平 裕介(弁護士・公法研究者)のブログ

主に司法試験と予備試験の論文式試験(憲法・行政法)に関する感想を書いています。

平成29年予備試験論文憲法&平成30年司法試験論文憲法の対策(1) 25条の捌き方

Ⅰ はじめに

 

ここのところ平成29年司法試験論文憲法行政法の感想を書いてきたが,やや飽きてきてしまったため,「平成29年予備試験論文憲法平成30年司法試験論文憲法の対策」と題して,今年の予備・来年の司法試験対策のブログを書いてみたいと思う。

 

今回は,憲法25条が出題された司法試験(新司法試験)の過去問を検討する。

 

25条は,司法試験論文(憲法)では平成22年で出題されて以来,司法試験論文でも予備試験論文でも出題がない。

このように,「不気味」な論点であり,あの考査試験の先生が研究されているテーマに関わる人権でもあることから,潰しておく必要がある。

 

司法試験論文は,予備試験論文にはやや長いものとなるが,上記のように過去問が1つ(平成22年)しかないにもかかわらず,そろそろ(予備試験でも)出そうな人権であることから,この過去問を検討しておくべきであろう。受験生の方々が過去問を検討される際に本ブログも参考にしていただけると幸いである。

 

 

Ⅱ 平成22年の事案と予想される事案等(生存権関係)

 

(ア)平成22年の事案は,権利(抽象的権利)が具体化された後のケースであったのに対し,(イ)平成29年予備又は平成30年司法試験での予想される事案は,権利(抽象的権利)が具体化された給付制度が後退(減額等)するケースである。(ア)22年タイプの方は,以下の答案例(設問1部分の)のような規範(行政法判断代置的審査に近い規範)で処理すれば良いだろうが,(イ)のタイプの方は立法裁量あるいは行政裁量の判断過程統制審査の規範処理すべき(25条又は25条+14条)だろう(この点につき,下記で若干の補足をする)。

 

ただし,(ア)のような事案が再度出題されることも十分に予想される(たとえば,柴田憲司「車を借りると生活保護は廃止?」宍戸常寿編著『憲法演習ノート―憲法を楽しむ21問(弘文堂,2015年)300~303頁の事例問題(解説は303~320頁))から,(ア)の規範・あてはめも書けるようにしておく必要があり,22年を検討してく必要があるということになる。

 

また,(イ)については,宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開 第2版日本評論社,2014年)164~165頁の「生存権憲法的構成」の事例問題(解説は165~174頁)や,老齢加算廃止に関する木下和朗「第4問」原田一明=君塚正臣編『ロースクール憲法総合演習』(法律文化社,2012年)96~98頁の事例問題(解説は213~218頁)が大いに参考になる(母子加算の廃止を合憲・適法とした京都地判平成21年12月14日も参照。なお,母子加算制度は,自民党政権下で廃止されたが民主党政権下で復活した。)ので,よく読んでいただきたい。

 

 

Ⅲ 答案例(平成22年新司法試験・論文・憲法)とその検討

 

以下,いくつかの文献を参照しつつ[1],私なりに答案(答案例)を書いてみた。また,脚注で,答案例についてコメントを付している。不十分な点も多いと思われるため,批判的に読んでいただきたい。

 

なお,平等原則や選挙権の主張についてもオマケ的に書いてみたが,受験生の方々の参考程度にはなるかもしれない。ご笑覧いただきたい。

 

 

第1 設問

1 生活保護について[2]

本件でY市は,Xの生活保護の認定申請に対して却下処分をしている。そこで,Xは,同処分は[3]Xの生存権憲法(以下,法名は省略する。)[4]25条1項)を侵害するとともに,平等原則(14条1項)に反するものであるから,違憲であると主張する。以下,詳述する。

(1) 生存権(25条1項)侵害の主張

ア まず,Xが生活保護を受ける権利は,健康で文化的な最低限度の生活を営む「権利」として,25条1項により保障される。そして,同項の権利は,抽象的権利であるものの,Xの生活保護を受ける権利は,生活保護法(以下,「法」という。)19条1項により具体化されている[5]といえる。

 もっとも,Xは,Y市がインターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地法19条1項2号)として認めないという制度運営を行っている[6]ことにより,Xの生活保護の申請が却下され,Xの生活保護を受ける権利が侵害されている。

〔論証〕  このような制度の運用は,法により具体化されたXの権利を制約するものであり,25条1項に反する。すなわち,「現在地」及び「居住地」(法19条1項2号)に該当するか否かについては,25条1項を具体化した法の目的(法1条)や趣旨に適合するように解釈運用すべきである

法1条は,生活に困窮するすべての国民」に対し「必要な保護」を行うとともに,「自立を助長」することを目的としている[7]。そして,法19条が「住所」(住民基本台帳法4条)という文言を用いず,あえて「居住地」や「現在地」という文言を用いた趣旨[8],多数の生活困窮者が生活の本拠を有していないこと(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法1条,2条)に照らし,広く生活困窮者を保護すべきものとする点にあると考えられ,これは「保護」だけではなく「自立」の助長という目的(法1条)にも適合する考え方といえる。そうであるとすれば,Xのように,シェルターでの居住実態はないものの,インターネット・カフェやビルの軒先で寝泊まりしている者については,当該店舗等の所在地が「所管区域内」(19条1項各号)にある場合には「居住地」または「現在地」を有する者として生活保護を認めるべきである。加えて,生活の本拠がない者は,「最低限度」(法1条,3条)以下の,いわば「生存」そのものが脅かされうる者といえることからしても,このような法の解釈運用がなされなければならない[9]

 Xも,生活の本拠がない上,持病があるにもかかわらず病院に行けない状況にあり,生命さえも脅かされる状況に追い詰められている者であることから,現に「生存」そのものが脅かされている者といえる。

 よって,Y市のXに対する生活保護申請の却下処分は,25条1項に反し,違憲である。

(2) 平等原則(14条1項)[10]違反の主張

 Y市は,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地」と認める他の自治体があるにもかかわらず,このような法の制度運用を認めていない。そのため,XのようなY市内のインターネット・カフェ等で寝泊まりする者とその他の自治体のインターネット・カフェ等で寝泊まりする者との間の上記別異取扱いは,平等原則(14条1項)に違反する。

 この点に関し,地方公共団体が売春の取締について各別に条例を制定する結果,その取扱に差別を生ずることがあっても,地域差が生じたことをもって違憲とすることはできないとする最高裁判例[11]がある。しかし,この判例は,条例制定権の認められる(94条)自治体間の区別について判示したものであるから,全国にわたり画一的に適用される必要がある法律の解釈運用についてその射程は及ばない。また,法が無差別平等の明文(2条)を定めていることに鑑みても,全国一律の統一的な法の解釈運用が求められているものといえる。

