審議会には……目的・機能等において多種多様なものがある。それらすべての審議会の委員を国民の自主的選出制に基づく利益代表委員とすることは適当ではなく,準司法的権限の行使を要請される不服審査,試験検定等に関する審議会の委員は,中立・公正的な委員とすべきではなかろうか。」(下線引用者)とする。

[25] このように設問形式が異なることによって,答案枠組みが大きく異なることになるかという問題については次々回のブログで論じることとしたいが,結論を先に述べておくと,答案枠組みは大きくは変わらないものと考えている。設問形式が異なってしまっている以上,多少答案の書き方を変える必要はあるが,受験生としてはこれまで通りの判例学習をすれば良いだろう。

[26] 安念潤司「プレテスト問題の検証【公法系科目】」法学セミナー611号(2005年)6頁以下(6頁)。同8頁は,違憲の疑いを軽減させる方策に関し,次のような検討をしており,これは平成30年のようなタイプの問題の解答にも参考になると考えられる。

「要綱第4の、〔引用者注:「特定国際テロリズム組織」の〕構成員となるだけで最高懲役5年に処せられる、という規定が最も違憲の疑い濃厚と考える。単に構成員となるだけで処罰されるというのでは、治安維持法の再来である。また、組織があるのかないのか、あるとしてもどこからどこまでが組織なのか、この辺りがはっきりしないところにテロリストの生命があろう。してみれば、『特定国際テロリズム組織』の構成員か否かの判断は、微妙で恣意的になりやすい。

 そこで、違憲性を軽減するために、一案として、役員、幹部その他名目のいかんを問わず組織を指揮する立場で組織に参加する行為のみを処罰の対象とすることが考えられよう。こうした梼成員は、『特定国際テロリズム組織』を指導し、方向付けを行い、他の構成員を鼓舞する立場にあるのであるから、たとえ犯罪の実行行為に直接加担しなくても、処罰の対象とするだけの合理性があると思われる。」(下線引用者)

[27] 宍戸常寿=水津太郎=橋爪隆=大貫裕之=小粥太郎「[座談会]憲法民法・刑法・行政法担当者が語る『法学と試験』」法律時報90巻9号(2018年)30頁以下(46頁〔小粥発言〕,47頁〔宍戸発言〕等)参照。ただし,この座談会は,司法試験の論文式試験それ自体の採点方法等について直接的に検討を加えるものではない。

[28] この点に関しては,次のような採点実感等があることに十分注意されたい。すなわち,平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)は,「限られた時間の中で各論点をバランス良く論じている」答案を「優れた答案」としており,平成19年新司法試験についての「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」も「基本的な論点を落としている答案も,ある程度目に付いた」としていることなどから,主要な論点に言及することが(基本的には)合格答案の要件となる。ただし,同ヒアリングは「主な論点が三つあった」としており,主要な論点の数はそれほど多くはないと考えられよう。そして,このことに関し,平成20年新司法試験についての「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」も,「理論的に考えられる論点全部を拾わないと答案の評価が低くなるものとは,毛頭考えていない。自分の視点に基づいて,幾つかの重要なものを取り上げて,自分なりに論じであればよいのであって,あらゆる論点全部について均等に少しずつ触れてほしいなどとは全く考えていない。論点を考えられる限りたくさん挙げれば良い評価になると思っているのか,重要でないものも含めて思い付く限りのあらゆる論点を挙げて,その結果,どれもこれも希薄に書いてしまっている答案も相当な数あった。……幾つかの些末な問題点を挙げるだけで,重要な問題点を指摘していないものもあった。この事案で何を議論の中心に持っていくかの判断も,実務家として重要なセンスの一つであると思う。」(下線引用者)との考査委員からの指摘があり,加えて,委員からも「筋をしっかり見極めて,自分で取捨選択する必要があるということや,全部の論点を網羅する必要はなく,何が重要なところかを考えるというセンスを見たい,というのは大事な指摘だと思う。確かに学生らは,論点すべてをピックアップしなければいけないと思ったり,些細な技術的な書き方を気にする人が多い傾向にある。そうではなく,法曹としての解決の在り方をしっかり自分なりに考えて提示してくれればよいというメッセージは,今後学生たちの迷いを断ち切るためにも大変大事な指摘だと思う。」(下線引用者)との意見もある。これらのコメントは,今日の司法試験(・予備試験)論文式試験においても,それぞれ重要なものと思われる。

[29] 大林啓吾「憲法 平成30年度司法試験論文式〔公法系科目第1問〕」受験新報810号(2018年)26頁以下(26頁)。なお,既に刊行された他の法律文献(法律雑誌・受験雑誌)において平成30年司法試験論文憲法の設問記載の「反論」の意味を明示したものを(私の調査した限りではあるが)確認することはできていない。

[30] 安念潤司判例で書いてもいいんですか?―ロースクール講義余滴―」中央ロー・ジャーナル6巻2号(2009年)85頁以下(88頁)(下線太字引用者)。

[31] 法律意見書型,法律意見型,意見書型等々,さまざまな呼び方があるところだろうが,私は「中立意見型」と称するのが最適と考える。

[32] 参考とすべき判例がなければ学説を活用するがおよそ判例がないという分野は少ないと考えられる。

[33] ただし,時間不足のリスクを低減すべく,(主要な論点ではやむを得ないだろうが)私見と反論の「判例」は極力共通したものを使うべきであろう。私見では判例A事件の規範を使うべき→反論として判例B事件の規範を使うべき→再反論(私見からの批判)としてやはり判例A事件の規範を使うべきとすると時間をかなり使ってしまい,さらにあてはめの点も争点となるとすると,1つの論点だけで相当時間を(答案スペースも)使うことになるからである。

[34] ただし,そのようなタイプの受験生であっても,多くの枚数を書けるよう(答案を早く書けるよう)訓練・工夫する努力が必要な場合が少なくないだろう。

[35] 前掲注(28)の採点実感等の考査委員等の指摘も参考にされたい。ちなみに,旧司法試験の短答式試験では(特に平成の後半),“捨て問”というものが存在した。捨て問を作ることで,確実に解ける問題の正答率を上げ,試験全体としての得点を伸ばす(一定数の受験生が用いていた)受験戦略である。

[36] 渡邊ゆかり「並立助詞と『と』と『や』の機能的相違」広島女子学院大学日本文学13号(2003年)1頁以下(3頁)参照。

[37] Mr.Children・前掲「終わりなき旅」。司法試験の受験勉強には“全部の論点や知識をつぶした”といえる状態はおそらく観念しえない。その意味では「終わりなき旅」であるが,他方で,司法試験はいわば試験範囲を潰すかなり手前の段階で合格する試験ともいえる。

  受験生は焦らず少しずつでもいいから勉強していこう。「“Festina Lente”(ゆっくり急げ)」である(伊藤・前掲『伊藤真が教える司法試験予備試験の合格法』はしがき等参照)。

 

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,あくまで私個人の意見,感想等を私的に述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定多数又は少数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等に属する学生・司法試験受験生等をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文公法系第1問(憲法)の感想(3) 「法律家甲」の正体

  「痛いけど走った 苦しいけど走った

   明日が変わるかは 分からないけど」[1]

 

 

(1)「法律家甲」とは何者なのか?

 

「〔設問〕

あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。」

 

平成30年司法試験論文憲法の「法律家甲」とは何者なのか?

 

その謎を解明すべく,辞書を紐解く。

 

「法律家  法律の実務家のことで,法曹ともいわれる。具体的には裁判官・検察官・弁護士・公証人を指すが,ときには法学者を含むこともあり,また,司法書士行政書士のように法と関係が深い職業は,法律家に準ずるものとして考えられることもある。

英語のlawyerは,法曹一元制度のとられている英米では,『法律家』であると同時に『弁護士』 である。」

高橋和之=伊藤眞=小早川光郎=能見善久=山口厚編集代表『法律学小辞典[第5版]』(有斐閣,2016年)1210頁,下線引用者)

 

「ほうそう【法曹】 広義には、法の実務家及び法学者の総称として用いられることもあるが、一般的には、司法制度の担い手、特に裁判官、検察官及び弁護士の三者の総称。」

(法令用語研究会編『有斐閣 法律用語辞典[第4版]』(有斐閣,2012年)1042頁,下線引用者)

 

 

(2)狭義の法律家甲 = 弁護士甲

 

このように,法律学あるいは法律用語の辞典によると,狭い意味では,「法律家」は法曹三者を指すものの,本問についてみると,①具体的な争訟が提起される前の段階であることから裁判官は除外しうるといえ,さらに,②検察官は検察(庁)協議で条例をチェックすることがあるが,検察協議は条例の罰則の構成要件の明確性や法定刑が類似の法律・条例の法定刑と均衡がとれているかを中心にみるものであり[2],本問ではそれ以外の論点についても検討を要するものであることから,検察官も除外しうるものといえる。(公証人についても,自治体からの相談を受ける者としては通常は想定されないものといえよう。)

 

よって,狭義では,「法律家甲」=「弁護士甲」ということになる。

 

 

(3)広義の法律家甲 = 弁護士甲・憲法学者

 

次に,広義では,法律家に「法学者」を含むとされているため,本問との関係では,憲法学者憲法学の研究者も含むということになる。[3]

 

では,自治体職員は含まれるだろうか?

 

まず,弁護士資格を有しない者(司法修習を経て二回試験を合格しており,弁護士登録をしようと思えばできるがしていないという自治体の職員)の場合には,前掲『法律学小辞典[第5版]』によると,含まれないことになるだろう。

 

また,前掲『有斐閣 法律用語辞典[第4版]』によっても「司法制度の担い手」とあることから,本来的に行政権の担い手である(弁護士資格のない)一自治職員を「司法制度の担い手」と評価することには無理があるだろう。

 

次に,弁護士資格を有する自治体職員(組織内・インハウスの弁護士)の場合,どう考えるべきか。

 

確かに,弁護士の独立性を保障するために自治権を弁護士に付与するのは,司法の独立としての機能を負託している側面がある[4]ものと解されることに照らすと,自治体職員であっても弁護士資格を有する者であれば「司法制度の担い手」に含まれるものとして「法律家甲」に含まれるようにもみえる。

 

しかし,弁護士資格を有するものであるとはいえ,同じ自治体の一職員(ちなみに,作用法的行政機関概念の分類でいえば,諮問機関ではなく,補助機関と解される)なのであるから,本来的に行政権の担い手であるという点は,弁護士資格のない者の場合と変わるところがないというべきであろう。そのため,仮に,広義の「法律家甲」に,同じ自治体職員である弁護士が含まれると解する場合には,権力分立(三権分立[5]との関係で問題があるものと思われる。

 

また,本問の冒頭には,「条例の検討に関わっている市の担当者Xは,憲法上の問題についての意見を求めるため,条例案を持参して法律家甲のところを訪れた。」とあるところ,仮に「法律家甲」が同じ自治体の職員であれば,同じく条例の検討に関わる必要がある「担当者」の一人であるとも思われ,「担当者X」と「法律家甲」という区分は少々不自然であるようにみえる。

(さらにいえば,「条例案を持参」して「訪れた」という記載は,通常は自治体の外部の者の場合を想起させりものと思われ,このような発想に反する出題(説明なし)はやや不意打ち的であるといえる。)

 

これらのことから,広義の「法律家甲」には,同じ自治体職員である弁護士は含まれないと解すべきである。

 

 

(4)狭義か,広義か? → 広義説を採るべき

 

それでは,<狭義の法律家甲=弁護士甲>という立場(狭義説)と,<広義の法律家甲=弁護士甲又は法学者甲>という立場(広義説)のどちらを採るべきか。

 

この点に関し,平成29年司法試験論文憲法の「設問」をみてみよう。

 

〔設問1〕

あなたが弁護士甲であるとして,上記の国家賠償請求訴訟においてどのような憲法上の主張を行うかを述べなさい。なお,憲法第14条違反については論じなくてもよい。

〔設問2〕

〔設問1〕で述べられた甲の主張に対する国の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。

 

このように,平成29年の司法試験では「弁護士甲」となっていたものを,平成30年ではあえて「法律家甲」としている点に鑑みると,考査委員としては,広義説を採ったものと考えられる。

 

この点に関し,司法試験法1条1項は,「司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。」と規定するところ,広義説ではなく狭義説を採るべきとも思える。

 

しかし,法曹三者に「なろうとする者」が司法試験合格後に法学者(合格しても司法修習に行かない者,司法修習を経ても弁護士登録はしない者など)になる場合はある(ただし,その割合・人数は少ない)のであり,司法試験法自体がこのような者を想定していないわけではないと考えられることから,広義説を採っても司法試験法の趣旨・目的に反するわけではないものと解される。

 

 

(5)「法律家甲」の正体

  

以上より,「法律家甲」とは,①「弁護士甲」,②「憲法学者甲」,又は③「弁護士であって憲法学者でもある者である甲」であると解される。

 

 

さて,「法律家甲」が何者かが判ったところで,本ブログの冒頭でも掲載した「設問」におけるより重要な問題に移ろうと思う。

 

それは,「法律家」が条例案憲法上の問題点につき,一定の意見を述べるに際して,踏まえる必要があるとされる「想定される反論」の意味である。

 

「法律家甲」の意義を明らかにしたのは,実は,「法律家甲」の正体がこの設問における反論」の意義・内容の前提論点であるといえるからである。

 

 

 

では,この「反論」とは何か?

 

平成30年司法試験論文憲法の最大の謎である。

 

 

 

次回,反論の正体を明らかにする。

 

 

 

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[1] SHISHAMO(宮崎朝子作詞・作曲)「明日も」(2017年)。早くも6月が終わってしまった。司法試験受験生がリスタートを切るのにぴったりの一曲である。

[2] 礒崎初仁「条例制定権の限界-『適法な条例』とはなにか」『自治政策法務講義 改定版』(第一法規,平成30年)216~217頁,山本博史「条例制定過程の現状と課題」北村喜宣=山口道昭=出石稔=礒崎初仁編『自治政策法務-地域特性に適合した法環境の創造』(有斐閣,2011年)422~423頁参照。

[3] なお,新司法試験プレテスト(模擬試験)論文式試験・公法系科目第1問(憲法)は,A党に属する衆議院議員Xが法案の要綱を策定した上で,「衆議院法制局」に対し,それを示し,憲法に違反するものでないか相談をするという問題であるところ,本問は自治体の条例の問題であることから,衆議院法制局のメンバーとして回答(解答)するという場合ではないことは明らかといえる。

[4] 矢吹公敏「『弁護士自治』の意義と要素」弁護士自治研究会編著『JLF叢書vol.24 新たな弁護士自治の研究-歴史と外国との比較を踏まえて』(商事法務,2018年)1頁以下(5頁)。

[5] 芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)287頁参照。ただし,三権分立違反が問題となる典型的場面とまではいえないだろう。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,あくまで私個人の意見,感想等を私的に述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定多数(又は小数)の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等に属する学生・司法試験受験生等をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法) 解答速報(答案例20180523版)

 平成30年司法試験論文式試験公法系科目の試験実施から早くも1週間が経った。

 

 以下,文字数制限の点を考慮しない粗い検討ではあるが,平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法関連する重要判例や,司法試験考査委員・元考査委員(行政法)の先生方の考え方・文献の紹介等の点で,受験生の皆様に多少は参考になる面があるかもしれないと考え,誤解している点や不充分な箇所も多々あるとは思うが,ひとまず現時点における暫定的な同問題の解答例(答案例)と,その分析結果の一部を公表することとした。

 

 注の部分(答案に関する説明等)を含め,ご笑覧ご批判いただければ幸甚である。

 

 

第1 設問1(1)

 D及びEは,本件許可処分の名宛人以外の者(第三者であるため,Dらに処分取消を求める原告適格が認められるか,すなわち「法律上の利益を有する者」(行訴法(以下法律名を省略する[1]9条1項)か否かが争点となる[2]

 「法律上の利益を有する者」(同項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。かかる利益が認められるには,9条2項の考慮事項に照らし,当該処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うものであること,その利益が当該処分に関する個々の行政法により保護される利益の範囲に含まれるものであること,その場合の法の趣旨が,その利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としても保護するものであることを要すると考える[3]。以下,具体的に検討する。

2 Dについて

(1)Dの主張

 Dは次のとおり主張する。すなわち,墓地経営許可処分の処分要件を定めた[4]10条1項[5]及び本件条例(以下「条例」と略す)に基づく本件許可処分は,墓地を経営する既存の競業者であるDの信教の自由[6]営業上の利益憲法20条1項前段,22条1項参照)の侵害を伴う。また,②法10条1項が墓地経営につき知事の「許可」を要するとし,同許可は「その他公共の福祉」(法1条,条例13条1項柱書ただし書等)に照らし行われること,後述するとおり,高度の公益的見地からする行政庁の広範な裁量に委ねられるもの[7]であるため[8]広く既存の競業者の事業への影響も考慮されること,条例は委任条例ではないが[9]法10条1項の許可要件等を具体的に定めたものであり法と「目的を共通にする関係法令」[10]にあたること,条例13条3項ただし書等もこれらのことを前提に規定されていると解される[11]ことから,上記営業上の利益も法により保護される利益の範囲に含まれる。さらに,()既存業者の経営が著しく悪化すると関係区域の「公衆衛生」(法1条)すなわち住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになることや,墓地経営が墓地の公共性,永続性,安定性を要する公共的サービス[12]であるとの特質,法は上記広範な裁量に照らし個々の既存業者の利益についても考慮しうること[13]に照らすと,法の趣旨は,営業上著しい被害を受けるおそれのある個々の競業者の利益個々人の個別的利益としても保護するものと解される[14]こと,()本件墓地の規模は大きいため,Dの墓地経営が廃業の可能性を生じさせる程度に悪化し,その衛生管理業務等が十分に行えなくなることも考えられ,Dは営業上著しい被害を受けるおそれがあること[15]から,Dには「法律上の利益」があり,原告適格が認められる。

(2)Dの主張の認否

 ア B市の反論

 法10条1項や同項に係る本件条例には,公衆浴場法のように適正配置受給調整に関する規定が置かれていないことから[16]保護範囲要件ないし個別保護要件を欠き,Dの原告適格は認められないとの反論が考えられる。

 イ 私見

 法と同様に,廃棄物の処理及び清掃に関する法律には適正配置や受給調整に関する規定が置かれていないが,判例は,同法に係る一般廃棄物処理業の競業者の原告適格を肯定する[17]。その理由は,同事業が専ら自由競争に委ねられるべき性格のものではなく公共性の高いものあり,同事業の需給状況の調整が図られていること[18]同法が,一定の区域の衛生等を保持するための基礎となる利益として[19],既存の競業者の営業上の利益を個別的利益としても保護する趣旨に出たものと解したことをそれぞれ重視した点にあると考えられる。そして,法も,前記のとおり高度の公共性を有し,継続的安定的に墓地経営に係る衛生管理業務(条例13条2項,14条1項(3)参照)を行わせるために需給調整の仕組みが図られている面がある[20]と解され,さらに墓地経営事業者の利益も一定の区域の衛生等を保持するための基礎となる利益といえることから,上記判例の理由付けは,法に基づく墓地経営許可にも妥当する。 