よって,Xとの関係でも,地域的差異を考慮して法の解釈運用を自治体によって別異に取り扱うことは不合理な差別をするものであるから,Yの却下処分は平等原則に違反する。

2 選挙権について

(1) 立法不作為による選挙権行使の機会の制限

Xは,住民登録が抹消されたことにより,衆議院選挙におい一時的ではなく継続的に投票をすることができないこととされている。そこで,Xは,「住所」要件を必要とする公職選挙法が「現在地」による投票を認めていないという立法不作為がXの選挙権の行使[12]を強く制限し,違憲であるから,Xは,次の衆議院議員選挙で選挙権を行使しうる地位にあることの確認訴訟(実質的当事者訴訟,行政事件訴訟法4条後段)及び国家賠償請求訴訟(国家賠償法(以下「国賠法」という。)条1項)を提起し,以下の主張をすべきである[13]

(2) 立法不作為の違憲の主張

〔論証〕  憲法は,国民主権原理前文,に基づき,全国民の代表である両議院の議員に投票することにより国政に参加する選挙権を国民固有の権利として保障し(15条1項,43条1項),併せて普通選挙の原則(15条3項)及び平等選挙の原則(44条ただし書)を規定しており,この趣旨を確たるものにするために選挙権の行使の機会も保障している。そのため,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,そのような制限をするためには,制限することがやむをえないと認められる事由がなければならないというべきである。そして,同事由があるといえるためには,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合であることが必要である。[14]

 以上を本件についてみると,Xが衆議院議員選挙で投票する権利の行使の機会も憲法上保障されているが,Xのように住所を有していないと選挙権を行使する機会が制限されている。すなわち,選挙権を行使するためには,「選挙人名簿」に登録されていること(公職選挙法21条1項等),同名簿登録のための住所要件(同項),そして「住民基本台帳」に記録されていること(同項,住民基本台帳法15条1項)が必要であり,さらに,住民基本台帳は「住民票」の編成により作成され(同法6条1項),住民票には「住所」が記載され(同法7条7号),この住所は地方自治法10条1項に規定する「住所」と同義であることから(住民基本台帳法4条[15],現行の法制度では,「生活の本拠」(民法22条)としての住所のない者には選挙権を行使することができないこととされている。

また,選挙人名簿への登録や住所を要件とする公職選挙法の趣旨は,主に自治体の区域を越える不正転入を防止することより選挙の公正を確保する点にある[16]が,Xのような特定の自治体のインターネット・カフェ等で寝泊まりする生活困窮者にかかる不正転入の具体的なおそれはない。よって,上記やむを得ないと認められる事由はないから,本件の立法不作為は,Xの選挙権行使の機会を奪うものであり,15条1項・3項,43条1項,44条ただし書に反し違憲である。

(3) 国賠法上の違法の主張

〔論証〕  さらに,Xは,本件の立法不作為は国賠法上,違法であると主張する。

すなわち,①国民に憲法上の権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,②それが明白であるにもかかわらず,③国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合には,国会議員の立法不作為は,国賠法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。[17]

  本件では,①Xのような者に住所を要求することは実質的に不可能といえるため立法措置が必要不可欠であり,②それが明白といえる。そして,国会議員の任期(45条本文,46条)よりも長い7年前よりNPOから総務省に国政選挙における住所要件の改正を求める請願書が提出されていることに加え,資本主義の発展とともに半ば不可避的に生じるホームレスの国民を多角的に支援することは,少なくとも10年以上前から国会議員及び多数の一般国民に共通に認識されてきた社会的課題であるといえるから,上記③も満たす。よって,本件の立法不作為は国賠法1条1項の適用上,違法である。

第2 設問2

 1 生活保護について

(1) 生存権侵害の主張について

ア 想定されるY市の反論

Y市は,生活保護の財源を4分の1負担しており,生活保護制度はY市の財政における有限の財源を前提とするものであるから,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」・「現在地」として認めないとの法の運用は,25条1項を具体化した法の目的や趣旨に適合する解釈運用の範囲内のものであると反論する。

また,Y市は,Xのように住所がなくなったホームレスであっても,団体Aのシェルターなどに居住すればそこを住所としてあらためて住民登録できるのであるから,Xのような者にまで生活保護の受給を認めると,かえってその「自立を助長」(法1条)することにはならず,逆に法の目的に反すると反論する。

イ 私見

この点につき,確かに25条1項の文言は抽象的であることから,常に財政上の理由を考慮することが許されないというわけではなく,また,「自立の助長」に資するか否かについては実質的に判断される必要があるものと考える。

もっとも,Xのように持病があり「医療扶助」を受けるために生活保護の申請をする者については,特に「保護」(1条)の必要性が高いものといえる。そこで,少なくとも,このように「生存」そのものを脅かされている者について,財政上の理由からインターネット・カフェ等を「居住地」・「現在地」に当たらないとすることは,25条1項を具体化した法の目的や趣旨に適合する解釈運用とはいえないものと解される。

また,団体Aのシェルターは,現在「飽和状態」であり,息苦しさを感じるほどであるから,起臥寝食の場として適当ではなく,そのような場所での日常生活を強いることはXの「自立の助長」に資するものではなく,かえってXの自立を妨げるものといえる。

よって,Y市の生活保護申請の却下処分は,25条1項に反し,違憲である。

(2) 平等原則違反の主張について

ア Y市の反論

Y市は,ホームレスがY市内に増えることによる市のイメージの悪化のおそれや,公衆衛生上の問題も生じうるなどの地域の実情に照らし,判例が容認する条例制定による地域差だけではなく,法19条1項2号に関して他の自治体とは異なる法の解釈運用を行うことついても,当然に予期されることであり,憲法上容認されているものであると反論する。

イ 私見

この点につき,ホームレスがY市内に増えることによる市のイメージの悪化という事情の考慮は,ホームレスになることを余儀なくされた者と「地域社会とのあつれき」(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法1条)をより大きくしうるものであり,同法の目的に反するものといえる。また,公衆衛生上の問題も抽象的なおそれにとどまるものといえ,むしろ適切な生活保護の受給によって対処すべき問題といえる。

よって,Y市の反論にあるような各事情を考慮して法19条1項2号に関して他の自治体とは異なる法の解釈運用を行うことは,当然に予期されることとはいえず,憲法上容認されているものではないから,Y市の却下処分は不合理な差別であり,平等原則(14条1項)に反し,違憲である。

 2 選挙権行使の機会の制限に関する主張について

ア 国の反論

() 被告国は,Xの主張する判断枠組みによるとしても,選挙に関する事 項には立法裁量が認められていること(47条参照)や,住所のないホームレスは住所を有する者と比較すると不正転入二重登録等のおそれが大きく,これを防ぐ有効な手段もないといえることから,住所のない者については選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるから,Xの選挙権行使の制限は違憲ではないと反論する。

() また,立法不作為の「違法」(国賠法1条1項)性の点については,請願書が提出されたのは,国会ではなく総務省であることなどから,少なくとも,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合には当たらない旨反論することが想定される[18]

イ 私見

() 立法不作為の違憲性について

不正転入や二重登録等を防止しつつ住所のない者の選挙権の行使を認めるための手段の点については,例えば,在外選挙人名簿に類似した,(a)居住地・現在地を登録する選挙人名簿制度を整備すること,あるいは,(b)やむを得ず住所を得られない者に対して居住地・現在地とともに当該個人の氏名・年齢・性別・写真等が記載された選挙人カードを用いた選挙制度を整備することなどが考えられる[19]

確かに,(a)在外邦人については海外での現住所を前提としている点で本件とは事情が異なり,(b)上記選挙人カードが偽造されるおそれも否定できない。しかし,偽造については,刑事罰をもって事後的に処罰すればそのおそれは相当程度低減するし,(a)の在外公館投票のように一定の施設を投票場と指定した上で,(b)の選挙人カードの呈示を要件として投票をさせれば,不正転入や二重登録等は防止し得るといえる。

以上より,Xのような住所のない者についても,選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合とはいえず,やむをえないと認められる事由があるとは言えない。よって,本件の立法不作為は,Xの選挙権行使の機会の制限し,15条1項等に反するので違憲である。

() 国賠法1条1項の違法性について

確かに,ホームレスの選挙権行使の機会が制限されてきたという社会的事実は10年以上前か一般国民において問題視されてきたことといえる。しかし,このような社会問題すべてを国会で取り上げて立法措置を講じることができるわけではない。また,本件は,在外邦人選挙権訴訟の事例のように,国会が法律案を審議事項としてから10年[20]以上長期にわたって放置し,立法不作為に違法性が認められた事案と同視しうるものとまでは認められない。

よって,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合とまではいえないから,本件立法不作為は,国賠法上,違法ではない。

以上

 

 

Ⅳ 若干の補足(憲法25条1項の判断枠組みに関して)

 

前記のところで,(ア)平成22年の事案は,権利(抽象的権利)が具体化された後のケースであったのに対し,(イ)平成29年予備又は平成30年司法試験での予想される事案は,権利(抽象的権利)が具体化された給付制度が後退(減額等)するケースであり,(ア)22年の方は,以下の答案例(設問1部分の)のような規範(行政法の判断代置的審査に近いもの)で処理すれば良いだろうが,(イ)の方は,立法裁量あるいは行政裁量の判断過程統制審査で処理すべき(25条又は25条+14条)だろうと述べた。

 

具体的には,判断枠組みの「論証」について次のような違いが出てくることとなるだろう。

 

(ア)権利(抽象的権利)が具体化された後のケース(平成22年型)の判断枠組みの記載例

 

() 判断枠組み

このような法制度の解釈運用は,法により具体化されたXの生存権を侵害するものであり,25条1項に反する。すなわち,指導や保護廃止の必要性があること大前提となる「資産」の「活用」(法4条1項)[21]を満たすか否かについては,25条1項及び同項を具体化した法の目的(法1条)や趣旨に適合するように解釈運用をすべきである[22]

 

(イ)権利(抽象的権利)が具体化された給付制度が後退(減額等)するケースの判断枠組みの記載例

 

() 母子加算の廃止に伴う本件処分は,法令・基準の基準額すなわち「最低限度の生活」(25条1項,法8条2項)の需要を満たすための「基準」(同条1項)の内容を変更する行為を前提とするものであるから,不利益変更の禁止(法56条)そのものに当たるものとまでは言い難く[23]厚生労働大臣の判断に一定の専門技術的・政策的裁量が認められうる[24]と言わざるをえない。

() 判断枠組み

もっとも,いったん法令・基準が特定の基準額を「最低限度の生活」として設定した以上,それを減額することは,最低限度の生活水準を下回ることになる蓋然性が高いものといえるから,裁判所が事実に即して実質的に審査すべきである[25]。そこで,厚生労働大臣判断の過程において考慮・重視すべき事情を考慮・重視せず(考慮不尽),考慮・重視すべきではない事情を考慮・重視すること(他事考慮過大考慮[26])などにより,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の逸脱濫用となり違憲(25条1項違反)・違法[27]となるものと考える。

 

 

 

最後に,繰り返しになるが,以上の答案例や記載例等は,不十分な点が多いものと思われ,批判的に読んでいただきたいわけではあるが,出来が悪いと感じるからといって,あまりに感情的なコメントを書くのはどうか控えていただきたい

 

 

例としては,「このハゲーーーーーーっ!!」(下線は引用者)である。

 

   

 

[1] 本答案の作成については,主として,①公法系科目1位(161点)の再現答案(辰已法律研究所『司法試験 論文全過去問集1 公法系憲法【第2版】』(平成27年)210~213頁),②大島義則『憲法ガール』(法律文化社,2013年)61頁以下,③木村草太『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 木村草太 憲法』(辰已法律研究所,2014年)を参考にした。なお,④西口竜司ほか監修『平成22年新司法試験論文過去問答案パーフェクトぶんせき本』(辰已法律研究所,平成23年)30頁によると,上記①の1位答案は,161.90点(論文総合228位の方の答案)である。

[2] 問題文3頁最終段落の1行から項目立てをし,タイトルを付けただけである。「第2 選挙権について」も同様である

[3] いわゆる処分違憲適用違憲)の問題であることをこのように明記すること。

[4] 憲法の答案では,憲法法名は,このように省略すると良いだろう。

[5] 基本的な事項であるが,このようなところを書き落としてはならない。ただし,このように,短く書くと良かろう。

[6] 問題文2頁第6段落3~4行目を殆どそのまま写し,関係条文(法19条1項2号)を書き加えただけである。写経。

[7] 1条のキーワードを写しただけである。写経。

[8] 「目的」だけではなく「趣旨」のあてはめも行っている。

[9] 出題趣旨第2段落の内容を考慮した記載である。

[10] 木村・前掲注(1)③文献は,「平等権」とするが,最大判平成33年10月15日(憲法判例百選Ⅰ[第6版]34事件)の下飯坂潤夫裁判官・奥野健一裁判官の補足意見では「憲法14条の原則」(下線は引用者)と表現されており,「平等原則」(だけ)で良いと思われる。

[11] 最大判平成33年10月15日(憲法判例百選Ⅰ[第6版]34事件)を指すものであるが,判例名や年月日を書く必要はなかろう。

[12] 最大判平成17年9月14日(憲法判例百選Ⅱ[第6版]152事件)も,選挙権それ自体の制限というよりも,「選挙権の行使」の制限行使の機会を奪うこと)である点を強調しているものと思われる。

[13] 確認訴訟(実質的当事者訴訟)については時間・スペースがなければ,省いてもおそらく合格レベルには達するだろう。

[14] 国賠法上の違法の主張の〔論証〕と混同しないように要注意である。また,どちらか一方の判断枠組み=規範(およびそのあてはめ)しか書かないというのもNGである。なお,平成22年の本試験では,上位答案であってもこの〔論証〕を正確に書けなかったものが(意外と多く)あったが,選挙権については(新)司法試験で(この22年の問題で)1度出題されており,他の受験生もかなり準備しているところであるから,規範のキーワードなどは正確に書けるようにすること。