 したがって,Dの主張のとおり,Dの原告適格は認められると考える。

3 Eについて

(1)Eの主張

 Eは次のとおり主張する。本件許可処分は,本件墓地の100メートル以内の区域(条例9条2項(4))で障害福祉サービス事業を営むEの営業上の利益[21]に対する侵害を伴う。また,法10条1項の許可は「その他公共の福祉」(法1条)に照らし行われ,墓地経営許可の申請にあたって事前の説明会開催義務や市長への報告義務が規定され(法6条),「障害福祉サービスを行う施設」等に係る距離制限規定(条例13条1項(2))があることなどに照らすと,障害福祉サービス事業者の営業上の利益は,法により保護される利益の範囲に含まれるといえる。さらに,()仮に墓地経営許可処分に違法がある場合,同事業の事業者の事業所を利用する者らの生活環境や衛生環境に著しい被害・影響を及ぼすことに伴い,同事業に著しい業務上の支障が生じうるから,法の趣旨は,営業上著しい被害を直接的に[22]受けるおそれのある障害福祉サービス事業者の利益個々人の個別的利益としても保護するものと解されること,()Eの事業所は本件土地の100メートル以内の区域(条例9条2項(4))である80メートルの地点にあり[23],事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境及び衛生環境の悪化を生じさせ,Eが営業上著しい被害を直接的に受けるおそれがあるといえることから,Eには原告適格が認められる。

(2)Eの主張の認否

 ア B市の反論

 B市は次の通り反論する。Eは事業所の利用者にも周辺住民と同様の生活環境の悪化を生じさせる旨主張する。しかし,自転車競走法に基づく場外車券発売施設の設置許可処分につき,判例(サテライト大阪事件)は,交通・風紀・教育など広い意味での周辺住民の生活環境に係る利益が法律上の利益に当たらないとして原告適格を否定している[24]。そして,Eの利益についても,利用者の交通上の便宜や,宗教的感情の適合要請(法1条)に関わる広い意味での生活環境を問題にするものというべきことからすれば,②保護範囲要件ないし③個別保護要件を欠き,Eの原告適格は認められないとの反論が考えられる

 イ 私見

 上記判例は,専ら上記広い意味での生活環境に係る利益につき判示したものと解すべきところ,法1条が「公衆衛生」の文言を明記することに照らせば,Eの事業所の利用者については,上記広い意味での生活環境上の利益にとどまらず,汚水や悪臭の発生から健康被害を受けない利益とも強く関連する生活環境の利益も問題になるものといえ,法はこのような利益も一定範囲で保護する趣旨に出たと解されることからすれば,やはりEの業務侵害のおそれは著しい直接的なものといえる。

 よって,上記Eの主張のとおり,Eの原告適格は認められると考える。

第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 (1)条例13条1項違反

   ア 距離制限規定違反(同項本文)

 Eは,「100メートル以上離れていなければならない」(条例13条1項本文)との距離制限規定につき,同項(2)に規定される施設である本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあり,100メートル以内にあることから,かかる距離制限規定に反するとの違法事由があると主張する。

   イ 要件裁量の逸脱濫用(同項ただし書)

Eは,同項ただし書が適用される場合でも,次のとおり,「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める」という同項の要件を満たさないとして,同項ただし書に係る違法事由がある旨主張する。

 同項の趣旨は,前記法10条1項の趣旨と同様に,周辺住民等のための公衆衛生その他関係人の公益や一部の者の個別的利益を十分に考慮した許可をする点にある。そして,上記文言に要件裁量が認められるとしても[25],同項ただし書は,信教の自由営業の自由を制約するものであり,また同項本文の例外として市長が許可する場合である[26]から,その許可の裁量は狭いため,考慮すべき事項を十分に考慮しない(考慮不尽)など判断過程が不合理であり,その結果,社会通念上著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用というべきである[27]

 ①Eの本件事業所の利用者は居住者と変わらない実態があることから,違法な墓地経営許可により,渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれが生じることでEの利用者の生活環境等を害するとともに,本件事業所の利用者の減少が見込まれ,Eの営業上の利益に著しい被害を直接的に与えるものであること[28]Dの墓地は,すでに余り気味で,空き区画が出ていることから,大規模な本件墓地が事業を開始するとDの経営破綻の可能性が生じ,Dが十分な衛生管理業務をし得ない状況となり[29],関係区域の周辺住民の健康や生活環境にも被害を及ぼし得ることになること,これら及びの点を考慮すべきであるのに十分考慮されていないため,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (2)条例3条1項違反

 Eは,次のとおり,条例3条1項に反する違法事由があると主張する。本件墓地の実質的な経営者はAではなくCであり,Cは条例3条1項柱書ただし書・同項(1)の「宗教法人」ではない。そして,同項本文は墓地等を経営しうる者は原則として地方公共団体とし,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(同項ただし書)に宗教法人等でも許可しうるとしており,その趣旨は,墓地の永続的管理の必要性に照らした墓地の健全な経営の確保等にある[30]。そこで,同文言に係る判断につき要件裁量が認められるとしても,条例であえて例外的に許可しうる場合としていることなどから同裁量は狭いものであり,上記(1)イと同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用の認否が判断されるべきである。

 ①Aは,本件土地の買収に必要な費用につき,Cから全額無利息で融資を受けており,Cの協力がなければ大規模な墓地経営に乗り出すことは財政的に困難であったこと,本件説明会にはAの担当者だけではなくCの従業員も数名出席した上,実際にCの担当者も説明を行っており,Cが経営のノウハウを一部有しているといえること,これらの事情から,仮に今後Cの経営が悪化した場合,Aだけでは本件土地の造成工事費用を捻出することが事実上困難となったり本件墓地の経営に係るCの助言を受けられなくなったりすることが考えられ,Aの健全な墓地経営の確保は不可能か困難となること,さらに,Aの経営が悪化すると,前述したとおり「公衆衛生」等に係る本件事業所の利用者の健康や生活環境上の利益を害するおそれがあることからすれば,これらの点につき考慮不尽がある結果,社会通念上著しく妥当性を欠いた判断といえ,裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (3)違法の主張制限(行訴法10条1項)について

 Eは,次のとおり,条例13条1項本文及び同項ただし書に係る違法事由並びに条例3条1項に係る違法事由につき,すべて「自己の法律上の利益」(10条1項)に関係があると主張する。

 違法の主張制限についての10条1項は9条2項を準用してはいないが,(ⅰ)違法の主張制限は,原告適格等の訴訟要件の問題ではなく本案審理の問題であるため,訴訟の効率的運用等の訴訟要件の趣旨は妥当しないというべきことや,(ⅱ)国民の権利利益の実効的に救済を図る平成16年改正行訴法の趣旨に照らすと,10条1項は原告の利益とは全く無関係の違法事由の主張を認めないことを示した規定と解すべきである[31]

 ①距離制限規定(条例13条1項本文)違反は,前記のとおりE自身の営業上の利益を保護する趣旨のものであり,その違法事由の主張が制限されないことは明白であるから,Eはこれを主張できる[32]。また,同項ただし書は,Dの墓地の周辺住民やEの本件事業所の利用者のような者の生活環境等に被害・影響を与えうる点についても広く考慮事項とする趣旨に出た規定と解されるところ,かかる考慮事項はEの利用者の減少と関係のあるものであるから,の違法事由もEの営業上の利益と全く無関係とはいえず,主張可能である。さらに,条例3条1項も,直接には申請者(A)の経営の健全性を確保するため規定ではあるが,前述したとおりAの経営が悪化するとEの本件事業者の利用者の生活環境上の利益等を害するおそれがあるから,と同じくEの営業上の利益と全く無関係な規定とはいえず,同規定に係る違法事由も主張可能である[33]

 2 B市の反論

 (1)条例13条1項違反について

 ア 距離制限規定違反の点に対する反論

 Eは,D・Eの各代表者が親族関係にあったことから,特に事業所に移転する必要性はなかったにもかかわらず,本件説明会後に,宗教法人Dの求めに応じて本件事業所に事務所を移転させているため,D・Eの事業所移転の主たる目的・動機は,専らAに対する本件許可処分を妨害する点にあるといえ,これは法及び条例の趣旨・目的とは異なるものというべきである。ゆえに,本件で形式的に条例13条1項の距離制限規定の適用をすることは,Eらの不当な目的・動機を処分庁が事実上容認することになり,行政権の著しい濫用[34]となるから,同規定は本件許可処分には適用できないと考えるべきである。

 イ 要件裁量の逸脱濫用の点に対する反論

 条例13条1項ただし書の要件裁量については,法1条の「公衆衛生その他公共の福祉」の文言が抽象的なものであること,法10条1項は最低限度遵守しなければならない事項を規定したものであり,各自治体の地域・地区の実情に照らした上記「公衆衛生その他公共の福祉」等に係る知事ないし市長(法2条5項)の公益的判断を尊重する趣旨に出たものであること,条例13条1項ただし書も「市長が…認めるとき」と規定することからすると[35]広範な裁量があるものというべきである[36]

 また,仮にE主張の裁量審査の判断枠組みを前提としても,適法な処分である。すなわち,(ⅰ)上記距離制限規定(条例13条1項本文)が形式的には適用されるとしても,前記Eらの不当な目的・動機は,裁量判断(同項ただし書)に際して本件許可処分の積極要素[37]として考慮しうるものといえること,(ⅱ)AはCからの融資を受けたとはいえ既に本件土地を購入していることや,本件説明会を行っていることに鑑みると,これらの点につき信義則の観点から配慮する必要[38]があるといえることからすれば,前述したEの主張するような事情があるとしても,本件許可処分は,なお裁量の範囲内のものとして適法である。

 (2)条例3条1項違反の主張に対する反論

 上記(1)イと同様の理由から,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(条例3条1項ただし書)には広範な裁量があるものというべきである。

 ①条例は,宗教法人が墓地経営許可の申請に際して,宗教法人以外の法人等から墓地の敷地の買収に必要な費用について融資を受けることを特に禁止しているわけではなく,AがCの財政的な協力を受けたこと自体は法の趣旨に反しないこと,本件説明会ではCの担当者だけではなくAの担当者も説明を行っており,Aは宗教法人であるから経営に関し一定のノウハウを有していると考えられること,Aは10年前からB市区域内に登記された事務所があり,法3条2項の「3年以上経過」の要件の3倍もの期間,B市内で事務所を構えていること,これらのことに加え,本件土地を購入済みなのであるから,仮に今後Cの経営が悪化するなどしたとしても,Aだけでも本件土地の造成工事費用を捻出しうると考えられる上,継続的安定的な経営が予想され,周辺住民等の公益等にも適うものといえることからすれば,判断過程が不合理であるとはいえず[39],本件許可処分は,裁量の範囲内のものとして適法である。

(3)違法の主張制限の主張に対する反論

 取消訴訟主観訴訟であることから[40],9条の「法律上の利益」と10条1項の「法律上の利益」は同義に理解すべきであり,原告が主張できる違法事由は,原告適格の根拠とされた処分要件に関するものに限るものというべきである。

そこで,「自己の法律上の利益に関係のない違法」(10条1項)とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の法律上の権利利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違背した違法をいうものと解すべきである[41]

 本件につき検討すると,まず,条例13条1項本文(距離制限規定)違反は,上記のとおりEに関して適用することは行政権の濫用であることに照らし,10条1項との関係でもEの利益に関係のない違法事由というべきである[42]

 次に,同項ただし書は,第一次的には,周辺住民や本件事業所の利用者等の生活環境等に係る公益を保護する趣旨に出たものであり,かかる公益は,Eの営業侵害上の利益とは関係のないものもあり,あるいは直接には関係のない公益につき規定したものといえる。よって,Eは同項ただし書に係る違法事由を主張できない。

 さらに,条例3条1項違反についても,申請者Aの経営の健全性を確保する趣旨に出たものであり,Eの営業侵害上の利益とは関係がないか,直接には関係のない公益に関して規定したものといえるから,Eは同項の規制による利益を公益の一部として享受するにすぎない者というべきであり[43],Eはこの違法事由を主張できない。

 よって,いずれの違法事由も,Eの「法律上の利益に関係のない違法」であり,Eは,本案審理において,これらを主張することができない。

第3 設問2

 1 Aの主張(条例13条1項に係る違法)

(1)Aとしては,以下のとおり,本件条例13条1項ただし書の「市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」との要件を満たすというべきであることから,本件不許可処分には同項に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[44],同項ただし書は,B市の実情に照らし規定されている本件条例の同項本文の例外的な場合としてあえて規定されたものであるから,同項ただし書の上記要件に係る市長の許可の要件裁量は狭く,前記第2の1(1)イ(Eの主張)の場合と同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

(2)①Aは,本件墓地の設置に当たっては,「植栽を行う」(条例14条2項参照)ことで悪臭を防止するなどし,周辺住民らの健康や生活環境(「公衆衛生その他公共の福祉」)に特に配慮しようとしており,墓地の構造施設基準に係る配慮義務を十分に果たすものであること,悪臭発生等のおそれなどに関する反対住民の主観的感情は抽象的な危険に関するものにすぎないから,これを考慮ないし重視すべきではないこと,墓地を利用する者がひとたび墓地の購入や利用を始めると,その多くは長期間利用を継続する傾向があるといいうることから,Dを含む小規模な墓地の経営が破綻する可能性は抽象的といえるか可能性が低く,Dの営業上の利益を含む「公共の福祉」との関係でも問題がないことから,につき考慮不尽が,につき他事考慮が,の事項に係る評価の明白な合理性の欠如[45]があるといえ,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 2 B市の反論

(1)B市は次のとおり反論すべきである。第2の2(1)イのB市の反論で述べたとおり,条例13条1項ただし書については,B市の実情に照らし公益的見地からする広範な要件裁量があるというべきである。

(2)A主張の判断枠組みによるとしても,本件墓地につき,「植栽を行う」(条例14条2項)などすることは,同項に列挙されたことを実施するにすぎず,それ以上の具体的な提示をしていない以上,十分な配慮とはいえず,「公衆衛生その他公共の福祉」(同条1項ただし書)の点で問題があること,反対住民の感情は「市民の宗教的感情」に関する面があるといえ,主観的な事情であっても法の目的(「国民の宗教的感情に適合」(法1条))から軽視し得ないこと,墓地の利用者も,代替わりなどを契機に墓を別の墓地に移転させることはありうるし,新規の利用者が少なくなれば,小規模な墓地の経営が破綻する可能性は低くなく,Dの営業上の利益・周辺住民の上記公益を含む「公共の福祉」(条例13条1項ただし書)との関係で問題があることから,同項ただし書を適用しないとの判断の過程に不合理性は見出せず,裁量権の逸脱濫用の違法はない。

                                                                                                                                   以上

 

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[1] 行政事件訴訟法は,最初から行訴法と略して書いて良い(一般的な略称であり,行政事件訴訟法の略称であることが一見明白であるため)と考えられる。また,行訴法は,通常,どの行政法の論文問題でも引用することが多いので,このように法名を全部省略する(以後書かない)としてしまうと時間節約になるといえる。

[2] 設問1(1)の「設問」(問題文3頁)は,「わかりにくい文章」あるいは「誤解される表現」であると考えられる(岩淵悦太郎編著『第三版 悪文』(日本評論社,1979年)15頁以下,21頁以下参照)。①原告適格が認められることを前提として違法事由の議論を書かせたいのか,②原告適格の議論を書かせたいのか,設問部分を読んだだけでは,「二様」(前掲『第三版 悪文』)にとることができてしまうか,少なくとも誤解を生じやすい文章のように思われる。結局のところ,会議録を読み進めながら設問1(2)の答案構成をした段階で,設問1(1)については②の原告適格の認否の話を書くべきことが(一応)分かってくることになるといえるが,設問1(1)の設問の記載は,受験生に無用な混乱を生じさせたものと指摘せざるを得ないだろう。

[3] この論証は,小早川光郎教授による判例の理解(例えば,小早川光郎行政法講義〔下Ⅲ〕』(弘文堂,平成19年)256~257頁等)に基づくものである。元考査委員である山本隆司教授も,この理解に言及し,被処分者以外の者(第三者)の原告適格についての判例小田急高架訴訟最大判平成17127民集59巻10号2645頁,湊二郎大「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅱ」という。)342~343頁・165事件)等)の「定式」が3要件(不利益要件,②保護範囲要件及び③個別保護要件)に「パラフレーズ」されている(山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)(以下「山本・探究」という。)432~433頁)と解説する。平成21年新司法試験論文公法系第2問(行政法)の超上位合格者答案(公法系科目2位・160点台,稲村晃伸ほか監修『平成21年新司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(辰已法律研究所,平成22年)132頁)(以下「ぶんせき本・公法系2位答案」という。)も,やや論証の内容は異なるものの,この①~③の3要件を示してあてはめを行っており,参考になるだろう。

なお,原告適格の論証部分は,もっと短く書いても良いかもしれない。例えば,ショートバ―ジョンとして「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは,当該処分の根拠法規によって法律上保護された利益を有し,これを当該処分によって侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。」などと書き,についてはあてはめの論述の中でそれを理解していることを示すことになる。ただしこれだと,読み手にとってやや分かり難いものになるかもしれない。

[4] 問題文で「法」などと定義付けられているものは,答案でもそのまま用いて良いと考えられる。「本件条例」も同様であるが,「本件条例」だとやや長いので,本問では以下「条例」と略すなどと書き,単に「条例」と書く方が良いだろう。なお,本問の個別法は,行政法を学ぶ上では通常避けて通れない個別法である墓地埋葬法(墓埋法)であるところ(墓地埋葬法通達事件参照),古田孝夫東京地方裁判所判事(考査委員)らが担当した東京地判平成281116判例タイムズ1441号106頁・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394)も墓埋法に基づく墓地経営許可に係る処分が争われており,本問を作成するにあたって参考にされた可能性がある。ちなみに,行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べており(橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁),平成30年の問題も,上記平成28年の判決か,あるいは後掲東京地判平成22年4月16など別の墓埋法の事件が「下敷き」(ベース)となった可能性が高く,その事例に,研究者を中心に修正が加えられていったのではないかと思われる。

[5] 角松生史「公法系科目論文式試験の問題と解説 公法系科目〔第2問〕の解説」別冊法学セミナー200号『新司法試験の問題と解説2009』(2009年8月)(以下,「角松・平成21年新司解説」という。)42~50頁(42頁)は,「原告適格の考察にあたっての出発点は、処分要件の確認である」とするため,三者原告適格のあてはめでは,処分要件(処分要件規定)を指摘するところから書き始める必要がある。