[15] 地方自治法10条1項の「住所」は,民法22条の住所と同義と解されている。

[16] 大島・前掲注(1)②文献59頁,62~63頁,65頁*4参照。

[17] 立法不作為が国賠法1条1項の違法とされる場合の判例の3要件=①必要不可欠性,②明白性,③正当な理由なき長期の懈怠を記憶しよう。なお,あてはめでは,平成29年以降の問題でも③が特に問題になり易いものと予想される。

[18] 時間が限られているため,判例の3要件のうち,①や②の要件については意図的に争点としないようにしたが,時間・余裕があれば書いて良い(ただし困難)。

[19] 西口・前掲注(1)④文献38頁の153.86点(公法系科目論文8~10位)の再現答案(論文総合49位の方のもの)でも,似たような手段の検討がなされていた。LRAのあてはめの応用をするところといえるだろう。なお,マイナンバーのようなコード・番号のようなものを付加して個々人の特定性を高めてもよい(二重投票等をより防ぎ易くなるため)が,秘密選挙の原則(憲法15条4項前段)に反するような手段とならないように注意する必要がある。

[20] 在外邦人選挙権訴訟の事例でも実質的な審議はなされていなかったが,審議事項に挙がった時点から「10年」の起算がなされている。

[21] 平成22年とは異なり,資産活用要件(生活保護法4条1項)の認否が問われる事案を前提とした論証例である。

[22] 平成22年の上位合格答案等を参考にした記載(論証)例である。スラスラと書けるようになりたいところである。

[23] 最判平成24228の立場である。宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開 第2版日本評論社,2014年)173頁は,同判例が「制度後退禁止原則に触れず、また保護基準の変更に生活保護56条の適用を認めなかった」(下線・太字は引用者)と説明する。なお,判例で否定され,さらに研究者でも肯否が分かれる「制度後退禁止(原則)」という用語については,あえて触れないという戦略でも良いかもしれない

[24] 原告(原告訴訟代理人弁護士)の主張の場合には,「広範な裁量」「広い裁量」という(被告に有利な)言葉は避けるべきである。

[25] 宍戸・前掲注(25)173頁参照。最判平成24年2月28日の判示からすれば,本問では,原告主張段階においても,裁量の幅が狭いなどの記載はしなくても良いかもしれない。

[26] 宍戸・前掲注(25)174頁に「過大考慮」という記載があるから,このような用語を使って良いだろう。

[27] 憲法の答案では,違法(行政法)は直接は問題とならない(ことが多い)が,この部分では,この程度の記載は許されるし,実務では基本的には違法の問題として捉えられているといえるから,「違憲・違法」などと書く分にはOKだろう。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

 

司法試験の勉強でのマーカーの色分け ~私の場合~

f:id:YusukeTaira:20170618005538j:plain
司法試験受験生時代、私は、伊藤塾の情報シートを使っていました。短答関係は、基本的には情報シートに一元化するように努めていました。
ちなみに、他に市販の短答式六法のような教材は基本的には使いませんでした。

f:id:YusukeTaira:20170618005922j:plain
マーカーの色分けをする勉強法もやっていました。
私は比較的細かく分けるタイプであったように思います。

今見ると少し目がチカチカしますが、当時の私にはこの方法が合っていました。

蛍光ペン
黄      条文文言等の知識
青      論点、問題点、論点の所在となる条文文言等    
紫      定義
オレンジ   判例の採る見解
オレンジ波線 判例の理由付け
赤      自説(基本的には通説、多数説) 
ピンク    自説の理由付け
緑      反対説
緑波線    反対説の理由付け

(ペン)
赤 強調したい重要箇所(間違えた所などが中心)
緑 より強調したい重要箇所(かなり基本的な事項であるにもかかわらず、間違えた所などが中心)


f:id:YusukeTaira:20170618012208j:plain
模試の解説等(情報シートでは足りない知識等)のコピーを切って穴を開けて、情報シートに加えたりしていました。別冊で間違えた問題の問題集を作る方法でも良かったのかもしれませんが。


受験生の皆さんも、自分に合ったスタイルを探してみて下さい。

6月25日(日)ロースクール説明会等の告知

法科大学院協会主催、日弁連共催の企画
「ロースクールへ行こう!! 2017 ★列島縦断★ロースクール説明会&懇親会」(東京会場)が、6月25日(日)に開催されます。

時間は13:30~17:30(13:00開場)、場所は日本大学お茶の水校舎(東京都千代田区神田駿河台1ー6、御茶ノ水駅から徒歩3分)です。

私も、第1部(13:30~)、第2部(15:30~)ともに出席いたします。
(第1部では、司会を担当する予定です。)

ロースクール(法科大学院)の受験を考えている皆様、ぜひご参加下さい!

ロースクールの入試や授業のこと、司法試験や予備試験のこと、法曹や研究者の仕事や生活のことなど、多くの様々な法曹・研究者・大学教職員が一同に集まりますので、疑問等を解消する良い機会になるのではないかと思います。
一緒に話しましょう。

f:id:YusukeTaira:20170618002435j:plainf:id:YusukeTaira:20170618002500j:plain

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(8) 成田新法事件の3要素の「重さ」

前回のブログ「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(7)」の続きである。

 

前回のブログでは,<刑事手続につき規定した憲法33条の行政手続(平成29年司法試験の特労法)への適用又は準用が認められるか?>という論点につき,憲法35条に関する川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[1]と成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[2]の判示を比較し,成田新法事件の千葉勝美調査官解説や平成22年司法試験論文憲法の採点実感等に触れるなどした上で,成田新法事件の規範の方を活用・応用であると述べた。詳しくは,前回のブログを読んでいただきたい。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

さて,今回は,前回検討しなかった,成田新法事件の規範の〔ア〕~〔ウ〕の3要素[3](前回ブログのものを次の通り再掲する。)の重み付け(加重)[4]の点をどのように考えていくかということなどに関する感想を述べてみようと思う。

 

<成田新法事件の総合判断の3要素>

 

〔ア〕行政目的達成のため不可欠

公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものか

 

〔イ〕手続の一般的作用(一般的機能)

刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるか

 

〔ウ〕強制手段の直接性

 …強制の程度、態様直接的なものであるか

 

前回も少しだけ触れたが,この3要素の加重の問題については,憲法38条のものではあるが,成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する所得税法違反事件(最三小判昭和59327[5])が参考になる

 

この昭和59年判例は,38条に関してではあるものの,次の枠内の文章の通り判示しており(下線及び〔 〕内の文書は筆者),成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する。

 

 憲法三八条一項の規定によるいわゆる供述拒否権の保障は、純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以外の手続においても、対象となる者が自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を求めることになるもので、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶものと解される(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁〔…川崎民商事件判決〕。なお、同昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁参照)。

 ところで、国税犯則取締法は、収税官吏に対し、犯則事件の調査のため、犯則嫌疑者等に対する質問のほか、検査、領置、臨検、捜索又は差押等をすること(以下これらを総称して「調査手続」という。)を認めている。しかして、右調査手続は、国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を実現するためのものであり、その性質は、一種の行政手続であって、刑事手続ではないと解されるが(最高裁昭和四二年(し)第七八号同四四年一二月三日大法廷決定・刑集二三巻一二号一五二五頁)、その手続自体が捜査手続と類似し、これと共通するところがあるばかりでなく、右調査の対象となる犯則事件は、間接国税以外の国税については同法一二条ノ二又は同法一七条各所定の告発により被疑事件となって刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において得られた質問顛末書等の資料も、右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として利用されることが予定されているのである。このような諸点にかんがみると、右調査手続は、実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものであって、租税犯捜査の特殊性、技術性等から専門的知識経験を有する収税官吏に認められた特別の捜査手続としての性質を帯有するものと認められる。したがって、国税犯則取締法上の質問調査の手続は、犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項についても供述を求めることになるもので、「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものというべきであって、前記昭和四七年等の当審大法廷判例及びその趣旨に照らし、憲法三八条一項の規定による供述拒否権の保障が及ぶものと解するのが相当である。

 

このように,昭和59年判例は,川崎民商事件の〔い〕の要素(詳しくは前回のブログ参照)すなわち「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものであることといった一要素だけで,憲法38条の保障が行政手続に及ぶものとしているように読めるのである。

 

上記〔い〕の要素は,裁量判断に係る考慮事項の問題の場合でいえば,単なる考慮事項(要考慮事項)ではなく,重視事項(要重視事項)とされるべきもの[6]といえよう。

 

とすると,判例は,川崎民商事件の〔い〕の要素,そしてこれと殆ど同じ内容の成田新法事件の上記〔イ〕の要素を重視した総合判断をしているといえ,さらにいえば(ここは論理の飛躍があるかもしれないが),1つの要素が相当程度当てはまるような場合には,35条の適用ないし準用を認めるべきと考えているものと評することが(一応)できるだろう。

 

そして,このように考えるのであれば,設問1では,33条の適用・準用の論点につき,成田新法事件の35条の規範を借用し,その上で,〔ウ〕強制手段の直接性(強制の程度,態様が直接的なものであること)を特に強調し,この要素を満たすと主張して,違憲論(33条違反)を展開すべきと考えられる[7]

 

もちろん,〔ア〕・〔イ〕には多少は触れるべきであるが,厚く論じるべきは〔ウ〕の要素であり,最悪,〔イ〕は(規範定立段階から)答案では一切言及しなくてもOKとおもわれる。ちなみに,〔ア〕については,設問1の規範でも書き,あてはめでも少しは書いておいた方が良い(設問2ではこの点のあてはめの反論(合憲主張)を一定程度論じることが必要となる)。

 

〔ウ〕や〔ア〕のあてはめについての具体的な話などについては,次回以降のブログで述べることとする。

 

 

【 追記 】

平成29年司法試験を受験した方は,短答式試験に通っているとしても,そろそろリスタートしないと,秋までズルズルいってしまうリスクがある。法律学の勉強を少しずつでも良いから,あるいは書類や机周りの整理からでもよいので,(まだ始めていない方は)明日から始めてみると良いだろう。月並みな話だが,合格する自信のある方は,要件事実や刑事事実認定の勉強を(再度)始めると良いと思う。

日頃より法律学に触れておくこと,法的な感覚を忘れないことは,重要である。9月に不合格となっていた場合,それが来年の対策になることはいうまでもないことだが,合格していた場合でも,スムーズに司法修習に入れるからである。

 

 

[1] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[2] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[3] 重み付け(加重)の対象となる「要素」につき,行政裁量の認められる処分等の違法事由論等では,「要素」ではなく「考慮事項」(要考慮事項)等の問題として議論が展開されている(例えば,芝池義一「行政決定における考慮事項」法學論叢116巻1=6号(1985年)571頁以下)。

[4] 裁量権の行使に係る「考慮事項の加重・減軽」につき,常岡孝好「裁量権行使に係る行政手続の意義」磯部力ほか編『行政法の新構想Ⅱ 行政作用・行政手続・行政情報法』(有斐閣,2008年)248頁参照。筆者は,成田新法事件の総合判断については,行政裁量は否定される(あるいは裁量が狭い)ものと考えているが,「要素」の重み付けについては,裁量権の行使に係る考慮事項の重み付けの議論を一定程度借用できるものと解している。

[5] 刑集38巻5号2037頁。

[6] 平裕介「行政不服審査法活用のための『不当』性の基準」公法78号(2016年)239頁以下(242頁)参照。

[7] なお,川崎民商事件の〔う〕の要素(前回ブログ参照)を活用(33条の論点に借用)しようとすると,強制の態様等の話と一緒に(同じ要素の中で)公益の話も論じなければならないため,原告(設問1の違憲論)にとってはやや不利になるものと考えられる。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(7) 成田新法事件の千葉勝美調査官解説と平成29年司法試験

前回のブログ「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(6)」の続きである。

しばらく更新できないでいたため,忘れられてしまった[1]かもしれないが,めげずに書き進めていきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 1 はじめに

 

前回のブログで,私は,次の(A)・(B)の論点のうち,A)の論点について厚く書くべきであり,B)の論点については殆ど書く必要がないなどと述べた。その理由については,前回のブログを読んでいただきたい。

 

  • (A)論点1:川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[2]や成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[3]の活用(応用)が問われる論点である<刑事手続につき規定した33条の行政手続への適用又は準用が認められるか?>というもの[4]

 

  • (B)緊急逮捕の合憲性を認めた最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁[5]の活用(応用)が問われる論点である<現行犯逮捕の場合以外でも,無令状の身柄拘束が33条に違反せず許容されるか?>というもの[6]・・・上記(A)の適用又は準用が認められた後で問題となりうる論点

 

そこで,今回は,前回検討しなかった,(A)の論点において定立すべき規範内容に関する感想を述べていくこととする。

 

 

2 行政手続への憲法35条の適用又は準用の認否の基準と平成29年司法試験

 

まずは,刑事手続につき規定した憲法33条の行政手続への適用又は準用の認否について,どのような規範・基準を立てるのかを考える前提として,憲法35条の行政手続への適用又は準用の認否の規範・基準に関係する主要な判例を見ていきたい。なお,以下の各判例は,憲法でも行政法でも有名な判例である。

 

(1)川崎民商事件 の規範・基準

 

川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)は,35条に関し,次の枠内の文章の通り判示する(下線及び〔 〕内の文書は筆者)。

 

 所論のうち、憲法三五条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲である旨の主張である。

 たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、〔あ〕同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、また、〔い〕右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。