[6] 生活衛生法規研究会監修『新訂 逐条解説 墓地、埋葬等に関する法律〔第3版〕』(第一法規,平成29年)(以下「逐条解説」という。)12頁では,法1条に関係のあるものとして,憲法13条,憲法20条,刑法188条~191条などが挙げられている。

[7] 飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)(以下「飯島・事例」という。)120~136頁(125)頁は,「命あるものは必ず死を迎え,わが国では通常は墓地に埋葬されることから,墓地は,公共性,永続性,非営利性を備えていなければならない。また,墓地は,風俗習慣,宗教的感情,各地方の地理的条件等に根差している。これらの特性から,墓地行政においては,地方公共団体が,墓地供給の第一次的主体として,かつ,許可権限の行使主体として据えられてきた。」(下線引用者)とし,公益に係る地域の実情に照らした裁量が認められるための墓地行政の特性等に言及している。平成30年の問題でも,このような墓地経営の「公共的サービスとしての性格」(飯島・事例132頁)などに関して指摘できていると評価が良いものとなるだろう。なお,この『事例から行政法を考える』の共著者である北村和生教授は,飯島淳子教授の事例問題(事例⑧)は認識していたはずであり,平成30年司法試験を作成するに際して参考にした可能性があるように思われる。

[8] 裁量が認められるということは,それだけ様々な者の利益に係る関係事項を広く考慮しうるという話に繋がり易くなると考えられるため,原告適格の認否の当てはめでも裁量の認否に触れている(飯島・事例128頁も原告適格の認否の検討に際して墓地経営許可処分についての「広範な裁量」に言及する)。ただし,裁量の認否は,会議録の会話文からすると,設問1(1)ではなく設問2(2)で書くべき内容であるといえるから,設問1(1)の部分ではこの程度の短い記載にとどめている。なお,これは,平成23年司法試験論文行政法の答案でも同様であると考えられ,過去問の検討は重要であるといえる。

 なお,斎藤浩=小山剛=宍戸常寿=角松生史「新司法試験問題の検討2009 公法系科目問題検討」法学セミナー656号(2009年8月号)(以下,「斎藤=小山=宍戸=角松・平成21年新司解説」という。)36~51(46頁)では,「違法性の本案判断と原告適格判断が混ざってしまう場合、理論的には難しいと思いますが(最判1994・9・27園部補足意見参照)、実務的にはどのように処理するのがスマートなのでしょうか。」(角松発言)との問いに対し,「裁判官は、形式的にはいつも分けたがりますが、実際には裁判官においても違法性の判断と原告適格の判断が、根は一緒のところで判断されています。特に行政事件訴訟法9条2項ができ、4要件から、結局は原告適格判断内に違法性の判断が紛れ込んでくるのです。」,「実務では、原告適格論を論じるときに違法性も論じ、違法性を論じるときにも原告適格を意識して論じることになります。」(いずれも斎藤発言,下線引用者)との回答がある。このように,原告適格論と違法事由の話(違法の主張制限の問題も含む)とは重なり合う部分が少なくないわけであり,「スマート」に書き分ることは難しいと言わざるを得ないだろう。ではこの「実務」(斎藤発言)を本試験でやってしまっていいかというと,そうではない。重複記載が多くなりすぎてしまい,制限時間内に「スマート」に答案を書くことができなくなるからである。ゆえに,平成30年公法系第2問は,受験生には辛い論文式試験であると言わざるを得ない。

[9] 飯島・事例125頁。本問ではいわゆる「法律規定条例」ともよばれる条例が問題になっている(同頁)ところ,委任条例ではないため自主条例と書いても良いところなのかもしれないが,典型的な自主条例(上乗せ条例・横出し条例)とは異なるので,ここでは明言を避けている。そして,法律規定条例の趣旨をいかに解するかは,理論的にアクチュアルな論点であり,平成30年司法試験行政法論文との関係でも重要な前提であろう(飯島・事例125頁参照)。会議録によると(問題文4頁・弁護士F第1発言参照),平成30年司法試験行政法論文の問題と関係では,法10条を「規制対象の性質に鑑みて要件を開いているもの」と解し,「法の目的と違背しない限り,条例による要件の設定は認められうる」(飯島・事例124頁・注5)趣旨に出たものと解することになろう。

[10] 本来は,行訴法9条2項の「関係法令」に当たるといえるための「目的を共通」にする点の理由付けをある程度は書かなければならないところである(東京地判平成22年4月16日判例時報2079号25頁参照)が,設問1(1)だけに時間をかけてはいられないため,そのような理由付けに係る記載は省略することにした。

[11] 本件条例13条3項ただし書をここで引用して良いかについては議論がありうると思われるが,法を具体化した条例(行訴法9条2項の関係法令に該当するもの)が,これから許可を受ける者の墓地経営の支障の有無を考慮していることからすると,許可を受けた後の(受けている既存の)同業者についても,その墓地経営の「支障」(同項ただし書)の有無・程度が考慮されるべきである(やや強引かもしれないが)という理由から引用したものである。

[12] 飯島・事例132頁等参照。

[13] 本問の難しさは,法10条1項の処分要件規定が,少なくとも第一次的には公益を保護する趣旨に出た規定であることから,何らかの説明をしなければ,通常は(保護範囲要件までは充たしても)個別保護要件を充たさない趣旨に出たものと解されてしまう点にあるといえよう。そこで,法10条1項が,第二次的に,個々の事業者やその事業の事業所を利用する者の私益を保護する趣旨に出たものと解するための説明が必要になり,その説明は,少なくとも本試験の制限時間内に書くにはかなり難しいものと考えられる。

[14] 墓地の経営許可についての競業者の原告適格につき,飯島・事例132頁は否定説(消極説)に立つが,設問1(1)の答案のDの主張ではこの立場に立てないことは明らかであるから,近時の重要判例の1つである一般廃棄物処理業に関する許可についての競業者の原告適格を肯定した最三小判平成26年1月28日民集68巻1号49頁,林晃大「判批」百選Ⅱ354~355頁・171事件を活用することが考えられる。本答案例では,墓地の事業・経営にも事業の公共性・継続性・安定性が要求されるものというべき点を指摘することにより,(やや強引と思われるかもしれないが)原告適格を肯定することを試みた。

[15] 飯島・事例132頁に照らすと,Dについては(ⅱ)よりも(ⅰ)の点を厚く書くべきであると考えられるため,(ⅱ)はこの程度にとどめている。

[16] 最二小判昭和37年1月19日民集16巻1号57頁,青木淳一「判批」百選Ⅱ352~353頁・170事件,前掲最三小判平成26128参照。

[17] 前掲最三小判平成26128参照。飯島・事例132頁とは逆の結論を採っており,批判がありうるところだろう。

[18] 小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)(以下「論点体系」という。)46~68頁(63頁)〔高橋信行〕は,需給調整の仕組みの点につき,「必ずしも説得的なものではない」とする。なお,中央大学真法会指導スタッフ「司法試験・予備試験 出題論点直前予想」受験新報806(2018年4月)号(2018年)37頁以下(54頁)では,この論点体系を含む考査委員の執筆した文献を広く挙げており,参考になるだろう。ただし,考査委員の論文のタイトル等を掲載しただけで,予想が的中したということはもちろん言えないことを念のためここで確認しておきたい。

[19] 論点体系63頁〔高橋信行〕は,既存事業者(競業者)の営業上の利益が「地域の衛生や環境を保持するうえで」「『その基礎となるもの』とされていること」が重要である旨指摘する。すなわち,「廃掃法の目的を実現するために既存事業者の継続的で安定的な協力が必要不可欠であり、その任務・役割が極めて重要であることに照らして、当該営業上の利益を『法律上の利益』に格上げすべきである、との判断が本判決の根底に流れていると考えられるのである」(下線引用者)とする。この指摘に照らせば,原告適格を否定する立場を採るのであれば,墓地経営許可については,上記「必要不可欠」性まではないと説明することが考えられよう。

[20] ここはやや強引かもしれない。

[21] Eの主張・反論の問題は,周辺住民の原告適格(飯島・事例128頁,論点体系49頁等参照)の認否の応用問題としての側面があると考えられる。この点につき,論点体系55頁〔高橋信行〕は,本問と関連する墓地経営許可処分取消訴訟(前掲東京地判平成22年4月16日)を引用する(飯島・事例124頁も同裁判例を引用する)ところ,同判決は,前掲小田急高架訴訟の一般論を引用(「参照」)した上で,「住宅等から墓地までの距離は,おおむね100メートル以上であること」等の条例の関係規定に言及し,最終的に「墓地からおおむね100m以内に居住する者には原告適格が認められると判示」(下線引用者)する。そして,論点体系55頁は,「条例の定める詳細な許可基準を踏まえて原告適格の有無が判断されているのが特徴である」と解説しており,以上の流れは本問にも大いに参考になるだろうが,会話文からも明らかであるとおり,直接にはEの営業上の利益が問題となっている点に注意する必要がある。なお,飯島・事例127頁以下は,「墓地経営許可の取消を求める周辺住民の原告適格に関する唯一の最高裁判例」である最判平成12年3月17判例時報1708号62(以下「平成12年判例」)(原告適格否定)という「最高裁」の「壁」をいかに「乗り越え」るのかが問題であるとするが,①平成12年判例は平成16年行訴法改正前のものであることに加え,②前掲東京地判平成22年4月16日も,平成12判例には一切触れず,前掲小田急高架訴訟にのみ触れ,一般論を展開していることからすれば,本問の答案では,特に平成12判例に言及しなくても特段の問題はないものと考えられる。

[22] 前掲東京地判平成22年4月16日は「直接的に」としているが,書いても書かなくても良い特に合否には影響しないだろう。ただし,「著しい」というキーワードは落とすべきではない。

[23] 前掲東京地判平成22年4月16日等に照らすと,本件事業所と本件土地との位置関係を指摘することは必須と考えられる。

[24] サテライト大阪事件最一小判平成211015民集63巻8号1711頁,勢一智子「判批」百選Ⅱ346~347頁・167事件)参照。

[25] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについてはB市の反論の部分で書くことにした。

[26] 「例外は厳格に」ということから導く理由付けを付加しているところ,これは一般論として通用しないだろうが,本問の法律規定条例は,詳細な条項を規定することで予め利益調整の方針を示しているものといえるから,「例外は厳格に」という解釈も一応妥当しうるだろう。

[27] 呉市学校施設使用不許可事件(最三小判平成18年2月7日民集60巻2号401頁,土田伸也「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)148~149頁・73事件)参照。

[28] 斎藤=小山=宍戸=角松・平成21年新司解説46頁〔角松〕が「違法性の本案判断と原告適格判断が混ざってしまう場合、理論的には難しいと思います」と述べるとおり,原告適格(設問1(1))で書いたことの一部を設問1(2)でも書くことにならざるを得ないものと考えるが,やむを得ないことだろう。いかに重複を避けながら書いていくかは文章力の問題であり,あるいは,人によっては訓練を要するためテクニカルな問題ともいえる。それも,司法試験が要求する実務家法曹に必要な‘事務処理能力’の一部なのかもしれない。例年のことではあるが,司法試験論文式試験公法系第2問は,単なる行政法ではなく,事務処理行政法という科目の問題といわなければならないだろう。事務処理能力の高低で殆ど合否が決せられてしまうと思われるからである。

[29] 本当にこのような因果関係があるかについては疑問が生じうるところだろう。

[30] 逐条解説48頁参照。

[31] なお,ぶんせき本・公法系2位答案134頁も,理由付けをある程度書いた上でこのような規範を立てている。

[32] 角松・平成21年新司解説50頁の「解答例」も,「接道義務違反は、F自身の生命身体の安全を保護する趣旨のものであり、その違法に関する主張が制限されないことは言うまでもない。」として,問題なく主張しうる違法事由については,短く書いている。

[33] 違法の主張制限に関する考査委員の論考として,角松生史「都市空間管理をめぐる私益と公益の交錯の一側面―行訴法10条1項「自己の法律上の利益に関係のない違法」をめぐって―」社会科学研究61巻3=4号139-159頁。

[34] 最二小判昭和53526民集32巻3号689頁,高橋信行「判批」百選Ⅰ60~61頁・29事件。

[35] 裁量の認否・広狭(範囲)を検討するに当たって考慮される要素・事項は,論者によって若干のニュアンスの違いはあるものの,主に次の3つであり,「3要素説」と呼んでもよいものと思われる。すなわち,()処分の目的・性質,対象事項(許可か特許かなど),()処分における判断の性質(政治的政策的,専門技術的判断等が要求されるか),()法律の文言・処分の根拠法規の定め方等であり,このうちの1つだけで判断すべきものではなく,総合的な判断が必要とされる(川神裕「裁量処分と司法審査(判例を中心として)」判例時報1932号11頁(2006年)参照)。なお,()の法律の文言を一番先に挙げる立場も多い(例えば,山本隆司「日本における裁量論の変容」判例時報1933号(2006年)11頁以下(14頁),山本・探究221頁,中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社,2018年)130頁以下,高橋信行『自治体職員のためのようこそ行政法』(第一法規,平成29年)(以下「高橋・ようこそ行政法」という。)102頁)。なお,高橋・ようこそ行政法102頁は,「裁量の有無・広狭の判断」の「考慮事項」として,「①法律の文言の抽象性」,「②専門的・政治的判断の必要性」及び「③権利利益の重要性」を挙げていることなどから,司法試験では,法律の文言の抽象性を第一番目の要素としてあてはめる方が良いように思われる。

[36] 東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられている旨判示している。

[37] 本件許可処分を「肯定する考慮要素」(山本・探究234頁)と書いてもよい。

[38] 高橋信行「判批」百選Ⅰ61頁の解説2・3参照。

[39] Eの考慮不尽に係る主張を前提したとしても判断過程が不合理ではないという意味の記述であるが,市側からそこまで言ってあげることはないので,そこまで書いていない。

[40] 論点体系257頁,270頁〔青栁馨〕。

[41] 「原告の法律上の権利利益に関係のない違法事由の主張を制限したものと解される」(下線引用者)とする大阪地判平成20年2月14日判例タイムズ1265号67頁等は,行訴法10条1項を厳格に解釈して主張制限の規定を適用した裁判例であり,このような解釈を採るのが「裁判例の大勢」(論点体系285頁〔青栁馨〕)であることから,B市の反論ではこのような解釈を採った。この点に関し,角松・平成21年新司解説50頁の「解答例」は,主張制限(違法の主張制限)の一般論につき,「行訴法10条1項は,取消訴訟における『自己の法律上の利益に関係のない違法』の主張を制限している。同条にいう『自己の法律上の利益に関係のない違法』とは、処分の違法事由のうち、原告の権利利益を保護する趣旨のものと解することができない要件に違反した違法をいうと解すべきである。」という判断枠組みによっており,上記裁判例の大勢とは同じではない立場に立つものと思われる。

[42] 主張制限にも権利濫用の法理を適用することを試みたが,蛇足かもしれない。

[43] 角松・平成21年新司解説50頁の「解答例」参照。本答案例では,設問1(1)でD・Eの原告適格をいずれも肯定する立場に立つことから,この立場(とその答案の内容)と主張制限についてのB市の反論の内容は整合しないものかもしれない。とはいえ,これはやむを得ないことと思われる。

[44] 条例13条1項ただし書の趣旨の論述は重複となるため省略したが,その分,あてはめが締まらなくなった面があるかもしれない。要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについてはB市の反論の部分で書いている。

[45] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)120頁。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文行政法の感想(4) 設問1(2)(続き)・設問2の答案例

平成30年司法試験を受験した司法試験受験生の皆様,本当にお疲れ様でした。

今宵は,飲むなり,休むなり,久しぶりの「休み」を楽しんでいただければと思います。

 

また,本試験を受験していない方は,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,問題検討をした上で,よろしければ,以下のコメントを見ていただければ幸いです。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  次のブログのとおり。 

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2 元ネタとなった裁判例

  上記ブログと、次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

3 答案例

 

第1 設問1(1)

   次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 次のブログのとおり。 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 2 B市の反論

 (1)本件条例13条1項違反の主張に対する反論

   1つ上のブログのとおり。

 

 (2)本件条例3条1項違反の主張に対する反論

 上記(1)イと同様の理由から,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(本件条例3条1項ただし書)には広範な裁量があるものというべきである。

 ①本件条例は経営許可に際して宗教法人が墓地の敷地の買収に必要な費用を宗教法人以外の法人等から融資を受けることを禁止しているわけではなく,AがCの財政的な協力を受けたこと自体は法の趣旨に反しないこと,本件説明会ではCの担当者だけではなくAの担当者も説明を行っており,Aは宗教法人であるから経営に関し一定のノウハウを有していると考えられること,Aは10年前からB市区域内に登記れた事務所があり,法3条2項の「3年以上経過」の要件の3倍もの期間,B市内で事務所を構えていること,これらのことに加え,本件土地を購入済みなのであるから,仮に今後Cの経営が悪化するなどしたとしても,Aだけでも本件土地の造成工事費用を捻出しうると考えられ,さらに,継続的安定的な経営が予想され,周辺住民等の公益等にも適うものといえることからすれば,Eの主張するような考慮不尽があるとはいえず,本件許可処分は,裁量の範囲内のものとして適法である。

(3)違法の主張制限の主張に対する反論

 取消訴訟主観訴訟であることから[1],法9条の「法律上の利益」と10条1項の「法律上の利益」は基本的には同義に理解すべきであり,原告が主張できる違法事由は,原告適格の根拠とされた処分要件に関するものに限るものというべきである。

 そこで,「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行訴法10条1項)とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違背した違法をいうものと解すべきである。

 本件につき検討すると,まず,本件条例13条1項本文(距離制限規定)違反は,上記のとおりEに関して適用することは行政権の濫用であることに照らし,10条1項との関係でもEの利益に関係のない違法事由というべきである。

 次に,同項ただし書に係る違法については,悪臭発生等によりEの本件事業所の利用者の生活環境等に影響があるとしても,Eの営業侵害となるか否か(その程度)は不明であり,Eの利益に関係のない(ないし直接には関係のない公益に係る)違法事由といえる。

 さらに,本件条例3条1項違反についても,仮にAの経営悪化によってEの本件事業所の利用者の生活環境等に影響が出るとしても,と同様に,Eの利益に関係のない(ないし直接には関係のない公益に係る)違法事由といえる。

 よって,のいずれも,Eの「法律上の利益に関係のない違法」であり,Eは本案審理において,これらを主張することができない。

 