 さらに、〔う〕この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。

 憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。

 

このように,川崎民商事件は,次の3要素(3つの考慮事項)を総合的に考慮し,行政調査に係る行政手続に憲法35条の保障が及ぶか否かを判断すべき旨判示している。

 

<川崎民商事件の総合判断の3要素(3つの考慮事項)>

 

〔あ〕手続の性質(目的)

 ・・・刑事責任追及目的とする手続か

 

〔い〕手続の一般的作用(一般的機能)

 ・・・実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものか

 

〔う〕公益に照らした強制手段の合理性

 ・・・公益性上の目的・必要性に照らした

    強制の態様・程度(手段)の均衡・合理性

 

①~③の総合判断ということであるが,③だけをみても公益性上の目的・必要性と強制の態様・程度につき総合判断をしているものと考えられ,二重の意味での総合的判断のようにも読める。とすると,かなり柔軟な規範であるといえ,「基準」と呼ぶにはやや抵抗があるという方もいるだろう。

 

 

(2)成田新法事件 の規範・基準

 

成田新法事件(最大判平成4年7月1日)は,35条に関し,次の枠内の文章の通り判示する(下線及び〔 〕内の文書は筆者)。上記川崎民商事件を引用していることが分かる。

 

 憲法三五条の規定は、本来、主として刑事手続における強制につき、それが司法権による事前の抑制の下に置かれるべきことを保障した趣旨のものであるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁)。しかしながら、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政手続における強制の一種である立入りにすべて裁判官の令状を要すると解するのは相当ではなく、〔ア〕当該立入りが、公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものであるかどうか、〔イ〕刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるかどうか、また、〔ウ〕強制の程度、態様が直接的なものであるかどうかなどを総合判断して、裁判官の令状の要否を決めるべきである。

 本法三条三項は、運輸大臣は、同条一項の禁止命令をした場合において必要があると認めるときは、その職員をして当該工作物に立ち入らせ、又は関係者に質問させることができる旨を規定し、その際に裁判官の令状を要する旨を規定していない。しかし、右立入り等は、同条一項に基づく使用禁止命令が既に発せられている工作物についてその命令の履行を確保するために必要な限度においてのみ認められるものであり、その立入りの必要性は高いこと、右立入りには職員の身分証明書の携帯及び提示が要求されていること(同条四項)、右立入り等の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと規定され(同条五項)、刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものではないこと、強制の程度、態様が直接的物理的なものではないこと(九条二項)を総合判断すれば、本法三条一、三項は、憲法三五条の法意に反するものとはいえない。

 

このように,成田新法事件も,次の3つの要素(3つの考慮事項)を総合的に考慮し,行政調査に係る行政手続に憲法35条の保障が及ぶか否かを判断すべき旨判示している。

 

<成田新法事件の総合判断の3要素(3つの考慮事項)>

 

〔ア〕行政目的達成のため不可欠であること

 ・・・公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものか

 

〔イ〕手続の一般的作用(一般的機能)

 ・・・刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるか

 

〔ウ〕強制手段の直接性

 ・・・強制の程度、態様直接的なものであるか

 

ただし,成田新法事件では,川崎民商事件の〔あ〕の要素である手続の性質(目的)すなわち刑事責任追及目的とする手続かというものについては,少なくとも明確には言及していないものといえる。

 

また,川崎民商事件の〔い〕の要素と成田新法事件の〔イ〕の要素とはほぼ同じであるものの,他方で,川崎民商事件の〔う〕の要素については,(ざっくりいえば)成田新法事件の〔ア〕と〔ウ〕に分かれており,〔ア〕と〔ウ〕がそれぞれ独立の要素とされている。このことから,成田新法事件では,〔ア〕・〔ウ〕の重要度がより高いものとされていると考えられるだろう。

 

 

(3)平成29年司法試験で採るべき規範

 

では,答案では,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範のどちらを書くべきだろうか。

両方の規範を書いた上で比較検討しているような時間は通常ないと思われることから(司法試験の現場では)問題となる。

 

この点に関し,成田新法事件の調査官である千葉勝美は,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範は,「同様の見解に立った」ものと解説する[7]上記(2)で述べた判示の違いがあるにもかかわらず,あえて「同様の見解に立った」と解しているのである。

 

とすると,この部分の解説については疑問もあるようにも思われるが,とりあえず,「同様の見解に立っ」ていることを前提として良いものと思われる。

 

というのも,やや乱暴な議論かもしれないが,平成22年司法試験論文憲法の出題趣旨や採点実感(後掲の枠内の文章),上位合格者の再現答案等に照らすと,在外邦人選挙権訴訟と在宅投票制廃止訴訟の関係が問題となりうる平成22年司法試験論文憲法でも,在外邦人選挙権訴訟の規範だけを前提に書けば,一応(相対評価であることから)上位合格することができている[8]のであり,おそらく,このことは平成29年司法試験論文憲法における(35条の論点ひいては)33条の論点に関しても同様に妥当するといえるからである。

 

○平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨1頁(抜粋,下線は筆者)

選挙権を行使できないということは,選挙権が事実上保障されていないことを意味する。「国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければなら」ず,「やむを得ない事由があるといえ」るためには,「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9月14日)。

 

○平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)3頁(抜粋,下線は筆者)

本問では,住所を有しない者に国政選挙における選挙権行使を認めないことの適否が問題となることから,最高裁平成17年9月14日大法廷判決(在外邦人選挙権訴訟)を踏まえて検討することが必要である。同判決は,近年の最高裁による違憲判決であり,選挙権又はその行使の制限の合憲性を検討する上で極めて重要かつ基本的な判決である。また,立法不作為が違憲違法とされる要件についても重要な判断を示している。そのため,当該判決に関しては,法科大学院の授業でも扱われていると思われるが,同判決について意識しない答案が極めて多数に上った。

 

○平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)4頁(抜粋,下線は筆者)

選挙権の行使が妨げられたことについて,立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。立法不作為による国家賠償請求に触れた答案でも,在外邦人選挙権訴訟判決を意識した答案はまれであり,最高裁昭和60年11月21日判決(在宅投票制廃止訴訟)のみに基づいて検討する答案が多くあった

 

つまり,在外邦人選挙権訴訟の判示は,在宅投票制廃止訴訟の判示と「異なる趣旨をいうものではない」としている[9]のと同様に,成田新法事件の千葉調査官の判例解説は,同事件の規範が川崎民商事件の規範と「同様の見解に立った」ものとしている(在外邦人選挙権訴訟の場合よりも強い表現といえる。)わけである。

このことからすると,司法試験受験生としては,事案によりしっくりくる方の判例の規範を活用してよいということになるだろう。

 

そして,以上を前提として,川崎民商事件の規範と成田新法事件の規範のどちらの答案で書くべきかにつき検討すると,平成29年の問題の憲法33条の論点には,成田新法事件の規範を採る(活用・応用する)方がベターということになるものと思われる。