第3 設問2

 1 Aの主張(本件条例13条1項に係る違法)

 (1)Aとしては,以下のとおり,本件条例13条1項ただし書の「市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」との要件を満たすというべきであることから,本件不許可処分には同項に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[2],同項ただし書は,あくまで法10条1項の趣旨・目的に反しない範囲でB市の実情に照らし具体化した本件条例[3]の同項本文の例外的な場合としてあえて規定されたものであるから,同項ただし書の上記要件に係る市長の許可の裁量は狭く,前記第2の1(1)イ(Eの主張)の場合と同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

 (2)①Aは,本件墓地の設置に当たっては,「植栽を行う」(本件条例14条2項参照)などすることで,悪臭を防止するなどし,周辺住民らの健康や生活環境(「公衆衛生その他公共の福祉」)に十分に配慮しようとしていること(なお,同条の各要件を満たしているには問題はないものと考えられる),悪臭発生等のおそれなどを前提とする反対住民の感情は抽象的な危険に係るものであり,主観的な事情であることから重視すべきではないこと,墓地を利用する者がひとたび墓地の購入や利用を始めると,その多くは長期間利用を継続する傾向があるといいうることから,Dを含む小規模な墓地の経営が破綻する可能性は抽象的ないし低く,Dの営業上の利益を含む「公共の福祉」との関係でも問題がないことから,につき考慮不尽が,につき他事考慮が,の事項に係る評価の明白な合理性の欠如[4]があるといえ,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

                          

 2 B市の反論

 (1)B市は次のとおり反論すべきである。第2の2(1)イのB市の反論で述べたとおり,本件条例13条1項ただし書については,B市の実情に照らし公益的見地からする広範な要件裁量があるというべきである。

 (2)A主張の判断枠組みによるとしても,本件墓地につき,「植栽を行う」(本件条例14条2項)などすることは,同項に列挙されたことを実施するにすぎず,それ以上の具体的な提示をしていない以上,十分な配慮とはいえず,「公衆衛生その他公共の福祉」(同条1項ただし書)の点から問題がないとはいえないこと,反対住民の感情は「市民の宗教的感情」に関する面があるといえ,主観的な事情であっても法の目的(「国民の宗教的感情に適合」(法1条))から軽視し得ないこと,墓地の利用者も,代替わりなどを契機に墓を別の墓地に移転させることはありうるし,新規の利用者が少なくなれば,小規模な墓地の経営が破綻する可能性は低くなく,Dの営業上の利益・周辺住民の上記公益を含む「公共の福祉」(本件条例13条1項ただし書)との関係で問題があることから,判断過程が不合理とはいえず,裁量判断の範囲内であり裁量権の逸脱濫用の違法はない。

                                    以上

 

 

以上,検討が不十分なものであることは明白であろうから,引き続き,平成30年司法試験論文公法系科目(憲法行政法の問題を検討していくこととしたい。

 

 

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[1] 小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)257頁〔青栁馨〕。

[2] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについては被告B市の反論の部分で書くことにした。

[3] 法10条1項は,「法律規定条例」とも呼ばれ,その趣旨をいかに解するかは,理論的にアクチュアルな論点であり,平成30年司法試験行政法論文との関係でも重要な前提であろう(飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)120-136頁(125頁)参照)。会議録によると(問題文4頁・弁護士F第1発言参照),平成30年司法試験行政法論文の問題と関係では,法10条を「規制対象の性質に鑑みて要件を開いているもの」と解し,「法の目的と違背しない限り,条例による要件の設定は認められうる」(同124頁・注5)趣旨に出たものと解することになろう。

[4] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂,2016年)120頁。

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

平成30年司法試験論文公法系(憲法・行政法)の「元ネタ論文」と「元ネタ裁判例」

平成30年司法試験(論文公法系科目)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅰ 論文公法系第1問(憲法

 平成30年司法試験論文公法系科目第1問(憲法)に関係があると考えられる考査委員の文献は次の通りである。

 

1 21条1項(知る自由・知る権利)関係

曽我部真裕青少年健全育成条例による有害図書類規制についての覚書」法學論叢170巻(平成24年)(以下「曽我部・有害図書類規制覚書」という。)499~514頁。[1]

 

曽我部真裕「判批」(岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判平成元年9月19日)解説)憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法〔増補版〕』(信山社,2014年)(以下「判プラ」という。)178頁・133事件。

 

2 22条1項(職業の自由・営業の自由)関係

小山剛「経済的自由の限界」小山剛=駒村圭吾編『論点探究 憲法〔第2版〕』(弘文堂,2013年)214~223頁。[2]

 

小山剛「職業の自由と規制目的」棟居快行=工藤達朗=小山剛編集代表『プロセス演習 憲法』(信山社,第4版,2011年)256~272頁。

 

尾形健「判批」(薬局距離制限事件最大判昭和50年4月30日)解説)判プラ204頁・154事件。

 

 

Ⅱ 公法系第2問(行政法

 平成30年司法試験論文公法系科目第2問(行政法)に関係があると考えられる考査委員に関する文献(ただし①は考査委員が共著者の一人となっている書籍)・裁判例は次の通りである。

 

 1 墓地埋葬法・法律規定条例 原告適格(差止訴訟) 違法事由 主張制限

飯島淳子「事例⑧ 墓地経営許可をめぐる利益調整のあり方」北村和生=深澤龍一郎=飯島淳子=磯部哲『事例から行政法を考える』(有斐閣,2016年)120-136頁。

 

原告適格関係)小早川光郎=青栁馨編『論点体系 判例行政法 2』(第一法規,平成29年)46-68頁〔高橋信行〕。[3]

 

 

 2 主張制限

角松生史「都市空間管理をめぐる私益と公益の交錯の一側面―行訴法10条1項「自己の法律上の利益に関係のない違法」をめぐって―」社会科学研究61巻3=4号139-159頁。[4] 

 

 3 違法事由(裁量の認否・裁量権の逸脱濫用/行政権の濫用)

古田孝夫東京地方裁判所判事(考査委員)らが担当した東京地判平成281116判例タイムズ1441号106頁・裁判所ウェブサイト・LEX/DB25547394(控訴審は東京高判平成29年8月9日LEX/DB25547394)。

 

高橋信行「判批」(最二小判昭和53年5月26日解説)宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

 

 

Ⅲ 若干のコメント

1 公法系第1問(憲法)について

 (1)論文憲法の「ベース論文」

 ベースとなったのは,曽我部・有害図書類規制覚書の事案と考えられるが,千葉市コンビニエンスストアミニストップ」が成人誌の取り扱いを中止したニュース(朝日新聞デジタル2017年11月21日12時08分の記事等参照)を多少意識したのではないかとも思われる。

 

 (2)ベース論文公表から6年後に出題

 曽我部・有害図書類規制覚書501頁は,①有害図書類規制と青少年保護の問題につき,「科学的には、有害図書類が青少年の健全育成に対して悪影響を及ぼす可能性は全くないとは言えず、不明な点があること、しかし、有害図書類の影響により逸脱行為、ことに犯罪を犯す結果になり、あるいはとりわけ性に関する歪んだ価値観を形成してしまった場合には本人にとって取り返しがつかないという点を考慮すべきだと思われる」し,また,②青少年インターネット環境整備法17条1項の趣旨につき、「青少年に『フィルタリングサービスを利用させる必要があるか否かについては、最終的には、青少年を直接看護・養育する立場にある保護者がそれぞれの教育方針及び青少年の発達段階に応じて判断するのが適当である』という点にあ」るとし、「保護者の教育権の行使を支援するという目的であると思われる」とする。

 これらの視点は平成30年司法試験論文憲法との関係でも特に重要と思われる。

 すなわち,の視点は,「架空立法を素材に,基本的人権に関わる基本的な法理が予防的権力行使を前にした場合にどのような形で妥当するか」(平成28年司法試験論文式試験出題趣旨1頁)が問われた平成28年の問題意識を想起させるものといえ,「予防原則」や「規制の前段階化」の議論が関係するという意味でやはり過去問の検討が重要であった。

 ②は,規制目的に関して,「主として家庭教育等学校外における教育」等の「親の教育の自由」(旭川学テ事件・最大判昭和51年5月21日)ないし親の教育権も考慮しうるのではないかという視点であろう。

 

 なお,同501頁は,「現行の有害図書類の規制は、このような目的〔引用者注:保護者の教育権の行使を支援するという目的〕をとるものではないが、立法論としてこのような考え方を取り入れることはありうるとは思われる。」(下線引用者)としており,これが同論文が公表(平成24年)されてから約6年後の平成30年に司法試験の論文憲法の問題のベースになったものと考えられる。

 

 (3)研究者文献等に照らした加筆修正

 そして,上記ベース論文から作られた問題案に,各考査委員が(おそらく研究者の考査委員中心と思われるが)修正を加えていったものと思われ,その修正の際に前記憲法文献等が参照された可能性があると考えられる。

 

2 公法系第2問(行政法)について

 (1)論文行政法の「ベース裁判例

 司法試験論文行政法は,憲法とは異なり,研究者の考査委員の論文をベースとするのではなく,例年,具体的な裁判例をベースにしていると考えられる。

 そこで,どの個別法のどのような事例から出題するかという意味で「下敷き」[5]となったのは,古田考査委員ら担当の前掲東京地判平成281116行政法文献)思われる。

 