 

なぜならば,川崎民商事件の〔あ〕の要素である手続の性質(目的)すなわち刑事責任追及目的とする手続かという要素は,平成29年の事案では殆ど問題にならないものといえることなどから,違憲・合憲の結論が分かれ得る(設問1で違憲論を主張し,設問2では合憲とするための)規範として,あるいは,「あてはめ」[10]がより充実する規範として,よりしっくりくるのは,成田新法事件の方といえそうだからである。

 

ちなみに,「私見」の結論は「合憲」とするのが無難と考えられることについては,

「平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)」

の「2」の部分を読んでいただきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

では,以上のような理由から,成田新法事件の規範を採る(活用・応用する)として,上記〔ア〕~〔ウ〕の各要素の重み付けなどについて,どのように考えていくべきであろうか。

 

この点については,憲法38条のものではあるが,成田新法事件と同じく,川崎民商事件を引用する所得税法違反事件(最三小判昭和59327[11])が参考になるように思われる。

 

・・・と,やや長くなってきたので,続きは次回以降のブログで述べることとする。

それではまた。

 

 

 

 

[1] この点に関し,「忘れられる権利」については様々な議論があるが,その逆の「忘れられない権利」については多分認められないだろう。

ちなみに,バンド「忘れらんねえよ」の元メンバー(ドラム)である酒田耕慈さんは,私が学生時代に所属していた某バンドサークルの1学年上の先輩であった。とてもユニークな人で,忘れられない。

なお,中央大学にはいくつかバンドサークルがあるが,そのうちの某バンドサークルで,私は4年間ボーカルとギターをやっていた。別のバンドサークルの2年(多分)上の先輩には,ナオト・インティライミさんがいたが,私は,司法試験の勉強との両立が難しいと考え(実際のところはよく知らないが,結構ボイストレーニングなどの練習がハードなイメージがあった。),そちらのサークルには入らず,上記某サークルと,伊藤塾中央大学駅前校)に入ることにした。

[2] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[3] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[4] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 2 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)354~355頁〔喜田村洋一〕の「論点5」を参照。

[5] 上田健介「判批」百選Ⅱ252~253頁(116事件)。

[6] 喜田村・前掲(4)350~351頁の「論点1」を参照。

[7] 千葉勝美「判解」最判解民事篇平成4年度259頁。

[8] 辰已法律研究所(公法系科目につき,西口竜司監修)『平成22年新司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本』(平成23年)35~39頁の答案②(153.86点,系別8~10位,論文総合49位)参照。なお,同30~34頁の答案①(161.90点,系別1位,論文総合228位)は,在外邦人選挙権訴訟と在宅投票制廃止訴訟の両方の判例の規範のキーワードを書けている。

[9] 野坂泰司「判批」百選Ⅱ324~325頁(152事件,在外邦人選挙権訴訟)でも,この点についての解説がある(同325頁・解説4)。

[10] もはや司法試験論文憲法では有名すぎることであるが,今日においても,答案では「あてはめ」を「個別具体的検討」などと変換する必要があると考えられる(そのように考えておく方が無難だろう)。残念ではあるが,考査委員も,過去の採点実感には相当程度拘束されると思われることから,この点についての批判的検討は無用である。

[11] 刑集38巻5号2037頁。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第1問の感想(6) 憲法33条のメイン論点

 「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(5)」の続きである。憲法の感想は長らくお休みとなってしまっていたが,少しずつ書き進めていきたい。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

上記ブログで,私は,平成29年司法試験論文憲法・問題文3頁3行目のキーワード(誘導文言)といえる「外国人の身体を拘束することは手続的保障の観点から問題」という部分などに鑑み,同問題の答案では,憲法33条違反をメインの主張として,すなわち,自己決定権の侵害(13条後段)違反の主張と並ぶもう一本の柱として厚く書くべきである旨述べた。

 

なお,メインの主張の二本の柱(各主張の分量の目安等)に関しては,「平成29年司法試験 公法系第1問の感想(3)」のブログを読んでいただきたい。

  

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

さて,憲法33条の話といっても,何の判例を最も多く活用するのか,何の論点を最も厚く書くのかなどについては,現時点においても,なお疑問に感じている受験生が存するのではないかと思われる。

 

例えば,次の(A)・(B)の2つの論点のどちらを厚く書くのか,あるいはその両方を厚く書くのかである。

 

(A)論点1:川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)[1]や成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)[2]の活用(応用)が問われる論点である<刑事手続につき規定した33条の行政手続への適用又は準用が認められるか?>というもの[3]

 

(B)緊急逮捕の合憲性を認めた最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁[4]の活用(応用)が問われる論点である<現行犯逮捕の場合以外でも,無令状の身柄拘束が33条に違反せず許容されるか?>というもの[5]・・・上記(A)の適用又は準用が認められた後で問題となりうる論点

 

私の考える「正解」は,A)の論点について厚く書くべきであり,他方,B)の論点については殆ど書く必要がないというものである。

 

というのは,平成29年司法試験論文憲法の事案についてみると,(A)については,判例の規範のあてはめ次第では,(適用又は)準用の認否が変わってくるものと考えられ,この意味で微妙な論点となる[6]が,(B)については,緊急逮捕の要件(刑事訴訟法210条)と特労法を比較すると[7]違憲となる場合であることが殆ど明白といえるからである。

 

つまり,司法試験論文憲法では,結論が違憲か合憲かどちらでもよい(理由付けの説得力の程度が重要となる)論点がメインの(高配点の)論点として毎年問われているものと分析することができるところ,(B)の論点はこのような論点とはいえないが,(A)の論点はこのような論点に当たるといえるのである。

 

よって,33条に関する論点で,答案に厚く書くべき,高配点の論点は,(A)の論点であり,この(A)の論点が,原告の主張・被告反論の主戦場(主たる争点)となる。(A)の論点は,憲法の人身の自由に関する論点であるとともに,行政法の行政調査等のテーマでも問題となる論点であることから,公法学を研究する者としては大変興味深いものといえる。

 

ちなみに,私は,設問2の「私見」部分では適用・準用が(具体的規範のあてはめを行った上で)否定されるとの結論(つまり合憲説)を採った方が,戦略的には合格しやすいのではないかと考えている。

 

「私見」の結論は「合憲」とするのが無難と考えられることについては,

「平成29年司法試験論文憲法の予想論点と活用すべき判例(2・完)」

の「2」の部分を読んでいただきたい。 

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

 

 (A)の論点において定立すべき規範内容やそのあてはめに関しては,次回以降のブログで述べることとする。それではまた。

 

 

 

[1] 松井幸夫「判批」長谷部恭男ほか編『憲法判例百選Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣,2013年)(以下,「百選Ⅱ」と略す。)258~259頁(119事件,川崎民商事件)。