(2)研究者文献等に照らした加筆修正

 上記ベース裁判例行政法論文②・③・⑤により,研究者を中心に加筆修正していったのではないかと思われる。

 ちなみに,は墓地埋葬法のケース(この事例問題も東京地判平成22年4月16日を下敷きにしている(同文献124頁参照)わけだが)につき,差止訴訟の訴訟要件(原告適格は特に厚く検討されている),違法事由・違法事由の主張制限(行訴法10条1項)が聞かれているが,共著者である北村和生教授もこの飯島淳子教授の事例問題は認識していたはずであり,参考にしたのかもしれない。

 

 上記各文献等に照らし,さらに平成30年司法試験論文公法系(憲法行政法)の問題を検討することとしたい。

  

 

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[1] 中央大学真法会指導スタッフ「司法試験・予備試験 出題論点直前予想」受験新報806(2018年4月)号(2018年)(以下「直前予想」という。)37頁以下(53頁)参照。

[2] 直前予想52頁。

[3] 直前予想54頁。

[4] 直前予想54頁。

[5] 行政法の事例問題の作られ方につき,橋本博之教授は,「私が見るところ、行政法の事例問題は、何がしかの具体的な裁判例を下敷きにしたものが多くを占めています」と述べている(橋本博之「行政法解釈の基礎一『仕組み』から解く」(日本評論社,2013年)48~49頁)。

 

 

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*このブログでの(他のブログについても同じ)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」も,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生・司法試験受験生をいうものではありません。

 

 

平成30年司法試験論文公法系第2問(行政法)の感想(3) 設問1(2)の答案例

平成30年司法試験(論文行政法)を受験した司法試験受験生は,以下のコメントを見ないで下さい。

 

また,本試験を受験していない方であっても,今後,平成30年司法試験論文行政法の問題を検討することは有益なことですから,以下のコメントを見ないようにした方が良いと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 全体的な印象

  前々回のブログのとおり。

 

2 元ネタとなった裁判例

  前々回のブログのとおり。 

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3 答案例

「第1 設問1(1)」につき,前回のブログのとおり。 

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第2 設問1(2)

 1 Eの主張

 (1)本件条例13条1項違反

   ア 距離制限規定違反(同項本文)

 Eは,本件事業所(本件条例13条1項(2))は本件土地から約80メートル離れた位置にあるため,「100メートル以上離れていなければならない」(同項本文)との距離制限規定に反する違法事由があると主張する。

   イ 要件裁量の逸脱濫用(同項ただし書)

 また,Eは,同項ただし書が適用される場合でも,「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める」との要件を満たさないというべきであり,次のとおり,同項ただし書に係る違法があると主張する。

 同項に要件裁量が認められるとしても[1],同項ただし書は,あくまで同項本文の例外として市長が許可する場合であるから,その許可の裁量は狭く,考慮すべき事項を十分に考慮しない(考慮不尽)など判断過程が不合理であり,その結果,社会通念上著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用というべきである。

 ①Eの本件事業所の利用者は居住者と変わらない実態があり,渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれが生じることからEの利用者の減少が見込まれ,Eの営業上の利益に著しい被害を与えるものであること,Dの墓地は,すでに余り気味で,空き区画が出ていることから,大規模な本件墓地が事業を開始するとDの経営が破たんし,関係区域の「公衆衛生その他公共の福祉」すなわち周辺住民の健康や生活環境に被害・影響を及ぼし得ることになること,これら及びの点を考慮すべきであるのに(十分)考慮されていないため,判断過程が不合理である結果,社会通念上著しく不当な判断であり裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (2)本件条例3条1項違反

 Eは,次のとおり,本件条例3条1項に反する違法事由があると主張する。

 本件墓地の実質的な経営者はAではなくCであり,Cは,本件条例3条1項柱書ただし書・同項(1)の「宗教法人法…に規定する宗教法人」ではない。そして,同項本文は墓地等を経営しうる者は原則として地方公共団体とし,例外的に「B市長…が適当と認める場合」(同項ただし書)に宗教法人等でも許可しうるとしていることから,同文言に係る判断につき要件裁量が認められるとしても[2],例外的に許可しうる場合に係る同裁量は狭いものであり,上記(1)イと同様の判断枠組みにより裁量権の逸脱濫用が認められるというべきである。

 ①Aは本件土地の買収に必要な費用をCから全額無利息での融資を受けており,このようなCの協力がなければ大規模な墓地経営に乗り出すことは財政的に困難であったこと,本件説明会にはAの担当者だけではなくCの従業員も数名出席した上,実際にCの担当者も説明を行っており,Cが経営のノウハウを一部有しているといえること,これらの事情から,仮に今後Cの経営が悪化した場合,Aだけでは本件土地の造成工事費用を捻出することが事実上困難となったり本件墓地の事業の経営に係るCの助言を受けられなくなったりすることが考えられること,④③によりAの経営が悪化すると,前述したとおり,「公衆衛生」等に係る周辺住民や本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあることからすれば,これらの点につき考慮不尽がある結果,社会通念上著しく妥当性を欠いた判断といえ,裁量権の逸脱濫用の違法がある。

 (3)違法の主張制限(行訴法10条1項)について

 Eは,次のとおり,本件条例13条1項本文及び同項ただし書に係る違法事由並びに本件条例3条1項に係る違法事由につき,すべて「自己の法律上の利益」(行訴法10条1項)に関係があると主張する。

 違法の主張制限についての行訴法10条1項は同法9条2項を準用してはいないが,(ⅰ)違法の主張制限は,原告適格等の訴訟要件の問題ではなく本案審理の問題であるため,訴訟の効率的運用等の訴訟要件の趣旨は妥当しないというべきことや,(ⅱ)国民の権利利益の実効的に救済を図る平成16年改正法の趣旨に照らすと,行訴法10条1項は原告の利益とは全く無関係の違法事由の主張を認めないことを示した規定と解すべきである。

 ①の違法事由がEに関係のある違法事由であることは明白であり,取消訴訟の本案で主張できる。また,における渋滞・悪臭発生・カラス等発生・増加のおそれという事情は,本件事業所の利用者の健康や生活環境に被害・影響を与えうるものであり,これによりEの利用者の減少等も考えられるから,の違法事由もEの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。さらに,の違法事由についても,C・Aの経営が悪化すると,前述したとおり本件事業者の利用者の健康や生活環境上の利益に影響を及ぼすおそれがあるから,Eの営業上の利益と全く無関係なものとはいえず,主張可能である。

 2 B市の反論

 (1)本件条例13条1項違反について

 ア 距離制限規定違反の点に対する反論

 B市としては,次の通り反論すべきである。

 D・Eの各代表者が親族関係にあったことから,Eは,特に事業所に移転する必要性はなかったにもかかわらず,本件説明会後に短期間で,宗教法人Dの求めに応じて本件事業所に事務所を移転させているため,D・Eの事業所移転の主たる目的・動機は,法及び本件条例の趣旨・目的とは異なるものというべきである。ゆえに,本件で形式的に本件条例13条1項の距離制限規定の適用をすることは,Eらの不当な目的・動機をB市長が事実上容認することになり,行政権の著しい濫用[3]となるため,距離制限規定は本件許可処分には適用できないか,Eに対し同規定を主張しえないと考えるべきである。

 イ 要件裁量の逸脱濫用の点に対する反論

 本件条例13条1項ただし書の要件裁量については,法1条の「公衆衛生その他公共の福祉」の文言が概括的なものであること,法10条1項は最低限度遵守しなければならない事項を規定したものであり,各自治体の地域・地区の実情に照らした上記「公衆衛生その他公共の福祉」等に係る知事ないし市長(法2条5項)の公益的判断尊重する趣旨に出たものであること,本件条例13条1項ただし書も「市長が…認めるとき」と規定することからすると,広範な裁量がある[4]ものというべきである。

 また,裁量審査につき,仮にEの主張する前記判断枠組みによるとしても,(ⅰ)仮に上記距離制限規定(本件条例13条1項本文)が形式的には適用されるとしても,前記Eらの不当な目的・動機については,裁量判断(同項ただし書)に際して本件許可処分の積極事情として考慮しうるものといえること,(ⅱ)AはCからの融資を受けたとはいえ既に本件土地を購入していることや,本件説明会を行っていることに鑑みると,これらの点につき信義則の観点から配慮する必要[5]があるといえ,これも本件許可処分の積極事情して考慮しうることからすれば,前述したEの主張するような事情があるとしても,本件許可処分は,なお裁量の範囲内のものとして適法である。

 (2)本件条例3条1項違反について

 ※中途半端だが,諸事情により,次回あるいは次回以降のブログで書く予定である。

 

 (3)違法の主張制限について

 上記と同じ。

 

第3 設問2

 上記と同じ。

 

  

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[1] 要件裁量を否定する構成は認められ難いと解されることから,裁量を認めることを前提とする裁量権の逸脱濫用の違法事由を主張する構成を採っている。また,裁量の幅(広範な裁量が認められること)やその論拠については,本来特に原告側が主張するようなことではないので,これらについては被告B市の反論の部分で書くことにした。

[2] 1つ上の注と同じである。

[3] 最二小判昭和53年5月26日・高橋信行「判批」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅰ[第7版]』(有斐閣,2017年)(以下「百選Ⅰ」という。)60~61頁・29事件。

[4] 東京地判平成26年4月30日判例地方自治392号70頁・LEX/DB25519013は,墓地の経営許可処分の取消訴訟についての周辺住民の原告適格を否定した最二小判平成12317判例時報170862を参照した上で,墓地経営の許可の申請に対する処分は,公益的見地からする行政庁の「広範な裁量」に委ねられている旨判示している。

[5] 高橋信行「判批」百選Ⅰ61頁の解説2・3参照。

 

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