[2] 宮地基「判批」百選Ⅱ250~251頁(115事件,成田新法事件)。なお,川崎民商事件も成田新法事件も大法廷の最高裁判例である。司法試験の(短答式試験の対策としてはもちちろん)論文式試験の対策として百選掲載の「大法廷」の判例を読み込むことの重要性につき,平裕介「司法試験の関連判例を学習することの意義」法苑(新日本法規出版)179号(2016年)1~8頁(8頁)参照。

[3] 戸松秀典=今井功『論点体系 判例憲法 2 ~裁判に憲法を活かすために~』(第一法規,平成25年)354~355頁〔喜田村洋一〕の「論点5」を参照。

[4] 上田健介「判批」百選Ⅱ252~253頁(116事件)。

[5] 喜田村・前掲(3)350~351頁の「論点1」を参照。

[6] この点については,次回以降のブログで論じることとする。

[7] ①特労法18条1項は,刑事訴訟法210条の犯罪の重大性の要件のような違反行為の類型の限定をしていないこと,②特労法18条1項は「充分な理由」(刑事訴訟法210条)まで要件とせず「相当な理由」とするにとどまっていること,③特労法18条4項は「48時間以内に」審査官への収容の報告をすれば足りるとされており,「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続」をしなくても良いものとされていること,④「急速を要」(刑事訴訟法210条)する程度も緊急逮捕の場合に比べると低いといえるであろうことから,(本問に憲法33条の(適用又は)準用が認められた場合には,)違憲となることがほぼ明らかであるといえよう。

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。

 

平成29年司法試験 公法系第2問の感想(4) 原告適格再考 非難のための道路通行利益と「日常生活」

 

前々回のブログ「平成29年司法試験 公法系第2問の感想(2) 原告適格の『正解』と『下位論点』」の「3」の部分で,平成29年司法試験論文行政法・設問1(1)の原告適格の論点につき,私は,厚く論じるべきメインの利益は,X2の通学のための日常生活上の道路使用の利益であると述べた。

 

yusuketaira.hatenablog.com

 

が,再度,(一部の利益について若干)検討をしてみたい。

 

平成29年の問題文2頁から3頁にかけての事実関係によると,前々回ブログ記載の(α)・(β)・(γ)の3つの事情が書かれており,それぞれについての利益がXらの原告適格を基礎づけるものかが問われていた。

前二者については,前々回のブログのとおりであり,特に考えは変わっていない。

 

しかし,次のとおり(γ)については,考え直した方が良いのではないかとも思いはじめている。他の弁護士(期が上)の先生と,本問について意見交換をさせていただいたことが,このことのきっかけとなった。

 

さて,問題とするのは,(γ)<C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xら(X1及びX2)としては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であった>という事情,同事情に関するXらの利益である。

 

当初(前々回のブログで),私は,この(γ)におけるXらの利益につき,生活上の利益(避難経路として市道を利用する利益)の問題として一応論じられるべきものといえるだろうとした上で,緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく,本問では別の避難経路(B通り)が確保されているため家屋から出られなくなるわけではなく,400メートル避難場所へ遠くなる程度では避難場所に避難できなくなるわけでもないから,個別保護要件を満たすことになるとは考えらず,よって,Xらの原告適格を基礎づけられるものとはいえない,などと述べた。

 

しかし,この「緊急避難は日常(日常生活)の問題ではなく」という点は,検討が不十分であったかもしれない。

 

今や,いつ日本のどこで震度6を超えるような大地震が起こってもおかしくないような状況であることにも鑑みると,災害時の避難場所(への円滑・迅速な非難)は,(日常生活の一部とまでいえなくても)日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものではないかと考えられるからである。

 

そうすると,(γ)についても,(α)と同じように,概ね次の通りの原告適格に関する論述が可能となるだろう。

 

すなわち,Xらが災害時に避難場所として指定された施設に行く(行き来する)ために道路を使用・通行する利益は,避難場所が日常生活を送り続けていくための欠くことのできない前提となるものであるため,日常生活上の利益に関するものといえる。ゆえに,Xらは道路が使用できなくなると日常生活上の不利益を受ける旨主張している(①不利益要件充足)。

 

また,Xらが避難場所に行くために道路を通行する利益は,道路法71条1項1号・43条2号(,法1条)により保護される範囲に含まれるものであるといえる(②保護範囲要件充足)。

 

さらに,上記利益が著しく害されると,円滑な非難が困難となることなどから,災害時に避難者の健康状態が悪化する蓋然性が高くなるといえ,加えて,避難者が日常生活を不段通り送り続けていくことにも重大な支障が生じうることとなる。そこで,道路の使用ができなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受けない具体的利益は,一般的な公益に吸収解消されるものではなく,道路法により個別的に保護されるものと考えられる(③個別保護要件充足)。

 

本件では,本件市道を使用できなくなることによりXらとしては自宅から避難場所の小学校までの距離が400メートル遠くなるため,例えば災害時にXらが負傷した場合に,徒歩約10分余計に避難時間がかかると,怪我等の状態が悪化しかねないことから,Xらは,本件市道が使用できなくなることにより災害時の避難又は日常生活に係る著しい被害を受ける者であるといえる(個別保護要件の規範のあてはめ)。

 

 

以上,(γ)についても以上のように書いてXらの原告適格を認めるべきとしておくと,設問1(1)の「重大な損害」や,設問1(2)の違法事由の主張(規制権限不行使の論点における(特に)被侵害法益の点)の点が,より書きやすくなるものと思われる。これらの論点において,間接的にではあるものの,上記のように,「健康」(あるいは「身体」,ひいては「生命))という点にも言及することができることとなるからである[1]

 

 

(平成29年司法試験 公法系第2問の感想(5)に続く。) 

 

 

 

[1] 「重大な損害」(行訴法37条の2第1項・2項)につき,中原茂樹『基本行政法[第2版]』(日本評論社,2015年)366,368頁は,回復が困難であるとの利益の性等を相当程度重視しているものと思われるところ,本問(平成29年司法試験論文行政法)でもXらの健康(や生命)にも触れられれば,「重大な損害」をより肯定しやすくなるものと考えられる。

また,規制権限不行使の論点における被侵害法益の点につき,中原・同書409頁,山本隆司判例から探究する行政法』(有斐閣,2012年)570頁等は,生命・身体(・健康)が被侵害法益となる場合に(国賠法上の違法性の話ではあるが)違法性が比較的肯定され易くなる旨説明しており,この考え方は非申請型義務付け訴訟(本問)にも妥当するだろう。

 

 

*このブログでの(他のブログについても同じです。)表現は,私個人の意見,感想等を述べるものであり,私の所属団体,関連団体のそれとは一切関係のないものです。そのため,例えば,私のブログにおける「受験生」とは,このブログの不特定少数又は不特定多数の読者に司法試験や予備試験の受験生がいる場合のその受験生を意味し,特定の大学等の学生(司法試験受験生)をいうものではありません。このブログは,あくまで,私的な趣味として,私「個人」の感想等を書いているものですので,ご留意ください。